種族のるつぼにて-人外種族第三特区、特殊捜査員行動記録- 作:明田川
2.2
吸血鬼街の捜査を行う班の中で、三班は少々厄介な区画を任された。都市計画と再開発の失敗により、違法かと思えるほど増改築の進んだ家々が入り組んだ住宅街は、幾らでも訴訟できそうな陽当りの悪さを見せつけている。
「渡したインカムは持っていますか、各班との連携はこれが命綱ですので落とさぬよう」
「了解です」
「鎮圧装備はそのまま手に持たずに携帯し、指示があるまではお持ちの物で対処してください。こちらが捜査を行う間は私の護衛と周辺の警戒を、異常があればインカムにて報告を」
小柄な見た目に反して優秀な通信機能を有したインカムは、外に音が殆ど漏れない構造だ。話す側が気を付ければ、盗み聞きをされる可能性は大きく減らせる。五感が人間よりも優れた吸血鬼が相手だ、できるだけのことはするべきだろう。
「重点的に捜査を行うのは地上ではなく、入り組んだ地下街です。目的が潜伏している可能性は高いと思われているため、出入り口の幾つかは既に閉鎖済みとなっています」
「追い込んで袋のネズミにしろってことか」
「遭遇した場合、必然的に接近戦となります。その場合は噂の腕前を頼りにさせて頂きますが、よろしいですか?」
「問題ありません」
「…同じく」
信用はして貰っているらしい、指揮官であるシラカミから情報は受け取っているのだろうか。空を飛ぶ偵察機から情報を受け取り、彼女は迷いなく他の部隊と同時に行動を開始した。
「五班と七班が別の出入り口から突入します。地下街内の民間人は退避するよう三度の警告を行なっています、残っている者には注意を払って下さい」
「先行の偵察は行なっていますか?」
「無人機を用いて実行中ですが、現在に至るまで何も発見できていません」
ハキハキと喋る彼女の前に自分が、後ろにアラカワが立って地下街へ続く階段を降りる。入り口は然程大きくなかったが、少し歩けばその大きさはどんどんと増していく。
「…トンネル?」
「付近で行われた地下鉄用トンネル掘削工事に際し、使用された掘削機をそのまま転用して作られた通路です。かなりの大きさがありますが、老朽化と手抜き工事の発覚で閉鎖が決定しています」
「手抜きとは穏やかじゃありませんね、どんな手抜きなんです?」
「コンクリートの打設不良です。工期が短く現場が疲弊し、コンクリート自体の輸送にも手間取ったことで、雑な施工が行われました」
コンクリートは時間経過で固まってしまうため、作ってすぐに現場へ運ばなければならない。その上流し込めば終わりということでもなく、型枠をしっかりと作り、振動を用いてしっかりと均一かつ隙間のない状態にしなければならないが、それができなかった。
以上のことが、彼女から渡された資料には書いてあった。非常に簡潔に纏められているため、恐らく当時の現場はもっと混沌とした状況だっただろうことが容易に想像できた。
「つまり崩れる可能性もあると」
「酷い箇所では目で見てわかるほどの隙間があったそうです。吸血鬼の膂力であれば、可能かと」
ビルの床をぶち抜く威力のパンチなど序の口だ、老朽化した地下トンネルを支えるコンクリートなど、簡単に破壊するだろう。何か仕掛けられていたら生き埋めにされかねないが、それは偵察を行った部隊を信じるしかない。
「消防・防犯施設はこちらが掌握しました。段階的に扉やシャッターを閉じることで外へのルートを絞りつつ、各班が中央へと操作を進めます」
「アラカワ、音と匂いは?」
「…換気扇がうるさい程ぶん回されて、風が奥に流れてる。これじゃ音は兎も角、匂いは頼りにならないぞ」
地下通路の天井には一定の間隔で地上まで伸びた換気口が設けられ、そこから空気の入れ替えを行なっている。匂いを発する物体があろうとも、風が天井から地上へと動くのであれば探知は難しい。
「先に進みましょう、潜伏可能な地点を全て確認しながらになりますが」
「待ってください、店舗のシャッターはどうやって…」
