遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第26話 終劇

 

 ――皆本遠也が行方不明。

 この情報は、セブンスターズと戦う者たちを大きく動揺させた。

 十代もまた行方知れずだったが、あちらはアナシスに連れて行かれたということがわかっている。セブンスターズ関連でもないし、少なくとも身命に関わる事態にはならないと考えることが出来る分心配せずにすんだ。

 だが、遠也は違う。誰にも知られぬままの失踪。そこにセブンスターズの影を見出すのは、彼ら――万丈目、明日香、三沢、カイザー、クロノス、大徳寺といった実際に事を構えている面々と、事情を知る翔や隼人にとっては自然なことであった。

 幸いと言っていいのか、まだ鍵は奪われていないようだが、しかしだからといって遠也の身が無事であるという保証にはならない。安心できる要素はどこにもなかった。

 そして、遠也は彼らの中でもトップクラスの実力者だ。カイザーに対して勝ち越すことが出来るデュエリストである遠也がいなくなったという事実は、あるいは遠也を破る程の者が敵にいるとも考えられる。

 そういった意味でも、彼らにとって遠也の失踪は動揺を大きく誘うものであったのだ。

 捜し続けている十代の行方。そこに遠也の捜索も加わり、また安否の保証もない遠也の捜索は十代よりも優先して行われた。

 彼ら仲間たちも遠也の捜索に全力で臨んだ。しかしそれでも、遠也の姿を見つけることは出来なかったのだった。

 それでも捜索を続け、遠也がいなくなってから四日後。この島に帰ってきた男がいた。

 そう、行方不明になっていた十代である。

 アナシスに連れられて行った先で、どうにか船を借りて……というか分捕ってアカデミアまで帰ってきたのだ。

 翔や隼人、明日香といった面々に迎えられて若干の疲労を見せながらも笑顔になる十代だったが、それも万丈目から聞かされた情報によってその表情は驚愕へと一変した。

 

「なんだって!? 遠也が行方不明!?」

「ああ。貴様がいなくなった次の日だ。その日以降、遠也を見た奴はいない」

 

 十代の帰還を聞き、集まった鍵を守るデュエリストたち。

 その場で遠也の行方が分からないと聞いた十代は、驚いた後に遠也の身を案じて心配そうな顔になる。

 十代の場合とは明らかに違う失踪。そこに不安を覚えないほど、十代は楽観的ではなかった。

 しかし、鍵はいまだ奪われていないらしい。それというのも、門の封印が弱まってはいないからだそうだ。つまり、少なくとも鍵は健在であるということ。

 そこまで聞いて、十代は決心する。

 鍵は必ず遠也が守っているはず。なら、俺たちは遠也の分までセブンスターズを倒し、島を……世界を守らなければいけないと。

 遠也が帰ってきた時に、何も心配がないように。俺たちが遠也の分まで頑張り、そして遠也を迎えてやろうと。そう決めたのだ。

 だから十代はこう提案する。「遠也の捜索を続けつつ、セブンスターズを倒す」と。

 はじめは遠也をないがしろにしてしまうのはどうかという意見も出たが、それも続く十代の言葉によって立ち失せていく。

 

「遠也は強い。あいつがそんな簡単にやられるわけがないぜ! だから、俺たちは遠也を信じて、俺たちが出来ることをやるんだ!」

 

 十代は遠也がいたら、自分のことよりセブンスターズとの戦いのことを気にするだろうと思っていた。そしてそれは、十代は知らぬことだが遠也が精霊界で十代に対して呟いた内容と全く同じだった。

 遠也は十代にしばらく共に戦えないことを詫び、後を託した。そして十代は、それを知らずとも自然とその言う通りに動こうとしている。

 それは二人の間にある友情の為せる意思の繋がりだったのかもしれない。

 こうして、彼らは遠也の行方を捜しつつも、自分たちの目前に迫った脅威を叩くことに決めたのだった。それに、そうすればいずれ遠也の所在に行き着くという考えもあった。そういう意味でも、セブンスターズを倒すことは悪いことではなかったのだ。

 彼らは決意も新たにこの事件に立ち向かう。遠也の無事を祈りながら、そうしていくことで遠也を助けることができると信じて……。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

皆本遠也 LP:4000

トラゴエディア LP:4000

 

『ターンはオレからだ。ドロー!』

 

 互いの命を懸けた闇のデュエルが始まり、先攻であるトラゴエディアがカードを引く。

 飛び立つカードの絵柄を見た時から、こうして闇のデュエルになる可能性は考えていた。まして、トラゴエディアという漫画版遊戯王GXではラスボスだった相手だ。そうならないと考える方がどうかしている。

 だから、俺はカードを追いかける際、マナにカードの行方を確認してもらいながらデッキを弄っていた。

 弄るといっても、数枚のカードを抜いて新たに入れただけだ。一応、セブンスターズとの戦いが始まった時から持ち歩いている、俺本来のデッキのカードたち。そのいくつかを入れたのだ。

 果たしてそれが吉と出るか凶と出るか……。俺は知らず額から流れる汗を拭いながら、向こうのターン経過を見守る。

 

『ほう……いいカードが来た』

 

 笑みを浮かべながら、トラゴエディアはカードを手に取った。

 いったい、どんなカードが手札に来たんだ。息を呑んで、そのカードを見つめる。

 

『オレは手札から《墓守の司令官》を墓地に捨て、効果発動! デッキから《王家の眠る谷-ネクロバレー》を手札に加える!』

「なッ――!?」

 

 いきなり手札にソイツだと!?

 憑依している相手が墓守の長であることから予想してはいたが、やはり相手のデッキは【墓守】デッキか! 本音を言えば当たってほしくない予想だったが、見事に当たっちまった……。

 フィールド魔法《王家の眠る谷-ネクロバレー》は、墓地のカードに効果が及ぶ魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にし、更に墓地のカードを除外する事を禁止する効果を持つ。墓地を多用する俺のデッキにとって、スキルドレインなみに厄介と言っていい。

 加えて、「墓守の」と名のつくモンスターの攻守を500ポイント強化する効果まで併せ持つ、元の世界の環境においても非常に強力なカードだ。

 だというのに、そのキーカードを先攻ターンで手札に加えられるとは……。

 正直に言って、かなりマズイ。

 

『ククク……俺は手札に加えたフィールド魔法《王家の眠る谷-ネクロバレー》を発動!』

 

 トラゴエディアがデッキから手に取ったカードをそのまま発動させる。

 それにより、薄暗く仄かな明かりに頼るだけだった周囲の風景は一変。ピラミッドを望む荒野の中、せり立つ岩壁の間に夕陽が差しこむ情趣に富んだ景色へと場を変貌させた。

 ピラミッド傍に存在する岩壁に挟まれるように俺たちは立つ。両側に立つ壁は天辺が見えず、十代が使う摩天楼よりもはるかに高い。

 例えるなら大きな渓谷――グランドキャニオンのような渓谷の谷間にいるかのような錯覚を抱きながら、俺はトラゴエディアの行動を見据えた。

 

『更にモンスターをセット! カードを1枚伏せてターンエンドだ!』

 

 裏側表示のカードが場に2枚。そこで奴のターンが終わる。

 なんてこった……。【墓守】にとって理想的ともいえる始まり方じゃないか。

 恐らくあの伏せカードは、セットモンスターやネクロバレーを守るカード。ただでさえ墓地を指定する効果は封印されているんだ。わかっていたことだが……これは一筋縄ではいきそうにないな。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 最初のターン。大きく動くことが出来る手札ではない、か。

 だが、手札にはライコウがいる。上手くいけば、これでネクロバレーを破壊することも可能だろう。

 

「俺はモンスターをセット!」

『その瞬間、罠発動! 《誘惑のシャドウ》!』

「なッ……!?」

 

 誘惑のシャドウ!? なんでそんな限定的なカードを入れてるんだ!

