遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第8話 廃寮

 

 夜も更けたレッド寮の食堂。

 

 決して広いとは言えず、少々汚れも目立つ薄暗いその室内に、一つの光源がゆらりと微風によって揺れ動く。

 食堂の片隅。そこに置かれたテーブルの一つ。その上に乗せられた一本の蝋燭。それだけが、今この時、唯一頼りになる光であった。

 そして、その光を囲むように座り、顔を突き合わせている四人の男。

 その一人が、ゆっくりと口を開く。

 

「――というわけで、その入江で欲しいカードを願い、水の中を覗きこんでしまった人は、水中に引き込まれてしまうってわけっすー!」

 

 最後のほうにはぐえぇ、と自分で首を絞めて苦しむような動作までつけるおまけつきだ。

 これは、俺が言わなければいけないだろう……。

 

「翔、その小芝居のせいで台無しだぞ」

「ってゆーか、俺はその入江に行ってみたいぜ!」

「二人とも、今回の趣旨ホントにわかってるんすか!?」

 

 翔の話に素面で突っ込む俺と、むしろ良い話を聞いたとばかりに目を輝かせる十代。

 そんな俺たちに翔が思わず憤るのも無理はなかった。

 

「まったく、アニキと遠也くんも隼人くんを見習ってほしいっす」

 

 そう言って翔が視線を自分の背後に向け、俺と十代も同じようにその視線をなぞる。

 そこには、壁に張り付いて身体を震わせている隼人の姿があった。

 そのあまりにわかりやすい姿に、俺は思わず嘆息する。

 

「あのなぁ、隼人。いくら怪談とはいえ、そんなに怖かったか今の?」

「こ、怖いんだな」

 

 震える声で言う隼人に、もはや何も言えなくなる俺。やれやれ、せっかく寮を抜け出してきたのに、この程度の怪談じゃあなぁ。期待とは裏腹な現状に、俺は少しだけがっかりしていた。

 

 ――そう、俺たちは今レッド寮の食堂で怪談をしていた。

 机の上には蝋燭と、一つのデッキ。そこからカードを引き、引いたモンスターカードのレベルに応じた怖さの話をする、という一種のゲームである。もちろん、デッキは全てモンスターカードだ。

 その話を聞き、面白そうだと思った俺はブルー寮を抜け出して参加することにしたのだが……。これなら、寝ていたほうが良かったかもしれない。

 とはいえ、今の翔の話はレベル4の話だ。もっと上級のモンスターを引けば、多少はマシになるのかもしれないが。

 

「よし、次は遠也の番だぜ」

「ん、そうか。よし……」

 

 十代に促され、俺もデッキからカードを引く。引いたカードは……《ハネクリボー LV10》か。

 

「お、俺のカードだな。しかもレベル10か……楽しみだぜ」

 

 笑う十代、じっとこちらを見る翔、そして怖いもの見たさなのか震えながら戻って来る隼人。

 とはいえ、期待されてもなぁ。怖い話なんてそうそうしないし、レパートリーなんて全くない。元の世界にあった怖い話はこっちにもあるし、有名どころはみんな知っているだろう。

 となると、知らないような話となるが……難しい。うーん、ここは一つ、元の世界の漫画に乗っていた話をちょこっと変えてするか。

 

「じゃあ、話すぞ。――それは、ある暑い夏の日のことだった」

 

 話し始めると、翔と隼人が唾を飲み込み、十代がわくわくとこちらに注目し始めた。

 

「その日、男は少し用事があって出かけていた。友人に呼び出されたためだ。男はこの暑さを和らげようとアイスコーヒーを作っていたのだが、結局それを飲むことはなく出かけてしまった」

 

 ここまでは普通の話。皆の顔にも変化はなかった。

 

「男は、10分ほどで帰ってきた。本当に大した用事でもなかったんだ。男はこの暑い中外に出たので、幾らかの汗をかいていた。そして、喉も乾いている。……水分が欲しい。そう思った男は、ふと台所のテーブルに目を向けた。そこには、さっき自分が作って置いて行ったアイスコーヒーがそのまま置かれていた」

 

 さて、オチはこの次だぜ。

 

「男が出たのは10分。まだ冷たさを残すそれに、男は飛びついた。結露したコップを掴み、手が濡れるのも構わず、その真っ黒なコーヒーを一気に口に含む。……しかし、男は唐突に動きを止めて目を見開く。口の中に違和感を感じたためだ。男はその異状にすぐさま大きく口を開き、口の中にある違和感をぺっと吐き出した。するとそこには――!」

 

 黒く光沢を放つゴキブリが――……。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 沈黙。

 一瞬の後、弾かれたように翔と隼人が椅子から転げ落ちた。

 

「ぎゃああああ! こここ、怖すぎるっす! 嫌すぎるっすー!」

「も、もうアイスコーヒーを作り置き出来ないんだなー!」

 

 身体全体で恐怖心を表す二人。鳥肌が立ったのか、両腕をさすっているあたり、かなり具体的に想像してしまったのだろう。

 そして、その二人ほどではないが、十代もまた頬をひきつらせていた。

 

「そ、それはさすがに俺も嫌だぜ。よくそんな話思いつくな」

「まぁ、考えたのは俺じゃないけどな」

 

 しかし、十代も思わず引くほどとは。恐るべしだな、あの黒い奴は。

 

「なーにをしているのかにゃ~?」

 

 その時、俺と十代の後ろから声と共ににゅっと誰かが顔をのぞかせる。

 あまりに突然のことに、俺と十代は思わず飛びのいて距離をとった。

 

「だ、大徳寺先生!?」

「せ、先生か。あー、ビックリした」

 

 十代が叫んだように、そこにいたのは大徳寺先生だった。腕に大きな飼い猫ファラオを抱き、いつもの猫のように細い目で俺たちを見つめる。

 

「消灯時間は過ぎてるにゃ。それに皆本君はブルー寮のはず。抜け出すのは感心しないにゃー」

「う……すみません」

 

 完璧に悪いのはこちらなので、素直に謝る。それを受けて、大徳寺先生は少し溜め息をつくものの強くは言ってこなかった。

 見逃してくれる、ということだろうか。ありがたいが、今度からは注意することにしよう。

 

「それで、結局何をしてたのかにゃ?」

 

 大徳寺先生の質問に、翔が自分たちが行っていたことを説明する。

 それを聞き終えた先生は、おもむろにデッキからカードを引く。引いたカードはレベル12のモンスター《F・G・D》。……おいこれ誰のカードだ。結構なレアカードのはずだろコレ。

 そして、レベル12の話をし始める大徳寺先生。

 先生によると、この学校には廃寮となった元特待生寮というものが存在するらしい。そこでは過去何度も生徒が行方不明になっているとか……。

 いや、学校それ公表しろよ。なんで世間に流れてないんだよ、ホントだとしたら。海馬さん知ってんのかな、これ。

 ともあれ、そんなふうに俺たちを脅かした大徳寺先生は、早く寝るように、と言い残して去っていった。

 しかし大徳寺先生。それはちょっと、十代の好奇心を舐めすぎだぜ。

 

「よっし! その廃寮に探検しに行こうぜ!」

 

 勢い込んで立ち上がり、俺たちに提案する十代。

 やっぱりこうなったか。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、廃寮に出向くことになった俺、十代、翔、隼人の四人。島のはずれにあるというそこに向かうため、薄暗い森の中を懐中電灯を頼りに進んでいく。

 そういえば思い出したけど、これって若本が出てくる時の話だよな。確か、タイタンだったっけ名前。声のインパクトもあって何とか覚えてるぞ。

 あれ? そういえばタイタンって最後……。

 

「お、着いたぜ!」

 

 俺が過去を思い出している間に、いつの間にやら目的地に着いていたらしい。

 木々に隠れるように見えてくる古ぼけたレンガ造りの門。その奥に目を向ければ、洋風の館が生えすぎた雑草に囲まれてそびえていた。

 壁ははがれ、窓は割れ、とにかくひどい見た目だ。廃寮、というのは確からしい。こんなボロボロの建物、人が住んでいるはずもない。早く撤去しろよ、と思ってしまう俺はきっと間違っていないと思う。

 

「うわー……いかにもだね」

「ああ、面白そうなんだな」

 

 びくつく翔と、どこか楽しそうな隼人。隼人は怖がりのくせにホラーが好きらしい。難儀な嗜好を持ってるな。

 

「ワクワクするなぁ。早速入ってみようぜ!」

 

 十代がそう促し、俺たちは「立ち入り禁止」と書かれた札が付けられた鎖を乗り越えようとする。

 と、その時。

 

「そこにいるのは誰!?」

 

 突如響く誰何の声。明らかに若い女性のものだが、突然のことに俺たちは一瞬身を強張らせた。

 しかし、十代はすぐさま反応し、懐中電灯を声がしたほうに向ける。

 

「誰だ!?」

 

 その声に反応するかのように、草むらがガサガサと音を鳴らす。そして、次第にその奥から人の姿が見え始め、十代の懐中電灯によってその姿がはっきりと俺たちの目に映しだされた。

