遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第84話 邂逅

 

 ――I2社の病院からレイン恵を連れ出したパラドックスは、そのまま己のラボへと帰ってきていた。そしてまずパラドックスが始めたのは、レイン恵の修理……治療であった。

 パラドックスにとって、レイン恵は何の思い入れもない存在である。同じ組織に身を置いているとはいえ、ゾーンによって作り出されたアンドロイドであるレインは、ゾーンと志を同じくして誓いを共有した“仲間”ではない。

 パラドックスにとってはあくまで使い潰しが前提の、数あるロボットの一体でしかなかった。

 それはたとえマナにレインのことを頼まれていようと変わりがない。そもそもパラドックスはマナに言われたからといって、レイン恵をどうこうするつもりなど欠片もなかったのだ。

 しかし、ある別の理由からパラドックスはレイン恵の修理に着手することを決めた。その理由とは、究極的には“作業効率アップ”のためといえるだろう。

 

 パラドックスは遠也の行方を知るべく異世界へと渡る方法を模索していた。彼のD・ホイールは未来の技術により時間の渡航を可能としていたが、異世界への扉を開く機能は備わっていなかったからだ。

 しかし、それ自体は大きな問題ではなかった。パラドックスは自分自身が異世界へと行くという得難い体験をしていたことで、比較的早く異なる時空へとアクセスする方法に見当がついていたためである。

 しかし、そこで問題となったのが時間であった。研究、実験、そして実践。それら全てを一人でこなす自信がパラドックスにはあったが、それらを出来るだけ早くとなれば話は全く異なる。

 自分だけでは早くて一か月ほどは時間を費やすのは間違いない。そう結論を出したパラドックスは、ならばどうするかと考えて、思いついたのだ。

 

 自分と同じ知識を持つ者の力を借りることを。

 

 今の時代にはちょうどそんな存在がいる。レイン恵、ゾーンの配下であるアンドロイドだ。

 ゾーンの直轄であるレイン恵にはある程度の専門的な知識が与えられているはず。それを思い出したパラドックスは、レインに己の研究を手伝わせることを決めた。

 もし役に立たずとも、足りない部品があった際の保険になる。そういう意味でもレイン恵の存在は邪魔にはならないはず。

 そうと決めたパラドックスの行動は迅速だった。I2社の病院からレインを連れ出し、その体を直す。ゾーンの意志に逆らうことにはなるが、パラドックス自身すでに遠也抹殺の命を半ば投げ出しているようなものだ。今更という思いがあった。

 パラドックスにとって生体アンドロイドなど既知の技術であり、その修復は容易だった。数日でその作業を終えると、パラドックスとレインは早速異世界へと向かうべくその研究を開始した。

 レインもパラドックスから話を聞き、その研究が遠也を助ける事に繋がると知れば、協力こそすれ拒む理由はなかった。レイのことが気にならないと言えば嘘になるが、それでも遠也の危機を放っておくことは出来なかったからだ。

 そうしてパラドックスとレインが奇妙な協力関係の下、研究を始めて幾許か。何度かの実験を経て、ついにその技術は実用に足るものへと至ったのである。

 そして、パラドックスはモーメントの出す特殊なエネルギーの感知機能まで追加していた。この時代でモーメントを持っている存在など、彼を除けば遠也だけだ。ならば異世界でその反応さえ探していけば遠也の元へと最短で辿り着けるはずであった。

 抜かりはない。その確信を胸に、パラドックスは己の愛機に跨る。そしていよいよ出発しようというところで、機体が僅かに揺れる。そして後ろに何かが乗る感覚。

 振り返れば、レインが何も言わず同じようにD・ホイールに跨っていた。

 

「降りろ。お前の役目はもう終わっている」

 

 パラドックスの冷たい言葉に、しかしレインは首を横に振った。

 

「……私も、行く」

 

 そしてすぐに言葉を続けた。

 

「……協力者の、権利」

 

 率直に言ってパラドックスはその主張を怪訝に思った。これまでレインはパラドックスが提示した研究の目的とその助力に、ただ頷いてついてきていたからだ。

 唯々諾々と従うその姿はなるほどアンドロイドらしいと思っていたのだが、まさか今になってこんな態度をとるとは思ってもみなかった。

 だからパラドックスは尋ねた。

 

