会談は恙無く終わった。
途中で血反吐撒き散らし護衛騎士のねーちゃんに秘密がバレてしまうアクシデントがあったものの、綺麗にふき取り匂い取りを撒き散らし護衛騎士のねーちゃんに【浄化】魔法を使ってもらうことで何とかなった。
いやあ……これ、一緒にいてくれなかったらヤバかったかも。
あそこまで盛大にぶち撒けちゃうと流石に匂いが付く。
日頃から内臓損失してるから三人とも血の匂いは嗅ぎなれてるし気が付かない訳がない。
普段は部屋にある匂い消し玉とか使ってなんとかしてるが、こう、変なタイミングで来るともうどうしようもない。
今後はポーションの持ち歩きでもしよう。
何のために持ってるのかと言われたら、緊急時の為に持ち歩くことにしたと答える。カルラは事情を知ってるから乗ってくれる筈。多分なんとかなる。うん。なんとかなってくれないと困る。
闇のマリアンヌ、なんとかする手段はない?
『放っておいても死にませんよ』
俺に興味がなさすぎるだろ……。
なんだよ闇のマリアンヌ、俺が死んじまっても良いって言うのかよ! あんまりだ……! こんなに一緒だったのに、闇のマリアンヌは俺なんて遊びだったんだな?
俺は闇のマリアンヌがいなくなったら、寂しいよ。
『私がいないと、困りますか?』
困る困る、超困る。
困っちまって大変だよ。
俺の理解者がいなくなっちまうんだからな。
今じゃあアリシアさんがいるが、三年もの間、誰にも理解されていなかった俺の本性を知ってなお共に居てくれたのは君だけだ。
『うふふ……私も、フィンさんがいてくれないと困りますよ?』
あぁ~ん闇マリ~♡
ラブちゅっちゅ~!
俺闇のマリアンヌと結婚する~!
フィン・デビュラ・闇と申します。家内は頭の中にいます。身体はアリシアさんと繋がっています。
『死んでください』
おふっ♡
言ってることが違うじゃん!
「次の方、どうぞ」
むおっ呼ばれた。
すっかりここの受付も慣れたもんだな。
いつも通り案内されるがままについていく。
扉を開き中に入れば、そこには──つい先程まで顔を合わせていた【廻天の聖女】が、質素な神官服に身を包み佇んでいた。
「……フィンさん……」
悲痛な表情で俺の名を呟く。
「また、吐いてしまったのですね……?」
「……ああ。彼女に聞いたのか?」
「はい。暗赤色の血を吐いたと伺いました。緊急を要しますので、こちらに寝てください」
指定された簡易ベッドに横になる。
横になると、少し身体が楽になった。
あー……やっぱ内臓やると体調も悪くなるな。
最近健康だったから猶更実感する。
寧ろこの状態で三年間ずっと過ごしてたんだな……
そりゃあ毎日ほんのりと心地いいわけである。
快楽は苦しさと痛さ。
いつも体調が悪ければそれはつまり常に気持ちがいいという意味だ。
このじんわりとした気持ち良さを失うのは口惜しいが、内臓痛んでるのがバレるほうが問題だ。
背に腹は代えられん。
「まず患部の治癒をした後、念のため全体的な検査を行います。排泄物に変化はありましたか?」
「血尿くらいならまあ割と出るが……」
「…………」
「…………」
セラさんと手伝いの神官さんが黙った。
エッ、で、でも血尿が出ることは俺からすると当たり前のことだし……。
ガキの頃から血尿とは付き合いがある。
アリアに轢かれた時もそうだし、師匠の修行の時もそうだ。
でもまあその都度師匠の治癒で治してもらってたから今ほど重篤には至ってなかったっぽいんだが、でもさ~、盾役からすると血尿って当たり前の付き合いだと思うんだよね。
衝撃を盾で受け続けて時には身体で攻撃を受け止めるから内出血やら打撲やら骨折やらとは離れられない。
金がないうちはポーションで誤魔化して、誤魔化す事も出来ないような底辺はそのままくたばる。
冒険者における盾役の扱いなんてそんなもんだ。
例え俺がどれだけ盾役で高みに昇ったとしても、それは変わらない。
変えられない。
俺は、世界を変えられるような特別じゃないから。
やんわりと、盾役にとっては当たり前だということを伝えると、二人は更に押し黙った。
「……そんなに気にするな。何度も言ってるけど、盾役なんてそんなもんだ」
所詮、いくらでも替の効く消耗品だ。
冒険者ギルドもそれをなんとかしようと努力はしているかもしれないが、そう簡単に変わるわけもない。