「管理会社から偵察、突入を行う全部隊がマスターキーを預かっています」
マスターキーがかなりの数存在している点に少々思うところはあるが、治安維持局が複製したのか、管理会社が雑な管理をしていたのかは気になるところだ。そう考えながらカミシロから受け取ったマスターキーを、シャッターの鍵穴に差し込み回す。
「…異常なし、店の奥も空ですね」
「アラカワ特殊捜査官、匂いと音は?」
「吸血鬼の匂いはしない、異音も無しだ」
「では次に行きましょう」
三人で精神を擦り減らしつつ、次々とシャッターの降りている店舗の中を暴いていく。不意打ちを喰らえば死ぬ、そんな緊張感が延々と続いたが、ついぞ吸血鬼は現れなかった。
トンネルの横に伸びる脇道の防火扉を閉じ、少しづつ歩みを進めていく。部隊間の通信は先行した偵察部隊が無人機を使い、無線中継機を設置したことで保たれている。定期的に行われる通信で異常を報告する部隊はなく、淡々と操作を終えた場所だけが報告されていく。
「この区画も終わりですね、シャッターを閉じましょう」
「了解です」
インカムで通信に会話が拾われるため、いつも通りの会話はできない。淡々と指示をする調査員に従い、他の部隊と歩幅を合わせて捜査範囲を狭めていく。
「周辺警戒を、通信に異常あり」
「…ついに動きが?」
「分かりません、七班との通信が途絶したようです」
そして全体の進捗がおおよそ五割に達した時、七班との通信が途切れた。定期的に行う進捗報告がなく、残りの二部隊からの呼びかけにも応えない。
彼女は懐からタブレット型の端末を開き、何やら急拵えの通信システムについて調べ始める。何をしているのかをまじまじと見るわけにはいかないので詳細は分からないが、今まで冷静さを保っていた彼女の表情が僅かに歪む。
「七班が最後に現在地を報告した地点を参照しました。あの場所で使える中継機は一つのみでしたが、その中継機からの応答がありません」
「機材の故障ってことか?」
「その可能性があります。七班が現状を把握しているとすれば、他の中継機と繋がる通路へと出る筈です」
中継機は複数設置されていたが、通路を閉鎖していく都合上どうしても冗長性は確保できない場所があった。運が悪いなと思いつつも、七班の現状を確実に把握するためには、実際に会って確かめるしかない。
「七班との合流は我々で行います。五班では通路の閉鎖で時間がかかり過ぎる、食品通りへ向かいます」
「七班もそこに行くと?」
「五班の通路閉鎖は通信が途切れる前に報告されたものです、最新の情報に従えばこちらへ来る可能性が高いかと」
「従いましょう、走りますか」
「はい」
彼女は理路整然と判断に至った理由を語るが、それらは確かに納得できるものだ。鎮圧装備ではなく、使い慣れたロングソードを引き抜きながらそう思う。足の早いアラカワと前後を入れ替え、速度を上げながら閉塞感のある地下通路を駆ける。
「七班、応答して下さい。七は…」
「この音は戦ってる!」
「急行します!」
人間二人には聞こえなかったものを聞き取ったアラカワが叫ぶと、彼女は躊躇なく背負っていた四角い鞄を手に持ち替えた。紐を一本引っ張ることで広がるそれは、何かが折り畳まれていたということが分かる。
鞄は三枚の装甲板を縦に並べることで盾となり、その裏には治安維持局が採用している短機関銃が収まっていた。捜査を行う上で、調査員までも悪目立ちをしないための装備だろうか。
「狼になって突っ込むな、撃たれるぞ!」
「分かってる!」
彼女は直線を獣の姿で駆け、曲がり角へ差し掛かる直前で半人半獣の形態へと身体を変化させる。そしてバットを手に持ち、視界の外へと突っ込んでいく。
「これだから身体能力の差は困るんですよ!」
少し遅れて曲がり角の先と走り込むと、そこには殴り合うアラカワと覆面をした男が居た。人狼と真正面から戦えるということは恐らく吸血鬼、七班はこれに遭遇したのだろうか。