 確かにリバース効果モンスターは低攻撃力であることが多いし、そこにネクロバレーで強化された墓守をぶつければ大ダメージが期待できる。だが、そうそう入れるカードでもない。

 この世界でも採用率の高い《メタモルポッド》へのメタか? 墓守の長のデッキがどうなっているのかは知らないが、いずれにせよこの状況では最悪のカードだ。

 

『これにより、貴様のセットモンスターは表側攻撃表示になり、リバース効果も発動しない。クク、さぁその姿を晒してもらおうか』

「くっ……」

 

《ライトロード・ハンター ライコウ》 ATK/200 DEF/100

 

 当然、セットモンスターはライコウだ。リバースした時、相手の場のカード1枚を破壊する優秀なリバース効果モンスターだが、それもリバースさせなければ意味がない。

 

「……カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 もはや、俺はターンを終えるしかない。

 次のターンで受けるダメージを覚悟しながら、俺は闇のオーラに包まれた墓守の長トラゴエディアの姿を見つめた。

 

『オレのターン、ドロー!』

 

 カードを引いたトラゴエディアは、にやりと笑みを見せる。

 

『まずはセットモンスターを反転召喚! 《墓守の偵察者》のリバース効果により、オレはデッキから攻撃力1500以下の「墓守の」と名のつくモンスター1体を特殊召喚する! 出でよ、《墓守の長槍兵》!』

 

《墓守の偵察者》 ATK/1200→1700 DEF/2000→2500

《墓守の長槍兵》 ATK/1500→2000 DEF/1000→1500

 

 共に墓守に属するモンスター。当然、ネクロバレーの効果により攻撃力・守備力ともに500ポイントアップする。

 

『バトル! 墓守の長槍兵で《ライトロード・ハンター ライコウ》を攻撃! 喰らえ、《長槍速撃突》!』

「罠発動、《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを無効にし、カードを1枚ドローする。ドロー!」

 

 鋭い槍の一突きが、ライコウの身体に突き刺さり破壊される。だが、ガード・ブロックの効果によりその穂先は俺に届くことはなかった。

 だが、攻撃はこれで終わりではない。

 

『まだ墓守の偵察者が残っているぞ、ククク。墓守の偵察者で直接攻撃!』

 

 墓守の偵察者が瞬時の俺の目の前に移動し、不気味な笑みを浮かべたまま手に持ったナイフを振るう。

 それは俺の肩口からざっくりと身を切り裂き、肉を抉る。それがあくまで幻なのだとしても、その時に生じる痛みは間違いなく本物だった。

 

「ッぐ……ぁぁああッ!!」

 

遠也 LP:4000→2300

 

「遠也ッ!」

 

 あまりの痛みに、俺はたまらず膝を折ってナイフが走った右肩に手をやる。右肩は……繋がっている。だが、本当に肉ごと消し飛ばされたかのような激痛だった。

 息を切らせながら、立ち上がる。そして、叫ぶように俺の名前を呼んだマナに小さく手を振って見せた。隣のサラも心配げに見ている。

 女の子二人の前で、格好悪い姿は見せられないだろ、男として。

 そんなふうに自分をどうにか納得させ、トラゴエディアに向き直る。しかしその間も、痛みに表情が引きつるのを懸命にこらえなければならなかった。

 

『ククク……どうした、随分と痛がっているみたいじゃないか。オレはカードを1枚伏せて、ターンエンドだ』

 

 しかし、奴にはそんな痩せ我慢もお見通しらしい。当然か、あれだけ痛がっちまったんだから。

 舌打ちを一つし、俺はカードを引いた。

 

「ぐっ……俺のターン!」

 

 その僅かな動作で、痛みが走る。だが、そんなことを気にしていられる状況でもない。

 この状況を抜け出したいのなら、奴に勝つことが最短の道。ならば多少の無理を押してでも、そのために全力を尽くすことが最善だ。

 

「俺は手札から《レベル・スティーラー》を墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚! 更にレベル・スティーラー自身の効果で、クイック・シンクロンのレベルを1つ下げて特殊召喚!」

 

 レベル・スティーラーの効果は墓地で発動する効果だ。よって、「墓地を対象にした効果を無効にする」という効果を持つネクロバレーには引っかからない。

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

 

 さて、ようやく場にチューナーとそれ以外のモンスターが揃った。

 

「レベル1レベル・スティーラーに、レベル4となっているクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 レベルの合計は5だ。

 一発お返ししてやるぜ、この野郎!

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300 DEF/1300

 

 俺の場に現れる、青い鋼鉄の身体に包まれた拳闘士。その姿を、というよりはそこに至るまでの過程を見て、トラゴエディアは眉をひそめた。

 

『シンクロ召喚だと? なんだ、それは』

 

 ここ数か月でようやく認知度も上がってきた新しい召喚方法。それゆえ、長の知識の中にもなかったのだろう。

 このまま進めて不都合が生じても面倒くさい。そう思った俺は、素直に説明を施す。

 

「シンクロ召喚とは、場のモンスターのレベルを合計し、それに等しいレベルを持つシンクロモンスターを融合デッキから特殊召喚することだ。お前が眠っている封印されている間に、時代は変わったってことだよ」

 

 尤も、多少の皮肉をアクセントに添えることは忘れないが。

 だが、そんな俺の皮肉にも、トラゴエディアは不遜な態度で返す。

 

『フン、それがどうした。それでも、虫ケラに負けることなど有り得ぬ』

「なら、負ければお前は虫ケラ以下だ! バトル! ジャンク・ウォリアーで墓守の長槍兵に攻撃! 《スクラップ・フィスト》ォ!」

 

 ジャンク・ウォリアーが跳び上がり、勢いをつけて上から長槍兵を殴りつける。

 鋼鉄の拳に、ただの人間が対抗できるわけもなし。長槍兵はそのまま破壊されて、その分のダメージがトラゴエディアに与えられる。

 

『ぐっ……』

 

トラゴエディア LP:4000→3700

 

 ジャンク・ウォリアーが粉砕した岩の欠片が長の身体を打つ。だが、今は黒い靄にしか見えないトラゴエディアにも痛みはあるようで、苦悶の声が聞こえた。

 

「更にカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

『こうでなくてはな。オレのターンだ、ドロー!』

 

 カードを引いたトラゴエディアは、手札から1枚のカードを取ってディスクに置く。

 

『オレは墓守の偵察者を生贄に捧げ、《墓守の長》を召喚する! そしてこのカードの召喚に成功したため、墓地の墓守の長槍兵を特殊召喚する!』

 

