そろそろ原作キャラ出したいよおおおお!!
夜の新宿は、眠らない街だと言われる。
確かに、灯りは消えない。呼び込みの声も、笑い声も、酔った足音も、どれもが夜の闇に逆らうように暴れている。日本一の歓楽街――その名に恥じない喧騒が、どこまでも続いているように錯覚する。
けれど。
その外れには、妙に静かな場所がある。
派手なネオンが届かない。人の波が途切れる。音が薄まり、かわりに“空気の重さ”が増していく。
俺が叩き落とされたこの空き地も、そのひとつだった。
だだっ広い。
何に使うのか分からない更地。工事の途中で止まったのか、最初から用途が決まっていないのか、ただ無駄に広い。地面は砕石と固い土が混じり、ところどころに鉄筋が突き出している。フェンスがぐるりと囲んでいるが、角の一部は歪んでいて、その気になれば簡単に入り込めそうだ。
風が抜ける。
ビルの谷間から滑ってきた夜風が、空き地を遠慮なく横切っていく。土埃が舞い、砕石がかすかに転がる音がした。遠くでは車の走行音が絶え間なく続いているのに、ここだけが置いていかれたみたいに静かだ。
空は見える。
新宿の夜空なんて、美しくもない。本来の黒じゃない、光害で灰色に濁った景色が広がるだけだ。けれど、雲の切れ間から月が覗くと、薄い銀の光が地面を撫でた。砕石の一粒一粒が、冷たい光を返している。
その光の反射の中に、黒い影がいた。
首のない巨大な黒馬。
断面から黒い血が滴り落ち、地面に落ちては染みのように残る。血の匂いはしない。ただ、呪力の生臭さが漂う。頭がないのに、存在感だけは異様に強い。
その背に、落ち武者。
矢が刺さり、鎧が裂け、闇をまとっている。槍は長く、刃先が歪で、月光を鈍く噛んでいる。その口からはぶつぶつと、言葉にならないうわ言が漏れていた。
俺は、呪霊形態のまま、距離を保って向き合っていた。
さっきの一撃で吹き飛ばされた痕が、身体のあちこちに残っている。痛みはある。けれど、痛みは今、優先順位が低い。
重要なのは、こいつの正体だ。
呪力の流れは嘘をつかない。
馬でも、武士でもない。あの見てくれに呪力が集まっているわけじゃない。中心は、鞍と手綱だ。そこに呪力が集束し、そこから馬と武士を“操っている”。
本体は鞍と手綱。
分かった瞬間、心のどこかが冷たく落ち着いた。
倒すべき場所が見えたからだ。
だが、分かったから勝てるわけじゃない。
腐食液は、当たらないだろう。相手の動きが速すぎる。
鞍へ触れるために、近づく必要がある。近づくためには、あのほぼ必中の加速を、どうにかしなければならない。
俺は、息を整えながら策を練った。
どう止める。
どう外す。
どう壊す。
落ち武者呪霊も警戒しているのか、すぐには仕掛けてこない。
馬は首もないのに低く鼻を鳴らすような音を立て、蹄が砕石を軽く蹴る。武士の身体は槍を構え、微動だにしない。
沈黙が続く。
遠くの喧騒が、壁越しの音みたいに薄く聞こえる。ここには俺たちの呼吸と、黒い血が落ちる“ぽたっ”という音と、風がフェンスを鳴らす金属音しかない。
そのとき。
空き地の端、フェンスの歪んだ隙間から、何かが飛び込んできた。
「おい! お前さん! 生きてるか!」
糞爺だ。
小脇に壺を抱えて走ってくる。小さい身体で必死に。夜の光に照らされて、顔が青白く見える。あいつなりに焦ってるのだろう。息が上がり、肩が上下している。
俺は内心で舌打ちした。
余計なものが増えた。
だが、その余計なものは――使える。
落ち武者呪霊が、一瞬だけ糞爺の方へ顔を向けた。
ほんの一瞬。
視線が逸れた。
俺はその瞬間に、頭を下げた。
深く。
角度をつけて。
スーツミイラ呪霊の術式が発動する。
空気がひび割れるような感覚。俺の呪力が、相手の内部へ潜り込む。
落ち武者呪霊の身体が、ぴくりと揺れた。
馬の脚が一歩、変な角度で止まる。武士の口から、ぶつぶつしていた音が変質した。
「……な、ぜ……」
うわ言のように、それだけが漏れる。
苦しんでいる。
負の記憶が引きずり出されている。
激しい頭痛が起きている。
相手の精神の核が揺れた。
俺は迷わない。
腐食を纏った呪力を腕に集め、地面を蹴って突っ込む。
狙うのは当てやすい鞍。
触れさえすれば、溶かせる。
距離が詰まる。
空気が切れる。
――行ける。
そう思った瞬間。
落ち武者呪霊の手がブレるように動き、反射的に槍を振るった。
受け流し。
(マジかよ…!)
