遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第38話 誤算

 

 斎王がこのアカデミアに来る。

 その情報を得たのはいいんだが……いかんせん知るのが遅すぎたらしい。

 なにせ、その翌日には既に斎王がこの島に来ていたのだから。

 

「――ではバトルです。私のコントロール下に置かれた《ダイナ・タンク》であなたの場の《アルカナフォースVIII(エイト)STRENGTH(ストレングス)》に攻撃!」

「ぐぁああッ!」

 

剣山 LP:500→0

 

 その斎王はいきなりレッド寮の十代の部屋を訪れ、剣山を誘い出すと表でデュエルを始めた。

 外が騒がしくなり、部屋から出て二人のデュエルを見ることで俺はようやく斎王が島に来ていることに気づき、昨日から考えていた斎王への対応をどうするかという悩みが無駄であったことを悟ったのである。

 来るの早すぎだ、盟主様。結局俺はこれといった有効策を思い付く間もなく、十代、翔、エドと共に剣山と斎王のデュエルを見学するしかなかったのである。

 ちなみにマナはというと、今は精霊化している。斎王がいるとわかった時点で、念には念を入れて普通は姿が見えない精霊の状態でいてもらうことにしたのだ。これなら、何かあってもすぐに対応できるだろう。

 そして二人のデュエルは、斎王の発動した罠カード《逆転する運命》によって勝敗が決した。

 逆転する運命は、フィールド上に存在する全ての「アルカナフォース」の正位置と逆位置を入れ替えるカード。それによって、剣山の場に存在していた《ダイナ・タンク》《アルカナフォースVII(セブン)THE CHARIOT(ザ・チャリオット)》《アルカナフォースVIII(エイト)STRENGTH(ストレングス)》、そのうち後者2体の効果が入れ替わったのだ。

 STRENGTHの逆位置、このカード以外の自分フィールド上のモンスターのコントロールを相手に移す。それによって、ダイナ・タンクとCHARIOTは斎王の場へ。

 そして攻撃力1800のSTRENGTHを攻撃力3000のダイナ・タンクで攻撃し、剣山のライフは0を刻んだのである。

 なるほど、凄いタクティクスだ。あの扱いづらい【アルカナフォース】をこうも見事に使いこなすとは。

 だが……。

 

「……素直に感心できないな。普通、あそこまで都合よくアルカナフォースが回せるか?」

 

 あれはかなりギャンブル性が高い……というか、ギャンブル性しかないカード群だ。その扱いにはかなりの技術……それ以上に運が要求される。

 だが、斎王はそういったギャンブルに必須と言っていい《セカンド・チャンス》のようなサポートカードを使わず、自身のライフが削られることさえ計算尽くであるかのような振る舞いだった。

 そして結果、かなりスマートに斎王は勝利を収めたといえる。斎王の残りライフは200しかないというのに、なぜこうもこのデュエルに違和感を覚えるのだろう。

 まるで、詰め将棋を見ているかのような……。

 

「それが、斎王のデュエルだ。斎王には、自分が辿るべき未来が見えている」

「エド」

 

 斎王と剣山が何事か話しているのを見ながら、エドが俺の言葉に答えを示す。

 

「僕は斎王とは長い付き合いだ。だがその中で、斎王が予言した運命を外したことは、一度もなかった」

「なんだよそれ。本当か?」

 

 俺が思わず疑いの声を出すと、エドは頷き……かけて、止まった。

 

「いや……必ずしもそうとは言い切れない、か」

 

 そうまるで自分を納得させるかのように言ったエドは、十代を見て、次に俺をじっと見つめてきた。

 

「なんだ?」

「……斎王が示した運命を覆した者と、斎王が運命を見通せなかった者。もしかすると、斎王は恐れているのか? だが……」

「おーい。なにブツブツ言ってるんだよ」

 

 顎に手を当て、少し俯きがちに何か自分の世界に入っていったエド。俺は声をかけてみるが反応は芳しくない。

 まぁいい、そのうち帰ってくるだろう。そう判断して剣山たちの方へと目を向け、

 

「へ?」

 

 驚く。

 そこには、真っ直ぐこちらを見ている斎王の姿があった。

 十代と翔が、隣で警戒しているのがわかる。だが、斎王は俺と目が合うとすぐに視線を逸らして背を向ける。

 そして、そのまま振り返ることなく去って行った。

 ……なんだったんだ?

 斎王がいなくなり、十代と翔が剣山に駆け寄っていくのを見送りながら、俺は心に浮かんだ疑問に首を傾げてしまうのだった。

 すると、そんな俺の隣にエドが立ち、斎王の後ろ姿を見つめながら口を開く。

 

「……斎王は、お前を気にしていた。自分にも運命を見通せない男だと」

「斎王が?」

 

 そういえば、万丈目も言っていた。「斎王は俺に対して勝手に手を出すなと指示している」と。その理由がたぶん、その運命を見通せないということなのだろう。

 それは、俺が元はこの世界の人間じゃないから……というのが一番有力な理由っぽいなぁ、やっぱり。

 俺が思い当たる理由に嘆息すると、エドはそれを苦悩のものと勘違いしたらしい。

 

「気を付けることだな」

 

 珍しくそんなこちらを気遣う言葉で締めくくると、エドはゆっくりとレッド寮から離れて行った。

 やれやれ、あんな厄介そうな人間に目をつけられるとは。まぁ、アカデミアでもそれなりに名前が知られているし、外部でもそこそこ名が売れてしまっているんだ。こうなることは早いか遅いかの違いだったのかもしれないな。

 

『エドくんの言う通りだよ、気を付けてね遠也』

「ああ。アイツからは、なんか嫌な感じがするしな……」

 

 それはやはり、斎王が確か今回の事件の黒幕だったはずだと記憶しているからだろうか。うろ覚えの記憶が当てになるかはわからないが、少なくとも光の結社の中心人物という時点でその可能性は高いだろう。

 だから、気を付ける、それは確かに大切なことだろう。

 しかし……。

 

「……けど、いずれどこかで倒さないといけなくなるんだよな」

『遠也?』

 

 訝しげなマナの声に、いや、と俺は頭を振る。

 それは今考えなければいけないことじゃない、か。また斎王に関しては後で考えればいい。

 そう結論付けると、俺は剣山を囲んで騒ぐ十代と翔の下に近づいていく。

 今は、こうして仲間同士楽しくやってるのが一番だ。何事も、ストレスばかりでは上手くいかないからな。

 俺は三人と合流すると、剣山の健闘を称えて笑い合うのだった。

 

 

 

 

 その夜。

 レッド寮の部屋の中でデッキを弄りつつ休んでいると、コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。

 今の時刻は夜の11時。既に大部分の生徒が寝る準備を始めるか、夢の中にいるような時間である。

 こんな深夜と呼んでも差し支えないような時間に、一体誰だ?

