今日は、客を出迎える予定がある。
王都に戻ってきた時点で『出向くぞ』という挨拶はあったのだが、東方諸国行きが決まって諸々の準備が必要だった為に受け入れる用意が出来ていなかった。
本当なら真っ先に迎えなくちゃいけない人なんだけどな。
「お久しぶりです、シャルロット王女殿下」
「うむ。久しいな、【払暁】の諸君。変わりないようで何よりだ」
一年前より大人っぽくなったシャルロットが、王族としての衣装を身に纏いホームへやってきた。勿論これは正式な来訪で、王族として忙しくなった彼女の業務にしっかりと組み込まれているらしい。
王女の予定よりこちらの都合を優先させるなんて、一年前からすればとても考え難いことだが、いつの間にか俺達もずいぶんな立場になったなぁと感慨深く思う。
そして何より、冒険者として一旗上げようとしていたシャルロットが、ちゃんと王族として振る舞っていることに感動すら覚える。そんな王女様とえっちなことが出来るのだ。本物の王女様による女王様プレイ、あれは本当に素晴らしかった。アリシアさんとの名コンビに打ちのめされ、まるで奴隷のように扱われたあの体験は今でも忘れられない。
くそっ、俺が禁欲期間じゃなかったらえっちしてもらったのに……!
「今日は正装で来たが、これまで通りに接してくれると助かる。正直、王族であることなど大したことではないからな。それに、フィン殿とは……うん。まあ、なんだ。だからと言ってはなんだが、私のことは、その、姉妹の様に思ってもらえると……」
「……言いたいことはわかりました。ですがその、あまり明け透けに言われてしまうと……私達も、なんというか……己の非常識さを戒められているような気持ちがして……」
「ははは、竿◯妹だから仲良くしろと。確かにその通りだな」
「か、カルラさんっ!」
◯姉妹って、えっちですよね。
いやまあエルフの三姉妹ほどのエロさはないんだけど、なんていうか、一人の男を複数の女性が共有してるってことがなんていうかえっちだと思うんですよ。どう思いますか、闇のマリアンヌ。
『……神の創造物たる森人の末裔が我が使徒に夢中なのは、正直興奮するわね』
「竿姉◯か……。血の繋がった姉妹より仲が良いのは、なんとも言い難いな」
「まあ、そういうものだ。私とて故郷に戻れば弟妹の類はいるかもしれぬが、顔も合わせたこともなければ、二度と会うこともないのだ。一抹の寂しさはあるだろう。だが、それに引き摺られてはならん」
「……忠告、痛み入る」
カルラの言葉にシャルロットが頷く。
弟妹か。
兄はいたけど、俺にも妹がいるのかもしれない。
実家にはもう戻ってないし戻るつもりもないから関係ないんだけど、確かにそう言われると寂しいところはあるかもな。妹がいれば嫁入りしてるだろうし、弟がいれば俺と同じで冒険者にでもなるしかなくて、どこかで野垂れ死んでるのかもしれない。
死に方は選べない。
だけど確かにそういう生き方、死に方しか選べない奴になっていたとしたら、寂しくて仕方ないと思う。
これまで一度もそんなことを考えることすらなかった自分の薄情さと浅慮っぷりに呆れざるを得ない。
実家……実家なぁ。
いや、それだけじゃないのか。
ティムみたいに、朝を迎えることすら出来ない子供がいる。俺はたまたま恵まれていただけでそうじゃない奴が大半だ。
マリアンヌのように孤児院の援助をして、子供達の世話をして、なんて立派なことは俺には出来ない。金がなくて、肩書きもなくて、立場もないから。
……歯がゆいなぁ。
「んんっ! それで、どうだった?」
「……? 申し訳ありません、どうだった、とは……?」
「聖女達のことだ。両名とも不審な動きはないと聞いているから心配はしていないが、どのような結果になったのか兄上も知りたがっていてな」
「あっ……ああっ! そ、そうですね! 申し訳ありませんっ、報告が遅くなって……!」
マリアンヌが慌てて頭を下げる。
そういえば二人とも調査って名目で来てたわ。
俺のマゾバレから闇マリ関係でそれどころじゃなかったけど、王都側でめちゃくちゃ協力してもらってたんだよな。爆乳美女で居て欲しかったマーカスや、枢機卿に王太子まで連携して聖女対策をしていたらしい。
──まぁ、やってきた聖女のうち二人と肉体関係になった挙句一人には裏の裏まで知られてしまったわけだが。
セラさんは神的に良い人だから俺の裏の事情なんて知らなくても優しいんだよ。今の所聖女という名前に負けない人にしか出会っていない。
「結果的にいえば、お二人から理解は得られました。元々セラフィーヌさんとは連携していましたが、フレデリカさんも協力して頂けるようになりまして……」
「それはよかった! セラフィーヌ殿は疑っていなかったが、フレデリカ殿は、その……中々血気盛んな方だったからな。もしかすればフィン殿が対象になるのではないかと兄上も懸念していた」
「えっ、王太子殿下が?」
「兄上が最も動向を伺っているのはフィン殿だぞ? 私が抱かれて状況を鮮明に把握した結果、諸侯へ内々にお触れを出したくらいだ。義兄と呼んでも構わないと言っていたくらいだ」
トゥンク……。
な、生々しい……。
しかし、これくらいで怯えちゃいけない。
もっと罪深い竿三姉妹がすぐそばにいるのだから、これくらいで怯んでいちゃハーレムなんて作れやしない。いや、姉妹丼ってマジで背徳的だからね。この世に存在しちゃいけないくらいのエロスに溢れていて、あんなの知ってしまったら、お、俺、俺もうっ!!
