ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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41 【星天】と【払暁】②

 

「さて、ここからは少し真面目な話をしようか」

 

 師匠はそう言った。

 

「我々〈星天〉は今後王都を中心に活動していく。つまり、ここに拠点を作るわけだが……」

「……ちょっと待ってください。魔王軍はどうなったんですか?」

「魔王は負傷し西方に引っ込んだ。幹部級は前線に出て来た連中を軒並み討伐し、私達がいなくても前線の押し込みが可能となった。ゆえに、今後を考えて王都に帰還したと言うわけだ」

 

 衝撃情報に三人が目を剥く。

 

 まあ俺は知ってたけど。

 アリアがおもらししてたからね。

 この場合のおもらしは言っていたという意味で決していやらしい意味でのおもらしではない。まあ俺はアリアのおもらし浴びたいけどね。

 

『死ね』

 

 うひょひょひょ!

 妄想すれば妄想するほど闇のマリアンヌも俺を罵倒してくれる! 

 ついに至ったぞ、俺はこの高みに……!

 闇のカルラ、闇のアストレア……俺、やったよ……!

 

『…………』

 

 ごめんて。

 話聞くから。

 俺が悪かった、本当に反省してる。でもさ、俺のこんな姿晒せるのは闇のマリアンヌしか居ないんだ。頼むから俺を見捨てないでくれ……

 

『…………んもう、しょうがない人ですね』

 

 おお……なんだか黒髪のマリアンヌが微笑んでる気がする……

 つ、ついに頭の中に幻影まで浮かび上がるようになってしまった……! 俺はやばいんじゃないか? これ以上進めていいのか? ダメな気がする。これ以上脳内闇人格との対話を進めたら俺も闇人格になるんじゃないか!?

 

『もう十分闇だと思いますが……』

 

 そんなことないだろっ!

 どこからどう見ても俺はまともだ。

 ちょっとドマゾな趣味があってパーティーメンバーがNTRされる妄想したり罵られたりする妄想して気持ち良くなってるだけで至って普通の盾役だからな。

 

『…………』

 

 ねぇ顔が見えなくてもわかるよその沈黙の意味は!!

 

「い、忙しいわね……」

「……? どうした、アリシア」

「なっ、なななんでもないわ。うん」

「体調が悪いなら休んでて構わないけれど……」

「本当に大丈夫だから! 気にしないで」

「そうかい? ならまあいいんだが」

 

 青褪めた顔のアリシアさんは、酷く疲れた顔で溜息を吐く。

 

 大丈夫かな、あれ。

 ちゃんと休んだ方がいいと思う。

 俺が言うのもなんだけど、訓練してないと疲れは本当に身体に響くから。

 

「王都へ拠点を構えたとして、今後はどうするおつもりですか?」

 

 本物こと光のマリアンヌが問う。

 

「未踏破地域の探索がメインになる。〈深淵の森〉なんかがいい例だね」

「ああ……あそこは確かに、本気で調査するなら師匠達がいてくれると助かるな」

 

 皆の火力は足りてるんだけどね。

 あそこのモンスター相手だと命が幾つあっても足りん。

 三体同時に出て来た時とかマジで死を覚悟する。一本腹、一本胸、一本足で全身串刺し状態になったことすらある。先読みポーションがぶ飲みでなんとか生き延びたが、あんときは酷かったな。

 

 アストレアとか完全に俺が死んだと思ってその場に座り込んで泣いちゃったし。

 

「っ……」

「…………」

「そう……ですね。私達だけでは……」

 

 俺がアリアと同じくらい特別だったらなぁ。

 だが残念なことにそうではない。

 不意打ちを防ぐので精一杯な俺では、あの森を攻略する十分な戦力足り得ない。現実は現実、受け入れた上でやれることをやる。それがプロフェッショナルってもんだ。

 

「まあ、そう悲観するものでもない。あそこは正直私も正面からは入りたくない程度には凶悪だ。溢れてこないから今はいいが、あそこが氾濫したら魔王軍より脅威だろうね」

 

