ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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43 【聖撃の聖女】マリアンヌ・ハイレンディーヌ②

 ──付けられてるなぁ。

 

 神殿からの帰路で買い物でもしようと思って商店を彷徨い歩いていたのだが、監視されてる気がする。

 

 でも敵意とかじゃなく……なんだろうな。

 害するタイミングはわざと作って誘ったりもしてたんだが乗ってこないし、ただの監視か? アストレアやアリシアさんの風は感知出来ないから関係ない。恨み……貴族関係? でもあの一件は処理したっぽいから俺を狙いに来るとは思えない。

 

 殿下の暗殺に加担してた一族は処刑、家に関わっていた者は皆奴隷落ちしたと聞く。

 

 残酷だけど、しょうがない。

 王族に手を出そうとして殺されなかっただけマシだ。

 俺も殿下を相手にしている妄想が表にでたら奴隷か死刑の二択だ。いや本当にやってること不敬だからな。絶対に表に出ないように気をつけてるのには、そういう理由がある。

 

 それに、常識的に考えて知り合いの女性を相手に妄想するのは気持ち悪い。

 

 知られたら終わりなのは間違いない。

 あくまでドマゾは趣味であり、このためだけに人生を棒に振りたいとは思わないのだ。

 

『殿下に悟られた時、本心から気持ち悪いと言われたいと思っていますね?』

 

 まあそうなったらね?

 退くに退けない状態になった時次第だけど、もう終わりだって言うなら最大限気持ち良くなれる方法を選ぶとは思う。ヤケクソとも言う。殿下ァ! 罵られて気持ち良くなって痙攣してる俺のこと見てて! アァーッ! 昂ってくる! すみません殿下、不敬砲発射! その日、空に白い虹がかかった……金等級冒険者の勇姿が王都の民に刻まれたのだ……

 

『きも』

 

「あれ、フィンさん。奇遇ですね」

 

 闇のマリアンヌっ!

 つ、ついに現実に姿を……

 

 …………。

 

 いやこれ現実のマリアンヌだな。

 いつもの神官服ではない私服だったから一瞬気が付くのに遅れた。 

 

「そうだな。そっちこそ買い物か?」

「はい。今日はお休みになりましたし、夕食の買い物をしなければなりませんので」

「そうか。俺も一緒に行ってもいいか?」

「よろしいのですか?」

「することもないしな。邪魔だったら帰るが……」

「とんでもない! 是非!」

 

 うーん、やっぱりマリアンヌって聖女だわ。

 

 こんなにかわいくて笑顔の輝いている女の子に闇があるわけないんだよね。

 

 やっぱり、闇のマリアンヌは俺の妄想だ。

 俺が生み出してしまった脳内闇人格、これがどれだけ罪深いものなのか……

 これはもう新たに人を作ってしまったと言っても過言ではないのではないだろうか? 女神様に匹敵するほどの妄想力! ドマゾで童貞という重すぎる罪が生み出してしまった悲劇……! 

 

 せめて童貞を捨てていればこんな風にはならなかったかもしれない。

 

 でも俺は童貞なんだ。

 童貞のままドマゾ部分だけ満たそうとしてしまったんだ。

 

 歯車一つ違えば、童貞を捨てられたのだろうか。

 仲間に嫌悪感を抱かれ捨てられるか、童貞を捨てて男達と連むか。

 

 ──……答えは出ない。

 

「今日は、いい天気ですね」

「こういう日はのんびり横になるのがいいんだ。暖かい室内で日を浴びる。それだけで幸せになれる」

「ふふ……帰ったら、寝っ転がっちゃいますか?」

「悪くない」

 

 うふふ〜ん一緒に転がる〜。

 

 悩むまでもねーよ!

 むさ苦しい男どもと娼館に通う生活なんてクソだぜ!

 

 こっちにはこんなに可愛い聖女様がいて、俺のことを肯定してくれるんだ。これはもう童貞を捨てることよりも貴重だろ。

 

 童貞?

 

 フン、どうでもいい……俺には脳内で罵ってくれる闇人格と現実で社会生活を共に営んでくれる仲間がいる。

 

 性行為をしたか否かなんて測り方じゃあ俺は測りきれねえな。

 

『ドマゾきも童貞さん、負け惜しみですか?』

 

 ううううっ!!

 うー! ううー!! あう!!

