ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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79 血反吐撒き散らして

 セラさんってどういう好みなんだろ。

 マリアンヌは果物使ったフルーツケーキが好きなんだけどアストレアはタルトが好き、カルラはクリーム多めのケーキが好き。うちの女性陣はものの見事に好みがわかれているから普遍的に女性が好きなジャンルというものが全くわからん。

 

 どう思う? 闇のマリアンヌ。

 

『甘味、ですか。そうですね、私はやはりふるーつけーきとやらが……』

 

 そこは光と一緒か。

 俺も一緒なんだよね。

 甘すぎると胃もたれするし食べてて辛くなるから、果物の酸味でちょうどよく中和されるフルーツケーキが好きなんだ。マリアンヌと買い出しに行ったときはよく二人で悩みながら決めたりしている。

 

 それくらい闇のマリアンヌなら知ってるか。

 

『そうですね。そこまで行ってなぜヘタれるのかわからないですが……』

 

 ヘタれる?

 

『ええ。異性に番になってくれと言うのになぜあそこまで躊躇するのか……結局追い越されてるし……ヘタれめ……』

 

 闇のマリアンヌが闇みたいなこと言ってる……

 

 あのねぇ、マリアンヌは聖女だぞ?

 聖女が簡単に異性と交わっていいわけないじゃん。

 

 セラさんをご覧。

 聖女だということも言わず、あの人は悲痛な顔で俺の尻穴に杖をぶち込んでくれている。無論嫌だろう、そして不愉快だろう。

 だが治療行為だから誰もが目溢ししているのだ。

 いやまぁ正確には俺が喘いでる姿を見てるのはセラさんと手伝いの神官さんくらいなんだけど……

 

 とにかく、聖女ってのはそれくらい清くないといけないんだ。

 

 特に二人はな。

 

 俺なんかが手を伸ばしていい人達じゃないってワケ。

 

『う〜ん……そうですねぇ……』

 

 闇のマリアンヌとの会話をしつつ、備え付けの冷蔵庫──生鮮食品を冷やせる優れた魔導具──を開く。

 

 取り出したのは白い箱。

 しっかり冷やされたその中には、数で言えば十二個のケーキが入っている。

 師匠は余ったって言ってたけど渡して来たタイミングを考えれば、ほぼ確実に来客用だよなぁ……。

 

 こうしてセラさん達が来ること前提だったんだろう。

 

 それならそうと言ってくれればいいのに。

 相変わらず迂遠な言い回しするよな。

 

「マリアンヌと俺の分は決まっているとして……セラフィーヌ様の好みはわかりますか?」

「……甘すぎなければよろしいかと」

 

 鎧からくぐもった声が聞こえる。

 歩き方からわかってたけど女性か。

 聖女様の護衛を務めるのに男性を起用するわけもない。そこら辺の荒くれ者や暗殺者くらい平然と倒せる女性を知ってるから特に違和感もなし。

 

「ではフルーツ……ああ、食べられない種類はありますかね」

「ない。仮に毒だったとしても平らげてしまうお方がゆえ」

 

 そ、それは……結構ワイルドなんすねセラさん……。

 

 治癒魔法って聖女レベルになるとそこまで自由なんだ。

 マリアンヌも解毒とかは使えるけど身体が受け付けない食べ物を強引に食べるようなことはしていなかった。普通お偉いさんって毒味係とかいるもんだけどね。なんか俺の知ってるお偉いさんは誰も毒味係伴ってないな?

 

「ではこれを。貴女はどれにします?」

「む、……私は護衛だ。必要ない」

「まあそう言わずに。一人だけ食べてないってのは気まずいんだ」

「しかし……」

「それに相手は聖女マリアンヌ。毒を仕込んだり、隙を突いて刺客を向けたりすると思いますか?」

 

 そう訊ねれば、護衛騎士は一度押し黙る。

 

 仕事に忠実で俺としては非常に高評価なのだが、ここは互いの立場を考慮して受け入れてもらいたい。

 

 マリアンヌとセラフィーヌ様は互いに同じ派閥に属している……らしい。

 

 エクトル枢機卿だったっけ?

 俺自体は面識ないけどマリアンヌの親代わりなんだってな。

 実態としては親としての名を借りているだけらしいが、そこら辺は政治的な話になるのでちんぷんかんぷん。

 

 とにかく、互いに同じ派閥に属していて敵対する意思もない。

 それなら身内であることを考慮して親しくするのは悪くないことだ──そうですよね、闇のマリアンヌ。

 

『人の世も派閥争いとは、救えませんね』

 

 まあ、しょうがないんじゃね。

 俺は師匠のことを信じてるけど、世の中には師匠のせいで人生滅茶苦茶になった人もいるかもしれない。そういう人に『いや師匠はいい人だから』と言ったところでどうにもならないだろ? 

 

『えー……』

 

 エッなに?

 俺変なこと言ってる……?

