オリジナル雑置き場ファンタジー   作:あついさむい

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お気に入りついてうれしいの回


小物盗賊剣③

 

 

 

「まあ確かに大切な自分の分身であるならば自らの手で取りに行けというその主張はいかにも真っ当ですがしかしながらどこぞも知らない店に売り払ったのはウェルスさんですしだいいち面識もない私が行ったところで何があるというわけでもなくその上────」

 

「わかったわかった普通に来んでいいって!!」

 

「えっ」

 

ボロ小屋の玄関前にて対峙する、盗賊にしては綺麗なボロ布に身を包んだ二人組。一人は情けない顔をした男、一人はずっと目が泳いでいる少女だ。

 

男は思う。

 

……言い訳っぽい雰囲気出しといて言ってることは全部真っ当だ。なんで?

 

「てか俺自分で取りに行けとか言ってないよね??来るかって聞いただけじゃなかった??」

「……大切な自分の分身ですから、取りに行くべきでしょう」

 

少女はぼそっと言う。

 

「じゃあ来るのか……?」

「……なんで私が勝手に大切な剣を売っぱらっちゃった人と同等のリスクを背負わないといけないんですかそもそも売るのが一人で出来たんですから買い戻すのも一人で出来るでしょうにいくら恩人とはいえ付き合、付き合うほどの恩は、あ、ある、あります、から、うぅ、失礼なことを、ごめんなさい、そうですよね、私売らないでなんて言ってない……」

 

そういうなりにぴんと張っていた背筋が崩れていく。しゃがみ込んで、影の中でうっすらと見えるのは今にも泣きそうな少女の顔だった。

言ってること基本真っ当なまんま、勝手に崩れていった……というか情緒不安定すぎるだろ。

 

「〜〜〜……もうダメだ……もう……」

「そんな大切な剣なのか?」

「ぅ……いまの私って、不本意ながら……あの剣とは一心同体で……あれ壊れると私死にます」

 

そりゃ情緒不安定にもなるか!

 

「マジでごめん!……即行買い戻すよ」

「いや私が説明してなかったのがダメでしたよね……流石に神話に則った由緒ある国家機密宝剣を無責任ヒャッハーで即売っ払うほど無神経ではないなどと……ウェルスさんを甘く見ていました」

「さっき失礼がどうとか言っていた割にはかなり無神経な言葉遣いだなぁ!!」

 

「はっ!すいません。素直に言ってしまった……」

 

素直すぎる。……いやまぁ、泣き顔でめっちゃオドオド言葉探してる辺りマジで純粋に素直なお嬢様ってだけなんだろうが……。にしちゃ適当な言葉遣いではあるが……。

 

「……じゃあ、やっぱ来るのか?」

「うぅ……いきます、行きます、けど……」

 

差し伸べた左手を掴んで起き上がるのを横目に、右手でドアノブに手を掛ける。

 

「ああぁーーっ!!!!」

 

エーリアが叫ぶ。

 

「どうした?」

「その、えっと忘れ物……した、かも、です、が」

 

左手で空中に円盤を描きながら、その円盤をジロジロ見て。つまるところバレバレな嘘を付きながらエーリアは俺を引き止める。

 

「いや、まず持ってくものないだろお前」

「根性とか……覚悟、とか……??」

 

「たかが返品対応を見守るだけだろ。どこで使う気だよ」

「ウェルスさんがもし剣を狙う暴漢に狙われたら〜……ボコボコに〜〜……」

「逆じゃない……?」

 

「大金を扱う仕事にはそれなりの覚悟がいる……」

「真っ当だが別にお前は見てるだけだぞ」

 

「見てるだけの外野にも責任はあります!!」

「いじめじゃないんだから……」

 

ほら、と腕を引っ張るもエーリアはびくともしない。びくともしない!?力強くない?もしかしてガチで暴漢を倒す気なのか??

 

「んーっ、んーーっ!!」

 

しかも引っ張るたびに強くなっている、いや強い、強い!!むしろこっちか引き倒されそうな気までしてきた!!……そういや俺も剣を狙う暴漢の類か?だよな?あれ?

 

「……ボコボコにしないで!」

 

「んーー───は?」

「え?」

「あ、いやわたしは、ただ、外に出るのがっ……ぁ」

 

エーリアはふっと静かになる。

引っ張る力はなくなる。よかった〜。

 

「外に出るのが?」

「その、ぁ、こ、こわ」

「こわ?」

「こ、こっ、こわ」

 

こわ?

