ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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28 【星天】③

 

 王都一等地に構えるホテルが師匠ら【星天】の宿泊所だ。

 

 一等地――王城を除く中で最も中心地に近く、それに応じて治安も良く値段も高い。金があるだけの成金では住むことも泊まることもできず、各国の王族などの地位も名誉もある人物しか利用することができない。

 

 実際、俺も利用したことがない。

 利用する必要が全くなかったのもあるし、利用する資格が長い間得られなかったのもある。物流によって栄えた王国にとって、それらを支える大切な相手をもてなすための大事な場所だ。

 

 足を踏み入れられるのは非常に喜ばしい。

 

 喜ばしい、の、だが……

 

「…………」

「どしたのフィン」

「いや……なんでもない」

 

 こっから【払暁】の家まで二十秒くらいなんだよな。

 

 なんならこっから見えてる。

 今日は多分カルラは鍛錬アストレアは森まで行って森林浴だろうから家には誰も居ない。

 

 いるとすればマリアンヌか。

 まあ、俺が居なくても楽しく過ごしてるだろ。

 

 ――ハッ……

 いや、これは逆か?

 俺が居ないことでいつもより楽しいのか?

 その可能性は、非常に高い……!

 女三人に男一人、どう考えても男が邪魔だ。

 も、もしかして、俺が居ない時は三人で俺の文句と悪口を言ってたりするのか!?

 

『あいつ臭いのよね。なんか水にぬれた犬みたいな匂いがして』

 

 アストレア……っ!

 

『あの粗末なイチモツには失笑したぞ。まるでゴブリンのようだった』

 

 カ、カルラッ!!

 

『いちもつってなんですか?』

 

 あれっ闇のマリアンヌじゃない。

 まあ確かに? マリアンヌは聖女だから東方諸国では男性器を意味するイチモツなんて言葉知らなくて当然だ。聖女がそんな下品な言葉知ってる訳がない。

 

 しかしこれは決してそういう言葉を知っているカルラを下品だと言っている訳ではなく、彼女は東方諸国における貴族的な家のお嬢様だが男が入ってる風呂に堂々と素っ裸で入ってきて「おう、やはりフィンの身体はいいな」と言ってのける強さがあるから……知っててもおかしくないっていうか……

 

 そんな俺を放って三人とも――流石にアリアは背中から降りた――入っていくので、俺も後ろに続く。

 

 ロビーでは見たこともないような装飾がされており、まあそれだけで田舎者の俺には敷居が高く感じる。

 

 つっても、流石に最低限は慣れた。

 国賓のような扱いはされないが、仲間が凄いからね。

 仲間のおこぼれにあずかって生きている俺にとってついでに招待されることはよくあるのだ。

 

「おかえりなさいませ、ヴァシリ様」

「うん。一人増えるけど、いいよね?」

「もちろんでございます。ただ、当店の理念上、こちらでお名前を控えさせていただきます」

「フィン・デビュラ。金等級冒険者だ」

 

 師匠が得意げに告げる。

 従業員は動じてないが、ロビーにいた他の宿泊客はこちらに視線を向けていた。

 

 フッ……俺の名もここまで広がったか。

 とはいえ、今は仕事中。

 注目されてしまうのは人気者の宿命(さだめ)……

 

 当然、そんなわけもない。

 

 注目を浴びているのは師匠を筆頭とした白金級冒険者パーティーの皆さん。

 

 師匠にアリア、ハイエルフの姫。

 これで注目されない訳がないんだよ。

 逆にこれを見ない奴ってどういうメンタルしてんだ?

 師匠は俺をずっとボコボコにしてくれたし、アリアは俺をずっと捻じ伏せてくれた。アリシアさんとはこれからその魔弓の射手と称される実力をもって、俺のことを抉って欲しい。昔のアストレアのように。

 

「なるほど、【払暁】の方でしたか。当ホテルは会員制で一見お断りとさせていただいておりますが、ヴァルバロイ様のご紹介となれば問題ありません。どうかごゆるりと」

「ありがとう」

 

 こんなスゲェいい態度でもてなしてくれる人も裏では『うおっ田舎者来た。野山に帰れよ』とか思ってるんだろうか。

 

 この紳士が美人だったらヤバかった。

 この場で耐えることが出来ず膝から崩れ落ちていたかもしれない。

 

「さ、行こう。久しぶりの王都だし、張り切ってスイートルームを予約したんだ」

「ほう、スイート……」

「……これ、わかってない顔よね?」

「え? フィンにわからないことってあるの?」

「あんたもヤバいわね……」

 

 アリアの俺に対する信頼は一体なに?

 

 五年間会ってなかった幼馴染に向けるもんじゃないだろ。そういうのは師匠みたいな人に言うんだ。まあ、師匠も大概完璧ではないっぽいけどな。昔抱き締められてめっちゃ泣かれたこととかあるし、基本的にめちゃくちゃ強いけど人間らしい部分だってあるんだ。

 

 なのになぜか俺に全幅の信頼を置いているアリアに震えが止まらない。

 

「見なさいよアリア! 意味わかんないこと言うから怯えてるじゃないの……!」

「え……? 怯え……?」

「はは、幼馴染のお茶目に怯えるような男じゃあない。その程度で怯えてたら、今頃フィンを中心に大陸が揺れているよ」

 

 !!!!!!!!?!?!?!?

