「そういえばフィン、一つ聞きたいのだが」
「なんだ?」
秘密の民家(ギルドにはバレバレ)からの帰路で、カルラが聞いてきた。
すでに時刻は夕方になり、空が紅く焼けている。
そんな夕暮れが顔を彩っているので、彼女の真紅の髪色とあいまって非常に美しい。
こんなにいい女とエッチしたんだなと思うと、その、フィンフィンが起立してしまいます。
規律に逆らってね。
『死ね』
んほっ♡
「そなた、寝取られでも興奮するのか?」
「エッ……ま、まあ、恐らくする。だがそれは寝取られそのものに興奮してるわけじゃないんだ。少し長くなるが、男として見られていないという事実と俺以外の男に奪われたという敗北感に加え身近に居た女性に小馬鹿にされ男としての格の違いを見せつけられた事実に興奮するのであって、もし仮にアリシアさんやカルラが寝取られたら、本気で取り返しに行くぞ」
「お、おお。少しグッと来た……?」
「騙されちゃいけないわよカルラ。どうせフィンくんのことだし、それで奪えなかったらそれはそれで喜ぶわ」
「そ、それは……いくらなんでも、やばいではないか……」
「ええ、やばいのよ。フィンくんは……」
アリシアさん……
俺のこと理解しすぎだろ……。
この精度はやはり闇のマリアンヌこと闇マリに匹敵している。心を読んでいるわけではないのになぜここまで。
あれだけ好き好き言ってるんだしやっぱり俺のこと好きなんじゃないか?
ていうか普通にエッチなことしながら好きって言うのはもう単純に俺のことが好きなのでは……?
『思い上がってはいけませんよ、キモドマゾ』
はひぃイィっ!!
じょ、女王さま!
け、決して思い上がってなどおりません!
しかしこれは事実であり、最早俺の主観で否定できることではないでしょう。そう、すなわち、アリシアさんは俺のことが好きなんです。
『で、そんなエルフが寝取られたらどうしますか?』
おひいいいぃいいぃぃっ!!!!?
そ、そんなのらめぇっ!!
俺の頭壊れちゃうのぉっ!!
頭おかしくなってフィンフィン暴走しちゃうのぉっ!!!
『黙れ』
…………。
「うわっ……うっわぁ……」
「む? どうした、アリシア殿」
「……フィンくんがおかしくなってるのよ」
「……なにも変化はないが」
「だから怖いのよッ! 表になんの変化も出てこないのに頭の中でずっと自分を卑下しては興奮してを繰り返してるのよ!? 怖いわよッ!」
「はぁ……アリシアさん、いくら人通りがない裏路地だからって騒いじゃダメだぞ?」
「ふ、ふ、ふふ、ふざっ!!」
「お、落ち着けアリシア殿っ! フィン、そなたも煽るな!」
「煽る…………? いや、全くそんなつもりはないが……」
黙れと言われて静かにしていたらアリシアさんが大声で怒ってたから言っただけなのに。
原因は俺だが、頭の中くらいは自由にさせてくれないと困る。
昔、師匠も言っていた。
『どんな危険人物だろうが、頭の中までは自由だ』と。
「ふーっ、ふーっ……! カルラ、あんたも感情読めるようになりなさい」
「無茶を言うな、無茶を。それになぁ、私が感情を読めるようになったところで、フィンがおかしいのは変わるまい」
「いや、解決したいんじゃなくて巻き添えになってほしいだけだからそれは別にいいの」
「そなた……すでに狂っているぞ……」
目から光を失ったアリシアさんに、カルラは思わずと言った様子で言い放った。
「ふ、フフ……壊されちゃった…………ええ、もう私は壊されちゃったの、フィンくんに。ええ、だからもう、それは仕方ないの。でもね、私だけがこんな目に遭うのは、おかしいわよね?」
「む、むう……。同じ男に抱かれた
「…………今、心の底からカルラを最初に巻き込めて良かったと思ってるわ」
女性同士の友情が育まれているようで何よりだ。
エッチなこと一緒にした相手が嫌い合ってるとかあんまり考えたくないもんね。
だがしかし、これが男女逆だったのならば……。
……。
考えないようにしておこう。
『どうしましたか? 続きは?』
続き!!!?!?!
いやだよ!