 

「……こわしてやろうか!!!!」

 

こわ!!!

「ボコボコにしないで!!後生だから!!」

「しません!!!」

 

二人は叫ぶ。ウェルスはコミュニケーションの勘が終わっていた。

 

「じゃあなんだよ!!」

「怖いんですっ!!!恐怖です!!怖いんですよ!!そ、外に出るのが!!久しぶり!な!もの、ですので……」

 

「……怖い、のか?」

 

「こわ、こわい、怖い……という見方もあるというか、まあ難しいところですけどねそのべつに普段は勇猛果敢ですよ暴漢ボコボコにしますからねほんとほんといじめゆるさないしこわくなんかないそう封印される前は───」

 

「そういうのいいから」

 

ウェルスにはデリカシーが欠如しているので、普通の言い訳への慈悲がなかった。

 

「怖いんだろ?」

 

エーリアの白い肌が、青白い髪のおかげでわかりやすく紅潮していく。

 

「……剣売っ払いやがってーーー!!!!!」

「それはマジでごめん!!!!」

 

 

「まだ……中ですよね?」

 

「……せめて一歩でも歩いてから言ってくれないか?」

 

へっぴり腰で後ろ向きになったエーリアを引っ張るも、状況は変わらない。

 

「盗賊やってるんですし、荷車とかあります?」

 

「ないよ……」

 

ない。そんなたかが泥棒が業者じみてるわけないだろう。というか家の中で荷車動かす気か??

 

「まぁたかが泥棒ですからね……」

 

ハハハこやつめ。事実だとて人に言われるのはまた違うだろうが投げ飛ばすぞ。

 

「いっそ、外に投げてもらう、とか」

 

「おっいいな」

そのままちゃっと腰を持ち上げる。

「うわちょっとっ、冗談ですって!」

 

ぐいっと持ち上げ、じっと構え、はっと息を飲んだ瞬間に少女の身体がさっと舞った。

 

ウェルスは空っぽの手元を垂らして、扉に向かって平行に落下するエーリアを眺めていた。

「のへぁっ」

 

落下したエーリアを眺めて言った。

 

「……普通に激重すぎて無理だこれ」

「なんなんですか!?」

 

ウェルスは基本的に率直な感想しか述べれない。

 

「力及ばず、ってやつだ。申し訳ない」

「及ばなくて結構ですし、というかなんでこう……いやまぁ、経験がないんでしょうけど、釈然としない……」

「怪我しても大丈夫だ。ちゃんと包帯を用意してる」

「用意じゃなくて判断を良くしませんか?」

 

変な迷い方をした上で変な思い切りの良さで失敗するのがウェルスという男らしいことは、会って二日のエーリアですら嫌というほど理解していた。

 

にも関わらず。

「そうだ。妙案がある」

 

取り出した包帯を見て言ったウェルスは、はたと思いつくままにそれを千切り

 

「えっ」

 

 

───エーリアの困惑顔にばっと巻きつけた。

 

「目隠しだ。こうしときゃほら、外も中も分からないし怖くないだろ」

 

得意げになってるウェルスをよそに、返事もせずエーリアは歩きはじめる。

 

 

「……っ、…ぁ、は、ぅ……っ」

 

「あぁ違うそっちじゃないって!」

 

ふらふらと、足元がおぼつかないのはともかく、そのまま壁にぶつかりそうで、ウェルスは思わず手を掴む。

 

「おい勝手に歩くと───」

「───っうあぁぁぁあ!!!!」

 

 

ばっと跳ね除けられた。思わず見た顔は、瞳と眉がなくとも分かるほど顰めっ面で、思わず一歩下がってしまう。

痺れた右腕を気にかけたのか、顔を合わせたくなかったのかは分からない。目を逸らした、荒い息遣いが目立つ一秒ちょっと、ゴンと大きな音がそこに割り込んだ。

 

 

 

振り向けば、次の瞬間に少女が居ない。

 

 

「ァ」

ゴンともう一度音がする。

 ───下だ!鉄球が落ちたかのように足元が揺れた。

 

おそるおそると、

 落とす目線を追うように、

  ヒビが入る。

 

色は

 

 

 

 

───赤黒い。

 

「ぁ、ァ、あああぁァ!!うあっ」

 

鈍い音を立てて跳ね回るのは鉄球ではなく、少女の頭だった。少女の頭だった。

人が変わったんじゃねぇかと思った。

 

