オリジナル雑置き場ファンタジー   作:あついさむい

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続くか?


たまたま勇者の剣を盗んだ小物盗賊の話①

 

 

お金がほしい。できれば楽してお金がほしい。多めにほしい。でも、権力者の下で働くのは嫌だ。でもお金がほしい。湯水のように、とは言わないけど、そんないっぱいあったら、それはそれで怖いだろ。俺みたいな奴に取られそうで。

 

なんにせよお金がほしいので、金持ち聖職者の家とか、魔族が住んでる遺跡や祠とかから、五番目くらいに高そうな剣とか奪って闇市とかに流す。

 

それが仕事で、それが暮らし、俺、ウェルスはフツーの盗賊だ。

 

 

 

「───あなたが勇者……様?」

 

 

 

違うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当に遺跡に侵入して、適当なものを持って帰る。いつも通りのやつ。

 

しかし、道端には壺や木箱の一つもなく、なんなら途中から魔物もいなくなったおかけで進むだけなら快適。

そして、いつの間にか相当深部にまで来てしまったようだった。

この遺跡はやたら構造が複雑で、寄り道探索でもしようもんなら帰れなくなりそうな雰囲気。地上に出てた入り口はもの凄く小さかったのに……騙されたと言うか、アリの巣みたいだ。

 

怖くなってきた。が、でもここまで来て、引き返すというのも勿体無い……いやでもなかったら骨折り損……なんならお宝どころか鬼だの蛇の寝床だったりして。

それでも決めきれない優柔不断のせいで、考えるうちにまたどんどんと深部に足を進めてゆくいつものパターン。

 

そうして気がつけば、最深部っぽいところについている。

そこには扉が一つ。いかにもな感じだが、鍵はかかっていない。

 

「うーん……」

 

ウェルスは迷った。考える、ではない。考えても答えを出せないので、いつも迷ってるだけ。

いや引き返しても仕方ないのは分かっているが……しかし、うーん、あぁ、どうしようか。マジで。

 

あーでもない、こうでもない、そうこう唸っていると、脳内会議に自分以外の声が混ざって聞こえてきた。

 

 

 

『───誰か……いるの───?』

 

 

 

水晶のように透き通った、少女の、声?扉の向こうから、漏れたにしては随分と鮮明だ。

 

「……いる、が、扉の前にいる。そっちはどこにいるんだ。というかそもそも生きた人間か?」

 

 

 

 

 

『っ……!生きてるっ……生きてます!生きてるからっ!たすけてっ、助けてください!出してください!!おねがいします!』

 

 

 

 

 

少女の悲痛な叫び声。優柔不断とかそういう話じゃなくない。ウェルスはフツーの盗賊だ。こういうのを見捨てて、利益を優先できるほど優秀な大盗賊ではない。

 

そうして、突き動かされるようにばっと扉を開いて、目に飛び込んできたのはひとつの剣だった。

 

 

 

カッ、と剣戟の音が鳴った気がした。

 

 

 

金の装飾が入った上等な刃、

対照的にすらっとした機能的な柄、

鷹の翼のように広がった白い鍔には、瞬きのたびに色を変え続ける見たこともない宝玉が埋め込まれている。

部屋の薄暗さも錆びた台座も気にならない、むしろ、月のようにひっそりとした輝きが、よりいっそう目を引いた。

 

同時に直感で理解する。多分、"あれ"が少女か。

 

手に取るのは憚られた。しかし、その躊躇いもだんだん鳴り止まない声に上書きされたのか、あるいは、その荘厳な美しさに魅入られてしまったのか。

 

ウェルスには合理的な打算の一つもなかった。

ただ、そして、剣先に触れていた。

 

「───いってぇ!!!」

 

指を切った。

同時にウェルスは正気に戻った。これは危ない。

 

『……あの、たぶんっ!罠とか、あると思います……けど……』

 

「剣を盗ればいいんだろ」

 

『───はい……っ!』

 

とはいえ、珍しく気が散っていただけで普段通りやれば全く問題はない。

 

「シンプルな意識低下の結界……」

 

