魔導王の帰還【オバロ二次】   作:taisa01

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本日2回目投降


第七話 王都から数キロ――迫り来る絶望

 

 救援受け入れの決定が下されたてから数日。王都および近隣はハチの巣をつついたような忙しさに包まれた。

 機動要塞デストロイヤーの進攻ルートの町は強制的に退去させられ、被害が予想される王都の一部も同様に立ち退きなどがなされた。城壁のなどに警備もかねた王国の兵が配置されているが、実質王国の民も含めて締め出された状態である。

 王都の城壁上。冷たい風が、兵士たちの頬を容赦なく撫でていく。普段であれば見晴らしの良いこの高みからは、緩やかな丘陵と畑が広がる穏やかな景色が見えるはずだった。

 だが、今は違った。

 遠く、地平線近く。

 土煙を曳きながら、黒光りする巨大な影が、ずるりと姿を現す。それは、山でも城でもなかった。

 六本の脚。

 大地を抉るたびに地鳴りを伴う一歩。昆虫のように脚を動かす黒光りする巨体を現した。

 

「な、なんだ。あれは……」

 

 最初の言葉は嫌にかすれていた。

 

「あれが、村や街を、踏み潰してきたのか」

 

 時間がたつにつれ城壁の石が、かすかに震える。足元から、じわじわと伝わってくる振動。まだ距離があるにもかかわらず、その一歩一歩が、王都そのものに死刑宣告を刻んでいるようだった。

 若い兵士たちは、そんな現実の前に立ち尽くすことしかできなかった。

 

「あれを止められるのか……」

 

 誰かが、隣の兵士に問いかける。しかし返ってくるのは、沈黙と、浅い呼吸だけ。城壁の下、城下町では、貴族の屋敷からはいまでも馬車が反対方向に出ていく。

 ここ数日続く光景だ。

 積み込まれているのは、家具でも衣装でもない。金銀財宝と、書類の詰まった箱。使用人たちを振り捨てるように門を閉ざし、家族とごく一部の従者だけを乗せて、王都の外へと駆けていく。

 

「待ってくれ! 自分たちだけかよ」

 

 逃げられるものは余裕のあるものだけ。残されるものは走り去る馬車の後ろ姿に石を投げつける。しかし、その石は虚しく転がり、馬車は振り返ることすらなかった。

 逃げ出した貴族の邸宅の前には、行き場を失った使用人たちが立ち尽くしている。逃げる場所はあるのか、と問われれば──答えは“ない”に等しい。

 小さな子どもが、泣きながら母の衣を掴む。

 

「おかあさん……」

 

 母親は答えられなかった。あまりの恐怖に喉がうまく動かなかないからだ。

 教会の前では、神官たちが必死に祈りを捧げている。

 

「神は我らを見捨て給わない」

 

 震える手で聖印を握りしめながら、自分自身に言い聞かせるように唱えているが、信徒たちの表情には、もはや救済を信じる光は薄い。

 

「神様より、あの怪物を止めてくれる誰かのほうが早いだろ」

 

 誰かが、皮肉とも諦めともつかない声で漏らした。だが、それを咎める者は、もういなかった。

 残された民衆は、城下で膝を抱えて空を見上げる。

 

「もう……終わりだ」

 

 誰かが、そう呟いた。

 絶望の匂いが、王都の空気を支配し始めた頃──

 

 王城前の広場に異形の軍勢が隊列を組んで現れたのだった。

 

 

 ***

 

 アインズと守護者たちは、直接デストロイヤーの前に陣取るのではなく、あえて王都の広場から出陣した。

 実際に戦闘を行うのはアインズと守護者のみであるが、随伴としてデス・ナイトやデス・キャバリエ、そしてドミニオン・オーソリティといった如何にもな見た目の軍勢を五〇〇ほど引き連れてである。

 そして、出現した軍勢は魔導国の旗を翻し、颯爽とデストロイヤーに向けて進軍していくのだった。

 もちろんこれは、デストロイヤーに向けてではなく、王国、そして王国の民へのメッセージであることは誰の目にも明らかであった。

 それでも、絶望につぶされそうな民衆にとっては一条の光となっていた。

 最初はアンデッドの軍勢という姿に怯えた。

 次に魔導国の旗のもと、整然進む隊列に興味を持った。

 次第に「もしかしたら、何とかしてくれるのではないか?」という期待へと移り変わる。

 そして王都の城壁を抜ける頃には、歓声の渦となってアインズ達を後押しするようになっていた。

 そして、観衆の見守る中。軍勢を背に進み出たアインズと守護者たちはデストロイヤーと相対するのだった。

 

 ***

 

「本当に何もしてこないのだな」

 

 進攻上のものを踏みつぶす。たとえ攻撃しても放置。唯一攻撃らしき行動をしたのは、進攻の邪魔になった城壁の破壊だけ。

 目の前に五〇〇の軍勢が整列しようとも、デストロイヤーは一切の攻撃らしき素振りをみせず、ゆっくりと歩みを進めるのだった。

 

 つまり

 

「事前に各種バフで準備しようとも、超位魔法を悠々と展開しようとも、何もしてこないということか」

 

 アインズは自分と守護者達にあらゆるバフを掛けた上で、超位魔法 失墜する天空(フォールンダウン)の巨大な立体魔法陣を展開する。もっともこの魔法だけで決着がつくとは考えていない。

 

「たしかアクアの魔法でシールドを破壊し、その後、めぐみんらの爆裂魔法で足を破壊したとカズマは言っていたか」

 

 その言葉に完全武装の守護者らはうなずく。そしてアウラが返答する。

 

「そこでこれの出番ですねアインズ様」

「そうだ」

 

 アウラが手にするのはワールドアイテム 山河社稷図。

 世界そのものを切り取り、使用者を含めた相手やエリア全体を、全一〇〇種類の異空間から選んで隔離することができる危険極まりないアイテムだ。本来なら、こんなものを軽々しく使うべきではない。

(でも今回はしょうがない! ここで使わなかったら、足止めできず王都どころか周辺一帯が更地になる。ギルメンに説明するとき、絶対怒られるけど‼)

 幸い消費型のアイテムではないことが唯一の救いだが、アインズは心の中で半泣きだった。

 

「では、はめるぞ。失墜する天空(フォールンダウン)」

 

 巨大な光が、デストロイヤーの巨体に突き刺さり、膨大な熱があたりを包む。そして爆発する光の中でアインズは叫ぶ。

 

「アウラ」

 

 アウラは淡い光を放つ巨大な絵巻物を広げながら答える。

 

「展開──《山河社稷図》!」

 

 絵巻が、風に舞うように空へ広がる。

 紙に描かれた山河の絵が、現実世界の大地を飲み込むように波打ち、

 やがて、機動要塞デストロイヤーの周囲一帯を、丸ごと異空間へ取り込んだのだった。

 王都の兵士たちの目には、それはこう見えた。

 

 ──王都の外。突然、轟音とともに光が落ち、後には巨大な“繭”が現れた。

 

 土と光と霧が混じり合ったような、半透明の球体が、地面から隆起する。その内部には、恐るべき金属の巨体がうごめいていた。しかし繭はやがて固まり、外界からの視線を完全に遮断してしまった。

 

「な、何が」

「さっきまであった怪物が」

「繭の中に、閉じ込められたのか?」

 

 誰もが呆然と見守る中、不気味な静寂を保ったまま繭はしばらくの間、動くことはなかった。

 

 

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