ゲームのフレンドがリア凸してきた件について。   作:ふはつう

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訪問と言うには突然すぎる日

 

 

 

 

 

 銀狼という少女はとにかく自由奔放な性格かつ、負けん気が強い傾向にある。一見無愛想に見える言葉や態度の裏にはそういった内心が隠されていて、敢えて取り繕わずに表現するのであれば─────子供らしい一面が顔を出す瞬間があった。

 

 

「ね、あと何回か対戦やったら違うゲームしよ。一緒に協力して出来るやつとか」

 

「構いませんよ。ジャンルは何を?」

 

「うーん⋯昨日はFPSをやったし、今日はホラゲーでもやってみる?すごい怖いって噂になってるやつ」

 

「先日リリースされたゲーム⋯ということだけは把握しています。ちょうど私も興味がありましたし⋯これを機に始めてみましょうか」

 

「⋯やった。それじゃ、一緒にプレイしてサクっとクリアしちゃお」

 

 

 口端を緩く吊り上げて喜びを露わにする素直さ。こうして接していればただのゲーマー少女に見えるものの、実態はゲームでの悔しさを胸に早朝から相手の自宅へと突撃し、本人の承諾なく本部へ休暇申請を提出する悪魔的発想の持ち主である。

 普段からこのように無邪気な姿ばかりであればどれほど良かったか。いや、私は一般論としてそう感じているだけであって、主観に決して私情が混じっているわけではない。

 

 

「二人でやると楽しさ倍増⋯とか、眉唾だと思ってたけど。案外楽しいね。もしかしたら⋯あなたとやってるからかも」

 

 

 だが、ほんの少し。僅かながら異論の余地があることは認めよう。ふとして零れる言葉が動揺を齎しているなどと、そんなことはないが。

 

 

「⋯私も楽しいですよ。銀狼とこのような時間を共にすることは」

 

 

 たった一言。私も同じ心境だと吐露してみれば、彼女は寝転んだ姿勢にて目線を逸らして数秒口を噤む。

 

 

「⋯⋯そっか。じゃあ、このままずっとゲームしてても⋯飽きたりしない?」

 

「さすがに四六時中、とはいきませんがね。とはいえ⋯銀狼には私の休暇に付き合っていただく義務があります。途中で投げ出されては困りますよ」

 

「ん⋯任せて。たっぷり遊んであげる」

 

 

 うつ伏せになりながら携帯型のゲーム機を扱う少女は、傍から見ても嬉しそうに頬を緩める。まるで本望だ、と。声色で伝えるように。なお、微笑んだ表情の愛らしさに心拍が上がりかけたのはひっそり胸の内に秘めておこう。

 

 

「ちなみにですが、銀狼はホラー系統を得意としていらっしゃいますか?」

 

「得意かはわかんない。軽くやったことあるくらいだけど⋯なに?」

 

「ああ、いえ。あまりの怖さに悲鳴を上げてしまうのではと危惧したまでで」

 

「はぁ~?絶対悲鳴なんか上げないし。むしろそっちがびっくりしすぎて恥ずかしい思いするかもよ?」

 

「言いますね。では早速、試してみましょうか。ちょうど対戦も終わったタイミングですし」

 

「望むところ。協力プレイで足引っ張んないでね」

 

「そのお言葉、ご自身に返ってくることになりますよ」

 

 

 互いに煽るのは平常運転。こうして彼女と過ごして一週間と少しの期間、既に私たちの仲は凡そ友人程度の発展具合。趣味がゲームであるから話が合い、半ば友情も芽生えているのだろうか。

 

 

「というより珍しいですね。銀狼がホラーゲームを提案されるとは」

 

「最近みーんなこれやっててさ。たまには流行に乗るのも悪くない⋯みたいな」

 

「流行は⋯ええ、良くも悪くも一瞬のうちに廃れますから」

 

「そ。一人でやるなら絶対嫌だったけど⋯デュランタと二人なら行けると思うし。付き合ってよ」

 

 

 この長くも短い間を過ごしあらゆるジャンルのゲームをプレイしてきたが、ホラーに至っては未プレイ。というのも、銀狼にしては珍しく無意識的にこのジャンルを避けていた様子があるように見受けられたのだ。

 苦手なのかはともかくとして、今まで話題にすらも挙がっていなかった。だが、ちょうど良い機会とも捉えられる。私も毎度振り回されてばかりでは癪だし、精々驚いている様子を見て弄ってやろう。そう己に誓った。

 

 

「⋯うっわ、なにこれ。タイトルから怖そうじゃん」

 

 

 私のモニターに表示されるタイトル画面は明らかにホラー要素満載で、彼女も心做しか顔が引き攣っているように映る。純粋な探索風コンセプトと相俟って、ホラーの耐性がなければ一歩を踏み出すことすら厳しそうだ。

 

 

「おや、臆しましたか?今ならまだ引き返せますが⋯」

 