 そして、俺たちは全員ほっと息をつく。なぜなら、そこにいたのは知っている人物だったからだ。

 

「あなたたち……どうしてここに?」

「それはこっちの台詞だぜ、明日香」

 

 驚きに目を丸くしている明日香に、俺は大きく息を吐きながら言葉を返した。

 知り合いでよかった、というのが正直な気持ち。暗い夜の森で、いきなり女性に大声で声をかけられたら、普通は飛び上がるほど驚いても仕方ないんじゃないだろうか。

 その明日香は、しかし俺の質問には答えなかった。

 

「ここは危険よ! この廃寮で過去に何人も生徒が行方不明になっているのを知らないの?」

 

 あくまで善意からだろう。明日香はそう俺たちに忠告するが。

 

「へへ、そんな迷信、信じないね」

 

 十代はその忠告を一笑に付した。ま、普通は信じないよな。もし本当なら、学校側が既に対処していると考えるのが普通だし。十代がそう考えているかはわからないが。

 しかし、十代のそんな態度は明日香の不興を買ったらしく、明日香はかなりきつい口調で俺たちに再度注意を促す。

 どうにも、妙に興奮していていつもの明日香じゃない。そのことを俺が思うのと同時に、十代が明日香に「どうしたんだよ、今日はなんか変だぜ」と問いかけていた。

 それに対する明日香の答えは、意外にも結構シリアスであった。

 なんと、明日香のお兄さんがここで行方不明になったのだそうだ。身内が消息を絶った場所。神経質になるのも無理はない。

 しかし、確か明日香のお兄さんって一年生の最後のほうで敵として出てきていたような気がするんだが。ここで敵にさらわれたのだろうか。一年生は確か……幻魔と理事長が黒幕だったような……。

 

『ねぇ、遠也。もう明日香さん行っちゃったよ?』

 

 マナの言葉に、はっと意識を戻すと、本当に明日香がいなくなっていた。俺が記憶をたどっている間に、行ってしまったらしい。

 

「ま、いいや。行ってみようぜ」

 

 軽くそう言う十代は、明日香の言葉を聞いてもこの探検をやめるつもりはないらしい。

 さっさと廃寮に入っていく十代を追って、俺と隼人、翔の三人は薄気味悪い館に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――で、どうしてこうなった。

 

「待っていたぞぉ、遊城十代ぃ……」

「何者だ! 明日香と遠也を離しやがれ!」

 

 うん、こういうこと。捕まっちゃったんだ、すまない。

 

 ――あの後、探索をしていると明日香の兄と思しき人物の写真を見つけた俺たち。それから少し経った後、廃寮中に明日香の悲鳴が響き渡った。

 慌てて声が聞こえてきた方向へと向かった俺たちは、随分とボロボロになったホールで明日香のカードを発見する。

 そう、そこにはエトワール・サイバーを始めとする明日香のデッキが散らばっていたのだ。そして、それらを十代たちが拾う間に、俺は先行して様子を見てくることになった。

 ダッシュで明日香がいると思われる岩壁に囲まれた部屋、というか洞穴? に入った途端……隠れていたタイタンにとっ捕まって今に至る。

 たぶん、入ってきたのが十代ではなく俺だったからだろうな。おぼろげな記憶によれば、コイツ、確か十代を狙ってたはずだし。

 ちなみに棺桶が用意してあったらしいが、既に意識のない明日香がそこに入っているため、俺は手足を縛られてその下に転がされている。扱いの差がひどくないだろうか。

 

『もう……でも、どうしたの? 助けなくてもいいなんて』

「いや、ちょっと思い出したことがあってさ」

 

 小声でマナと会話しつつ、俺たちの解放を賭けたデュエルをすることになった十代たちのほうを見る。正確には、その相手となる俺たちを捕まえた張本人――自称闇のデュエリスト・タイタンを、だが。

 俺が思い出したのは、このタイタンがやはり若本の声だったということと、服装が妖怪人間ベムに酷似していること、そしてセブンスターズという一年生最後の事件における敵キャラの一人だったということだ。

 そして、セブンスターズで闇にとらわれて姿を消してから、その後が一切わからない男。結局最終話までいっても何のフォローもなく、生死不明で終わったような……気がする。記憶があやふやだけど。

 最終話を見た後にふとこいつの存在を思い出し、そういやタイタンって死んだの? と疑問に思ったことがあった気がするのだ。そういうわけで印象に残っていたため、どうにか思い出すことが出来たわけだが。

 本当に闇に飲まれて放置だったのかは覚えていないが、少なくとも闇のデュエルで敗北して、闇に飲み込まれていったのは確かだったと思う。

 

 まぁ、俺としては思い出すことが出来た、というか思い出してしまったというか……。忘れたままなら気にならなかったのだろうが、思い出してしまってはそうもいかない。

 人が一人、生死不明になるかもしれないのだ。それも、若本の声であり、囚われたとはいっても今のところ酷い目にはあっていない。

 さすがにこのままスルーするのは後味が悪すぎる、と思わざるを得なかった。せめて生きているのが確定されてくれないと、絶対に今後気にしてしまう。

 そのため、俺はマナに言ったのだ。今は助けてくれなくていいと。このデュエルが確か闇のゲームになるのは覚えているから、その時に上手くやればタイタンもセブンスターズにはならないはず。たぶん。

 そういうわけで、俺は大人しく縛られているのだった。

 

「先手は私が貰おう……ドローぉ」

 

 タイタンが先攻でデュエルが始まる。しかし、どう聞いても日曜夕方に出てくる唇の厚いサラリーマンにしか聞こえない。

 

「私はぁ……《インフェルノクインデーモン》を攻撃表示で召喚するぅ」

 

《インフェルノクインデーモン》 ATK/900 DEF/1500

 

 クイーンというだけあって、豪華な装いに身を包んだ女性型の悪魔が現れる。悪魔といっても、顔つきはガイコツに似ていてどっちかというとアンデッドっぽい。

 そして、その召喚を見た十代がタイタンのデッキを【デーモン】デッキだと予想する。まぁ、ほぼデーモン専用と言えるカードだけに、その予想は大当たりだろう。

 代償としてライフコストを要求する代わりに、高攻撃力、対象を取る効果をダイスによって無効化する能力を有するカードたち。

 いかにも闇のデュエリストを思わせるデッキだ。

 

「つまり、お前のライフは勝手に減っていくってことだぜ!」

 

 十代が笑ってそう言うと、タイタンはにやりと口元を歪ませた。

 

「甘いなぁ、遊城十代。私は手札からフィールド魔法《万魔殿パンディモニウム -悪魔の巣窟-》を発動ぉ! この効果によって、デーモンたちはライフを払わずに済む。加えて、デーモンが破壊された時に、そのモンスターよりレベルが低い「デーモン」と名のつくモンスターを手札に加えるのだぁ。……私はカードを2枚伏せ、ターンエンドぉ」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 

 黒魔術のミサよろしくな悪趣味きわまりない装いになってしまった室内に立ち、どや顔で言うタイタン。十代はデーモンのデメリットを帳消しにする効果を知って呻く。

 そしてドローによってターンを開始した十代だが、それに被せるようにタイタンが口を開く。

 

「そのスタンバイフェイズ、インフェルノクインデーモンの効果発動ぉ! デーモンと名のつくモンスターの攻撃力をぉ、エンドフェイズまで1000ポイントアップさせる!」

 

《インフェルノクインデーモン》 ATK/900→1900

 

「そんな! 攻撃力が一気に1000も!?」

 

 翔がぎょっと目を見開いて叫ぶ。デーモンは高い攻撃力も特徴の一つだ。だから不思議なことではないが、やはり1000というのは大きい。

 

「俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚!」

 

《E・HERO クレイマン》 ATK/800 DEF/2000

 

 粘土でその身体が構成された巨体のHEROが、身体を丸めて防御の体勢を取る。

 

「更にカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

 十代のスタートは堅実で、まずまずだな。クレイマンの守備力は2000ある。下級モンスターではそうそう突破されない。突破されたとしても伏せカードがあるし、たぶん大丈夫だろう。

 エンドフェイズ、クインデーモンの攻撃力が元の900に戻った。

 

「私のターン……ドローぉ!」

 

 タイタンがカードを引く。

 そしてスタンバイフェイズに入ったことで、エンドフェイズに元に戻ったクインデーモンの攻撃力が再び上昇する。

 

《インフェルノクインデーモン》 ATK/900→1900

 

「私はぁ、《ジェノサイドキングデーモン》を新たに召喚! このカードは場にデーモンというモンスターがいなければ召喚できないがぁ、私の場にはクインデーモンがいるため問題はなぁい。更に装備魔法《デーモンの斧》をジェノサイドキングデーモンに装備だぁ。これにより、キングデーモンの攻撃力が1000ポイントアップするぅ!」

 

《ジェノサイドキングデーモン》 ATK/2000→3000 DEF/1500

 

 げげ!