《墓守の長》 ATK/1900→2400 DEF/1200→1700

《墓守の長槍兵》 ATK/1500→2000 DEF/1000→1500

 

 現在俺が相対している相手にそっくりな男がフィールドに現れた。その精霊に憑依しているのだから、当たり前か。

 そして、さっきも出てきた長槍兵が再びフィールドに戻ってくる。貫通効果持ちかつ攻撃力2000は地味に厄介だ。

 墓守はネクロバレーがあると、途端にどのモンスターも面倒くさくなるから本当に困る。

 

『バトル! 墓守の長でジャンク・ウォリアーに攻撃だ! 《王家の怒り》!』

「喰らうかよ! 罠発動、《攻撃の無力化》! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 ジャンク・ウォリアーの前に現れた次元の渦に飲み込まれ、長の攻撃はこちらに届かない。

 攻撃は完璧に防がれたというのに、それを見てトラゴエディアが特に表情を変えることはなかった。

 

『防いだか。ならば、俺はこれでターンエンドだ』

「俺のターン!」

 

 トラゴエディアはあまり積極的に動く気がないのだろうか。

 そう思えるほどに、行動と態度が淡々としている。もしくは、何かを狙っているのか。だとすれば、キーカードはやはり……。

 だとすれば、その前に出来ればネクロバレーを破壊し、こちらのペースに持っていきたい。ネクロバレーの影響下であちらの望む状況になるのは、さすがにマズイ。

 

「俺は《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

 

 これで、再び場にシンクロ素材が全て揃った。今回のレベルの合計値は8である。

 

「レベル5ジャンク・ウォリアーに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ! シンクロ召喚! 粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》!」

 

《ジャンク・デストロイヤー》 ATK/2600 DEF/2500

 

 光の中から現れる、全身が鋼で構成された巨大なロボット。その外見に見合い、攻撃力・守備力共に高いモンスターだ。

 そして何より、その効果が強力である。

 

「ジャンク・デストロイヤーの効果発動! シンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数まで場のカードを破壊できる! 素材は1体、よって1枚のカード――ネクロバレーを破壊する! 《タイダル・エナジー》!」

 

 ジャンク・デストロイヤーより放たれるエネルギー波がフィールドを襲い、俺が指定したカードを押し流す。

 それによってそのカードは破壊され墓地に行き、あの鬱陶しかったフィールド魔法はこれで消え去った。

 

『ぬぅ……』

 

 そしてフィールド魔法がなくなったことにより、場の墓守の攻守から補正値である500ポイントがそれぞれ引かれる。

 

《墓守の長》 ATK/2400→1900 DEF/1700→1200

《墓守の長槍兵》 ATK/2000→1500 DEF/1500→1000

 

 よし、充分にダメージが期待できる値に戻った。なら、俺が出す指示は一つ。

 

「バトルだ! ジャンク・デストロイヤーで墓守の長槍兵に攻撃! 《デストロイ・ナックル》!」

 

 デストロイヤーの巨大な拳が、さながら岩塊を落とすかのように叩きつけられる。

 長槍兵は、さっきよりもなお一瞬でフィールドから姿を消した。

 

『ぐうッ』

 

トラゴエディア LP:3700→2600

 

 そしてその攻撃の余波がトラゴエディアを襲い、やはり依り代である墓守の長の身体が傷つけられる。

 闇のデュエルである以上仕方ないが、それでも利用されているだけの人物を傷つけていることに心が痛んだ。トラゴエディアを倒した後に誠心誠意謝るから、今はどうか許してほしい。

 そう心の中で長に引け目を感じつつ、メインフェイズ2に移行する。

 

「魔法カード《戦士の生還》を発動。墓地のジャンク・シンクロンを手札に戻す。これでターンエンドだ!」

『オレのターン、ドロー!』

 

 奴がカードを引く。そして、意地悪く口角を上げて笑った。

 

『オレはモンスターをセット。そして再び《王家の眠る谷-ネクロバレー》を発動!』

「なッ!?」

『クク、なにも手札に無いとは誰も言っていないだろう? なにせデッキには3枚入っているのだからな』

 

 その言いように、俺は臍を噛む。

 その通りだ。デッキに同名カードは3枚まで投入できるのだから、もう1枚がすでに手札に来ていたとしても何の不思議もない。

 そこまで考えていなかった俺の浅はかさが、再び奴に有利な場を作らせることになってしまった。

 

《墓守の長》 ATK/1900→2400 DEF/1200→1700

 

『最後に《天よりの宝札》! 互いに手札が6枚になるようにドローする。ドロー!』

 

 ここで原作最強のドローカードだと?

 奴の手札はこれで6枚。もちろん俺の手札も6枚に回復した。大量ドローは確かに自身のターンである以上有利に働くが……すでに召喚権は使っているはず。ここからどうする気だ……。

 

『そして罠カード《降霊の儀式》を発動する。自分の墓地の「墓守の」と名のつくモンスター1体を特殊召喚する。このカードはネクロバレーの影響を受けないカードだ……《墓守の司令官》を蘇生!』

 

《墓守の司令官》 ATK/1600→2100 DEF/1500→2000

 

『更に《強欲な壺》を発動。2枚ドローする』

 

 これでトラゴエディアの手札は7枚。基準である6枚を超えるまでに手札が増えている。

 そして、トラゴエデエィアは俺の場のジャンク・デストロイヤーを指さした。

 

『バトル! 墓守の長でジャンク・デストロイヤーに攻撃!』

「なに!?」

 

 墓守の長の攻撃力は2400、デストロイヤーは2600だ。つまり、自爆特攻になる。

 俺をはじめマナとサラもその暴挙に驚いている。そして驚く間に、墓守の長はジャンク・デストロイヤーに攻撃を仕掛け、その鋼の身体に攻撃を弾かれて自身が消滅した。

 手札増強、そして自爆特攻……。考えられる可能性は、一つだ。それに思い至った瞬間、俺は無意識に喉の渇きから唾を飲み込んだ。

 

トラゴエディア LP:2600→2400

 

 そう、奴は持っている。元々は俺のカードである、あのカードを。戦闘ダメージを受けることが特殊召喚条件として記載された、レベル10の最上級モンスター……!

 

『ククク……オレが戦闘ダメージを受けたこの瞬間、特殊召喚条件は満たされた……』

 

 そう言いつつ、トラゴエディアは手札から1枚のカードを抜き取って掲げてみせた。

 その特殊な召喚条件、更に手札を増強してからの召喚となれば、該当するモンスターなど、1体しか存在しなかった。

 そう、いま俺と向かい合っている敵……ソイツ自身である。

 

『我が憎悪と絶望の中に沈め、小僧……。《トラゴエディア》を特殊召喚!』

 

 そう奴が宣言し、1枚のカードをディスクに置く。そして、ディスクがそれを読み取った瞬間――長の体を覆っていた闇が、爆発的にその密度を増した。

 ズズ、とそんな擬音が聞こえてきそうなほどにゆったりと、しかし確実に闇は長の身体から噴き出し、それはやがて重力に逆らって立ち上がり、奇妙な形を象っていく。

 それは天井に届くほどの巨体。下半身は昆虫の下腹部のような膨らみを持ち、そこから身体を支える六本の足が生えている。さながら節足動物のようだ。

 上半身は人間的であり筋肉質、しかし両腕は歪で、右腕は鋭い鋏、左腕は五本指……と、節操がない有様だ。

 顔つきは鬼のように恐ろしく、その身体はところどころに棘のような突起が見えており、一層その不気味さを際立たせている。

 ――古代エジプト、千年アイテム作成の犠牲となった村を出身地に持ち、アイテムを有する王と神官に復讐を誓った男の成れの果て。

 悲劇――トラゴエディアの顕現であった。

 

《トラゴエディア》 ATK/? DEF/?

