オリジナル雑置き場ファンタジー   作:あついさむい

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続いた


盗賊のやつ②

2

 

「銀貨20枚だヨ。持ってけドロボー」

「仰るとおりで」

 

昔馴染みのブローカーに剣を換金してもらい、そのお金で、ちょっと贅沢してみた。

久しぶりにいい気分で帰路に着く。

なんたって、今日は肉だ。

 

「ただいまー」

 

返答は無かったものの、寝室の方から物音が聞こえたので、ざっと荷物を置いて向かった。

 

「おい、おはよう。起きたか」

 

一昨日、剣のついでに拾ってきた少女、エーリア。遺跡を出るときに気絶してから、2回朝を迎えて、やっと起きたようだ。

辺りをくるくると見回して、こちらに気がついた。

 

「───ぇ」

 

「ここは俺のボロ小屋だよ。その辺に捨てるわけにも行かなかったから、一旦連れ込んだんだ」

 

「……あ、あぁ……、ぅ、そ、なんで、……」

 

 何故かは分からないが泣きはじめた。と、人の心があんま分からないウェルスは困惑した。

 

「……なんで、って、言いたいのはこっちだ。運ぶのとかめっちゃ大変だったんだからな。」

「……ぅ、ぁ、うえっ……ぇえっ、ありが、とう……ひぐっ、ござ、い、ます……うえっ」

「うえっ、じゃない。ウェルスさん」

「うぇる、す……さん…….おぼえて、る、おぼえてます……!」

 

エアは少しだけ調子を取りもどして言った。

 

「ついでに、大盗賊、まで覚えといてくれ」

 

ウェルスは調子に乗った。

  

「……どろぼう、の!」

「違うわ!」

「ひえっ!……っ、ん、えへへっ……」

 

起きる前と人変わったんじゃねぇかと思った。

 

 エーリアの見てくれは、若者の自分よりもかなり歳下。……相当弁が立つ辺り実年齢は同じくらい、だろう。封印されてた分のズルもある。流石に、かなり歳下の少女に口先だけで屈服させられた、とか。

ともかく、見た目以上に中身は大人なのだろうが……まあ、今の姿は年相応に見えた。

 

「とりあえず、飯食うか?」

「……ぇ、いいんです……か?」

「いいよ」

 

ウェルスは、自分より弱そうな人間には変な余裕を持って接するタイプだった。

根の優しさがこじれて変な方向に向かっているのだった。

 

「〜♪」

 

自分を言い負かした人間に、心理的勝利をした心地よさに任せ、切って、潰して、煮て、ブランチを仕込む。

その上不当な稼ぎもあるので、今日の食卓は豪華だ。

 

「よーし!」

 

適当に皿によそって、リビングの机に並べる。

 

ポタージュ、肉、パン、チーズ。やわらかい外の日差しに照らされてか、あるいは気分がよく、色とりどり。

芸はないが……贅沢。ウェルスはなんだか大盗賊になった気分だった。

 

その後、ポタージュを三分の一、パンとチーズを四分の一だけ別の皿に分ける。

 

「肉は……いいよな、俺のだし」

 

もっとも大盗賊はそんなみみっちいことしない。一時的に広がった余裕がじわじわと縮小している。

 

「美味しそうですね」

「うわっ!」

 

思わず飛び跳ねる。

 

「出来たんですか?いい匂いがしたのでつい来ちゃいましたが」

「あぁ……これで、全部だよ」

 

ウェルスは全く音を立てずに、さりげない仕草でお皿を分ける。盗賊のテクニック。しかし、エーリアは見逃さない。

 

「どっちが私のですか?」

 

エーリアに悪意はなかった。量の違いにも、肉の不在にも全く気付いていなかった。というか、気付いていたら聞かなかっただろう。

しかし、気付かなかった。聞いてしまった。

 

「……えーーっと、な」

 

純粋な目がウェルスを追い詰める。別に、不当なことではないのだ。エーリアを助けたのは俺だ。彼女の恩人は多分自分だった。じゃあ、たった一食、みみっちい配分にしたところでなんのバチが当たるだろうか。

しかし、それとは関係なしにだ。さっきまで泣いていた?身よりのない腹を空かせた少女に対して?自分から提案しておいて?ともかく、お金に余裕があるにも関わらずのこの行動。なんて情けない。目を背けていた罪悪感が、こちらを見つめている。

 

……迷うくらいならやらなきゃ良かったのだ。

 

「こっち、……が、お前の、です……」

 

量が多い方を指差す。

ウェルスはエーリアに負け、過去の自分に勝った。

そして、戦わない者が最も賢いのだなぁと理解した。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

エーリアも昨日の感じに戻っている。指摘されたら勝てなかっただろうなぁ。というか本当にさっきまで泣いていたのか?あのか弱い少女は幻覚か?まあそんなことはどうでもよかった、それよりも、あぁ、肉、あぁ俺の肉……ウェルスは未練がましい。

 

「あれ、でもちょっとそっちより量多くないですか?」

「……あ、あぁ、それはな」

「お気遣いありがたいのですが……その、私少食なので、少ない方でぜんぜん大丈夫ですよ?」

 

