遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第14話 星屑

 

 冬休みの中頃、マナと二人でグータラ過ごしていたそんな最中。

 

 突然家の電話にペガサスさんから連絡が入り、俺はその内容に驚くことになる。

 

「シンクロ召喚の実演?」

『そうデース。今度童実野町で我が社がイベントを開くのですが、遠也にはそれにシンクロ召喚を行う手本として参加してほしいのデース』

 

 どうも先日ペガサスさんが家にいたのは、そのイベント関係で仕事があったかららしい。仕事で童実野町にいたからこそ、ああして時間が作れたということだったようだ。

 ペガサスさんによると、童実野町で開かれるそのイベントで、そろそろ実装も近いシンクロ召喚についての説明を行う予定のようだ。

 ただ、やはり口頭だけよりも実演したほうが理解しやすく、お客さんの受けもいい。最初は社員が行うことも考えたのだが、場所が童実野町ということもあって、俺にも一応聞いてみたのだとか。

 暇だとすれば、いい時間つぶしになるだろう、とペガサスさんが気を利かせてくれたようだ。

 実際問題、それほどやることもないし、参加するのも面白そうである。特に何か用事があるというわけでもないことだし……よし。

 

「わかりました。引き受けますよ」

『WAO! 助かりマース! ぜひマナガールも誘って、一緒に来てくだサーイ』

「そのつもりですけど……なんで、わざわざ?」

 

 俺としては当然そうする気でいたが、ペガサスさんが指定するということはマナにも何か用があるのだろうか。

 俺がそう訝しんで聞くと、ペガサスさんは『オーノー!』とオーバーにリアクションを取った。

 

『鈍いですネー、遠也。デートで彼女にカッコイイ姿を見せるのは、基本中の基本デース! このイベントを利用して、もっとマナガールと親密』

 

 ガチャン。

 俺は無言で電話を切った。

 恩人であり家族だが、ここは言わせてもらおう。余計なお世話だバカヤロウ。

 すると、こちらの様子をうかがっていたマナが寄って来る。あまりにも俺が唐突に受話器を置いたのを、不思議に思ったのだろう。

 

「どうしたの、遠也。ペガサスさんはなんて?」

「あの人、どんどん世俗にまみれていくな」

 

 明らかに質問の答えになっていないそれに、マナは「どういうこと?」と首をかしげている。しかし、わざわざ説明するのもアホらしい。

 俺はカレンダーに近づき、冬休みも終わりが近いその日に○をつける。

 そして、イベントの日、と書き込んだ。

 

「イベント?」

「ああ。今度やるカードのイベントで、シンクロの実演やってくれってさ」

 

 俺はマナにそう答えると、さっき切ってしまった電話をもう一度手に取る。

 細かい打ち合わせなんかもあるからだ。まったく、今度は余計なことは言わないでもらいたいものだ。

 そうして電話をかけると、すぐに繋がった。

 

「もしもし」

『遠也は照れ屋さんですネー。もっと』

 

 ガチャン。

 もう少し時間を空けてからまたかけよう。そう思った。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 そして、イベント当日。

 童実野町の街中にある広場を貸し切って行われるそのイベントには、多くの人が訪れていた。

 テーブルが並べられたデュエルスペースや、食事などが出来る出店の数々。カードのパックも当然売っており、ここでしか買えない限定パックをI2社が用意したため、非常に賑わっている。

 ちなみにその限定パックには、レアカード扱いでシンクロモンスターが入っている。入っているものの中には、ペガサスさん曰く《ジャンク・ウォリアー》もあるらしい。

 シンクロ召喚の代名詞といえばこれだけに、実に嬉しいことだ。無論、それ以外の種類も入っているが、この世界でのレアカード扱いなので、かなり出づらいそうだ。

 具体的には10箱に1枚あるかどうかの確率になったらしい。それでもこの世界では出やすいレアカードに分類されるんだから恐ろしい。

 実際に公式のデュエルに使用できるのは俺が二年に上がったころ以降になるらしい。俺はテスターという立場もあって公式の大会でも使えるようだが、一般ではそれぐらいになるようだ。

 まぁ、俺が大会OKなのは、学生だから授業もあって出られないと向こうもわかっているからだろう。確かに、そんなものに出ている暇はない。

 とはいえ、チューナー含め全てそろえてデッキを組む以上、それ以上に時間はかかるだろうな。いきなり慣れないデッキで公式大会に臨む人も少ないだろうし、本格的な普及はだいぶ先になりそうだ。

 

 ……あと、ペガサスさんは膨大に用意したカードの中に一枚だけ《パワー・ツール・ドラゴン》を混ぜたらしい。

 今どこにあるのかはペガサスさんでももうわからない。同じく他のカードも、大会の賞品にするなどといった様々な方法でそれぞれ手放していくようだ。

 こうして、シグナーの龍は来る日に備えて転々としていくことになるのだろう。できるだけ、良い人の手に渡ることをカードのためにも祈っておこう。

 

 そんな話を思い出しつつ、ぐるりと広場を見まわす。そして、思わずため息が口から洩れた。

 ……さすがはカードが社会に浸透している世界。人々の関心の高さが半端ない。

 パックを買いに来る人も国籍様々だし、わざわざ来日したんだろう。テレビカメラもあるし、かなりの気合の入れようだ。

 そんなイベントをこんな小さな町でやろうというのだから、無茶である。これも決闘王(デュエルキング)である遊戯さんが暮らす街であり、KC社があり、かつI²社の支社もある、というのが影響しているんだろう。

 それでもたいして大きな混乱がないのは、頻繁に行われるカード関係のイベントに慣れたということらしい。もちろん開催する側も、客側もだ。

 童実野町って、もうこの世界の中心でいいんじゃないだろうか。そんなことを思う俺だった。

 

「えい」

 

 そして、今何故か俺はリンゴ飴を頬に突きつけられている。

 人生の中で、そんな経験をする日が来るとは露ほども思っていなかっただけに、非常に衝撃的である。

 

「……なにやってんの、マナ」

 

 リンゴ飴を頬にくっつけたまま、それを手に持ち差し出しているマナをジト目で睨む。

 それに、マナはちょっとだけ気まずそうに笑った。自分の分のリンゴ飴をなめながら。

 

「うーん、その……緊張してるんじゃないかなと思って」

 

 テレビカメラとかもあるし、と付け足して、マナはぺろりと飴をひと舐め。

 そして、まさにマナの言うとおりだった俺は「うっ」を声を漏らして言葉に詰まった。

 確かに俺は緊張していた。さすがに、テレビカメラの前で何かをする経験なんて、前の世界を通じても一回もない。緊張するなというほうが無理だと思う。

 そのため、つらつらと無意味に現状を思い起こしてみたりして誤魔化していたのだが、どうやらマナにはバレバレだったようだ。

 俺は溜め息をつき、頬にくっついたリンゴ飴を受け取る。

 

「……ありがと」

「えへへ、どういたしましてー」

 