 

『フィンさんの記憶を読み解く限り、貴方の人生がこうなったのはあのダークエルフのせいですよ』

 

 逆に師匠に出会ってない俺、どういう人生過ごしてんだろ。

 

 アリアは勇者になっているとして、俺は師匠に出会えてないから普通のまま。

 

 家を継げるわけでもないし、普通に冒険者になって……死んでそうだな。

 いや普通に死んでる気がしてきた。

 あんな生活師匠のスパルタ抜きで生きていけるわけねーし、そう考えるとやっぱ師匠に出会えたことは人生最大の幸運だったわ。

 

「その、フィン・デビュラ殿」

「どうされました?」

「……恥ずかしい限りなのですが、実は……こういった甘味を食べたことがあまりなく。簡単にどんなものかご説明いただけると助かるのですが」

「……そうですね。クリームはお好きですか?」

 

 指差したのはショートケーキ。

 師匠に初めて作ってもらった時は衝撃だった。

 いや、こんな甘い食べ物が世界に存在するのかってマジで衝撃だったよ。アリアも大興奮だったくらいだ。

 

 あまりデザートを口にしないのならチャレンジしてみるのも悪くないだろうと思い提示したのだが、護衛騎士は鎧をカタ、と震わせ硬直した。

 

「……では、こちらのタルトは如何ですか? 甘さ控えめで食べやすいですよ」

「それは、ありがたい」

 

 安堵したような雰囲気が漂っている。

 

 クリーム苦手だったのか?

 

 あんまデザート食べないって話だし、苦手な上で食べないってだけだったのかも。

 

 更にそれぞれ取り分けて、おぼんに載せる。

 

「では行きましょう。俺が持って行くので、貴女には……」

 

 持とうとした瞬間、胃の奥底から何かが込み上げてくる。

 

 吐き気じゃない。

 抑制もできない。

 慌てて顔を背けて手で口元を押さえる。それに合わせてキリキリと痛み出す腹部。

 

 あ、これは……

 

「ゲホッ……ゴホッ! ゲェッ!!」

 

 ビチャッ!!

 

「…………な……」

 

 うわっ今回量ヤバいな。

 そっか、前にブッ刺されてからセラさんのところ行ってなかったな……。一週間もなかったから大丈夫だと思ってたけど、やっぱ原因は定期的に内臓ぶち抜かれてることか。

 まあ、原因がわかったんだ。

 これからは対処できる。

 

「ゴホッ! ゲホゲッ……ゴフッ!」

「だ……大丈夫ですか!? どうして!?」

 

 護衛騎士さんが背中を摩ってくれる。

 

「だ、だいじょ……ガハッ!!」

 

 指の隙間から血が溢れる。

 

 血の色は……ヒャア! 赤黒い!

 流石にまずい!

 

「も、うしわけない。部屋に、ポーションが……」

「ポーション? ポーションでいいんですか?」

 

 頷く。

 息が苦しい。

 これは気管に入ったか?

 咳も止まらんし、放置してたらこのまま逝くな。

 

 ハァッハァッ死の恐怖が……!

 苦しさも気持ちいい……! 

 知らない人に俺の逝くとこ見ててもらお♡

 うおおお逝くッ腹ぶち抜かれた後遺症で逝くっ!

 

「えっと……飲めますか!? いえ、飲ませます!」

 

 !!!!?!?!?!

 

 口を押さえてた手を避けたら強引にポーションを捩じ込まれた。

 

 オホッ苦しいっ血とポーションの二つの液体が口と気管と胃で混ざり合ってる♡

 

 他人に飲ませてもらうのはやはりいいな……

 いつもセラさんに飲ませてもらってるもんね。

 護衛騎士さんになら露見しても大丈夫でと思うが、念のため口止めしておかないとな。

 

「ゲホゴホっ! ガハッ!! ……ふぅ。助かりました。見苦しいものをお見せして、申し訳ない」

「い、いえ……。大丈夫ですか? 今すぐセラフィーヌ様に見てもらった方が……」

「それには及びません。本日の会談の邪魔をするわけにはいきませんから」

 

 即死するわけじゃないしね。

 後でこっそり神殿行って治してもらうから問題なし。

 セラさんと聖女セラフィーヌさんは別人だから。

 

「このことはどうか内密に。仲間にも知られたくないのです」

「……しかし……」

「お願いします。これが露見しては、この先やっていけなくなる」

 

 カルラにしかバレてないからいいけど、マリアンヌとかアストレアに知られたら大事になる気がする。それは避けたい。

 それに攻撃喰らってるのが原因だってわかったらみんなに追放されそうだし……

 攻撃喰らうだけで戦えなくなるような盾役は追放する!

 ううっ、寝取られるんだ……俺より顔が良くて強い男に取られるんだ……♡

 

 護衛騎士さんは何度も俺と血溜まりの二つを見る。

 

 願いが通じたのか、絞り出すような声で言った。

 

「……わかり、ました。この事は、私の胸の内に秘めておきましょう」

「……ありがとう。助かります」

 

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