「それでは、こちらでお待ちくだされ」
小島に案内されたのは、ちょっとした広間のようなところだった。
こんくらいの広さがあれば宴会くらいは出来るだろう、そんな感じの部屋の中で、俺たちはようやく一息付いた。
「さて、諸君。長旅ご苦労様だ。これから謁見するだろうが、それまでは気楽に休んでいてくれ」
師匠がわざとらしくそう告げる。
まあ一応お偉いさんの家だからね。
というより敵陣地と言い換えてもいい。俺は戦争未経験だから是非はわからないが、何でもかんでも口にしていいわけではなく、我が家のように過ごしていい場所ではないことくらいは理解している。
『──というわけで、聞かれたら困る会話はこちらで行うよ。既に囲まれてるからね』
え、まじで?
確かにまあ、全体的に結構感じるなあとは思ってたけど……勘違いじゃなかったか。
『屋根裏に数人、それなりに手練だけどこの程度じゃまだまだ私たちの命は奪えない。加藤某の足元くらいの者達だね』
『建物の構造は把握したわ。前に一度観察しといて正解だったわね』
『兵士の数もわかった。あと、大したことない奴らしかいない』
あ、はい。
俺の役割なんもねーや。
エルフ組があっという間に的陣地を丸裸にしてしまったことで、早くも終わった感じがする。
「なあなあデビュラ。いつもこんな感じか?」
「いや、俺もこのメンバーでどこかに遠征するのは初めてだが……あまりにも楽ちんすぎたな」
「ほんっっっと、それな。おれもアイテムボックスくらい欲しかったよ……」
アニカが当たり前のように話しかけて来て、普通に俺の膝の間に座り込んできた。おっほ、フィンファンにお尻♡ なっ何事だ!? なぜフィンフィンにお尻が当たっている!?
「へへ、もーらい」
「むう……急に甘えて来られても、何もしてやれんぞ」
ここが払暁ホームだったら手を出してしまっていたかもしれないが、ここは管領?様の城で見張りまで付けられているのだ。
そんな状況でえっちやセクハラなんて出来るわけがありません。やろうと思えばできるかもしれんよ? だがね、そうすることで失う品位というものがある。思考を回せ! 血液を頭に集めろ! このままではフィンフィンがアニカのヒップでバキバキしてしまう!
「しかし、機嫌が良いな。そんなに来たかったのか?」
「おう! 異世界日本なんて憧れみてーなもんだからな。同人リョナエロゲ世界だって事実さえなければもっと嬉しかったんだよなぁ……」
「リョナ……? ああ、例のひどいエッチの意だな」
「……あんまりお前に言いたくねえけどな。ひどい話だろ、そうなったのが世界のせいだとかさ」
アニカには全てを伝えているわけではないが、俺がマゾでサドなのは知っている。
いやあ、世界のせいだって言われてもなぁ。
俺はここに至るまでの人生を憎みつつも納得しているってのが本心っぽいし、真面目になんとも思ってないんだよね。
「気にするな。むしろ、俺で良かったんだよ」
マゾだったから生き残れた。
そういう側面があることを加味すれば、やはり俺がマゾなのは間違っていない。師匠がアリアに聖剣を渡したおかげでマゾになったのだから、やはり師匠は正しかったんだよ。
「…………デケェ男すぎだっての」
アニカは俺の顔を見て唇を尖らせながら言う。
ここ最近なフィンフィンの大きさにも自信がある。
馬並みというかうま? なんで女性の体に悪影響が出ていないのかわからん。俺のお尻はエヴァに拡張されてセラさんに見抜かれてしまったと言うのに。あ、今の見抜かれるというのは見て抜かれたという意味で決していやらしい意味ではない。
「はああぁ〜〜……いっそ、おれも最初から女だったらなぁ……」
「俺は気にしないぞ。男性そのものはちょっと厳しいけどアニカは可愛いからな」
「おれが気にしてんだよ!」
そんなに気にしなくてもいいのにと思うが、人には人の考えがある。
俺がどれだけ気にするなと言っても気にしてもらえることはあるし、逆に俺が余計なお世話をしまくる時だってある。もちつもたれつって奴だな。
『ん……。一番上の部屋だけ、妙な気配がする』
『え? 何も感じないけど……』
『姉さん、よく感じて。人じゃない、嫌な気配よ』
俺がアニカとイチャイチャしている間にも、エルフ達による探索は進んでいる。
いや、風操作はやっぱり強すぎるわ。
こんなことされたら勝ち目なんてなくない?
