「結論から言おう。和国には戻るが、我々だけではなく協力関係にある者達も共に行くことになった」
「協力関係でござるか?」
「ああ。冒険者の仕組みは知っているか?」
「申し訳ござらぬ、あまり詳しくなく……同盟のようなものだと認識して間違いござらぬか?」
「うむ、それで間違いない」
(ほっ……! こ、これでなんとか依頼は達成できそうでござる……!)
一夜明けた正午前、少々寝不足のまま呼び出された加藤はカルラの宣言に胸を撫で下ろしていた。
「多少人数が増える、程度の配慮はしてくれるのだろう? まさか私単身で、とは言うまい」
「……正直なことを申せば、某はそこまでは判断できないでござる。関所を通れるか、入国の際に問題が起きないか、力は尽くすつもりでござるが……」
「確約は出来ないか。まあよい。無礼を働くのならばこちらから願い下げだ」
「ま、まぁ、入国に先駆けて某が上杉様に取り次いでおけば問題ないでござろう。一応、どのような方々か聞いても?」
「白金等級……冒険者の中で最も位の高い者達だな。それと一人、エスペランサ教の関係者も同行するかもしれん」
(冒険者の中で最も位の高い人達でござるか。ならまあ、上杉様も嫌とは言わないのでは? どうにも、某の知る冒険者と迦楼羅様のお仲間は別物にござる)
東方諸国に限らず、冒険者になるような者は根本的に社会からあぶれた者ばかりである。
王国においても農家の三男坊や家を継げない貴族などが大半で、消耗品のような扱いをされることが多い。東方諸国でもそれは変わらず、武士にもなれず農民にもなれず道場に通うこともできない──そのような者が大半を占める。
中には武士になるために成り上がりの一歩目として扱う者もいるが、そういった人物もすぐに目をつけられてどこぞの家に引き抜かれていく。
ゆえに加藤の中での冒険者とはロクデナシのクズの集まりで無法者という認識だった。
(エスペランサ教、つまりは基督教の聖女殿にエルフの王女。流石にこれよりとんでもない方はおらぬ筈。というか、想像も出来ぬ。上杉様は某のような忍びにすら礼儀を尽くしてくれるお方、迦楼羅様のお連れだと知れば問題なく通すでござろう)
政治的な分野では未熟な加藤だが、最低限の知識はある。
先代と比べて忍びとして未熟なだけで、相応の実力は身に付けているのだ。
(いやあ、昨夜の密談を全く盗み聞き出来なかったから某を殺すつもりかと戦々恐々としてござったが、丸く収まりそうで安心でござる。一体どうすればあれだけ何も聞こえぬように出来るのか皆目見当もござらんが……)
天井裏も扉の前も隣の部屋も、どこをどう足掻いても聞くことが出来ず渋々諦めた昨夜の記憶が蘇る。音がしないというより、空気すら漏れていないと思った。
(ううむ、尋ねたいところではござるが、なぜそれを知っていると問われれば某が探ろうとしていたことが露見する……。諦める他ないでござる)
「──承知致した。関所の近くまで到着してから某が単身中に入り上杉様の元へ行き、迦楼羅様と御一行が到着したことを伝えるでござる」
「わかった。もう少し時間が欲しいのだが、それは良いか?」
「某は構いませぬ。どの道、この依頼を終えねば何もできないでござるよ」
苦笑する加藤。
先代が隠居し余生を楽しむと言ってどこかへ姿を消してからまだ三ヶ月も経過しておらず、実績不足でこれまで度々依頼を送ってきた者達も一度『見』の姿勢に移行してしまった。
簡単な依頼は受けているが、それも足元を見られた内容である。
(このままだと軒猿に依頼を全部奪われる勢いでござった。はぁ……師匠……なぜ某を置いて行ったのでござるか……)
『飛び加藤』の名を襲名したは良いものの、先代と比べて名実共に劣るのは否めない。自分としては必死にやっているつもりだが、プロとして観れば物足りないと思われているのはどうしようもないことだった。
(しかし、この依頼をこなせば上杉様からの信頼も厚くなるでござろう。なにせ迦楼羅様を探すにあたって情報が一つもない状態から見つけ出したのでござるよ。これは流石に評価されて然るべきでござる)
これから先のことを想像して、加藤は思わずニヤける。口覆いで隠れているため見えないが、口の端が吊り上がっていた。
