ゲームのフレンドがリア凸してきた件について。   作:ふはつう

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休暇と言うには不本意すぎる日

 

 

 

 

 

 仮に土足のまま自宅へ侵入する不審者が居たとしよう。見目が小柄で銀髪、後ろに結った髪を纏めるリボンが特徴的な一人の少女────それもカンパニーが指名手配をしている星核ハンターと瓜二つな相手が眼前にいる場合、果たして如何なる対応を取るべきであろうか。

 

 

「⋯今が何時か分かってます?」

 

 

 だが、生憎と私自身は仕事とプライベートを区別する人間だ。仮に星核ハンターが目の前に居ようが、ゲームで勝ち越された悔しさから本気の自宅訪問を決行する行動力の化身がいようと関係ない。

 徹夜を経ての仕事を終えてからゲームに熱中し、心地好く眠りについた。その完璧な睡眠を邪魔されたとあれば怪訝な表情と低音を強調した声色にもなってしまう。始業まであと四時間、その半分の時が不要な目覚めによって妨げられたことは由々しき事態と言えよう。

 

 

「時間?そんなの分かってる。だから来たんでしょ」

 

 

 しかし、私の不快感を露わにした態度に臆することなく彼女は言った。さも当然、己が権利を主張するように。

 

 

「ええ、そうでしょうね。⋯とはいえ、此処は惑星ピアポイント。例え天才ハッカーである貴女でも侵入は容易くないとは思いますが?」

 

「はっ、こんな場所に入るくらい朝飯前に決まってるじゃん。実体を送るでもないんだし」

 

「⋯後ほど電子網の見直しを提言しておく必要がありそうだ」

 

 

 どうやらハッカーである彼女にはピアポイントすらも生温いらしい。天才クラブのスクリューガムくんとデータ攻防戦を繰り広げた経験を持つ人物だけはある、と私は己の内で評価を高めた。セキュリティの甘さは後ほど見直すとしよう。

 

 

「ですが、ホログラムで訪問するのであれば⋯早朝でなくとも良いのでは?貴女ほどの天才なら瞬きの間にでも自宅を特定できたでしょうに」

 

「逆の立場で考えてよ。ゲームでイラついたからって何の準備もなく突撃すると思う?こっちは念には念を入れて逆探知されないようにしてるわけ」

 

 

 呆れたと手で大袈裟にやれやれと表現する少女にため息を漏らし、変な部分で理性的だなと独りごちた。

 

 

「⋯まぁ、良いでしょう。あのような発言をした手前、逃げることは私のポリシーに反します」

 

「へぇ、意外。てっきり受けないと思ってた」

 

「己の発言には責任が伴うものでは?それに⋯仕事とプライベートは区別するタイプなので。相手が誰であろうと、ね」

 

「ふぅん。じゃ、今日はめいっぱい私と対戦してくれるんだ」

 

「いや、しませんが。仕事ですし」

 

「そう言ってくるのは想定済み。安心して、ちゃんと手は打っておいたから」

 

 

 そうして此方から長時間プレイの断りの返事を告げた途端、彼女は何処からか現れたディスプレイを操作して得意げに笑いを零す。

 どうかこれ以上、面倒な現実を突きつけないでほしい。星核ハンターが目の前に現れた時点で頭痛がするというのに常識を軽く飛び越えた衝撃を与えないでくれ。そんな私の切なる願いは、懐で震えた端末を手に取った瞬間に砕かれたことを実感する。

 

 

「⋯はぁ?」

 

 

 そこにはカンパニー本部へ向けた休暇申請のフォームがあった。ご丁寧に私の名前まで入れた送信済みのテキストとして。期間はひと月──────それも、心身的な不調を理由にした文言が記載されている。

 

 

「カンパニーの幹部ってなると楽なんだね。普通の社員なら長ったらしい理由を記載しないとなのに、こんな文章打つだけで受理されるんだから」

 

 

 いや、主題はそこじゃない。確かにカンパニーの福利厚生の充実さは折り紙付きで、幹部に至っては休暇申請も容易いが。そんなことは問題じゃない。

 

 

「いや、いやいやいや⋯期間がひと月で、それも申請理由が心身の不調⋯?」

 

「これならすぐに承認されるはず。心置き無く休めるでしょ」

 

 

 一体、この少女は何を言っているのか。私は段々と覚醒する意識の中で思考が入り乱れる複雑な心境に陥った。

 

 

「待ってください。そもそも、私はいたって健康ですが⋯?」

 

「体裁に決まってるじゃん。真面目にゲームしたいから休暇を使います、なんて言う人がいる?しかもすっごい大きな仕事があるのにさ」

 

「本日から大型案件が控えて⋯」

 

「あー、アスデナ星系のやつね。多分カンパニーが介入する余地はないと思うよ。ピノコニーとは違うけど調和と手を結んだみたいだし」

 

「部下たちには何と説明を⋯」

 

「過労で心身が不調になったため暫く休養します、みたいな感じでいいんじゃない?君たちになら重要な仕事を任せられる、とか何とか言えば解決じゃん」

 

 

