種族のるつぼにて-人外種族第三特区、特殊捜査員行動記録-   作:明田川

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「あーっは!馬鹿じゃん!もう死ぬ死ぬ!!」

 

「それはい、もう…やらかしましてね」

 

「剣士マンは仕事以外だと案外抜けてるよねー、そこがギャップあってどうこうってやつ?」

 

 2人席のテーブルで、自分と向かい合う席に座るのは人外種族の一つである、悪魔の少女だ。少女と言っても自分より数歳上だが、これは種族的な特性から成長と老いが遅いこと起因する年齢と外見のズレが原因だ。名前は知らないが、アカウント名のRedとだけ呼んでいる。

 彼女は赤い肌と少々癖のついた白い髪を持ち、更には折りたたまれて尚大きな羽が背中から生えている。形態変化能力を持ち、身体の構造を変えることで短時間の飛行すら可能なのが強みの一つだ。

 

「まあ食べたげるし、持ち帰りもしたげる」

 

「助かります」

 

「アラカワってそーゆーとこあるの知ってるからね、あの子元気?」

 

「毛皮の手入れに行きましたよ。抜け毛が気になったみたいで、新しい掃除機を買って来てくれなんて頼まれちゃいましたが」

 

「あー…ね、それはあんまり言わないほうがいいヤツだよ。聞かなかったことにしたげる」

 

「失礼しました、今後気をつけます」

 

「素直でよろしい、剣士マンみたいな物分かりのいいヤツばっかりだったらなぁ〜」

 

 自分の常識は多種族にとっての非常識、相互理解の難しさを痛感している。彼女は注文したメロンソーダ片手に、パウンドケーキを四つに切って、そのうちの一つを自分の皿へ運ぶ。そして一口大になるようフォークで適度に崩しつつ、固めのケーキを食べ始めた。

 

「で、多分食べてほしいだけじゃないんでしょ?」

 

「いつものチャットルームで」

 

「ほいほい、どーでもいいのばっかりだったら情報料取るからね」

 

「他言無用を守って下さるなら、幾らでも」

 

「やっぱりデキるねアンタ、大好き!」

 

 2人してそれ以上の会話はせず、黙々とスマホへ文字を打ち込む。自分は今回の吸血鬼騒動について、メモアプリ内に纏めていた内容をコピーして貼り付ける。このチャットはインターネットを介しておらず、端末間の短距離通信で文字を送りあうシステムだ。知り合いが特殊捜査員向けに作ったもので、自分と同じアパートの住民は大抵使っている。

 

剣士AAA 9:45

「今回の件について、そちらが受けた依頼は?」

 

Red 9:46

「一番最初の違法クラブ摘発時に調査員の護衛役をやって、その後は暫くお休み。その後で吸血鬼街の封鎖を手伝った程度、街の中には入ってないね」

 

 彼女もこの件には関わっているらしく、やはり治安維持局から依頼は受けていた。自分の情報にある程度の信憑性があると彼女は判断し、互いに質問と回答を繰り返す情報交換へと移った。

 

剣士AAA 9:46

「そうですか」

「違法クラブ周りは詳しく知らないのですが、説明を頼めますか」

 

Red 9:46

「ちょいまち」

 

Red 9:47

「吸血鬼が出入りしてるクラブに人間の未成年が入ってるって通報があったのが始まり」

「暫く調査員が張り込んだり、吸血鬼の局員を送り込んだりした。それから証拠を掴んで、摘発を決めてる」

 

 彼女は調査員と共に行動していたため、より詳しい情報を持っているようだ。話を聞く限り、治安維持局はしっかりと証拠を固めてから摘発に踏み切ったらしい、結局はアイザワを逃してしまっているのだが。

 

Red 9:48

「クラブは地下室になってたわけだけど、その奥に設計図にはない地下二階があった。そこは防音で人間用の拘束具一式が見つかってる」

「吸血鬼にされたっていう二人は、ここでやられちゃったんじゃない?」

 

 吸血鬼にされたとは言うが、いつどこでされたのかは知らなかった。クラブに誘い込んでそのままだったか、メモの時系列に加筆を加えながら質問を続ける。色々と気になっているJK吸血鬼ことクスノについては、情報が幾らあっても困らない。

 

剣士AAA 9:48

「痕跡は、因子とかは残ってませんか?」

 

Red 9:49

「なし!何もなし!」

「絶対処理してるよ」

「アイザワは見られて通報されたりして、クラブの経営にも関わってたからすぐに容疑者になったけど」

「なんかこの部屋に関しては用意周到って言うか、アイザワがやったにしてはしっかりし過ぎてるんだよね」

Red 9:50

「この手のことに慣れてる協力者がアイザワに居るんじゃない?」

 