意識をしっかりと持って……宝玉に指を重ねる。

 

盗賊の基本装備、解呪の指輪をつけた右手人差し指で、宝玉の枠をじりっとなぞる。

 

「目には目を歯に歯を、だな」

 

結界魔法は、物理攻撃や攻撃・属性魔法など……まあだいたいの魔法に強いのだが。同じ結界魔法そのものには耐性を持たない。

 

かかっている対象点を見つけ出して、適当な条件の結界を重ねれば───攻略完了。呪文の無効化結界にしたので罠のケアも万全だろう。

 

「問題なし、と」

 

パリンと音が鳴れば、段々と宝玉の色は薄まって落ち着いて、最終的に石灰岩のようなうすい灰色になった。

 

「なんだか勿体無い感じもするがなぁ……」

 

とはいえ、これで問題はない。ウェルスは、緊張をといてぐだっと手を投げ出し尻もちをついた。

 

そして数秒してから、少女の声が聞こえなくなったことに気がついた。

 

「……おーい、大丈夫か?生きてるか?あんたの名前も知らないが、」

 

というか、直感的に動いたのは良いが、自分でも未だその理由がわからない。あとから疑問ばかりだ。声の正体は?そもそもこの剣は?

 

「……まあ、いいか。」

 

ウェルスはあんま深いことは考えない主義だった。

思慮が浅いわけでもなし、どちらかというと真面目な性格だが、複雑な話に答えを出す度胸が出ないので、先に思考をやめる。

 

そうやって剣を手に取った瞬間、聞こえたのが件の言葉だ。

 

 

 

「───あなたが勇者……様?」

 

 

 

振り返れば、薄く青がかった髪の不思議な髪飾りをつけた少女、

大きく宝玉のようないろ艶のある瞳、細身の身体、

鋭くて、儚く煌めいている。

 

なるほど、これは剣だ。

 

 

 

 

 

いやまあべつにどうでもいい……。なにキモいこと言ってんだろ。

 

ウェルスは彫刻や宝具をなんとなく好むが、人間に美を求めるタイプの変態ではなかった。普通に目のやり場に困る。

 

 

というか、あの、

 

 

 

 

「マジで違う。」

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

 

「取り敢えず、服」

 

 

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルセール王国の有名な伝説だ。

大地の底からやってきた野蛮なる異種族を、国の宝である聖剣に認められた勇者が一騎当千の力で撃退し、太平の世をもたらす。

まあ、勿論ただの創作だった。

……だったのだが、20年前、突如現れた魔王によって各地で細々人間と共存していた魔族たちが統率され、一つの国家を成した。

個体として人より強い力やマナ量を持つ魔族。外交や貿易もしっかり行う彼らに危機感を覚えた国王は、国一番の鍛冶と魔導士を呼び、伝説に倣って聖剣をこさえ、それを評判の高い豪傑に持たせようとしたらしい。

 

「───その剣が、恐らく私です」

 

盗賊の外套に身を包んだ少女は言う。

 

「人じゃん」

「封印されてたんですよっ!結構長めに!」

 

結構長めに封印されてた割に意外と元気そうな少女は言う。

 

「それよりもあなたのことです。わたしはずっと勇者を待ってたんです。なのに、マジで違うとは、なにごとですか」

「いやあそれは……」

 

 

 

 

 

「……人のもの盗んで」

 

「あぁ」

 

 

 

 

「……それを売って暮らしてる?」

 

「まぁ」

 

 

 

「金目のもの目当てに潜り込んだだけ?」

 

「はい」

 

 

 

「……泥棒じゃないですかー!?」

 

「この通り普通の盗賊だよ……。いやまあ、ちょっと盗みや騙しが上手い自負はあるぜ。器用さと知識は日々磨いてるんだ。こう言っちゃあれだが、文字も余裕で書けるぞ」

「そんな当たり前のことアピールされても……犯罪者ですし」

「貴族の出か?」

「普通の女の子ですよ。文字くらい書けます。泥棒さんみたいに犯罪者でもないです」

「というか、せめて盗賊と言ってくれればまだ、格好とか、つくのだけれども……」

「変わんないですよ!恩人さんに言いたくないはですけど!どっちにしろ犯・罪・者!」

 