宛先もなく家を追い出された子供が働いていける場所なんて限られてる。
腕も知恵もない愚かな子供だ。
いくらでも増え続ける最底辺の労働力に対して、大人が使えるリソースは限られてる。もしそれをどうにかしようってんなら、全ての子供を引き受けるような組織でも作るしかない。
教団でも成せていない偉業になるだろうな。
「で、でも……そんな、それじゃあ……まともに生きていけるわけがないでしょう……?」
手伝いの神官────いや、流石にわかる。
声に聞き覚えがあった。
間違いないだろう。
なにせ、ついさっきまで聞いてたんだから。
「そうだ。まともに生きていけるわけがない。盾役の損耗率は八十%、十人中八人が死んで、残った二人はそれなりに生き延びた後盾役ではまともに生きていけないと違う道を探すようになる。セラさんは知ってるか? 金等級冒険者以上に、盾役はいないってことを」
アストレアやカルラ、マリアンヌが相手にするような化け物と相対する盾役が生き残れるわけがない。
俺みたいに、幼い頃からずっと死なないための戦闘を繰り返してきたわけでもないただの人間が、偶然や奇跡で通過できない理不尽な現実に耐えられるわけもないんだ。
「金等級冒険者以上で盾役をしてるのは俺しかいない。理由は単純、死んでるからだ」
「……はい、存じております。だからこそ、フィンさんには無茶をしてほしくない。あなたはもう、ただの冒険者じゃないのですから」
「だが替えは効く。アストレアやカルラ、マリアンヌとは違って世界全体で見れば俺程度の人間は腐るほどいる」
「それは……流石にいないんじゃ……」
セラさんの過大評価が胃に沁みるぜ……。
それはな、単に盾役って役割を担ってないからなんだ。
他の連中は、他にできることが沢山あるから盾役をしてないだけなんだ。俺は、俺の立場を特別だとは全く思っていない。
ドマゾの俺にとって盾役は天職だが、他に奴にとってはただの貧乏くじで搾取でしかない。
今の俺の立場は、奇跡のようなバランスで成り立っている。
だって……
あんなふうに死にかけてもなおアフターケアを完璧にしてもらえる仕事なんて世界中のどこを見ても存在しないぞ? お腹が槍に破かれて快楽と激痛で絶頂! 美女が俺の穴に刺さった槍を抜き差し! 更に心配して悲痛な顔をしながら美少女が治療をしてくれて、守ってくれてありがとうと言ってくれる!!
こんな立場、やめられねぇよなぁ!
「盾役を辞めるなんて選択肢は選べん。盾役だからこそ、俺は【払暁】にいられるんだ」
「っ…………!!?」
息を呑むフェンナ。
セラさんは俺の覚悟を悟っている。
ぎゅっと手を握り、悲痛なまでの覚悟を宿らせて言った。
「……差し出がましいことを言いました。申し訳ありません」
「いいんだ。心配してくれてありがとう。でも、俺にはこれしかないんだ」
そう告げると、泣きそうな顔になる。
ああ……
こんなに優しくていい人なのに……俺の尻穴に杖を突っ込むときはマジで容赦ないんだよな……!
ほらっほらほらっ!
早くしてくれっ!
待ちきれなくてヒクヒクしてるぜ! 今か今かと侵入者を待ち受けている! もちろん俺は抵抗する。抵抗するが、抵抗虚しく破られ、侵される……それがたまらんのだ!
『大人の男性が、こんな情けなく喘いじゃうんですね……♡ きも……♡』
お、おほおおっ!!
セラさんっ最高だ!
聖女だったと判明したことで更に加点がされている! 快楽指数が跳ね上がるっ! これは……交わりに近い領域!? フェンナ! 血反吐の次は血便と血尿垂れ流す俺を見ててくれっ! 浄化して〜♡ いくらでも汚し放題だね♡
『きもすぎでしょ……』
なんだよ闇のマリアンヌ、文句あるのか?
俺と結婚するってことはこういうことだ。
こっちはアリシアさんとの出会いで覚醒してるんだぜ。
君が肉体を得ることがあれば、真っ先にSMプレイに協力してもらうからな。嫌そうな顔して俺のこといじめてください。
『……やっぱりあの森に入るのやめてくれませんか?』
それとこれとは関係ないだろ……。
「……わかり、ました……」
「せ、セラフィーヌ様……」
「治します。私が、何度でも、何回でも……だから……」
セラさん──いや。
聖女セラフィーヌ様は、涙を浮かべながら杖を手に握った。