ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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94 過酷なマゾバレ

「私とフィンくんが共有している秘密はこれ。フィンくんが、ドマゾだってことなの」

「え……いや……え……?」

 

 アリシアは淡々と語りだす。

 直前に起きた出来事をなかったかのように振舞いながら。

 

 その手慣れた様子にカルラはアリシアを見て、更に何も言わないフィンを見る。

 

「どうしたカルラ、信じられないものを見たような顔をして」

「……は、はは。いや、どうやら一瞬夢を見ていたようで……ああいや、これが夢なのか? そうに違いない。全く、悪趣味な夢だ。フィンが、どまぞ? ふぅ、冗談も大概にして欲しいものだ。フィンはな、そのような男ではない。傷付くことも厭わず我らの盾になる頼れる男だ。そんなフィンがまぞひすとなど、…………」

 

(うわぁ……黙っちゃった……)

 

 ブツブツ呟いて現実逃避した挙句黙り込んだカルラを見てアリシアがあちゃーと額に手を当てる。

 

 彼女の脳裏に浮かび上がった、過去の記憶。

 

 三年前の戦いにて深く反省したカルラは、それまでの二年間を詫びてパーティーの一人として、仲間として活動させてくれないかと頭を下げた。仲間のことなど考えないスタンドプレーが目立った彼女の謝罪を、最も被害を受けたであろうフィンは、笑って答えた。

 

『そんなの当たり前だろ。むしろ俺の方こそ弱くてごめん。これからも俺のことを見捨てないでくれるか?』

『っ……ああ、ああ! フィン、私を守ってくれ。私もそなたを守ろう。剣を振るうことしか出来ない未熟者だが、そなたのことは命にかけて守り抜くと誓う!』

 

 そうして、彼女らはようやく一つのパーティーになった。

 

 それから彼女らの黄金は始まった。

 

 その黄金の始まりから、三年──全てを拒否して意識を断ち切りたいと思うのとは別に、カルラの理性は冷静に状況を判断していた。

 

(もしもフィンが被虐に快感を覚えるのならば、これまでの日々をどう考えて過ごしていたのかは明確に理解できる……)

 

 そう、フィンがそんな男であるわけがないと否定しつつも、もしもそうだったのならば辻褄が合うのだ。

 

 攻撃を浴びることに興奮を覚えるのならば盾役をこなしていた理由はよくわかる。

 

 仲間を守りつつ攻撃を受けて気持ち良くなれるのだ。天職と言っても過言ではない。

 

(だが……ああ、だが、フィンがマゾヒスト……?)

 

 理屈はわかる。

 おかしなことだと否定もできない。

 だがカルラの感情は全力でソレを否定している。受け入れたくないと警笛を鳴らしているのだ。

 

 そんなカルラに追い打ちをするようにフィンが口を開く。

 

「カルラ。信じ難い気持ちもわかる。己の周りに異常性癖の男が居た事実は、とても気味が悪いものだろう。だが信じて欲しい。俺はこれまで一度だって趣味を優先したことはない。その手の店にも行かなかった。アリシアさんにバレるまで自分から快楽を得ようとしたことはない」

「あの……フィンくん、今ちょっと大変そうだから待って」

「確かに、カルラやアストレアの誤射(・・)やモンスターの攻撃で気持ち良くなることはある。だがそれは不可抗力だ。俺は盾役としての役割を果たせていなかったから仲間の攻撃に当たり、身体で敵の攻撃を受け止めざるを得ないんだ。もしも俺が盾一つで全て防げるのなら、脇目もふらずそうしていた。趣味は趣味、仕事は仕事。金等級冒険者として弁えている」

「あっああ……ああ? ああ……ああ?」

「(あっ壊れた……)」

「……だからな、カルラ。俺はドマゾだが、そればかり優先して生きて来たわけじゃない。師匠の手ほどきを受けて育った男として、それは誓って言える」

「うん、黙っててね」

「ほほっ!」

「ひっ……!?」

 