ウェルスは頭をかいた。そりゃあ、そうだ、事実だから仕方ない。

 

「で、でもな、あれだぜ。あんま高いものは盗まないっつーか、怖くて盗めない、っつーか……別にラクしてお金が欲しいだけだし……あぁ、女子供もダメだ……可哀想だから……」

 

「……めっちゃ小物じゃないですか?」

 

思わず口をついたらしい。

 

「さすがに失礼じゃ!?」

「私を盗んだ犯罪者に尽くす礼儀はないです!」

「おっしゃる通り!」

 

やたら大声の口論未満が洞窟の中を跳ね回る。

これまた事実だ。ウェルスはフツーの盗賊だ。つまり、法治国家においては死刑囚クラスの罪人であった。本人もその自覚はあり、恩を与えた人物相手でもあまり強く出ることはできない。

悲しいくらいフツーの盗賊だ。

 

「……まあでも、私を救ってくれた恩人でもあります。少し過ぎた無礼でした。すみません。できることならなんでもお返しします」

「金をくれ」

「早すぎませんか?」

 

欲、即答。情けないくらいフツーの盗賊なのだ。

 

「日々を暮らせる金だけが欲しい。それ以外はあまりよく分からない」

「頑張って私があなたの生活費を稼げば良い……んですか?」

「いやでも、なんか……それは、ほら、俺が、情けなくないか」

「今までの発言は情けなくないんですか?」

 

純粋な少女だった。純粋な瞳だった。純粋な言葉だった。

悪意はない。しかし、全てウェルスに突き刺さる。

 

「泣いてもいいか」

 

「情けなくないんですか……?」

 

ウェルスは情けなかった。ちょっと泣いた。

 

「ううっ」

「……あの、他になんかあります?」

 

少女はそっと尋ねる。

 

「今は愛がほしい……」

 

ウェルスは情けなく答えた。

ぽろっと溢した本音だ。ひどく情けなかった。

情けなかったが、少女には少し思うところがあった。

 

「───まあ、いいですけど……」

「え?」

「身売りして金稼ぐよりはよっぽどいいでしょう」

「え、愛って、なに」

「なんでしょうかね」

 

ウェルスは呆気に取られた。自分から言ったにも関わらず。

 

「───安心したんです。あなたは、他の人と違って、私のことをどうにかする気はないというか、大義とか、度胸とかなさそうですし、外套も、あったかい……です」

 

少女は布をきゅっと掴んで縮こまる。

 

「……いい生地だろ」

 

 

「そうですね……」

 

 

「俺が盗んだんだよ」

「なんでわざわざ小物アピールするんですか?」

 

あったまりかけた空気が急速に縮こまる。

 

「いや、なんか、急に真面目な感じで、緊張しちゃって……」

「本当に騙すの得意なんです?」

「ごめん見栄張った、文面だけ……対面はダメ……」

 

ウェルスの方が封印された後みたいなしょげ方をしている。少女は口に出すのは留めたが、つくづく情けない人だなぁと思った。

 

「……というか、封印ってあれなのか、ずっと剣の中に閉じ込められてたって感じか?」

 

話題を逸らした。

 

「それ聞きます……?わたし、あんまわざわざ思い出したくないんですけど……」

「うっ、そうだよなぁ……ゴメン」

 

すぐに黙りこんでしまった。少女は口に出すのは留めたが、本当に対面ダメな人なんだなぁと思った。

 

「……なんで閉じ込められたか、正直よく分かんないですよね」

「……俺は知りたくも無いな、こわそう」

 

少女は情けない男を無視して話を続ける。

 

「私も、見ての通りの普通の少女です。泥棒さんと同じ並びで話すのはあれですけど。……ああでも、ちょっと顔は可愛い感じだと、なんて」

「……そのアピール要る?」

 

少女は対面ダメな男を無視して話を続ける。

 