 

「それよりフィンさん。その……」

「どうした?」

「いえ、あー……えっと……」

 

 珍しくもじもじとはっきりしない様子で口をまごまごさせてから、マリアンヌはゆっくり深呼吸をして、言った。

 

「その……あ、改めてアリアンロッドさんとの、関係をお伺いしたくて……」

「……ただの幼馴染だぞ?」

「で、ですがっ、それ以上に親しく見えました! ど、どど、どうなんですか!?」

「えぇ……それ以上でもそれ以下でもないが……」

 

 あいつが俺のことをどうでもいいと思ってなかったのが驚きだよ。

 

 なんかデートとか言ってくるし。

 妙に男慣れしてるし、好きとか普通に言ってくるし。

 考えれば考えるほどあの美少女ルックスを生かして男遊びをしてきたとしか思えない……! 童貞は好きとか言われたらすぐに好きになっちゃうことを理解してる! あれは間違いない! 純朴だったアリアは魔性の女になってしまったのだ! 

 ううっ、幼い頃はあんなに純粋だった幼馴染が……!

 男慣れして遊びまくってるなんて……! 俺にはそんなこと全くしてこなかったのに……! うううっ、ね、寝取られだぁ!! 俺が先に出会ってたのに!!

 

 あれでそのままベッドインしようと誘われていたら流石の俺も危なかった……。

 

 当然、【払暁】を優先するが、所詮は童貞である。

 童貞捨てて一緒に暮らそ、養ってあげるとか誘われたら一瞬で堕ちる自信がある。チョロいぜ、俺は。逆に巨乳美少女幼馴染にそんなこと言われて耐えれる奴いる?

 

 あそこで耐えられたことこそが、俺を童貞たらしめて、俺を盾役たらしめているのだ。

 

 ……それは良いことじゃないのでは?

 

『いいことですよ、フィンさん』

 

 そっか……

 マリアンヌが言うならそうなんだろう。

 俺は童貞だから盾役として今もこうして生きてるんだな。

 

「本当ですか? 神に誓って?」

「あ、ああ。神に誓う」

 

 ねぇなんかマリアンヌの目が怖いんだけど!

 

 バキバキなんだけど!

 こないだの師匠みたいになってる! 助けて闇のマリアンヌ! 現実のマリアンヌが闇になってる!!

 

『いい薬ですね』

 

 これは……どっちだ!?

 闇なのか!? 光なのか!?

 本物マリアンヌは闇なのか!? うそだ! そんなわけがないっ! マリアンヌは神的にいい人なんだ!

 

「…………ほっ。なら、よかったです」

 

 …………。

 

 あのさあ、もしかしてマリアンヌって俺のこと好き?

 

 だってそうじゃない? 

 これもう流石に俺のこと好きでしょ。そうじゃなきゃ幼馴染が出てきたからってこんなこと聞かないじゃん。そんくらい俺にだってわかる。ドマゾの部分を除けば普通だと自負してるからな。

 

「俺が取られると思ったか?」

「……はい。フィンさんがいなくなるなんて、考えられません」

 

 おいおいおいおいこれはもう告白だろ!

 闇のマリアンヌ! 俺にゴーサインを出せ!

 このまま聖女様と婚姻して童貞も捨てて夜な夜なSMプレイしてもらうんだっ!

 

『もう、フィンさんったら変態さんですね……♡』昼は聖女夜は性女、マリアンヌの手に握られた杖は鋭く俺の直腸を貫いた。臓器が浮き上がるような違和感と痛みに苦しみ喘ぐ俺を見て、うっとりとした顔で彼女は言う。『あんなに頼れるのに、お可愛い♡』。やがてエキサイトした二人の営みは共に暮らすカルラはアストレアにも知られ、夜となれば剣豪と聖女とハイエルフの姫にひたすら嬲られる男の喘ぎ声が王都一等地に響くのだった……

 

「あ、え、えっとその、これはあれです。パーティーとして、あなたが居なくなるのは、ね?」

 

 …………。

 俺はゴミです。

 勘違いクソ童貞でありドマゾのクズです。

 

 そうだよな、わかってたんだ。

 そんなことはわかった上で俺は希望を抱いていた。

 

 できれば、【払暁】のみんなには好きでいてほしい……できれば俺以外の男とくっつかないでほしい……えっちなことしてほしい……鞭で叩いてほしい……。

 

 そんな欲望があるから醜い妄想をしてしまうんだ。

 

 マリアンヌが俺のことを男として好き?

 

 ふっ、冗談はよせ。

 

 彼女が心配しているのは【払暁】だ。

 無論、俺のことも相応に気遣ってくれているだろう。

 だが男として好いているわけじゃない。

 男女の感情は性欲以外にもあるのだ。

 俺のようなドマゾきも童貞とは違う。

 マゾかサドか、それしか考えられない醜い俺とは何もかもが違うんだ。

 

「わかってるさ。俺の居場所は【払暁】だ。いなくなることはない」

「……フィンさん……」

 

 俺みたいな男に席を用意してくれる。

 その事実だけで俺は嬉しい。

 仮に蔑まれていても構わない。

 

 ここが、俺の居場所だから。

 ここがなくなったら俺死んじゃうから。ラビットは寂しいと死んじゃうんだよ。俺のこともペットだと思って可愛がってね。首輪ですか? はい! つけます! 餌ですか? はい! 食べます! 手渡しサイコー! うまさ倍増!