 

「攻撃力3000だって!?」

 

 さすがにこの攻撃力には十代も焦りを見せる。

 クレイマンの守備力を容易に超える高攻撃力だ。そのため、十代から離れた場所にいる翔と隼人も目を見開いて心配そうに十代の名前を呼んだ。

 

「食らえぃ! 我がデーモンたちの怒りを! ジェノサイドキングデーモンでクレイマンに攻撃ぃ! 《炸裂! 五臓六腑》ぅ!」

 

 タイタンが勢い込んで宣言すると、ジェノサイドキングデーモンの筋繊維剥き出しの胸部が開き、そこから内臓が夥しい数の虫に変化してクレイマンに襲いかかった。

 な、なんて受けたくない攻撃なんだ。十代には悪いが、対戦しているのが俺じゃなくて良かった……。

 そして、手に持った斧を使えよ。トンファーキックじゃねぇんだから。

 

「罠発動! 《ドレインシールド》! ジェノサイドキングデーモンの攻撃を無効にして、その攻撃力分のライフを回復するぜ!」

「ほっ……危なかったっす」

 

 十代が防御と回復を兼ねた罠カードを発動したことで、翔はほっと息を吐く。

 だけど、ドレインシールドだと、まずいぞ。

 

「ふふふ……この瞬間、ジェノサイドキングデーモンの効果を発動するぅ!」

「なに!?」

 

 タイタンがそう言葉を発した途端、タイタンの横に1から6の数字が刻まれた六つの拳大の珠が浮かぶ。

 

「サイコロの目が2か5を示した時ぃ、ジェノサイドキングデーモンを対象にした魔法、罠、効果モンスターの効果を無効にし、破壊できるのだぁ」

 

 そう、これがチェスデーモンに共通する効果だ。

 自身を対象にする効果が発動した時、サイコロの目によって不確定ながらその効果を無効に出来る、という厄介な効果。

 ドレインシールドは対象を取る効果だから、こうしてその効果が適用される。

 当たる確率は3分の1。逆を言えば、当たらない確率は3分の2だ。確率的には十代が有利だが……。

 六つの珠に炎が灯り、回転していく。そしてその炎が止まった場所は……。

 

「2だぁ。よってドレインシールドの効果を無効にし、破壊するぅ!」

「ぐぁっ!」

 

 ドレインシールドの恩恵がなくなり、虫の大群がクレイマンに殺到する。そしてその虫が一斉に爆発を起こし、クレイマンは為す術なく破壊された。

 

「っく……けどこの瞬間、もう1枚の罠カードを発動するぜ! 《ヒーローシグナル》! こいつは俺のデッキからレベル4以下のHERO1体を特殊召喚させる!」

「ほおぅ……」

 

 タイタンも、場をがら空きにはしない十代の用意の良さに感心している。さすがは十代だ。初手の引きの良さもかなりのものである。

 そして、十代がちらりと俺を見た。ん、なに?

 

「遠也。お前からもらったこのカード、早速使わせてもらうぜ!」

「俺からもらった……って、あのカードか!?」

 

 俺のデッキには合わないが、お気に入りのカードとして持っていたカードたち。その中に数枚混ざっていたHEROのうち、2枚を十代にあげたのはつい最近のことだ。

 まさか、そいつを使うというのか。俺があげたからだが、変なところでコラボレーションが起こったもんだ。

 

「いくぜ! 俺はデッキから《E・HERO エアーマン》を特殊召喚!」

 

 青い体躯に青いバイザー。白い機械仕掛けの翼には、両翼ともにファンのような回転する羽がついている。

 漫画版GXで初登場し、その後OCG化して猛威を奮った唯一の制限HERO。そのあまりの活躍っぷりに“空気を読まない男”とまで言われたトンデモHEROである。

 

《E・HERO エアーマン》 ATK/1800 DEF/300

 

 ちなみに俺のお気に入りカードの中に入っていたHEROは、エアーマン、ネオス、ジ・アース、アブソの4枚だった。こいつらはデッキに使うためのカードではなく、好きだから手に入れたカードたちだ。

 しかし、使わないとはいっても、まさかネオスを渡すわけにはいかないし、ジ・アースは単体で渡しても意味がない。そのため、エアーマンとアブソを渡したというわけだ。

 ちなみに、俺も十代から1枚カードをもらっている。十代は同じように2枚を渡そうとしたんだが……欲しいカードがなかったのだ。なので、1枚だけもらった。もっとも十代は貰ったカードに対して価値が釣り合っていないと言って、不満げだったが。

 まぁ、いずれにせよデッキに入れることは俺のポリシー的にないだろうからな。どれを選んでも変わりはなかったと思うが、それでも俺なりに欲しいカードを選んだつもりだ。そのカードはもちろん大切に保管している。

 

「こいつは遠也との友情の証だ! エアーマンの効果発動!」

 

 なんか十代が恥ずかしいことを言っている。マナ、にやけてこっちを見るんじゃない。

 

「このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分のデッキからHEROと名のついたモンスター1体を手札に加える! 俺は《E・HERO バブルマン》を手札に加える!」

「それがどうしたぁ。私はインフェルノクインデーモンでエアーマンに攻撃ぃ!」

 

 クインデーモンの攻撃力は1900。1800のエアーマンでは敵わない。

 エアーマンは両腕をクロスさせてガードするものの、耐えきれずに破壊された。

 

「くっ……エアーマン!」

 

十代 LP:4000→3900

 

 だが、削られたライフポイントはたったの100だ。掠り傷と言ってもいいレベル。大きな影響はないだろう。

 しかし、タイタンは不気味に笑うと懐から金色に輝く四角錐を取り出した。

 って、おい……う、ウソだろ!?

 

『そ、そんな……!?』

 

 俺たちは驚愕もあらわにその四角錐から視線を外すことが出来ない。その手にあるものが、あまりにも衝撃的すぎて。

 そう、それはどこからどう見ても千年パズ……ル?

 ……あれ?

 

「……なぁ、マナ。あれよく見たら継ぎ目なくね?」

『そういえば……。それに、どことなくデザインも違う……』

 

 二人で目を凝らして確認する。その後マナがタイタンの近くまで飛び、詳細を確認。その結果、マナは手をクロスさせて×の字を作る。

 な、なんだ、偽物かよ。

 

「……肝が冷えたぞ、おい」

『ホントだよ……あれは、エジプトの大地にファラオと一緒に消えていったんだから……』

 

 マナが少しだけ表情を陰らせて言う。

 ある意味ではマナの本当のマスターともいえる、闇遊戯。己の名を取り戻し、この現代から去っていった古代エジプトの王、アテム。その還っていった時のことを思い出しているのかもしれなかった。

 その間に、タイタンはその偽千年パズルと巧みな話術によって、十代たちに催眠術をかけていた。タイタンは高笑いして闇のデュエルだと言っているが、意識して見れば催眠術以外の何物でもなかった。

 だって、煙が出ている以外何も変わってないのに、息苦しいとか十代の身体が消えている、とか騒いでるんだぜ。催眠術以外の何だというのだろう。

 翔と隼人は消えていっているらしい十代に慄いているが、十代は少し動揺を見せたものの、すぐにデュエルに集中する。

 やるな。最強のレッドはうろたえない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 タイタンは攻撃後は催眠術以外何もせずターンを終え、十代のターンとなった。

 

「俺は《E・HERO バブルマン》を召喚! そしてバブルマンの効果発動! 召喚に成功した時フィールド上に他のカードがない場合、デッキから2枚ドローする! ドロー!」

 

 十代の手札が6枚まで回復する。そして、十代はその中からカードを1枚手に取った。

 

「俺は《融合》を発動! 手札の《E・HERO スパークマン》と《E・HERO エッジマン》を融合! 現れろ、《E・HERO プラズマヴァイスマン》!」

 

 金色に輝く装甲を纏ったHEROがフィールドに降り立つ。

 両腕には特に大きな装甲がついており、攻撃力の高さがうかがえる。スパークマンの名残だろう、青いスーツが金色の装甲から見え、コントラスト的にも綺麗なHEROである。

 

《E・HERO プラズマヴァイスマン》 ATK/2600 DEF/2300

 

「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を1枚捨て、相手フィールドの攻撃表示モンスターを1体破壊する! ジェノサイドキングデーモンを破壊するぜ!」

「ぐおぉ!? だが、この瞬間手札の《デスルークデーモン》の効果発動ぉ! このカードを手札から墓地に送りぃ、今破壊されたジェノサイドキングデーモンを復活させるぅ!」

 

 プラズマヴァイスマンから放たれた雷が、ジェノサイドキングデーモンを一瞬で破壊するが、しかしすぐさま場に復帰する。デスルークデーモンとのコンボか。単純だが、上手くはまれば恐ろしい。

 

「ちぇ、駄目だったか。なら俺は《戦士の生還》を発動するぜ! 効果で墓地からエアーマンを手札に加える」

 

 おお、回収されたかエアーマン。まぁ、もう召喚権は使ったし、また出てくるのは次のターンかな。

 