「……当たり前のことを言いますけど、わざわざ剣の中に封印する理由が見つからないですよね?」

「体重の分重さとか増えそうだもんなぁ……持ち上げなくてよかった」

 

「コミュニケーションの空振り三振が早すぎません?!」

 

少女はちょっとキレた。いくら恩人とはいえ、キレた。

 

「そりゃあ、私もちょっとは調子に乗りましたけど、三回返答して三回とも失礼なことありますか??」

「あぁ、いや、そういうつもじゃ」

「ちょっとめんどくさいこと言いますけど、自覚はありますけど!私だって女の子ですし、というか女の子と話したことあります!?」

 

ウェルスは知能低下の結界を切っていたはずだ。にも、関わらず都合良く混乱したが、一応すぐ意識を戻した。

 

「…………………あー、うん、普通に、じゃないな。ボーッと聞いてた」

「そういうとこですよ!」

「……ごめん、あんま人と話したことないな。俺。学校とかも行ったことないし」

「ん、えっ」

「友達とかもいないし……家族も、なぁ」

「あ、ああっ、そういうわけじゃ、なくて」

「下手だよなぁ。その通りだよ。うん、今も盗賊やってるから、あんま人前に出れないしね」

 

ウェルスの話を聞いて少女はハッとした。思い出した。自分には家庭があったこととか、そして、もう恐らく会えなくなってしまったこと。

 

目の前の男の足りない部分、そのピースの形は、どことなく自分と似ている、ということ。

あと、普通に変なプライドのせいで話下手なところも。

不器用なのはお互い様であった。

 

「……ま、まあ、なんでも、いいです。そんな怒ることでもなかったですよね」

「いや、こちらこそ、本当に申し訳ない。ずっと謝ることばかりなのも……」

 

「助けてくれてありがとうございます、って言いたかったんですよ。……盗賊さん。名前、なんて言うんですか?」

 

ぎこちなくも、にっこりと笑った。

ウェルスはなんだか勝手に自分の何かが報われた気になって、いつも通り、そういう適当さに少し嫌気がさした。……それでも、今回ばかりは前に進んでみようとも思った。

 

「……俺の名前はウェルス。格好もつかない普通の泥棒だ。少し、俺も君のことが知りたい。名前もそうだが、閉じ込められる前の話とか」

 

「私の名前はエーリア。みんなからはエアって呼ばれてました」

 

不器用同士の少年と少女は初めて、目を向け合った。

 

「はじめまして……」

 

「はじめまして!」

 

「エア……っていうのはなんか、ちょっと気安すぎて怖いから、えっと、俺は、エーリアでいいかな」

「ウェルスさん、らしいですね」

「なんだよそれ」

 

口に出すのは留めたが、ちょっと情けなくて、野暮だけど、やっぱりなんだか安心できる。そういう意味だとエーリアは思った。

 

「出る道は覚えてるからな、話しながら行こうか、ほら」

 

ウェルスは手を差し伸べた。

 

「え?」

「え?は酷いんじゃないか?俺だって、頑張れば気くらい効かせられるんだ」

 

二人はまた少し笑った。

 

「ふふっ、ありがとうございます。私の恩人、ウェルスさ……ん───」

「あっ」

 

その瞬間だった。ウェルスの魔法松明の火が剣に近づき、さっき貼った無効化結界に触れて消えてしまった。

 

「やべっ、ちょっと待ってくれ」

 

思わずばっと遠くに離して、携帯していた魔導火打石で付け直す。

 

「よし、一発で付いた。危ない……って」

 

灯が戻った部屋の中には、さっきまで朗らかに話していた少女が、布にくるまった死体のように横たわっていた。

 

 

 

 

「───たすけて、だしてっ、───ごめん、ごめんなさいっ───」

 

 

 

 

消え入りそうな声でうわ言のように繰り返す。

意識があるのかは分からない。 

 

ウェルスはもう一度手を伸ばした。

 

 

 

 

 

▶︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くらい。

 

 

うごけない。

 

 

からだがない。

 

 

たすけて

 

 

 

 

 

           』

 

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