 私が目にしているのは悪魔の類なのだろうか。勝手に休暇を申請した挙句、平然と己が所業を誇る一貫した姿勢。最早一種の恐ろしさすら芽生える。

 まさかカンパニーも市場開拓部の幹部がこのような事態に直面するなどとは想像もしていないだろう。かくいう私も傍若無人な星核ハンターに自宅や名前がバレた上、強制的な休暇を得るなんて夢にも思っていなかった。いっそのこと夢であってくれ。

 

 

「今から申請取り消しをするとなれば⋯いや、その場合オスワルド様に説明する義務がある⋯」

 

「そんな難しく考える必要ないのに」

 

 

 誰のせいでこうなったのかと詰め寄りたい気持ちはあるが、それどころじゃない。まず、今から休暇申請を取り消すにしても事由の説明も兼ねて直属の上司であるオスワルド様にコンタクトを取る義務がある。当然福利厚生を担う部署にも話を通さねばならないし、部下たちへも同様だ。

 それに加え、此度の案件を成立させれば間違いなく職級は繰り上がる。私は今の地位にも満足しているが、比例して給与が増えることに異論は無い。その機会をみすみす逃す真似など誰が好んで選ぶのか?

 

 

「カンパニーってさ、申請を取り消すのに面倒な手順がいるんだね」

 

「当然でしょう。仮にカンパニーでなくとも説明責任を果たす必要があるのは道理ですし」

 

「じゃあこのままひと月遊んだら?そしたら説明せずに心置き無く休めるよ」

 

 

 心置き無くの意味を調べてほしい。この状況で安心して休めるとでも言うのか、この星核ハンターは。

 

 

「他人事のように⋯」

 

「だって他人事だし。それにあなたが言ったんでしょ?家に来るなりしてやる気引き出せって。だから強制的にやる気を引き出してあげた。ほんと、感謝してほしいくらい」

 

「⋯その点は失言だったと反省しています」

 

「己の発言には責任が伴う⋯だったっけ。恨むなら自分を恨んでね」

 

 

 何と腹立たしいことか。身から出た錆─────自身の発言がそのまま返ってきたかと思えば、優位にでも立った様子で勝気な雰囲気を放たれたことで己の中に憤りが沸き上がっていく。

 私は決意した。他人の自宅へ無断で侵入して勝手に休暇申請を提出し、終いには調子付く星核ハンターを絶対に泣かせてやると。否、泣かすだけでは物足りない。完膚なきまでに圧倒して勝利を刻み、必ずや謝罪させてやらねば、と。

 

 

「⋯絶対に泣かす」

 

「やれるもんならやってみてよ。期待くらいはしといてあげる」

 

 

 そこから私の強制休暇は始まった。星核ハンターの銀狼と共に、ゲームへ明け暮れる日々を送ることになるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 職場では理想の上司を演じる反面、私生活は幾分が怠けて見える。私は仕事人としてそれなりに顔も知られているし、部下への気配りや同僚との交流も欠かさない。片や琥珀の王に全てを捧げんとする立派な社員として過ごす裏ではゲームに没頭し怠慢を好む人間、社会で生きる上での二面性を我ながら上手く扱える自負があった。

 だからこそ、皆の思い描く“市場開拓部幹部のデュランタ”という印象が崩れることは本来あってはならないこと。ましてや、大型案件が控える数時間前に休暇申請など言語道断である。

 

 もしかすると、私は思った以上に己の想像した理想とやらに縛られていたのだろうか。そう気付かされたのは彼女とゲームをプレイしてから数時間後、何の取り留めもない雑談を交わしていたタイミングだった。

 

 

 

「⋯これ、どういう組み合わせ?」

 

「今どきのメタとは正反対のデッキですよ。私としてはロマン編成で織り込むことも検討したいなと」

 

「でも相性悪くない?新バージョンで追加されたカードでやられちゃうじゃん」

 

「場に数枚のトラップを伏せておけば問題ありません。高火力デッキなら倍返し、ということで」

 

「へぇ。じゃあ私も試しに組んでみよっと」

 

 

 自室でエーテルデュエルの編成を相談し合う仲、というのも可笑しな話。初めは昨日の雪辱を晴らそうと彼女に何度もマッチをせがまれていたものの、気が付けばこうして会話を交わしている。

 現状は勝利数で見れば私が上。だが、次第に接戦となりつつある。今はそんなシチュエーションを互いに打破しようと意見交換を行っている最中だ。

 

 

「⋯ねぇ、変なこと聞いてもいい?」

 

「なんですか。どんなカードを混ぜるのか、という問いにはお答え出来かねますが」

 

「そんなんじゃないって。⋯あなたさ、カンパニーでも結構偉い方なんでしょ?」

 

「⋯まぁ、客観的に見ればその通りかと」

 

「にしては星核ハンターに対して警戒心無さすぎない?もっと、こう⋯なんだろ、懸賞首だーってならないわけ?」

 

 

 ホログラム状態で堂々と私のベッドに腰を掛けて、こてりと首を傾げる。彼女からすれば当然の疑問を口にしたつもりかもしれないが、恐らくそれは仕事熱心なカンパニーの社員に当てはまる真っ当な理由。到底私自身に合致する理念ではなかった。