 疑問に思いつつ俺は扉に近づき、開け放った。

 そこに立っていたのは、明日香だった。

 

「明日香? どうしたんだ、突然」

「私自身に用はないわ。斎王様に頼まれたのよ。これをあなたに渡してきてくれってね」

「斎王に?」

 

 言って、明日香は一通の封筒を俺に差し出す。

 どこにも装飾のないシンプルな白封筒。それの口部分を手で切り取り、中に収められていた手紙を取り出す。

 

「確かに渡したわよ。それじゃ」

「あ、お、おい!」

 

 取り出した手紙に意識を割いている間に、明日香はさっさと立ち去ってしまう。呼び止めるも全く反応を返さない明日香に少し複雑な気分になるものの、俺は仕方なくその手紙を読み始めた。

 といっても、内容そのものは非常に短い。読む、というほどでもない文章がそこに書かれていた。

 

『指定された場所まで一人で来られたし。 斎王』

 

 そしてその文の下には地図が描かれている。

 示された場所は、ブルー男子寮の近くにある崖だ。月がよく見える、森と平原双方に繋がる見晴らしのいい場所だった記憶がある。

 その文には、他に何も書いていない。来なかった場合に何かあるというわけでもなさそうだ。

 だが――。

 

「……いいさ、行ってやる」

 

 俺は手紙を握り、部屋の中に戻る。出かける準備をするためだ。

 部屋の中にいたマナに事情を話すと、罠かもしれないからやめたほうがいいと心配されたが、俺はそれでも行く気だった。

 万丈目、そして今の明日香。それを見ていて、やはり思ったのだ。

 ……俺の友達をいいように顎で使っている斎王は、やはり気に入らないと。

 しかも明日香に至ってはかなり斎王に対して忠実であり、そこに万丈目のような自意識は全くないように思える。

 それを明日香を使いにすることで恐らくは意図して見せたうえ、こうして誘いまで来たのだ。ここまでされたら、行くしかない。挑発とわかっていたとしても、あいつらの友達を自認するからには無視するというわけにもいかなかった。

 

「はぁ……。まぁ、そこが遠也のいいところでもあるのかな。……わかった。けど、私もついていくからね」

 

 言うが早いか、マナは精霊化してしまう。

 俺はそれに苦笑と共にありがとうと告げ、デュエルディスクを持って部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 斎王が指定した場所。

 ブルー寮に本来の自室がある俺にとってはそれなりに馴染みもあり、迷いなくその場所にたどり着く。

 そこでは、デュエルディスクを腕に着けた斎王が一人で佇んでいた。

 月光の中目を閉じて沈黙している姿はどこか不気味なものを感じさせる。そして、俺がそんな斎王に近づいていくと、その気配に気づいたのかその目を開けて俺を見た。

 

「……お待ちしていました。まずは突然のお誘いに応えていただき感謝します、皆本遠也さん。私は斎王琢磨と申します」

 

 うっすらと笑みを浮かべて恭しく頭を下げた斎王に、俺も小さく頭を下げて応える。

 

「知ってるみたいだから、自己紹介はいいか。……それで、なんで俺を呼び出したんだ?」

 

 エドから根本の理由を聞いていはいるが、なぜ気に留める俺をこの場に一人で呼んだのかがわからない。

 それゆえに問うと、斎王はやはり口元を笑みに象ったまま言葉を吐く。

 

「なに、簡単なことですよ。私とデュエルをしてほしいのです」

「デュエルを?」

「ええ、そうです。ああ、このような時間になってしまったことは謝罪しましょう。あなたほどの有名なデュエリストとのデュエルですから、どうしても二人きりで集中して行いたかったものでね……」

 

 しらじらしいな、と思いつつ俺はここに来るまでに予想していた通りの展開に頷く。

 デュエルだと思ったから、俺もディスクを持ってきているんだ。そうじゃなかったら、むしろ無駄な手荷物を持ってきただけになってしまう。

 

「ふふ……昼にデュエルをした方との対戦も楽しいものでしたが、あなたはかなりの実力者です。そんな方とデュエルする機会などそうそうないですから。ぜひ、あなたの力を見せてもらいたい……」

 

 斎王が言うのは剣山のことだろう。剣山は過去に骨折した際に埋め込んだ恐竜の骨、それに宿った恐竜パワー(?)で斎王の洗脳をはねのけていたから、まぁある意味面白くはあったな。

 しかし、俺にそんな特殊な要素は存在しない。なら、負ければやはり俺もホワイト化してしまうのだろうか。

 十中八九、斎王の一番の目的はそれだろうな。あるいは未来が見通せないという俺の力を見るためのものか。

 恐らくはそれらの理由で間違いはないはず。目的がわかっている以上、このデュエルを受けないのが賢い選択なんだろうが……。

 

「斎王、俺はデュエリストだ」

「はい」

 

 俺は腰のデッキホルダーからデッキを取り出す。そして、斎王の目をしっかりと見返した。

 

「挑まれたからには、受ける!」

「ふふ、さすがです。改めて感謝しますよ」

 

 にやり、と変わりのなかった笑みに愉悦のような色が混じる。

 よほど俺とデュエルがしたかったらしい。

 ――だが、それは俺も同じことでもある。

 

「ただし、条件がある」

「ほう……聞きましょう」

「俺が勝ったら、万丈目と明日香。光の結社の一員となった人間全員を元に戻せ」

 

 デュエルしてくれ、という望みを叶えてやろうというのだ。しかも、負ければ俺も恐らくは光の結社の一員となる。それなら、その対価を要求したって罰は当たるまい。

 そう思って言えば、斎王は心外だとばかりに表情を悲しげに歪ませた。

 

「それはあなたの勘違いというものです。お昼の彼にも言いましたが、彼らは彼ら自身の意思で私を敬ってくれているのですよ」

「なら、その意思を無視してでも自分を敬うのを止めさせろ」

「む……」

 

 俺が即座にそう返すと、斎王は思わず黙り込んだ。

 もともと、今の万丈目や明日香たちは、自分の意思を無視して従わされている状態である。万丈目だけは自分の意思も残っているようだが、大部分はそうだ。

 なら、その植えつけられた意思を無視して止めさせれば、それはつまり元の彼らに戻ることを意味する。

 これなら、斎王は洗脳を解くしかないはずだ。約束に応じ、守るなら、だが。

 

「……私に、そんな人心を操るかのような術があるとでも?」

「だが、あいつらはお前の言うことはよく聞くみたいじゃないか。そのお前が頼めば、みんなきっと聞いてくれる。だろ?」

「……いいでしょう。応じます」

 

 渋みの残った顔で言った斎王に、約束したぞ、と念置きする。もっとも、斎王に洗脳を解く気がなければ結局意味のないことである可能性は高いが……。まぁ、それでもダメでもともとというやつである。