 

「攻撃力と守備力が、決まっていない……?」

 

 その圧倒的な迫力と闇の魔力は禍々しくも実体の重さを伴う重圧となって周囲を覆い尽くす。それに当てられたのか、サラが意識を失って崩れ落ちるが、それを隣からマナが支えた。

 だが、トラゴエディアから発せられる威圧感は上級魔術師であるマナにもキツイ。そのプレッシャーに耐えながら、クエスチョンで示されるカード表記を見てマナが首をかしげた。

 

『フフ、トラゴエディアの攻守は、手札の枚数によって決定される。その値は手札の枚数×600ポイント! そしてオレの手札は6枚! つまり――』

 

《トラゴエディア》 ATK/?→3600 DEF/?→3600

 

「こ、攻撃力と守備力が3600のモンスター――!」

 

 攻撃力3000が最高基準値であるこの世界において、基本攻撃力がそれというのは破格と言ってもいい数値である。

 俺もそれほどの初期攻撃力はなかなか出せない。だからこそのマナの驚きの声に、トラゴエディアは気を良くしたのかにやりと笑った。

 

『クク、そしてバトルフェイズ中の特殊召喚のため、追撃が可能だ……』

 

 はっとした顔で、俺を見るマナ。

 俺はそれに少しばかりの笑みを返し、再度奴に向き直る。そして、ぐっと腹に力を入れた。

 

『ゆけ、我が憎しみの化身よ! あの鉄細工の木偶を薙ぎ払え!』

 

 トラゴエディアの口が開き、そこにどろりとした魔力が集束していく。

 くる……ッ! 

 

『――《絶望の殺息(ディスペア・ブレス)》!』

 

 瞬間、俺の視界は魔力によって塞がれ、そして身体は得も言われぬ激痛によって蝕まれる。

 耐えがたい苦痛が全身に走る。まさに、地獄の時間と化した。

 

「――ッが……ぐぁぁぁあああぁッ!!」

「遠也っ!」

 

遠也 LP:2300→1300

 

 魔の奔流が過ぎ去ったのち、俺は地面に崩れ落ちる。

 これは……かつて経験したカミューラなどとの闇のデュエルの比じゃない。曲がりなりにも、ラスボスを張るモンスター……神の一撃と間違うかのような威力だった。

 冗談じゃ、ない……こんなの、まともに喰らったらマジで死ぬ……!

 俺は余裕など全くなく、そう思う。だが、奴はそんな俺を見て、心底可笑しそうに笑っていた。

 

『ハハハハッ! 更に墓守の司令官で攻撃だ! 死ねッ!』

「ぐ……! て、手札から、《速攻のかかし》! ッ……こ、この効果により、バトルフェイズを、終了するッ……!」

 

 痛みにより声が上手く出ない。だが、それでも震える手でカードを墓地に送る。

 そして場に現れた1体のかかしが、墓守の司令官の攻撃を受け止めてダメージを殺してくれた。

 

『ほう……。ならばオレはこれでターンを終了する』

 

 トラゴエディアがエンド宣言をし、ターンが俺に移る。

 だが……。

 

「くッ、は……ッ……!」

 

 全身に走る痛みに、やはりまだ調子が整わない。

 それでもどうにか身体を気力で支え、一度深呼吸をして呼吸も元に戻していく。

 

「俺の……ターンッ!」

 

 後ろで見ているマナに心配させないためにも、せめて普段通りの姿に見えるようにデュエルを続けてみせる。

 

「俺は、《チューニング・サポーター》を召喚! 更に《グローアップ・バルブ》を墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

《チューニング・サポーター》 ATK/300 DEF/200

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

 

 トラゴエディアの攻撃力3600は強力な値だ。だが、これから召喚するモンスターならば、その効果により戦闘破壊が可能になる。

 

「チューニング・サポーターはシンクロ素材とする時レベルを2として扱える! レベル2となったチューニング・サポーターに、レベル5クイック・シンクロンをチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800 DEF/1800

 

 攻撃力は2800。一般的なレベル7モンスターとしては最大値に近い攻撃力である。そして何より、こと戦闘においてこれほど頼りになるモンスターもいない。

 

「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー! 更に魔法カード《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚ドローし、手札の闇属性モンスター《ジャンク・シンクロン》を除外する!」

 

 奴の場のトラゴエディアを倒す算段はこれでついた。ならば、あとは実行するのみ!

 

「バトル! ニトロ・ウォリアーでトラゴエディアに攻撃!」

『攻撃力が劣るモンスターで攻撃だと……?』

 

 訝しるトラゴエディアに、俺は噛みつくように言葉を返す。

 

「侮ると痛い目を見るぜ! ニトロ・ウォリアーには魔法カードを使ったターンのダメージ計算時に、攻撃力を1000ポイントアップさせる効果がある!」

 

 こちらから行う戦闘において、無類の強さを発揮するニトロ・ウォリアー。その源泉がこの能力だ。

 そしてその効果を使用したニトロ・ウォリアーの現在の攻撃力は――。

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800→3800

 

『3800か……!』

「これで、トラゴエディアは倒される! いけ、《ダイナマイト・ナックル》!」

 

 ニトロ・ウォリアーの拳に炎が宿り、身体の後部からジェットエンジンのように煙と噴き出しながら、相手に迫る。

 瞬時に近づいたニトロ・ウォリアーは、その燃える拳を振りかぶり、一気にトラゴエディアに叩きつけた。

 

『ぬぅ……!』

 

 それにより、攻撃力で200ポイント劣るトラゴエディアは破壊。奴のライフポイントは更に下がる。

 

トラゴエディア LP:2400→2200

 

 よし、と内心でガッツポーズをとった。しかしその瞬間、一瞬だけ身体がふらつく。

 攻撃が上手く決まり、相手の切り札級モンスターを倒したからか。気が緩んだところを、我慢している痛みに持っていかれたらしい。

 

「ッぐ……! 俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 だが、まだそれに屈するわけにはいかない。何が何でも立っていてやる。そう決めた俺は足に力を込めて大地を踏み、ただ強く相手を見据えた。

 

『なかなかやる……。オレのターン、ドロー!』

 

 変わらず余裕を滲ませた不敵な笑みを浮かべたまま、トラゴエディアは手札に目を向ける。

 

『オレは永続魔法《生還の宝札》を発動! 墓地からの特殊召喚に成功するたびに、デッキからカードをドローする! クク、オレは墓守の司令官を生贄に、《墓守の長》を召喚! 更に効果により、墓地から《墓守の長槍兵》を特殊召喚する!』