「敵対的な吸血鬼を確認、これは…」
七班の調査員と護衛の特殊捜査員だが、そこらに転がっていた。鎮圧装備を抜く暇も無かったのか、どれも鞘から抜かれてはいない。調査員はシャッターを大きく凹ませるほどの勢いで壁に叩きつけられ、捜査員片方が負傷により血溜まりを作り、もう片方は首から血を流しながらただ呆然とへたり込んでいる。
「七班は戦闘不能!」
「鎮圧装備の使用を許可します、対象はアラカワ特殊捜査員と交戦中の敵性存在。尚、対象はαと呼称します」
「よっしゃァ!」
アラカワはバットを放り投げるが、吸血鬼αはそれを容易く避けて見せる。だがそれが当たるかどうかは大きな問題ではない、本命の武器を手にする僅かな時間を作ることが目的だったのだから。
「久しぶりだぜ、コレを使うのは!」
レベル2対吸血鬼鎮圧装備、そのハンマータイプ。身体能力が人類の水準を超える種族での運用を前提にしたそれは、彼女の手に収まって初めて、そのポテンシャルを最大限に活かすことが可能になる。
「何か来る、回避を!」
「形態変化…じゃあない?」
吸血鬼の腕が蠢き、大きく膨らむ。そして手のひらに穴が空いたかと思えば、そこから血液が撃ち出される。体内で圧力を高めた体液を撃つなど、かなりの曲芸だ。
「なんだコイツ、なんだこれ?」
「ちょっと派手で悪趣味な水鉄砲ですか、相変わらずびっくり箱みたいな身体してますねアンタらは!」
再度腕を膨らませた瞬間、引き抜いた拳銃でそれを撃ち抜く。すると風船を割った時と同じ容量で弾け、援護を信じて再度接近していたアラカワが血を浴びながら突撃する。
「だらっしゃァ!!」
人狼の膂力で振るわれたハンマーは吸血鬼の肩を捉え、身体から床へと伝わる衝撃が、タイル状の模様が綺麗な床を叩き割った。そして彼女は勢いのままに持ち手にある引き金を引くと、放たれた銀の杭が肉を穿つ。
「…この武器うるせえ!」
「知ってたでしょうが!」
隙を晒すことをよしとせず、アラカワは重いはずのハンマーを手にしつつも軽々と背後へ跳躍する。そして空いた敵の懐へ自分が入り込み、鎮圧装備の刃を胸に突き立てる。
「ええい、このままァ!」
刃から抑制剤が噴き出すが、それは大きく突き出た剣の鍔に装備された小型ガスボンベの生み出す圧力によるものだ。一度に出せる薬剤の量はそこまで多くないが、一般的な吸血鬼の致死量で考えると、三倍程度にはなってくれる。
レベル2の鎮圧装備が投入されている時点で、最早生け取りは選択肢の中にない。刀身を引き抜いてアラカワと同じく距離をとりつつ、刃に付着した血液を検査キットに吸い込ませておく。
「…このままだと心臓が止まって死にますが、どうします?」
「心臓が止まって動けなくとも、一時間以上は生命活動が停止しません。予備戦力に捕縛を任せ、七班の応急処置を」
「了解、救援の到着は?」
「必ず五分以内には、既に待機していましたから」
腰に下げていた救急キットを手に取り、その中からペン型の注射器を取り出してアラカワへ投げる。吸血鬼が行う吸血行為だが、それは吸う側と吸われる側双方へ大きな快感を与えるのだ。これは吸血鬼側は飢えを避け吸血行為を促進するため、吸われる側は抵抗させないために起きるものとされる。
「呼吸してますか!」
「してない、使うぞ!」
被害者が大きな快感により意識を失うケースでは、最悪の場合心肺機能の停止を引き起こし、重篤な後遺症や死に直結する。そのため専用の薬を早急に投与する必要があるが、今回のような作戦では全員に配布されるのが常だ。
「こっちは傷口が大きい、不味いか…」
血を吸われた捜査員に見て分かるような外傷や出血はない、注射器も使ったので舌が喉を塞がないようにだけ気をつけて寝かせておけば、ひとまずの処置は終わりだ。
問題は残りの二人だろう。シャッターに叩きつけられた調査員はカミシロが対応しているため、自分は出血しているもう一人に駆け寄ったが、状態はかなり悪い。
「オイ、これ大丈夫なのかよ」