 ともあれ、こうして条件を付けられた。あとはデュエルで勝つだけだ。

 俺と斎王はいくらかの距離をあけて向かい合うように立つ。

 そして俺たちはデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

皆本遠也 LP:4000

斎王琢磨 LP:4000

 

「俺の先攻、ドロー!」

 

 手札を確認し、カード2枚を手に取る。

 

「モンスターをセット。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 まずは手堅く。

 斎王がどんな手で来るのかは知らないが、このデュエルに万丈目と明日香の奪還がかかった以上、負けるわけにはいかない。

 

「私のターン、ドロー」

 

 斎王もまたデッキからカードを引き、手札に加える。そして、1枚のカードをディスクに置いた。

 

「私は《アルカナフォースIV(フォー)THE EMPEROR(ジ・エンペラー)》を召喚。このカードの召喚成功時、あなたはカードの回転を止めてこのカードの効果を決定させる。正位置なら、私の場のアルカナフォースと名のつくモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。逆位置なら、500ポイントダウンする。さぁ」

 

《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》 ATK/1400 DEF/1400

 

 黒く巨大な鎧をまとった有翼の騎士。その上半身のみ、といった風体のモンスターがTHE EMPERORだ。そして、その頭上で回転するカードを見る。

 アルカナフォースは本来、召喚成功時のコイントスによって二つの効果のうちどちらかの効果を得ることが出来るモンスター群だ。

 しかし、この世界ではコイントスではなく、カードの回転によってその選択が行われるようだ。それに、表と裏という表現も正位置と逆位置に変化している。一層タロットカードらしくなっているわけだ。

 そして、アルカナフォースの大半は正位置こそがメリット効果であり、逆位置がデメリット効果だ。そして、そのギャンブル性ゆえに正位置の効果を得た時はかなり厄介な力を持つモンスターと化す。

 そんな思考をしつつ、回転するカードを俺はじっと見つめた。

 

「……ストップ!」

 

 掛け声を受けてカードの回転が徐々に緩まり、そしてついに停止する。

 

「止まったのは正位置。よって、THE EMPERORの攻撃力が上昇します」

 

《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》 ATK/1400→1900

 

 正位置か。

 だが、いま斎王の場にいるアルカナフォースは1体だけ。被害は最小限ですんだので、良しとしよう。

 

「バトルです。THE EMPERORでセットモンスターを攻撃」

 

 THE EMPERORが黒い豪腕を振りかぶり、俺の場に伏せられたモンスターを叩き潰す。

 その間際、カードが反転して現れたのは、三つの目を持つ小さな毛玉のような姿。

 

「セットモンスターは《クリッター》だ! そしてクリッターの効果発動! このカードがフィールド上から墓地に送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える。俺は《ジャンク・シンクロン》を選択!」

「なるほど……では、私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 斎王が意味ありげに微笑み、ターンを終了する。

 不気味だが、なんにせよ俺は俺にできることをするだけだ。

 

「俺のターン!」

 

 手札を確認し、一つ頷く。

 

「魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札の《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地に送り、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

 

《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300

 

「更に《ジャンク・シンクロン》を召喚! その効果で墓地のレベル2以下のモンスター《ボルト・ヘッジホッグ》を効果を無効にして特殊召喚する!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 これで俺の場にはチューナーとそれ以外のモンスターが2体となった。

 まずは、斎王に先制のダメージを与えてやる。

 

「チューニング・サポーターはシンクロ素材とする時レベルを2として扱える! 俺はレベル2となったチューニング・サポーターとレベル2のボルト・ヘッジホッグに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 レベルの合計は7となる。

 ここは一気にダメージを与えられるモンスターを召喚する!

 

「集いし怒りが、忘我の戦士に鬼神を宿す。光差す道となれ! シンクロ召喚! 吼えろ、《ジャンク・バーサーカー》!」

 

《ジャンク・バーサーカー》 ATK/2700 DEF/1800

 

 赤い鎧を纏い、自身の身の丈を超える巨大な斧を持った戦士。

 まさしく鬼のように厳ついその顔が、ゆっくりと獲物となる斎王の場のモンスターに向けられた。

 

「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー! そしてジャンク・バーサーカーの効果発動! 墓地の「ジャンク」と名のついたモンスター1体を除外することで、相手モンスター1体の攻撃力はそのモンスターの攻撃力分ダウンする! 俺は墓地のジャンク・シンクロンを除外し、その攻撃力1300ポイント分、THE EMPERORの攻撃力を下げる! 《レイジング・ダウン》!」

 

 仲間を倒されたジャンク・バーサーカーの憤怒の叫びがフィールドに響き渡る。

 それによってTHE EMPERORは身をすくませてその攻撃力を大幅に下げた。

 

《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》 ATK/1900→600

 

「バトル! ジャンク・バーサーカーでTHE EMPERORに攻撃! 《スクラップ・クラッシュ》!」

 

 相手の場に突進し、ジャンク・バーサーカーは大きく振りかぶった巨斧を一気に叩きつける。

 圧倒的な攻撃力差に、THE EMPERORは何もできずにそのまま破壊された。

 

「………………」

 

斎王 LP:4000→1900

 

 しかし、斎王の顔にあるのは涼しい笑みのみ。

 訝しみつつも、俺は1枚のカードを手に取ってディスクに差し込む。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー」

 

 斎王がカードを引き、これで奴の手札は5枚となった。

 

「私は《死者転生》を発動。手札1枚を墓地に送り、墓地からTHE EMPERORを手札に戻します。更に《ナイト・オブ・ペンタクルス》を守備表示で召喚」

 

《ナイト・オブ・ペンタクルス》 ATK/1000 DEF/1000

 

 鉄製の昆虫のような形をしたモンスター。そしてそのナイト・オブ・ペンタクルスの頭上にもまた回転するカードが現れる。

 俺はそれに対して再びストップと声をかけ、その回転はまたしても正位置の状態で止まった。

 

「正位置の効果、このカードは戦闘では破壊されない。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

「戦闘破壊耐性か。俺のターン!」

 

 破壊耐性かつ守備表示というのは、本来ならかなり厄介だ。とはいえ、俺の場にいるジャンク・バーサーカーは守備表示モンスターを破壊する効果も持っている。ゆえに、問題ないと言えば問題はない。

 

「俺は《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚! そしてその効果により、このカードを守備表示に変更して相手の場の魔法・罠カード1枚を破壊できる! 右の伏せカードを破壊!」

 

《ライトロード・マジシャン ライラ》 ATK/1700 DEF/200

 

 ライラがイラストに描かれているように両手を上げて祈りを捧げると、一筋の光が天から降り注ぎ、斎王の場の伏せカードを狙い撃つ。

 

