────南方諸島のある孤島。
人口は僅か数十人。
中継地点として作られた湊の管理人だけが住む小さな孤島の奥地に、巨像が聳え立っていた。女性体であり、しかし股間には象徴的な男性器が備わった像の下に、三人の女性が座り話し込んでいる。
「ふー……ここの遺跡も終わり、と。装備も良い感じに集まって来たなぁ」
青い髪をした女性が手に持った紙に記入する。
そこには多種多様な装備・道具の名前と位置が記されており、彼女らが巡ったところには○を、入手できなかったものには×と付けられていた。
「DLC追加エリアも安定して攻略できるようになったし、いよいよ魔王軍と戦うべきか……?」
「おっ。いよいよアタシらの出番ってわけかい? いい加減飽きてきたんだよねぇ、遺跡巡り」
「トレジャーハンターのお前がそれ言うの?」
「ただのトレジャーハンターを強引に戦闘員にしたのは誰だったっけ」
「それは、おれだなぁ」
橙色の髪の女性が言うと、青髪の女性が苦笑する。
「ていうかね。トレジャーハンターに、音楽家に、魔女。アニカの誘う面子はおかしいんだ。これで魔王討伐とか笑われちまうよ?」
「だから、それはしょうがないだろ。システム上それが最強なんだし」
「出た、しすてむ。確かにやりやすいのは認めるけどねぇ……」
「実際ここまで一回もバッドエンドは拝んでない。間違いないさ」
アニカ──青髪の女性はカラカラと笑いながら告げる。
「魔王軍討伐で鍵になるのは神々の力だった。これがないと傷一つ付かないチート野郎がいるから、どうにかする必要があったんだが……」
「それは解決したんだろう?」
「一応は。あの段階で勝てるわけないと思うんだが、このゲームのDLCをやってる奴がどっかにいるんだろうな。見事に主人公以外で乗り越える手段用意してやがった」
ニヤリと浮かんだ笑みに悪感情は見られない。
むしろ、よくやったと言いたげだった。
「【勇者】と【聖女】。あとは【賢者】次第だが、現状どう足掻いても会いに行けない。ラスダンに踏み込んでく勇気はねーや。せめて魔王を倒すくらいの強さがないと、あそこじゃ虫けら同然になる」
「〈深淵の森〉、だったっけ? 本当にあるのかねぇ、そんなエリア……」
「ある。おれ達はまだ金等級だから知らされてないけど、白金等級に上がったら教えてもらえるぜ」
確信を持った頷き。
これまで、アニカの言うことの八割は正しいことばかりだった。
外れた物もあるが、それは大体先回りしたパーティーが居たり、既に人の手が入っているところであったりと存在自体が嘘だったことはない。
故に、橙色の髪を持つ女性──ドレイクはアニカの言うことに従っている。
そうすれば、まだ見ぬお宝に手が届くとわかっているから。
「おれ達の今後の目標は、白金等級に昇格。その後禁域扱いされてるエリアを踏破してレベルアップついでに装備集めを行い、最終的にラスボスを倒す────のは無理だから、セコセコラスダンで老後の資産集めってところだな」
「足を踏み入れるだけで死ぬような場所で装備発掘とか正気じゃないねぇ」
「スリル満点だろ? それにあのエリアは祠触らない限り尖兵しか湧かないから平気だ。例のなんも効かないチート野郎の弱いバージョンだ。ギリ戦いは成立する…………たぶん……きっと……」
「それの何が大丈夫なんだい……?」
「主人公抜きのパーティー組んだことねーからわかんないんだよ。理論上、これで突破できると思うんだが……」
はぁ、と溜息を吐いた直後、一言も話していなかった黒髪の女性が空を見上げる。
「ん、戻って来たか?」
「…………」
無言のまま空を指差す。
すると、空の向こうからゆっくりと何かが近付いてきている。
それは徐々に姿を鮮明に表していく。
古びた三角帽子に古風なローブ。
跨るのは竹箒。
いかにも、魔女と言った見た目の女性が空からやってきた。
「ふぅ~……ただいま戻りました」
「おかえりカトリーナ。どうだった?」
「ちょうど本土行きの船が近くまで来ていましたよ。あれに乗ればそのまま戻れるかと」
「おお、そうか! そりゃちょうどいい」
パシッ!
