セラさんにマゾバレ事件が起きたものの、それ以外に大きな出来事はなくあっという間に東方諸国へ向けて出発する日を迎えた。
王都では非常に有意義に過ごせたと思う。
マリアンヌと孤児院に行ってデートして、カルラとお風呂入ってエロすぎボディを目の前にお預けされてセルフ我慢対決をしたり、アストレアとのんびり木陰で進んだり……正に俺達の日常を堪能させてもらった。
やっぱりさ、ここ最近怒涛の勢いで物事が進んでいったけど、俺達はそれぞれがしたいことをしてゆっくりする日を設けるべきなんだよ。
度し難いマゾ、どうしようもないマゾ、通称ドマゾと今では言われてしまう俺にもマゾ趣味以外に趣味はある。美味いものを食べたり足を運んだ土地の特産品を探したりね。
すっかりイカれてるマゾ野郎だと周囲に思われている気がするが、俺は元々仕事は仕事趣味は趣味で切り分けれるプロフェッショナルマゾなのだ。
マゾの過剰供給で心のバランスがおかしくなっていたんだ。
こうしてのんびり過ごしたことで、本来の俺達を思い出すことができた。本当に貴重な時間だった。これを忘れちゃいけない。
確かに、アストレアやカルラに結構ボコられてた記憶はある。だけど過去は過去で今は違うんだ。二人とも俺を認めて大切な人だと言ってくれているし、俺もそう思ってる。
過去は変えられない。
だけど、今の俺たちの在り方まで歪める必要はない。それが、今回の休暇で改めて心に刻んだことだ。
「カルラさん、東方諸国に関して聞いておきたいことがあるのですが……」
「む? なんだ?」
「その……やはり皆さん、そのような格好をしているのですか?」
合流予定の師匠達を待っている間、マリアンヌが恐る恐ると言った様子でカルラに声をかける。
既にこちらへやってきたアリシアさんを除き、拠点組はまだ王都にやってきていない。馬車の停留所で合流と決めている上にエルフの力で連絡し放題なので特に困ったことなどはないが、あと三十分ほどで到着するとなると何をして待つにも微妙な時間だった。
雑談に興じていたのだが、マリアンヌが真剣な声色で話し始めたことで全員が耳を傾けた。
「そのような、とは。我らが故郷の衣装がこちらの物とはまるで別物なのは理解しているが、それほどおかしいか?」
「おかしいというか……その、些か身体が……出過ぎているので」
「……ああ、露出面の話か。庶民はさておき、相応の身分の者達はそれぞれ好きな服で過ごしているぞ。公的な場では何枚も重ねた暑苦しいものを着るが、それ以外では自由だ。つまり、私より肌が出ている者もいる」
「な、なんだと……」
それは……すごいな、いや、本当に。
南方諸島に近い国々も結構大胆な服装だったが、カルラのように太ももとおっぱいの谷間が見えるようなえっちさではなかった。腕とか足が見えてるくらいだったもん。
エスペランサ教が広く信じられているので、どうしても露出はよろしくないとみんなの意識に刷り込まれてるんだと思う。
「確かに、西国の方々は肌が見えぬ衣服を好んでいるように見えるでござるな」
一方、カトウは全身真っ黒で全く露出していない。
逆に目立つとしか思えないが、夜の闇に紛れて行動する分には最適解。なんというか、東方諸国は極端だよな。
「そ、そんなところに行ったら……」
マリアンヌは俺を一度見た。
これは……もしかしなくても、俺がエロに負けると思われているな?
間違いないよな?
いくらマリアンヌでもこれには意を唱えざるを得ない。
そもそも今の俺は禁欲中である。
そりゃあえっちなことを考えてしまうのは多々あることだが、だからと言って制欲に飲み込まれたりはしない。フレデリカに振られ、セラさんとも身体でつながることはなく、マゾバレしたからと言ってエッチをする時代はもう終わったのだ!
『でもエッチな女がいたら興奮しますよね?』
はいッもちろん!
エッチな服装しててエッチな目で見ないというのは、無作法だと思うんだ。カトウもこんな真っ黒な服装をしているが、ボディラインは割と見えてる。まったくもってけしからん。こんな姿で男の前に出てくるなんて、明らかに誘惑しているとしか思えない。だが、きっとその誘惑すらも罠なのだろう。名の知れたシノビという熟練の暗殺者なのだからそうに決まっている。
童貞を捨てていて本当に良かった。
俺が童貞のままだったら、カトウの魅力に抗えなかったかもしれない。
ハッ……!!?
そ、そうか!
東方諸国で肌の色が多いということは、俺を篭絡する手段が豊富だと言うことだな!? 聞いたことがある、美人局という奴だ! 美人を抱かせて秘密を聞きだしたり暗殺したりするやつだ!
そうか……俺にそれを警戒しろ、マリアンヌはそう言いたいんだな。
疑って済まない、マリアンヌ。
俺が知らないと思っていたんだろう。
親切心から言ってくれたことを、俺はなんて無礼な男なんだ……!
『……ああうん、そうね』
「安心してくれマリアンヌ。俺は女に吸い寄せられたりしないぞ」
童貞だったら耐えられなくても、童貞を捨てた今ならば耐えられるに決まっている。さらに言えば禁欲すら出来てしまっているのだ。どこに出来ない理由がある?
『禁欲……?』
なにかな闇のマリアンヌ。
何か言いたいことがありそうだけど。
「い、いえ……そこは信じてるんですけど……」
エッ違うの!?
「フィンさんって、その……吸い寄せる側なので……」
「吸い寄せ……? そんなことないだろ」
身近な女性には好意を向けて貰えているが、見知らぬ女性からそんな目で見られているわけではない。俺目当てで近寄って来る人なんて見たことないし、そればかりは見当はずれだと思う。
しかし、俺のそんな疑問とは違い、カトウを除いたメンバーは神妙な顔をして頷いた。
「ううむ、確かに……。一人で行動させたら知らぬ間に新たな女子を連れて来るやもしれぬ。それが庶民であればよいが、武家の娘なんかを誑かして来た時には……」
「……どうせ私達が知らない所で女引っ掛けてるわよ。【リリーガーデン】の時みたいにね」
「ありえるわね……」
「……お前ら、言いたい放題言いすぎだろ」
辛辣な三人に対してフレデリカがやんわりと窘める。
く、くううっ!
マゾとして怒られてる気持ち良さと庇われてる嬉しさがごちゃごちゃだよォッ!
「確かにフィン・デビュラのことだから放っておくのはあぶねえが、結構な人数で、それも実力者揃いなんだ。早々厄介事にはならねえよ」
「そ、そうですよね。ごめんなさい、私の考えすぎでした」
「……そ、そうよね。何かあってもどうとでもなるもんね」
フレデリカの言葉に、皆が納得した様子を見せる。
……うん。
うん、なんか全然庇われてる気分がしないな。
なんでだと思う? 闇マリ。
『なんか起きてもどうにかすればいいと思われてるんですよ』
だよね。
流石に俺もわかったよ。
だが、それも仕方ないことだ。
俺のこれまでのことを鑑みれば、そう思われてしまうのはしょうがない。
だからこそ俺は誓っている。
禁欲して、新たな女性に手を出さないと。
今回の東方諸国遠征で、皆に俺が成長している姿を見せてやらないとな。
拳をぐっと握り締める。
これからだ。
俺の人生は、まだまだ……これからなんだ!