「では、その前に私はこの伏せカード《威嚇する咆哮》を発動します。このターン、あなたは攻撃宣言できない」

 

 威嚇する咆哮か。フリーチェーンのカードだから、効果さえ発動すれば破壊されたとしても確実に攻撃を防ぐことができるカードだ。

 もう1枚の伏せカードが気になるが、そちらは今はどうしようもない。

 ナイト・オブ・ペンタクルスは戦闘耐性を持つものの、バーサーカーの効果により破壊することができる。……が、攻撃を封じられてしまっているため、それも出来ない。

 

「俺はこれでターンエンドだ。この時、ライラの効果でデッキの上から3枚を墓地に送る」

 

 落ちたのは《アンノウン・シンクロン》《レベル・スティーラー》《おろかな埋葬》か。制限カードが落ちるのはやめてほしいものである。

 とはいえ、こればかりは運だから仕方がない。俺は気持ちを切り替えて斎王の行動を見据える。

 

「私のターン、ドロー」

 

 斎王の場には戦闘で破壊されない壁モンスターに、伏せカードが1枚。

 準備は整っていると見ていいだろう。つまり、恐らくはそろそろ攻勢に出てもおかしくはないはず。

 俺が警戒していると、斎王はその手札から1枚のカードを手に取った。

 

「手札から再び《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》を召喚」

 

 そして召喚成功時の効果選択。俺が掛け声をかけると、今度は逆位置で止まった。逆転する運命もない今、アルカナフォースの攻撃力が500ポイント下がることで確定される。

 

《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》 ATK/1400→900 DEF/1400

 

 攻撃力が下がったTHE EMPERORを見て、斎王は変わらない涼しい顔で目を伏せた。

 

「それではバトル。THE EMPERORでライトロード・マジシャン ライラに攻撃」

「くっ……」

 

 ライラの守備力は僅か200。攻撃力が下がったとはいえ、充分に破壊可能圏内だった。ライラの効果を考えれば、ここで除去は当然だろうな。

 

「私はこれでターンエンドです」

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは……よし。

 

「俺は《ジャンク・バーサーカー》のレベルを1つ下げ、墓地から《レベル・スティーラー》を特殊召喚! 更にレベル4以下のモンスターの特殊召喚に成功したため、手札から《TG ワーウルフ》を特殊召喚する!」

 

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

《TG ワーウルフ》 ATK/1200 DEF/0

 

「更に《グローアップ・バルブ》を通常召喚!」

 

《グローアップ・バルブ》 ATK/100 DEF/100

 

 再び俺の場にチューナーと素材が揃う。合計のレベルは5、これでアルカナフォースという光属性で占められたデッキに対して強力な影響を持つモンスターの召喚条件は整った。

 

「レベル1レベル・スティーラーとレベル3のTG ワーウルフに、レベル1グローアップ・バルブをチューニング! 集いし狂気が、正義の名の下動き出す。光差す道となれ! シンクロ召喚! 殲滅せよ、《A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス) カタストル》!」

 

《A・O・J カタストル》 ATK/2200 DEF/1200

 

 出てくるのは白銀の装甲を持つ機動兵器。侵略者を殲滅するために生まれた、知恵ある種族の連合による科学技術の結晶である。

 そしてその効果は「闇属性以外のモンスターと戦闘を行う時、ダメージ計算を行う前に相手モンスターを破壊する」という凶悪なものだ。

 更にここにジャンク・バーサーカーも加えれば、斎王の場を一掃することが可能になる。

 

「バトル! A・O・J カタストルでナイト・オブ・ペンタクルスに攻撃! 《デス・オブ・ジャスティス》!」

「おっと、ではその前にカウンター罠《攻撃の無力化》を発動しましょう。カタストルの攻撃宣言に対して発動し、その攻撃を無効。バトルフェイズを終了させます」

 

 カタストルの顔部分の中心にある青いレンズ。そこから放たれた一条の光線は、斎王のモンスターの前に現れた次元の渦に呑まれて届かない。

 バトルフェイズが終了しては、これ以上の追撃も不可能だ。

 

「……ターンエンド」

「では、私のターン。ドロー」

 

 カードを引いた斎王は、その顔に笑みを浮かべた。

 

「《強欲な壺》を発動します。2枚ドロー。更に《カップ・オブ・エース》を発動。正位置なら私はデッキから2枚ドローする。逆位置なら、あなたが2枚ドローする」

 

 回転を始めるカード。それに対して、俺は再び声をかけた。

 

「……ストップ」

「止まったのは、正位置です。よって、私は更に2枚ドロー」

 

 これで斎王の手札は再び5枚。

 そして、斎王はその中から1枚をゆっくり選び取る。

 

「《アルカナフォースVI(シックス)THE LOVERS(ラヴァーズ)》を召喚」

 

《アルカナフォースVI-THE LOVERS》 ATK/1600 DEF/1600

 

 恋人たち、というには不気味なモンスターが召喚されたものである。

 黒いドレスを纏った異様に手がでかい人型モンスター。顔がどこかフクロウに似ているのも、その不気味な印象に拍車をかけている。

 そして、アルカナフォース恒例の効果選択。俺のストップの声によってTHE LOVERSが得た効果は、正位置。つまり、「アルカナフォースをアドバンス召喚する場合、このモンスターで2体分のリリースとすることが出来る」という、ダブルコストモンスターとなった。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 更に斎王はカードを伏せて、エンド宣言を行う。

 ……だが、どうも違和感を感じる。

 ここまでターンが進んでいるのに、斎王は一度も上級モンスターを出していない。

 単に手札に来ていないのだろうか。それとも、最上級だから出せなかった? いや、既に斎王の場には2体のモンスターがいた。だというのに、こうしてダブルコストモンスターまで出してきている。

 いったい何を狙っているのか。俺はうっすらと笑みを張り付けた斎王に、不気味さを感じずにはいられなかった。

 

「っ、俺のターン!」

 

 俺はそれを振り切るようにカードを引く。

 何にせよ、狙っている何かが行われる前に決着をつければいいだけの話。こちらにはカタストルとバーサーカーがいる。戦闘面での心配はそうしなくてもいい布陣である。

 なら、自信を持って進めばいい。このデュエルには万丈目と明日香がかかっている。それに、俺だって斎王に洗脳されるなんてゴメンだ。

 

「バトル! カタストルでTHE LOVERSに攻撃! そしてカタストルの効果により、ダメージ計算前にTHE LOVERSは破壊される! 《デス・オブ・ジャスティス》!」

「むぅ……」

「更にジャンク・バーサーカーでTHE EMPERORに攻撃! 《スクラップ・クラッシュ》!」

「ぐぅッ……!」

 

斎王 LP:1900→100

 

