ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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54 馴染みの受付嬢

 アリーシャ・ラ・アエラス恐るべし。

 まさか俺が墓場まで持っていくつもりの秘密を聞き出そうと誘導尋問してくるとは……やはりあの二人の妹、侮り難い。

 

 こんな形でのドマゾバレなんて誰も望んでいない。

 俺はそうなったらなったで楽しむが、周りは俺がドマゾだと言われたところでドン引きするだけだろう。

 

 ──待てよ?

 もしかしてアリーシャは俺がドマゾなことを見抜いているのか? 

 常識的に考えて百歳超えてるエルフが十九歳の若造をお兄さんなんて呼ぶだろうか。否、決して呼ばない。つまりアリーシャは俺がそう呼ばれて喜んでいると理解している……?

 

「お兄さん? どうしたの?」

 

 怪訝な顔をしてアリーシャが訊ねてくる。

 

「アリーシャのことを考えていた」

「っ……へ、へぇ。変態お兄さん、私のことが忘れられないんだぁ……♡」

 

 ウホホッこれこれこれこれ!

 変態お兄さんです!

 罵られて興奮しちゃうのぉっ!

 俺の乳首くらいまでしか身長のないエルフに変態お兄さん呼ばわりされるの気持ち良すぎるっ! 

 

「アリーシャ様……流石に無礼が過ぎます」

「え〜? でもお兄さんがいいって言ったんだよ? ね、お兄さん♡」

「これくらいなら別に気にしない。子供の悪戯みたいなものだ」

「フィン殿が気にせずとも他の者が気にします。抑えていただかないと」

「ちぇっ。じゃあ二人の秘密だね?」

「ほどほどにな」

 

 アリーシャが巨乳大人エルフだったらやばかったが、幸いなことに彼女は小柄だ。

 

 子供の悪戯とでも言っておけば言い訳ができる。

 これで合法的に罵ってくれる妄想とそこら辺の冒険者以外のかわいい女の子枠が出来たってワケ。俺の知能が冴え渡り過ぎている。師匠の薫陶を受けているのだからこれくらいは出来ねば顔向けできんからな……

 

『恥ずかしくて顔向けできませんね……』

 

 マゾッ!?

 

「お待たせしました。フィン・デビュラさん。六番窓口へお越しください」

 

 あ、呼ばれた。

 立ち上がって指定された窓口へ向かえば、そこに居たのは馴染みの受付嬢。

 

「お久しぶりです、フィンさん。ここ暫くいらっしゃってませんでしたが……」

「ああ、パーティーの都合でな。【星天】が王都滞在中なのは知ってるだろ?」

「噂程度でしたら。【勇者】さまと街中を歩いていたと話題になっていましたよ」

「幼馴染なんだ。同じ【天聖】の弟子で、これから合同でクエストに参加していく予定になっている」

 

 そう言うと、受付嬢はポカンと口を開けてから、ふぅ、と息を吐いた。

 

「……なるほど。そういう事情だったんですね」

「知らなかったのか? 【払暁】受け持ちなんだから、本部長あたりから説明されたのだと思っていたが」

「【星天】と【払暁】が交流を重ねていることは把握していましたが、詳細までは伺っておりません」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる。

 

 これはちょっと怒ってるな?

 実際、彼女を仲間外れにしてるのは悪いとは思う。

【払暁】となる前、俺達が集められた時からずっと担当してるんだ。今ではマリアンヌが聖女の立場も使い敏腕を振るっているが、それ以前は彼女と連携していた。

 

 カルラとアストレアはあんまり興味なかったからな。

 俺とマリアンヌ、そして彼女の三人で「どうしていけばいいのか」と言うものを相談していたのも懐かしい思い出だ。

 

「悪いな。マリアンヌには俺からも言っておく」

「……いえ。所詮はただの受付嬢です。金等級冒険者パーティーへの肩入れを止める時だったのでしょう」

「寂しいこと言うなよ。ずっと一緒にやってきたじゃないか」

「しかし……」

「それに恩がある。あの頃、貧乏で食うものにも困り身体を清めることすら出来てなかった俺を見兼ねて何度も家に上げてもらった。汚かった俺に対し手当もしてくれて、飯を食わせてくれて、身体も洗わせてくれた。常識のない俺に、仕事とは関係なく色々教えてくれた。忘れてないぞ」

「そっそれは……わ、若気の至りというか……」

「セリナが助けてくれなかったら、俺はどうなっていたか……恩人なんだ。簡単に手切れとは言わせない」

「うっ…………」

 

 うっ?

 呻くほど嫌?

 でもなぁ、実際あの頃俺が生き延びれたのって多分セリナが何度も世話してくれたからだし。治療することもできず高熱で魘されながら飯も満足に食えない時に助けてくれたのは他でもない彼女である。

 

 聖女マリアンヌといえども、当時の彼女は自由ではなかった。

 

 カルラとマリアンヌは俺のことを薄汚い仔犬だとでも思っていたので、本当に恩人と言っていい。あの頃の俺はただのガキだったからな。そんな奴をなんの見返りもなく助けてくれたんだ。雑に扱うつもりはない。

 

「……ねえお兄さん、もしかしてこういうこと平気でやってる?」

「平気……? 紳士的に対応しているつもりだが」

「あ、そう。質悪ぅ〜♡」

「……やれやれ。これは想定以上だね」

 

 どういう文句?