 

《墓守の長》 ATK/1900→2400 DEF/1200→1700

《墓守の長槍兵》 ATK/1500→2000 DEF/1000→1500

 

 再び場に現れる墓守の2体。ネクロバレーが存在するため、その効果によりともに強化されている。

 既に下級モンスターでは相手にならないステータス。加えて生還の宝札もあることで、ドロー補助も行われている。すぐに手を講じてくると見ていいだろう。

 

『生還の宝札の効果でドロー! そして墓守の長の永続効果により、オレの墓地はネクロバレーの効果を受けない。よってオレは《死者蘇生》を発動! 蘇れ、我が半身! 更に生還の宝札の効果によりドロー!』

 

《トラゴエディア》 ATK/?→3600 DEF/?→3600

 

「くっ……」

 

 やはり、手札に状況打破のカードがあったか。

 再び出現したトラゴエディアに、俺の頬を一筋の汗が伝う。

 

『バトル! トラゴエディアでニトロ・ウォリアーに攻撃! 《絶望の殺息ディスペア・ブレス》!』

「罠カード発動、《くず鉄のかかし》! 相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にし、このカードを再びセットする!」

 

 起き上がった罠カードからガラクタで作られたかかしが現れ、トラゴエディアのブレス攻撃を防ぐ。これでどうにか凌げたか……。

 

『ならば墓守の長で攻撃! そしてこの時、手札から速攻魔法《収縮》を発動! ニトロ・ウォリアーの攻撃力をエンドフェイズまで半分にする!』

 

「なッ……!?」

 

《トラゴエディア》 ATK/3600→3000 DEF/3600→3000

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800→1400

 

 ここで収縮だと!? まずい、墓守の長の攻撃力は2400。攻撃力が半減したニトロ・ウォリアーでは対抗できない!

 

『クク、さぁこれで戦闘破壊が可能になったぞ。喰らえ、《王家の怒り》!』

「がぁああぁあッ!!」

 

遠也 LP:1300→300

 

 再度俺の身を襲う激痛。残りライフ300まで追い込むその攻撃は、確実に俺の身体にダメージを残し、俺はその痛みに耐えきれずに両膝をついて座り込む。

 

『更に墓守の長槍兵で直接攻撃! これで貴様は終わりだ! ハハハハ!』

「づッ……! 手札から《クリボー》を捨て、効果発動ッ! ……この戦闘によるダメージを、0にする……ッ!」

 

 膝をついた状態から、手札を1枚墓地に送る。緩慢な動きで行ったそれは、しかし問題なくその効果を発揮して俺を助けてくれた。

 サイドデッキに稀に忍ばせていた、初代遊戯王の代表的なカード。その効果は現在でも優秀なカードとして評価されていて、俺はそのカード自身が好きなこともあって持っていたのだ。

 ダメージをなくすカードは闇のデュエルでは重要になる。そう思って入れてみたカードに、助けられるとは……ありがとう、クリボー。

 

『ほう、まだ凌ぐか。ターンエンド』

 

 だが、クリボーのおかげで助かったとはいえ俺のライフはこれで300ポイント。

 もはや風前の灯と言ってよかった。

 

「ぐ……」

 

 立ち上がろうと身体を起こす。だが、上手く足に力が入らず、逆に尻餅をついてしまう始末。その衝撃だけで痛みが走り、表情が歪んだ。

 

「遠也……っ!」

『おっと、そこの小娘……近づくなよ。これは闇のデュエル。勝敗が定まるまで、誰にも邪魔することは出来んのだからな、ククク……』

 

 サラに肩を貸しながら、マナがいきり込んで俺のもとに向かおうとする。しかし、トラゴエディアはそれを許さず、近づくことが出来ず悔しげに唇をかむマナを愉快そうに見ていた。

 

「遠也にひどいことするのは、もうやめて! やるなら私が相手になる! 私だって元々は古代エジプトの神官の精霊カー! 相手に不足はないはずだよ!」

『……なに? 神官だと?』

 

 トラゴエディアがマナの言葉に片眉を上げ、その表情を徐々に憎々しげなものに変えていく。

 まずい。トラゴエディアはかつて古代エジプトの王と神官によって出身の村を滅ぼされ、その憎しみと怨みによって魔物となった存在。

 当時の神官の関係者を匂わせるマナの発言は、トラゴエディアの興味の対象を俺からマナに移すには十分すぎる!

 

「ま……待て、トラゴエディア! どっち、向いてるんだよ……!」

『む……』

「遠也!?」

 

 震える身体に鞭を打ち、どうにか立ち上がってトラゴエディアに呼びかける。

 そして、俺はデュエルディスクを構えた。

 

「デュエルの途中だ……逃げ出すなら、止めはしないけどな……」

『ふん、そんな身体でよく言う。だが、まあいい。あの神官の娘には、あとでこの憎悪の捌け口となってもらおう』

「誰が……ッ、そんなことさせるか……!」

 

 俺はやはりマナに憎しみの感情を見出したトラゴエディアを、精一杯の意思を込めて睨む。

 そして再び相対する俺たちに、マナが心配そうな視線を送っていた。

 

「遠也……」

「心配、するなって。大丈夫……勝つさ」

 

 マナに顔を向けて、にっと笑う。そして、すぐに背を向けた。さすがに、痛みに歪む顔を見せるわけにもいかないだろう。

 目の前の相手を見る。トラゴエディアはマナにも手を出すと言った。これで、負けられない理由が増えた。なら、負けてやるわけにはいかない!

 

「俺のターン!」

 

 だが、今の俺の手札に状況を脱する手はない……。天よりの宝札の時に引いた《死者蘇生》さえ使えれば、まだ手はあるのだが、ネクロバレーの効果がそれを邪魔している。

 もしくはジャンク・シンクロンの効果で墓地のモンスターを蘇生できれば、それだけでだいぶ楽になるのだが……。

 まぁ、うだうだ出来ないことを言っていても仕方がない。ひとまず手札にきたカードで凌いでいくしかないだろう。

 

「いくぞ……! 俺は《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚! このカードは墓地に闇属性モンスターが3体のみ存在する場合、特殊召喚できる! 俺の墓地の闇属性モンスターは《ジャンク・ウォリアー》、《レベル・スティーラー》、《クリボー》の3体のみだ!」

 

《ダーク・アームド・ドラゴン》 ATK/2800 DEF/1000

 

 万丈目が好んで使うアームド・ドラゴン。そのLV7の状態で闇に染まった姿が、このダーク・アームド・ドラゴンである。

 その身体は黒く、滲み出る闇の力はかつてのアームド・ドラゴン LV7の時よりもその効果を強力なものにしている。

 

『面白い、そんなカードがあったとはな』

 

 トラゴエディアもその特殊な召喚条件によって現れたモンスターに、興味を持ったようだった。このカードの効果を見れば、そうも言ってられないだろうが。

 しかし、ネクロバレーのせいでダーク・アームド・ドラゴン最大の利点であるその効果、破壊効果が使えない。

 こいつは「墓地の闇属性モンスター1体を除外し、フィールド上のカード1枚を破壊する」という効果を持っている。3体のみ闇属性モンスターが存在することが召喚条件なのだから、その時点で3枚の破壊が確定しているという極めて強力な効果なのだ。