なんで俺が知らない冒険者のおっさんとピロートークしなきゃいけないんだよ! 俺は女の子が好きなんだよな。そりゃあ冒険者たちに嫌われてるのも気持ちいいが、それはあくまで気持ちいいだけなんだよね。
美女と三人ですけべなことをして、その後互いに謎の共闘感が生まれて不思議な友情に目覚めるおっさんとガチムチの筋肉男……。
誰が得するんだ……。
「うーむ……なら解決策としては、フィンが素を見せてくれることだが」
「断る。俺の頭の中は誰にも見せる気はない」
これは本音。
一度でも漏らしたらそこからズルズルと垂れ流しになっていくのはわかりきっている。
カルラにマゾバレしたのだって不可抗力だ。
アリシアさんと二人で話し合ってそうした方がいいと判断したからで、誰彼構わず言いふらすつもりは全くない。
「というかな、俺は本当に誰にも言うつもりも悟らせるつもりもなかったんだ。実際、カルラは気が付かなかっただろ?」
「……ああ、その通りだ」
目元をピク、とさせてカルラは頷いた。
「それで良かったんだ。誰にも知られないまま、俺はこのままでいられればいいと思っていた。【払暁】も、いつまでこのままでいられるかはわからないが、俺と違って三人とも美人で人気もある。いずれいい男とくっつくだろうってな」
「フィン……」
「それからが俺のセカンドライフだ。誰の目も気にすることなく、自由に、好きに生きる。そうでもなきゃ、この醜い性癖を晒すことなんてないと考えてたところに──突然現れたアリシアさんによって全てご破算したってワケ」
「……言っておくけど、私だってフィンくんがそういう癖だったとわかったわけじゃないのよ。自己犠牲で気持ちよくなってていずれ死にそうだと思って、このまま放って置けないと思ったから声をかけたの。そしたらこの子、自分から暴露してくるんだもの」
「見抜かれたと思った。反省はしている。後悔はしていない」
「このっ……! ふ、ふぅ〜……!」
ピクピクとこめかみを痙攣させつつも、彼女は怒気を抑える。
「はは。いや、うむ……。二人には悪いが、私は今、とても嬉しく思ってるぞ」
「そうか? 普通、周りにいた男が女として見てきたら気持ち悪くないか?」
「ま、そこらの男共に見られるのならばな。だがフィン、そなたはそこらの男共ではないのだ」
そうだろうか。
金等級冒険者であることは間違いないが、俺がどんな男よりも魅力的な男だとは思えない。顔も身体も最近流行りの細い感じじゃないしなぁ。
貴公子とは到底呼べない。
そう聞くと、カルラは苦笑して答える。
「それが良いのではないか、なぁ?」
「う……ひ、否定はしないわ」
「うーむ……さっぱりわからないな、女心」
「何度も言っているが、私はそなたを愛している。そなたの見た目も中身も全てだ。好みはあれど、それは愛にはなりえぬよ」
そうかな……。
俺だったら多分、好意的に近付いてきてエッチしようと言ってくれる女の子がいたらそのまま惹かれる自信がある。まあ建前があるから断るけど。
その娘を【払暁】より優先する理由ないし。
アリシアさんとそういう関係に至ったのはドマゾバレしたからだ。
やはり、マゾバレさえしなければ関係は維持できたのでは……?
『バラしたのは貴方ですけどね』
だってさァしょうがないじゃん!!
あんな状況であんな会話でマゾバレしてないとは思えねーよ!
なんだよ『それはいけない快感よ』って!
ドマゾ的快楽を否定されてるとしか思わねーよ!!
「それにな、やはり、愛する男に抱かれるのは格別だ。それでいて、巧い。文句などあるはずもない」
「……いや、私は文句あるけど。鞭で叩く役目押し付けられてるんだけど」
「ノリノリだったぞ」
「ノリノリじゃないわよ!! ……まあ、ほんの少し楽しんでたのは否定しないけど」
チョロッ。
この人大丈夫?
アリシアさんのあまりのチョロさに、カルラと目を合わせて頷き合う。
「アリシアさん。知らない男に褒められて煽てられてもついてっちゃダメだぞ。寝取られてみたい気持ちはあるが、それ以上に貴女が大事だ」
「うむ。自棄を起こしたり、己がモテていると思い複数の男と関係を持つのはやめておけ」
「するわけないでしょうがッ!!! 何よ寝取られてみたい気持ちって! 知りたくもないわよッ!!」
「確かに、あれは辛いものなぁ。愛する男が己ではない女と交わる姿を見るのは、中々に堪えたぞ」
「それは確かにあるけど……あ」
あ?