 照れ隠しに俺はリンゴ飴を舐め、マナは頬についた飴をウェットティッシュで拭いてくれている。

 少々恥ずかしいが、別段いまさら気にしたりはしない。俺はマナにされるがままになりながら、周りに視線を巡らせる。

 こちらに恨めしげな視線を向ける男たち。そして、なんだかキャーキャー言っている女性陣。どう見ても晒し者です、本当にありがとうございました。

 やはり、人前ですることではなかった。そう思っていると、その人ごみの中で、知り合いの姿を発見する。こちらを驚愕の目で見ているそいつに、俺は声をかける。

 

「おーい、三沢ー!」

 

 すると、声をかけられた三沢は一瞬肩を震わせ、そして恐る恐るこちらに近づいてくる。

 隣のマナも俺が呼びかけたことで気がついたようで、「あ、本当だ」と呟いていた。

 近づいてきた三沢は、俺の隣を気にしつつ俺に対して口を開く。

 

「や、やぁ遠也。君なら、きっと来ていると思ってたよ」

 

 そう言って少々ぎくしゃくした態度を見せる三沢に、俺はマナに手を止めさせてから向き直る。

 

「シンクロの実演があるからか?」

「ああ。シンクロ召喚といえば君だからな。……それで、そっちの子は?」

 

 三沢が気になっていたのだろう、すぐにそう聞いてくる。

 それに対して答えたのは俺ではなく、マナだった。

 

「はじめまして、三沢くん! マナっていいます、よろしくね」

「こ、こちらこそ。よろしく」

 

 互いに小さく頭を下げ、挨拶を交わす。

 俺は三沢にマナとの関係を簡単に説明し、その後は少しだけ場所を移動する。

 そして、腰を下ろせる場所で雑談を始めた。

 

「なに!? 遠也が実演をやるのか!?」

「ああ。ペガサスさんから頼まれてさ」

 

 それぞれ適当に買ったジュースを飲みながら、俺はここにいる理由を三沢に話す。

 その理由に、三沢は大層驚いていた。やはり、こういうのは社員やプロデュエリストなどがやるものだとばかり思っていたようだ。

 

「なんだか知り合いの口から世界的有名人の名前が出てくるのは変な気分だな……しかし、遠也が実演か。まぁ、ある意味納得だな」

「どういう意味だ?」

 

 突然頷いた三沢に、俺は尋ねる。

 三沢は、それに少しだけ笑って答える。

 

「なに、だって君が一番シンクロ召喚には詳しいじゃないか。テスターとして実際に使っているんだから」

「まぁ、なぁ。けど、これだけカメラなんかもいるんだぜ。緊張するよ……」

 

 言って、目の前に広がる雑踏に目を向ける。

 絶え間ない人の声と足音に紛れて、カメラとマイクを携えた人たちが何人も見える。間違いなく、世界初公開となるシンクロ召喚の実演を撮りに来ているのだろう。

 つまり、必然的に俺が映るということ。ああ、気が重い。

 項垂れる俺に、三沢は苦笑を浮かべる。

 

「おいおい、いつもの強気な姿はどうしたんだ。アカデミアでは、既にカイザーに並ぶ実力者なんだから、もっと自信を持ってもいいだろう」

「デュエルとは違うだろー……まぁ、やるからにはしっかりやるけどさ」

 

 俺は三沢の言葉にそう返し、ジュースの残りを煽るようにして一気に口に含む。そのヤケ食いならぬヤケ飲みのような姿に、三沢はやれやれと肩をすくめた。

 

「あ、明日香さんだ」

 

 突然、マナが口を開く。

 あまりにも唐突なそれに、俺と三沢は揃ってマナを見て、次いでその視線の先を目で追う。

 すると、そこには確かに私服姿の明日香がいた。そして、なんだか男の人に絡まれている。どう見てもナンパだった。

 あ、眉を怒らせて何か言った。そして男が固まっている間に、その前から離れる。その時、こちらを見ている俺たちに気づいたらしく、驚いた表情を浮かべた。

 しかし、すぐに笑みを浮かべてこちらにやって来る。マナが大きく手を振り、それに明日香は小さく手を振って応えていた。

 

「お久しぶりね、遠也、マナ、三沢君」

「おっす」

「うんっ」

「久しぶり、天上院くん」

 

 にこやかに俺たちに合流してくる明日香。

 そして、「天上院くんも来ていたんだな」「デュエリストとして、見逃せないイベントでしょう?」と会話をし始める。

 それを見つめながら、俺はさっきのナンパ男とのやり取りが気になって仕方がなかった。

 だから、興味のままに聞いてみる。

 

「なぁ、明日香」

「なに?」

「さっき、あの男に何を言ったんだ?」

 

 俺の言葉に、明日香は「見てたの?」と聞いてきたので、俺は頷く。すると、気まずげに目を逸らして「助けてくれてもよかったじゃない」と文句を言ってくる。

 いやいや、その前に自分で解決してたじゃん、と言えば溜め息を吐かれる。更に小声で「遠也といい、十代といい、うちの男はもう……」と呟く明日香。何故だ。

 まあいいや。俺はもう一度明日香に尋ねる。あの男に何て言ったのか、と。

 すると、明日香は笑顔になった。何故だか背筋が寒くなるというオマケつきである。

 

「聞きたい?」

 

 と、その顔で言うものだから、俺は即座に首を横に振った。

 隣では三沢も思わず腕をさすっている。きっと、今の俺と同じ気分を味わったのだろう。

 そして、向こうでは何故かマナが明日香の肩をポンポンと叩いている。今までのやり取りに、そんな何か共感するものでもあったか? まあいいや。

 その後、俺、マナ、三沢、明日香という何とも珍しいメンバーで雑談に興じる。明日香にも俺の今日の役割を話すと、初めは驚いていたが、すぐに「なら、楽しみにさせてもらうわ」と言って笑う。

 他人事だと思って……。そう思うが、こうして四人で話していると、なんだか緊張もほぐれてきたような気がするから不思議だ。

 俺の気分が和らいできたのをマナも察したのか、俺の横でニコニコと笑っている。そしてその笑顔を見てまた気持ちを緩ませる俺は、きっと相当単純に違いない。

 我がことながら、わかりやすいことだ。だが、まぁそれはそれでいいのだろう。そう思い、俺は笑みを見せるマナに同じく笑顔を返すのだった。

 

 

 

 

 そんなこんなで件の時間がやってまいりました。

 偶然会った三沢と明日香に頑張れと送りだされ、マナと俺は指定されたステージのほうへと向かう。

 もちろんただの広場にステージなんてものがあるはずはないので、これはI²社の人がこの日のために用意した特設ステージだ。特設とはいっても、とてもそんな即席のものとは思えない立派なものだ。

 野外コンサートのステージにも見劣りしない大きく豪華なものとなっている。そこらへんは、やはり見た目も宣伝には大事だからだろう。その狙い通り、大型のモニターをバックに据えたステージは、会場でも一際目立っていた。

 俺はそのステージの裏に回り、ひとまず待機している。マナは精霊化して俺に寄り添うように浮いている。

 緊張はするが、だいぶ気持ちは落ち着いてきたし、マナがいるから一人じゃない。そう思えばだいぶ気は楽になる。

 ちなみに今ステージにいるのはペガサスさん。会長自ら進行を務めるとは誰も思っていなかったようで、会場の視線はしっかりステージに注がれている。

 さすが、と言うべきなのだろう。本人は果たしてこれを仕事と思っているのか分からないほどにノリノリで予定をこなしているが。

 

