ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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46 ドマゾは常に興奮しているわけではない②

 マゾッマゾッマゾッ、ドマゾッゾッゾッ。

 

 今日も今日とて晴天、よきマゾ充日和。

 だというのに【払暁】がクエストに赴くことはない。なぜならば、殿下が師匠と会談中だからだ。

 

 政治的な動きはよくわからんからみんなに丸投げ。

 マリアンヌは殿下の付き添いで付いてったので不在。

 教団側として、【聖女】として必要だから仕方ないと言っていた。

 アストレアはアリシアさんと一緒に妹さんを迎えに行くらしくちょっと遠出、カルラはアリアと手合わせすると冒険者ギルドに併設されてる体育館へ。

 

『体育館とは?』

 

 さあ、俺も知らない。

 読んで字の如く体を育てる場所だからじゃね?

 体を育てるってちょっとえっちすぎるな……カルラは特に、惜しげもなく裸体を披露するから本当に……生々しい。マリアンヌとかと違ってガッツリ見たことあるから、頭の中で再現したら罪深すぎて今の俺では手が出せない領域にある。

 

 くっ……!

 俺に理性がありすぎるせいであの素晴らしい肉体を堪能できないなんて! あーあ! 俺って理性に満ちた紳士だからなー! いやー困っちゃうなー!

 

『斬り落とすぞ戯け』

 

 ヒイィっ!!

 な、なんて恐ろしいことを……!

 わ、わかりました。カルラで不敬なことは考えません。でも頭の中に残っている身体を思い浮かべてしまうのは不可抗力ですよね?

 

 バカ野郎がッ!!

 

 カルラは……大切なパーティーメンバーだぞ!?

 

 五年間ずっと一緒にやってきたんだ。

 美人で身体もすごくえっちでなんか動作もえっちで俺に対する仕草もえっちだけど、俺とあいつは決して男女の性欲をぶつけ合う中じゃない。裸で風呂に入っても何も起きてない時点で何も無いのは確定だ。彼女から見て俺は魅力的ではない。きっと故郷に同門で剣聖の幼馴染とかが居て、俺のことなんてなんとも思ってないんだ。

 

 ただの仲間でいいやつとしか思われてないんだ。

 

 ううっ、悲しい……

 涙が出る……!

 ううっ……!!

 うううっ……♡

 くふっ、ぐふふっ……悲しくて切なくて気持ちいい……♡

 

「すみませんお客様、少しよろしいでしょうか」

 

 むっ。

 闇人格を引っ込めて現実に戻る。

 現在、家にいても暇なので街へぶらりと足を向けてお気に入りのカフェでランチを注文したところだった。

 

 王都暮らしを始めて五年。

 最初の二年間は馬小屋で大した飯も食えていなかったが、金等級冒険者パーティーとなり屋敷まで構えたここ一年で俺の生活環境は急激に改善された。

 

 鎧や武器代は三人より掛かるし手を抜けないから大金持ちとは言えないが、その分冒険者ギルドの犬として各地津々浦々と駆り出され小遣い稼ぎをしているので日常を楽しむ程度の資金力は持っているわけだな。

 

 このカフェはマリアンヌに紹介された場所で、店の雰囲気もよく店員さんは美人揃いで菓子類も結構美味しいので重宝している。

 

「どうしました?」

「現在ちょっと混み合っておりまして……相席という形でも問題ないでしょうか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます! 今日は少しお安くしときますね!」

 

 看板娘らしき元気っ娘がはにかむ。

 

 かわい〜。

 もうすっかり俺もここの常連だからな。

 店員と多少話すくらいのことはするし、お仕事何されてるんですかと言われて「アッ冒険者ですね……」と答ええーすごーいかっこい〜憧れちゃうな〜筋肉すご〜いなんて褒められ鼻と相棒を伸ばすことを何度かやっている。

 

 お偉いさんには注目されてない俺だがね、市井に足を運べば相応にモテているんだよ。

 

 なのに、なのにっ!

 いまだに童貞なのはなぜなんだ?

 いい加減女性とそういう関係になったって悪くないだろう。十九歳とかもう行き遅れだよ? 地元だったら十四歳くらいでお見合いしてるからね? 