魔王軍相手の時はモンスターの中には同じようなこと出来る奴もいて、あんまり通用しなかったんだろうな。
無警戒だとこんだけ好き放題抜くことができる。
俺は今、心の底からエルフじゃなくて良かったと思っている。
もしも俺がエルフだったら、イケメン細身サドマゾ覗き変質者が誕生していただろう。風を操作して他人の身体を勝手に読み取り、想像に耽る。
きっと師匠にも出会えていなかっただろうし、まともな人間になったとは思えない。
本当に良かった、俺が特別じゃなくて……!
『…………我が使徒がいいならそれでいいわ……』
「それじゃ本末転倒です……」
「ん? なんか言ったか?」
「いいえ。それよりフィンさん、気が付いていますか?」
え? なんのこと?
うーん、フィンフィンは大きくなってないしアニカの身体も触ってない、そんでもって部屋の中では特に何事も起きていないし、師匠はしゃべりながら器用に風を操って……あの……三人とも当たり前のように喋りながら風を通した会話もしてるんですけど……。
「ぶっ壊れユニットすぎる……」
アニカがその様子を見ながら呟いた。
ぶっ壊れの意味が合ってるかどうかはともかく、俺も同意見だ。
ハァ、もうなんだか自信無くしちゃうな。
やっぱり俺なんて要らない子なんじゃないか?
ハァッハァッハァッ、また、また置いていかれるのか……!? く、くそっ、大人になって、みんなとエッチしたのにそれでも!? くそっ、くそくそっ! 俺のっ! 俺のなのにっ!!
「いえ、そうではなく……気配がします。上の方から」
気配?
そう言われて意識を集中させる。
……………………。
全然わからん……。
わかんないけどわかったふりは、いけませんよね。
「……すまん、マリアンヌ。わからん……」
「えっ…………」
『あー、我が巫女。我が使徒にそういうの期待しない方が良いわよ。本当に分かってないから』
「う、うそっ、こんなにわかりやすいのに!?」
あ、ふーん。
そうやってマリアンヌ俺のこと虐めるんだ。
あー悲しいな泣いちゃうな俺! アオッウウウアッアギャスオッオオンッオッオッ!!
『黙れ』
「ひ、ひいっ……そ、その、ごめんなさい……」
「お、おい……何をそんな怯えてんだ? デビュラ何もしてねえだろ?」
「そ、そうですね。何もされていません。怯えてるわけでもなく、ちょっと、はい、その、えっと…………すみません、これ以上は私の口からは」
「怖えよ! 何してんだよ!」
「何もしてないぞ」
ただちょっと闇マリを揶揄ってたらマリアンヌまで余波が届いてしまっただけで……そう、決して何も、何もして……ぐふふ、今日はこれでいいや。
マリアンヌはしかし、俺の気持ち悪い側面を浴びせられてもそっと俺に一歩歩み寄って来た。
「私は……フィンさんが何しても、受け入れますからね」
「……や、ヤンデレ……」
アニカが怯えた声を出しながら抱きついて来た。
「うふふ。あなたも一緒になりますか?」
「い、いやだ! ヤンデレにはなりたくねぇ!」
「案外、なってみるとスッキリしますよ?」
「怖いってだから! おいお前ら見てないで止めろよ!」
そんなことを話して雑談していると、空気が一瞬緊張感を伴った。
来るな。
風で読めなくてもなんとなくわかる。
皆察したのか、これまでのだらけた空気感は一気に霧散し全員が緊張感を持っていた。
『誰か来る。お待ちください? 予定にないのか?』
『待って、ナオトラじゃないわ。カゲカツと呼ばれてる。誰?』
やがてその喧騒が俺たちの耳に入ってくるのと同時に、襖が開く。
「ここに客人がいらっしゃると伺いました!」
スパーンッと綺麗に音を立てて登場したのは、水色の髪を持った美人だった。
「剣聖、塚本新右衛門様のご息女にしてご自身も剣聖であらせられる塚本迦楼羅殿が参られたのは、事実ですか!」
「私が塚本迦楼羅だ。本来ならばこのような物言いは無礼だが、私は既に王国に身を置いている。ゆえに、この場では和国の作法ではなく王国の作法で話をさせてもらう」
「構いませんとも! ご挨拶が遅れました、
そう言って、彼女は気持ちのいい笑みを浮かべた。