「冗談でしょ。⋯ほら、早くやろ」

 

 

 という具合で、楽しいホラーゲームの時間は始まりを告げた。時刻にして日付を跨いた辺り、シチュエーションとしても最適。私自身ホラー系統はそれほど苦手なジャンルでもないし、しっかりと彼女のリアクションを記憶に刻むとしよう。

 

 

「え、ちょっと⋯暗すぎじゃない?」

 

「フラッシュライトがなければ危ういところでしたね。あ、ちょっと扉の向こう側を探索してきます」

 

「ジャンプスケアが絶妙すぎ⋯って、ねぇ?ひとりにしないで⋯置いてかないでってば!」

 

「包帯と幽霊を足止めするためのアイテム⋯他には何も無さそうか⋯?」

 

「呑気に探すより迎えに来て!幽霊に追っかけられてるっ!」

 

 

 開始から一時間足らず、既に銀狼は大声を上げて迫真のリアクションを連発している。私はそそくさと傍から離れアイテムを探索したり各所を調べて回っていたところ、悲鳴にも似た声色で何度も援護を頼まれる結果に。

 だが、ホラーゲームは探索自体も肝要。アイテムの有無でクリアの難易度も変わる、という建前を掲げながら一人での探索を強行した。

 

 

「邸宅が舞台にしては広大すぎるような⋯銀狼、そちらの状況は?」

 

「追われてる!だから⋯早く戻ってきてっ!!」

 

「少々お待ちを。奥の部屋が未探索⋯」

 

「いいから、はや────ひぁっ!」

 

 

 なんとまぁ、良い反応ばかりしてくれるのか。気怠けだった雰囲気から一変、数十秒に一度は起伏のある悲鳴を零して恐怖と動揺の板はざみ。即ち、ホラーの本質を直に体感している姿がそこにはある。

 仮にこのまま私が傍観者を気取っていた場合、銀狼は絶えず悲鳴を上げるのか?更にリアクションを引き出したい好奇心は拭えないが、ゲームの前提として協力プレイがある以上は長々と一人残すのも申し訳が立たない。

 

 私はゆっくりと彼女の追われている場所へと赴き、先程入手したアイテムで敵モンスターを足止めする。そんなタイミングで銀狼は身体を震わせながら視線を私へと移し、睨みつける眼を浮かばせた。

 

 

「遅いんだけどっ!なに、もっと早く来れなかったの?」

 

「無茶を仰らないでください。私が探索して手に入れたアイテムがあればこそ、幽霊から逃げられたでしょうに」

 

「それはそうかも⋯じゃなくて。わざと遅れたりしてないよね?」

 

 

 じっ、と目線を注がれようと私の表情が揺らぐことはない。ここは分かりやすく惚けるとしよう。

 

 

「⋯はて、なんの事だか」

 

「すっとぼけてもダメ。ぜったいリアクション楽しんでたでしょ」

 

「いやいや、有り得ませんよ。まさか私が『一週間前の仕返しで反応を楽しんでも罰は当たらない』と思って傍観していたとでも?」

 

「う⋯そこは、ほら⋯悪いと思ってるけど⋯」

 

 

 分かりやすく眉が下がった表情は素直さの表れか、はたまた敵モンスターから逃げ切った安堵感が味わわせたものか。しょんぼりと効果音が付加されそうな雰囲気に思わず微笑みが溢れてしまう。

 

 確かに一週間前のテロじみた件に思う所はないこともないが、一度起きてしまったことを後に引き摺るなんて私の性格からすれば非常にらしくない。

 大人として分別をつける事は当然だ。尤も、休暇自体は正当な権利に他ならない。先に取るか後に残しておくかの違いでしかないのだ。ただ、ひと月は贔屓目に見ても異常なのは否定しようもないが。

 

 

「冗談です。貴女はただ、私とゲームを一緒にしたかった。理由は唯一、これだけでしょう?カンパニーの幹部を失脚させたいだとか、そんな目的は無いはずだ」

 

「⋯うん」

 

 

 遅れて届く返事を己の中で咀嚼し、柔らかく彼女に言い聞かせた。

 

 

「実の話⋯今期は比較的長期に渡る案件が多かったので、休暇自体取れずにいたんです。取得した日数はあまり褒められたものではありませんが⋯過労で倒れるよりはマシ、と。そう思うことにしました」

 

「⋯⋯怒って、ない?」

 

「ええ。ですが、多少やり返すくらいはお許しを。見ての通り、私もやられっぱなしでは終われない性格ですので」

 

 

 これは紛れもなく理性に基づく判断。時間を共有していくうちに怒りは薄れていったのは、私自身がよく理解している。でなければ銀狼という少女を友人とは捉えない。仮にゲームへ誘われたとて無視していた。

 モニターに映る一人称の視点を動かしながら、独り言のように本心を吐き捨てる。やがて、小さく言い淀んだ言葉が微かに息を呑む音を介して聞こえた気がした。

 

 