 怯えた目でフィンを見るカルラに重傷だとアリシアは思う。

 

 実際、仕方ないことだろう。

 大して付き合いもないアリシアですら気絶して理解を拒んだのに、長年連れ添った仲間がカミングアウトされて正気で居られるわけもない。

 

 こうなることがわかっていたからこそアリシアは慎重に動こうと思っていた。

 

 だがフィンが色んな意味で手に負えないことを悟り、そんなフィンを魅力的に思い始めている己を自覚しこのままでは発覚待ったなしだと判断。巻き込むならば今しかないと開き直ったのだが……

 

(……は、早まったかしら。どう見ても怯えてるわね。でもねツカモトさん。この程度で怯えてちゃこの先やっていけないわよ)

 

 二メートル近い身長に見合った筋肉量のフィンは非常に威圧感がある。

 威圧感があると言っても、見た目から発せられる圧などアリシアやカルラからすればこけおどしに過ぎない。

 

 見た目と強さが比例しない女性や男性は腐る程世の中に居る。

 見た目は強そうな男性でも片手間どころか指先一つで殺せる彼女らにとってみれば、そんじょそこらの冒険者などどうでもいい存在だ。

 

 だが、そういった強者特有の気配というのはある一定の段階に至った者にしかわからない。

 

 そうでなければカルラやアストレアを軽んじてセクハラしようとする愚か者が続出する訳がないのだ。

 

 そして、フィンには見た目の威圧感の他に重厚な岩石の如き圧がある。

 

 それはフィンが積み上げてきた重みに他ならない。

 

 そう、そんな重たさが伝わってくるような男性が、『俺を罵って虐めてくれ』と頬を紅潮させて迫って来るのだ。

 

「ふふ……怯えちゃって、可愛いわね。フィンくんはこんなもんじゃすまないわよ? わかるかしら。こんなにカッコよくて頼れる男の子が、罵ってくれ、虐めてくれって裸で四つん這いになるのよ?」

「ひ、ひいぃっ!!? や、やだ! やだぁっ! やめろぉっ!」

「いいえ、やめないわ。今日から貴女もフィンくんを虐めるの、この鞭で」

「おおっ!?」

 

 ゴトッ……

 アリシアは鈍く光る革の鞭を机の上に置く。

 

「さあ、これを手に持って。まだ私も使ってないけど多分ツカモトさんならうまく扱える」

「む、むりむりっ! むりだっ!」

「ほら、フィンくんを見てちょうだい?」

「え、え……?」

 

 カルラは言われるがままにフィンを見る。

 

 そこには上半身の服を脱ぎ、背中を向け今か今かと待ち続ける男がいた。

 

「フッ……カルラ。俺はいつでもいいぞ。ついに鞭で叩かれる長年の夢が叶うと思うと、興奮が止まらない。身体の跡はセラさんに消してもらうから問題ないぞ。アリシアさんは鞭を差し出した段階で気絶したからな。大丈夫だ、昔を思い出せ。ほらここ、脇腹。昔カルラに斬られたところだ。今は滅多に痛まないが、昔はよく化膿してヤバかったんだ。懐かしいだろ?」

「え、え、ぅ、…………ぅぷっ……」

「あ、フィンくんそこまで! トイレ連れてくからお湯張っといて!」

「む? ああわかった……?」

 

 限界を迎えたカルラが口を手で抑えたことを確認し、彼女を担いでアリシアは駆け出した。

 

 風も利用しほんの数秒で辿り着き、カルラの顔を便器へ近付ける。

 

「えっと、無理しないで吐いて大丈夫よ。私も吐きかけたし」

「お、ぼ、おええええええっ!!」

 

 ぼちゃぼちゃぼちゃっと盛大に吐き出すカルラの背中を摩りながら、アリシアは思う。

 

(────フィンくん、やっぱりただのマゾじゃないのよね。調子に乗ってるとか自己肯定感が低いとかは別に、サディスティックな一面が普通にある。多分無意識で、的確にツカモトさんの傷口抉るような発言してたし……注意しないとよくないことになりそうね。プレイ中は凄くいい感じなんだけど……)

 

「おえっ、うぷっ、おえええっ……!!」

 

 びちゃびちゃっ!

