「それで、わざわざ私を呼び出した理由を聞いても? ああ、作法に関しては和国ではなく王国の流儀でやらせてもらうぞ。既に私は和国の剣士ではなく、王国の剣聖だからな」
「構いません。突然お呼び出ししたのはこちらの方ですから」
おお?
いきなり攻撃してきた割には冷静な対応だ。
どうせ周囲からの攻撃に関しては師匠やアストレア達が対応してるわけだし、俺がやるべきことは知覚外からの神による攻撃なのだが……どうにも、その気配は感じられない。
まあ今もなお全身刻まれてるような痛みはあるんだが、このくらいじゃあなあ。
興奮絶頂はしてもそれ以上には至らない。
普段は身体が物理的に損傷するからつい声を出してしまうが、幻じゃこんなもんだ。
毎日のように闇マリに頭の中を掻き回されたり身体を実際に欠損させられてるのに、今更幻痛なんて与えられてもね。精々おやつくらいの感覚だ。いきなりデザートにも勝らない。
「っっ……!?」
「む? ……どうされた? いや、なにか体調でも悪いのなら我らも一度場を改めるが」
「い、いえ。それには及びません」
汗を流しているあたり動揺しているのだろう。
邪神関係は見抜かれてると思うんだけど、いやでも、闇マリは神様が何かしてきたとは言ってないしなぁ。
『分析終わったわよ』
あ、おかえり。
どうだった?
『簡単に言えば、この部屋そのものを神域に指定してるんでしょうね。だけど出来がお粗末。とても神が作ったとは思えない
出来が悪いとかあるのか。
力の差がありすぎてそう感じるだけじゃなくて?
『ええ。チグハグなのよ。密室を骨子に世界を塗り替えているわけだけど、それにしては精度が悪い上に作りも荒い。骨組みに沿って力を這わせてるけど、それもぐにゃぐにゃ。神の力を初めて使ったのかしら? それにしたって稚拙が過ぎる。下手くそよねぇ。こんなの、ちょっと小突いたら簡単にほどけちゃうわ』
なるほど、そういうことか。
それじゃあ大したことない神様ってことだな。
『現状、そう判断するのが自然ね。とはいえ、まだ気になることはある……』
この程度で済ませてるのも気になる所だよなぁ。
闇マリだったら容赦なく一撃で殺してるだろうし、なんだろう。殺したいわけじゃないのか? 単純に、部屋の中を神様の領域に作り替えてたけどそれはあくまで自衛のためとか?
『──ありえなくはない。私の神域に踏み入った時、誰一人として被害が出なかったのは私が抑えたからよ。あの時点で魔に浸食させることだって出来たけど、そうはしなかった』
この中でどうするかは神様の匙加減。
俺しか対象になってないのならば、何らかの検知に引っ掛かった可能性が高い。そしてそれは恐らく魔ではなく、邪神の依り代になっているかどうか……でもテイア様も喰らってるしなあ。
やっぱりこれ、神に対する攻撃なんじゃね?
『ま、そうね。ただ、本体の影が追えないのよ。あの女に線が繋がってるのは間違いないのだけれど、その先がどうにも朧げ。彼我の力の差を理解して線を狭めたのかしら? 無駄なことを。こんなもの、塗りつぶしてしまえば一発なのに』
「それで、わざわざ呼び出しに応じ参じたわけだが……私に何用だ? 悪いが、殺しの依頼や軍門に下れ、という指令は受けつけぬぞ。金等級冒険者として、正式な依頼はギルドを通してもらいたい」
きっぱりとカルラは断る。
それは既に俺達の方で決めたことだ。
別に言うことを聞かないぞというつもりではなく、あくまで冒険者として扱って欲しいという要望。というか、この程度のことを聞いてくれないのならば用はない。
あくまで東方諸国に足を運ぶ理由として利用させてもらい、ここで目的があるらしいアニカや師匠の計画に移行するだけなのだ。
そういうわけで強気に出ているのだが、ウエスギはそれに対し表情を動かさずに答える。
「承知しました。冒険者ギルドの方に連絡をしておきましょう」
「……良いのか? そなた、管領であろう。帝と将軍の次に偉いと言っても過言ではない。外国よりやってきた我らにそれほど配慮する意味があるのか?」
「私が御招きしたのですから、当然です。外国の方に配慮することになんの問題がありますか?」
これには正直驚いた。
東方諸国の身分差は激しいと聞いていたので言いがかりをつけられると考えていたのだが、これはカトウの言う通りの人だったのかもしれない。
でも神様憑いてそうなんだよなぁ。
そうじゃなきゃ俺と俺の中に居る神様だけ狙って攻撃してこないだろうしさ。
実際、普通の女神様がいるなら邪神である闇マリとその使徒の俺を攻撃することは至極当然のことだ。だから納得できる。いまいち中途半端な部分が理解できないだけで、それ以外は大体予想は出来た。
じゃあ、つまりなんですか。
俺と闇マリがシンプルに闇側の存在過ぎて普通なら喰らわない攻撃喰らったってことですか?