『あ、遠也。出番だって』

 

 と、ペガサスさんがこれからシンクロ召喚の実演を行うと宣言する。

 それを同じく聞いていたマナが俺にそう促すと、俺は頷いて腰を浮かせ、ステージのほうに向かう。

 愛用のデュエルディスクを左腕に着け、しっかりとデッキもセットする。それを確認して、俺はステージへと上がった。

 

 

 

 

 ステージから見る景色は、全く経験したことのないものだ。

 見渡す限りの人の群れ。広い会場に敷き詰められた大勢の人の姿は、それだけで気圧されるほどだと言っても過言ではない。

 しかし、よくよく考えてみれば大勢の前に立つのって初めてじゃないことを思い出した。入学試験や月一試験……あれは生徒ばかりだったがそれでも、かなりの大人数だった。

 さすがにここまで多くはなかったが、それを思えば今更必要以上に緊張を感じることもない。

 それに……最前列には明日香と三沢もいる。ペガサスさんが俺の友人だと知り、特別にその席に招待してくれたのだ。

 知った顔が傍にいることもあり、俺は幾分リラックスしてペガサスさんの隣に立った。

 

『皆サーン! 彼がシンクロ召喚を実演してくれる、皆本遠也君デース! 彼は我が社が選んだシンクロ概念のテスターでもありマース。いわば、この世界で最もシンクロ召喚に長けた人物デース』

 

 そうマイクで話しつつ、俺の肩に手を回す。

 その紹介を受け、俺はぺこりと頭を下げる。そして何故か沸き起こる拍手。なぜ今拍手なのかはわからないが、とりあえずもう一度頭を下げた。

 

『では、これからシンクロの実演を行いますが……やはり相手がいなくては皆さんもつまらないでショウ。というわけで、こちらで相手を用意していマース!』

 

 え、聞いてないんですけど。

 俺は驚いてペガサスさんを見る。しかし、ペガサスさんはウインクするだけで何も答えてはくれなかった。

 対戦する俺が知らないってどういうことなの。観客は盛り上がってくれてるけど、俺としては相手が気になってそれどころじゃないんですが。

 

『それでは、どうぞデース!』

 

 そうして、ステージの奥に向けて下からスモークが噴き上がる。もちろんその煙によって奥は全く分からない。

 しかし、そんな煙もやがて晴れていく。会場中がその向こうから現われるであろう人物が誰なのか、固唾をのんで見守った。

 そして、煙が晴れきった先には――。

 

「……誰もいない?」

 

 そこには、誰もいなかった。

 ただ煙が噴き出しただけで、その奥の景色には何の変化もない。このことに、俺はもとより会場も困惑に包まれる。

 しかし、そんな中で一人笑みをこぼす人物がいた。

 

『フフ……イッツ、ジョーク! 今のは冗談デース。そして、その対戦相手は既にこの場に来ています。そう、遠也の目の前に、ネ』

 

 両手を広げ、大げさにポーズを取った後。ペガサスさんは意味深な顔で自らを指さす。

 それが意味することがわからぬほど、俺も馬鹿ではない。

 

「相手は、ペガサスさんってことですか」

『ザッツライト! 私もこう見えてデュエリストなのデース! というわけで、会場の皆サーン! ここは一つ、私と彼のデュエルをぜひ楽しみ、そしてシンクロモンスターの力をその目に焼き付けていってくだサーイ!』

 

 そうマイク越しに呼び掛けたペガサスさんは、その直後、俺に向き直る。

 

『もちろん、社のためとはいえ勝ちを譲るつもりはありまセーン。デュエリストとして、全力でお相手させていただきまショウ!』

 

 ペガサスさんがそう宣言した途端、ワッと歓声が上がる。

 それもそのはず。今でこそペガサスさんはデュエルから離れているが、もともと最強のデュエリストとして君臨していたこともある実力者なのだ。

 その事実はあまりにも有名であり、また経営に専念するためにデュエルを止めたことも皆知っている。そして、一線から退いたからこそ、そのデュエルを見る機会は既にゼロに近い。

 それをここで見ることが出来るというのだから、興奮もしようということなのだ。

 そして、それは観客だけでなく俺も同じことだ。

 これまでの一年。接する機会が多かったペガサスさんだが、シンクロのことや俺自身のこともあって、デュエルをしたことは一度もない。

 この場でそういうことになるとは予想外だったが、デュエルモンスターズの生みの親――ペガサス・J・クロフォードとデュエルできるなんて、デュエリストとしての血が黙っていない。

 俺は我知らず浮かんでくる笑みを抑え、社員の人からデュエルディスクを受け取っているペガサスさんを見る。

 それに気づいたのか、その視線を合わせてペガサスさんは小さく笑った。

 

「フフ、こうしてデュエルするのは初めてですネ、遠也。年甲斐もなく、ワクワクしてしまいマース」

「それは、俺の台詞ですよ」

 

 既に緊張なんてどこにもない。

 こうしてデュエルをする以上、それだけに集中すればいいのだから。

 ペガサスさんはデュエルディスクをひと撫でし、俺と距離をとる。司会進行として持っていたマイクは既に社員の方に渡しており、その手は既にカードを引くためだけにあった。

 互いに向かい合い、デュエルディスクを構える。

 

「それじゃ、よろしくお願いします。ペガサスさん」

「こちらこそ。まだまだ現役でもいけることを教えてあげマース」

 

 その様子を見てとってから、マイクを受け取った社員が掛け声をかけた。

 

『それでは、開始!』

 

「「デュエル!」」

 

皆本遠也 LP:4000

ペガサス LP:4000

 

「先攻は私デース。ドロー!」

 

 カードを引いたペガサスさんは、手札を見てふっと微笑んだ。

 そして、カードたちを愛おしげに見つめる。

 

「……この感覚、久しぶりデース。こうしてまた、このカードで戦うことに、喜びを感じマース」

 

 そして、その視線を俺に向ける。

 

「私にとって、素晴らしい世界。きっと、遠也もこの愛らしいカードたちの魅力を知ることになるでショウ。……私は、手札から魔法カード《トゥーンのもくじ》を発動し、デッキから「トゥーン」と名のつくカードを手札に加えマース。《トゥーン・キングダム》を手札に加え、そのまま発動デース!」

 

 ペガサスさんが発動を宣言すると、フィールドにポンッとコミカルな音を伴って一冊の本が現れる。

 そしてそのページが勝手にめくられていき、やがて西洋の城が本の上に現れる。それはまるで、子供のころに見た“飛び出す絵本”をそのまま持ってきたかのような光景だった。

 

「デッキの上からカードを5枚除外して発動しマース! このカードはフィールドに存在する限り「トゥーン・ワールド」として扱いマス。そして更に《トゥーン・マーメイド》を守備表示で特殊召喚デース!」

 

《トゥーン・マーメイド》 ATK/1400 DEF/1500

 

 現れたのは、《弓を引くマーメイド》がトゥーンと化して、デフォルメされたモンスター。

 ペガサスさんしか使わないカードだからか、ソリッドビジョンではあるが、ゆらゆらと身体を揺らし、こちらを見て笑うなどの演出つきである。

 トゥーン・マーメイドは通常召喚できず、トゥーン・ワールドがなければ特殊召喚できないモンスター。更に、トゥーン・ワールドが破壊されれば自壊し、攻撃の際もライフを500ポイント払わなければ攻撃できない。