「では、そういうことで頼む。半月程度で出発の準備を終える予定だ。それまではここを拠点として扱ってくれて構わないが、他の家に忍び込んだりはするなよ」
「承知しました。いくら忍びとはいえ顔に泥を塗るようなことは致しませぬ」
カルラに頭を下げて、加藤はその場を辞した。
部屋に戻る道すがら、これからのことを考える。
(外国へ行けと言われた時はどうなることやらと嘆いたものでござるが、某もまだまだ捨てたものではござらんな。いっそこのまま外国との繋がりも作ってしまうのも良いやもしれぬ。いや、というより、外国で上杉様より偉いであろう方々と繋がれる今の機会を逃すわけにはいかないでござるよ。無礼の内容に挨拶しなければ……)
今後の展望に胸を膨らませる加藤。
彼女の瞳には希望の光が宿っていた。
◆
「──あ? 東方に行く?」
「ああ。カルラを探してこっちで言う侯爵みたいな立場の人が遣いを寄越したみたいでな。偶然会って、師匠達とも話した結果、そういうことになった」
「忙しねえ奴らだなぁ……おい、ハイレンディーヌ。どういう事情だ?」
アッ、俺には聞かないんですね。
マゾ心を刺激されて頗る調子がいい。やはりフレデリカは俺をどう扱えばいいのか完璧に理解している。
その上で俺のことを助けるとまで言ってくれるんだから、もうたまらんね。
「はい。詳しくは不明ですが、呼び出した本人がフィンさんのように神の使徒である可能性があるそうです。現人神──東方における、神の使徒と同じ意味合いだとルルクス様が仰っていました」
「ほー……そりゃ本当か、闇のマリアンヌ」
「ええ、真実よ。元気にしてた?」
「ハッ、私には無用な気遣いだなそりゃ。元気なんざ有り余ってるぜ」
「あらそう。それは良かった」
すっかり意気投合した様子で闇マリとフレデリカが話している。
闇マリがフレデリカを気に入っていたのは言うまでもないことだが、フレデリカの度胸も相変わらずすごい。胸の大きさは俺のフィンフィンを刺激するが、闇マリもフレデリカの一貫した姿勢には胸をドキドキさせられているだろう。
ううっ、ね、俺が先に使徒だったのに……
フレデリカの方が仲良くなるのが早いなんて、こんな、こんなの寝取られ(※寝取られではない)みたいなもんだっ!
鬱とおっぱいでフィンフィンおっきしちゃうよぉっ!
禁欲するって決めたのに我慢できなくなっちゃううっ!!
「…………あの、すみません。なんで当たり前のように闇のマリアンヌ呼びしてるんですか?」
「あ? そんなん、そう呼んだ方が面白いからだろ」
「お、面白いっ!? 私の顔と体と名前を奪って面白いですか!?」
「おう。弄り甲斐があるよな、ハイレンディーヌは」
「なんで私のことは名前で呼ばないんですかっ!!!」
あ、マリアンヌが爆発した。
と言っても本気で怒ってると言うより、若干泣きの入った怒り。
うっ、か、かわいい……。
でもこう言うのを可愛いって思っちゃうのはサディスティック・デビュラなんだ。可愛いと思ってはいけない。でも困り顔のマリアンヌすごい好きなんだよな。にへらって笑われるとまじで抱きしめたくなっちゃうっていうか……。
「ま、いいじゃねえか細かいことは。それより神が居るとして、何をするつもりだ? 私らの信奉してるクソ女神がいるってわけじゃねえんだろ」
「戦いに行くのが目的じゃない。東方諸国の神様がいるなら連携したいと師匠は考えているんだ」
闇マリは強力な神だが、それでもなおエスペランサが相手だと絶対に勝てるとは言い難いらしい。神々の戦いになったら俺の出来ることなんてほとんどなさそうだ。精々がたっぷり虐められて負の感情をいっぱい出して闇マリをお腹いっぱいにすることくらいだろう。
養分として活動するしかない俺からすれば、肩を並べて戦えるであろう神が一人でも増えるのは素直に歓迎できる。その分勝率が増すんだ。拒否する理由がない。
「連携ねぇ……意味あるのか?」
「意味はあるわよ。神は単体で無から有に出来る存在だから、いればいるだけ総合的に戦力が増えるわ」
「ふうん……ま、あんたが言うならそうなんだろうな。いつ出発だ?」
「大体半月を目途にしてるが……」
「わかった。準備はしとくぜ」
ひらひらと手を振ってフレデリカは軽い態度で請け負った。
一応東方諸国まで行くとなると長旅になるんだが、そこら辺大丈夫なのか?
