カゲカツが去った後、入れ替わりで案内役が現れ俺達はそれについて行った。
去り際に彼女が残した言葉の意味を相談する暇もなかったが、中々厳しいのではないかと考えている。
──姉上は、欲のないお方ですが……それがゆえに、邪な思考を持つ者を見抜く目を持っております。くれぐれもお気をつけを。邪心を持たぬよう、心を強く律して頂きたい。
これって俺のこと?
間違いなく俺のことだよね。
こんなのどう考えても俺のこと狙い撃ちじゃんね。
邪な思考を持つものを見抜く?
そんなことをされたら俺は一発アウトだ!
邪な思考を持つものを見抜く、お、おおほぉっ見抜かれてるのぉっ! 見抜きいいですか!?
恐らくこんなことを考えたら即座に見抜かれてしまう。
そして身分格差の激しい東方諸国のことだ、きっとその場で切腹を申し付けられるんだろう……う、ううっ、なんて恐ろしいんだっ……!
いや、しかし実際どうしたものかな。
これが言葉の通り相手の邪念、悪い考えを見抜くというものだったら俺の天敵だし、邪悪な神を見抜くという意味でも天敵。なんてことだ。ありとあらゆる点で俺を殺す為に存在しているのか?
アリシアさんは俺の感情を読み取り童貞を奪った。
管領ウエスギナオトラ……。
俺の何を見抜くというのだ……。
『邪な考えを見抜く。言っておくけど、私にだって出来ないことはないわよ』
え、そうなの?
まあ確かに日常的に俺の思考を盗聴しているが、でもそれはあくまで俺に憑りついてるからだしなぁ。
『そうじゃなくて、そこらの人間の思考を読み取ること自体の話ね。要するに、私の領域を作ってしまえば容易いわ』
ああ、あの夜みたいなところね。
『あそこはいわば我ら神の胎内。私達の内包する世界でこの世界を局所的に塗りつぶす事で、私達は絶対的な創造神として確立することが出来るわ。この世界を支配する程の力を得たとしても、領域内での権能と比べれば天と地ほどの差があるの』
へえ……。
じゃあ、あれが闇マリの世界なのか。
幻想的で綺麗だよな。
俺は闇が好きではない。
自分自身が闇に塗れた人間で、清く正しく光に憧れているから。
だからと言って、闇を否定することも出来ない。
闇マリがいなければ生きて行くことも出来なかったんだしそれは当然だ。
闇に魅力があるのも、否定しない。
夜空を眺めて美しいと思うことは誰にだってあるだろう。
闇に呑まれ、それでもなお女神として在り続ける闇マリに相応しい世界だ。
『ふふ、そうでしょう? あれこそが我が世界、闇にして月夜の世界。テイアもやろうと思えばできるでしょうね』
『む? おお、そうじゃのう。もちろん今は出来るぞい』
そうなると、ここに居るであろう神様も出来るかもしれないってことか。
それじゃあ結構不利なんじゃないか?
ここは敵の本拠地なんだろ。
そんなところでやり合うかもしれないのに、大丈夫なのか?
『なんの問題もないじゃろ。ルルクスにとって本拠地はおぬしそのものじゃからの』
俺?
『うむ。おぬしが一人でルルクス復活に至るまでの力を供給し続けたのだ。そしてそれは今に至るまで衰えを知らぬ。今こうしている間にも、我々女神の無限に近い力を満たし続けているのじゃ。たとえ相手の本拠地であろうがなんだろうが、我らの力は落ちぬし揺らがぬ』
ええと、つまりどこでも常に十分な性能を発揮できると。
『そういうことね。我が使徒と私は一心同体、切っても切れない関係よ』
まあえっちもしてるしね。
そうなると、まあ、最悪露見しても何とかなる……のか?
ただ、俺達が何とかなってもカルラに申し訳ない。
カルラは東方諸国の出身で家族もこっちにいるんだし、変なことをしたら噂が流れていくだろう。そうなったら娘を悪い道に引き込んだとして父親であるめっちゃ強い剣士がわざわざ俺を殺しに来て……ヒ、ヒイイッ!! 真っ二つに斬られちゃう!?