 THE EMPERORは自身のデメリット効果によって攻撃力が900になっていた。ジャンク・バーサーカーの攻撃力は2700。その差1800ポイントは大きく、斎王のライフはもはや風前の灯である。

 だが、それでも斎王の表情は変わらない。

 ここまでくると、不気味とかそういう問題じゃない。俺は劣勢となっても、全く動じない斎王に薄ら寒さすら感じる。まるで、俺の方が追い詰められているかのような……。

 いや、そんなバカな。

 考え過ぎだ。現に、俺のライフは4000なのに対し、斎王のライフは既に残り100しかない。

 順調にいっているからこそ、疑心暗鬼にとらわれるのだ。そうに違いない。

 ――だが、どうしても不安はぬぐえなかった。これに負けると、俺は自分という存在を一切合財無視した斎王の操り人形となってしまうのだ。その恐怖は、やはり俺の中にある。

 しかし、そんな恐怖を認めるわけにはいかない。俺は意図して笑みを浮かべると、口を開く。

 

「……いやに余裕だな」

「余裕? ……なるほど、そう見ることもできますか。残念ながら、違いますよ」

 

 俺がついそう声をかけると、斎王は一瞬何を言われたのか分からないという顔をした後に、苦笑気味に否定してきた。

 

「これは、余裕ではありません。ただ、私には私の取るべき選択が見えているにすぎないのです。……尤も、あなたの未来が見えない以上、私としても自分が最善と思う選択をし続けるしかないのですが」

 

 そこまで言い、斎王は小さく笑う。

 

「ふふ、確信の得られないデュエルは久しぶりですよ。実に楽しい。しかしながら、ここまで来ても私に見える私の未来は変わらない。ゆえに、何も問題はありません」

「……何を言っているのか、よくわからないな。俺はこれでターンエンドだ」

 

 もはや斎王の言葉すら言葉による罠のように思えてくる。そのため早々に打ち切るが、しかし斎王はそれにも動じない。

 

「では私のターン、ドロー。魔法カード《運命の宝札》を発動、サイコロを振り、出た目の数だけドローする。その後デッキの上から同じ数のカードをゲームから除外します」

「なっ……」

 

 ここでドローカードだと!

 しかも原作において登場したOCG化していない壊れカード。ここにきて相手に取るべき手段が増えるのは、正直に言ってかなり危ない。

 

「サイコロの目は……4。よって私はデッキから4枚ドローし、同じ数だけデッキトップからカードを除外します。そして《コーリング・ノヴァ》を召喚」

 

《コーリング・ノヴァ》 ATK/1400 DEF/800

 

 コーリング・ノヴァ、天使族専用のリクルーターか。だが、その効果の発動は戦闘破壊が条件のはず。受け身であるうえにコーリング・ノヴァは攻撃表示。次のターンに俺が攻撃すれば、それだけでゲームエンドである。

 俺がそう分析していると、斎王は口角を吊り上げた笑みを見せた後に、大きく息を吐いた。

 

「やはり、運命は私の見たとおりだった。たとえあなたの運命が見えずとも、私が私自身の最善の運命に従っていれば、結果はおのずと見えてくる」

「何を……」

 

 言っているのか。そう問おうとした俺は、斎王が片目から涙を流しているのを見て、言葉を詰まらせた。

 

「……やはり、運命とは変えられないものなのか。――ふふ、見せてあげましょう。最強のアルカナフォース、その姿を。私は《二重召喚(デュアルサモン)》を発動。これで私はこのターンもう一度通常召喚を行えます」

 

 斎王の場にはコーリング・ノヴァとナイト・オブ・ペンタクルス。

 2体のモンスターということは……まさか、最上級モンスターか!?

 

「コーリング・ノヴァとナイト・オブ・ペンタクルスをリリース! 手札から《アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE WORLD(ザ・ワールド)》を召喚!」

 

 そして斎王の場に現れるのは、黒く巨大な円盤のような姿。円盤にしては厚みがありすぎ、その身体は円柱といったほうが近いかもしれない。 

 そこから鋭く伸びる鉤爪のような手足は、いかにも禍々しいものであり、その姿は巨大さも相まって得も言われぬ圧迫感を俺に与えてくる。

 

《アルカナフォースXXI-THE WORLD》 ATK/3100 DEF/3100

 

「な、に……」

 

 その巨体、そしてアルカナフォースの切り札と呼ぶにふさわしい姿に、思わず言葉を失う。

 そんな俺を前に、斎王はさっきまでの冷静さが嘘のように楽しげな笑みをこぼし始めた。

 

「これこそ最強のアルカナフォース! 召喚に成功したため、効果の選択です! THE WORLDは逆位置なら、あなたのドローフェイズにあなたは墓地の1番上のカードを手札に加えるというドロー加速を約束する。ですが、正位置の場合、私は自分のエンドフェイズ時に自分の場のモンスター2体を墓地に送ることで、次のあなたのターンをスキップさせることができる!」

「俺のターンをスキップするだって!?」

 

 くそ、そういえばそんな効果だったか。ターンをまるごとスキップするなんて、俺にとって圧倒的に不利となる効果だ。もはや反則と言ってもいい。

 なぜなら、単純に相手は「カードを2枚ドロー」「モンスター2体を通常召喚」「セットした罠カードを発動できる」「同じモンスターでもう一度攻撃できる」「回数制限のある効果を更に使える」ということになるのだ。そのアドバンテージは計り知れない。

 ……負ける、のか? 冷や汗が俺の頬を伝う。

 

「さぁ、ストップの声を!」

「くっ……ストップだ!」

 

 悩まず、即決で宣言する。

 正位置にはなるな。

 そう祈るが、しかし回転するカードが止まった位置は、そんな俺を嘲笑うかのように――正位置だった。

 

「カードの位置は、正位置! よって、2体のモンスターを墓地に送った次のあなたのターンをスキップします!」

 

 ……だが、まだ大丈夫だ。斎王の場にはほかのモンスターは存在しない。

 なら、THE WORLDの効果は発動できないはず。

 俺はそう希望を繋げるが、それに対する対策を用意していないはずもない。斎王は手札のカード1枚を手に取った。

 

「私は更に《おろかな埋葬》を発動! デッキから《レベル・スティーラー》を墓地に送ります!」

「なっ……レベル・スティーラー!?」

 

 それは俺のデッキで幾度となく活躍している、必須カード。

 そしてもともとこの時代には存在していないはずのカード。それゆえ俺は驚くが、斎王は愉快気に口元を歪めるだけだった。

 

「フフ、別に不思議ではないでしょう。このカードを確かにあなたはよく使いますが、専用というわけでもない」

 

 ……確かに、シンクロの登場によって新たに作られたパックにレベル・スティーラーは入っている。だが、THE WORLDにその効果を利用されるとなると、かなり厄介だ。簡単に発動に必要な2体のモンスターが確保されてしまう。