 

 な……

 なんだと……?

 アリシアさんは、俺が怯えていると、なぜわかったんだ……?

 

 いやまあ、そんな大げさに言うのもアレだけど、普通に怖いよアリアのスタンス。変わってないのは嬉しいし、俺に自慢の巨乳を押し付けてくれるのも嬉しいし、なんか好き好きオーラが出てて童貞を惚れさせて弄ぼうとしているのも嬉しいが、普通に意味わかんなくて怖かったもん。

 

 マリアンヌが突然俺のことを『あなたが神です』とか言って来たらめっちゃビビるのと同じだ。

 

 あまりにも突拍子のない発言で怯えざるを得なかったが、まさかそれを悟られるとは……

 

 これはまずい。

 

 緊急招集、集まれ脳内在住闇人格!

 

 議題は俺の感情を読み取ってしまう人が現れたことについてだ。

 

 これまでドマゾ思考を師匠仕込みの鉄仮面で隠して来た俺だが、ここにきて史上最大の危機が訪れている。これほどの恐怖を感じるのは三年振りで、全身の腸と肉を弄ばれたあの時と全く同じだ。

 

『バレちゃえばいいでしょ。そして死ね』

 

 闇のアストレアは自分の姉のことだと言うのに全く興味がないらしい。

 まあ俺の考える闇のアストレア(過去の姿)だから単に俺がアリシアさんとアストレアの関係性を詳しく知らないだけなので、これは俺の未熟が原因だ。罵ってくれてありがとう、死なない程度に痛めつけられるよ。

 

 次。

 

『公衆の面前で全裸に剥いて痛めつけてやろうか。それが御望なのだろう?』

 

 あのねぇ、俺は今バレちゃヤバイって話をしてるの!

 バレた後の話はしてないの! そうなったときは勿論そうして欲しいのだが、求めている答えではない。ちゃんと剣で死なない程度に調整してね。

 

 次。

 

『セラが泣いていますよ』

 

 あ、それは止めて本当に効くから。

 毎度毎度男のお尻見せて悪いとは思ってんだよ。青髪の神官ことセラさんとは長い付き合いで、もう年単位でブスリとして頂いている。その為に俺は気持ち良すぎて喘いでいるが、勢いを増す事で苦しんでいる振りをすることに成功しているのだ。 

 だ、騙してる訳じゃない。

 大の男がお尻に杖刺されてよがってるのは常識的に考えて気持ち悪いから配慮してるんだ。

 

 お、俺の所為じゃねえ!

 俺だって好きでこんな身体になったわけじゃねえんだ!

 あの時内臓ぶっ壊されまくったのが原因なんだよ! だから、俺は絶対に悪くねぇ!

 

「う、うそでしょ……あんたら……」

 

 信じてもらえなくてアリシアさんは愕然としている。

 

 どうやら俺のドマゾが見抜かれた訳ではないらしい。

 焦ったぜ。人生が終わるまでの道筋をゆっくり妄想し浸るくらいのことはしてしまった上に脳内闇人格を総動員して相談する羽目になった。得られたのは自分で自分を罵る虚しい行為による快楽である。

 

 こんなに寂しい俺に興奮する。

 もう最近は何しても興奮するので、やっぱりマゾ充になってよかったと思うんだ。

 

 そんなこんなでスイートルームに向かえば、そこは正しく別次元。

 

 宮殿のような内装――宮殿に入ったことはほぼない――に俺の鎧より高そうな家具が並び、棚にはこれまた高そうな酒が……あっこれ見たことあるぞ。俺の鎧十個分くらいの価値がある筈。

 この部屋で大暴れしたら一瞬で破産できる。

 そして何よりも、そういう品々を見て全く怯えない幼馴染とアリシアさん、そして私物みたいな扱いで堂々と酒をあける師匠が怖い。

 

 なんか、こう、度を超えた高級品を目にすると……怖い!

 

 今これ割ったらどうなるんだろうなぁ的妄想による快楽があっても怖い! 師匠の奴隷になるのは間違いない! じゃあプラスだな、怖くねえわ。

 

「さて、それでは再会を祝って……」

「……私、ほぼ部外者なんだけど」

「おっと。では、私達が出会えた“すばらしき世界に祝福”でもするか?」

「ロクでもない世界でしょ。ハァ……ま、いただくけど」

「そうこなくっちゃ。フィン、君も酒くらい飲めるだろう?」

「人並みには。こんな高そうな酒の味は知らん」

「うーん、君の舌は普通の平民よりよっぽど肥えてる筈なんだが……ま、いいか。それではみんな、行き渡ったな?」

 

 師匠が杯を手にする。

 アリシアさんとアリアが続き、俺もそれに倣った。

 

「――――では、久しぶりの再会と、私達(・・)の新たな出会いを祝って」

 

 静かな祝杯が響いた。

 

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