 

「エー……リア?」

 

 

自傷行為、というよりかは、毒を盛られてのたうち苦しむ姿を重ねた。錯乱して暴れ回り、痛みや外傷も気にならない。まあこれも貴族っぽい……とか冗談言ってる場合じゃないことくらいは、流石のウェルスでも分かったらしい。

 

分かったとて、どうなるわけでもなかった。

 

ただただ暴れ回り、時々見える歪んだ顔の、巻き付けた包帯が赤く染まってくとか、いや多分そういうことが重要ではないんだろうけど。あと痛そうだとかも思った。

 

「包帯って怪我する予定のところに先回りして巻くものじゃないんだ……が」

 

とにかくどうしようもないので冗談を言ってみたりとかもした。

 

「いい包帯だろ……ほら、俺が盗んだんだ」

 

どうしようもないのは自分かも知れないとかも思った。

あの呻き声が「なんでわざわざ小物アピールするんですか?」とか言う気味よいツッコミと重ならなかったり。

 

「ぅああっ、アぁ!っあ」

 

三分くらいでなんかいっそ面白くなってきたりもした。いつまでやるねん(笑)。みたいな。いや笑えないけど。相当深刻なんだろうけど、それが逆に面白い、的な、ね。何言ってんだ。

 

「あぁァァ、あぁ!」

 

所々、叫びに休符が入ることを発見した。

 

楽しめに壁とか叩けばワンセッション

できるんじゃないか

フリースタイルが

 

心の一句(字余り)。

もはや暇か。

流石に慣れすぎたし、一周回って面白い時間も過ぎ、いや意図的に面白がろうとしたわけではないけれども、再び直視した辺りで急にパタリと止んだ。

 

夜泣きってこんな感じかも。ビートが子守唄になるのか?いや叩いてないけど。いや、ほんと意図的に面白がろうとした訳ではなく。

改めてしっかりエーリアを見つめた。

 

「うえっ……」

 ちょっと吐いた。

でもゲロガチャSSRこと肉だったので、手のひらからもう一度飲み込んだら余計吐いた。包帯持っててよかった。

 

外傷は、状態としてはさして酷くもない。傷も、まあ浅い。

フローリングについた爪の痕が見てられなかった。色々、思い出して嫌になった。

 

……昨日気絶した時も、一度遺跡の中で覚醒して、同じように暴れて、そして同じように眠った。それを見て、同じように戸惑ったり、面白がったりした。

 

 

言い換えれば、同じように、目を逸らした。

 

 

そうだ。俺がなんでエーリアを連れて帰ったのかよく分かった。いつもの変な気まぐれじゃない。

 

 

「ごめん……本当に、ごめんな」

 

しゃがみ込んで、真っ直ぐ見つめて、少女の顔から包帯を外す。

 

 

「……」

 

 

ちょうどその時外で強い風が吹いたらしく、ボロの扉は半開きから全開きになった。

 

ティーカップに朝日が差し込むように、教会のステンドグラスが輝くように、ドールアイに光が映える。

 

 

 

 

また思いつきか?

いや違う、予定が狂うのが嫌なだけだ。

 

 

 

 

遮るものなく、廊下いっぱいを吹き抜ける風が、光の差すまま山林の小道へとまっすぐつづく───

 

 

 

───少年は少女を抱き抱えて走り出した。

見様見真似で、その姿が最高級に貴族らしい示唆に富んでいるかなんて、下品な泥棒に知る余地もない。ましてや、手違いとはいえ複数の意味で傷つけてしまった相手だし。

 

「………………ぁ」

 

まあ必死だった。腕の中の相手が陽の光に当てられ、寝覚めよく覚醒していたこととか気にも留めなかった。少女を救おうとしているのか、なんなのか。振り切るように走った。分からなくなって、分からないから必死だった。

 

この先は崖で、もしくは展望台。ちっぽけ悩みを蹴り落とす心の秘密基地で、自慢してやりたいと思っただけかもしれない。

 

「……ウェルス、さん」

 

何かしら怯え切って、縋りつくように眼前の顔で視界を埋める少女にも、その光が届くはず。そういう場所だ。

 

 

 

 

 

 

「エーリア!」

 

 

 

 

 

 

まっさら。

 

 

 一面飛び込んできた陽光のキャンバスを、鮮やかな青が、深い緑が、波打つ白がのたうち回って奪い合う。

 