「そしてもう1枚の《融合》を発動! 場のバブルマンと手札のエアーマンを融合し、現れろ、極寒のHERO! 《E・HERO アブソルートZero》!」

 

 白銀に煌めく身体。鋭利な突起が多いのは氷をイメージしているためだろう。白いマントをたなびかせ、颯爽とフィールドに降り立ったのは、これまた俺が渡したHERO。漫画版十代のエースの1体である。

 

《E・HERO アブソルートZero》 ATK/2500 DEF/2000

 

 エアーマン……次のターンどころか早速役に立って墓地にとんぼ返りか。さすが、HEROデッキの過労死代表。制限となっても使い回されようとしているのか。相棒のオーシャンもいないのに。

 ちなみにエアーマンを持っていた理由は、さんざんネタにされまくってて面白かったからだ。

 そして、Zeroは単純に強いうえにカッコイイからというのが持っていた理由。OCG化して名実ともに最強のHEROとなったカードだ。

 漫画版はデザインがいいHEROが多いから困る。アニメ版ではネオスも好きだけどね。

 

「いくぜ! プラズマヴァイスマンでインフェルノクインデーモンに攻撃だ!」

「そう簡単に通すわけがなぁかろう。罠発動、《ヘイト・バスター》! 攻撃モンスターと攻撃対象にされたモンスターを破壊しぃ、攻撃モンスターの攻撃力分のダメージをお前に与えるぅ!」

「なにっ!? ぐああッ!」

 

 伏せられていたカードが明らかになり、その効果によってプラズマヴァイスマンと、インフェルノクインデーモンが互いに爆発。その衝撃を十代が浴びる。

 

十代 LP:3900→1300

 

 まずいな。これでライフポイントが半分を切ってしまった。

 

「けど、まだZeroが残ってるぜ! アブソルートZeroでキングデーモンに攻撃! 《瞬間氷結-Freezing at Moment-》!」

「ぐぅおおっ!」

 

タイタン LP:4000→3500

 

 アブソルートZeroの起こした吹雪がキングデーモンを凍結させ、破壊する。

 しかし、もう一枚の伏せカードが発動しなかったな。攻撃反応型ではないってことか?

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

「そのエンドフェイズに、私は《リビングデッドの呼び声》を発動するぅ。ジェノサイドキングデーモンをぉ復活させる!」

 

《ジェノサイドキングデーモン》 ATK/2000 DEF/1500

 

 これで十代の手札はゼロ。しかし、場には攻撃力の高いモンスターが残り、伏せカードもある。だが、あちらはキングデーモンを復活させてきた。

 次のターン、タイタンがどう動くかが鍵だな。

 

「アニキ……頑張れ!」

「も、もう十代の左腕がほとんどないんだな!」

「え、右腕でしょ?」

「え?」

「え?」

 

 なにそれこわい。

 どうやらあの二人も、違和感に気がついたらしい。そして、その言葉を受けて十代も少し気にするそぶりを見せる。そして、横を飛んでいるハネクリボーを見た。

 そして何事かを話し、その後にやりと顔に笑みを浮かべさせた。

 

「私のターン、ドォロー!」

 

 そんな周囲の様子を気にせず、タイタンがデッキからカードを引く。

 そして、そのカードをそのままディスクに置いた。

 

「私はジェノサイドキングデーモンに2枚目の《デーモンの斧》を装備するぅ」

 

《ジェノサイドキングデーモン》 ATK/2000→3000

 

 まずい。これでキングデーモンの攻撃力がアブソルートZeroの攻撃力を超えてしまった。

 っていうか、デーモンの斧を二枚って、なんつー構成してやがる。が、それによって十代が追い詰められている以上、何も言えないわけだが。

 

「ジェノサイドキングデーモンでアブソルートZeroに攻撃ぃ! 《炸裂! 五臓六腑》ぅ!」

 

 キングデーモンが放った臓器の虫達がアブソルートZeroに直撃し、Zeroは氷の欠片を飛び散らせながら砕け散る。

 だから斧で攻撃しろと何度言えば、以下略。

 

十代 LP:1300→800

 

 十代のライフを更に削り、場をがら空きにしたことにタイタンは笑みを浮かべるが、十代もまたこの状況で笑っていた。

 ま、なんの対策もなくZeroを破壊するのは自殺行為だからな。知らないだろうから、無理もないけど。

 

「この瞬間、アブソルートZeroの効果が発動するぜ!」

「なにぃ?」

「E・HERO アブソルートZeroがフィールドを離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

「な、なんだとぉ!?」

 

 フィールドに飛び散っていた氷の欠片が、タイタンのフィールドのジェノサイドキングデーモンに張り付いて凍結させる。そして、徐々に氷に罅が入り、キングデーモンは砕け散ってしまった。

 数あるHEROの中でも極めて汎用性が高く、かつ強力な効果だ。フィールドを離れた時、という緩い条件でサンダー・ボルトと同じ効果を使えるというのだから、恐ろしい。

 

「す、すごい……」

「とんでもなく強力な効果なんだな……」

 

 さすがに疑似サンダー・ボルトは衝撃的だったらしい。二人ともZeroの効果には驚いているようだった。

 

「ぐぬぅ……デーモンが戦闘以外で破壊されたことでぇ、私はデッキから《インフェルノクインデーモン》を手札に加えるぅ。ターンエンドだぁ」

 

 タイタンもまさかそんな効果を持っているとは思ってもいなかっただろうな。

 そもそもこのHEROは俺しか持っていなかったんだから、たとえ事前に十代のデッキを調べていたとしても、初めて使ったこのカードはわからなかっただろう。

 そしてエンド宣言をしたタイタンは、再び懐から偽パズルを取り出して、十代の身体が消えていっているという暗示をかけている。ご丁寧に光を放ったり煙を出したりするあたり、細かい奴である。

 翔と隼人は消えていく十代に慄いている。しかし十代には何も変化はない。さきほどまで息苦しそうにしていたというのに、それもなくなっていた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見た十代はにやりと笑う。

 そして、びしっとタイタンを指さした。

 

「タイタン! 読めたぜ、あんたのやったインチキのカラクリが!」

「……ふん、なにをぉ言っているぅ?」

 

 そして始まる名探偵十代!

 タイタンの言っていることは嘘であり、消えていっている身体や息苦しさはただの勘違いの幻であること。恐らくは千年パズルから出している光とタイタンの言葉、そして煙がその原因であること。

 タイタンは闇のデュエリストではなく、恐らくはマジシャンか催眠術師のようなものであること。それらを十代が指摘していく。

 そういえば、と翔たちもはっとしたところで、タイタンが「私は正真正銘闇のデュエリストだぁ!」と主張する。

 それに対し、十代は言った。

 

「なら、千年アイテムが何個あるか答えてみろ!」

 

 俺たちは既に館の中でそれを知っている。まぁ、俺の場合はその前から知っているが。

 そしてそれを知らないタイタンは、案の定言葉に詰まった。しかし、ゆっくりと口を開く。

 

「そ、それは……な、7……」

「あ、合ってるんだな」

 

 隼人が思わず肯定した瞬間、タイタンはにやりと笑う。どう見ても当てずっぽうが当たってホッとした顔であった。

 

「ふふ……なぁなだぁ……」

 

 その言い方はやはり面白いが、十代は苦虫をかみつぶしたような顔だ。ここでタイタンが間違うと確信していたのだろう。俺も間違えると思っていたが、まさか適当に答えて当てるとは。

 やれやれ。ここは俺がフォローするとしましょうか。

 

「なら、その千年アイテムの名前もそれぞれ知ってるよな?」

「な、なにぃ?」

 

 縛り付けられて座りこんでいる俺から発せられた言葉に、タイタンがこちらを見る。

 十代も俺に視線を寄こすが、目で任せておけと告げた。頷く十代。よくわかったな今ので。

 

「さぁ、どうなんだ?」

「ぐ、ぐ……そ、それは……千年……千年……」

「あと5秒。4、3……」

「なぁ!? ま、待てぇ!」

「1、0……はい、残念でした」

「ぐ、ぐぬぅ……!」

 

 答えられず、呻くタイタン。

 ちなみに千年アイテムは、千年パズル、千年錠、千年輪、千年杖、千年眼、千年秤、千年タウクの七つである。

 っていうか、別に全部知っている必要はないのだが。王様だって最初の頃はパズル以外のアイテムのこと知らなかったけど闇のゲームしてたし。

 つまり、ここで適当に「闇のデュエリストは自身のアイテムのことしか知らないのだ」とか強引に言ってしまえば、俺たちに確認の術はないのだから、その時点で話は終わりだったのだ。

 下手に付き合いがいいのが仇になったな、タイタン!