 

 清く正しいお付き合い、自分いけます。

 だからヤラせてください。

 娼館にも行きません。

 お願いします、一人だけを愛するので、俺を愛してくれる人を教えてください。

 

『自分の胸に聞いてみたらどうですか?』

 

 自分で探せってこと?

 それができたら苦労はしてねぇんだよ!

 闇のマリアンヌが現実にいれば結婚を申し込むのも吝かではなかったが、闇のマリアンヌは所詮俺の頭に住まう闇人格。自分と結婚することはできないんだ、残念ながら……。

 

 現実の寂しさに気持ちよくなったところで、先ほどの店員が相席する客を案内してくる。

 

「こちらでお願いします」

「どうも。失礼します」

 

 そう言って席に座ったのは、見知らぬ美人なお姉さんだった。

 

 互いに会釈。

 こういうとき、何を話せばいいかわからないんだけど。俺童貞だからさぁ。女性の喜ぶ会話って何? 教えてマリアンヌ!

 

『喋らないのが一番嬉しいですよ』

 

 言い過ぎだろ……!

 俺なりに気遣って和ませようとしてるのに!

 全否定かよ? そんなに女性は偉いのか! 俺はそんなに気持ち悪いのか! ……気持ち悪いのは否定できねえけど、この心意気は否定させねぇ!!

 

『私には気遣ってくれないのですね』

 

 ごめんなさい。

 多分、この世で一番俺が甘えてる。

 闇のマリアンヌには俺のマゾ欲求をいつも肩代わりしてもらってる。三年くらい前から頭の中で突然出てくるようになったけど、気がつけばそこそこの付き合いなんだよね。

 

 考えてみれば、俺のドマゾ趣味を唯一受け入れてくれる女性(自分の生み出した闇人格)か。

 闇のマリアンヌ、俺と結婚しない?

 

『俺と!?』

 

 ぐええええええ誰が俺と結婚したがんだよボケが!

 すっこんでろ! 確かに俺だけどお呼びじゃねーんだよ! 闇のマリアンヌをだせ! オラッ出るっ! 闇のマリアンヌ出てきちゃうっ!!

 

「その……少し、よろしいですか」

 

 あ、はい。

 美人さんが話しかけてきたので脳みそリセット。

 ドマゾはお休みだ。

 

「どうされました?」

「実は、ここに来るのは初めてで……どれを注文するのが良いかわからず。よければ、教えていただけませんか?」

「構いませんよ。お飲み物の好みはありますか?」

「ティーであれば大抵は。ミルク等は入ってないものを」

「でしたらハーブティーと……お食事はどうされます?」

「これも同じく、出来ればサラダのようなものがあれば」

「ホットサンドやサンドイッチがありますが……」

「あ……ならこちらのサンドイッチに。すみません、助かります」

「いえ、お気になさらず」

 

 ふーん。

 ミルクや肉は避けたいって辺り神官か修道女かね。

 マリアンヌもそうだったけど、冒険者は身体が資本だと言い聞かせてとにかく食わせるように徹底したからな。身長はあんまり伸びなかったが、痩せ過ぎにはならなかった。

 

 にしては結構、いい体付きしてるよなぁ。

 

 修道女でこれだけ立派な身体で外に出てこれる……不自然だ。

 なら神官で、そこそこの地位にある方だと思った方がいい。

 俺の顔を見て驚きもしなかったあたり、俺のことを知ってるわけでもなさそうだ。マリアンヌって教団内での話あんまりしないからわからんけど敵対勢力とか居るのか? 

 盤石とは聞いてるが……

 

 …………この人、本当に神官か?

 

 服で隠れてるけど結構しっかりしてるぞ。

 

 なんか違う気がしてきた。

 どっちかっていうと俺と同じで身体を資本にしてる人な気がする。

 

「よく来られるんですか?」

「月に何度か。ここはランチセットが美味しいんですよ」

「へえ……」

「よろしければ少し食べますか? もちろん取り皿に小分けいたしますし」

「え、いえいえ。そこまでして頂くわけには……」

「これも縁です。常連の顔見知りが増えるのは、嬉しいことですから」

「……そこまで仰られるのでしたら」

 

 それから少しして、運ばれてきた際に取り皿を要求。

 

「日替わりでメニューが変わりましてね。今日は魚のプレートのようです。食べられないものはありますか?」

「いえ、大丈夫です。すみません、わざわざ……ありがたく頂戴します」

 

 神官じゃねーな。

 少なくとも本気で信仰してるタイプじゃない。

 教えを本気で信じてる奴は、本当に野菜とかしか食わない。マリアンヌの食事改善は本当に大変だったからな……

 

 てことは、全く無関係な貴族子女とかか?