 

やがて整然と、そして目いっぱい以上に広がるそれを、世界と信じていたこと。

 

少女は思い出した。

 

 

 

「わたし…………」

 

 

 

鳥が鳴く。木々が笑う。大地は唸るように、静かな熱を持つ。

すっかり風を取り込んで、吐けば柔らかな温度に溶けていく。少女の身体は春を待つみたいに、命が迸る。

思い出したのだ。

 

生きてる。

 

 

「一応聞くが……大丈夫か?」

 

 

「わたし、……生きてるんですか」

 

「大丈夫か??」

 

鳴き声に、思わず木々のようにくすくす笑った。

こんな言葉を待っていた自分が楽しくて、涙ぐんで、少女は笑った。

少女の名前は、エーリア。

 

「まぁ大丈夫……そう、だな」

 

 

「はいっ、ウェルスさんのっ、おか───」

「もう限界だ……!」

 

エーリアの身体がばっと宙に舞う。あーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「のへあっ」

 

 

デジャヴだ。

 

「流石に、重過ぎるな……体積に対して質量がおかしい……」

「……どうやって私を運び出したんですかぁ……」

 

片目をちっちゃな泥色で染めたエーリアが睨む。

 

「おぶったんだ」

「じゃあ毎度おぶれば良いじゃないですか!緊急脱出までワンセットなの慣れちゃいましたよ!」

「慣れたならいいんじゃないか」

「よくな……い、とは、まあ言い切れません、ね」

 

慣れたふうに起き上がって、再び世界と相対する。

 

「いい景色だろ」

「……はい、綺麗です。ほんとうに」

 

エーリアはほど赤く染まった髪をかいて呟く。

 

「……なんで、助けてくれた……いえ、助けてくれるんですか?その、こんな、私を……」

 

「…………いやまぁ……その、罪悪感?俺に罪悪感を抱かせるのが上手い……。あと普通に、剣利用できないかな、とか、剣売ったらふつうに追い出そうとか、思ってたし……」

 

ざっと頭をかくウェルスを、エーリアは振り返ってじっと見上げてる。

 

 

「今は思ってないんですか」

 

「どうかなぁ……道端に捨てるのは流石に罪悪感……でもこの調子じゃ引き取ってくれるアテもないよな……」

 

指を折って、ぶつくさ数え続けるなにか。その察しくらいはエーリアでもつくし、特に思うところもない。

強いて言えば、安心した。というか、それくらいウェルスに感謝と理解を示している。

 

「……とことん、小物で、普通ですよね。ウェルスさん。いやまあ所々価値観が変ですけど」

「まあ事実だが……現実的、と言ってくれないか?」

「それしては情に絆されすぎですね。盗賊向いてない」

「うっ」

 

思わず仰け反る姿を見て、またくすくす笑う。

 

「普通、フツーですよ」

「……だからなんだよ」

「ウェルスさんは、フツーに情けなくて、フツーに犯罪者で、フツーにしょうがない人です」

 

しかしウェルスは事実に対してはフツーに反論できない。

 

「お前なぁ……」

 

 

「───でも、」

 

 

 

青白い髪が舞い上がって、空と重なる。

 

 

 

 

「フツーに、かっこよくて、やさしい人ですっ!」

 

 

 

 

太陽から、目線を落とすように雲を追って、小さな空が、瞳が揺れて、白い大地にひびが入る。

色は、

 

 

 

 

───透明。

 

「…………ありがと……うっ、ございますっ!わだしっ、その、つよがりでっ……うぁっ、でも、ほんとにっ……」

 

 

「どういたしまして……泣きすぎじゃない?」

 

 

「そういうこというからぁ……!」

 

くっと涙を拭って、エーリアは前を向く。

 

「……ですからっ、私も、ウェルスさんのお側にいる間くらいは役に立ちたいです」

 

「……気持ちは嬉しいが……その、なんかできるのか?」

 

立ち上がって、ふふんと言わんばかりに鼻を擦るエーリア。

 

「わたし、魔法が得意なんです!」

「ほう……あ、でも」

「この崖から、ちょっとだけ飛んでみますから、ほら、見ててくださいね……」

 

息を止めて、伏せた手でぬぬぬと力むその姿は、まあ確かに魔導士のそれだと思った。しかし……

 

「ん〜〜〜っ!ンーーーーー」

「いや、あの、別にやんなくても……その」

 