ピシ、とアリシアさんが固まる。
「……ほほー。なるほど、なるほど。そなた、ふんふん、ほほ〜……」
「……な、何かしら。言っておくけど私、フィンくんを独占しようとか、そんな気持ち全くないからね。本当に。そうじゃなきゃフィンくんのハーレム作ろうなんてするわけないでしょ?」
「語るに落ちたとは、このことか……。やはり愛か? 鞭を振るえたのは」
「そりゃまあ、結局私がいないと駄……あ、違う。あれは自棄よ。ええ、ヤケクソ。いい? それ以上でもそれ以下でもないから。おい。カルラ、何笑ってんのよ!」
「なんでも? うむ、なんでもないぞ。なぁフィン」
「ああ。アリシアさんはかわいいだろ?」
二人してニヤニヤしてると、アリシアさんは耳を真っ赤に染めて俯いてしまった。
か、かわいいがすぎる……。
これでいてお姉さんだってしきりに言ってくるんだぞ。くそっ、俺の性癖が疼く! マゾの反転、サドが心の内に巣食っている!
駄目だぞ、俺……。
フィン・サディスティック・デビュラは許されないのだ。
俺はドマゾだから変態でも許されている(?)のだ。
カルラやアリシアさんも、俺がサドの加虐性見せたらドン引きだろう。
『マゾの方がキモいですよ』
あふんっ!
「しかし、実際のところどうにかせねばいかん。このままではアリシア殿への負担が大きすぎる」
「か、カルラぁ……」
「フィンの内心がどうであれ、相当愉快なのはわかった。私も知らぬ一面を見ていることは羨ましいが、嫉妬などせぬ方がいいのだろう」
一人、うんうんと頷いてカルラは言う。
「いずれ皆を巻き込むことになるとして……やはり、根本的な解決は、フィンが曝け出してくれることくらいしか思い浮かばぬなぁ」
「なら無理だな、諦めてくれ」
「うっ……うう、そうね……」
そう言って、アリシアさんは涙目になる。
『…………やはり×××エルフでしたね。自分だけが知ってることに喜んでいます』
そうかなぁ……
普通に泣いてるようにしか見えないけど……。
そして俺は、そこまで否定されていることに興奮しているッ! アリシアさん見てくれっ俺の興奮を! 気持ち悪いだろう!? ごめんなさいっ気持ち悪いと思われてる事実が気持ち良すぎて止められない! うおおおおおっでるっでちゃうっ何かでちゃう気持ちいいのでちゃうううぅぅっ!!
「ひっ、ヒイィっ……!!」
「!? ど、どうしたアリシア殿っ!」
フィン・サディスティック・デビュラです。
アリシアさん、好きだ……。
これからも程々に楽しませてもらおう……。マゾとサド、どちらも満たしてくれる他にない人だ。
絶対に逃さん。
『ふふ……いい傾向……』
そしてその振る舞いを後から『貴方何してくれてるわけっ!? いい加減にして!』と怒りながら鞭を振るってもらうんだ! 怒りの一撃が風と共に炸裂し、肛門が一つから三つに増える! 考えただけで背筋が凍ってフィンフィンも大きくなる!
くぅ〜、たまんねぇ……!
『……………………』
あ、闇マリなんか言った?
『い、いえ……なにも……』
「ハァッ、ハッ、お、恐ろしい……なんでこれで平然としていられるのかしら……」
「ガキの頃からそうしてきたからな。慣れっこだ」
「……なんだか二人とも、心で通じあっているようで羨ましいな。あまり外でやってくれるなよ?」
「やりたくないわよぉっ……!!」
我慢のしすぎは良くないからね。
俺は思考に関しては我慢しないことにしてるんだ、諦めてくれ。
「フィンくんに同情されるのムカつくわね……ぶん殴るわよ」
「おお! もちろんいいぞ!」
「あっ、そ、そうだった……! 喜ぶんだった……!」
「…………そなたら、頼むから外でやるなよ? バレるからな。本当に」