呪霊王におれはなる!!   作:トックー0322

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こーゆーのあったら教えてください。見たいので。


第三話:狩り

 

 

 狩りには、音がある。

 

 羽音。

 肉が裂ける音。

 呪力が溶け合う、粘ついた感覚。

 

 だが何よりも――

 沈黙の音がある。

 

 俺はそれを、ようやく聞き分けられるようになっていた。

 

 廃ビル地下三階。

 ここは以前、別の呪霊の縄張りだったらしい。だが今は、空気が澱み、主のいない場所特有の落ち着かない静けさが漂っている。

 

「……いい場所だ」

 

 誰に聞かせるでもなく、心の中で呟く。

 

 天井は低く、視界は悪い。

 人間なら嫌がる環境だろうが、俺にとっては都合がいい。蝿頭は視覚よりも、呪力の揺らぎに敏感だ。遮蔽物が多いほど、近づくまで気づかれにくい。

 

 ――まずは、確認。

 

 羽を微細に震わせ、周囲の呪力を探る。

 点々と、弱い反応。

 そのほとんどが、俺と同種――蝿頭だ。

 

「……いるな」

 

 数は、多い。

 だが、群れではない。バラバラだ。

 

 以前、この階層を支配していた主が討伐されたか、別の階へ移動したのだろう。結果、残されたのは、取り残された下級呪霊たち。

 

 ――狩場としては、理想的だった。

 

 俺は壁を這い、天井に張り付き、ゆっくりと移動する。

 羽音は立てない。

 脚の一本一本に、神経を集中させる。

 

 人間だった頃には考えもしなかったが、動かないという行為は、ここでは立派な戦術だ。

 

 少し先。

 コンクリートの割れ目に、蝿頭が一体、うずくまっている。

 

 呪力は弱い。

 警戒もしていない。

 

「……お前だ」

 

 距離、三メートル。

 角度、真下。

 

 俺は落ちた。

 

 ――衝撃。

 

 蝿頭が何かに気づく前に、俺の脚がその身体を押さえつける。

 抵抗。

 だが、遅い。

 

 口器を突き立てる。

 呪力が、流れ込んでくる。

 

 相変わらず、気持ちのいいものじゃない。

 腐臭。

 ざらつく感覚。

 

 それでも、俺はもう、目を逸らさない。

 

「……生きるためだ」

 

 数秒で、終わる。

 

 身体が、また少し重くなる。

 だが今回は、変化がはっきりわかった。

 

 ――脚の踏ん張りが、強い。

 ――羽の震えが、安定している。

 

「……効率が、上がってるな」

 

 まだ一体目。

 

 休まない。

 次だ。

 

 通路を進むと、別の蝿頭が壁を舐めるように這っている。

 呪力は、さっきのより少し強い。

 

 だが、動きが鈍い。

 

 ――空腹だ。

 

 俺は、あえて姿を見せた。

 

 複眼がこちらを捉え、羽音が乱れる。

 逃げるか、向かってくるか。

 

 結果は、後者。

 

 愚直。

 だが、それでいい。

 

 正面衝突の瞬間、俺はわずかに身体を捻り、相手の突進をいなす。

 勢い余った蝿頭が、壁にぶつかる。

 

 そこへ――

 

 

「……不味い」

 

 二体目。

 

 流れ込む呪力が、さっきより多い。

 質も、わずかに違う。

 

 ただの呪力じゃない。

 “癖”のようなものが、混じっている。

 

「……見た目は同じ蝿頭でも、個体差があるのか」

 

 理解が深まるたびに、世界が少しずつ、立体的になっていく。

 

 三体目。

 四体目。

 

 狩りは、作業になる。

 

 待つ。

 測る。

 動く。

 喰う。

 

 その繰り返し。

 

 だが、五体目を喰ったあたりで、異変が起きた。

 

 ――気配が、重なる。

 

 複数。

 近い。

 

「……群れか?」

 

 身を低くし、影に潜む。

 通路の向こうから、羽音が重なって聞こえてくる。

 

 蝿頭が、三体。

 だが、連携している。

 

 以前遭遇した群れほどじゃないが、無秩序ではない。

 

「……面倒だな」

 

 一対三。

 今の俺なら、勝てなくはない。

 

 だが――

 

 怪我をする可能性がある。

 

 俺はまだ、弱い。

 不用意な損傷は、死に直結する。

 

 だから――

 

 

 待つ

 

 群れが、通路を抜けるのを待ち、最後尾の一体が角を曲がった瞬間。

 

 ――出る。

 

 背後から、急襲。

 

 悲鳴が上がる前に、喰う。

 

 残りの二体が気づいた時には、距離がある。

 

 蝿頭が逃げる。

 

 だが俺は追わない。

 

「……一匹ずつだ」

 

 それが、俺のやり方だ。

 

 この日だけで、俺は十を超える蝿頭を喰った。

 

 身体は、明らかに変わっている。

 

 複眼の数が増え、視界が広がる。

 脚は太くなり、壁を掴む力が強い。

 呪力の総量も、最初とは比べものにならない。

 

 だが――

 

「……まだ、だ」

 

 心の奥に、奇妙な感覚がある。

 

 満足しない。

 足りない。

 

 これは、空腹じゃない。

 だ。

 

 もっと喰える。

 もっと強くなれる。

 

 俺は、天井に張り付き、静かに羽を震わせる。

 

 地下の奥には、まだ蝿頭がいる。

 弱い呪霊が、無数に。

 

 狩りは、終わらない。

 

 俺が――

 喰われる側に戻らない限り。

 

 暗闇の中で、俺は思った。

 

 この世界で、生き残るために必要なのは、力だけじゃない。

 

 選ぶことだ。

 

 誰を喰うか。

 いつ喰うか。

 どこで喰うか。

 

 それを間違えなければ――

 

「……俺は、上に行ける」

 

 羽音を殺し、次の獲物へ向かう。

 

 廃ビル地下三階。

 ここは、俺の狩場になりつつあった。

 

 

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