 だが、それも墓地に干渉する効果であるため、現状では使えない。それさえ出来ればここで勝つことも可能なのだが……どこまでもついて回るフィールド魔法である。

 とはいえ、攻撃をする分には問題ない。いや、正確にはそれしか出来ないのだが……それでも、何もしないよりはマシだ。

 

「バトル! ダーク・アームド・ドラゴンで墓守の長槍兵に攻撃! 《ダーク・アームド・ヴァニッシャー》!」

 

 ダーク・アームド・ドラゴンが腕を振り上げ、その腕ごと回転させながら、長槍兵に突進する。

 そしてその拳は圧倒的な膂力と巨体から繰り出され、長槍兵を一瞬で叩き潰した。

 

『クク、いい一撃だ』

 

トラゴエディア LP:2200→1400

 

 ライフは更に減少した。

 だが、己の有利を悟っているトラゴエディアは表情を変えない。逆に、これでも劣勢のままでいる俺の方が厳しい顔つきになっていた。

 

「……ターンエンド!」

『どうした、最初の威勢がなくなったな? オレのターン、ドロー!』

 

《トラゴエディア》 ATK/3000→3600 DEF/3000→3600

 

 これで再びトラゴエディアのステータスが上昇。

 どうにかして、トラゴエディアやネクロバレーへの対抗手段を見つけなければ、このままじゃジリ貧だ。

 

『ふむ……手札から《サイクロン》を発動し、《くず鉄のかかし》を破壊する。そのカードは厄介そうなのでな』

 

《トラゴエディア》 ATK/3600→3000 DEF/3600→3000

 

 確実に1度の攻撃を防いでくれる防御の要が俺の場から消えていく。

 

「くっ……」

 

 まずい、場のモンスターはダーク・アームド・ドラゴンが1体だけだ。

 

『さて、今度こそ終わりだな小僧。――バトル!』

「ぐっ……待て! バトルフェイズに入る前、お前のメインフェイズに俺は手札の《エフェクト・ヴェーラー》の効果を使う! 手札から墓地に送ることで、エンドフェイズまでトラゴエディアの効果を無効にする!」

 

 青い髪をなびかせ、翼を広げた少女が降り立つと、その手から光を放ってトラゴエディアにぶつける。その後、その子はゆっくりとフィールドから消えていった。

 

《トラゴエディア》 ATK/3000→0 DEF/3000→0

 

 トラゴエディアの攻守は効果に依存している。なら、それを無効にしてしまえば攻守ともに0のモンスターでしかない。

 コントロール奪取効果も厄介だが、そっちの効果は墓守デッキと俺のシンクロデッキではレベルが合うモンスターなんてそうそう居ないから、問題はない。

 

『みっともなく足掻く様もまるで虫だな。墓守の長を守備表示に変更、更にカードを1枚伏せて、《壺の中の魔術書》を発動! 互いのプレイヤーはデッキから3枚ドローする。これでターンエンドだ』

 

《トラゴエディア》 ATK/0→3600 DEF/0→3600

 

 これで俺の手札も補充された。だがそれでも、まだ欲しいカードは来ない。

 

「俺のターン!」

 

 ッ! ようやくきたか、これでネクロバレーを潰せる!

 

「俺は手札から速攻魔法、《サイクロン》を発動! お前の場のネクロバレーを破壊する!」

『甘いな、カウンター罠《魔宮の賄賂》。その魔法カードの発動を無効にして破壊し、お前はカードを1枚ドローする。クク、残念だったな。さぁ、遠慮せずカードを引け』

「ぐっ……!」

 

 俺は歯噛みしつつカードをドローする。

 

「なら、ダーク・アームド・ドラゴンで墓守の長に攻撃! 《ダーク・アームド・ヴァニッシャー》!」

『クク、痛くも痒くもない』

 

 長は守備表示であったため、トラゴエディアにダメージはない。それでも、相手の場をトラゴエディア1体にしたのには意味があるはずだ。

 

「《シンクロン・エクスプローラー》を守備表示で召喚。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ……!」

 

《シンクロン・エクスプローラー》 ATK/0 DEF/700

 

『オレのターン、ドロー!』

 

《トラゴエディア》 ATK/3600→4200 DEF/3600→4200

 

 今だ、そう思考すると同時に素早く伏せカードの使用を行う。

 

「この瞬間、罠発動! 《威嚇する咆哮》! 相手はこのターン、攻撃宣言をすることが出来ない!」

『くっ……いい加減に煩わしさが勝ってきたな。手札から《墓守の長》を墓地に送り、手札を6枚に戻す。ターンエンドだ!』

 

《トラゴエディア》 ATK/4200→3600 DEF/4200→3600

 

 思い通りにいかない現状にイラつきを感じ始めたのか、トラゴエディアの表情に余裕の笑みがなくなる。

 こうまで俺が攻撃に耐えるとは思わなかったんだろう。だが、俺にだって負けられない理由があるんだ。そう簡単にやられてたまるか!

 

「――俺のッ!」

 

 

 逆転の一手は、まだない。しかし、何より厄介なあのネクロバレー……あれさえなければ、まだ凌ぐことはできる。そうなれば、逆転に必要なカードを引く機会も出てくるだろう。

 だから、何よりもあのカードを破壊することが、俺の勝利につながる。

 後ろで俺の心配をして、泣きそうになってる奴のためにも、俺は負けられない……。十代、翔、隼人、明日香、三沢、カイザー、万丈目、レイ、ジュンコ、ももえ、クロノス先生、大徳寺先生……。

 あの学園には俺を待ってくれている奴らが、こんなにいるんだ。ペガサスさんも、海馬さんたちだって、俺のことを気にかけてくれている。一年前は、誰一人として知り合いすらいなかったこの俺に、今ではこんなに友達が出来たんだ。

 俺のことを友達だと呼んでくれる皆、俺のことを大切だと思ってくれる皆が、俺にはいる。

 だから、絶対に負けられない。

 頼む俺のデッキ! 俺に、どうか応えてくれ!

 

「――タァアアアーンッ!!」

 

 ドローしたカード。それを見て、俺は取るべき手を瞬時に判断して行動に移す。

 

「モンスターをセット! 更にダーク・アームド・ドラゴンを守備表示に変更して、ターンエンドだ!」

『オレのターン、ドロー! ……ほう』

 

《トラゴエディア》 ATK/3600→4200 DEF/3600→4200

 

 一瞬引いたカードに意外そうな表情を見せ、その後トラゴエディアは喜悦の混じる声で話し出した。

 

『やれやれ、呆気ない幕切れで申し訳ないな。オレは《墓守の呪術師》を召喚! このカードが召喚に成功した時、相手に500ポイントのダメージを与える。少々面白みに欠けるが、虫にはこの程度の末路がお似合いだろう、ハハハハ!』

 

《墓守の呪術師》 ATK/800→1300 DEF/800→1300

《トラゴエディア》 ATK/4200→3600 DEF/4200→3600

 

 得意げに笑うトラゴエディア。

 確かに、俺の残りライフは僅か300ポイントだ。普段ならば500ポイントのバーンなど何ともないが、今の状況ではそれだけでも決め手になってしまう。

 だが、しかし。

 