剣士AAA 9:50

「同意見です」

「この短時間で二人吸血鬼に変えられている以上は、必ず二人以上は吸血鬼が関与している筈ですから」

「吸血鬼街の地下でも、敵対的な吸血鬼に三人やられました。捕縛した結果、夜霧の連中と同じ因子ということは分かりましたが、詳しくは最初に送ったものの最後に」

 

Red 9:50

「おけ」

 

 彼女はチャットを返しつつ自分の送ったメモを読んでいたようだが、一旦文字を打つ手を止めて全てに目を通すことにしたらしい。これまでのことと、吸血鬼αの職業などなど、治安維持局から共有された情報の殆どを送ってある。

 

Red 9:55

「読んだ」

「やっぱりだけど、局が本気になる理由になったあの事件」

「↑三人死んで重軽症多数のヤツね、クラブ摘発の次の」

「これをしっかり調べ直すべきなんじゃない?」

 

剣士AAA 9:51

「そう思う理由を聞いても?」

 

Red 9:55

「ここまで証拠隠滅が出来るのに、アイザワの痕跡だけ残ってたのは変だし」

「何よりそのクスノちゃんがやってないって言ってるの気にならない?」

 

剣士AAA 9:56

「すみません、続けてくれませんか」

 

Red 9:56

「事件現場にあったのはアイザワの痕跡なのに、局はなんでクスノちゃんを別で追い始めたのか。なんで消えてたからってすぐに吸血鬼にされたって断定できたのか」

「ちょっと変じゃない?」

 

 確かに、第三区での行方不明者数はかなりの多さだ。それにクラブに行っていたからといって、吸血鬼にされた確証もその時点では取れなかった筈、自分達が知らない情報ルートでもあったのだろうか。

 

Red 9:57

「私がクラブに行った時には、地下二階に何の痕跡も残ってなかったからね」

「それでも人を割いて逃げた先を突き止めて、局員じゃなくアンタらを送り込んだ。初期対応だったら局員が行くのが普通でしょ」

 

剣士AAA 9:58

「クスノが変態を終えていて、尚且つ一般の局員では太刀打ちできないと分かっていた?」

 

Red 9:58

「じゃないと最初っからお金のかかる特殊捜査員なんて送らないって」

「それに知ってる?二人はちゃんと生け捕りにするって評判良いんだよ、局だとね」

 

剣士AAA 9:58

「必ずそうしている、という訳ではないんですが」

「そうなんですか?」

 

Red 9:58

「ぶっ殺すだけなら、同じアパートの金髪マンでいいからね」

「彼依頼の達成率は高いけど、お仲間がやりすぎちゃうから結構死なせるでしょ」

 

 逃げた成り立ての吸血鬼を生け捕りにするために、自分達は派遣されたのだろうか。吸血鬼にされた二人が揃って同じビルに居たというのも、少々引っかかる。治安維持局がどんな情報を得て動いているのかは分からないが、不信感は拭いきれない。

 

Red 9:59

「なんかあるよ、きっと」

「メモありがと、今回は貸し一つってことで」

 

剣士AAA 9:59

「ご家族によろしく、また別の機会にお礼をさせてください」

 

Red 10:00

「アンタさ、何したのかはアラカワにバレるんだから」

「ちゃんと誤解されないようにしてよ?」

「あの子結構純粋っていうか、単純だから」

 

 まあ今日二人と情報交換をした、というのは無論報告するつもりだが、誤解も何もないだろう。食事関係なら兎も角、アラカワはそこまで気にしないと思ったのだが、彼女が呆れ顔でこちらを見てくるということは、どうもそうではないらしい。

 

「分かってないでしょ、戦ってばっかだとこうなるわけ?」

 

「一応モラトリアムは謳歌した方だとは思いますが」

 

「その内訳を言ってみろってのよ」

 

 彼女は午後から予定があるらしく、ケーキを半分ほど平らげ、残りを持ち帰るために店員と話している。このセット意外と値が張るな、量を考えると当たり前かと考えながら、レジで数枚の紙幣を出す。

 

「まあいいか、困るのはアタシじゃあないし……じゃ、ごちそうさま」

 

「ありがとうございました、また今度」

 

 バイクに跨って視界の先へ消えていく彼女を見送り、自分も車に戻る。電気屋へ向かわなければならないのだ、現状分かる範囲のことは整理した以上下手に悩んでも仕方ない。そう思いながら運転席側のドアを開けると、助手席が毛だらけであることに気が付く。