 ぶっちゃけ〈瓦礫の山脈〉で襲って来た獅子より普通に怖い。

 

 獅子は反応できたけどあの森の連中が相手だと間に合わないことがある。

 

 胸と顔をガードしてがら空きの胴体に当てられて、その隙に仲間が倒す。

 即死を避けてるだけで死ねる攻撃が毎度飛んできてるから、今の戦力に加えて師匠達三人が増えれば間違いなく楽になる。風で感知するアストレアがわからん時点で意味わからんからな、あの森。

 

 俺の受けが間に合ってる理由は単純明快。

 師匠にボコられ過ぎて死への嗅覚がかなり発達してるだけだ。

 あ、なんか死ぬかもという感覚が漠然とわかるってだけだけど、実際外れないから重宝してるんだ。

 

「しかし、そうか。君たちもあそこに何度か行ったことが?」

「浅層です。誇れたものではありません」

「普通なら足を踏み入れただけで死んでてもおかしくはない。……都合が良いか。合同クエストという形で協力するかい?」

「……こちらとしては、不満はありませんね」

 

 一瞬マリアンヌが俺を見た。

 

 えっ何で見られたの。

 お前が雑魚いからだぞってこと?

 ──ああ、やはり闇のマリアンヌは実在したのか。隣にいる光のマリアンヌは幻想で、闇のマリアンヌこそが真実の姿だったんだ……!

 

『フィンさん……私のことを、そんな風に見ていたんですね……』

 

 アッ、ちちちちがちがこれは違くてマリアンヌのことを俺が疑ったことなんて一度もないから! 俺は君のことを信じてる! 一度も疑ったことはない! 

 

「それなら他の金等級冒険者とかにも声掛けたらどう? 使い物になるのはまだ居るわよ」

「いや、そこまでする必要はない。ソロが数人増えたところで邪魔になる」

「フィンの守る範囲が無駄に増えるだけか」

「そういうことだね」

「俺の両手はそんなに広くない。いつも精一杯だ」

「それでもやる。それがフィンだろ?」

「当然。ちゃんと師匠のことだって守ってやるよ」

「…………ふふふ。いつの間にか、大きくなったね」

 

 そりゃもう十九歳だぜ。

 いい加減大人になるべきだろ。

 エッ、その割には色々仲間任せにしてるなって……? そういうことは言わなくていいんだよ! 人には適材適所があるって師匠も言ってた。俺はアリアみたいに特別じゃないけど、その心の強さで支えになってるんだって褒められたことあるし!

 

『それしかないからでは?』

 

 言っていいことと悪いことがあると思う。

 闇のマリアンヌ、多分それは言っちゃいけないことだ。

 わかるだろ? 人には本当に触れて欲しくない傷があって、今君が口にしたのは俺が実は気にしてる凡人の部分なんだ。く、くくっ、皆に置いていかれるの、悲しいし寂しいけど……興奮する……!

 俺がまるで無能みたいだッ!! 

 無能だった……俺……うっ、ううっ……♡

 

「…………スゥーッ……ふぅ……」

「そういえば姉さん。アリーシャは?」

「え? ああ、あの子はまだ里よ。〈預言〉に従ってるからね」

「ふぅん……呼んだらどう? 〈勇者〉が王都に根を張った時点で変わってるでしょ」

「……悪くないかも。ヴァシリ、どう思う?」

「いいんじゃないか? 〈知識〉もこれからは役に立たないし、あの子なら足を引っ張ることはないだろう」

「じゃ、決まりね。連絡しとく」

 

 アストレアがシュピッと指を動かせば、風がふわりと動いた。

 

「ああ、うん。……ほんっと無法ね」

「────大事な人を守れない以上、こんなものを誇る気はないわ」

 

 何かを噛み潰したような表情で彼女は言う。

 

 アストレアが守れない相手、ねぇ…………

 

 …………。

 

 ま、まさかとは思うんだが……昔の男とかじゃないよな?