 

 胃の内容物が全て出され最早液体のみになった吐瀉物が便器に吐き捨てられていく。

 

「はぁっ、はっ、はっ、ふっ、ハァッ……!」

 

 口元を拭う。

 呼吸を整えながら、カルラは言った。

 

「……なぜ…………」

「ん?」

「なぜ、アリシア殿は、気が付いたのだ……?」

「……そうねぇ。一応誰にも言わないで欲しいんだけど、私、感情がわかるのよ」

「か、感情?」

「そう、感情。今のツカモトさんが驚いてるのと苦しいと思ってるのは……わかりやすいからあんまり参考にならないかしらね」

「い、いや。その通りではあるが……」

 

 その反応に苦笑しつつ彼女は答える。

 

「具体的なことはわからないけど感情はわかる。正直言うと、かなり最初の方からフィンくんがおかしいことには気が付いてたの」

「お、おう……」

 

 語るアリシアの瞳に光は無かった。

 

「一番おかしいと思ったのはケーキ吹き出しちゃった時よ。あの時、フィンくんは私にケーキかけられて喜んでたの。信じられないでしょ? 私は信じられなかったわ」

「…………(絶句)」

「それからしばらくたって、〈深淵の森〉への下見に行ったとき。あの時、確信したの」

「……そう、か。あの時……」

「ええ。私はあの時、フィンくんの心が壊れていて自己犠牲で仲間を助けることに快感を覚えていると思ったの」

「……ん? ん、お、おお……?」

「それで問い詰めたの。そうしたらね、フィンくんは自分からドマゾだってカミングアウトしてきたの。別に知りたくなかったのに勝手に暴かれたの。ええ、私がそうだとわかってなかったのに『手始めに俺を縛り上げて罵ってくれ』と言って来たのよ。私は気絶したわ』

「…………(絶句)」

 

 彼女の表情は抜け落ちている。

 それだけで、アリシアがどんな感情を抱えているのか悟った。

 

「ふふ……フィンくんがドマゾで変態さんだった。こんなこと、言えると思う?」

「い、言えぬ……」

「理解者が現れて性欲暴走始めたフィンくんとなし崩し的にエッチなことしたこと、明かせると思う?」

「あ、明かせぬ……」

 

(────そうか、そういうこと、だったのか……)

 

 カルラは全てとまではいかないが、ある程度の流れを理解した。

 

 アリシアの特殊な能力、感情読み。

 これが正しいとすればこうなった理屈もわかる。

 アリシアは一人、フィンが隠していた心を読み取ってしまったのだ。理解者が現れたことで暴走を始めたフィンの心に付き合っていく内に、二人は身体を重ねて……

 

(……じ、事実ならば、わかる。だが、これは……)

 

「……信じ難い、でしょ?」

「……ああ。その通りだ。とても、信じられん」

「ええ。だから、これからツカモトさんにたっぷり教え込んであげる」

 

 ぎゅ、とアリシアはカルラの首から腕を回して抱き締める。

 

 アリシアの言うことが正しいかどうか、カルラに判断することは出来ない。

 

 ただ、少なくとも、フィンがアリシアによって洗脳されドマゾだと思い込まされでもしていない限り、これを否定する理由がなかった。

 

「は、は……お、お手柔らかに、頼むぞ?」

「大丈夫よ。一緒にお風呂入るだけだもの」

 

 ただし。

 

 そう区切ってから、アリシアは告げる。

 

「──ただ一つだけ言っておくことがあるとすれば……覚悟しておくことね。フィンくんは、ものすごいから」

 

 その言葉に、カルラはもう一度喉を鳴らした。

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