存在自体がばっちいって言われてるみたいで、心の底から興奮してきた。
東方諸国の姫を超えた支配者にそんな風に思われてるってこと? 会った事もない人にばっちい闇扱いされて気持ち良くなるわけなんてないだろ。全く、マゾのことを何だと思ってるんだ? ちなみに、匂いに関しては周囲に悟られないように闇マリがこっそり処理をしてくれている。何がとは言わないが。
「っ、っっ、~~っ……」
なんか後ろからマリアンヌが悶えてる空気を感じるな。
あ、俺と闇マリの会話が聞こえてるからか。
神様が攻撃してきたという事実を知るのはマリアンヌ、アリシアさんの二人だけが察知出来ている筈だ。俺が興奮していたという事実も伝わっている。アリシアさんに関しては最早我関せずというか、俺の方を見ようともしない。
ハァッハァッ、無視されてるみたいで興奮してきた……!
マリアンヌッ! 俺が一人で夢想してるっていうのはこういう意味なんだよ! 俺のことを受け止めてくれっ! ああっ出るっ出るでるっでちゃうっ痛みと快楽と切なさでイクッ!
──ところで、ウエスギはやはり俺の思考を読めているのか?
「な、な、なぁっ……!!?」
「む? ……いや、やはりこの場は改めた方がよいのではないか。そなた、顔色が随分と悪いぞ」
「な、なぜっ……」
「なぜ? いや、見ればわかることだが」
困惑するカルラだが、ウエスギの目は俺を捉えている。
ああ、やっぱり読めてるっぽいな。
でも全部読んでるわけではない、と。
闇マリとの会話を聞かれているわけでもなさそうだ。仮に聞いていれば、俺達がそっちのことを大体把握したことを悟って焦るだろうしな。
『ああ、それは簡単な話ね。私が干渉して読める部分を我が使徒のキチ……ではなく、おかしな思考だけにしてるから』
なんてことしてくれてんの?
絶対それのせいでウエスギ動揺してるだろ!
俺は俺の異常性を理解しているから、俺の思考が気持ち悪いってことはわかってるんだよ。ここに至るまでに一発で受け入れられたのはフレデリカやセラさん、アリーシャくらいなのでそれは十分にわかっている。
そりゃそういう目で見てくるだろ!
俺がんほおおっとか言ってるのだけ聞こえてるんでしょ?
最悪じゃん!
どうやって印象取り戻すんだよ!
邪神の使徒じゃなくてもドン引きだろ! 邪な心読み取られまくりだよ!
「それが良いな。そうしよう。なに、城にはまだ滞在させてもらうが、よろしいか?」
「…………は、はい。構いません。不手際、申し訳なく……」
「いやいや、体調不良であれば致し方あるまい」
カルラがそう言いながら立ち上がったので、俺達もそれに続いて退出していく。
これだけ自由に振舞っても怒りすらしない、か。
カトウの言う通りだが、ますますカルラを呼び出した理由がわからんな。そんでもって、そんだけ大らかな心を持つ偉い人に俺は変態な部分だけ見せつけてしまったわけだが……。
「フィンさん? 戻ったらお話、しましょうね」
「フィンくん。私も一緒にいいかしら?」
アッ、は、はい。
左腕をマリアンヌ、右腕をアリシアさんに掴まれてにっこりと微笑みを向けられる。
だがその目は絶妙に笑っていなかった。