ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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47 ハイエルフ三姉妹+グリセルダ

「久しぶりね、アリーシャ」

「え〜? 全然久しぶりじゃないよ。つい先日振りじゃんね」

「……二十年近く会ってないんだけど?」

「里にいると時間感覚おかしくなるのよね……」

 

 アリシア、アストレアの両名はエルフの里から招いた末妹の出迎えに、国境まで出向いていた。

 

 アリーシャ・ラ・アエラス。

 末の姫ということもあり里の中では大層可愛がられており、〈預言〉がなければ弓を持たせることすら許されなかっただろう。二人と比べ小柄で身体の起伏も控えめだが、顔はハイエルフ相応の整い方をしている。

 

「アストレア姉さんも元気そー。死ななくて良かったね!」

「ええ、そうね。あんたこそ里から出られて良かったじゃない」

「うん! おかげで婚約もなくなって自由になれたよ〜」

 

 ぶい、と両手でピースを作るアリーシャ。

 

 実際、一人の姉は死が確定していて、もう一人の姉は死ぬかもしれない旅路に向かっていった。

 

 それをただ一人里で待っていたのは、あまりいいものではなかったのだろう。

 二人の姉と顔を合わせにへらと表情を崩したあたり、アリーシャの信頼が窺えた。

 

「で、あんたは? 何の用?」

 

 妹との再会もまずまずに、アストレアはアリーシャの後ろに控えていたエルフに声をかける。

 

 声色は優しくない。

 アリーシャに向けられていたものとは違い冷たく棘のある一言を向けられエルフは一瞬たじろぐも、すぐに冷静を取り戻し、言った。

 

「は。この度、アリーシャ様の側仕えに任じられ同行しております。アストレア様には以前ご迷惑をおかけしたこと、深くお詫びします」

「ふーん。わかってるだろうけど、フィンに何かしたら……」

「何も致しません。感謝こそお伝えしますが、邪魔をすることなどあり得ません」

「そ、ならいいわ。よく来たわね」

 

 ショートヘアの麗人、グリセルダ。

 アリーシャの側仕えとしてやってきた彼女はアストレアに頭を下げ、追い返される可能性が高いと思っていたものの無事に残留を許可され内心安堵していた。

 

(──はぁ、良かった。せっかく里内で根回しして同行出来たのに、門前払いなんて許されないからね)

 

 実は彼女と同じようにアストレアを刺激し怒らせた者はエルフの里には多く、フィンに庇われ矮小なヒト族の男性に紳士的に対応されて恋慕の感情を抱いてしまう、なんてことはよくあることだ。

 そのため今回アリーシャが人間社会に出ていくことになったものの、世間知らずなお嬢様ではエルフ的にもヒト的にも迷惑をかける可能性が高いということで人間社会で生活した経験のあるエルフから側仕えを選び同行させることとなった。

 

 無論、倍率は高かった。

 たった一人の枠に行きたいと願ったのは百人以上。

 アストレアの側近を勤めていたことや冒険者ギルドで金等級に昇格間近の銀等級としての実績を推すことでハイエルフ達にも認められ無事にグリセルダが選ばれたのだった。

 

「ん? なんかあったの?」

「私のところに叔父に唆されたやつが来るの。こいつも一回やらかしたけど、フィンがやめろっていうから仕方なく許したって感じね」

「へ、へぇ、フィンくんが……」

 

 アリシアは引き攣った顔でグリセルダを見る。

 

 なぜそんな顔で見られるのかは不明だが、何か疑われていることは明白。

 

 怪しいことなど何もないと証明するために、グリセルダは一言告げる。

 

「デビュラ様に二心などございません」

 

(アリーシャ様もこれからお二方と行動を共にする。そうすると、あの人とも一緒に行動することは明白……。側仕えの立場を利用して打ち合わせとかそういう名目で近付ける。謝罪のために顔を合わせて関係を深めること自体はアストレア様も禁じないだろう。命を救ってくれた恩人にどんなお礼をすれば報いたことになるのかは、個人によるよね。私は全身全霊を持ってお礼をする。そうさ、その中で偶然、誰にも知られないまま身体を重ねることだってあるだけ。私だって冒険者の端くれだもの。流儀には理解がある。下劣で下品だと思ってたけど、いざ自分がやるとなったら意外と悪くないものだね。ふふっ、会うのが楽しみだなぁ……)

 

「お〜〜……そっ……かァ。ほどほどにね?」

 

 ピクピクと口元を引き攣らせたアリシアが笑顔で言った。

 

「それよりアストレア姉さん、パーティーのお兄さんとどんな感じなの?」

「……なによいきなり」

「里じゃ話題になってるよ? アストレア姉さんが〈預言〉を覆した上に、ヒトの英雄のハーレムに入ってるって」

「ハーレムじゃないわよ。そもそもあいつ、誰にも手出してないし」

「え? 全員脈なし?」

「ぶっ飛ばされたいの?」

「あ〜ん、アストレア姉さん怖〜い」

 

(え? 誰にも手出ししてない? 冒険者なのに!?)

 

 ひっそりと動揺するグリセルダに気が付いてない振りをしながら、アリシアが口を挟む。

 

「まあ、フィンくんは……いい子だし、すごい子なんだけどね。ヴァシリが育ててるから荒くれ者って感じはしないの」

「ヴァシリって、あのおばさん?」

「おば……い、命知らずねぇ、あんた」

「大長老がおじいちゃんなんだからおばあちゃんどころじゃないよね?」

「それを言ったら私たち全員ヒトから見たらババアよ」

「!?」

 

(なっ!? 見た目が若ければなんでもいいんじゃ……!?)