静かな顔に言葉は全く届いていない。やがて、小さな魔法陣がエーリアの足元に浮かぶ。

……いや、だから、魔法陣使うようなやつ、すごいけど、そんな負担大きい魔法使うとなぁ……。

 

「もうわかった、かなり魔法使えるのはわかったからな!」

「ん〜〜〜〜〜っ!」

 

伏せていた手が空を仰ぐ。

 

「はっ!!!」

 

3カメ。

声が大きいわけではないが、鋭く、空気を切り裂くような音頭で、エーリアはばっと宙に浮く。

 

「……ぉ、おおっ」

 

「ふふっ……どうですか〜……?ちょっと、っ浮いてるでしょう……?」

 

飛行魔法……!高等魔導士でも安定した浮遊は難しい……みたいな話くらいは聞いたことある。大道芸的なものだが、それくらいの珍技だ。いやまぁちょっと魔法かじってるが分かるが、相当な技術がいるはずだ……。見るからにへろへろではあるが、実用はできている……思わず感嘆した。

 

「浮遊、すごい……な……?……マジで」

 

「ふふっ……ふっ、……へっ、このっ、まま飛び上がっちゃい、ぁす……からっ、ねぇ!」

「……あっそれはマジでやめた方が!」

 

「はぁっ!!!」

 

 

───ぷしゅっ。

 

……血が飛んでった。

 

「ほらぁ!!!!!!!!!」

ばっと宙に舞う(以下略)

「のへぁぁっ」

 

ここで3カメ。

 

「そんなことやったら傷口開くに決まってんだろうが、あ〜もう」

 

バックから包帯を取り出して、なるべく目に被さらないようにビビりながら巻きつける。

 

「うっ……ごめんなさい」

 

「別にいいよ、売れないボロ布消費してるだけだから……」

「ありがとうございます……。でもなんで傷が……?」

 

はたと止まる。

 

「……覚えてないのか?」

「なにか……喧嘩とかしました?私……」

 

「いやまぁ……覚えてないなら、まぁいいのか」

「……?」

 

ウェルスは深くは考えない主義だった。

再び包帯という名のボロ布をくるくるする。

 

「……ほんと、なんで泥棒なんかしてるんですか?」

「だから盗賊だってぇ!」

 

「いやほんとに、向いてないと思いますよ。盗賊って言うのはもうちょっと、ずる賢くて、口が上手くて、大胆で、利己的で、冷酷無比な……こんな……その、手先の器用さくらいしかぴんとこない」

「んんっ……」

 

まあ事実だから否定できないな!

 

「パン屋さんとかの方が似合ってますよ」

 

「まぁ……そうかもな」

 

想像してみたら、いいなと思った。特に、厨房なら人と話さなくて良さそうで……。

 

巻き終わって、少し撫で回して、ぱっぱっと手でやさしく叩く、ウェルスのくせ。「ぁ」とエーリアが小声で鳴いたが、あんまり聞こえていなかった。

 

どことなくこそばゆそうにする。

 

「なんか……どうした?」

 

「……あ、えっと、ほら、向こうのえんとつ、煙が出てますよ!」

「まあ……パン屋だろうな、昼時でも元気なもんだ」

 

「その、どうせ剣取りに街まで降りるんですし、その、あとで寄ってみませんか?あ、ねだってるんじゃなくて、ふつうに気になるだけって言うか……」

「あっちは行かないぞ……?あんな小さい村にブローカーが居るわけないだろ」

 

「ぇ」とエーリアが小声で鳴いた。今度はしっかり聞こえていたし、いっしょに驚いた顔もした。

また、鳥も鳴いた。木々が笑うのに紛れて、二人もくすくすと笑った。

 

「……くくっ、んっ、そんな面白いことかぁ……?」

「ウェルスさんがっ、へんに笑っちゃうからぁ……ふふっ」

 

 

 

しょうもないことでも、一人じゃないだけでちょっと面白いとか、今だって別に気付けないくらい孤独な一人と、もう一人。似たもの同士の影が重なった。

 

いつか出た本音の、答え合わせをするにはまだ早過ぎるし、いつ斜陽に暮れて行き違い、離れ離れになるかなんて分かってすらもいない。

 

何を想うかなんての以ての外で。

 

じゃあ、なんというか、取り敢えず、あぁ───

 

 

『楽しいなぁ』

 

 

そう思って仰いだ空は、そりゃ、晴れていた。

 

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