 

「へっ、これでハッキリしたぜ! お前は闇のデュエリストなんかじゃないってことがな!」

 

 そう十代に改めて指摘されると、タイタンが表情を苦いものにして、やがて今まで以上の煙を放出し始めた。

 

「ふん……バレたからにはぁ、もう用はない……。貴様とデュエルするなど、無意味なことぉ!」

 

 言ってタイタンは偽パスルを地面に叩きつける。すると、パスルが爆発して噴煙を撒き散らす。おい、なんつー危ないもん懐に仕込んでんだ。

 

「やっぱ偽物か! 待て!」

 

 背を向け、立ち去ろうとするタイタンに向かって、十代が走り寄ろうとする。

 

 ――が、その瞬間、突然部屋の床中央部分に巨大な一つ目が現れる。

 

 それはある意味で非常に見覚えがあるものだ。かつて、漫画の中で何度も登場した印象深いマーク。

 各千年アイテムにも共通して描かれているウジャト眼。それが光を放ってそこにあった。

 そして、室内だというのに強い風が起こり始め、振動と土埃が部屋の中を覆い始める。十代とタイタンはその中心地にいるため、さらされる強風に腕で顔を隠してこらえていた。

 

『そんな……まさか本当に……?』

「ちっ、マナ!」

『遠也! これは本物の闇のデュエル……危険すぎるよ!』

 

 当初に話してあった通り、マナの協力によって乱入するつもりが、マナがここで否を唱えてきた。

 マナはデュエルモンスターズの精霊であり、遊戯さんとずっとデュエルをしてきた仲間の一人だ。闇のデュエルも、何度も経験している。だからこそ、本物の闇のデュエルがどれほど危ないものなのかも理解しているのだ。

 だからだろう。俺を止めようと言い募ってくれている。さっきまでは恐らく、本当にこうなるとは思っていなかったのだろう。千年パズルも偽物だったし。

 

「マナ、言い合ってる余裕はないんだ。今すぐ行かないと」

『でも、闇のデュエルは命のやり取りなんだよ? そんなことを……』

 

 マナはやはりしぶる。俺としても、タイタンのその後が気になるから始めたことだったが、自分の命がかかるとなれば、さすがに躊躇する。

 けど、今この瞬間。無視できない理由が出来たのだ。やっぱり、目の前で見ちゃうとダメだ。わかっていても不安になる。

 

「マナ、十代は俺の友達なんだ。なら、放っておけないだろ!」

 

 自分の前で、友達が危険にさらされようとしているんだ。いくらたぶん大丈夫だろうと思っていても、ここは物語の世界じゃない。先がどうなるかなんてわからないし、何かあってからじゃ遅いんだ。

 俺がそう言うと、マナはぐっと押し黙る。そして、一瞬の逡巡。その後、俺を縛っていた縄を解いてくれた。

 

「サンキュー、マナ!」

『もう! 私の傍から離れちゃだめだよ!』

 

 それに、勿論! と答え、マナと共にすぐさま十代の下に駆け寄る。そして風が巻き起こすその場所に足を踏み入れた途端。

 

 周囲の景色が一変した。

 

 岩壁はなくなり、床と呼べるものも存在しない。だというのに、足が地面についている感触はある不思議な感覚。

 上下四方全てを闇色で覆われた空間、と表現するしかない。そんな場所に、俺と十代、タイタンは隔離されていた。

 

「な、なんだ一体?」

「こ、これは……何が起こったのだぁ?」

 

 十代とタイタンが辺りを見回しているが、どこにも何も変化はない。

 そのうち、十代がインチキではあったがタイタンが闇のデュエリストを名乗っていたこともあり、この原因をタイタンだと判断したようだった。

 

「お前、また性懲りもなく!」

「ち、違う! 私は何もしていない!」

「ま、だろうな」

 

 そんな二人の会話に割って入る俺。よかった、何とか間に合って。

 

「貴様は……」

「遠也! いや、それよりどういうことだ?」

 

 突然の俺の登場に、二人はそれぞれ視線を俺に向ける。

 そして十代は明らかに事情知ってます的な発言をした俺に対して、質問を投げかけてきた。

 それに俺も真面目に答える。さすがにこの状況でふざけられるほど俺も馬鹿じゃない。

 

「どうもこうも、こいつは本物の闇のゲームだ。闇のデュエリストじゃないタイタンには、こんなこと出来はしないさ」

 

 俺がそう言うと、十代は少しだけ呆れたような顔をした。

 

「お前までそんなこと言うのかぁ? 闇のゲームなんてあるわけないだろ?」

「いや、あるんだよ。闇のゲームは実際にな」

 

 俺が十代の認識を改めさせようと更に言葉を続けようとしたところで、上から何かが降ってきた。

 

「ん?」

「なんだ?」

 

 見ると、悪魔のような鋭い目と牙を持ったクリボーほどの大きさの黒い軟体動物がいた。ハッキリ言って、めちゃくちゃ気持ち悪い。

 すると、次第にそれは一気に降り注いでくる。それを察したのか、十代のデッキからハネクリボーが現れて、俺たちのほうに寄って来ようとしていたソイツらをハネクリボーが追い払ってくれた。

 ほっと息を吐く俺たち。そして、タイタンのほうに顔を向ける。

 

「な、なんだ一体ぃ! く、来るなぁ!」

 

 精霊のカードなど持っていないタイタンに防ぐ術はなく、悪魔たちは次々に服に取りついていた。それを見て、俺は慌ててマナに指示を出す。

 

「やばい! 頼む、マナ!」

『うん!』

 

 俺の声を受け、マナがタイタンの元まで飛んでいき、そのコミカルな杖を構える。

 

『せーのっ!』

 

 そんな掛け声とともに杖先から光が迸る。その光はタイタンの全身を覆うように降り注ぎ、やがてその身体に群がっていた小さな悪魔たちを残さず消滅させた。

 よし、これですぐさまタイタンがどうこうはならないだろう。

 そして、それをされたタイタンはというと、物凄く驚いているようだった。

 

「ぶ、ブラック・マジシャン・ガールだとぉ!? どうなっているのだぁ!?」

 

 あれ、タイタンなんで見えてるの?

 ひょっとして闇のゲームの空間って精霊も見えるようになるんだろうか。

 まあいい。そんな考察は後回しだ。

 

「おい、タイタン! 死にたくないなら、早くこっちに来い!」

 

 俺が呼びかけると、タイタンがこっちに目を向ける。そして、俺たちの周囲には悪魔たちが寄ってきていないことに気がついたのだろう。一目散に走ってきた。

 だが、その途中にも悪魔たちは執拗にタイタンを狙う。そのたびマナが落としているが、諦める気配がない。

 どうにも、奴らはタイタンの胸から顔辺りを目指しているようだ。デッキと、顔を狙っているのか?

 なら、顔はどうにも出来ないがデッキならどうにか……。

 

「タイタン! そのコートを捨てるんだ! そいつらはカードに執着してるらしい!」

 

 俺の言葉に、タイタンはぎょっとした。

 

「なんだとぉ!? 私にぃ、デッキを捨てろというのかぁ!?」

「気持ちはわかる! だけど、それ以外にないんだ!」

 

 続けて言うと、タイタンは強く歯をかみしめて唸る。

 そして、悪魔たちを振り払うようにコートを脱ぐと、デッキが入ったコート型デュエルディスクを遠くに放り投げた。

 

「すまん!」

 

 その言葉を最後に、タイタンはコートを脱いだスーツ姿になって、こちらに走って来る。相変わらず悪魔たちはタイタンを目指していたが、幾分かはデッキのほうに流れている。

 そのことと、マナの協力もあって、どうにかタイタンは無事に俺たちの元に辿り着くことが出来た。

 

「はぁ、はぁ……一体、何が起こっているというのだぁ……」

 

 息も荒く呼吸を整えているタイタンには答えず、俺はひとまずマナをねぎらった。

 

「サンキュー、マナ」

『どういたしまして。でも、気をつけて。これからだよ』

「ああ」

 

 マナの言葉に、俺は頷く。そう、問題はこれからなのだ。

 

「なぁ、遠也。いい加減どういう状況なのか教えてくれよ。これ、本当に闇のゲームなのか?」

 

 十代が訳のわからない状況に焦れてきたのか、再び問いかけてくる。ハネクリボーが十代の隣にいるが……まぁ、ハネクリボーは言葉がしゃべれないからなぁ。話せるなら、ハネクリボーが説明しているんだろうが……。

 そして十代の横では、タイタンもまた俺のほうをじっと見ていた。何かしらの説明を求めているのは確かだ。さっきも指示をしていたのは俺だったしな。何か情報を持ってると思ったんだろう。

 時間はあまりないだろうが……簡単に説明しておこう。

 

「簡単に言うとだ。まず闇のゲームは実在する。これは精霊であるマナが証人だから、間違いないぜ」

「マナが? そうか、精霊ならそういうことも知ってる……のか?」

「さあな。けど、こいつは遊戯さんと多くのデュエルをしてきてるんだ。その中には闇のゲームもあったらしい」

「げ、マジか。じゃあ、ホントにあったってことかよ」

『そう。闇のゲームはあるんだよ。お互いの命を賭けた危険なゲーム。その中ではね、ライフポイントが0になることは、死を意味するんだよ』

「な……」

 