 そして二人のエルフの言葉で正気を取り戻したのか、セリナは溜め息を吐いてから言った。

 

「まったくもう、フィンくんは相変わらずよね。ところでその……私が家に連れ込んでたっていうのは誰かに言ったり……?」

「してないが……」

「ああ、そっか〜。うんうん。誰にも言わないでね? じゃないと私、死ぬから」

「死ぬ!?」

「殺されちゃうもん。お二人も、お願いしますね」

「は〜い♡」

「わかったよ」

 

 誰に殺されるんだよ、闇のマリアンヌか?

 

『絶対闇という響きだけで想起しましたね?』

 

 うっ鋭い……

 俺の身近でセリナを殺そうとするような人はいないしな。

 アストレアが一番可能性としてはあるが、あいつは横柄なエルフ以外にそんなことしたことないだろうし……やっぱり消去法的に闇のマリアンヌが犯人だ。

 

 くそっ闇のマリアンヌ……!

 どうして人殺しなんて……!

 

『殺しますよ、神の力で』

 

 ごめんなさい。

 

「それでな、セリナ。お願いしたいのは他でもない、この娘のことだ」

 

 そう言ってアリーシャを指差す。

 

「彼女はアリーシャ。アストレアの妹で、里から出てきたハイエルフの姫だ。今後は【星天】に加入する予定だが、冒険者としての積立が一切無い。実力は銀等級と金等級、どちらかと言った塩梅。彼女に冒険者としてのあれこれを教えて欲しいんだが……」

「んんっ、……なるほど、承知しました。アストレア様の妹様ですね」

「アリーシャでいいよ。ここは里じゃないもん」

 

 おお、いいね。

 さっきの今でもそういう風に切り替えれるのは非常に好感を持てる。

 ぶっちゃけ、もう少し渋るかなと思ったんだよ。

 でも現実を理解してすぐに受け入れたし、俺の言ったことも理解してる。やっぱり見捨てるような選択肢をしなくて正解だった。

 

 流石は師匠の慧眼だな。

 

「ではアリーシャさんと。フィンさんの推薦であればそのまま銀等級冒険者として登録可能ですが」

「……一通り学んだ後の方がいいかな。グリセルダはどう思う?」

「それでよろしいかと。アリーシャ様でしたら、それほど時間をかけずに習得されると思います」

「褒めても何も出ないよ〜」

「努力をしていたことは知っておりますから」

 

 うおっイケメンすぎる発言……

 男装してたのはこういうのが原因なのかもな。

 

 いや、逆か?

 男装するようになったからこういう発言をするようになったのか。

 どちらにせよ、グリセルダは公の場でも十分活躍できるな。俺みたいな学なしの肉盾とは違う。俺だけが出来ないんだ……

 はぁ、誰かに教えて欲しいよ。

 

「ふ〜ん。まあいいかな。セリナだっけ? よろしくね〜」

「はい、よろしくお願いします。……ところで、【星天】へ加入されるということですが、私が担当でよかったんですか?」

「…………確認しておく。もしかすると、師匠の方で決める可能性があるが、一応俺に全権が委任されている。……はずだ」

「はっきりしないなぁ……そんな優柔不断じゃ誰も選べないまま一人になっちゃうね♡」

 

 やめてよっ俺も自覚してるんだから!

 選ぶなんてとんでもない!

 全員俺のものにしてやるぜ!

 こんなことが言えるのなら、俺は今頃童貞を拗らせドマゾになどなっていないのだ。

 

 いいか小娘。

 俺はな、誇りある理性で制御されたドマゾ童貞なのだ。

 誰にでもすぐ興奮し妄想し恋慕を抱くような腰の軽い男ではない。硬派で一本柱の通った素敵な成人男性を目指している。師匠の名に恥じぬような男を、な……

 

『何もかもが一致していません……』

 

 マリアンヌ、そんなこともある。

 人間生きていれば理想と違う道を歩む事だってある。

 人はそれを妥協と呼ぶんだ。

 妥協し、現実と理想を折り合って生きていく。

 俺は凡人だから、そうしないと生きて行けなか

 

『やかましいです』

 

 言い訳すら許さないだと……!?

 これは俺を支配しようとしているのか!? 闇のマリアンヌ……! ついにその気になってくれたんだな! 今から俺は反旗を翻すぞ! 闇のマリアンヌに心が従いたがっているのだ! この機を逃してはならん!!

 

『要りません』

 

 受け入れられるより悲しくていいね。

 ゾクゾクしてる……♡

 

『…………』

 

 はい。

 すみませんマゾ。

 

「えー……えぇ……?」

 

 俺とアリーシャのやり取りを、セリナは困惑してみていた。

 

「……里ではこんな感じだったらしくてな。子供の我儘だと思ってくれ」

「きゃはっ♡ よろしくね〜」

「……あの。私も一緒に参加するので……」

「…………助かります」

 

 すごく渋い顔をして、セリナは頷いた。

 

 押し付けて悪いとは思うが、俺も一緒にやるつもりなのでそこまで重く受け止めないでほしいね。

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