 

『ちっ……日和ましたね』

 

 え?

 ラビットになることが?

 

「くっ……ど、どうして私は言わなかったの……!?」

「……? 何か言いたいことがあったのか?」

「なっななんでもありません! 今日はいい敵ですね!?」

「!?」

「あっちがっ……い、いい天気ですね!」

「そ、そうだな。いい天気だな……」

「…………」

「…………」

 

 えっ、マリアンヌなんか疲れてる?

 

 師匠が休めというのも納得かもしれない。

 脈絡ないし、さっきまでしてた会話忘れてるっぽいし。

 

『へたれ、意気地なし、チキン野郎』

 

 いきなりデザート!!?

 

「い、いや……抜け駆けは良くない。うん。そうですね。私は協定を守ったんです」

 

 遠い目をしてぶつぶつ呟くマリアンヌ。

 

 正直ちょっと怖い。

 闇のマリアンヌにはいきなりへたれとか言われるし……もっと言って! へたれで意気地なしのゴミって罵って! アリシアさーん! マリアンヌが何を思っているかさっぱりわからないので教えてくださーい!!

 

『やめてあげてください』

 

 あ、はい。

 わかりました。

 闇のマリアンヌがそう言うならやめときます。

 

 しかし、ここまでだらだら会話してても何もしてこないのか。

 

 一体何が目的なんだろうな、この気配は。

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

 セラフィーヌ様が言えないと語った意味が、ようやく理解できた。

 

【星天】との関わりがある金等級冒険者……

 まさかと思っていましたが、事実だったとは。

 

 金等級冒険者パーティー【払暁】。 

【聖撃の聖女】マリアンヌ・ハイレンディーヌ様も所属するそこには、盾役の男性がいると話には聞いていました。まさか、あの男性がそうだったなんて…… 

 

 会話から察するに、マリアンヌ様との間柄も非常に親しい様子。

 

 聖女様二人と……そういう関係だと?

 それに加え、子を作ったと?

 それを認めていない?

 聖女様と淫らな行為に及んでおきながら?

 

(穢らわしい……)

 

 手に力が入る。

 憎しみが心で燃える。

 節操のない男は、嫌いだ。

 女のことを道具としか見ていないような男は、大嫌い。存在するべきではない。魔と同じく、理性の効かない獣なのだから。

 

「っ……」

 

 ブルリと身体が震える。

 

 嫌な記憶を思い出した。

 かつて聖騎士として戦地に赴いた時、罠に嵌められ、地獄を見た。

 

 全員がそうじゃないとわかっている。

 それでも、あの男は、複数の女性と関係を持っているあの男は、悪だ。決して許されざる、悪。

 

(なぜ、あのような男を……)

 

 マリアンヌ様。

 セラフィーヌ様。

 あなた方はそれでよいのですか?

 私は…………許せません。

 聖女のお二方が、あんな男に弄ばれていることが……

 

 ────それが私の選んだ道ですから。

 

 セラフィーヌ様の言葉が蘇る。

 

 殺気立つ心を抑える。

 勝手な真似はするわけにはいかない。

 今ここであの男を狙ったところで意味はない。

 やるならせめて、事故に見せかけなければ。

 金等級冒険者を事故で?

 難題だ。

 それに聖女様のお心もある。

 勝手をするわけには……

 

(…………どうすれば、いいのですか……)

 

 セラフィーヌ様と、マリアンヌ様。

 もしもあの男を巡って対立されれば、王都で聖女による争いが起きる。それは、それだけは避けなければ。民を救う聖女が男を巡って戦争など、笑えない。

 破戒聖女とは違う。

 彼女らは正真正銘、民の救いになってる方々。

 

 一介の聖騎士がかき乱していい人ではない。

 

(どう、すれば……)

 

 ギュウウと胸が締め付けられるような感覚。

 喉が渇き、汗が噴き出る。

 

 知らなければよかった。

 だが、知ってしまった。

 

 身を投じてしまった。

 聖女同士の、男の奪い合いの渦に。

 

(最悪は、私の身体を使ってでも……)

 

 大乱を招くわけにはいかない。

 じっとりと額を伝う汗が、ひどく不愉快だった。

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