「何故、そこまで固執する」

 

 レインは答えた。

 

「……遠也先輩がいないと、レイが悲しむ……」

 

 それに、と呟きのような声が漏れる。

 

「……私にとっても、大切な先輩……」

 

 その返答を聴いたパラドックスは柄にもなく溜め息をつきたくなった。

 あの男に関わって変わったのは自分だけではないらしい。そう思うと、まるで自分が凡百の輩と同じになったように感じたからだった。

 未来を変える使命を帯び、その責務を成し遂げてみせると覚悟を背負った自分が、変わったものだ。何よりそれを不快に思っていないという事実が、パラドックスを驚かせていた。

 その事実を再認識して、パラドックスは今度こそ溜め息を吐き出した。

 そして無言でスロットルを開ける。連動してモーメントが強く輝きを放ち始めた。

 

「――振り落とされても、責任は取らん」

 

 それが承諾の意を含むものであると悟り、レインは「……わかった」と言うと同時にパラドックスにしがみつく。

 直後、D・ホイールは急激な加速と共にパラドックスの拠点を飛び出して、光と共にこの世界から姿を消したのだった。

 そしてモーメントの反応を頼りに辿り着いた先。そこでは遠也がいきなり黒い壁に迫られてピンチになっているのが見えた。

 D・ホイールがあの世界への転移を終える直前。視界に収めたその光景。レインはD・ホイールから身を投げ出して転移先へと飛び込んでいた。

 一枚のカードを手に持って。

 

「……きて、《ダークエンド・ドラゴン》……!」

 

 デュエルディスクがそのカードを読み取れば、闇が竜の形となって姿を現す。

 レインのデッキのエース。そう呼んで差支えない己が相棒の背に乗って目的地である世界の上空へと飛び出したレインは、ダークエンド・ドラゴンにすぐさま指示を下す。

 

「……《ダーク・フォッグ》!」

 

 闇色のドラゴンから放たれる漆黒の一撃。それは過たず遠也へと襲い掛かっていた敵へと炸裂し、遠也は何とかソレから距離を取る。そのことを竜の背から確認し、レインはほっと息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 ダークエンド・ドラゴンと共に俺たちの前に降り立ったレイン。それを見て真っ先に反応したのは、他の誰でもない。マナだった。

 

「レインちゃーん!」

「……マナさん……ゎぷ」

 

 文字通り飛び掛かっていったマナに抱き着かれ、レインはその胸に顔を埋めて少々苦しげな声を漏らす。

 しかし文句を言うこともなくレインはマナの抱擁を受け入れていた。それはマナの心底嬉しそうな声と、その目にうっすらと滲んだ涙に気付いたからかもしれなかった。

 そして俺と十代もまたマナに遅れてレインへと声をかける。

 

「レイン、ありがとう助かった」

「心配したんだぜ、レイン。けどまぁ、あれだ」

 

 俺と十代は顔を見合わせ、マナはレインから少し体を離してにっこりと微笑みかける。

 

 ――おかえり、レイン。

 

 俺たちの声が重なり、レインは半開きだった瞼を僅かに見開いた。

 

「……ただいま……」

 

 恥ずかしそうにぽつりと呟かれた言葉。ほんのりと朱が差した頬を隠すように顔を俯かせたレインに、俺たちは小さく笑みをこぼすのだった。

 そして直後、モーメントが回転する独特の音を響かせながら、機械の巨躯が俺たちの傍へとやって来て停止する。

 もちろんその操縦者である男は俺にとって既知の人物だ。マナや十代にとってもそうだろうが、未来を知っているという点において俺はこの男に妙な親近感を抱いていた。 それが俺からの一方通行のものであることは自覚しているが、それでもやはりこうして会えたなら嬉しくなるほどには、俺はこの男に気を許しているようだった。

 

「パラドックス!」

 

 D・ホイールにまたがったまま、パラドックスは金色の瞳を俺に向けた。

 