 とはいえ、俺の場にはカタストルがいる。光属性であるTHE WORLDが相手ならば、問答無用で破壊できる。

 そう考えるが、それはしかし次に斎王がとった手によって覆されることとなる。

 

「更に手札から《地割れ》を発動! 相手の場の最も攻撃力が低いモンスターを破壊します! カタストルを破壊!」

「なっ……!」

 

 ここで単体除去カードだって!? まずい、光属性のアルカナフォースにとってのメタとなり得るカタストルがいなくなった。

 これで、俺の場にはジャンク・バーサーカーのみ。これでは一方的にこちらが戦闘破壊されてしまう。

 

「そして私はTHE WORLDのレベルを2つ下げて、墓地から《レベル・スティーラー》2体を特殊召喚します」

「2体!? ……そうか、死者転生のコスト……!」

 

 俺の言葉に、斎王は口の端を持ち上げる。正解だと言わんばかりに。

 

「さぁ、バトルです! THE WORLDでジャンク・バーサーカーに攻撃! 《オーバー・カタストロフ》!」

「ぐぁッ!」

 

遠也 LP:4000→3600

 

「更にレベル・スティーラー2体でプレイヤーに直接攻撃!」

「くっ……手札から《バトル・フェーダー》の効果発動! このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる! 守備表示で特殊召喚!」

 

《バトル・フェーダー》 ATK/0 DEF/0

 

 俺の場に現れる振り子を象ったモンスター。

 手札に来ていてくれて助かった。これで少なくとも次のターンまではもたせることが出来るだろう。

 

「なるほど。では、エンドフェイズ。私は2体のレベル・スティーラーを墓地に送ります。これによってTHE WORLDの効果を発動し、次のあなたのターンをスキップします」

「くっ……」

 

 わかっていたが、やはりドローすら行えないというのは辛い。

 

『遠也……!』

 

 マナも心配そうに俺に声をかけてくる。

 だが、まだ場には壁となるバトル・フェーダーがいる。それに、今のレベル・スティーラーの蘇生によってTHE WORLDの現在のレベルは6。つまり、同じコンボはあと1度までしかできない。

 それを耐えきれれば、まだ手はある。セットされたカードが、頼みの綱だ……!

 

「再び私のターン、ドロー! 私は《アルカナフォースI(ワン)THE MAGICIAN(ザ・マジシャン)》を召喚! カードの回転を止めてください、さぁ!」

 

《アルカナフォースI-THE MAGICIAN》 ATK/1100 DEF/1100

 

 細身の身体に、ピエロの服装を纏った男。それが軟体動物のように奇妙な動きで場に現れ、その頭上にてカードが回転を始める。

 

「ストップ!」

 

 声をかけ、緩やかになっていくカードの回転。

 それはやがて、ぴたりとその動きを止めた。

 

「止まったのは正位置! それによって魔法カードが発動された時、エンドフェイズまでこのカードの攻撃力は倍になります。そして私は手札から《メテオ・ストライク》をTHE MAGICIANに装備! これによってTHE MAGICIANは貫通効果を得ます。更に魔法カードの発動により、攻撃力は倍となる!」

 

《アルカナフォースI-THE MAGICIAN》 ATK/1100→2200

 

 貫通効果をここで持ってくるとは思わなかった。

 バトル・フェーダーの守備力は0。つまり、貫通効果の付与は直接攻撃と等しい効果を与えることに他ならない。

 

「バトルです! THE MAGICIANでバトル・フェーダーに攻撃!」

「くっ……!」

 

遠也 LP:3600→1400

 

「更にTHE WORLDで直接攻撃!」

「それは通さない! 罠発動、《ガード・ブロック》! この戦闘ダメージを0にし、俺はデッキからカードを1枚ドローする!」

 

 ……なんとか致命傷だけは止めることが出来たか。

 だが、もしこのままもう一度斎王のターンになった場合、俺の手札に攻撃を止める手段はなく、場にもう1枚伏せてあるカードも攻撃を止めるようなカードではない。

 つまり、これで終わりということだ。

 だから、ここで引く1枚のカードで全てが決まる。

 今の俺の手札に対抗できるカードはない。ここでその対策となるカードをひかなければ、俺は斎王の下に下ることになる。

 頼む、俺のデッキ……! ここは負けられない。自分の意思を無視されて洗脳を受けるなんて、ある意味ではただ騙すよりもよほどたちが悪い。自分の自己性を否定される、そんな横暴を認めるわけにはいかない。

 

「ドローッ!」

 

 引いたカードを、確認する。

 ――っ、きたか!

 

「私はTHE WORLDのレベルを1つ下げ、レベル・スティーラー1体を守備表示で特殊召喚。そして、エンドフェイズに――」

「させるか! その前のメインフェイズに手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果発動! このカードは相手のメインフェイズにのみ発動可能! 相手モンスター1体の効果をエンドフェイズまで無効にする! これで次は俺のターンが来る!」

 

 これで相手の場には攻撃表示のTHE WORLDとTHE MAGICIAN、そして守備表示のレベル・スティーラーとなった。

 次の俺のターンでTHE MAGICIANの攻撃力1100を超える1200以上のモンスターを出せれば、あの伏せカード如何にもよるが、俺の勝ちがぐっと近づく。

 

「ほう。ですが、それも1ターンだけのこと。その次のターンには再び私のターンがやってきます」

 

 斎王はそこまで言うと、手札に最後に残ったカードに手をかけた。

 

「ですが、THE MAGICIANを攻撃されれば私はひとたまりもない。まだ私のメインフェイズです。手札から《ワームホール》を発動し、THE MAGICIANを次の私のターンのスタンバイフェイズまで除外します」

 

 そして斎王は、「ターンエンドです」とエンド宣言をする。

 《ワームホール》は恐らく、デメリット効果が出たアルカナフォースの効果をリセットするために投入されているのだろう。まさかそんなカードが入っているとは。

 これで斎王の場には攻撃力3100の大型モンスターと、守備表示のレベル・スティーラーが1体。問題はTHE WORLDのほうだ。これを除去しなければ、俺に逆転の目はない。

 THE MAGICIANがいればそちらを攻撃してライフを0に出来たのだが、ワームホールによりそれも出来なくなった。

 レベル・スティーラーは守備表示なため、ダメージは与えられない。更に言えば、斎王の墓地にはあと1体のレベル・スティーラーが存在しており、スタンバイフェイズにはTHE MAGICIANが帰ってくる。

 そして現在のTHE WORLDのレベルは5。つまり、斎王のターンになった時、たとえ俺がレベル・スティーラーを破壊したとしても、THE WORLDのコスト……2体のモンスターはどうやっても揃う。レベル・スティーラーを1体蘇生し、THE MAGICIANをコストにすれば、次の俺のターンは再びスキップされるだろう。