「では皆さま、お先にお荷物の確認をさせて頂きます」
「武器を預かる、ということだね?」
「はい」
「わかった。私達はこれだよ」
そう言いながら素直に差し出す。
差し出すのだが、師匠とアリアに関しては素手だ。
暗器などが無いかチェックしている人も女性なので心配もない。よかった、男じゃなくて。俺が暴れる所だった。
そうして通された部屋は先程よりも更に広い、謁見の間と呼ぶにふさわしい場所だ。
畳が敷かれ、部屋の奥には一人の女性が正座している。
「よくぞ参られました。どうぞ、こちらまでいらしてください」
凛とした声。
まず先に足を踏み入れたのは師匠達【星天】、次に【払暁】、最後に【超滅】とフレデリカ。
部屋の中に足を踏み入れた瞬間、足先から激痛。
鎧の中で俺の身体が、これは……刻まれてる?
このタイプの痛みには経験がある。少なくとも初見ではない。おっほぉ♡ こんなところで先制攻撃されちゃって気持ちいいのぉ!
「フィンさん?」
さて、どうするか。
血も出てないっぽいし、幻覚みたいなモンかこれ。
……うん。
足はあるな。
痛いだけか。
なら別に気にしなくていいな。
そのまま身体を中に入れる。
──瞬間、全身を切り刻まれる様な痛みが奔る。
皮が剥がれ、肉を裂かれ、骨を刻まれる。
痛い、痛いが、どうやらこうなっているのは俺だけの様だ。
マリアンヌはビクともしていないし、狙いは始めから闇マリと俺だけだったみたいだな。
『ええ、そうね。それにしても、手ぬるいわねぇ。こんな程度で私達が驚くと思ったのかしら』
『痛っ、あだだっ、ぐわああああっ!! 痛いのじゃっ!! お、おぬし、止まってくれたも!! 死ぬぅ! 妾が死ぬのじゃ!』
も~、大袈裟だなテイア様は。
こんなの痛いうちには入るけど動けなくなるようなものじゃないでしょ。まあ快楽でおフィンフィンビンビンなのは誤魔化しようもないが、鎧の下だから何の問題もない。
「……っっ!?」
奥に座っていた女性が目を見開いている。
どう考えても仕掛けているのはあの人だが、俺が平然としていることに驚いているのか? それとも興奮していることに驚いているのか? まあ、どちらにせよ構わない。
先に手を出して来たのはそっちの方だからな。
「フィ、フィンさん……? いったい、何が……」
マリアンヌが揺れる瞳で聞いてくる。
俺はそれに対して、口元に人差し指をあてて静かにするよう伝えた。
理由は、口を開いたら叫んでしまいそうだから。
だってさァ、おっほぉ!!
こんな全身容赦なく虐められるのなんて久しぶりなのぉっ!! 巨豚人さんにぐちゃぐちゃにされてた頃を思い出しちゃうううっ!! アッイク!! このままではイってしまいます! 王国からやってきた種を東方諸国に植え付けてやろう!! 俺みたいなマゾが世界に増えますように! 祈りを込めて、発射ァッ!! 魔が!
「……………………え……?」
座っていた女性が俺を見ながら汗を流し、目を見開いている。
「……い、今……え……? なに、を……」
「……あー……管領、上杉直虎殿で間違いないだろうか」
「っっ、え、ええ。失礼しました。私が管領の、上杉直虎です」
「私は塚本迦楼羅。加藤何某の話を受け、こちらへ参った」
「お待ちしておりました。突然の無礼なお呼び出し、申し訳なく……」
そう言いながら、ウエスギは俺のことをチラチラと見ている。
「……俺の顔になにかついていますか?」
「い、いえ! そのようなことは……」
しかし、もごもごと何か言いたげな表情で俺を見る。
よく見れば耳が赤い。
ふむ。
まあ痛みも治まっちゃったし、多分この人がやってたんだろうけど……。
なんか反応が違くない?
『そうねぇ。……もう少し様子見かしら』
はいよ。