 その代わり、トゥーン・ワールドが存在する限り、直接攻撃が可能である。

 いわゆる“初期型トゥーン”というやつだ。同じモンスターに《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》《トゥーン・デーモン》《トゥーン・ドラゴン・エッガー》がある。

 ちなみにトゥーンには更に2種類あり、それぞれ“後期型トゥーン”“例外型トゥーン”と分けられる。

 そしてそれぞれに共通するのが、トゥーン・ワールドが破壊された時に自壊する効果。また、トゥーン・ワールドがある限り直接攻撃できるという効果だ。

 前者はデメリット効果だからいいが、後者はかなり厄介だ。どうにかして、それを防ぎつつ攻略していかなければならない。

 

「更に私はカードを1枚伏せてターンエンドデース」

 

 ペガサスさんのフィールドに1枚の伏せカードが浮かび上がり、そのターンを終える。

 そして、ペガサスさんは俺に呼びかけるように声を出した。

 

「さぁ! 私に見せてくだサーイ! シンクロモンスターの力を、その姿を!」

 

 ペガサスさんのノリノリな姿に、俺は苦笑を浮かべる。

 これもきっと、エンターテイメントの一つなのだろう。お客さんにアピールをして、その期待感を煽っているのだ。

 まぁ、本人が楽しみにしているのもあるだろうが。実際に対戦相手として見るのは初めてだろうから。

 そして、そんなペガサスさんの言葉に、俺が返す答えなんて決まっている。

 

「言われなくても! こいつらが俺のデッキの要ですからね! ドロー!」

 

 引いたカードを加え、手札を確認する。

 そして、俺はただいつものように手札からカードを選んでディスクに置いた。

 

「俺は、手札からモンスターカード《レベル・スティーラー》を墓地に送り、チューナーモンスター《クイック・シンクロン》を特殊召喚します!」

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

 

 テキサスのガンマンのような風体、大きめのカウボーイハットをくいっと銃で上げる動作を見せるモンスターの登場に、会場がざわめいた。

 ところどころから、「あれが例の……」「さっきペガサス会長が説明していた……」という声が聞こえてくる。

 先程俺がステージに出る前に、ペガサスさんが説明していたシンクロ召喚に必要な新たな区分のモンスター。チューナーというそれを見て、観客は興味深そうにクイック・シンクロンを見ている。

 俺はその視線を感じながらも、ペガサスさんを見つめ続ける。

 そして、俺は更に言葉を続けていく。

 

「墓地の《レベル・スティーラー》の効果発動! レベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げ、墓地から特殊召喚できる! クイック・シンクロンのレベルを1つ下げ、蘇れ、レベル・スティーラー!」

 

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

 

 墓地から背中に1つ星を背負ったテントウ虫がフィールドに戻る。

 これで、レベルの合計は5。更に言えばシンクロ召喚発お披露目という、この状況。となれば、この場で出すモンスターなんてアイツしかいないだろう。

 

「俺はレベル1のレベル・スティーラーに、レベル4となっているクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 クイック・シンクロンが虚空に現れたルーレットからジャンク・シンクロンを撃ち抜く。

 そして、2体のモンスターがフィールドから飛び立ち、空中でその姿を変えていく。

 クイック・シンクロンは4つの光る輪へ。レベル・スティーラーは輝く1つの星へと。

 そして、その星が4つの輪を潜り抜ける時、眩いばかりの光があふれる。会場中が、そのどこか幻想的な光景をじっと見つめていた。

 

「――集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!」

 

 瞬間、一際光が強くなり、その中から1体のモンスターが飛び出してきた。

 

「シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 光を切り裂き、紫がかった鋼の身体を持った戦士がフィールドに立つ。赤く光る二つのガラスの瞳が相手フィールドを見据え、そちらに向かってその右拳を力強く突き出した。

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300 DEF/1300

 

 そして、ジャンク・ウォリアーは一旦拳を下ろして俺のフィールド上にて静止する。

 そこまでが過ぎたところで、シンとなっていた会場から一気に歓声が上がった。

 

『きゃっ』

 

 思わずマナが驚きの声を上げてしまうほど、それは爆発的なものだった。

 その歓声は大半が「すごい」「かっこいい」というものであり、非常に好意的なものだということがわかる。

 中にはジャンク・ウォリアーの姿を見て微妙、と言っている人もいるようだが……その人とはきっとわかりあえないに違いない。こんなにカッコイイのに。

 そして、そんな人たちに対し、ペガサスさんからマイクを渡された人が、再びシンクロ召喚の説明を行っている。今の召喚がどのように行われたのか、丁寧に説明していた。

 

「フフ、シンクロ召喚。これまで見向きもされなかったカードにも手を差し伸べる戦術、ですネ?」

 

 俺はペガサスさんの言葉に頷く。

 

「ええ。低レベルだろうと、低ステータスだろうと、力を合わせれば大きな力になる。それがシンクロ召喚です。むしろ、シンクロ召喚にとって低レベルであることはメリットでしかない場合がほとんどですからね」

 

 レベルの調整がきく、という理由だけでシンクロ召喚にとっては大きな助けだ。たった1枚のレベル1モンスターの存在が、戦況をひっくり返すことだってあるのだから。

 さて、話もいいがまずはデュエルも続けなければ。せっかくのペガサスさんとのデュエル、楽しまなければ損だ。

 

「いくぞ、ペガサスさん! ジャンク・ウォリアーでトゥーン・マーメイドを攻撃! 《スクラップ・フィスト》!」

 

 ジャンク・ウォリアーが飛び上がり、勢いをつけてトゥーン・マーメイドに迫り拳を突き出す。

 しかし、その瞬間ペガサスさんがふっと笑みをこぼした。

 

「トゥーン・キングダムの効果発動デース! デッキトップのカードを1枚墓地に送り、トゥーンモンスターの破壊を無効にしマース!」

 

 ペガサスさんがデッキトップのカードを墓地に送り、それを受けたトゥーン・マーメイドは背後の貝が蠢いて両腕を形成する。そして、その腕をクロスさせ、ジャンク・ウォリアーの拳を受け止めてしまった。

 破壊できず、俺の場に戻るジャンク・ウォリアー。やはり、トゥーンは相手にすると厄介だな。だが、今はまだ序盤だ。これぐらいのことは当然と思うべきだろう。

 

「俺はこれでターンエンドです!」

 

 ターン終了を告げ、ペガサスさんにターンが移る。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カードを引き、ペガサスさんはすぐに行動を起こした。

 

「私は《トゥーン・キャノン・ソルジャー》を守備表示で召喚しマース!」

 

《トゥーン・キャノン・ソルジャー》 ATK/1400 DEF/1300

 

 これまたデフォルメされたキャノン・ソルジャーが現れる。

 こいつは“後期型トゥーン”に分類され、通常召喚が可能かつその際に《トゥーン・ワールド》が必要ない点で初期型トゥーンと分けられる。つまり、トゥーンの専用デッキ以外にも組み込めるモンスターということである。

 っていうか、それはこの際関係ない。こいつ自身が持っている効果が厄介だ。面倒なモンスターを召喚してくれたもんである。

 

「そして《クロス・ソウル》を発動しマース! このターン私はバトルフェイズを放棄し、代わりに自分の場のモンスターの代用として相手の場のモンスター1体を生贄に利用できるのデース!」

 

 なんてカードを使ってくれやがるんですか!