 さすがにはっきり死ぬと言われて、さすがの十代も言葉を失う。

 十代にしてみれば、デュエルとは楽しいもので、楽しむためにやるものだ。だからこそ十代はデュエルが好きだし、カードのことも大切にしている。

 そんなデュエルで、人が死ぬ。それは、十代にとってはかなり衝撃的な事実らしかった。

 

「まさか、実在したとはぁ……っお、おい! あれを見ろぉ!」

 

 さすがにこんな状況に陥っていては信じざるを得ないのか、頷くタイタン。しかし、すぐさまその声は焦りのものに置き換わる。

 そしてタイタンが指で示す先を俺たちは見る。そこは、さっきタイタンがデッキを投げた場所だ。

 そこで、黒いスライムのような悪魔たちがタイタンのデッキに群がっている。すると、やがてそいつらはくっついて一つになっていき、タイタンの背格好と全く同じ姿へと変貌していく。

 そしてその上からデュエルコートを羽織り、佇む。明らかにデュエルをしようとしているその姿に、タイタンは唸り声を洩らした。

 

「私のデッキをぉ……おのれぇ……」

 

 その言葉が合図だったというわけでもないだろうが、その瞬間。タイタンの姿を模した黒いスライムは手札を1枚手に取り、十代の場には伏せカードが1枚現れる。

 そう、デュエルの続きが始まったのだ。

 

「な、どういうことだ!?」

 

 いきなりソリッドビジョンが復帰したことに、十代は困惑する。しかし、ハネクリボーが十代の目の前を飛び、落ち着かせようとすると、十代は徐々に落ち着きを取り戻す。

 

「そうか……デュエルの続きってことか」

 

 十代は俯いてそう言う。

 たった今これは闇のデュエルだと知ったばかりで、この勝負に命がかかっているというのは、十代には重荷なのかもしれない。楽しいデュエル、というのを信条にデュエルをしてきた十代には。

 だから、俺は十代に声をかけていた。

 

「十代。お前がデュエルしたくないなら、俺が引き継ぐ。本当なら闇のデュエルは始まったら決着がつくまで終われないが、デュエルの続きとはいえ闇のデュエルそのものはまだ始まってない。今なら俺に代わることも出来る筈だ」

『遠也……』

 

 マナが心配そうな声を出すが、この場合は仕方ないだろう。

 このデュエルには命がかかっているのだ。それを、十代が嫌がるならやらせるわけにはいかない。

 そして、十代がやりたくないなら俺がその代わりを務める。それは俺が十代の友人だからでもあるし、この場で十代以外にデッキを持っている唯一の人間だからでもある。

 闇のデュエル自体は俺も初めてだが、話自体は聞いているし、その存在はずっと信じていた。事前知識もあることだし、十代よりは俺のほうが適任なはずだ。

 だから、いざという時は俺が代わりになる。

 俺がそう決断して十代に問うと、十代は伏せていた顔を上げた。

 その表情は、恐怖ではない。不敵という言葉がふさわしい笑みだった。

 

「……へへ、遠也。気持ちは嬉しいけど、こいつは俺のデュエルだぜ! 譲るわけにはいかないって!」

「けど、お前……こいつは本当に命を賭けるんだ。楽しいデュエルにはならないぞ」

 

 俺が改めてその事実を突き付けるが、十代は表情を変えなかった。

 

「それでも、このデュエルにはお前やタイタンの命もかかってるんだろ? だったら、俺は逃げないぜ! それに……あっちも逃がすつもりはないみたいだしな」

 

 十代が黒い人型をとったスライムに目を向ける。

 そいつは明らかに十代しか見ていない。……俺が代われるかもと思ったが、やはり闇のデュエルということだろうか。どうにも交代は許してくれなさそうな雰囲気だった。

 再び十代を見る。そこには、強い目線で俺を見る友達の姿があった。

 俺も、まだ短い期間かもしれないが十代のことは把握している。溜め息をつくと、十代の前に拳を突き出した。

 

「わかった。負けるなよ」

「おう! 当然だぜ!」

 

 十代もそれに拳を合わせ、あの偽タイタンに向き直る。

 それを見届け、俺は後ろに下がった。必然、タイタンの横に立つことになる。

 

「いいのかぁ、あれでぇ。このデュエルには、我々の命がかかっているのだろぉ」

 

 タイタンがそう問うてくるが、俺は肩をすくめて応える。

 

「仕方ないだろ、十代がやるしかないんだから。それに、心配はいらないさ」

「んん?」

「十代は強い。見ていればわかるさ」

 

 本当は心配だが、あえてそう言う。そう、十代は引きの強さはもちろんだが、単純にデュエルに強い。なら、ここは信頼して任せるのが俺の役目だ。

 いざという時には、マナにも協力してもらって何とかするさ。

 

「その時は、よろしくなマナ」

『十代くんが勝ってくれるのが一番なんだけどね』

 

 マナは苦笑して言うと、浮かんでいた身体を地面に下ろし、俺の隣に立った。どうやらそのまま観戦するつもりらしい。

 タイタン、俺、マナの三人がそれぞれ十代を後ろから見つめる。

 このデュエル、どうか勝ってくれと思いながら。

 

「デュエルは俺のメインフェイズからだぜ! 俺は《ホープ・オブ・フィフス》を発動! 墓地の「E・HERO」5体をデッキに加え、その後2枚ドローする! 俺はアブソルートZero、プラズマ・ヴァイスマン、エッジマン、スパークマン、バブルマンをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 ちなみにこのカード、十代は持っていたらしいが何故かデッキに入れていなかったカードである。しかし、俺の進言によりデッキに投入されたカードだ。

 というのも、かつては死者蘇生などでの特殊召喚にも対応していた融合HEROが、シンクロ召喚の登場に合わせて段階的に行われることになったエラッタによって融合でしか特殊召喚できない、と変更されたのが投入を勧めた大きな理由だ。

 それによって一度使った融合HEROを蘇生あるいは融合デッキに戻すなどして再利用するには、これまでとは別の方法を使うしかなくなった。その方法の一つとして、俺が十代の持っていたカードの中からこのカードを勧めたのだ。

 戻した上にドローできるこのカードは十代には相性がいい。それに、そもそもE・HERO専用カードだし。

 しかし、十代は何で入れていなかったんだろう。ミラクル・フュージョンと相性が悪いからだろうか。それとも、これよりも入れたいカードがあったのかもしれない。

 まぁ、それについては今はいい。しかし、この局面でドロー補強カードを引くとは、やっぱり凄いな十代は。

 

「俺はバブルマンを召喚! 俺の場に他のカードが存在しないため、バブルマンの効果で2枚ドロー!」

 

 おいおい、戻したカードを今引いたのか? 凄いな、さすが十代。そして、さすが強欲なバブルマン。ここにきて、十代の手札が潤っていく。

 

「よし、俺は《融合回収フュージョン・リカバリー》を発動! 墓地の融合とエアーマンを手札に加え、そのままフィールドのバブルマンと融合! 再び現れろ、E・HERO アブソルートZero!」

 

 バブルマンとエアーマンが飛び立ち、徐々に一つの姿へとその姿を変えていく。

 それはやがて氷の粒子を伴ってアブソルートZeroの形をとる。白銀に輝く極寒のHEROが再度十代のフィールドに降り立った。

 

《E・HERO アブソルートZero》 ATK/2500 DEF/2000

 

「いくぜ! アブソルートZeroで直接攻撃! 《瞬間氷結-Freezing at moment-》!」

「………………」

 

偽タイタン LP:3500→1000

 

「俺はこれでターンエンドだ!」

 

 ライフポイントが大きく削られるが、偽タイタンに反応はない。それが一層不気味だが、デュエルをする気はあるようで、自分のターンになった瞬間、デッキからカードをドローした。

 そして偽タイタンは手札から、インフェルノクインデーモンを召喚する。アブソルートZeroに敵わないのはわかっているのだろう。守備表示だった。

 

《インフェルノクインデーモン》 ATK/900 DEF/1200

 

 そして更にカードを1枚伏せたところで、ターンを終了したようだ。言葉を発さないから、俺たちにはわからない。だが、デュエルディスクにはしっかりターンの移行などが表示されているらしく、十代は問題なくデュエルを行える。

 

「ドロー! 俺は《強欲な壺》を発動するぜ! 2枚ドロー!」

 

 ここで更にドローか。さっきからどれだけドローしてるんだ、いったい。

 そして、十代はすぐに次の行動に移らず逡巡を見せる。恐らく、偽タイタンの場に伏せてあるカードが気になっているのだろう。ドローしたカードの中に、除去カードがなかったようだ。

 悩んだ十代は、手札から3枚のカードを手に取った。

 

「俺はカードを2枚伏せ、《E・HERO フェザーマン》を守備表示で召喚。更に伏せていた永続魔法《悪夢の蜃気楼》を発動するぜ! ターンエンドだ!」

 

《E・HERO フェザーマン》 ATK/1000 DEF/1000

 