「そんなわけないでしょう。ああもう、血が多すぎて傷口がわからない!」
救急キットから取り出したハサミで服を切ろうとしたが、防刃素材だったようで切ることが出来ない。仕方なく装備を上から次々と脱がせ、その間にはアラカワに傷口を抑えさせる。
ついに見えた生身の身体は、凄惨たる有様だった。最早服のおかげで形を保っていたに過ぎない。止血できる傷口では無かったかもしれないが、できる限りのことはしなければ。
「おいこれ、中身が」
「黙って。いいから救急キットの中身を全部出して下さい」
治安維持局の医療体制はトップクラスだ。人外種族研究の成果によって、人類の医療技術は魔法かと思えるレベルにまで発達している。応急処置で万に一つの可能性へ繋げることができれば、助かるかもしれない。
ナノマシンを始めとした最新技術も医療現場では一般的になりつつある。緊急時に使う先程の注射器ひとつにしても、そういった技術の一端が使われているとか。
「止血パッドで大雑把に塞いで、止血ジェルで隙間を埋めます。明らかに血はもう出過ぎてますが、漏れ出る量を少しでも減らして救護班が来るまでの時間を稼ぎましょう」
「わ、分かった」
止血パッドは四つに折り畳まれており、広げると一辺の大きさが30cmの正方形になる。少し溢れた中身を押し込み、上からパッドを貼り付けていく。そして周りに止血ジェルを分厚く塗りたくり、専用のライトで照らすと粘度が大きく増して出血を押し留める。
「救護班の到着にまでは…もう……」
「到着時間が修正されました、あと10秒です」
「え?」
何か大きな振動がトンネルを襲ったかと思えば、巨大な拳が天井を突き破って現れた。開いた穴から覗くのは、大きな一つ目を持つ巨人だった。
「サイクロプス…!?」
「特務班通ります。フガクはそのまま救護班を中に!」
「了解でーす」
そして空いた穴からは音もなく、羽の生えた何かが降り立つ。鳥に似た足と、両腕があるはずの位置にある翼。人外種族の一つであるハーピーだ、羽ばたく音の小ささから、梟に似た特性を持つ種だろうか。
「司令より状況は聞いております。特務班所属のヨネヤマです、状況を」
「三班は全員無事ですが、七班が敵対的な吸血鬼の襲撃によって三人全員が負傷、応急処置は行いましたが、現場では対処しようのない重症です」
「七班とこの容疑者は地上へ移送します。三班は予備戦力である九班と合流した上で地下の調査を続行して下さい」
「はっ!」
「中々に手際の良い方々が護衛に居るようですね、隊長の言葉は本当だったようで……それでは」
彼女か彼か外見からは分からないハーピーは状況の確認を済ませ、そのまま再度穴から飛び立っていった。カミシロとヨネヤマの二人が話している間に、巨大な手は救護班を乗せてトンネルの中を出入りしていた。
まさか巨人種までも人外部隊に所属しているとは、シラカミ隊長恐るべしといったところか。
「…で、血塗れのまま作戦続行ですか」
「最悪だ、こんなので鼻から効くわけない」
「九班には事情を言っておきます、すみませんが少しばかり我慢を。それと、先程は助かりました」
彼女は武器を手に現場へ急行したが、焦らず状況を見ていた。アラカワが接近戦を仕掛けているのを見て下手に銃を向けず、他に敵が居ないかを探した。そして自分が敵に向かって走る際も、こちらの意図を理解して手を出さずにそのまま警戒を続けたのだ。
「いえ、背中を守って頂いたのでお互い様です」
「撃つかと思ったけどな」
「誤射の危険性が高かったので、控えたのは結果的に正解だったようですね」
焦って背中を撃たれる可能性は大いにあったが、弾が飛ぶことはなかった。鎮圧装備の使用許可を出すのも正当かつ迅速、分かってる班長というのは頼りになるものだ。
「にしてもだ、コイツなんなんだよ」
「形態変化はしなかったということは、アイザワと同じ血族ではないようですがね。それにしたって、人から血まで吸っちゃってまあ」