 この間の海馬さんといい、このカード伝説のデュエリストの間で流行ってんのか?

 

「そしてトゥーン・キャノン・ソルジャーの効果を発動デース! 自分フィールド上のモンスター1体を生贄に捧げ、相手ライフに500ポイントのダメージを与えマース! 私はクロス・ソウルにより遠也の場のジャンク・ウォリアーを生贄に捧げ、遠也のライフに500ポイントのダメージを与えマース!」

 

 ジャンク・ウォリアーが光を放ち、ペガサスさんの場へと移動する。そして、トゥーン・キャノン・ソルジャーはそのジャンク・ウォリアーを引っつかみ、光の玉へと変換させると、それを口に含んで、背を反らした。

 そして、反らしていた背を戻す反動を利用して、口から一気にそれを撃ち放つ。

 それはみごとに俺自身に命中し、俺のライフを削っていった。

 

遠也 LP:4000→3500

 

「私はこれでターンエンドデース」

 

 ターンを終えたペガサスさんのフィールドを見る。

 あちらの場にはモンスターが2体に伏せカード1枚。対して、こちらはガラ空き。まったくもって厄介な状況である。

 周囲も俺の劣勢を見て若干拍子抜けのようだ。まぁ、これだけ最初のほうでこうなってちゃなぁ。

 だが、俺は気にしない。そもそも観客のためにデュエルをしているんじゃないんだ。もちろん、シンクロの実演のことは忘れていないが、俺がデュエルをすればそれは自然と出来ている。

 なら、俺はただデュエルに真剣に臨めばいいだけだ。

 

『頑張れ、遠也!』

 

 こうして、横で応援してくれている奴もいるんだ。

 頑張らなきゃ、男が廃るってもんだろう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 手札を確認し、取るべき手段を頭の中で思索する。

 そして、俺はカードを一枚手に取った。

 

「手札から《おろかな埋葬》を発動し、デッキから《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地に送ります。そして《ADチェンジャー》を墓地に送り、2枚目のクイック・シンクロンを特殊召喚! 更にチューナーが場にいるためボルト・ヘッジホッグを特殊召喚! 更に《チューニング・サポーター》を召喚!」

「その瞬間、罠カードが発動しマース! 《トゥーンのかばん》! 「トゥーン・ワールド」がある時、相手がモンスターの召喚に成功した場合、そのモンスターをデッキに戻しマース! ここでレベル1のモンスターは危ないですからネ。チューニング・サポーターにはデッキに戻ってもらいまショウ」

 

 カードから大きなカバンが飛び出し、チューニング・サポーターを飲みこんで消えてしまう。ああ、これでデストロイヤーを召喚出来ればトゥーンを破壊出来たのに。

 しかし、さすがはペガサスさん。ここでそんな罠カードとは。

 

「くっ、でもチューナーと素材モンスターは確保できた」

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 2体のモンスターが俺のフィールドに並ぶ。

 このターンでトゥーンを攻略出来なくなったのは残念だが、それならそれで出来ることをやるだけだ。

 

「俺はレベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 結果として伏せカードが無くなった。ある意味でそれはありがたい。これで、安心して行動できるんだからな。

 

「集いし思いが、ここに新たな力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 

 全身が緑色で、顔が厳つい鬼戦士。ニトロ・ウォリアーが咆哮を上げて場に現れる。

 そのいかにも強そうな姿に、会場も息を飲んで推移を見守る。

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800 DEF/1800

 

「更に手札から《闇の誘惑》を発動! デッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスターを除外します。2枚ドロー! よし、俺は《ジャンク・シンクロン》を除外します」

 

 周囲は、何故このタイミングで魔法カードを? と疑問に感じる人もいる。

 だが、このモンスターにとっては、このタイミングこそ重要なのだ。

 

「更に墓地の《ADチェンジャー》の効果発動! このカードを除外し、フィールド上に存在するモンスター1体の表示形式を変更します! 俺はトゥーン・キャノン・ソルジャーを選択!」

 

 ADチェンジャーの効果により、キャノン・ソルジャーが攻撃表示になる。普段は入れないこのカードだが、今回はシンクロの実演ということで、いささか遊星のファンデッキ的なカードも投入されている。そのカードがこうして活躍してくれて、嬉しい限りだ。

 

「バトル! ニトロ・ウォリアーでトゥーン・キャノン・ソルジャーに攻撃! 《ダイナマイト・ナックル》!」

 

 ニトロ・ウォリアーの拳に炎が生まれ、それを維持したままニトロ・ウォリアーがトゥーン・キャノン・ソルジャーに向かって突進する。

 

「この瞬間、ニトロ・ウォリアーの効果発動! 魔法カードを使ったターンに1度だけ、ダメージ計算時に攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

 よって、攻撃力は――、

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800→3800

 

 周囲から、3800!? と驚きのざわめきが聞こえてくる。

 そして、それに応えるかのようにニトロ・ウォリアーの拳を覆う炎が勢いを増す。ニトロ・ウォリアーは大きく振りかぶって拳を叩きつけようとする、その瞬間。

 トゥーン・キャノン・ソルジャーの身体から二本の腕が生え、その拳をがっちり防御した。

 

「トゥーン・キングダムの効果発動デース! デッキの上からカードを1枚墓地に送り、破壊を無効にしマース!」

 

 もちろん、防ぐことは予想していた。しかし、その効果はあくまで破壊から守るだけだ。

 

「けど、ダメージは通ります!」

 

 ニトロ・ウォリアーは力任せに拳を振り抜き、それは腕の防御を打ち破ってキャノン・ソルジャーに突き刺さる。

 そして、その分のダメージがペガサスさんのライフポイントから引かれる。

 

「オーノー!」

 

ペガサス LP:4000→1600

 

 一気にペガサスさんのライフを削ったことに、どよめきが起こった。

 トゥーンじゃなかったら、ここでもう1体を攻撃表示にして追加攻撃できたんだけど……まぁ、仕方ない。

 そして、攻撃を終えたニトロ・ウォリアーの攻撃力が2800に戻る。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドです」

「私のターン、ドロー!」

 

 カードを手札に加え、ペガサスさんは口を開く。

 

「遠也のフィールドにいるニトロ・ウォリアーはとても強力なカードデース。しかし、トゥーンの特殊能力を忘れたわけではないでショウ。私は、トゥーン・マーメイドを攻撃表示に変更デース!」

 

 トゥーン・マーメイドが弓に矢を番え、つられるようにトゥーン・キャノン・ソルジャーも勢いよく拳を打つ仕草をとる。

 トゥーンの特殊能力とは、当然直接攻撃のことだ。2体のモンスターの総攻撃力は2800。そこにキャノン・ソルジャーの効果をフルに使えば3800にもなる。一気に俺の負けというわけだ。

 

「いきマス、遠也! トゥーン・キャノン・ソルジャーとトゥーン・マーメイドで直接攻撃!」

 

