機動要塞デストロイヤーの脅威が去って数日。
王は重鎮たちを改めて招集した。
そこに漂う空気は、以前とは決定的に違っていた。
各地からの報告によれば、地方都市や村々の被害は計り知れない。王都においても直接の被害はなかったが多くの人材が流出。逆に戻ってこようとした人材もいるにはいるのだが、残された者たちの不信感による軋轢が顕著となっている。
もとより財政は破綻寸前。
軍は壊滅に近い損害。
もはや、王国単独での立て直し、治安維持され不可能なことは明白だった。
「……魔導国の庇護を、正式に受け入れるほかあるまい」
王の声は、もはや抗う力を失っていた。
なにより招集した重鎮の顔ぶれが物語っている。多くが逃げ出し当初の3分の1もいない。
「リ・エスティーゼ王国は、魔導国の保護下に入る。国体は──事実上、魔導国の一部として再編される」
その宣言を聞いた者たちの中に、唯一、静かな笑みを浮かべていた者がいた。
王女ラナー。
その金の瞳は、どこか底知れない光をたたえていた。
会議が解散した後、自室に戻った彼女は静かに一人の男の名を呟いた。
「……デミウルゴス様」
***
ラナーの私室。今までであればメイドの誰かが侍り、ラナーの監視が行われていた。しかし、今となってはメイドの多くが王城を離れ、残った者たちも忙しく動き回りラナーの監視の目はなくなっていた。そんな状況でさらにいくつかのマジックアイテムを起動し、ある存在を迎え入れる。
礼儀正しいお辞儀と柔らかな笑みを浮かべたラナーと、怪しく光る眼鏡をかけたデミウルゴスが向かい合っていた。
「機動要塞デストロイヤーの破壊が、もしもっと早く行われていたら──王国の被害は、ここまで大きくはならなかったでしょう」
挨拶もそこそこに、デミウルゴスに促されるまま、ラナーが、何でもないことのように言う。
「ですが、それでは民衆の絶望が足りません。貴族たちが逃げ出し、国体が維持不能だと誰の目にも明らかになってこそ、魔導国への編入は自然と受け入れられます」
デミウルゴスの笑みが深くなった。
「お見事です。ラナー。まさしく、その通り」
彼女は、何度かの密談を通じて、デミウルゴスと交渉していたのだ。
魔導国による怪物の早期破壊をあえて止めさせ、王国がじわじわと追い詰められるよう誘導したのだ。
その結果──
王国は自力で立つ道を失い、魔導国にすがるしかない状態へと王国は追い込まれたのだった。
また、機動要塞デストロイヤーをヤルダバオトによる計略という噂をあらかじめ流したのもラナーである。もとよりあの外見である。生理的な嫌悪と悪魔を結び付けて噂を各所に流すように仕向けるだけでだれもが疑問にも噂を信じた。だからこそアルベドの一言で貴族どもがそう思い込み、民衆が魔導国を受け入れる下地をつくったのだった。
その功績の対価として、彼女は一つの要望を提示していた。
「今回のことアインズ様も高く評価されておられます」
「では?」
「ええ。もちろん。あなたと彼を魔導国は受け入れましょう。もっとも世間的には人質のように見えるでしょうがね」
ラナーは、ふわりと微笑んだ。
「魔導国の庇護の下で、私にとって理想の世界を作ることができるなら、周りの評価など、どうでもよろしいことです。むろん魔導王陛下、並びに魔導国に絶対の忠誠を捧げます」
その笑みは、どこまでも暗く、そして欲望に素直なものであった。
デミウルゴスもまた、至高の御方の深遠なるお考えに役立てた喜びをかみしめていた。
**
おまけ あの人は今?
【リ・エスティーゼ王国】
・ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ
「生存」後日、傀儡の王となるも、普通に優秀なためナザリックにこき使われる。尚、ストレスでさらに太る。
・ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ
「人間として生存」王国の人質として魔導国へ渡る。唯一クライムのみ同行が許された。その後、表舞台から消えるが、裏ではナザリックにこき使われる。なお、友人枠で蒼の薔薇とは時々面会やお願いごとをしている。
・クライム
「人間として生存」ラナーの従者として魔導国入り。後にラナーに食べられる。なぜかン・フィーリアと同志となる。
・フィリップ・ディドン・リイル・モチャラス
「生存」原作では王国にトドメを刺したバカ。今回はアルベドに出会わなかったため、生き残るも没落。流れ流れて開拓村で農民の才能が開花し生き残る。
・ブレイン・アングラウス
「生存」クライムが魔導国に行ったことを機に武者修行のため聖王国へ……。
【バハルス帝国】
・ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス
「生存」魔導国の包囲網を作ろうとするも、うまくいかない。それ以外は問題がなく安定しているため、頭髪は守られている。そろそろ結婚して後継者をとロクシーに催促されている。親友となるペ・リユロとは出会えていない。
【ドワーフの国】
「生存」ただしルーン技術は復興していない。
【ローブル聖王国】
・カルカ・ベサーレス
「生存」未婚。王の立場で素の私を見てと言っているので……南無三
・レメディオス・カストディオ
「生存」亜人の攻勢は厳しいが、魔導国からの支援でぎりぎり何とかなっていることを、苦々しくおもっているパワハラ上司。まわりはいい加減、年相応に丸くなれと思っている。
・ネイア・バラハ
「生存」念願の聖騎士になれたが、シズ先輩とも魔導王陛下とも出会えていないため、精神的に未熟。陰キャを拗らせている。