 

「…掃除機を買ったら、まず車を掃除しますかね」

 

 今までは気にしたことが無かったが、よく見ると座席のありとあらゆる場所を毛が覆っている。この席に座ったあの男は大丈夫だったのだろうか、意図せず人狼の毛を全身に着けて別の女に会いに行った勇者を作り上げてしまった。

 まあ彼がどうなるかは放っておいて、今は買い出しだ。食料品も殆ど残っていないし、アラカワが食べる分を考えると二人分では足りない。換毛期ということはプロテインも多めに摂るだろう、牛乳もいつも以上に買っておいた方が良さそうだ。

 

「冷蔵庫があともう一つ欲しいところですよ、そろそろ床が抜けないか心配ですけど」

 

 スマホのメモアプリに買わなければならないもの箇条書きにしていくが、画面の上部を通知が覆う。治安維持局からの電話だ、仕事は入れていないというのに何の用だろうか。

 

「はい、お世話になっております。特殊捜査員ID2…」

 

『挨拶はいい、シラカミだ。今は一人か?』

 

「ええ、まあ」

 

『人に聞かれない場所へ行け、話はそれからだ』

 

 今日はこういう日なのだろうか。すぐ近くの電気屋へ入ることを諦め、車を大通りへと走らせる。このまま環状道路をぐるぐると回っているとしよう、ガソリンはまだ半分ほど入っている。区外への移動ができない状況だが、人は兎も角物は今も活発にやり取りが続けられている。だが検査は厳しくなっているため、そこらの駐車場で立ち往生しているトラックが多い。

 そんなことを思いながら大通りから少し進んだ先で車線を変え、三区環状道路へ合流する。そして流れる車を見つつ道路へ入り、そのまま速やかに加速した。

 

「もう大丈夫です、どういったご用件で?」

 

『今回の捜査で吸血鬼を一人内通者として送り込んでいたが、こちらの情報を犯人へ流していた。さらに成果として報告した情報も、局の判断を誘導するために歪められていた可能性が高い』

 

「…なるほど」

 

 早速答え合わせか。先ほど話したばかりのRedが抱いていた疑念に対して、治安維持局もしっかり調べていたらしい。自分でも違和感を感じるほどだ、優秀な局員であることを示し続けているシラカミが見逃すはずもなかったということだろうか。

 

『だがかなり無理な工作を通そうとしていたようだな、あのクスノ参考人に余程ご執心らしい。悪いが内部の調査が終わり次第、また働いてもらうことになるだろう』

 

「あの子も災難ですよね、夜遊びの代償がここまで高くつくとは。それにしたって、今度の仕事はなんです?」

 

『夜霧の血族、その現当主はのらりくらりと追求を避けている。その上メディアの前にも、こちらの呼びかけにも部下を間に嚙ませて絶対に出てこない』

 

「まさか」

 

『アイザワは吸血鬼向けの食品工場付近で網に引っかかった。その食品工場の経営者は、奴の両親だ。治安維持局は夜霧の血族に対し、捜査への全面協力を求める予定だ』

 

 かなり大きく出た、そう感じざるを得ない。アイザワが属する血族は三区内ではほぼトップ、国内で見てもかなりの力を有する吸血鬼グループだ。海外から移住してきた背景があるが、その際に莫大な資本を元の国と移住先の国の双方からむしり取られつつも、ある程度の規模を維持させた大金持ちだ。

 

『だがまあ、ここまでする本当の理由が別にある』

 

「やっぱり」

 

『吸血鬼が吸血鬼を殺すための研究を止めているという話は、何処かで聞いたことがあるな?』

 

 第三区への影響力もあるようで、対吸血鬼向けの兵器開発が進みにくかったり、生産が終了するのも彼らが手を回したり、敵対的な買収を仕掛けたことによるもの…という与太話があったような。事実、治安維持局が使っていた対吸血鬼弾は生産企業が相次いで事業からの撤退を決めていたのは記憶に新しい。

 

「ええまあ、真偽のほどはどうか知りませんが」

 

『今回の事件を受けてこの血族連中のことを徹底的に洗った、丁度専門家も仕事を終えて帰ってきたところだったからな。違法捜査スレスレの激戦を潜り抜け分かったのは…その与太話は本当だったということだ』

 

「……本当ですか、それは。ストレスでおかしくなった調査員が見た質の悪い夢とか、そんなんじゃないんですよね」

 