 でも一人で出歩いたりすんのかなぁ。

 

 あー、わかんね。

 

 でもまあ大丈夫だろ。

 本来の得物持ってないっぽいし、奇襲されても問題ない。

 

 ここ最近政治的な動きが多いからな。

 多少警戒しておくに越したことはないが、このくらいなら問題なしだ。

 

 そのまま互いに無言で食事を進め、先に食べ終わった俺が席を立つ。

 

「すみません、お先に」

「あ、はい。ありがとうございました」

「また機会があればご一緒しましょう」

 

 社交辞令を伝え会計。

 

 ま、こんなところに刺客送り込んでくる奴はいないよね。

 

 王都だぜ王都。

 王族のお膝元で金等級冒険者を襲撃とかモンスターですらやらなかったからな。

 

 しかし特徴的な美人さんだったな。

 なんかちょっと陰がある感じだったけどそれに見合わない身体だった。結構しっかり実戦やるタイプだと思う。

 

 だから余計警戒した。

 結果的には違ったけどな。

 

 …………でもなぁ。

 

 なんとなくどっかで見た気があるような、ないような……。

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

 じわりと額に滲んだ汗を拭う。

 

 あれが、金等級冒険者。

 セラフィーヌ様やマリアンヌ様と話していた時とはまるで違う。本当の姿を知っているから騙されないけれど、知りもしない相手にはああやって優しく丁寧に対応しているのだ。そうすれば警戒心を解くとわかっているから。

 

 そうして警戒を解き、十分に信頼を築いたところで……手にかける。

 己に非がないように名分を作り、相手が気を遣う様に仕向ける。

 

 食虫植物の如き強かさ。

 

 それでいて、自分自身の強さも持ち合わせている。

 正面から対峙してわかった。

 私では勝ち目がない。

 あれは、真の怪物だ。

 人の身体に暴力を詰め込んだような、圧倒的なほどの。

 

「…………どうすればいいんだ」

 

 私の任務はセラフィーヌ様の護衛。

 あのお方に降りかかる脅威を排除すること。

 目下の脅威は間違いなくあの男、フィン・デビュラだ。

 

 だけどどうやったって排除しようもない。

 枢機卿に伝えたところで意味はないのが厳しい。マリアンヌ様にセラフィーヌ様、二人の聖女を基盤に政治中枢に入り込んでいるあのお方にとって、二人の関係が酷く悪化するような事態を招くのは好ましくない筈。

 

 フィン・デビュラがただの冒険者ならば枢機卿が力ずくで排除できた。

 

 でもあの男はただの冒険者じゃない。

 金等級冒険者で、聖女の寵愛を受けていて、剣聖の仲間で、白金等級冒険者とも関係を持っている。とても、聖騎士如きがどうにかできる相手ではない。

 

「どうすれば……あのお方を守れる……?」

 

 セラフィーヌ様が弄ばれている現状をどう変えればいい。

 

 実力行使は不可能。 

 政治的にも排除はできない。

 大事にもできず、協力を仰ぐことも難しい。

 

 問題は、セラフィーヌ様との関係性。

 それさえ解決できれば……

 

 …………。

 

「…………やるしかないのか」

 

 ギュッと拳を胸元で握る。

 脳裏に回帰する、悍ましい記憶。

 尊厳を踏みにじられ屈辱に塗れた日々。

 自分の全てを奪われ犯された、過去の忌まわしき事実。

 

 嫌だ。

 嫌だ、嫌だいやだ、いや────それでも、そうすることで、あのお方を救えるのなら。王都を火の海に沈めることを避けられるのなら。聖女様同士の争いを止められるのなら……

 

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