東方諸国は今まさに戦国の時代を迎えている。
諸国の王が没して以降、それぞれの領主達による覇権争いに身分の低い者による下剋上が立て続けに起こり混乱に陥った結果、既に五十年もの歳月が経つ。
それだけ長い間争っているというのに、未だ天下の趨勢は定まらなかった。
何度か天下に手をかけた勢力は居たが、それらは全て内輪揉めや謀略によって当主ないしはその身内を抹殺し、勢力の弱体化を齎し弱ったところをまた他の勢力が食い荒らして──そのような行いばかり繰り返した結果、恨み辛みが積み重なった彼らは互いに手を取り合うこともできなくなり、今では同盟を結んでいる国すら存在しなくなった。
中央に近ければ近いほど謀略による暗殺が行われ、地方においては武と暴力によって争いを続ける。
今や東方諸国に安寧の土地はなく、魔王軍との争いによる人類の危機すらも気にならず、彼らはひたすら人類同士での殺し合いを続けていた。
「──私の知る限り、和国とはそのような土地である。今も大差あるまい?」
そう締め括ったカルラの言葉にカトウが頷く。
「仰る通りでござる。某も一度中央に足を運んだことがござるが、争いの影響か、見るも無惨な状態でござった。地方の方がまだ生きることに困らぬのではないかと思った次第」
「王都が荒れ果ててるイメージで間違いないか?」
「うむ、それで間違いない。王国で例えれば王都が荒れ果て、台頭した貴族は王族や官僚に嵌められ食い潰され、また新たな貴族が台頭し、また食い潰される。……この繰り返しだ」
よくもまあそれで持つな、というのが俺の正直な感想だった。多分王国で同じことしたら他の国が攻めて来てあっという間に滅んでると思う。
「和国は島国ではないのだが、唯一繋がっている隣国も戦ばかりでな。山を越えてやってきて、大規模な戦がしばらく起きてないことに一番驚いたものだ」
「……道理で、あんたが帰りたいと言わないわけね」
「それもあるが、私はもう和国の人間ではないんだ。勘当されている以上塚本家には戻れぬし戻る気もない。そして戻れば間違いなく塚本家の関係者としても扱われるであろうな。ゆえに、戻る気などなかったが…………」
一度待ってから、カトウを見て続けた。
「管領上杉直虎か。北条はどうした? 管領は北条に叩き潰されただろう。塚本家の主家は北条であるぞ。まさか、上杉があの状態から勝ったというのか?」
「否でござる。上杉は落ち延び、北部で領主を勤めていた
「──……なるほど。正当性を確保して中央と繋がったのですか?」
割り込んだマリアンヌの言葉に、カトウは瞳を若干揺らしながら頷く。
「ご、ご明察の通り。継承して間もなく、直虎様は直接指揮を執り周辺勢力を次々と撃破し吸収していき、強引に中央への道を切り拓き北部地方の管領としての立場を得て正式に北部地方の覇者として君臨しているでござる」
「統治に不備は?」
「……某の知る限り、名君と言って差し支えず、表裏どちらから見ても傑物にござる」
「ほう。多少名の知れたと自賛しているそなたが言うのだから、嘘ではあるまいな」
「……そっ、そうでござる。間違いないでござる」
「なるほど。世の裏を知るシノビ、影に潜む存在であるにも関わらず名の知れていると自負するカトウ様がそう仰るのでしたら、間違いないですね」
「ヒョエ…………」
もごもご口を動かすカトウだが、何を言っているかまでは聞き取れない。
そうか、名君か。
幸いなことに王都に出てきてからヤバめの権力者には出会ったことがない。地元の貴族はクソだったんだけどね。王国に関しては王太子がしっかりしてるし、なんだかんだマリアンヌの父代わりの枢機卿も悪い人ではなさそう。ギルド本部長は俺をこき使ってくれるので出来れば巨乳の美人で居て欲しかった。
そう────巨乳の美人であること。
今となっては身の回りに巨乳の美人がたっぷりいる上に癒してもらえる立場の俺だが、やはり虐げて来る相手は男より女で巨乳で美人であればあるほど良いと思っている。
マーカスが女だったら?