まるで、熟練の武芸者みたいに。
俺の腐食の一撃は、槍の柄でいなされ、逸らされる。直撃を避けられた。
次の瞬間、反撃が来る。
槍の穂先が、俺の脇腹を狙って突き込まれる。
速い。
雑な速さじゃない。練られた速さだ。無駄がない。体重移動、腕の角度、馬の加速――全部が噛み合っている。
(コイツ…!!)
こいつは、武芸を用いる呪霊だ。
ただ速いだけじゃない。速さを“技術”で殺傷力へ変えている。
歪んだ槍先が俺の体表を掠め、肉を削った。痛みが走る。黒い血が少し飛ぶ。
落ち武者呪霊は、そのまま俺にとどめを刺そうと槍を引き戻し――刺し込む。
だが。
槍の柄が、途中で“ぐにゃり”と歪んだ。
俺の腐食が、受け流された時に槍に触れていたのだ。
腐食は遅れて効く。
相手の技術の速さに、俺の腐食が追いついた。
柄の一部が脆くなり、引き戻す力に耐えきれず――折れた。
落ち武者呪霊の刺突は、空を切った。
その瞬間。
俺は鞍へ向けて再び腐食を叩き込もうとする。
だが、落ち武者呪霊は高速で馬を走らせて避けた。
砕石が弾け、地面が抉れる。馬の動きが、常識を超えている。首がないのに正確に駆け、跳び、距離を取る。
(……空を飛んだのも、今の加速も)
おそらく術式だろう。
じゃないと、馬が空を駆ける説明がつかない。翼もないのに。
呪いの王や天与の暴君でもなければ、空気を地面には出来ないのだ。
槍を失った落ち武者呪霊は、腰の刀を抜いた。
月光が刀身に反射し、冷たい線が夜に走る。
刃は長く、薄く、冴えている。あれで切られたら、肉体だけじゃなく呪力の層まで裂けそうだ。
落ち武者呪霊は姿勢を低くした。
馬も、蹄を踏みしめる。
突撃の体勢。
俺はその構えを見て、逆に落ち着いた。
相手は速い。攻撃はほぼ必中。
(なら──"止めればいい")
俺の中で、策が形になる。
俺は、動かない。
極限まで集中して、待ち構える。
少し離れたところで、糞爺が叫んだ。
「おい! 何やってんだ! 逃げろ! あれが来るぞ!」
うるさい。
糞爺の必死の助言を俺は無視する。
落ち武者呪霊の乗った馬が、蹄で地面を掻く。
ざり、と砕石が削れる音。
次の瞬間、突撃が始まる。
世界が伸びる。
夜風が切り裂かれる。
距離が消える。
俺は喉へ、あらん限りの呪力を込めた。
声帯が焼けそうになる。空気が震える準備をする。呪力が、音の形に整う。
そして、全力で叫ぶ。
「とまれっっっ!!!!」
音が、空き地を貫いた。
呪力が、線ではなく“面”になって叩きつけられる感覚。空気そのものが命令を帯びる。
動き出した瞬間の首のない馬が、硬直した。
勢いだけを残したまま。
硬直した身体は、制御を失い、激しく転倒する。
土と砕石が爆ぜ、馬体が地面を転がる。
落ち武者呪霊は、勢いよく馬から投げ出された。
そして――本体は鞍と手綱。
馬から降りた瞬間、あの落ち武者は“身体の芯”を失ったように動きが鈍る。馬も、藻掻くように脚を動かそうとするが、硬直が残ってぎこちない。
俺は飛び掛かった。
狙うのは鞍。
腐食を全力で纏い、掌を叩きつける。
じゅうう、と嫌な音。
革が溶け、呪力が泡立つ。怨念が悲鳴のように軋む。
呪霊の核が露出する。
俺は逃がさない。
さらに呪力を込め、腐食を深く刺し込む。
溶ける。
裂ける。
切れる。
「──つよかったぞ、おまえ」
ぎこちない台詞が、夜風の吹く空き地に響いた。
首無し馬と動かなくなった落ち武者は、すぐに残穢となって崩れた。黒い霧が夜風に散り、空き地の土へ吸い込まれていく。
残ったのは、鞍と手綱だけ。
腐食でだいぶ溶けてしまっている。もったいない、と思った自分に、少しだけ笑いそうになった。
§
俺が笑いをこらえていると、糞爺が近づいてきた。
さっきまでの青白さが、少しだけ戻っている。息はまだ荒いが、目は俺を見ている。
「……やるじゃねぇか」
糞爺は、珍しく素直な声で言った。
「まさか、アイツの攻撃が来る瞬間を狙うたぁな。お前さん、肝が据わってやがる」
「べつに」
俺は短く返した。
糞爺は周りを見回し、俺の身体の傷に目を留める。
「……悪い。俺、何の役にも立てなかった。すまねぇ」
