フレデリカがやってきたのは、朝になる直前のことだった。先触れもなく単身でやってきた彼女は少し焦燥した様子で、急遽迎え入れて話を聞くことになった。
「悪いな、朝っぱらから押しかけて」
「それは全然大丈夫だが、何があったんだ?」
部屋の中には居るのは俺だけ。
カルラにはカトウを連れて外出するようにお願いしたので、アストレアに頼らずとも問題ない状態を作ってある。
「ああ。ちょっと……いや、かなり深刻な問題が起きちまった。私も想像してなかったことだ」
「それは、俺に関わることだな?」
そうでなければ俺を指名して一人だけにしたりしないだろう。
俺の言葉に彼女は頷く。
まったく、王都で俺に関わる問題が起きるとは早々思えないが……ありえるとすればエスペランサ教が何かしたかだな。だけど、それならマリアンヌを同席させる筈だ。俺だけ、というのも判断に困る材料だ。
そもそも、俺は頭脳面では本当に、ほんっとうに大したことがないんだ。
だからそう、厄介事とか問題とか相談されると滅茶苦茶困ってしまう。力になりたいが力になれそうもない無力感と歯がゆさで心がチクチクして胸にある二つの突起もチクチクしてしまうのだ。
けど安心して欲しい。
俺自身は確かに無能かもしれないが、俺の中にはもう一人のマリアンヌが宿っている。闇マリは俺にとって知恵袋であり力の源であり神様だ。
なんやかんや言って俺に力を貸す事に躊躇いはない女神様が、どうしようもない事だったら力を貸してくれる筈……!
『我が使徒の無能っぷりを晒してフレデリカを混乱させるのも面白いわよね』
邪神か?
いくら闇のマリアンヌであっても許し難い所業だ。
そんなことされたら俺、きっとフレデリカには失望されて彼女が目の前で知らない男を犯す姿を見せつけられちゃうよぉっ!! う、ううっ! フレデリカァッ!! どうしてそんな男を犯すんだ! ここに俺が居るっていうのに! そんなに俺はダメなのかっ!?
あっ、な、なんか急に視界が……
『エヴァの時にもうそれはやったでしょ』
「お、おい。どうした? どこ見てんだ?」
「あ、ああ……す、すまない。意識が一瞬飛びかけた」
「おいおい……大丈夫かお前」
「大丈夫だ。死んでも死なないからな」
「笑えねえよ」
呆れた表情のフレデリカ。
お、オホォッ!
いや、オホオッではない。
明らかに禁欲の影響でなんにでも興奮するようになっていないだろうか。いやでも、元々こんな感じだったし……そ、そうだよな。表に出さなければ大丈夫だよな、うん。
「はー……ま、いいや。結論から言うが、お前のケツアナを見てセラフィーヌがア○ル○ックスしてることを確信した」
「…………えっ」
俺の……ケツアナ?
俺のケツアナを見て?
おしりでエッチしてるのがバレた? なぜ? セラさんが確信した? どうして? 見ただけでわかるの? 使い込まれてるとかわかるの? どゆこと? セラさんそんな詳しいの? ていうか俺のお尻はどうなってるの? 見ただけでわかるくらいガバガバなの? あっ! エヴァ! エヴァだ!! いやでも皆はガバガバになってないじゃん!? なんで俺だけガバガバになってんの!!?
闇マリ! 君もガバマリか!?
『死ね』
「心当たりは……ありそうだな」
「……あ、あるにはあるが……そんなにおかしいのか、俺の尻は」
「んなこと知らねえよ!」
先日マリアンヌと致した際は何も言われなかった。
だけどもしかして彼女は何も言わなかっただけで『うわっフィンさんのお尻ヤバっ』とか思っていたのかもしれない。マリアンヌは優しいから何も言わなかっただけで、きっとおかしかったんだろう。
セラさんが○ナルにとんでもなく詳しい可能性もあるが、考えたくない。
よって現状最も高い可能性としては、俺の尻穴が明らかにおかしいことになっている。見ただけでわかるくらいにはおかしいのだということだ。
「そうか…………どうすればいい?」
「……とりあえず、否定は出来なかった。お前にそういう趣味があるかもしれねえが、それを指摘したり言いふらしたりするのは良くねえと言い含めておいた。セラも積極的に言いふらすような奴じゃねえけど、誰かに吐き出したかったんだろうよ」
頷いて同意する。
なんなら口の堅さに関してはめちゃくちゃ信用できる。俺の内臓が弱っていて定期的に血を吐いたりしてることをずっと隠してくれていたんだ。
疑うことは決してない。
疑ってはいないのだが────そうか、知られちまったのか、セラさんに……。
「現状、セラが勘付いてるのはお前の尻に明らかに異物が捻じ込まれていたことだけだ。同性愛者だと思われてる程度で、それ以上には発展しねえよ。ヤリまくりモテまくりのハーレム男だと露見するよりマシだろ?」
「それはそれでなんというか、切ない気もするが……」
しかし、フレデリカの言うことはもっともだ。