『私も目を疑ったがな、どうにも真実らしい。様々な企業を間に噛ませ、実体のない組織を幾つも作りあげ、金の流れを徹底的に隠して…なんてな。ここまでやっていると違法行為に抵触していないわけがない、検挙の理由には困らんよ』

 

「もし殴り込みをかけるとなっても、そちらは仕事を終えた精鋭部隊が帰ってきていますよね。そんな状況で、私になにをしろって言うんですか」

 

『派手に動いてやるから、今度こそアイザワを生け捕りにしろ。生きた状態の奴が要る、詳しい検査にかけるには死んでいては意味がない』

 

「それはまた、なんとも」

 

『特殊捜査員の指名もさせてやる、確実に達成できるだけの部隊を組め。いいな?』

 

「…はい」

 

 誤魔化せる雰囲気でもない、拒否権はなさそうだ、ここまで喋ったということは最後まで巻き込む気なのだろう。吸血鬼の血族対第三区治安維持局、なんともまあ大きな話になったものだ。鎮圧装備を整備している部署は大忙しだろう、定数が予算不足で削減されていないと良いのだが。

 

『伝達事項は以上だ、必要なものがあるなら言え』

 

「鎮圧装備は用意されますよね」

 

『無論だ、レベル2の対吸血鬼鎮圧装備を準備させている』

 

「ここまでになると、レベル3も出せそうなものですが」

 

『馬鹿を言え。それを出すときは、血族の当主クラスを殺さねばならん時くらいだ』

 

 そう言われると、本当に使う時が来そうで嫌になる。だがまあ、血族の当主ともなれば、その因子は絶対に絶やすことができない代物だ。実際に死ぬ危険性がある行動は取らないだろうし、それに同じ血族の吸血鬼がそれを許さないであろうことは、容易に想像できた。

 

『貴様には期待している。アラカワには好きに伝えろ、彼女以外には他言無用だ、良いな』

 

「了解です、隊長殿」

 

『…一つ思ったんだがな。貴様が特務班に入れば、アラカワもそのまま連れて来れるんじゃあないか。妙案だと思っ』

 

「すみません電波が」

 

 伝達事項が以上と言ったのはあちらだ、通話を切って環状線の出口を目指す。買い物が遅れに遅れている、また別の人物から連絡が来ないことを祈りつつ、今度こそ目的地へ向かった。アラカワの換毛期は季節の変わり目にやってくるので、夏や冬を前にした各商戦に重なりやすい。

 今回向かうことにした電気屋だが、かなり早い夏向け家電セールが始まりつつあることを、公式サイトで大々的に告知していた。

 

「掃除機と空気清浄機以外に、何か買うべきものってありましたっけ…」

 

 迫害や虐殺の危機から第三区へ続々と移住して来ている人外種族達だが、夏は高温多湿、冬はかなりの冷え込みに加えて降雪もあるという環境が合わない者達も多い。

 特に爬虫類の特徴を有する人外種族は、温暖化に伴い振れ幅が極端になり続けるこの国の気象に悲鳴をあげながら生活しているとかなんとか。

 

 そのため暖房・冷房機器の需要は高く、乾燥対策となる加湿器も売れ行きが良い。全身を効率よく温めるため浴室のリフォームをすることは常識らしく、窓を二重にして断熱性を高める工場なんかは施工業者が目を回すほどに需要がある。

 

「エアコンは大家さんが新しいのに入れ替えてくれてから困ってませんし、ファンヒーターは買い替え時期にはまだ達していない。やっぱり掃除機だけですかね」

 

 特殊捜査員はその危険性から、稼ぎは非常に良い。そのため報酬の2割が積み立てられている共同生活費は非常に潤沢なのだが、何があるか分からない以上浪費は避けたい。人間は病院に行っても安く済むが、人外種族の医療費はその3倍から5倍が相場なのだ。

 多種多様な人外種が存在するなかで、その種族ごとに対応した治療を行うコストはあまりに高い。治療費は双方で負担し合うというルールになっているため、彼女が大怪我をした時のために積立金は多い方が良い。

 

 襲い掛かる多額の税金対策や複数ある口座の管理、各種保険の内容調整、資産運用、その他諸々…。戦っているうちは良いのだが、こうした休みの日には考えたくもないことをどうしても認識してしまう。やらずに後で困るのは結局自分だ、アラカワはそこら辺が非常にルーズなのでまた時期が来れば無理矢理にでもやらせよう。

 一人でやれというと雑に済ませるが、二人でやるぞと言うとなんだかんだでしっかりやる辺りが、なんとも言えないのだが。

 




これはRedの絵

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