王都に戻ってきて一週間が経過した。
東方行きが決まり短い期間で色んなことをしなければならずやや慌ただしく過ごしているが、こちらに戻ってきた目的は心身を休め【払暁】としてやっていた本来の俺たちのリズムを取り戻すことにある。
週の休日である今日は諸々の準備や予定などを明日以降に回して、思い切ってそれぞれがやりたいように過ごす日にした。
アストレアは朝からホームの中庭にある木でのんびり日向ぼっこをしているし、カルラはギルドにある修練場にカトウを連れて行った。
残った俺たち二人はと言えば──孤児院を訪れた後、飲食店で緩やかに過ごしていた。
「こうしてゆっくりするのも、随分久しぶりだな」
「はい。色々ありましたから」
そう言ってマリアンヌは苦笑する。
それこそ半年振りくらいか? それまでは何度も買い物と言う名のデートをしていたが、師匠達が合流してから忙しくてそれどころではなくなってしまった。
向こうの拠点に行ってからは買い物すらしていない。
懐かしさと、あの頃と違って目の前の美少女と肉体関係になって何なら想いも通じ合っているという事実に変な感覚すら抱く。
「孤児院では、申し訳ありませんでした。服まで台無しにしてしまって……」
「気にしないでくれ。服の一枚や二枚、買い直せばいいだけだし子供のやったことだからな。そんなことで目くじら立てたりしないさ」
俺はいつもサイズがパツパツの服を着ているのだが、今日は珍しくローブを羽織っている。
理由は単純──孤児院の子供たちが元気すぎて破かれてしまったのだ。
いつも遊んでやってたんだけど半年近く行ってなかったからなぁ。
たっぷり相手してやろうと思いお馬さんごっことモンスターごっこをしている最中に、もみくちゃにされて俺は微動だにしなかったのだが服が耐えきれずビリビリに……。ビリッビリビリィッと瞬く間に上半身裸にされてしまい、マリアンヌとシスターに絶叫されてしまった。
俺も子供に好き放題されることが気持ち良くてモンスターやお馬さんになりきっていたのが災いして反応が遅れ、傷だらけでマリアンヌが性的に見ている肉体を晒してしまったのだ。
流石に孤児院に俺のサイズの服はなく、急遽ローブを貰って誤魔化しているのだが、そこまで違和感はないのかジロジロみられることもなく済んでいる。
「まあ、やんちゃなのは良いけど服を破くまで行っちゃうとな。わざとじゃなくても加減を覚えさせるいい機会になったと思っておくよ」
子供達も「あっやばっ」って顔してたしね。
俺の身体は平気でも着ているものが駄目になることが戦闘以外で起きるとは思っていなかった。
「ただなぁ……叱ったけど、そんなに怖かったか? 女の子にすごい距離取られたんだが」
男子は俺の体を見て「うぉーすげー筋肉! 傷痕!」って感じだったから叱るのも楽だった。しかし反面、女子達は怖がっていたと思う。
確かに自分の何倍も大きい男に怒られたら怖いかもしれんが、怒鳴ったりせず優しく言ったんだけどな……。
も、もしこれで俺の顔がダメとかだったらさァッ、もう俺泣いちゃうよ!?
確かに傷もあって厳ついけど、最近はほんのちょっぴり認めてもいいかなって思えるようになってきたんだ。女性どころか女の子に怖がられる顔ですって言われたら、娘とか出来た時何も出来なくなっちゃうよォ……ッ!
「あぁ……それは、なんというか……」
「……やっぱり俺の顔と組み合わせると怖いのか?」
「いえ……それは多分、あれです。女は早熟ですから……」
エッ、性的な目で見られてたってこと?
まっさかぁ!