「無事だったか。悪運の強い奴だ」

「おかげさまでな。お前との約束もあるし、そう簡単にはくたばれないさ」

 

 未来を変えてみせる。約束というよりは俺の決意表明でしかないそれは、しかし俺にとってはパラドックスに誓った果たすべき約束だった。

 その決意は今でも変わらない。なら、その思いを嘘にしないためにも俺はそう簡単に死ぬわけにはいかなかった。

 パラドックスはそんな俺の言葉に、「そうか」とだけ素っ気なく返して、今度は十代やマナたちを見る。そしてカイザーたちのほうを見て、最後に俺たちが向かおうとしていた扉へと視線を向けた。

 そして、一度そこで視線が止まる。俺はもう一度パラドックスに声をかけた。

 

「なぁ、パラドックス。レインのことなんだけど、お前が助けてくれたんだろ? ありが――」

 

 言葉は最後まで続かなかった。何故なら、パラドックスが突然D・ホイールのモーメントの回転をより強くし、その音が声を遮ったためである。

 

「お前たちの目的地は、あそこなのだろう」

「え、あ、ああ」

 

 問いかけに、十代が頷く。

 その直後、パラドックスの乗るD・ホイールに驚くべき変化が起こった。

 なんとシート部分がぱかっと開き、シートが車体後部へと移動し始めたのだ。そして元はシートがあった場所には、下から新たなシートが出現。あっという間に複数人が乗れるスペースが出来上がった。

 その様子を呆気にとられて見ていると、パラドックスはアクセルを吹かしながらこちらを見た。

 

「こんなところで時間を無駄にする必要はない。乗れ、突っ切るぞ」

 

 言うが早いか、どんどんとモーメントの輝きが強くなっていく。

 俺は慌ててパラドックスの後ろに乗り、まだ何のことやらと言った顔をしていた十代の手を引っ張って後ろに乗せる。その後、レインが落ち着いた様子で座り、マナは横で苦笑いを浮かべて浮かんでいた。

 

「行くぞ」

 

 短い出発の言葉。

 直後、D・ホイールは爆発的な加速を生み出して扉へと突進していった。

 なるほどこれほどの勢いならばあの影の壁も突破してそのまま扉の先まで行けるのは間違いないだろう。俺は確信と共にそう心の中で頷く。

 だが。

 

「Gが! Gがやばい! 手が離れる!」

「お、おい遠也やめろよ! お前の手が離れたら俺まで落ちるんだぜ!」

「……先輩たち、うるさい」

『いざとなったら私が支えるから、もう』

 

 精霊状態のマナは風の抵抗とかを受けないらしく、平然と俺たちの横を飛んでいる。

 そんな騒がしい俺たちの様子に対してか、パラドックスの小さな舌打ちが風に乗って俺の耳に届く。ごめんなさい。

 とはいえそんな間もD・ホイールはスピードを緩めることなく進み続け、影の壁もものともせずに突き抜けると、俺たちはその勢いのまま扉の奥へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 こんな時であってもどこか普段通りというか賑やかな面子を見送り、カイザーは少しだけ笑みを見せる。

 ユベルに対する怒りは今も燻らずに胸の中にあるが、しかしその憎悪にも似た怒りは、いま耳に届いて来た遠也や十代の声で少なからず別の感情に取って代わってしまった。

 

 ――デュエルは楽しいもの。お前たちならばきっと、そう言うんだろうな。

 

 遠也と十代ならば、きっとそう言うという確信がカイザーにはあった。そしてそれは己自身も共感した思いであるはずだった。

 ならば、この怒りはデュエルに対して相応しくない。怒りではなく、必ず打倒するという純粋なる闘志こそが今は必要なのだ。二人の姿を見て、カイザーはそう思いを新たにする。

 怒りと憎しみはまさに闇そのもの。それを受け入れつつも克服することこそが、光と闇の両方を手に取ったこの丸藤亮のデュエルである。

 改めて自身の在り方を見つめ、認識する。そしてカイザーは自らの前に立つ敵に向き合った。

 

「さぁ、デュエルだ。アモン・ガラム!」

 

