──噴上裕也は逃がさない── 作:よくメガネを無くす海月のーれん
「ンっン~やっぱり、俺ってばカッコよくて美しいからさぁ。こういうインテリアのセンスもピ カ イ チ なんだよなァ」
[噴上探偵事務所]
思わず喉を鳴らしたという風に、ツーブロックの髪型の男は声を上げた。髪に手を置き、キマっているかどうかを確かめると大枚はたいて購入したふかふかのソファに座り込む。
M県のS市に位置する此処は杜王町。世間を賑わせた連続殺人鬼を人知れずに倒した特別な力を持つ者達が棲む場所。その一角に、一国一城の主に成らんとする男が居た。
名を噴上裕也。彼もまた女性の手を狙った連続殺人鬼を倒すために紆余曲折の末協力した男だ。彼は今、その報酬をある程度の対価を条件に受け取っていた。
ゆらりと天井を見上げればオシャンティーなシャンデリア。こちらは事務所に備え付けられたものだった。色とりどりのガラスは見ていて美しく気分がいい。尤も、自分の美しさには適わないと。彼は本気でそう思っていた。
「かの有名なSPW財団と伝手が出来るたァ、おれも愈々ツキが回ってきたか~?」
彼はスタンド使いだ。スタンドとはその人の精神を具現化させたものであり、特異な状況を引き起こす事が出来る。彼のスタンドならば生物の生命を吸い取り、自分のものにする事が出来る。生命力というあやふやで、しかし生物が生きていく上で必要なものを奪うこのスタンドは、SPW財団にとって重要な研究材料だった。
故に、彼はSPW財団の研究に参加することを対価に、自身の夢である探偵事務所を開く事が出来たのである。
もちろん、彼はこの日の為に入念な準備をしてきた。事務所に置く家具を精査し、なければ遠くまで買い付けにも行った。広告となるチラシを作り、それを配り、あるいは許可をもらって貼りつけてもらったりもした。学生でアルバイトではない本業をするというのはその時代でも珍しいことで、十二分に注目されていた。
噴上裕也は信じていた。自分の事務所が日本で、いや世界で最高の事務所なのだと。
そんな素晴らしい事務所には依頼がわんさか来るはずだと鼻を鳴らしていた彼にとって、幸か不幸かはわからないが…事務所を開いてから2時間で依頼が舞い込んだ。
その依頼は焦りを伴うインターホンと共にやってきた。
ピンポーン
ピンポンピンポンピンポン
「な、なんだァ!?」
連続で推されたインターホンに白目を剥きながら慌てて ガチャリ 扉を開ける。そこには憔悴しきった表情の男が立っていた。
ガシィッ
「た、助けてください! うちの子が! うちのフーライちゃんが!」
***
「──猫が行方不明、ね──」
「はいィ…、うちのフーライちゃん…風雷ちゃんが居なくなってて」
藁にも縋るような声色で机に写真を乗せた男は、池崎 健と名乗った。芸人をしていて仕事で帰ってきたら猫が居なくなっていたと。写真には三毛猫が鳥の羽のおもちゃで遊ぶ様子が写っていて、この子を探してほしいと。
詳しい経緯を聞くとだ。
一昨日、池崎は仕事を終えて帰宅。いつもなら玄関まで迎えに来るはずの風雷ちゃんが来ない。これに疑問に思った池崎がその猫お気に入りの場所や、隠れていそうなスポットを探し回っても居ない。不安に駆られ、家中を探したところ、二階の窓が少しだけ開いており、そこから逃げたのではないか…ということだった。
警察には届け出をしたものの不安は解消されず、仕事を断り自分でも捜索している。そんな中、事務所のチラシを見てこちらに来たとのことだった。
「(最初の依頼が猫探しかっ。いや、不満ってワケじゃあねぇが)」
噴上は期待していた。自分に相応しい美女が相談に来て、それを華麗に解決。ちやほやされるというシンデレラならぬプリンスストーリーを思い浮かべていた。
だが蓋を開けてみれば、依頼主はむさい暑苦しそうな男であり、それも今にも泣きそうな顔でこちらに縋っている。どれだけ大切にしているかは見ればわかるというものだが、それにしたって情けねぇツラだととも思った。
だが
「イイゼ。この噴上裕也。アンタの大切な猫ちゃんを探そう。依頼料は要相談だが…アンタの愛猫を思う気持ちに負けてやるぜ─ッ」
噴上裕也は自身がスタンド使いになる出来事から確固たる基準をもった。いつも元気づけてくれるあの女どもがどう思うか、それはちやほやされたいという想いもそうだが、それ以上にあの女どもにカッコいいと言われる男でありたいという誇りでもあった。
今回の依頼、確かにしょっぱい依頼かもしれない。だがしかし、目の前の男はきっと絶望の淵で蜘蛛の糸を探すように必死になっていたのだと。そして、ようやく見つけたかもしれない蜘蛛の糸がおれだったのだ。そう考えれば、悪い気はしなかった。それに池崎はカンダタのような醜悪さもましてや、かの邪悪極まりない連続殺人鬼でもない。ただの哀れな被害者だ。
それを見捨てれば男が廃る。
噴上は不安に駆られて握りしめられた池崎の手を掴んだ。自分の手は男の手を握るためにあるワケじゃないが、探偵ならば依頼者の不安を少しでも減らしてやるべきだ。
「まずはアンタの家に案内してくれ。手がかりをつかむ」
見上げた顔は赤く腫れぼったいものだった。大粒の涙がこぼれ、目の下に刻まれた隈がきっと男が寝る間も惜しんで探していたのだろう事が伺えた。小さく、けれど確かに「はい」とか細く言った。
噴上裕也の探偵業は此処から始まったのだ。
噴上裕也二次創作流行れ流行れ…