謝る糞爺は、妙に人間臭い。
俺は冷静に言い放った。
「そもそも、おまえに、せんとうのうりょくは、きたいしていない」
糞爺の顔が引き攣った。
「はぁ!? おい! お前、今それ言う!? ちょっとくらい労えよ! 俺だって――」
「うるさい」
俺は恒例となりつつある糞爺の喚きを無視して、地面に残った鞍と手綱を拾い上げた。
腐食で溶けているせいで、形が崩れかけている。革の縁がふやけ、手綱はところどころ千切れていた。だが、呪力はまだ甘く濃い。
俺は口を開けた。
喰う。
噛み切る感触が硬い。革が歯に引っかかる。けれど、呪力を通すと“食えるもの”になる。舌の上で、甘さが広がった。
甘い。
かなりの呪力の甘さ。
焦げた砂糖のような、苦みを含んだ甘さが喉の奥へ沈む。腹の底がじわりと温まる。
そして、記憶が流れ込む。
"轢き逃げ"。
夜道。ヘッドライト。距離がない。避けられない。衝撃。地面。回転。痛み。息が詰まる。声が出ない。助けての言葉が喉で潰れる。去っていく車。テールランプ。遠ざかる希望。
恐怖と絶望が、骨に残る。
次に、"裏切り"。
武士――落ち武者。
戦場。泥。血。味方。信じた背中。刃。熱。冷たい目。捨てられる感覚。怒りが内臓を焼く。
俺は、丁寧に咀嚼を続けた。
味を堪能するだけでなく、記憶を受け取るように。
糞爺は隣で、相変わらずドン引きしていた。
「……お前、ほんと、そういうとこだけは見慣れねぇわ」
「みなれなくて、いい」
そして、俺が最後の手綱の断片を喰い終えたとき。
空き地の端、フェンスの向こう側に、立っていた。
一見して、人間のようにしか見えない。
ゆったりとした服。柔らかい立ち方。夜風に揺れる布が、妙に自然だ。
顔面にはツギハギがある。
縫い合わせた跡が、皮膚を歪ませているのに、その笑顔は親しげで、気持ち悪いほど人懐っこい。
糞爺が息を呑んだ。
「……なんだ、アイツ…!」
そいつは軽く手を振った。
「やあ。すごいね、君」
場にそぐわないほど声は明るい。友達に話しかけるみたいな軽さ。
俺の背中の羽が、無意識に緊張する。
呪力が、違う。
量が違う。濃度が違う。質が違う。圧が違う。空気が、そいつの存在だけで変質する。
俺は、その名を知っている。
特級呪霊──真人。
真人は、俺と糞爺を交互に見て、楽しそうに笑った。
「ねえ、少し話さない? 君たちから、面白い匂いがするんだ」
糞爺が、かすれた声で呟く。
「……やべぇ、何だアイツ…。マジでやべぇぞ……」
俺は息を吐いた。
夜の新宿は、昼の新宿よりずっと正直だ。
人間の負の面を映し、呪いを育てる鏡。
そして今、俺の目の前にいるのは――その負の面が、形になって笑っているものだった。
原作キャラ出したいので出しました。
オリジナル呪霊紹介
落ち武者呪霊
【仮想怨霊:鞍野郎】
(アイデア元:"ゴマタンゴ"さん)
等級:一級呪霊
姿:首無しの馬に乗った落武者(兜はなし)だが、
本体は武士ではなく鞍と手綱である。
発生原因:自動車やバイクに轢き逃げされた被害者達の怨念が事故現場に放棄されたものに「付喪神の鞍野郎としての裏切られた武士の鎌田政清」をベースとして生まれた怨霊。
戦い方:典型的な馬で近づいて切る武者のスタイルだが、本質はその加速にある。被害者達の"轢かれるまで気付けなかった、気付いたら手遅れだった"という恐怖や怨みにより発現した術式で爆発的な加速を得ているため、基本的に突進攻撃は必中。またその速度で攻撃力も増しているため、この呪霊を祓いに来た1人の二級術師が初見殺しされている。武士としての記憶が残っているため、武芸の心得もある。
術式:自身に対し、指定した方向への加速度を付与する。加速度は呪力量で調節可能。投射呪法を扱いやすくしたバージョンと言ってもいい(その分できることは投射呪法より少ないが)。最高速度では投射呪法に負けるが、初速では上回る。
かなりカッコよく、呪霊らしい呪霊ですね。本来の設定では2級相当で、術式も持っていませんでしたが、凄まじい速度で強くなりつつある主人公くんにぶつけるため超強化しました。