第一話 魔導王アインズ・ウール・ゴウン
アインズ・ウール・ゴウン。
ナザリック地下大墳墓の絶対支配者にして、三年前に建国された魔導国の王。配下には数々の異業種を従え、本人も巨大な力を振るうアンデッド。魔導国建国の後押しともなったリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の戦争で、大魔法による万を超える虐殺はいまでも恐怖の対象として語られている。
外から見れば、そういう存在である。
しかし、骸骨の仮面の下に隠された内面は、相変わらず小市民的なサラリーマン気質を色濃く残していた。謎の転移のせいで三年間学園生活を過ごした結果、彼はさらに「面倒ごとへの耐性」と「ツッコミスキル」。そして「人間性」を強制的に鍛えられることとなった。
玉座に腰を下ろしたアインズは、ゆっくりと視線を整列した守護者たちに向ける。その顔つきは以前よりもどこか自然だった。
三年前と変わらぬ忠誠。
主の苦労を案じる色。
学園の思い出を共有した者同士の連帯感。
ナザリック以外をゴミ虫以下と見做す価値観は相変わらずだが、「ゴミ虫にも、まあ……それなりの扱いはあってもいいのではないか」と考える程度には、表向きの態度が柔らかくなっていた。
アインズは、その変化を概ね好意的に受け入れていた。もちろん好感度が妙な方向に上昇しているのではないか? という苦労人故の危惧はあれど、微塵も表に出していない。
アルベドが柔らかな微笑みを浮かべながら一歩前へ進み出る。つややかな黒髪が肩で揺れ、金の瞳が、宝石のような光を帯びている。
「アインズ様。周辺諸国の状況も含め、情報の整理を進めております。ただ、一つ……不可解な報告がございます」
デミウルゴスが、眼鏡の位置を直しながら控えめに口を挟んだ。
「アインズ様がお休みをお望みであれば、まずは私が概要を──」
「いや、よい。不可解な報告とやらを聞かせてもらおう」
先ほど帰還したばかりなのに、すでに調査の指示を出しているアルベドと、それを当たり前のように受け入れているデミウルゴスの姿に、アインズは、いつの間に手配したんだよとツッコミをいれつつも、落ち着いた支配者としての振る舞いで答えた。
できれば聞きたくないと全力で思いながらだが、経験上こういう時に耳を塞いでしまうと、あとで倍以上の面倒となって帰ってくることを、彼は身をもって知っていたからだ。
アルベドは、ほんのわずかに表情を曇らせ、慎重に言葉を選ぶように報告する。
「パンドラズ・アクターより──外的因子の観測報告がありました」
「外的因子?」
「三年前、アインズ様共々、転移したあの学園世界で発生していた現象と、極めて類似したものが、この世界各地で観測されているとのことです」
玉座に座る骸骨の王は、一瞬完全に固まった。世界のどこかで、ひび割れるような音がした気がした。
「……は?」
外から見れば、無表情な骸骨の面がわずかに口を開いたようにしか見えない。しかしアインズは理解を拒否していた。
この時点では、始まりの一報に過ぎないことを、彼はまだ知らなかった。