呪霊王におれはなる!!   作:トックー0322

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オリキャラを考えている時が、一番生を実感する! みんなもそうだろ?(洗脳)


【幕間】正体不明と待機命令

 

【呪術高専所属 一級術師 縣由紀恵(あがたゆきえ) 視点】

 

──2018年4月7日 11時41分──

 

 東京の郊外──地図で探せば確かに“東京”の範疇に収まるはずなのに、体感はもうほとんど別の県みたいな山奥だった。

 

 電車を降りた時点で空気が違う。排気ガスと甘い香水と人の体温が混ざった都会の匂いが薄くなって、かわりに土と木の匂いが前へ出てくる。

 肺に入ってくる空気が、ひんやりと乾いている。春のはずなのに、日陰はまだ冬の名残みたいに冷たい。

 

 道は細い。アスファルトの端が崩れていて、落ち葉が溜まり、苔が点々と広がっている。

 車がすれ違うには少し窮屈で、時々、木の枝が道路へ低く伸びて影を落とす。風が吹くと枝が擦れて、カサカサと乾いた音がした。

 

 山は静かだった。

 

 鳥の声が遠くで響き、風が葉を揺らす音がそれに重なる。人間の会話やスマホの着信音みたいな“人工の音”がほとんどない。たまに、遠くで工事車両みたいな低いエンジン音がするくらいだ。

 

 それでも、ここは“完全な自然”ではない。

 

 どこかに人の気配がある。道の曲がり角に小さな祠があり、榊が供えられている。石段の脇に、手入れされたような竹が立っている。

 誰かが定期的に来ているのが分かる。人間は山を放っておけないらしい、自分の領域を作りたがるのだ。

 

 呪術高専東京校は、そんな山の懐に紛れるようにあった。

 

 門をくぐると、空気がさらに変わる。

 

 今度は“清い”とか“澄んでいる”とか、そういう言葉では片付かない、妙に整っている。

 呪力の流れが、ここだけ別の規則で回っているのが分かる。結界が張られているのだろう。目に見えない膜が、外の空気と内の空気を分けている。

 

 敷地内には古い木造建築が立ち並んでいた。

 

 昔ながらの瓦屋根。黒ずんだ柱。木目が浮いた廊下。どれもが時代遅れのはずなのに、手入れが行き届いていて、古さが“みすぼらしさ”になっていない。

 

 逆に、重い。

 

 長い時間がここに積もっている。木に染み込んだ湿気と、線香の香りと、紙の匂いが混ざったような空気。歩くだけで、背筋が少し伸びる。アタシは、こういう空気が苦手だ。

 

 重いうえに、偉そうだから。

 

 敷地を横切る石畳は、雨に磨かれたみたいに滑らかだった。石と石の隙間に砂が詰まり、苔が薄く生えている。歩くと、靴底が石の冷たさを拾う。

 

 アタシは、その石畳の上を歩いていた。

 

 女の割に背が高いから、歩幅は自然と大きくなる。けれど、敷地内では意識してそれを抑える。ここでドカドカ歩くと、怒られる。誰に、とは言わない。なんとなく、こういう場所は“そういう場所”なのだ。

 

 長い黒髪を、風が少し揺らす。

 

 見た目だけなら、冷たい雰囲気の美人──そう言われることもある。表向きは清楚に振る舞っているし、制服めいたスーツもちゃんと着る。髪も整える。化粧も、最低限はする。

 

 ……最低限、というのは、あくまでアタシ基準だ。

 

 石畳を歩ききると、階段が現れた。

 

 長い。

 

 やたら長い。

 

 段数が多いだけじゃない。幅も広く、段の高さが微妙に足を苛つかせる。登りきるまでに、何回か息を吐かなきゃいけないタイプの階段だ。

 

 「……なんでこんな長いの」

 

 口に出してから、しまったと思う。

 

 誰もいない。けれど、こういう場所は壁や柱が聞いている気がする。高専の敷地って、そういう感じがある。古い木が、余計な愚痴を覚え込んでしまいそうで嫌だ。

 

 アタシは階段を登る。

 

 一段、一段、足を上げるたびに太腿がじわりと熱くなる。呪術師としての身体能力はある。普通の人間よりは楽なはずだ。なのに、この階段は嫌に長い。設計したやつは絶対性格が悪い。

 

 登りきった先に、敷地内でもひときわ大きく、絢爛な木造建築が立っていた。

 

 立派すぎる。

 

 「……どんだけ金かけてんのよ」

 

 思わずまた愚痴が漏れる。

 

 屋根は重厚で、柱は太い。彫刻の装飾まである。古い建物なのに、崩れそうな気配がない。むしろ、威圧感がある。ここに来るだけで“格”を思い知らされる。

 

 今日ここに来たのは、呪術高専の上層部の一人に呼ばれたからだ。

 

 理由は聞かされていない。

 

 こういう呼び出しは、だいたいろくな用事じゃない。しかも、休日に近い土曜日の昼。わざわざ呼びつけるってことは、緊急か、面倒か、その両方だ。

 