突如現れた吸血鬼αに対し、アラカワがハンマーを直撃させられたのが大きかった。戦闘は一瞬のうちに終わり、これ以上の犠牲は出ずに終わる。だがαは何故現れ、七班を襲ったのだろうか。
「時間稼ぎ、でしょうか」
「逃げられる場所は順番に潰して回っていて、出口も地上も監視されている状態です。時間を稼いだとしても、その時間で一体何を?」
形態変化で姿を変え、換気口から逃げるというのも想定された逃走ルートの一つだ。しかしそれは治安維持局が対策を行い、空を飛ぶ複数の偵察機と地上に展開した部隊が、換気口を監視下に置いている。
「それは、確かに考えなくてはなりませんね」
「九班が来るまでには少し時間があるんだろ、周りの地図とか無いのか?」
「周り、周りか…」
アラカワの言葉に、何か引っ掛かるようなものを覚える。使えそうな出入り口は監視下で、移動ルートも絞って追い込んでいる。その筈だが、なぜか見知らぬ吸血鬼が出てきて、七班を襲った。
これが事情をややこしくしている、時間稼ぎといっても何のためにと思考が持っていかれてしまう。しかしカミシロが紙の地図を広げた時、七班が居た食品通りが間に入る。
「七班が襲われたのは、今居る食品通りですよね」
「ええ、そうですが」
「この地下街の主要な通路は掘削機を使って掘られたと聞きましたが、それは地下鉄のものを流用したんですよね」
地図には埋められた掘削機の通り道があることが示されている。もしそれが自分が考えている通りのものであったなら、少々不味い事態になりかねない。
「何か気が付きましたか?」
「掘削機は一度も地上に出ずに、地下鉄から地下街への作業に向かったのではありませんか。一度引っ張り上げて移動させるより、同じ地下ならそのまま掘ったほうが楽な筈、もし高度が同じなら…」
「強度の確保や線路内への侵入防止のため、地下鉄へ繋がる穴は埋められています。抜け道にしようにも、道ですらありません」
しかし、トンネルに入る前に彼女自身が言ったではないか。この地下街が閉鎖に至る、その理由を。
「ここのコンクリート、雑な施工だったんですよね。それも隙間が見えるくらいに」
「…まさか」
「どれくらいの分厚さかは知りませんが、一応確かめませんか」
「九班には少し先行すると伝えておきます」
血が固まってきた、気持ち悪いと不機嫌そうなアラカワを連れ、三人で食品通りの奥まで急ぐ。そして掘削機が最初に掘ったであろう通路の行き止まりである筈の壁は、大きく崩れていた。
瓦礫の山が邪魔をして人が通ることはできないが、霧へと姿を変えられるアイザワであれば奥へと通り抜けられてしまうだろう。七班はこれに近付いたことで、襲われてしまったらしい。
「どうやって…破壊したなら音が聞こえないわけが!」
「当たって欲しくなかったのに、上手い具合に壁だけがやられてますね」
「器用な奴が居たらしいな、うわ汚ねぇ…なんで血だらけなんだよこの瓦礫」
コンクリートの分厚い壁に開けられた穴だが、崩れた瓦礫含め、どれも血で濡れていた。吸血鬼の仕業と見て良いのだろうか、しかしどのような手段でこの穴を開けたのか。
「ここまで破壊しようとすれば、衝撃波で商店街が滅茶苦茶になっている筈。これは壁以外が綺麗すぎる…」
伊達に調査員をしていないカミシロは、この状態に違和感を感じたようだ。崩れて瓦礫の山と化したコンクリート壁だが、確かに爆破したにしては誰も高熱を受けた後はなく、殴って壊したにしては遠くへ吹き飛ばされた破片も見当たらない。
「通信でこの穴のことは伝えました、すぐに調査が始まるでしょう。我々はこのままここで穴の監視を行います、よろしいですか」
「了解」
「はいよ」
この穴があるからといって、ここから逃げた確証はない。そのため地下街の捜査は続行されるが、その間にこの穴から目を離すこともできない。謎が謎を呼び、アイザワにも逃げられ、三人一緒に血を頭から被って穴の監視。なんとも酷い依頼だった、暫く焼肉屋でホルモンを頼む勇気はない。