 

 いや!

 いや、待てよ俺。

 別にアストレアに昔の男がいても、それは過去のことじゃないか。なにを気にする必要があるんだい? そもそも彼女は俺の仲間であってそれ以上でもそれ以下でもないじゃないか。

 で、でもでもアストレアは長命種。

 既に二百歳近いおばあちゃんだ。

 エルフ的には若造でも人間換算でおばあちゃんなのだ。

 百年くらい前にカッコいい騎士とかと付き合ってる可能性だって否めない。

 

 くっ……いや、いいんだ、俺が気にするような事じゃあない。

 

 ────待て。

 

 もしも相手も長命種だったら……?

 

 今もなお存命で、里に置いて来たとかそういうパターンだったら?

 

 ハッ……!

 お、叔父。

 そうだ、叔父に求婚されてるんだった。

 となると、里に男がいる可能性は、ゼロじゃない……!?

 同じように言い寄っているエルフがいる可能性だってあるぞ。

 エルフだって政治で争うって言ってた!

 ありえる!

 叔父と見知らぬ幼馴染エルフが激闘を繰り広げている可能性は、あるッ!!

 

「…………アストレアが守りたいのはフィンくんよね?」

「はっ!!? な、ばっなな! ……ま、まあ、守りたいわよ。そりゃあ、仲間だもの」

 

 ……なーんだ!

 最初からそう言ってくれよ、まったく。

 不用意に男がいるようなこと言われて俺が妄想しないわけないだろ。頭の中で裏切られたことは無数にある。最早数え切れないほど身近な女性が知らない男と関係を持つ姿を見て来た筋金入りの童貞なんだぜ、こっちは。

 不安を感じたらすぐ妄想。

 もちろん表にそれは出さない。

 これぞ、俺の究極ドマゾライフなのだ。

 

「ほっ……」

「……フィンは案外溜め込むタイプだから、アリシアの察しの良さはちょうどいいのかな?」

「え!? あ~……そうねぇ、……そうかも……?」

 

 師匠の一言にアリシアさんが納得いったような、いってないような反応を見せた。

 

 最初は俺を社会的に殺しに来たのかと思ったが、アリシアさんはあんまり詳しく分からないっぽいからな。さっきも困惑はされたがそれ以上はなかったし、多分バレてないだろ。

 バレてたらもう言いふらされてるだろうしな。

 実はあの子ドマゾで悦んでるのよ。

 えっきも……死ねばいいのに。

 汚らわしい……失せよ。

 きもちわるいです、フィンさん。

 三者三様の罵倒、そしてアリアと師匠からの絶縁状……二つのパーティーが合同でクエストに向かう中、俺は変態の名が広まりどこにも居場所がなく一人ギルドの使いっ走りと殿下の奴隷をする日々。

 これはこれで悪くないな……

 

「…………溜め込んでるから、みんな、もう少し加減してあげたらいいんじゃないかしら」

「……休息日を増やすか?」

「……それも含めて、ヴァシリさんとは詳しく詰めます」

「構わないよ。フィンには無理をして欲しくないからね」

 

 た、た、た、溜め込んでる!?

 え、えっちすぎるだろアリシアさん……!

 でもアリシアさんは俺のことを振ってるからそういう対象じゃないんだ。

 俺の辛さを知っていても解消してやる義理はない……ふふっ、素敵だ……!

 

 無理なんてとんでもない!

 毎日最高の日々を送ってるぜ師匠。

 これから〈深淵の森〉に行くときは師匠とアリアにアリシアさんまで増えるんだ。合法的に修行と称してボコボコにしてもらえるし、戦闘中無理なく瀕死になれる。瀕死になっても師匠とアリアがいれば蘇生に近い治癒だって出来るかも!

 

 くうぅ~~、週末が待ち遠しいぜ!

 

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