 そのうえ、伏せカードまで存在している。あれが攻撃を防ぐ罠カード……あるいは攻撃モンスターを破壊するカードだった場合、やはり俺は厳しくなる。

 要するに、俺はTHE WORLDと伏せカード、その両方に対処しなければならないわけだ。

 攻撃力3100以上のモンスターを場に召喚し、かつ相手の伏せカードも除去しなければ、俺に勝ちはない。

 次に斎王のターンが来たら、恐らく負ける。THE WORLDの効果を使用されれば、1ターン凌いだところで、もう1ターンを越えられる手は俺にはない。

 だから、ここで俺は逆転の手を引かなければならない。

 出来なければ、万丈目と明日香は元に戻らず、……俺は斎王に洗脳されてしまうだろう。

 

「俺の――」

 

 だが、そんな未来はごめんだ。

 ゆえに、ここで必ずカードを引く。

 横で見守るマナに目を合わせる。そしてマナが力強く頷きを返してくれたことに頼もしさを感じながら、俺はデッキトップにかけた指を勢いよく振りぬいた。

 

「――ターンッ!」

 

 ……ッ、きた!

 これで、俺はあのモンスターを召喚できる。

 攻撃力3100を超え斎王のライフ100を削り切る攻撃力3300、そのうえ破壊する効果を無効にすることが出来る効果を持つ切り札級のドラゴンを!

 これで負けることはない。そんな安堵を感じながら、俺は行動に移った。

 

「俺はカードを1枚伏せ、魔法カード《大嵐》を発動! そしてそれにチェーンして伏せてあった罠カード《スターライト・ロード》を発動! フィールド上のカードを2枚以上破壊する効果が発動した時に発動可能! その効果を無効にして破壊し、エクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 

 《スターライト・ロード》は最初から伏せていたカードだ。だが、その発動条件故に単体除去では使えなかった。

 大嵐を引き、かつその使用前にカードを伏せて伏せカードを2枚にしたからこそ発動できたわけである。

 これにより、俺はエクストラデッキからもう一人の相棒とでも呼ぶべき、最大級の信頼を寄せるモンスターを特殊召喚できる。

 

「――飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 俺の場に舞い降りる、光り輝く白銀のドラゴン。

 星屑のように眩い粒子を降らせながら現れたその姿を、斎王は身じろぎもせずにじっと見つめる。

 

「更に墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動! デッキトップのカードを墓地に送り、デュエル中1度だけ特殊召喚できる!」

 

《グローアップ・バルブ》 ATK/100 DEF/100

 

「そして手札から《チューニング・サポーター》を通常召喚!」

 

《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300

 

 これで、俺の場にはスターダスト・ドラゴン1体と、レベル1のチューナーと非チューナーが揃った。

 

「スターダスト・ドラゴン。あなたの代名詞的なカードですか。しかし、それでは攻撃力がTHE WORLDに届かない。そして、トリシューラというモンスターの召喚にはレベルが合わない。それでどうするというのです」

 

 トリシューラだと?

 確かに俺はそれを持っているし使ったこともあるが、この学園ではまだ使ったことがない。それを何故知っているのか。

 油断ならない情報網を持っているようだと斎王に対する警戒を新たにしながら、しかしその言葉に俺は笑みをこぼす。

 レベル・スティーラーを使えば、この状態からでもトリシューラは実は出せる。だが、それではたとえTHE WORLDを除去できたとしても伏せカード如何によっては決着までは至らず、斎王にターンが渡ってしまう可能性がある。

 だから、ここではトリシューラは使わない。あの伏せカードが破壊系のカードだったとしても、それを乗り越えてこのターンで決める。そんな意味を込めた笑みだった。

 

「それはどうかな」

「ほう?」

「俺はこれで勝つ! お前の操り人形になるなんて、願い下げだ!」

 

 真っ向からそう言い放ち、俺はフィールドに並ぶモンスターの姿を見る。

 スターダストの姿を頼もしく感じながら、俺はこのデュエルにエンドマークをつけるべく、あの最強クラスのドラゴンを呼び出そうと、勢い込んで口を開いた。

 

「レベル1チューニング・サポーターに、レベル1グローアップ・バルブをチューニング!」

「なに、レベル2のシンクロモンスター! そんなカードが……!?」

 

 わずかレベル2のモンスター。しかし、その秘める力は大きな可能性を内包した絶大なもの。

 そのモンスターこそが、俺を勝利に導く。

 

「――集いし願いが、新たな速度の地平へ誘う。光差す道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》!」

 

 グローアップ・バルブとチューニング・サポーター。

 2体のモンスターがそれぞれ光輪と星となって爆発的な光を放つ。

 そして、その中から現れるのはF1カーそのものといった姿をしたモンスター。強く鋭い目を持ち、車体から生えた腕を力強く振るうと、そのタイヤが激しく回転して、火花を散らした。

 

《フォーミュラ・シンクロン》 ATK/200 DEF/1500

 

「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー! 更にフォーミュラ・シンクロンはシンクロ召喚に成功した時、カードを1枚ドローできる! ドロー!」

 

 さぁ、準備は整った。

 スターダスト・ドラゴンが持つ可能性、その更なる先にある姿。その力で、俺はこのデュエルを制する!

 

「これで終わりだ、斎王! レベル8シンクロモンスター《スターダスト・ドラゴン》に、レベル2シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!」

 

 力を込めて、俺は2体のモンスターに指示を出す。

 それによって、スターダストとフォーミュラ・シンクロンは光を纏い、空へと向かって上昇していく。螺旋を描き、徐々に互いの距離を縮めつつ天へと向かう様は、さながら空に昇っていく箒星のようであった。

 そしていよいよ2体はその身を急接近させ、光と光がぶつかり、一体となる。

 

 その瞬間。

 

 2体はまるで磁石の反発のようにその身を互いに弾き飛ばした。

 そして纏っていた光も霧散。

 その時に浮力すらも失ったのか、徐々に地上へとその身を落下させ始めた。

 

「なッ……!? スターダスト! フォーミュラ・シンクロン!?」

 

 驚愕の声と共に2体の名前を呼べば、彼らは俺のフィールド上にてどうにか滞空して踏みとどまる。しかし、その動きは目に見えるほどに堅かった。

 そのうえ、やはり互いに触れようとすると弾いてしまう。通常では起こりえない異常な事態である。

 ……だが、俺はそんな2体の姿を見てふと思い出すことがあった。

 そう、俺が初めて遊戯さんと行ったデュエル。そこで1度だけ召喚した、あのドラゴン。

 あの時、あのモンスターは召喚後のわずか1ターンですらフィールドに存在できず消滅してしまった。それと同じことが、起こっているとしたら? あの時一瞬とはいえ召喚できたことこそが奇跡であり、本来は今の状態こそが正しいのだとしたら?