 

 グリセルダは過去の経験で「冒険者はエルフならなんでもいい」と寄ってくると思っていたために追加で動揺した。

 

「ふふっ、教えてあげるわ、アリーシャ。私はね……パーティーでばあばと呼ばれることがあるのよ」

「ばっ……ばあば……?」

「ええ、ばあば。あんたもそう呼ばれるの」

「うええっ、そ、それはちょっと……嫌かな」

「諦めなさい。ヒトから見たら百五十歳はババアよ」

「あ、アリシア姉さん! アストレア姉さんがいじめる! うそだよね? 私ばあばじゃないよね?」

 

 アリシアは無言で首を横に振った。

 実年齢ネタで弄られるのはヴァシリの筈だが、三千年は流石に長すぎて老人呼ばわりするのも烏滸がましい。よって、ヒトから見て程よく長生きで若いアリシアがネタにされることはよくあることだった。

 主にアリアによって。

 

「残念だけど……ヒトから見た私達は、ババアね」

「顔見知りの受付嬢が……結婚して、いつの間にか子持ちになって、老け始めてるの。これが現実よ……」

「あ、う、嘘っ……私まだ、百五十歳なのに……」

 

 アリーシャは目をぐるぐるしながらぶつぶつ呟く。

 

「じゃ、じゃあじゃあ! 例のお兄さんは? エルフは脈なし? 見た目だけじゃだめ?」

「…………フッ。そんなの、私が知りたいわ……」

 

 アストレアは昏い目で言った。

 

 アリーシャはアリシアに視線を送る。

 

 アリシアは肩を竦めるだけだった。

 

 それを見て、アリーシャはなんとなくどういう雰囲気なのかを察する。

 

(えーっと、多分この感じは……脈がないっていうより、誰もアタックしてないのかな? ハーレムにすらなってないってことは互いに牽制し合ってる? うわ、すごい。物語の険悪なハーレムみたい)

 

 アリーシャは里に残る役目を言い渡されていたものの、上の姉たちと同じく、多くの話を聞かされて育って来たので造詣が深い。

 

 それに加えて、二人と違い里に残ることを強制されている。

 本当は自分も出て行きたかったのだが、姉と同年代の男と婚約させられ、里で勇者を待たねばならなくなった。おそらく、外に出られることはないのだろう──そう諦めていたのだが……

 

(まあ、私の運命を変えてくれたお兄さんだし? ちょっとくらいサービスしてあげないとかわいそうだよね。里のアホ達と違って、いろんな運命を変えちゃった英雄さんだもん。そんなお兄さんが私の命令聞いて仕えてくれたら、気持ちいいんだろうなぁ……)

 

 ヴァシリの元にあるヨハンの手記に、アリーシャの情報が記されている。

 

 〈原作〉における彼女の立ち位置は、エルフの里の箱入り娘。

 上二人の姉と違い〈預言〉と里の意向の板挟みにあり、抑圧されて生きてきたことで性格が攻撃的に変化。里のエルフを小馬鹿にし、まるで奴隷のように扱うことで苦言を呈されつつも、そうなるように仕向けたのは自分たちエルフであり大長老であるために逆らえず。

 

 CGに至るまで、小柄な容姿と他人を小馬鹿にしたような言動を取り続ける枠として人気を博していた。

 

 つまりは────メスガキである。

 

(んふふ! みんなの頼れる英雄さんが、私一人の言うことを聞いてヘコヘコ無様なことをしちゃうんだ。あ〜あ、見たいなぁ、かっこいい英雄のお兄さんが無様に喘ぐ姿……♡)

 

(…………あ、これ、帰れないわね。放っておいたら多分王都が消えてなくなるかも。なんでこの娘は興奮してるわけ? 怖いんだけど。それにグリセルダとやらもガッツリフィンくん狙いじゃない! んもおおおおおっ! なんでこうなるのよ! まともな奴はいないわけ!? ……う、胃が……)

 

(……姉さんは大丈夫だとして、アリーシャは要注意ね。フィンがこんな女に夢中になるとは思えないけど、私より愛想がいいのは間違いないわ。グリセルダはそもそも敵意向けてるんだし、フィンが靡くことはない。チッ……また敵が増えるのね……)

 

(流石に初めてを奪うと恨まれそうだ。一番でありたいなんてことは言わないし、ほどほどに付き合わせてもらうくらいにしておこうかな。アストレア様に睨まれたら死んでしまうしね)

 

 四人のエルフの周りでは風が完全に止まっていた。

 

 嵐になることはない。

 荒れることもない。

 ただ全員が、ほんの少しだけ揺らがせているのだ。 

 感情から漏れ出た少しの魔力が風を拮抗させ、奇跡的な無風を生み出していた。

 

「……楽しくなりそうね」

「そうね……楽しく、なりそうね……」

「んふふ、楽しみだなぁ。いいお店とかあったら教えてね!」

「それより先に住居を用意しませんと」

 

 昏い目をしたアストレア。

 死んだ目をしたアリシア。

 目を輝かせるアリーシャ。

 苦笑混じりのグリセルダ。

 

 王都に新たな火種が持ち込まれようとしていた。

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