「まだだ! カウンター罠《神の宣告》! ライフの半分を支払い、その召喚を無効にし、破壊する!」

 

遠也 LP:300→150

 

 伏せカードが起き上がり、同時に天から降り注いだ雷が墓守の呪術師に直撃。

 天から与えられた神の一撃に耐えられる者など存在しない。当然ながら呪術師は破壊され、墓地に送られた。

 何度も何度もあと一歩で防がれる。その事実に、さすがにトラゴエディアも我慢の限界が来たようだ。あからさまに表情を歪ませ、怒りを滲ませた。

 

『ちっ、虫ごときが煩わせおって! ならばバトルだ! トラゴエディアでダーク・アームド・ドラゴンに攻撃! 《絶望の殺息(ディスペア・ブレス)》!』

「ぐぅうッ!」

 

 ダーク・アームド・ドラゴンの守備力は1000ポイントと低い。抵抗すら意味をなさず、トラゴエディアの一撃によりダーク・アームド・ドラゴンは破壊された。

 その攻撃の余波だけで、身体が揺らぐ。だが、それでも倒れることはないよう足に力を込めた。

 ……これで、俺の場にはセットモンスターが1体と守備表示モンスターが1体、そして伏せカードが1枚。対してあちらの場には攻撃力3600のトラゴエディアがいる。

 

『オレはこれでターンエンドだ!』

 

 状況は変わらず絶望的。

 ここでキーカードを引けなければ、俺は恐らく負ける。

 ……いや、負けるなんて考えてはダメだ。……俺は勝つ! 必ず勝って、マナの、皆のところに帰るんだ!

 そのために、ここで必ず引く。このドローで必ず引いてみせる! 祈るように、それでいて確定事項を宣言するかのように俺は強く強くそう心の中で言い続ける。

 その決意を全て指先に込め、俺はデッキトップのカードに手をかけた。その瞬間、背中にこれまでの痛みとは異なる熱い感覚が生まれる……だが、それすら感じられなくなるほどに、俺はただただ集中した。

 願うことは一つ。あのカードを必ず引き当てて、アイツに勝つ!

 

「――俺の、タァアアアーンッ!」

 

 引いたカードは……! よしッ!

 

「セットモンスターを反転召喚! セットしていたのは2枚目の《ライトロード・ハンター ライコウ》だ! そしてそのリバース効果が発動! フィールド上のカード1枚を破壊する! 俺が選択するのは当然《王家の眠る谷-ネクロバレー》!」

『くっ……!』

 

 ライコウの目が光り、遠吠えのような鳴き声によってフィールドが脆くも崩れ去っていく。

 俺を長く苦しめたネクロバレーも、ついに終わりだ。

 

「これで墓地への干渉を制限するものは何もない!」

『だが、オレの手札には3枚目の《王家の眠る谷-ネクロバレー》が存在している。残念だが、その自由は僅か1ターンだけのことだ。ハハハハ!』

「――なら、このターンで決めればいいだけだ! 俺は手札から《死者蘇生》を発動! 墓地の《ニトロ・ウォリアー》を特殊召喚!」

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800 DEF/1800

 

「更に墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動! デッキトップのカードを墓地に送ることで、デュエル中1度だけ特殊召喚できる! 来い、《グローアップ・バルブ》!」

 

《グローアップ・バルブ》 ATK/100 DEF/100

 

 チューナーと、それ以外のモンスターが俺の場に揃う。

 ならばもちろん、することなど1つしかない!

 

「俺はレベル7ニトロ・ウォリアーにレベル1グローアップ・バルブをチューニング!」

 

 2体が飛び上がり、グローアップ・バルブが作る光の輪の中を7つの星となったニトロ・ウォリアーが潜り抜けていく。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》ッ!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 現れる星屑の竜。このデッキで、俺が最も信頼するカードの1枚。

 だが、まだこれだけじゃない!

 

「更にリバースカードオープン! 罠カード《エンジェル・リフト》! 効果により墓地のレベル1モンスター《速攻のかかし》を蘇生する!」

 

《速攻のかかし》 ATK/0 DEF/0

 

『最初から伏せられていたカードが何かと思えば……。攻守0の雑魚モンスターをわざわざ蘇生とはな。どうやら貴様の命運も尽きたようだ、クク』

「なんとでも言えよ。けど、これからお前は俺に……お前が虫ケラと呼んだ存在に、負けることになるんだ!」

 

 叫ぶように奴に言い返し、俺は1枚のカードに手をかける。

 このターンのドローで引いた、このデュエルに終止符を打つ決め手となるカード。

 それを指で掴み、勢いよくデュエルディスクに叩きつけた。

 

「俺は手札からチューナーモンスター《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》を通常召喚!」

 

《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》 ATK/0 DEF/0

 

 淡く桜色に輝く小さなドラゴン。しかし、その身体からはまるで恒星のような眩い光が溢れ、トラゴエディアはその光を浴びて思わず腕で顔を覆っていた。

 

『ぐっ……なんだ、この光は! 忌々しい!』

「こいつが……俺の希望の形だ! レベル8スターダスト・ドラゴンとレベル1速攻のかかしに、レベル1救世竜 セイヴァー・ドラゴンをチューニング!」

 

 スターダスト・ドラゴン、速攻のかかしが宙に浮かび、その2体を巨大化したセイヴァー・ドラゴンが包み込む。

 

「――集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す! 光差す道となれ!」

 

 そして、その3体から爆発的な光が放たれ、その瞬間、俺のフィールドに新たに現れるのはこのデュエルにエンドマークをつける最強の竜の1体!

 

「シンクロ召喚ッ! 光来せよ、《セイヴァー・スター・ドラゴン》ッ!!」

 

《セイヴァー・スター・ドラゴン》 ATK/3800 DEF/3000

 

 神々しい輝きを放つ、2対4枚の翼を持った純白のドラゴン。スターダスト・ドラゴンの姿を色濃く残す姿だが、その体躯はスターダストよりも一回り以上大きい。

 

 翼を僅かに折りたたみ、そして広げる。その動作だけで辺り一面が一気に照らし出され、その輝きは確かな力強さと大きな信頼を俺の心に強く感じさせた。

 

『な、なんだそのモンスターは……! これは、マァトの羽よりも輝きが強い……!?』

 

 闇のデュエルで受けたダメージで身体が痛み、思わずよろける。余裕はない……一思いに決めてやる。

 動揺を見せるトラゴエディアを睨みつける。その視線を感じ取ったのか、奴もまた俺に向き合った。しかし、その表情には先ほどの動揺が見え隠れしている。

 

『くっ……だが攻撃力が上回ろうとも、我が憎悪の化身の攻撃力は3600! オレの残りライフ1400ポイントは削り切れまい。そしてオレの手札は6枚ある。態勢を整えるには充分な枚数だ!』

 

 その声には、どこか自らに言い聞かせるような響きがあった。ならば、その認識を改めてもらおう。

 

「今度は……俺が言ってやろうか。甘いぜ、トラゴエディア」

『なんだと!?』

「こいつを舐めるなよ。いずれ神さえ打倒するこのドラゴンをな……!」

 

 いつかの未来、地縛神と呼ばれる神の系譜に連なる者をも倒してみせる存在なのだ。

 なら、今ここで奴に負ける理由など、どこにもない!