俺はギルドの犬どころか本部長の飼い犬になっていただろう。ワンワンと吼えて東西南北を駆けずり回り全力でギルドとマーカスの為に働いていたに違いない。ある意味権力者に恵まれなかったともいえるな。クソッ、どうして王国には巨乳美人の権力者が居なかったんだ!?
い、いや待て。
これからシャルロットが巨乳美人の権力者になるじゃないか。
本物の王女様の鞭さばきはとんでもなかった。アリシアさんですら初めからあれほどの卓越した技術を見せることは無かったのだから、王女としての適性に関しては俺が見て来た中で最も高いと言えるだろう。
俺のセカンドライフはどこかへ移住して、という想定だったが……これは王都にいつまでも居るしかないかもしれん。田舎でのほほんとするより都会で女王様の犬をしてる方が絶対楽しい。今よりも成長して名実ともに美しい王女になったシャルロットがビシバシ俺を叩いて……ぐふふ、興奮する。
「しかし、やっぱり不自然ですね。統治は安定していて、武力やカリスマもあって、間者として働いている人たちにすら『名君』と褒められる御方がなぜカルラさんを?」
「東方諸国でカルラの名前が有名なんじゃないか?」
「それはないだろうな。和国は閉鎖的であるがゆえ、外の情報はかなり遮断されている。冒険者も形骸化し成り上がりの踏み台に使われる程度のものに過ぎぬ。ゆえに私を求める理屈が理解出来んのだ」
な、なるほど。
無知を晒してすまん。
鞭には結構慣れてるつもりなんですが。
『しね』
オフゥッ!!
「……!!?」
「む? どうしたマリアンヌ、そのような顔をして」
「え!? い、いや、今、えっ? …………あっ……」
マリアンヌはいきなり周囲をキョロキョロ見始めたかと思えば、俺の方を見て何か納得したような声を死んだ目で発した。
「そ…………そういう……こと、だったの……?」
エッ、な、なんのこと?
俺がバカすぎてアレでした?
ま、まずい…! そっち方面は本当に改善できてないからまずい……! マゾとかどうとかそれ以前にバカなのは本当に防ぎようがない。ミルクのおつかいでヨーグルトを購入してマリアンヌに苦笑いされた記憶が蘇った。
「す、すまん、マリアンヌ。俺が不出来なせいで……」
「いっいえ!! いいんです! いいんですフィンさん! わかってますから!」
バカなのがわかってるってそれ一番悲しい奴ね。
必死に誤魔化してくれるマリアンヌに心が痛む。
ハァッハァッ、く、苦しいっ、でも気持ちいいっ、きっとこの苦痛の中に俺が誤魔化し切れなくて積み重なった何かがあると思うと、猶更興奮するっ! 興奮しちゃいけないのにっ!
だってさァしょうがないじゃん!
俺がマゾなのはもうどうしようもないんだから!
マゾでバカで邪神の使徒です! こんな奴を使徒にした邪神サイドにも問題がある。
『……我が巫女。あなたもこれから同じ目に遭うのよ。良かったわね』
「っっっ……!!?」
闇マリの言葉にマリアンヌは目を見開き、冷や汗を流しながらギュッと唇を噛み締めた。
バカの保護者役の話?
ククク、随分好き放題言ってくれる……大丈夫、もうヨーグルトは買わない。ちゃんとミルク買う。だからマリアンヌ、俺を見捨てないでくれ。
俺の想いが伝わったのか、マリアンヌは何かを覚悟したような目で俺をしっかりと見つめ返してから、言った。
「────覚悟は、出来てます。私は……私だって、聖女なんだから……!!」
マ、マリアンヌ……っ!!
「…………迦楼羅様。これ、某が聞いていい話でござるか? なんか意味深なやり取りでござるが」
「……まぁ、良いのではないか。うむ。この感じだとそなたも……うむ……」
「そ、某が如何した? なにか粗相を働いたでござるか?」
「いや、うん。まあ、気にするな。忍びだろう」
「えっ……しょ、承知したでござる……」
仕事が落ち着いたので更新を再開しますが、またとんでもスケジュールになって滞る可能性がございます。
誠に申し訳ありません。