 ペガサスさんの宣言に則り、2体のトゥーンが笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けてくる。

 その瞬間、俺は叫ぶように言葉を返す。

 

「罠カード発動! 《ガード・ブロック》! 戦闘によって発生するダメージを0にし、デッキからカードを1枚ドローします。ドロー!」

「しかし、それは1体との戦闘だけですネ? トゥーン・キャノン・ソルジャーの攻撃は防がれましたが、トゥーン・マーメイドの攻撃は通りマース!」

「くっ……」

 

 トゥーン・マーメイドの放った矢が刺さり、俺のライフが更に削られる。

 

遠也 LP:3500→2100

 

 だが、同時にトゥーン・マーメイドが攻撃宣言したことにより、ペガサスさんのライフからも500ポイントが引かれることになる。

 

ペガサス LP:1600→1100

 

「更にトゥーン・キャノン・ソルジャーの効果を発動しマース! トゥーン・マーメイドを生贄に捧げ、遠也に500ポイントのダメージデース!」

 

遠也 LP:2100→1600

 

「カードを2枚伏せてターンエンドデース」

 

 自分のライフも犠牲にしたとはいえ、俺のライフを一気に削り、2枚の伏せカードで守りも万全。さすがに元最強デュエリストは伊達ではないってところか。

 俺の場にはニトロ・ウォリアーがいるとはいえ、安心はできない。あの伏せカードは恐らく《トゥーン・キングダム》を守るカードか、攻撃を防ぐカードのどちらか、あるいは両方だろう。

 トゥーンの特徴とキャノン・ソルジャーが攻撃表示で残っていること、そしてこちらの場にいるニトロ・ウォリアーの効果を考えれば、その線が濃厚だ。

 もしこのまま俺が何も出来なかった場合、逆転する可能性はだいぶ下がる。キャノン・ソルジャーがトゥーンの効果で直接攻撃し、その後自身を生贄にバーン効果を使えば、それだけで俺のライフはなくなるからだ。

 加えて、ペガサスさんの場にモンスターが増えたりすればその脅威は更に増す。

 つまり、ここが一つの正念場。

 だから、ここはデッキの力を借りるしかないだろう。

 俺はデッキの一番上に指をかけ、カードを掴む。……頼むぜ、俺のカードたち。

 

「俺のッ、タ-ン!」

 

 キーカードではない。だけど、これなら。

 

「俺は《異次元からの埋葬》を発動! 除外されている《ジャンク・シンクロン》と《ADチェンジャー》を墓地に戻します。更に《貪欲な壺》を発動! 墓地の《ジャンク・ウォリアー》、《クイック・シンクロン》、《レベル・スティーラー》、《ジャンク・シンクロン》、《ADチェンジャー》をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 結果的にはただの手札交換。だが、最高のカードが来てくれた。

 

「俺は手札から《サイクロン》を発動! 《トゥーン・キングダム》を破壊します!」

「そうはさせまセーン! カウンター罠、《魔宮の賄賂》! 魔法カードの発動を無効にして破壊し、相手は1枚ドローしマース!」

 

 俺がサイクロンを発動させた瞬間、ワッとあがった歓声だったが、防がれた途端、その勢いもしぼんでいく。

 まぁ、せっかく盛り上がるところだったんだからな。無理もない。

「頑張れ!」「まだよ、遠也!」と友人二人の応援が飛ぶ。それに内心で感謝しつつ、俺はカードをドローし手札のカードに手をかけた。

 確かに今のは防がれたが……まだ消沈するには早いってもんだぜ。

 

「俺は2枚目の《サイクロン》を発動!」

「なんデスって!?」

「今度こそ《トゥーン・キングダム》を破壊する!」

 

 カードから生まれた暴風がペガサスさんのフィールドに届き、トゥーン・キングダムのカードを破壊する。

 そして、その瞬間消えていく、アミューズメントパークのようだった飛び出す絵本。それに併せて、フィールドに残っていたトゥーン・キャノン・ソルジャーも悲しげにその姿を薄れさせていった。

 トゥーンモンスターは、トゥーン・ワールドが破壊された時、共に自壊する運命にある。常に直接攻撃が出来る強力な効果に対する、代償というわけだ。

 

「私のトゥーンが……」

 

 思わずペガサスさんが天を仰ぐ。

 

「バトルです! ニトロ・ウォリアーでペガサスさんに直接攻撃! 《ダイナマイト・ナックル》!」

 

 これが決まれば、俺の勝ち。

 しかし、そうは問屋がおろさないとばかりに、ペガサスさんが声を上げる。

 

「カウンター罠、《攻撃の無力化》を発動デース! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させマース!」

 

 やっぱり、攻撃反応型の罠カードだったか。まぁ、ミラーフォースじゃなかっただけマシと思うべきだろう。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドです」

「私のターンデース、ドロー!」

 

 さて、手札は1枚しかない状況でペガサスさんは何ができるだろうか。

 トゥーンは基本的にトゥーン・ワールドがなければ召喚すらできないものがほとんどだ。後期型なら通常召喚できるが、ニトロ・ウォリアーにやられるのが目に見えている。

 その状況で、どうするのか……。

 

「私は《強欲な壺》を発動しマース! デッキから2枚ドロー!」

 

 ここで強欲な壺か。となれば、何か対抗策が出来たことも考慮に入れなければなるまい。

 事実、ペガサスさんは小さく笑みを見せたのだから。

 

「フフ、さすがは私の愛するカード達デース。手札から更に《壺の中の魔術書》を発動! お互いのプレイヤーはデッキからカードを3枚ドローしマース!」

 

 これによって俺の手札も3枚増える。だが、ペガサスさんの手札がここに来て潤うとは。果たして、どうくるのか。

 

「私はデッキの上からカードを5枚除外し、《トゥーン・キングダム》を発動デース! 更に《トゥーン・アリゲーター》を召喚! そしてトゥーン・アリゲーターを生贄に捧げ、《トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚しマース!」

 

《トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール》 ATK/2000 DEF/1700

 

 うん、小さくなったマナだ。それ以外にどう言えばいいというのだろう。

 

『わ、なんか恥ずかしいなぁ。子供になった私みたい』

 

 マナが同じようなことを言っている。すると、ふいにトゥーンのマナが俺を見てウィンクしてくる。そこらへん、小さくなっても女の子ということなのだろうか。実に楽しそうにふよふよ浮いている。

 あー、小さいマナも可愛いなぁ。そう思って、トゥーン・マナを眺めていると、横から声が聞こえてきた。

 

『……ふーん。遠也は、小さい子のほうがいいの?』

 

 今の俺に出来ることは、首を横に振ることだけだった。

 

「トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールも、もちろん直接攻撃能力を持っていマース。そして、このカードは召喚されたターンに攻撃できないという制限を唯一持っていまセーン」

 

 そう、三つの分類があるトゥーンの最後の区分。“例外型”に分けられるのが、このトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールだ。

 このカードだけは、トゥーンの中で唯一召喚されたターンに攻撃できないというデメリットを持たない。ゆえに、召喚されてすぐに直接攻撃を行うことが出来るのだ。

 攻撃力2000の直接攻撃は、この世界では脅威の一言だ。まして、今の俺のライフポイントでは耐えきるなんて出来ようはずもない。

 

「トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールで、遠也に直接攻撃デース! 《トゥーン・ブラック・バーニング》!」

 

 小さなマナの杖が光り、そこから稲妻を伴った閃光が放たれる。

 周囲もこれで終わりか、と息を飲む。

 しかし、その瞬間。俺は壺の中の魔術書によって手札に加わったカードを一枚手に取っていた。

 

「手札から《速攻のかかし》を捨て、効果発動! 相手の直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させます!」

 

 一瞬俺のフィールドに現れたかかしが、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールからの攻撃をその身を以って防ぎ、やがて消えていく。

 バトルフェイズはこれで終わり、ペガサスさんの手札は1枚。ペガサスさんはそのカード手に取る。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドデース」

「俺のターン、ドロー!」

 

 壺の中の魔術書によって、俺の手札も増えたのは大きい。

 俺は取るべき手段を頭の中で組み立て、そしてそれを実行に移す。

 

「俺は手札から《グローアップ・バルブ》を墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚! 更に《チューニング・サポーター》を召喚!」

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

《チューニング・サポーター》 ATK100 DEF/300

 

 再び俺の場にチューナーと素材モンスターが揃う。しかし、今回はこれで終わりじゃないぜ。

 

「そして墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動! デッキトップのカードを墓地に送り、デュエル中1度だけ特殊召喚できる! 守備表示で特殊召喚!」

 

《グローアップ・バルブ》 ATK/100 DEF/100

 

 一つ眼の球根がポンッとフィールドに生まれ、これで俺の場には新たなモンスターが3体。

 これで、全ての準備は整った。

 

「チューニング・サポーターの効果、シンクロ素材とする場合レベル2として扱うことが出来る。レベル2となったチューニング・サポーターにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング! 集いし叫びが、木霊の矢となり空を裂く。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・アーチャー》!」

 

《ジャンク・アーチャー》 ATK/2300 DEF/2000

 

 オレンジ色をした細身の身体に弓を携えた戦士が、片膝をついた状態でフィールドに現れる。

 そう、今回は守備表示で召喚したのだ。

 

「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー! そして、ジャンク・アーチャーの効果発動! 1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体をエンドフェイズまで除外する! 《ディメンジョン・シュート》!」

 

 守備表示であろうと、表側表示である以上問題なく効果は使える。

 ジャンク・アーチャーは膝をついた状態から狙いを定め、番えた矢を一直線にトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールへ向けて撃ち放つ。

 それは違わず命中し、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを次元の彼方へと消し去った。

 

『ああっ、私が……』

 

 いや、お前じゃないだろ、という突っ込みは内心でするだけに留めておく。

 少々隣の発言に呆れつつ、ともあれ、これで壁となるモンスターは全て消えた。この攻撃が決まれば俺の勝ちだ。

 

「バトル! ニトロ・ウォリアーで直接攻撃! 《ダイナマイト・ナックル》!」

 

 しかし、その瞬間。ペガサスさんのフィールドの伏せカードが起き上がる。

 

「罠カード発動、《聖なるバリア -ミラーフォース-》! 攻撃表示の相手モンスター……ニトロ・ウォリアーを破壊しマース!」

 

 ペガサスさんが一瞬言葉を詰まらせるが、問題なくその効果は発動されてニトロ・ウォリアーが破壊される。

 高攻撃力のニトロ・ウォリアーがいなくなるが、しかし俺の顔に動揺はない。

 この状況で伏せられるカードということで、ミラフォは警戒していた。その危険を感じたからこそ、俺はグローアップ・バルブもジャンク・アーチャーも守備表示で出したのだ。

 ミラフォの破壊効果は相手フィールドの攻撃表示モンスターに限られる。守備表示ならば、破壊されることはないからな。

 ペガサスさんが言葉を詰まらせたのは、俺のフィールドのモンスターがニトロ・ウォリアー以外は軒並み守備表示だったからだろう。

 

「さすがデース、遠也。まさかミラーフォースを読んで、守備表示にしているとは。しかし、それではこれ以上の追撃は出来ませんネ。次のターン、私の引くカードで全てが決まりマース」

 

 ペガサスさんがそう言うが、しかしそれに返す俺の答えはその予想を覆す。

 

「いいえ、ペガサスさん。このターンで終わりです」

「ホワッツ?」

 

 ペガサスさんが疑問の声を出すが、何か忘れていないだろうか。そう、俺の場に伏せられているカードのことを。

 俺はデュエルディスクを操作する。それによって、伏せられていたカードが起き上がっていく。

 俺が伏せていたカード。それは――、

 

「罠カード発動! 《緊急同調》!」

「Oh! 《緊急同調》!?」

 

 今回、シンクロの実演ということで使うこともあるかもしれないと、特別に入れていたこのカード。それがまさかここで決め手になろうとは。

 見ているお客さんはシンクロを初めて見る以上、このカードの効果も当然知らない。俺は、きちんとその効果を説明していく。

 

「このカードはバトルフェイズ中のみ発動できる! シンクロモンスター1体をバトルフェイズ中にシンクロ召喚します!」

 

 俺の場にはレベル7のジャンク・アーチャーと、レベル1チューナーのグローアップ・バルブ。

 そのレベルの合計は8。

 そして、チューナーと素材に指定のないレベル8のシンクロモンスターを、俺は1枚しかこのデッキに入れていない。

 エクストラデッキ……いや、今はまだ融合デッキか。そこに収められている15枚のカード。そのうちの1枚に触れる。

 本当に、本当に久しぶりに召喚することになるこのカード。決してこのデッキの主力というわけではない。だが、それでも絶対に外すことが出来ないエースモンスター。

 シンクロを世に広めるこの場で召喚することになるなんて、これもまた運命だろうか。

 かつての世界においても、シンクロモンスターで随一の知名度を誇ったこのカードが、大勢の人で溢れるこの場で姿を現す。

 そのことに、奇妙な感慨すら覚える。俺自身非常に特別に思っているこのカードを、こうして召喚できることが嬉しいのかもしれない。ほぼ一年近く、まったく召喚していなかったから。

 

 それは何故かというと、俺の気持ちが問題だった。俺は、自分が向こうの世界の人間なんだ、と思っていたかった。このカードを召喚するのは、不用意にこの世界に干渉することになってマズイんじゃないか、なんて。昔は生意気なことを考えていたものだ。

 そもそも俺はこの世界で今を生きているんだから、今更そんなの関係ない。そう思えるようになったのはつい最近のことだ。

 ようやく自分の気持ちに折り合いをつけることは出来たが、しかし、そう思えるようになって以降、このカードを召喚する機会は訪れなかった。

 

 だからこそ、デュエルの場でこのカードに触れるのは本当に久しぶりだ。

 その感覚に不思議な高揚を感じつつ、俺は気合を入れて宣言していく。

 

「レベル7ジャンク・アーチャーに、レベル1グローアップ・バルブをチューニング!」

 

 2体のモンスターが飛び上がり、グローアップ・バルブが1つの光の輪へと姿を変え、ジャンク・アーチャーが7つの星となってその輪を潜り抜けていく。

 

「――集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ!」

 

 そうして、一か所に互いが集まった瞬間。

 爆発的な光がステージを覆った。

 

「シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

 瞬間、光を切り裂き、翼を畳んだ状態で上空へと駆け上がっていく白銀の流星。

 会場中の視線が全て屋外ステージの上空へと注がれていた。屋根のないステージ、その上に広がる青い空。それを背景に、重力に反して空に昇った流星がくるりと弧を描く。

 そして畳まれていた翼を勢いよく広げ、直後、その身体から煌めく光の粒子が降り注ぐ。

 その様は、まさに名前の通りの星屑(スターダスト)。その神秘的な光景を生み出したドラゴンが虚空に向かって(いなな)き、その姿を見る者全員の目にその美しさを刻みつけた。

 

「――……綺麗……」

 

 それは、誰が呟いたものだったのか。

 定かではないその声に、誰も否を発することはしなかった。

 それはきっと、今この場にいる者全員が共に抱いている、共通した思いであったからだろう。

 それほどまでに、そのドラゴンの姿は美しいものだった。

 

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 

「……私も久しぶりに見まシタ。やはり、美しいモンスターデース」

 

 ペガサスさんも例外ではなく、スターダストに見とれている。

 ソリッドビジョンとは思えない、異質な迫力すら感じさせるその姿には、精霊を感じられるだけに感じるモノもひとしおなのだろう。

 上空へと昇っていたスターダストが、ゆっくりと降りてきて俺の上に浮かぶ。

 そして、俺はスターダストに指示を出す。このデュエルを終わらせるための一言を。

 

「久しぶりだな。早速で悪いけど、頼んだぜ。――スターダスト・ドラゴンの攻撃!」

 

 再び甲高い声で鳴き、首をしならせて頭を僅かに後ろへ。

 そして、その口元に向かって集束していく大気の渦。それはやがてうっすらと白色を帯びるほどに凝縮され、ぴたりとそこに留まる。

 それを受けて、俺は最後の宣言を行う。

 

「――響け! 《シューティング・ソニック》!」

 

 その声に応えるように、スターダストは集められたエネルギーを一直線に解放する。

 それは音速すら超える、姿のない砲弾となって突き進む。

 無論それを避ける術などあるわけなく。ペガサスさんはその直撃を受けて、ついにそのライフポイントを0にするのだった。

 

ペガサス LP:1100→0

 

 デュエルに決着がつき、ソリッドビジョンも終了に伴って解除されていく。

 消えゆくスターダストに、俺は一言声をかける。ただの立体映像だとしても、やはり思い入れが強いカードだったから。

 

「サンキュー。また、よろしく頼むよ」

 

 消える瞬間、応えるように鳴いて、スターダストは宙に溶けるようにしてその姿を消していった。

 ……さて。こうしてペガサスさんとの勝負に勝ったわけだが、なぜか周囲は静まり返ってしまい、何の反応もない。

 その様子に不気味さを感じ、俺はどうしたものかと不安になる。その時、いつの間にか俺の傍へと歩み寄っていたペガサスさんに右腕を掴まれた。

 驚いてその顔を見上げれば、にっこりと笑って俺を見ていた。そして、すぐにその顔を観客席のほうへと向け、その後掴んでいた俺の腕を高く掲げた。

 そして、手に再び収められていたマイクを通して宣言する。

 

『遠也の勝利デース! 皆さん、拍手をお願いしマース!』

 

 明るく大きな声で言い放ったその言葉に、静まり返っていた会場も我を取り戻し始める。

 そして、どこからかポツポツと拍手が起こり始め、それはすぐに会場中を巻き込む大きな轟音となって響きわたる。

 俺はペガサスさんの横で、それに嬉しいやら恥ずかしいやらといった複雑な気分で手を振って応える。

 そうしてなかなか鳴りやまない拍手が、ようやく下火になって来た頃。今度は再びシンクロ召喚の説明や今のデュエルのおさらいが始まり、そうして今回の実演の時間は過ぎていったのだった。

 

 

 

 

 その後、俺は会場の子供たち相手に社員の人やペガサスさんと一緒に、来場者特典などを渡す仕事を仰せつかった。

 子供の来場者には、特典としてカードパックが一つ、それからI²社のグッズが渡されるんだとか。そのため、子供たちは群がるように俺たちのほうに寄って来る。

 特に、俺とペガサスさんにはかなりの子供がやって来ていた。ペガサスさんは当然として、俺はどうやらさっきのデュエルで興味を持たれたからのようだ。

 まぁ、子供嫌いというわけでもないから別に問題はない。時おり、デュエルの質問やシンクロの疑問などを聞かれるので、後がつかえない程度に話して順調にさばいて行く。

 中には俺のデュエルを評価してくれる子もいて、嬉しかったり。

 たとえば「デュエルかっこよかったです! 私、絶対シンクロ召喚使います!」とか、「シンクロモンスター、かっちょいー! 俺も絶対兄ちゃんみたいになるからな!」なんていう子供がいたりして。微笑ましいもんだ。

 変わったところでは、低ステータスモンスターを主力に使っているという男の子が来て、新しい可能性に感動したという感想もあった。

 その子には、低ステータス=弱い、じゃない。効果が強力かもしれないし、他のカードとの組み合わせで化けるかもしれない。もしくは、シンクロのように力を合わせる方法もある。

 要するに、低ステータスなんて気にするだけ無駄。それより、わざわざそのカードを使うってことは、そのカードが好きってことだ。なら、好きなカードで勝てるように努力したほうが建設的だし楽しいぞ、と伝えた。

 どこかで聞いたような言い方になってしまったが、本心だったので問題はないだろう。その子も、目をパッと輝かせて「ハイ!」と頷いてくれた。うーん、いい子だ。俺は帽子の上からその子の頭を撫でた。

 実際、その子はそのモンスターが好きで、だからそのためのデッキを作ったんだそうだ。いいね、デュエルモンスターズの楽しさはそこが原点と言ってもいい。ぜひ、そのまま頑張ってほしいものだ。

 興奮冷めやらぬのか顔を赤くして、大きく手を振って去っていく小さな男の子。それに手を振り返し、思う。まさか、この俺が憧れの視線を受けることになるとはね。いいことした。

 マナには何故かにやにやと鬱陶しい目で見られていたが。くそ、俺だってクサいこと言った自覚はあるんだ。あまりそこに触れてくれるんじゃない。

 そんなこんなでイベントは全て終了し、長かった一日もようやく終わる。

 

 

 

 イベント後は俺の家にペガサスさんが帰って来て、俺もせっかく会ったんだからと三沢と明日香を招待した。

 二人は生で会ったペガサスさんにガチガチに緊張していたので、思わず笑ってしまい睨まれてしまった。まぁ、伝説の人といっても過言じゃないし、カードの生みの親だもんな。

 二人がああいう態度になって、サインをねだるのもこの世界では当然の対応なんだろう。

 それからは二人も徐々に打ち解けてきたのか、食事の席では自分たちから話をすることもあり、賑やかな食事になっていく。

 俺、実体化したマナ、ペガサスさん、三沢、明日香。そんな普通は有り得ないような五人で過ごした冬休みの一時は、とても楽しめるものだったことをここに記しておこうと思う。

 もうすぐ冬休みも終わる。

 アカデミアに戻り、そこでまた十代たちに会うことを楽しみに思いながら、その夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

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