上杉景勝と名乗った美女は、明朗快活と表現するのが最も適しているような人だった。
「──ほう、ほうほう。なるほど。皆様冒険者なのですか。そしてその中でも最上位に位置する白金等級と金等級冒険者だと……」
「和国では地位の低い肩書きだが、山向こうでは冒険者はごく一般的な存在だ。こちらのように浪人の踏み台に使われることは中々ないぞ」
前に一度言ってたな、和国だと冒険者は踏み台だって。
王国で言えば、ちょっと昇格してから兵士になるとか、銅等級くらいになって騎士になりやすくするとか、そういう奴のすごい版だと思えばいいらしい。
紹介状みたいなもんなのかな?
「あいや、これは失礼しました。侮っているわけではなく、外国の冒険者を見たのが初めてで……無礼な物言いに聞こえていたらごめんなさい」
ウエスギカゲカツはそう言いながら頭を下げる。
なんていうか……
結構気安い人なのか?
身分差が激しくて目の前を歩いただけで切り捨てごめん、なんて凄まじい場所だと聞いていたから、正直拍子抜けだ。
俺には切腹する準備だってある。
カルラに作法を学んだからな、本当に任せて欲しい。切腹バトルは死なない俺が負担することで確実に勝利出来るのだ。いざゆかん、ハラキリへ!
「そのようなことで気を損ねたりせぬよ。それで、景勝殿。何用だ?」
「用などと呼べる程のものではありません。【至高の剣聖】と謳われる塚本新右衛門殿のご息女が参られたと聞いて、居ても立っても居られず……」
【至高の剣聖】。
カルラの父親であり、アリアにすら剣技で勝利したという生きる伝説。
少なくとも俺が対面すればなす術もなく殺されるのだろうという予感がある。死なないだけで再生を自力で出来ない俺では、格上に対する対抗手段はあまりにも少ないままだ。
やはり俺自身の火力が低すぎるのがなぁ。
かと言って、これ以上出来ることはないと闇マリにも言われてしまった。闇を受け入れて強くなるのはいいけど人外に自分から近寄りたいとは思わないし、ある意味俺は詰んでるとも言える。
だけどまあ、そんなのとっくの昔に通り過ぎてるからな。
俺自身じゃ何も出来ないから盾役になるって判断をした時だってまあまあ切なかったよ。自分がどうしようもないやつだってまた認めなくちゃいけなかったんだから。
師匠に育てられて多少はやれるんじゃないかと思ってたが、アストレアやカルラを見て、おれは才能のない凡人なんだと理解させられたよ。
俺の役割は一撃必殺のような攻撃を受けて耐えて周りに繋げることだ。
つまりもし仮にとてつもない剣豪と戦う場合、半分に叩き割られて仲間が倒しすための礎になるのがベスト。身体が真っ二つになったところで意識は残るっぽいからな。身体がすり潰されても意識が残る? っていうし、役目はある。
「父上の威光が轟いていることは喜ばしいが、既に私は父上とは縁を切っている身だ。名を使わせてもらっているのは温情に過ぎぬし、これを理由に何かを取り計らうことはできん」
「塚本新右衛門殿との繋がりを期待したわけではありませんよ。ただ単純に、塚本迦楼羅様の剣を一目見たかったのです」
「ほう? 私の剣をか」
カルラの雰囲気が変わる。
触れるだけで傷を負う刃の如き鋭さ。
彼女は、剣聖の遺体を利用したリッチとの戦いにおいて単身で複数人の剣聖を相手に勝利を収めている。モンスターだろうが死人だろうが、何らかの力で復活することのあるこの世界だ。
当時の俺では太刀打ちできないような剣聖を相手に、彼女は勝利した。
それも単身でだ。
その力量は既に並大抵のものではない。
金等級冒険者の中にも格の違いが存在するように、【剣聖】の間でも格の違いはあるだろう。
既にカルラは、最上位に位置する力を有している……と、俺は思っている。
「ええ。姉上が高名な方をお招きするのは稀にあることなのですが、中々お会いさせてもらえず……しかし、流石に此度は譲れません。外国で名を馳せた大剣豪! それこそ正に剣士として得られる至高の栄誉ではありませんか!」
「む、むう……褒められて悪い気はしないが……」
カルラはそこで一度俺を見た。
えっ俺?
別に俺はカルラの剣技に何の益も齎していないが。
大体、先輩(闇マリの前の使徒)に遭遇するまでカルラは俺に対してツンツンザクザクだったから、特に彼女の成長に関われてはいないのだ。
剣の実験台という意味では貢献できてたかもな笑
『我が使徒、それ絶対言うんじゃないわよ』
「あ、あわわ……」
「マリアンヌ? どうしたの?」
「な、何でも、なんでもありませんっ」
カルラとカゲカツが向き合う中、隣からマリアンヌとアストレアの話し声が聞こえた。
「しかし、私の剣は私一人が作ったものではない。剣士として、冒険者として、何よりも一人の人間として未熟であった私を成長させてくれたのは、【払暁】だ。マリアンヌ、アストレア、フィン……三人と共に戦ってきたからこそ、今の私がある。ゆえに、そのような名誉は不要だ。世辞も褒めも求めておらぬ」
か、カルラ……。
思わずじーんと来てしまった。
あれだけ色々あったけれど、俺達はちゃんとした仲間になれてるんだなぁ。
「ふむ、そうですか…………」
そんなカルラを、カゲカツは見定めるように見つめる。
「……なるほど、わかりました。そろそろ姉上の遣いも来るでしょうし、私は一度帰らせていただきます」
「うん? ああ、わかった」
「──姉上は、欲のないお方ですが……それがゆえに、邪な思考を持つ者を見抜く目を持っております」
そう言って、彼女は俺達全体を見渡した。
「くれぐれもお気をつけを。邪心を持たぬよう、心を強く律して頂きたい」