 攻撃はしない、か。ここは慎重になってもすぎるということはない。その選択も、悪くはない。

 しかも伏せてたのは悪夢の蜃気楼かよ。となれば、もう一枚の伏せカードも予想できるな。

 

「………………」

 

 偽タイタンがカードを引く。

 そしてその瞬間、十代が声を上げた。

 

「ちょっと待った! そのスタンバイフェイズに悪夢の蜃気楼の効果で俺は4枚ドローするぜ! 更にもう1枚の伏せカードは、速攻魔法《非常食》だ! 悪夢の蜃気楼を墓地に送り、ライフを1000回復する!」

 

十代 LP:800→1800

 

 きたな、凶悪コンボ。このコンボが発覚してから、速攻で制限、禁止となった永続魔法だ。ドローには緩いこの世界では、まだ現役なのか。

 おそらく、十代はこのカードを伏せていたからあえて無理に攻撃しなかったのだろう。確かに、ここで除去カードを引ければ、それが最善だ。本当に引けるかは別にして。

 しかし、それを受けても偽タイタンには何の変化もない。そして偽タイタンは手札から《強欲な壺》を発動して2枚のドロー。その後、インフェルノクインデーモンを生贄に捧げ、《迅雷の魔王-スカル・デーモン》を召喚した。

 

《迅雷の魔王-スカル・デーモン》 ATK/2500 DEF/1200

 

 そして、そのままターンを終了する。

 手札にいいカードが来なかったのだろうか。あるいは単純に人間のようなタクティクスを行うだけの脳みそがないのか……。

 いずれにせよ、そのほうが十代にとって有利であることは間違いない。そうであるとするなら、十代の勝機が広がるのだから願ったり叶ったりだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そしてカードを引いた瞬間、十代は笑みを浮かべた。

 

「いくぜ! 俺はまず速攻魔法、《サイクロン》を発動! その伏せカードを破壊する!」

 

 お、きたのか除去カードが。

 サイクロンによって伏せられていたカードが明らかになり、次いで墓地に送られる。伏せていたのはミラフォか。危ないもん伏せてるな。攻撃していなくて良かった。

 

「更に《死者転生》を発動! 手札を1枚墓地に送り、俺は墓地のバブルマンを手札に加え、そのまま召喚する!」

 

《E・HERO バブルマン》 ATK/800 DEF/1200

 

「そしてアブソルートZeroの効果発動! 自分フィールド上に存在する自分以外の水属性モンスターの数×500ポイントこのカードの攻撃力はアップする!」

 

《E・HERO アブソルートZero》 ATK/2500→3000

 

 バブルマンの発する水がアブソルートZeroに降りかかり、それはアブソルートZeroの氷の身体を更に鋭利なものへと変化させていく。

 そして十代は勢いよく宣言した。

 

「バトル! アブソルートZeroでスカル・デーモンに攻撃! 《瞬間氷結-Freezing at moment-》!」

 

 Zeroの絶対零度の攻撃によって、デーモンの召喚は一瞬で凍りついて砕け散る。

 そしてその差分のライフが偽タイタンから引かれた。

 

偽タイタン LP:1000→500

 

「これで最後だ! バブルマンで直接攻撃! 《バブル・シュート》!」

 

 バブルマンが腕に着いた銃を構え、そこから放たれた泡を含んだ水流が偽タイタンに直撃する。

 そして、その攻撃で偽タイタンはライフポイントがゼロになり、このデュエルは十代の勝利で決着となった。

 

「………………」

 

偽タイタン LP:500→0

 

 ライフがゼロになったのだが、偽タイタンに動きはない。ただ流動する黒い身体をタイタンの形のまま保っているだけだ。

 俺たちはその様子を勝利に喜ぶことなく、注意して見ていたが……変化がない。

 どういうことだ? 闇のデュエルで十代が勝った以上、あちらは何か罰ゲームというか、ペナルティを受けるはず。いくらなんでも、何も起こらないのはおかしい。

 俺がそう考えていた、その瞬間。

 突然偽タイタンの身体がはじけ飛び、黒い細かな弾丸となって周囲に散らばる。さながら散弾銃のようなそれは、こちらにまで飛んで来ていた。

 

「マナ!」

『うん!』

 

 俺が呼びかけ、しかしそれよりも早く行動に移していたマナは、その魔力で俺たちを包むバリアーを張る。飛んできた黒い欠片は、その全てが障壁に阻まれて俺たちには届かなかった。

 そうして、残ったのはタイタンのコート型デュエルディスクとデッキだけ。

 さっきまで十代とデュエルをしていた黒い異形の姿は既にどこにも存在していなかった。

 

「……ぬぅ、終わった……のかぁ?」

 

 タイタンが警戒したまま声に出す。

 俺はマナに確認をとるが、マナはもう先程までのような力は感じられなくなったと言う。ということはつまり、終わったということでいいのだろう。

 それを悟り、俺もようやく肩から力を抜いた。

 

「……みたいだな。サンキュー、十代。いいデュエルだったぜ」

「へへ、まあな。でも、遠也がいてくれて助かったぜ」

 

 俺たちはハイタッチを交わし、互いに笑みを浮かべる。

 闇のデュエルを乗り切れて、本当に良かった。十代もタイタンも無事なんだ。誰かが怪我を負うこともなかったのだから、上出来だろう。

 

『クリ~』

 

 その時、不意にハネクリボーが俺たちの後ろを指さした。

 俺たちがその示された先を見ると、そこには光があった。闇色の空間に走った一筋の亀裂、そこから差し込む外の光だ。

 人間一人が通れるほどの大きさのそれは、よくよく見ればさっきまでいた洞窟のような室内を映し出している。

 つまり、あれは出口ということだろう。俺と同じ結論に至ったのか、十代とタイタンもホッとした顔をしていた。

 

「さっさと帰るに限るな。こんなとこ、もう二度と来たくないね」

「だな。行こうぜ!」

 

 俺と十代が走り出し、タイタンは残されていたコートとデッキを素早く回収すると、俺たちの後をついてくる。

 ここから亀裂までの距離はそう遠くない。俺たちはすぐにその亀裂の元までたどり着き、それぞれ順番に勢いよく飛びこんでいった。

 

「おっ?」

「うぇ?」

「ぬあっ」

『あー……』

 

 上から順に、俺、十代、タイタン、マナである。

 説明をするとするならば、出てきたところが空中であったため、となるだろうか。

 まさかいきなり空中に放り出されるとは思っていなかった俺たちは揃って変な声を出し、そんな俺たちを見たマナはこの後に起こる事態を想定して、あんな声を出したのだろう。

 そしてその想定に沿うように、俺たちは重力の働くまま地面に落下した。

 

「いってぇ!」

「おっと」

「ぐぬあぁっ!」

 

 背中から落ちた俺。上手く体勢を整えて立った十代。頭からいったタイタン。

 大した高さじゃなかったから良かったものの、これがもう少し高かったら危なかったかもしれない。

 特にタイタンが。頭からいくとか、死因が変わるだけになるところだった。原作で死んだかどうかは知らないけど。

 俺は自分たちが今までいたソレを見る。外から見たら、闇色なのは同じだが球形になっていたのか。こんな気味の悪いところ、出来ればもう来たくないものだ。

 

「アニキ! 遠也くん!」

「二人とも、大丈夫なんだな!」

 

 そして、出てきた俺たちを見つけた翔と隼人がこちらに走り寄って来る。

 それに俺たちが手を上げて応えたところで、全員があることに気がついた。

 というのも、この闇色の球体。いきなりバチバチと紫電を纏って危なげな雰囲気を醸し始めたのだ。

 今にも爆発でもしそうなソイツに対し、俺たちの行動は早かった。

 隼人が「伏せるんだな!」の言葉と共に翔をひっつかんで床に伏せ、十代も同じく地面に伏せ、俺も伏せると同時に片膝をついていたタイタンを無理やり下に押しつけてやり過ごしを図る。

 そして、次の瞬間。

 球体は凄い勢いで収縮を始め、それに併せてダイソンもびっくりな吸引力を発揮して俺たちを吸いこもうとしてきたのだ。

 爆発ではなかったが、床に伏せていたのが幸いした。あらかじめ備えていたため、どうにか耐えることが出来たのだ。

 途中、明日香の入った棺桶が動くというヒヤリとした場面もあったが、そこは一番近くにいた十代がしっかり押さえてくれた。

 その後、球体は点のような小ささになるまで収縮した後に消滅する。そして、その場には静寂だけが残されることになった。

 俺たちは脅威がなくなったことを注意深く確認する。そして何もないと確信したところで、ゆっくりと立ち上がって合流を果たした。

 そして、翔と隼人は俺たちと共にいるタイタンを見て、叫び声を上げるのだった。

 

「あー! インチキ闇のデュエリスト!」

「なんで、お前も一緒にいるんだな!?」

「ぬぅ……」

 

 二人の当然の指摘に、タイタンは唸るしかなかった。

 中で何があったかを知らない二人には、いきなり十代と一緒にいるタイタンは不思議でしょうがないだろう。

 それでなくとも、さっきまで散々脅しをかけてきた相手なのだ。印象も当然良くない二人は、タイタンを警戒して睨みつける。

 しかし、そんな二人に対して十代の態度はあっけらかんとしたものだった。

 