 

「セイヴァー・スター・ドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、エンドフェイズまで相手モンスター1体の効果を無効にする! 《サブリメイション・ドレイン》!」

『な、なにッ!?』

 

 セイヴァー・スター・ドラゴンの身体から光が溢れる。

 本当なら更にそのモンスターの効果をこのカードの効果として1度だけ使用できるが、この場合は使うことはないので説明を省く。

 この状況で役立つトラゴエディアの効果といえば、手札枚数による攻守増加効果だが、あれは永続効果なのでセイヴァー・スター・ドラゴンの効果として使用することが出来ないのだ。

 故に、必要なのは相手の効果を無効にするという能力だ。これにより、トラゴエディアの持つ全ての効果はエンドフェイズまで無効になる。

 それはもちろん、攻守増加効果にも影響する。

 

《トラゴエディア》 ATK/3600→0 DEF/3600→0

 

 さっきのエフェクト・ヴェーラーの時と一緒だ。効果に頼りきりの攻守を持つトラゴエディアは、効果を無効にされれば0ポイントの低ステータスをそのまま晒すことになる。

 

『ば、馬鹿な……!』

 

 そして、奴の場には現在攻守0のトラゴエディアが1体だけ。伏せカードもない。

 あのトラゴエディアは奴自身が半身と呼び、身体そのものと言い切ったカードだ。ならば、それを完膚なきまでに破壊すれば、確実に奴自身にもその影響は及ぶ。

 

「――セイヴァー・スター・ドラゴン!」

 

 俺の呼びかけに、セイヴァー・スター・ドラゴンは高く嘶いて応えてくれる。

 そして今度は俺がその声に応えるように、トラゴエディアに鋭い視線を向けた。

 

『ぐッ! まさか……貴様のような小僧に、このオレがッ……!?』

「そう、俺みたいな小僧に、お前は負けるんだ! いくぞ……! セイヴァー・スター・ドラゴンでトラゴエディアに攻撃!」

 

 俺の指示を受け、セイヴァー・スター・ドラゴンはその身体をトラゴエディアへと向ける。

 

『こ、コゾウォォッ!』

「光の中に消え去れ、トラゴエディア! 《シューティング・ブラスター・ソニック》ッ!!」

 

 光がセイヴァー・スター・ドラゴンへと集束していく。

 そしてその光を束ねた純白の輝きがセイヴァー・スター・ドラゴンを包み込み、莫大な輝きを伴ってトラゴエディアに直進する。

 セイヴァー・スター・ドラゴンの姿が奴の背後に現れた時。その時、トラゴエディアは既に光に包まれて消滅を始めていた。

 

『………………ッ!!』

 

 奴の断末魔の声ですら、もはやその光の中に包まれる。

 最後に何を言ったのか、それすら誰にも知られないまま、ついにトラゴエディアは倒されたのだ。

 

トラゴエディア LP:1400→0

 

 光が過ぎ去ったあと、そこには墓守の長が倒れていた。また、トラゴエディアが倒されたことで闇の魔力による重圧もなくなったのか、マナの傍でサラも目を覚ましたようだ。

 サラは目を凝らして周囲の状況を確認すると、倒れこむ長を見つけてすぐに走り寄る。

 

「長!」

 

 抱きかかえ、長の肩が僅かに揺れているのを見ると、どうやら息はあるようだ。そのことにサラも、俺自身もほっとして、俺はどさりとその場に腰を下ろした。

 ――が、その瞬間。

 

『ぐ……グ……貴様、許さんぞ……こ……オレを、よくも……』

 

 まだ完全に消滅させるには至っていなかったのか、トラゴエディアのものであろう黒い靄が俺に近づいてくる。

 今、度重なるダメージで俺は動くことが出来ない。それを狙い、今度は俺の身体を奪うつもりなのか。

 だが、俺に恐怖はない。奴が徐々に近づいて来ても、それより早く駆けつけてきてくれる相棒が、俺にはいるのだから。

 

「これ以上、遠也は傷つけさせない! このぉっ!」

『ぐ、が……神官の、娘ェエッ!』

 

 マナが放った魔法が、黒い靄に取り憑いて動きを止める。

 しかし、同じ闇の魔力を扱うものとしてそれ以上のことは出来ないのか、それともそれだけ奴の抱える憎悪が凄まじいのか、マナの攻撃は奴の動きを止めただけだった。

 なら、あとはこの場にいるもう1体の相棒に任せるとしよう。

 

「……ッセイヴァー・スター・ドラゴン!」

 

 俺が声を振り絞って呼びかけると、セイヴァー・スター・ドラゴンはその意を汲んで目も眩むような強い輝きを解き放つ。

 それはしかし温かさすら感じさせる優しいもので、俺は気分が和らぐ感覚さえ覚えていた。

 だが、憎悪と闇そのものであるトラゴエディアには毒でしかない。その光に当てられた靄は、徐々にその姿を薄めていく。

 

『こ、んな……馬鹿な……オ、レ……が……』

 

 その直後、靄は完全に消え去り、もはや何の声も聞こえなくなった。

 光が収まり、トラゴエディアの靄が存在していた場所には、1枚のカードが落ちている。這うように身体を動かし、それを拾って手に取った。

 《トラゴエディア》のカード……。既にトラゴエディアの本体が消滅した以上、本当にただのカードとなった1枚だ。

 俺はそれをデッキケースの中にしまい、一息つく。これで、本当に終わったんだ。そう思うと力が抜けて、俺はあおむけに地面に倒れこんだ。

 

「遠也!?」

 

 慌てたように俺の身体を抱き起こすマナ。その表情には確かな焦りが見えて、俺は実に不謹慎ながら笑ってしまった。

 いやはや……やっぱり、心配してくれる人がいるってのは幸せなことなんだな。

 

「な、なに笑ってるの! 本当に心配したんだからね!」

「わ、るぃ……」

 

 気づけばマナの目には光るものがあった。

 泣きながら怒るなんて、器用なことをするもんだ。そんなことを思いながら、やはり心配をかけてしまったことに、申し訳なさが募る。

 そのことを謝ろうと思うが、しかし、どうやら俺の身体はもう限界らしかった。

 あの憎悪と害意にまみれた攻撃に耐え、最終的には残りライフ150まで追い詰められたのだ。こうして意識を繋ぎとめておくだけでも、実を言うとかなり辛い。

 その証拠に、徐々に脳が考えることを拒否し始めているのか思考が鈍ってきた。

 それを感じて、俺は完全に思考がシャットダウンされる前にどうにか口を開き、マナに声をかけた。

 

「す、まん……限界だ……。あと、頼む……」

「あっ、と、遠也!?」

 

 更に焦りを強くさせたマナに、もう一言何か。

 そう思いつつも、俺の身体はその意思に反して一気に自由を失っていく。

 その感覚に逆らうことを諦め、俺はマナの腕の中にいる安心感に包まれながら身体から力を抜いた。そしてついに意識は途切れ、俺は安堵と共に眠りの中へと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

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