エーリアは申し訳なさそうに言う。

よく見ると目の下に薄ら跡が残っていた。

 

今度こそウェルスは完全に負けた。

 

「───ごめん……。本当は、多い方が自分のつもりだった……」

 

 

 

「まあ、ちょっとだけ思ってはいましたよ」

 

いつの間にか席に着いていた、エーリアはポタージュをかき混ぜながら言う。

 

「……別に、いいと思います。私が少食なのも本当ですし」

 

ポタージュをかき混ぜながら言う。

 

「……なんか言ってくださいよ」

 

「一言言われるたびに負けが重なってってる気がする……」

 

ウェルスは項垂れる。せっかく手に入れた肉もあんまり食べる気が起きなかった。

 

「何と戦ってるんですか?」

「強いて言えば過去の己……だな」

「……その系統のセリフって負けた時に言うもんじゃないでしょう」

「そうっすね……これで、五連敗くらいかな……」

 

ウェルスは涙ぐみながら言う。

 

「……さっきまで泣いてた私が言うのもあれですけど、そろそろ落ち着いてください。本当に全然なんとも思ってないので」

 

やっぱり情けない人だなぁと、ずっと口には出さないがむしろこの面倒さにエーリアは安心感すら覚えていた。

 

「あぁ、さっきまでの泣いていた少女はどこに……」

 

 

「……それは、忘れてください」

 

エーリアはポタージュをかき混ぜながら言う。

 

「ポタージュ混ぜすぎ。さっきも混ぜてたよな」

「……。」

 

「パンそれ以上千切る必要あるか?」

「……。」

 

「いやチーズポタージュは高度だろ」

「………………忘れてくださいよ」

 

「動揺しすぎじゃない?」

 

そう指摘するとすぐさまエーリアの顔が赤くなる。血行よさそうでよかった。

 

「恥ずかしいでしょう」

「……何が?」

 

「ともかく、もう二度とあなたの前で涙を見せることはないです」

 

そう言って、エーリアはやっとポタージュを掬う。

涙を見せるのが恥ずかしい、という難儀な価値観がやっぱりお偉方っぽいな、と思いつつ、だとしたらこんな庶民飯は舌に合わないのではないかとも勘繰った。

 

「残念だ」

 

「なんなんですか……」

 

ウェルスは再び項垂れる。

 

「それよりも……このポタージュ、本当においしいですね」

「そうか……まあ、それはよかった、けど」

 

カラッと、何かが落ちる音が聞こえる。

 

「ほんとうに……おいしい……あったかい」

 

「いや、普通のスープだよ。ふつうの───」

 

 

 

「───うぅ……っ、うあぁ、……」

 

 

エーリアはまた泣いた。

 

「……ええ、なにそれ」

「……ぅっ、おいしい、です」

「そんなこれ美味いの……?」

 

ウェルスもポタージュを掬って食べる。

……まあ、そりゃ美味しいは美味しいが、って感じの味がした。

 

「ありがたい、話だけど、なんでよ……そんな腹減ってたか?」

「いや、……おなすか空いてた、というか、っ……ううっ、なんか……なつかしくって、ひぐっ」

 

……思えば、封印されてりゃ飯も食えないのか。

ウェルスはなんとなく合点がいった。うずくまって泣きじゃくる少女が、過去の飢えた少年の姿と重なる。

 

「……ほら」

 

手元の木の匙を差し出した。

 

「……!ぁ、ありがとう、ございます……」

 

情けない今の自分のことはどうでもよかった。ただ純粋な優しさだった。

 

「勝手にわかった気持ちになるのもあれだが、まあ、俺の分、全部食べていい」

「……えっ」

 

ウェルスは机を立って、キザな感じで微笑む。

 

「……ぁ、いや……その、ひぐっ」

「気にするなよ」

 

ウェルスはちょっと調子に乗っていた。

 

 

 

「……あのっ、その量、は、ひぐっ……たぶん、食べきれないです」

 

 

どことなくキメポーズで項垂れる青年。

泣きながら戸惑う少女。

真ん中には大きな食卓があった。

 

端的に、気まずい。

 

「取り敢えず……食うか」

「ひぐっ……ごめんなさい」

 

二人は食べ続ける。

 

「……」

「……。」

 

「……やっぱ、育ち良いと食べながら喋ったりしない感じか?」

「いや、その別に……ふつうですし」

 

「……」

「……。」

 

「おいしい……?」

「……それは!そう、ですけど」

 

そりゃあ、ウェルスは自分から話を振るのが下手だった。そして話を続けるのはもっと下手だった。

多くの場合、一生黙っていた方がマシだ。しかし、黙っているのも苦手だった。人として、弱かった。

 

なにより一番よくないのが、こういう時、焦って考えて煮詰まって、足掻いた末に。

 

「剣のおかげだよ。いや、高く売れてよかった」

 

ウェルスは大体最悪手を選ぶ。

 

 

 

「…………売ったんですか??」

 

 

 

からん、となにかの音が鳴った。

 

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