 

 ――それが指し示す答えは、一つしかない。

 

「アクセルシンクロが……出来ない?」

 

 それはつまり、そういうことなのだと、認めざるを得ないのではないだろうか。

 愕然とする俺だが、それ以上に俺は驚く光景を見ることになる。

 なんと、ソリッドビジョンでしかないはずのスターダストとフォーミュラ・シンクロンが俺の出した指示に応えようと、共に再び空に飛び上がろうとしていたのだ。

 原因は分からないが、少なくとも今はアクセルシンクロが出来ない。だというのに、この2体は俺に精一杯応えてくれようとしているのだ。

 その姿に、俺は思わず胸が熱くなる。アクセルシンクロが出来ないのは、彼らのせいではない。それに、デュエルディスクにはその情報もしっかり存在しているはずなのだ。

 だというのに成功しないのは、恐らくは俺のせい。何が原因かまでは定かではないが、きっとそれで間違いはないだろう。

 それなのに、2体はそんな俺のために頑張ってくれているのだ。その姿に、何も感じないわけがなかった。

 

 ……だがしかし、2体のその行動が実ることはなかった。

 その強引なシンクロにより、俺のデュエルディスクはバチッと強い静電気のような衝撃を放ち始めたのだ。

 そして、俺がマズいと思った次の瞬間。フリーズを起こしたかのように突然俺のデュエルディスクの電源は落ち、スターダストとフォーミュラ・シンクロンの姿も、まるで幻のように消えて行ってしまった。

 

「な、なにッ!? ――スターダスト! フォーミュラ・シンクロン!」

 

 既に姿がない2体だが、それでも俺は気づけばその名前を呼んでいた。

 しかし、当然ながら答えが返ってくることはない。

 俺は消えてしまったスターダストとフォーミュラ・シンクロンに心の中で謝る。俺の何かがこうさせてしまったのは、間違いない。不甲斐なさが胸の中に溢れていた。

 

「……いったい何が……これは、デュエルディスクの故障、か?」

 

 だがしかし、斎王にはそんなことはわからないだろう。

 それゆえ、あちらはデュエルディスクの故障が原因だと考えたようだった。

 そして、その言葉に俺は何も返さない。そんな俺に対して、斎王はやれやれと首を振ると、デュエルディスクの電源を切る。

 それによって、斎王の場に存在していたTHE WORLDとレベル・スティーラーもまたゆっくりとその姿を周囲に溶け込ませて消えて行った。

 

「……どうやら、残念なことにこれ以上のデュエルは出来ないようですね。名残惜しいですが、今日はここまでということにしておきましょう」

「お、おい!」

 

 くるりと踵を返した斎王に、俺は思わず声をかけていた。

 それに、斎王は顔だけを振り向かせて答える。

 

「ああ、そうです。このデュエルは実質ドローですので、あなたに頼まれていたことは請け負えません。どうかご了承を……それでは、またの機会に」

 

 もうこれ以上言うことはない、ということなのか。

 斎王は最後にうっすらと見せた笑みだけを残して、夜の空の下光の結社のものと化しているブルー寮へと戻っていく。

 俺はそれを黙って見送ることしかできなかった。

 

『……遠也、スターダスト・ドラゴンとフォーミュラ・シンクロンのカードは?』

「……大丈夫だ。どこにも破損はない」

 

 デュエルディスクに走った紫電。それを見てすぐさまカードを抜き取っていた俺は、マナに2枚のカードを見せる。

 

 《スターダスト・ドラゴン》と《フォーミュラ・シンクロン》。

 

 ――そして、召喚できなかったカード……《シューティング・スター・ドラゴン》。

 

 カードそのものは、普通に見える。だが、どうして……?

 俺が不思議に思っていると、マナが『あ!』と声を上げた。

 

『遠也! 《シューティング・スター・ドラゴン》のカードが……!』

「ッ、な、これは……!?」

 

 カードに描かれていた絵から、徐々に色が抜けていく。

 白黒……いや、全体が灰色に染まっていき、絵柄部分は完全に灰色に染まってしまった。うっすらとそのドラゴンの全体像こそ見えるものの、もはやその姿は見る影もない。

 

 ――まさか。

 

 俺はある可能性に気付くと、急いでデッキケースからカードを取り出す。取り出したのは、俺が持つ最大の切り札。

 

「こっちもか……!」

 

 そして、そちらのカードもまた絵柄部分だけが見えなくなってしまっていた。他のカードは普通に見えている。だが、この2枚だけに異変が起こっていた。

 

『遠也、いったい……』

「………………」

 

 マナの問いに、俺は答えられない。

 思い当たる答えはある。だが、それを認めたくはなかったのだ。

 

 今のデュエルの直後にこうなったということはつまり。

 

 ――俺には自分たちを扱う資格はない、そう言いたいのではないのか。

 

 今のデュエルを見て、カードたちが俺に失望したのではないか。そんなことを考えてしまう。

 無論、それは俺が勝手に抱いたものでしかないし、あくまでも俺の主観だ。カードが実際にそう言ったわけじゃない。

 だが、デュエルディスクにも、スターダストにも、フォーミュラ・シンクロンにも落ち度はなかった。それがわかるからこそ、原因は俺にあったのだと考えてしまう。そしてそれが正しいと思えるから、自虐的な考えも浮かんでしまう。

 正確なことはわからない。しかし、一つハッキリしていることがある。

 俺に足りないものは何だったのか。その答えを出さなければ、きっとこのカードは応えてくれないということ。わけもわからず、しかしそんな確信だけが俺の心の中に渦巻いていた。

 

「……帰るか、マナ」

『う、うん』

 

 俺はここで悩んでいても仕方がないと自分に言い聞かせ、マナに声をかける。

 しかし、その声は自分でも若干沈んでいるのがわかる程だった。

 マナもそれを察したのか、歯切れの悪い返事が返ってくる。

 夜、月明かりに照らされた剥き出しの土の道。

 その上を、俺とマナはゆっくりと歩いてレッド寮へと向かう。

 万丈目と明日香は助けられず、俺もまた斎王に勝つことができなかった。

 だが、斎王の手にかからなかったこと自体は喜ばしいことのはずだ。なのに、全く喜びを感じることが出来ない。

 色を失ってしまった2枚のカードのことを、俺は脳裏に描く。

 

 ――何も上手くいかなかった。

 

 それは人間である以上そういう時もあるだろう。その理屈は理解できる。

 だが、このデュエルには万丈目と明日香のこともあったのだ。出来るなら、こういう時こそ上手くいってほしかった。

 そんな複雑な気持ちを抱えたまま、俺はゆっくりと帰り道を辿っていくのだった。

 

 

 

 

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