「⋯ありがと。やっぱり、あなたといたら心地好いね」

 

「私もですよ、銀狼」

 

 

 どうやら先ほどの言葉は独り言だったらしい。私が間もなく反応してみたところ、不服そうに視線が向けられる。

 

 

「⋯普通は聞こえてないのがお決まりなのに」

 

「私は鈍感な物語系の主人公ではないので。しっかり、一言一句記憶させていただきました」

 

「⋯ほんと、良い性格してる」

 

 

 貴女ほどではない。そう言いかけた瞬間に銀狼の操作するキャラクターの背後で幽霊が出現し、部屋が悲鳴に包まれたのはそう遠くない未来の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『寝れなくなっちゃった』

 

「はぁ⋯⋯?」

 

 

 ゲーム廃人並の時間を費やし、ホラーゲームを不眠不休で攻略し終えた数分後の事。お互いに睡魔の圧力が身体を押さえつけ眠りへと誘う最中、銀髪の少女は控えめに私へと言葉で寄りかかる。

 私がゲームを終える時、彼女もまた同様に切り上げた。小柄な少女を投影したホログラムは当然消えているのだから、本来はそこで交流が一旦終了すると見るのが普通だろう。

 

 しかし────気が付けば通話の開かれた携帯型端末が枕元にあった。相手は勿論、銀狼に繋がって。

 

 

「銀狼、いつ私は通話に切り替えたのでしょうか⋯?先ほどまでデスク前に居たはずが、瞬きの間にベッドへ寝転んでいましてね⋯」

 

『さっき思いきり倒れ込んでたじゃん。それよりこのまま寝れなくなったら⋯どうすればいい?』

 

 

 私の記憶違いか⋯?既に時間感覚が薄れていて、追い討ちに睡魔の猛威も無視できない。ゲームで起こった数々のリアクションを目にした満足感から、頑なに意識を保たねば数秒で眠りに堕ちてしまいそうだ。

 

 

「逆に私は今にも眠ってしまいかねません。⋯提案としては一つ。小動物の愛らしい動画を眺め、恐怖心を薄めるという⋯」

 

『それで怖さが和らぐと本気で思ってる?』

 

「⋯すみません」

 

 

 眠気の中での提案を一蹴され、私は為す術なく閉口した。

 

 

『あなたはそんなにじゃないかもしれないけど⋯すっごく怖かったんだから。どっかの誰かさんが中盤まで一人ぼっちにしたせいで』

 

「故意ではありませんので⋯」

 

『⋯何か言った?』

 

「いえ、なにも」

 

 

 さすがにやりすぎてしまったらしい。声色からしても己が線引きを失敗したのだと理解する一方、半ば不機嫌になる理由に納得はいかないが。

 

 

『⋯私が寝れなくなったのはあなたのせい。でしょ?』

 

「それは単純に貴女の恐怖耐性が⋯」

 

『へー、そうやってあなたはびびってる女子を苛めて楽しんでるんだね』

 

「⋯私のせいです」

 

 

 眠気が募っていなければ反論の一つや二つを余裕で投げ付けたというのに、呆けてしまって意識も揺らぐ己自身が本当に情けない。

 思考する余裕は微かに残ってはいる反面、ここで重ねられる会話を起床後にも覚えていられるかと問われれば危うい。誰しも眠気が極限まで近付けば同じ状態に陥るはずで、断片的に記憶が残っているが正確に思い出せない────むず痒い状態が目覚めた後に待ち構えていそうな。

 

 

『うんうん、眠れなくなったのあなたのせい。ならさ、私が眠れるように手助けしてくれる?』

 

「私がお力になれるのであれば⋯?」

 

『⋯確かに言ったからね。言質も取ったから』

 

 

 とにかく眠い。朧気になりつつある声へ辛うじて言葉を返し、欠伸を漏らす。もしかすると今期一番に味わうほどの強烈な眠気だ。

 

 

「すみません、私はもう限界なので⋯」

 

『ん、じゃあおやすみー。私も少ししたら()()()に行くから』

 

「は、行く⋯?とは⋯なん、⋯⋯」

 

 

 その晩、私は抗えない睡魔に駆られ眠りへと落ちた。微かに届く声には『 エーテル 』といった単語が混じっていた気もするが、多分気の所為だ。

 

否、そうであってほしい。銀狼の口にするエーテルなんて単語が指すのは一つ、それは彼女の代名詞と例えられる技術の──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯おはよ。目は覚めた?なら、一緒にご飯食べよ」

 

「⋯⋯はぁ?」

 

 

 数時間後。しっかりと銀狼のリアクションを記憶した私は途中で目が覚めることもなく睡眠を終え、起床する。普段ならば真っ先に見慣れた我が家の天井が眼に映るはずだったが─────今しがた、私の視界を独占するのは得意気に笑う無邪気な少女の顔だった。

 

 それも実体の、ホログラムでは味わえないリアルの温もりを携えているオマケつきで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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