いくらなんでもそれはない。
マリアンヌが特別そうだって話だろ流石に。子供たちはまだ十二歳とか、十四歳とか……昔の俺達と変わんない位の子供もいるけど、十歳にもなってない子供もいるんだぞ。
俺がそれくらいの時はエロい事なんて全く考えていなかった。
師匠と風呂に一緒に入ってもなんとも思ってなかった頃だ。
あの頃はなんとも思わなかったのにな……。俺は穢れて男になってしまったんだ。女体のエロスというものに囚われるようになってしまった。
なぜなら童貞だったから。
魂まで童貞と言われるほどの童貞になったんだ。童貞を拗らせ過ぎた結果がこれなんだ。
闇マリ曰く、マリアンヌも拗らせてるらしいが……
「……な、なんですかその顔。もしかして信じてないですね?」
「いや、まァ……信じてるさ。俺がマリアンヌを信じないわけないだろ。まさか、信じられないわけがない。うん。信じてる信じてる」
「信じてないですよねっ! 女の子は早熟なの!」
顔を真っ赤にして怒るマリアンヌ。
か、かわいい〜。
そういう姿見せられるとキュンキュンしちゃうね。フィンフィンに影響のない範囲で摂取できるマリアンヌのかわいらしさは素晴らしいな。もちろんフィンフィンに影響があるマリアンヌのエロさも素晴らしいが、健全なデートには健全なエロスが宿るべきなのだ。
「も、もうっ! アリアンロッドさんだって子供の頃からフィンさんのことえっちな目で見てたんですよ? あれくらいの女の子ならあり得る話ですっ!」
「えっ、そ、そうなのか? いやでも、あの頃のアリアは……」
思い返してみるが、露骨に俺のことを性的な目で見ていたりしていないはずだ。
確かに距離は近かったが、それ以上でもそれ以下でもない。
寝てる最中に俺のベッドに潜り込んでくるとか、昼寝してたらひっついてきてたりとか、風呂上がりによく遭遇したとか、性欲じゃなくて寂しさが起因した物ばっかりだ。
そうマリアンヌに伝えたのだが、彼女は渋い顔をして否定した
「いいえ。それは性欲です。間違いありません。大体、フィンさんは寂しかったら幼馴染のベッドに潜り込むんですか?」
「そりゃまあ……そうはならないが……」
「アリアンロッドさんはフィンさんにとっても惚れてるんですよ! 舐めちゃいけません! 私より溜め込んだすけべな心を持ってます!」
そ、そうかなぁ……?
実際の行為を思い出してもアリアはそんな、うん、そんなことはなかったと思うが。
「じゃ、じゃあなんですかっ。私が特別えっちだって言うんですかっ」
お茶の入ったマグカップを持ってぷるぷる震えている。
うーん、まあ、割とマリアンヌ以上のスケベは居ないんじゃないかと思わなくはない。
なんていうか、皆俺のやりたいことに合わせてくれる感じでさ。
申し訳なさすらあるんだけど、そうしてもらった方が嬉しいって言うから俺もそれに甘えている。でもマリアンヌはなんていうか主体的って言うか、自分のしたいことしてくれるから。
欲望をぶつけられてるって感じがしていい。
そういう目で見られてるんだなって実感できる……ようになった。
他の人との行為に満足できないとかそういう意味じゃないんだよね。
なんだろうな、この感覚の違いは。
とはいえ、そんなことを言うのは流石に恥ずかしいというか、いくらマリアンヌでも嫌だろうと思うので誤魔化すように苦笑した。
「いやいや、そんなことはない。でもあの子たちはまだ子供だろ。あんまりそういう目で見るのは、な? よくないんじゃないか?」
「いいえ。知ってますか、フィンさん」
「なんだ?」
「娘は生まれた時から女なんですよ」
えっ何の話?
そりゃそうだろとしか思わないが、多分言葉通りの意味ではないと思う。
「母親の次のライバルは娘、だなんて言われるくらいです。修道院の貴族子女が父親の話でマウント取り合ってる姿を見たことがあります。今の孤児院の子供たちと変わらない年齢の娘たちです」
「えぇ……」
「いいですか。フィンさんはもう性癖を壊す側なんです」
「ええぇ……?」
そんなこと力説されても……。
俺が性癖を壊す側って言われてもなぁ。
で、でも確かに、今肉体関係のある女性の数を考えればそうとは言えなくも…………い、いや! それは思い上がりだ。きっとこれは勘違いだ。マリアンヌがスケベすぎる所為でそう思ってしまうだけに違いない。
「……今は私がスケベな女だと思われるのも仕方ありません。ですが……」
「で、ですが……?」
「数年後、彼女たちが巣立った後、きっと答え合わせが来ます。間違いなく立派な身体の兵士や肉体労働が激しく引き締まった身体の男性を伴侶にしようとするでしょう」
「ま、まあ、マリアンヌがそこまでいうなら……」
「ええ。見ていてください、フィンさん。あの子たちが何を選択するのか……」
そんなに?
俺がガキの頃なんて師匠のおっぱいでけ~くらいしか考えてなかった上に全然性的に興奮してなかったのに、それが都会っ子の標準なのか……?
いや、ていうか兵士とか真っ当に働いてる肉体労働の人達は冒険者と違って立場もしっかりしてる人達だろ。そりゃ狙うだろ。ちゃんとしてるじゃん。それは肉体がどうとか関係なくない?
しかし、その疑問は口には出せなかった。
これ以上どう何を言ってもマリアンヌに口で勝てる気がしなかったから。
それに────なんだかんだ言って、俺がそういう立場になったと言われて悪い気はしない。
信じ難い話だけどな。
子供たちから見て、まともな大人に見えるのだろうか。
信頼に値する人に見えるのだろうか。憧れる男になれてるのだろうか。
そういうの全部ひっくるめて、否定してるけど、嘘じゃないといいなって思ってるんだ。
流石に子供相手に性癖云々はともかく、尊敬できる人間に、立場のある人間になることが目標なんだ。
そう思われることは悪いことじゃない。
だからこれでいいとも思う。
──子供相手に性癖云々はともかく、な。