「話を元に戻すが、フィン殿とフレデリカ殿は……控えめに言っても相性がいいだろう?」
「まぁ……そう、ですね……」
マリアンヌがしょぼくれた様子で頷く。
シャルロット的にはマゾの俺と、貴族相手でも襲ったりしてたフレデリカの組み合わせだ。そりゃあ相性が良いと思うだろう。
「何かあってもなんとかなるとは思っていたが、本気で攻撃した場合どうなるか読めなかった。なにせ、私達では想像も及ばぬような強者だからな」
「……結果から言えば、フレデリカは理解者になってくれたよ」
シャルロットに話してない事柄を含めて、説明するならこれが一番正しいだろう。
彼女は邪神やらなんやらの全ての事情を知った上で俺の理解者になってくれた。身体の関係はないし恋愛は交わっていないが、ただ彼女の信念のみを柱に、俺のことを認めてくれたんだ。
ありがたい限りだ。
「……そうか。理解者か。流石は聖女というべきだな」
「え、ええ。そうですね。正に聖女というべき方でした」
「う、うむ。そうだな。フィンの事情を知っても手を差し伸べたのだ。聖女に相応しい女であろうな」
マリアンヌとカルラも賛同する。
「では、問題は片付いたと兄上には伝えておこう。他に何か伝えておきたいことはあるか?」
「……でしたら、今後の動きについて少々お話が。実は、二週間ほど後に東方諸国へ向けて出発する予定です」
その言葉に、シャルロットは笑顔を崩し真顔になる。
「東方諸国に? 【払暁】としてか?」
「いいえ。正確には【払暁】と【星天】の白金等級三人、そして【超滅】から二名、フレデリカさんが同行します」
「…………ええと。戦争でもしに行くのか……?」
シャルロットは引き攣った表情でマリアンヌを見る。
確かに戦力的には十分戦争できそうなくらい強力だが、そんな物騒なことはしない。
「実は、わざわざ私を探しに来た者が居てな。曰く、こちらで言うところの侯爵のような人物が私を探し連れてこいと依頼されたそうだ」
「…………な、なるほど。報復ということか?」
「違う違う。この話を向こうにいる【天聖】にした持っていったところ、ちょうど良いから皆を連れていくという話になったんだ。〈深淵の森〉の攻略ばかりで息の詰まる生活をしていたし、私を招来した理由は定かではないがおそらく戦力として求められたわけではない。となると、異国を知るにはちょうどいい機会ではないか? そう考えたのだろう」
シャルロットは俺がマゾだということは知っているが、神様やら何やらの話は知らない。
諸々の事情を知っている相手と知らない人で別れているから説明が多少ごちゃごちゃしてしまうのがなぁ。いっそのこと全員に伝えられればとも思うが、それはそれで傲慢だろう。
ただし、シャルロットにはいずれ伝えなくちゃいけないタイミングが来ると思う。
彼女とはすでに肉体関係がある。
一度抱いた女を手放すほど俺はバカじゃない。
王女様だろうが何だろうが、俺のことを好きだと慕ってくれた女性を除け者にするわけがない。
「確かに兄上も異国を外遊していたし、私も冒険者として各地を巡った経験がある。しかし、それほどの面々で堂々と東方諸国まで行くとなると……道中は少し、気をつけねばならんな」
「気をつける、か? 仕掛けてくるやつがいるとは思えないが」
「ああいや、そうではなく。何かされるのではないかと危惧した領主が痛い目を見るのは哀れだ。金等級冒険者パーティーと白金等級冒険者、それも【勇者】殿や【天聖】殿がいる上に【破砕の聖女】まで一緒となると、お忍びで探りに来たのかと思わずにはいられないさ」
「実際のところ、全て野営で何とかなるので街を経由することも少ないと思いますが……」
師匠が物資や施設全部持ち運んでるからなぁ。
テントの中で魔道具使って快適な環境で過ごす、なんてことすらできる。あんまり頼りすぎて冒険者らしさを見失ってるからあまり頼るつもりはないけど、最低限は力を借りることになるだろう。
「それでもだ。お互い不幸なすれ違いはないほうがいい。兄上に話を通しても構わないか? もちろん勝手に動いたりはせず、本部長や枢機卿と連携して通行の妨げにならないように配慮出来るように動くつもりだ」
「……構わないかと。むしろ、助かります」
「これくらいのことしか私には出来ないからな。フィン殿のためにも、もっと役に立てれば良かったが……」
そう言って、シャルロットは俺を横目で見つめる。
「気にしないでくれ。役に立つとか立たないとか、そんなことで優劣つけたりしないさ。シャルロットはシャルロットだ。まあ、ハーレム作った男の言葉に信用なんて出来ないかもしれないが……」
「……ふふ。その点は心配していない。兄上にも計画があるようで、まだ大っぴらにしないでくれと頼まれているんだ」
「お、おお。そうなんだ……」
計画って何?
俺のハーレムをどうするつもりなの?
王太子殿下のことだから師匠にも納得してもらえるような何かを考えてるんだろうけど、ハーレムを利用する計画って何なんだよ。
「……あんまり過激なことはしないでくれよ?」
「重々承知しているだろうが、兄上に念を押しておく。私だって、好きな男との関係を好き放題言われたくはない」
苦笑するシャルロット。
ハ、ハーレム野郎ですみません。
「それに…………仲間達に悪いからな……」
「……もしや、お伝えしていないので?」
「…………ああ」
シャルロットの呟きに、マリアンヌが何とも言えない顔をする。
「その…………後から教えられると、かなり拗れるので……ちゃんと機を見てお伝えしたほうが良いかと……」
「…………忠告、痛み入る……」
先程よりもよっぽど深刻そうな顔をして、シャルロットはため息を吐いた。