 建物の中に入ると、廊下はひんやりしていた。

 

 木の床が軋む。香の匂いが薄く漂っている。壁にかかる掛け軸が、妙に目を刺す。意味は分からない。分からないのに、“見られている”感じがする。

 

 廊下を渡り、いくつかの襖を越える。

 

 足音を小さくする。姿勢を整える。顔を無表情に近づける。表向きの清楚を、ここで発動させる。

 

 最後の襖を開けると、座布団に正座した初老の女性がいた。

 

 きっちりとした着物。

 

 背筋は真っ直ぐで、指先まで落ち着いている。髪は黒く、艶がある。年齢相応の皺はあるのに、肌の張りが不自然に若い。目だけが、底知れないほど古い。

 

 上層部の人間だ。

 

 アタシは襖を閉め、畳に膝をついて頭を下げた。

 

 「お呼びでしょうか」

 

 声は丁寧に。余計な感情は混ぜない。

 

 向かいの座布団に正座する。膝が畳に沈む感触が、妙に生々しい。足が痺れるのが嫌で、内心では早く終われと思っている。

 

 初老の女性は、こちらを見て静かに言った。

 

 「縣由紀恵」

 

 名前を呼ばれるだけで、背中が少し固くなる。

 

 「あなたがこれから祓うべきだった呪霊──新宿の一級呪霊が、祓われました」

 

 一瞬、言葉が理解できなかった。

 

 「……はい?」

 

 素の声が出そうになるのを、ぎりぎりで抑える。

 

 新宿の一級呪霊。

 

 最近、轢き逃げが頻発している地点に現れるというやつだ。補助監督の報告では危険度が跳ね上がっていて、実際、二級術師が一人やられている。

 

 だから呪術高専からは“手出し厳禁”と触れが出ていた。

 

 ……それを、祓った?

 

 アタシが行く前に?

 

 「誰が祓ったんですか」

 

 敬語のまま問いかける。喉が乾く。

 初老の女性は、あっさりと言った。

 

 「わかりません」

 

 余計な抑揚もない。まるで天気の話みたいに淡々としている。

 

 「ただ、現場を見た補助監督が言うには──その呪霊の残穢の他に、複数の術式の痕跡が残されていたそうです」

 

 複数の術式。

 

 なら、呪術高専に所属していない術式持ちが、複数で祓ったのか。

 

 術師の集団? 呪詛師? それとも、別系統の何か?

 

 アタシの頭の中で、いくつも仮説が走る。

 そして、すぐに察する。

 

 ──だからアタシは呼ばれた。

 

 正体不明の集団を追うためだ。

 だが、初老の女性は続けた。

 

 「あなたには、待機を命じます」

 

 「……は?」

 

 今度は本当に素の声が出た。

 

 待機?

 

 状況が動いているのに?

 

 「何故ですか」

 

 食ってかかる。敬語は崩さないが、語尾が硬くなる。アタシの中のガサツが顔を出しそうになる。

 

 初老の女性は、視線を落とさずに言った。

 

 「ここ数日のうちに、新宿で多くの呪霊が正体不明の存在に祓われています」

 

 心臓が一拍遅れる。

 

 多くの呪霊。

 それが偶然なわけがない。

 

 「さらに──都内の電車内を縄張りとする、"例の呪霊"の姿も、ここ数日の内に確認されなくなりました」

 

 電車内を縄張りとする例の呪霊。

 

 高専内でもたびたび話題になるやつだ。人の便意を誘発させる術式を持ち、美女を狙って術式を仕掛ける呪霊。

 昔に、呪術高専の前身組織と結んだ縛りとやらのせいで、こちらから危害を加えられないという忌々しい存在だ。

 

 それが消えた?

 

 初老の女性は言葉を続ける。

 

 「この件と関係しているかは分かりません。しかし、実力者以外が下手に手出しをするべきではない」

 

 アタシの中で熱が上がる。

 

 「……一級術師の自分は、実力者ではないと?」

 

 言ってしまった。

 

 内心では、これを言ったら面倒だと分かっている。分かっているのに、口が止まらなかった。アタシはそういうところがある。損する性格だ。

 

 初老の女性は眉一つ動かさず、静かに答える。

 

 「この件は、あなたでは荷が重い。五条悟が適任でしょう」

 

 耳の奥が、かっと熱くなる。

 

 ……また、五条。

 

 いつもそうだ。

 

 何かあれば五条悟。厄介なら五条悟。危険なら五条悟。全部アイツに投げる。投げられるだけの力があるのは分かる。認める。

 

 でも。

 

 悔しい。

 

 自分が“一級”で止まっていることが。適任じゃないと言われることが。上層部の口から当然みたいに言われることが。

 

 アタシは唇の内側を噛んだ。

 

 「……承知しました。待機します」

 

 納得していない。けれど、命令だ。

 