俺のハーレムがバレると芋づる式に性癖までバレて、最悪闇マリの話に入ってしまう。セラさんは本当に良い人だから、余計なことに巻き込みたくはない。これ以上俺の都合で良い人を大事に至らせたくない。
「……セラさんは、どう感じてそうだった?」
「ショックだろうな。言っておくが、セラはお前のことを好意的に見たままだろうよ」
「そう……だろうか。軽蔑してるんじゃないか?」
「セラがその程度のことで軽蔑するような女か?」
聞いたら、聞き返された。
セラさんは、触れたくもないであろう俺の汚い所に躊躇なく触れたし、中から出て来た血しぶきを浴びても平然としていた。患者のために、治療行為だから、彼女は手放しで尊敬できる人だ。
きっと俺の趣味でどうこう言うことはないだろう。
けど……ショックだなぁ。
これは全て自分の所為だ。
バレないだろうと高を括っていたんだ。
マゾなのがバレなければ何とでもなるって、いや、自分の身体のことを考慮していなかったんだ。
──まさか、エヴァに蹂躙されたお尻が原因でセラさんに露見するとは……。
「つーかよ。お前、そんな状態で何も感じねえのか」
「そんな状態……ああ、お尻のことだな。正直そんなに変わらないが……いや、でも確かに最近ちょっと緩い感じがしていた。実ではなく穴の方が」
「その話は聞きたくねえな…………その、なんだ。あー……ヒリヒリとか、ジンジンとか、涙出そうな痛みとかは?」
「ううむ……言われて見ればちょっとヒリヒリするかも……」
いつも捻じ込まれた後の痛みが残っている様な気がするんだが、今日はただの検診で捻じ込まれていないからなぁ。
そして痛みで快楽を得られる俺が、お尻から涙が出そうな痛みを感じて色んな意味で感じないわけがない。
ええと、つまり……俺のお尻には見てわかるような異常があるけど、俺はそれも感じない位お尻が鈍いってこと?
『うーん……そこまで酷い状態じゃないわよ? でも確かに、ずっと見てきたならわかるかもしれないわね。ほら、ここよここ。ちょっと膨れてるのよ。傷跡がそのまま治ったんでしょうね』
ほおおぉおおぉおっ!!?
きゅっ急に撫でるのはだめぇっ!!
ピリッとするのぉっ!
『これくらいだったら今度我が巫女に治してもらえるわよ。酷い痔だったことにすればいいわ』
な、なるほど。
「あー、フレデリカ。闇マリが、マリアンヌに治療させて後は酷い痔だったことにすればいいと……」
「…………まあ、それが一番現実的だな」
何かを噛み潰したような表情でフレデリカは同意する。
「ていうか、ナニ挿入れたらそうなんだ? いくらお前がマゾだとしても限度ってもんがあるだろ」
「エヴァのち○ぽだな」
「…………」
パチパチと瞬きした後、顔を思いっきり顰めて、その後長い溜息を吐いた。
「……はああぁあぁぁ……あの時言ってたなぁ、確かによォ……」
「元々お尻はそれほど使っていなかったんだが、アリシアさんとシャルロットに責められた時に良さに気が付いてな」
「ああ、ああもう! もういい! 黙れ!」
ウッ、ゾ、ゾクゾクする……!
サドとマゾの俺、両方が悦んでいる……!
い、いけない! いけない快感が今俺の背筋から脳幹へ突き抜けている!
「あんなもんのナニがいいんだよ、このド変態が!」
「ナニってそりゃあ、あの抉られて圧迫されて捲れる感じが」
「黙りやがれ!」
「あ、あひぃっ!」
か、顔がァッ!
前が見えないッ!
「ハアッ、ハアッ……! ったく、仕方ねえマゾ野郎だな!」
「お、オホォッ……効くゥ……!」
「おっ勃ててんじゃねえよ! 捻り潰すぞコラ!」
「あ、や、やめてくれフレデリカッ、興奮するから!」
「興奮してんじゃねええっ!!」
その時、扉がノックされた。
「……あの、大丈夫ですか? いえ、何が起きてるのかは想像に難くないんですが……」
扉越しに声をかけてきたのはマリアンヌだ。
アストレアの風を使った防諜行っていないので、大声で騒いだ所為で聞こえてしまったのだろう。
「エロ聖女! マゾ野郎をどうにかしとけ!」
「エッエロ聖女!!? マゾ野郎!? うわ、フィンさん一体何が……! お、おっきくなって……」
目、目が見えねえ……。
しかし足音が遠ざかっていくので、フレデリカは退出していくのだろう。怒らせてしまった。やりすぎた。
「ふんっ。おい、フィン・デビュラ」
「あ、ああ……? す、すまないフレデリカ。調子に乗った」
「……それは別にいい。怒ってるわけじゃねえし。とにかく、そういうことだ。ちゃんとエロ聖女に治してもらえ。セラには私から説明しておく。とびきりデケェ痔でしたってよ。口裏合わせろよ」
そう言って、笑いながらフレデリカは出て行った。
……とびきりデカい痔かぁ。
お尻でエッチしてたと思われるよりはいいんだろうけど、セラさんにそう思われるのは……なんか、切ないな。