「問題ねえよ。こっちにはセラもいるし特務騎士もいる。最悪、第一位が出てきて全部なんとかするだろうさ」
「確かに戦力的にはそうだが……あんまり好き放題するとフレデリカのイメージが悪くならないか?」
「そんなもん今更だろ。男襲って犯してる女がまともなわけあるか」
フン、と鼻を鳴らしてフレデリカは目をギラつかせる。
「それに、東方諸国は戦続きなんだろ。絶対いるぜ、驕った男がよ」
舌なめずりする表情からは圧すら感じる。
フレデリカが神にすら噛みつける程譲らないと宣言している信念を真正面から叩きつけられている。ゾクリとする。その想いをぶつけて欲しいとすら思ってしまう。ありとあらゆる意味で。
ただまあ、その、なんですか。
そうするってことは、俺達がわかる範囲でそういうことをするってことですよね。
それはなんかさァ、ねぇ。
別に否定したいわけじゃないんだよ。
でもさ、こう、ね、わかるじゃん。
振られてるみたいなもんだけど、フレデリカってすごい良い人だからさァ。
俺以外の男を襲って、行為励んでるって言うのは…………お、オホオオォッ!!? 考えるだけで達する!?
「……なぁ、フレデリカ」
「あ? なんだよ」
「その…………寝取られてるみたいで、めちゃくちゃ興奮するから勘弁してくれないか?」
そう告げると、フレデリカは面食らった表情になった。
「バッ……おい。私とお前はなんでもねーだろ! なにが寝取られだ! 寝てから言いやがれ!」
「い、いやでもなんかっ、振った相手の惚気聞かされてるみたいでっ、き、キクッ……!」
「っっ……!! おいハイレンディーヌ! ちゃんと発散させてやれよ! 私にすら欲情してどうすんだ!」
「……ふ、うふふ……フィンさん、もう私なんて、眼中にありませんか……?」
「なんでこいつはこいつでヘラってんだよ!!」
だ、だってしょうがないじゃん!
そんなのもう寝取られみたいなもんですやん! 興奮しちゃうじゃないですか!
「ちぃっ!! いいからとっとと連れて帰れ! 私は私のやりたいようにやるんだよ!」
げしっ!
あ、あひいっ!
軽く蹴られて部屋から叩き出され、首根っこ掴まれたマリアンヌも追い出された。よかった、ここが神殿じゃなくて。冒険者ギルドにお願いして用意してもらったいつもの民家で本当に良かった。
「うーん……イイ感じね。流石我が使徒」
「え? 何がだ?」
「ううん、こっちの話よ。喜びを思い出させてあげるのもまた、神の役目よね。うんうん」
闇マリが頷きながら姿を消した。
まあ、闇マリが何か企んでるのは今に始まった事じゃないし、気にしなくてもいいか。
フレデリカも一緒に来るのかぁ。
流石になぁ、ちょっとね。
実際に目の前でやられたらちょっと凹むかも。
でも、これが皆の気持ちなんだな。
別にフレデリカのことを好きだとか、愛してるとか、そんな話じゃないんだよね。知ってる異性の性体験が同じ時間で起きていたって事実が、なんかこう……効く。
ううむ、これは中々……い、いやでも、これは一歩間違えたら寝取られるぞ!?
い、いけない快楽だ。
これで興奮するのだけはやめておこう。
俺は純愛派なんだ。
寝取り寝取られなんてくそったれだね。
俺は絶対にどっちもしないぞ。