「いいじゃねーか、別に。このおっちゃん、そう悪い奴でもないと思うぜ」

「ええ!? 何言ってるの、アニキ!?」

「どうしちゃったんだな、十代!?」

 

 さっきまで敵意むき出しで相対していた十代のまさかの発言に、翔と隼人は動揺を隠せないようだった。

 まぁ、いきなり明日香と俺を拘束した揚句、どう見ても悪役なことばかりしているのだ。っていうか、拘束は普通に犯罪です。

 二人には、十代がそう言う根拠が全く分からなかったのだろう。

 しかし、十代はそんな二人から目線をタイタンに移して、問いかける。

 

「明日香に危害は加えてないんだろ?」

「あ、ああ。眠らせただけだぁ」

 

 そして俺は手足を縛られただけ、と言えばそれだけである。十代は続けて俺に視線を向けたので、気にしていないという意味を込めて苦笑する。

 それを見てから、十代は再度二人に向き直った。

 

「明日香には悪いけどさ、俺はこのおっちゃんのこと嫌いになれないぜ。だって、カードを大切にするデュエリストに、悪い奴はいないもんな」

「な……」

 

 十代の言葉に、この中で最も驚いたのは他でもないタイタンだった。

 言葉をなくし、明るく笑う十代を見ている。

 

 きっと翔と隼人には何の事だかわからないだろう。しかし、俺たちはあの闇の中で見ていたのだ。命が危ないという時にも関わらず、タイタンが己のカードを犠牲にすることに躊躇し、投げる時も「すまん」と謝っていたのを。

 そして自らのデッキを勝手に使われることに怒り、あの場から出る際にはまずデッキを回収してから出口に向かった。一刻も早く出たかったに違いないのに、だ。

 その姿を俺たちは知っている。そのせいか、十代と俺はどうにもタイタンを憎みきることが出来なくなっていたのだった。

 だから、俺はそう言った十代の肩を叩き、同じように笑みを浮かべた。

 

「俺も同じだ。ただ縛られただけだし、目くじら立てるほどでもないさ!」

「普通は立てるよ!」

 

 翔が鋭く突っ込みを入れる。

 まぁ、普通は怒るだろうね。俺だってそう思う。

 けど、まぁいいじゃない。当事者の俺や、狙われてた十代が許すって言ってるんだから。明日香には……なんとか誤魔化そう。ダメだった時は説得する方向で。

 俺と十代は二人がかりで納得いっていない二人をなだめ、そして改めてタイタンに向き直った。

 

「つーわけで、タイタン。アンタにも事情があるんだろうし、何も聞かないから、このまま帰ってくれない? この場は目を瞑るからさ」

「……貴様はぁ、それでいいのかぁ」

 

 とっ捕まって縛られた件だろうか。それについては気にしていないので何も問題はありませんよ。暴力振るわれてたら、さすがに許さなかったと思うけど。

 

「いいよ別に、それぐらいなら。気にしなくていいって」

 

 それに、マナの手を借りればいつでも抜け出せたし、そもそも捕まることもなかっただろうし。仮に危害を加えようとしたなら、マナにボコってもらう予定だったしね。他力本願万歳!

 俺が内心でそんなことを考えている間、タイタンは押し黙ってその場に立ったままだった。何か他に用でもあるんだろうか。出来るなら、このまま帰ってほしいんだけど。

 訝しんでいると、突然タイタンが口を開いた。

 

「……名はぁ、なんという?」

「……俺?」

 

 突然の質問に、一応自らを指さして問うと、タイタンは頷いた。

 

「皆本遠也だけど」

 

 名前ぐらい隠すこともないので、普通に話す。

 すると、タイタンは「そうか」と頷いた。なんなんだ。

 

「遊城十代、皆本遠也ぁ」

「なんだ?」

 

 俺たち二人の名前を呼び、タイタンは更に言葉を続けた。

 

「お前たちにはぁ、借りが出来たぁ。私は闇のデュエルから足を洗い、ただのデュエリストに戻ることにしよう」

 

 そこまで言うと、タイタンは手に持っていたコートを再び羽織り、俺たちに背を向けた。

 

「……助けてもらったことに、感謝するぅ。そして、その少女にも謝っておいてくれぇ。この借りはぁ、いずれ必ずお前たちに返すと誓おう……さらばだぁ」

 

 言いたいことを言いきったのか、そのままタイタンはこちらを振り返ることなく立ち去っていく。

 その黒い背中を見つめ、十代と俺は同じ危機を体験したせいだろうか、タイタンに奇妙な連帯感を感じていた。隣の十代と顔を合わせ、互いに同じく小さく笑う。

 あばよ、タイタン。次に会う時のお前とのデュエル、楽しみにしているぜ。

 そんな思いを胸に抱き、俺たちは去っていくタイタンの背中を、ただ見つめ続けるのだった……。

 

「……訳がわからないよ」

「……まるで意味がわからないんだな」

 

 そして、そんな俺たちを翔と隼人は胡乱気な目で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺たちも廃寮を出たが、そのまま寮には帰らず、いったん森の中で腰を落ち着ける。

 理由は簡単。明日香がまだ目を覚ましていないからだ。

 明日香を十代と俺の二人がかりで運んできたはいいが、どうにも目を覚まさないので帰るに帰れないのだ。

 このまま寮に届けでもしたら、俺たちにあらぬ疑いが掛けられること必至である。それは勘弁願いたかった。

 ちなみに二人がかりで運んだのは、単純に重かったからだ。起きているならともかく、意識のない同年代の人間を一人で抱えるのは、相当にキツい。

 いくら体重の軽い女性といえど、これは人間共通のことなので関係ない。意識のない人間の身体は、驚くほどに重いのである。おかげで、少し腕が痛かった。

 そんなわけで、俺たちは明日香が目覚めるのを待っているところなのである。

 幸い四人もいるので、話していれば時間なんてそう気にならない。

 とりあえず駄弁って時間を潰していた俺たちだったが……流石にそろそろ帰りたいとも思えてくる。

 と、そんな時。ようやくというべきか、明日香の目がゆっくりと開いた。お目覚めのようである。

 

「――……ここは……」

 

 呟きをこぼす明日香。その顔を覗き込むように、十代が近付く。

 

「おっ、起きたか。お前を襲った奴なら、追っ払っておいたぜ」

 

 正確には自発的に帰っていったのだが、明日香はずっと意識を失っており諸々の事情を知らない。

 下手に説明して話をこじらせるより、単純に解決したということだけ伝えてしまおう。それが俺たちで出した結論だった。

 明日香はさして疑問に思うこともなく、その答えを受け入れる。

 そして十代は懐にしまってあった例のブツを明日香の前に差し出した。

 

「っこれ! 間違いない、兄さんの写真!」

 

 目を見開き、それを手に取った明日香は、驚きの表情で十代を見る。その視線を受け、十代はあの廃寮の中で見つけたんだと説明をした。

 やはり明日香のお兄さんはあの廃寮でいなくなったのかもしれない。こんな写真があること自体怪しいことではあるが、それでもこの写真が少しでも慰めになればいいとは思う。

 それにしても……。

 

「随分、変わったお兄さんだったんだな。サインが特徴的すぎるぞ」

 

 俺が思わずそう突っ込むと、明日香は笑顔を見せた。

 

「兄さんのクセだったのよ。天上院をふざけて10JOINって書くのはね」

 

 写真に書かれた「FUBUKI 10JOIN」の文字。これがクセとは、本当に変わった人だったようだ。

 けど、明日香の笑顔や一人でこんな所まで来る姿を見れば、お兄さんを大切に思っていることは十分に伝わってくる。

 敵なんかやってないで、早く戻ってきてほしいもんだ。慕ってくれる妹を、安心させてやってほしいね。せっかくの家族なんだから。

 

「げ、もう夜が明けるぜ」

 

 ふと、十代が空を見上げて声を上げる。

 つられるように見てみれば、確かに太陽の光が夜空の闇を侵食しているのが見えた。

 ……これは、さすがに寮に戻らないとマズイよな。

 

「早く帰るぞ、翔、隼人! おっと、遠也、明日香! またなー!」

 

 言うが早いか既に駆け出していた十代に、翔と隼人が遅れまいと慌てて走り出す。

 待ってよー、という翔の声を最後に三人の姿はすぐに木々に隠れて見えなくなった。

 そんな姿を見送り、明日香がふいに呟く。

 

「……お節介な奴」

 

 それに、俺は肩をすくめて口を開いた。

 

「でも、悪くないだろ?」

 

 すると、明日香は既に浮かべていた笑みを一層深くした。

 

「……ええ」

 

 そのまま十代たちが去った方向を見つめる明日香に苦笑しつつ、俺は明日香に再び声をかける。

 俺たちも帰らないと怒られるぞ、と笑いながら。

 

 

 

 

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