掌を拳で叩き乾いた音が鳴る。
「旅を始めて三年。レベルも十分上がったし、装備も充実した。おれ達はこれから魔王軍の討伐に向かう。【勇者】も本来の道筋を大きく外れてる。おれと同じような〈転生者〉がいる筈だ。魔王軍討伐で実績を一気に積み上げて、白金等級冒険者になって【勇者】たちとコンタクトを取る。〈転生者〉と協力してラスダンを攻略し、DLC第一弾の完全クリアを狙うのが最終目標だな。ここまでやって、ようやく一段落だ」
アニカ──己を〈転生者〉と呼称する女性は自信満々に告げる。
彼女は転生者だ。
前世の記憶があり、この世界に関する知識も持っている。
生まれ落ちたことに絶望し、死なない範疇でゲームシステム上のレベルアップを狙い鍛錬を続けていたが、魔王軍出現時に原作ブレイクが発生したことで他転生者の存在を悟り外へ出ることを決意し今に至る。
(DLCで猛威を振るった三人は確保した。主人公の傍にいる転生者は勇者や聖女を利用してる辺り、高難易度パッチを当てなかったんだろーな。ノーマルモードならそれでクリアできるし間違いじゃない。んなもん入れんなよリョナエロゲによ。何度も犯されそうになったわ。誰だよこの世界に高難易度パッチ入れたのは……)
内心、ため息をこぼす。
(リョナエロシリーズDLC
心底、ため息が漏れた。
(本編ですら存在する無限の負け筋が、あと幾つあることやら……主人公側にいる〈転生者〉が全DLCコンプ勢なのを祈るしかねえなぁ……)
「……ニカ。アニカ、聞いてますか?」
「ん、お、すまん。聞いてなかった」
己の思考に浸っていたアニカは、カトリーナに呼ばれ意識を現実に引き戻す。
「魔王軍に関してですが……良い話と悪い話、どっちともとれるお話が一つあります。聞きたいですか?」
「えぇ……? どういうことだよ」
ドレイクは苦笑し、音楽家のエルザは変わらぬ無表情のまま。
そしてカトリーナは、若干気まずそうに告げた。
「その……魔王軍の討伐は完了したそうです」
「…………えっ。もう?」
「はい。一ヵ月ほど前に大陸西方部の解放も終わったと……」
「……【勇者】は?」
「それが、最後の詰めには参加しておらず、王都に拠点を作ったとか」
(王都に拠点……?)
なんの意図でそれを行ったのかを少し考え、先程まで口にしていた〈深淵の森〉の位置がどこかを思い出す。
(王都は流通の中心にある。どこでも行けるし、それが目的か?)
「……なら、決まりだな。おれ達も王都に行くぞ」
「そこに居るのかい? アニカの探し人は」
「恐らくいる。勇者と一緒に行動してる筈だ」
そこで転生者とコンタクトを取って、これからの方針について決める。
もしそいつが気に喰わない奴だった時のことを考慮して事前の調査もする。
ダメそうなら自分達は無理のない範囲でやっていけばいいし、協力できそうなら協力すればいい。
魔王が居なくなった以上、本編は終わったのだ。
「あとはいかにしてDLCに備えるか……転生者が、いい奴だといいんだけどなぁ」
まだ見ぬ勇者を脳裏に浮かべながらアニカは言う。期待か、それとも不安か。どちらにせよ、この世界では気を抜いたら即座にバッドエンドが転がっている。
原作にいようがいなかろうが関係ない。
アニカとして生きた二十年間でそれを思い知らされた。
(もしダメだったら……おれがやらないとな)
決意を固めるアニカ。
その隣で、無表情で無言だった黒髪の女性は、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「…………楽しみ……」