 この場で逆らっても、意味がない。術師としての扱いが悪くなるだけだ。アタシは表向きの清楚を維持して頭を下げ、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

   §

 

 

 

 

 

 

 階段を下りる。

 

 さっきより乱暴に。

 

 足音が大きくなる。石段に靴が当たる音が、山の空気に響く。誰もいないのに、苛立ちだけが増幅される。

 

 内心では、不満が溢れていた。

 

 まず、五条悟。

 

 アイツはアタシより二つ上の世代。学生時代、散々イジられた。いや、イジられたって言葉が生ぬるい。弄ばれた。実力差を盾に、面白半分で心を削ってきた。

 

 実力は認める。

 

 認めざるを得ない。

 

 けれど、内面は人間のクズそのものだ。尊敬できる要素が一つもない。あんなのを“現代最強”だとか持ち上げてる世界が、まず気に入らない。

 

 七海先輩の方が人として何百倍も上だ。

 

 誠実で、理性があって、仕事ができて、余計なことを言わない。ああいう大人がいるから、呪術師の世界もギリギリ保っている。五条悟みたいなのがいるから、壊れる。

 

 次に、さっきの初老の女。

 

 ……老いを遅くする術式だかなんだか知らないが…。

 

 とっくに100歳超えてんのに若作りしすぎだろ! 必死か!

 

 つーかあんた、あの糞爺にビビりすぎだろ!

 

 あんなのただの脱糞好きなクソ雑魚呪霊じゃない!

 

 あんなキモいの、縛りがなかったら今すぐアタシが祓ってるわ!

 

 頭の中で暴言が止まらない。

 

 それが表に出ないように必死で顔を冷たく保つ。清楚な美人は、こんなこと考えていない。考えていない顔をしろ。目を細めろ。口角を上げるな。

 

 でも、歩き方が男臭くなってしまう。

 

 ついつい、ドスドスと。

 

 ……こんなんだからアタシってモテないんだろーな。

 

 ふっと、そんな自虐が出てくる。

 

 26歳、独身。彼氏なし。

 

 別に欲しいわけじゃない。けど、欲しくないって言うのも強がってるみたいで癪だ。

 誰かと一緒にいるより、一人で酒を飲んでる方が楽だし、誰にも気を使わないでいい。

 

 趣味は酒盛り。ひとりで。

 今日もそうするしかない。

 

 アタシは階段を下りきり、石畳を乱暴に踏んで、門の方へ向かった。

 

 (帰りにスーパーでお酒買おう…)

 

 今日はもう何もすることがない。

 

 待機命令。

 つまり、家で待て。余計なことをするなってことだ。

 

 だったら、やけ酒だ。

 

 家で飲む。強めのやつを。グラスじゃなくて缶でもいい。つまみは適当だ。胃が焼けるくらいのやつを流し込んで、頭の中の五条悟と上層部を全部沈めてやる。

 

 そう決めた瞬間、少しだけ呼吸が楽になった。

 

 山の空気は冷たい。

 

 なのに、胸の奥はまだ熱い。

 

 アタシはその熱を抱えたまま、門の外へ出ていった。

 

 

 




縣さんは個人戦闘力の高い歌姫さんみたいな感じです(精神面はまだ未熟。最近一級になったばかりなので、実力も一級の中では弱い方)。世代的には伊地知さんと同世代ですが、関係はあまり深くありません(縣さん側は仲良くしたいのに、伊地知さん側が怖がって遠慮している)。


第二章も終わったのでキャラ振り返り。

主人公くん:現在の実力的には一級上位相当。特級以外にはほぼ負けない。ちょっと強くしすぎたかも。意外と糞爺が精神的支柱になりつつある。

糞爺:愉快な脱糞好きの糞爺(美女限定)。壺を作るのが上手いだけの爺と思いきや、何やら過去に色々ある様子。主人公くんに過去の自分を重ねている。

真人:主人公くんたちに誘いは断られたが、それはそれとして主人公くんたちとは仲良くしたいと思っている。主人公くんたちが新宿から去った次の日に、主人公くんたちにもう一度会いに行こうと探したけど見つからなくて寂しくなった。

久遠さん:第一章の幕間に出てきた二級術師のおじさん。担当の窓の女の子(通称:窓ちゃん)とはあんまりそりが合わない。呪術高専に主人公くんが残した痕跡について報告したが、ほぼ同時期に主人公くんが新宿で大暴れしたために、あまり取り合ってくれなかった(主人公くん成長早すぎ問題の弊害)。そのことを窓ちゃんに言ったら、窓ちゃんが自分だけで主人公くんの痕跡を追おうとしたので流石に止めた。

初老の女性:呪術高専の上層部の一人。腐ったミカンの中では比較的腐ってない方。老いを遅らせる術式の持ち主で、年齢は100歳を超えている(天元様に次ぐ年長者)。昔のことにも詳しく、呪術界の生き字引として相談役を担っている。糞爺の過去を知る数少ない人物でもある。

縣さん:帰ってから酒飲んで寝た。
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