 

 

「職務を遂行している最中に貴女と出くわした場合は確保の義務が生じる。ただ、プライベートにおいてはその義務はない。今の私は⋯そうですね。半ば強引に休暇を取らされた一般人ですから。仕事でもないのに働くのは御免被ります」

 

 

 本来、私とはこういう人間であった。働かざる者食うべからずといった諺が宇宙の節々で囁かれたように、生きる為に仕事をしているだけのこと。琥珀の王に全てを捧げるつもりもなければカンパニーに執着もありはしない。

 その点、結果を出せば如何なる身分でも這い上がれるカンパニーの土壌はとても生きやすいものだ。市場開拓部責任者のオスワルド様に恩もある以上、仕事には殆ど手を抜かない。そう、殆どは。

 

 

「変わってるってよく言われない?」

 

「職場の人間に私生活は把握されていませんから。カンパニー内でいえば⋯アベンチュリンくんやジェイドさんが知っている程度で」

 

「え、あなたって戦略投資部と仲良いの?てっきり不仲だと思ってた」

 

「上が不仲なだけで、少なくとも私は上手くやっています。先日もアベンチュリンくんとバーで飲み交わしたくらいです」

 

 

 私にとってアベンチュリンくんは仲の良い友人、ジェイドさんはもう一人の恩人とでも言おうか。部門が違えど母体はカンパニーであって、時に協力することも必要不可欠。何やらオスワルド様と戦略投資部の責任者であるダイヤモンド様は不仲らしいが、そこは私の知る必要がない関係性であろう。

 

 

「ともかく、今はこうしてゲームのフレンドと会話を交わしている。他に理由は要りますか?」

 

「ううん、じゅーぶん。⋯その、ありがと」

 

「⋯意外でしたね」

 

 

 そっぽを向いて感謝を口にされるのは予想外だった。素直にありがとを言えるなら、諸々の出来事にもごめんなさいと言ってほしい。

 

 

「意外って、なに」

 

「いえ。こうして感謝されるとは考えてもみませんでしたから」

 

「⋯⋯私をなんだと思ってるの?」

 

「自宅に無断で侵入し、他人の休暇を勝手に申請する悪魔⋯」

 

「悪魔は言い過ぎ。せめて小悪魔くらいにしなきゃ可愛くない」

 

「突っ込む部分を致命的に誤っていませんか?」

 

 

 私はデスク上のモニターに、彼女はホログラムでベッドを占拠。今どきのハッカーとは仮想アバターの挙動をリアルに寄せているのか、さも星核ハンターの少女が自室に入り浸っている錯覚に襲われた。

 こうして雑談にしては生々しい会話を楽しむ間にも、小柄な少女はベッドに転がり込んで自堕落にしている。実体でないことは脚先の青みがかったプログラムの切れ端で分かっているが、にしても精巧に作られ過ぎだ。

 

 勘違いしないでほしいが、彼女と出会って間もなくに何かしらの欲求が沸き立ったなんて馬鹿な話じゃない。こうも警戒心なく男性の部屋に訪問する危機感の無さが心配なのである。

 

 

「これは⋯ええ、実に些細な疑問なのですが。銀狼に男性の友人などはいらっしゃいますか?」

 

「んー⋯あんまり?居るには居るけど、たまーに通話したりするくらいかな」

 

「自宅への訪問経験は?」

 

「ないよ。そもそも私がホログラム用意して行くとか面倒だし、リアルなら尚更でしょ」

 

「では、何故今日は私の自宅に赴こうと⋯?」

 

「⋯あれだけマッチして接戦なの、久々だったし。あとは⋯意地でもリベンジ受けてもらうつもりでいたから?」

 

 

 忘れていた。彼女はハッカーでありながらゲーマーでもあると。私が予想するに男性への警戒心云々なんて関係なく、単純にゲーマーとしてムカついたからメッセージで煽られた通り突撃しただけ────全て私が招いた事態なのに変わりはないらしい。

 

 

「本当に貴女は⋯行動力が有り余っていると言いますか、星核ハンターは個性が強いのだとハッキリ理解しましたよ」

 

「そ。じゃ、早く続きやろ。デッキ組んだからお試しに」

 

 

 割り切ってしまえば楽だ。休暇を取り消すにも手間が掛かる、かといって無為に過ごすのもつまらない。ここはもう、気楽にゲームへ没頭していくことにした。というかそれ以外に選択肢など存在しない。

 幸い、案件自体は部下たちにも一任できる。成立すれば恐らく出世できるだろうから、過労で倒れない程度には頑張ってほしい。

 

 内心、オスワルド様や部下に謝罪を述べておこう。せめてもの謝意に。

 

 

「銀狼には限界まで付き合ってもらいますよ。そのための休暇として割り切ります」

 

「いい心掛けじゃん。よろしく、デュランタ」

 

 

 それから、私たちはゲーム仲間として時間を重ねていく。休暇中に部下から送られた連絡に関しては、纏めて数日後に返信を送ろうと後回しにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







銀狼ちゃんは自由奔放なくらいが似合ってる。


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