 熱く、それでいて怒りや憎しみなど微塵も感じさせない声に、アモンはほうと驚いたように声を漏らした。

 

「さすがはカイザーと呼ばれる男。並みではないな」

「世辞はいい。デュエリストが向かい合ったならば、やるべきことは一つだ」

 

 カイザーのデュエルディスクが起動する。

 それを見て、ふっとアモンの口元に笑みが浮かぶ。

 

「いいだろう。最強、そう呼ばれる者を全て平伏せ、僕は真の王になる!」

 

 応えるようにアモンもデュエルディスクを起動する。

 そして数瞬、無言で視線を交わらせる二人。やがて同時に二人の唇が動いた。

 

 ――デュエルッ!!

 

 

丸藤亮 LP:4000

アモン・ガラム LP:4000

 

 

「先攻は俺だ! ドロー!」

 

 カードを引き、手札を確認すると、カイザーはそのうちの一枚を手に取った。

 

「俺は《ヘル・ドラゴン》を召喚!」

 

 

《ヘル・ドラゴン》 ATK/2000 DEF/0

 

 

 全身が黒く、悪魔のような風貌を持つ禍々しいドラゴンがフィールド上に姿を現し、翼をはためかせてカイザーのフィールド上にて滞空する。

 攻撃力は2000と下級としては高打点。ただし下級モンスターでありながらその攻撃力が許されているのは、自身から攻撃できないというデメリットを抱えているためだ。尤も他にも効果があるので、デメリットしかないわけではないが。

 カイザーがこのカードを選択したのは、様子見が主な理由だった。アモン・ガラムがイースト校でチャンピオンに輝いたという話はカイザーも知っている。それ相応の実力があることもわかっている。

 だが、カイザーは今のアモンから得体のしれない雰囲気を感じ取っていた。それがカイザーに慎重な初手をとらせたのだった。

 

「カードを2枚伏せる。ターンエンドだ」

「カイザー亮にしては消極的なことだ。……僕のターン!」

 

 アモンはドローするやいなや、その手札から一枚のカードをディスクに差しこんだ。

 

「僕は《天使の施し》を発動! デッキから3枚ドローし、2枚を捨てる」

「く……」

 

 いきなり天使の施し。さすがのカイザーもこの初手には唸らざるを得なかった。

 天使の施しはその強力な効果ゆえ現在制限カードに指定されているカードだ。カイザー自身も頻繁に使用するためその強力さはよくわかっている。

 必勝のコンボに必要なカードを高速で揃える一助となる、極めて警戒すべきカードだ。一体どんなカードを引いたのか。カイザーはデッキからカードを引いて手札を見るアモンを注意深く観察した。

 

「僕は更に《エア・サーキュレーター》を守備表示で召喚。エア・サーキュレーターのモンスター効果。このカードの召喚に成功した時、手札を2枚デッキに戻し、シャッフル。そして改めて2枚ドロー出来る」

 

 

《エア・サーキュレーター》 ATK/0 DEF/600

 

 

 見た目は扇風機に手足がついて立ち上がったような、奇怪な出で立ちをしている。機械族にしか見えないが水族という変わった種族であるが、いま問題なのはその点ではなかった。

 カイザーは自身の中で僅かに疑問が生まれるのを感じる。しかし今はその疑問を追及することはせず、アモンの行動を見守った。

 

「カードを4枚伏せて、ターン終了」

「俺のターン、ドロー!」

 

 4枚もの伏せカード。守りの一手となるには早すぎる。こちらを誘う罠か、あるいは攻勢に出るための布石か。

 一瞬思考を巡らせるが、判断をするには材料が少なすぎる。となれば、カイザーが取る手は一つであった。

 

「俺はヘル・ドラゴンをリリース! 出でよ、《サイバー・ドラゴン》!」

 

 銀色に輝く鋼鉄の巨体。カイザーが修めるサイバー流を代表するカードにして、カイザー自身の代名詞。彼が最も信頼するしもべが、機械的な甲高い嘶きと共に姿を見せる。

 

 

《サイバー・ドラゴン》 ATK/2100 DEF/1600

 

 

「ほう、ついにきたか……」

 

 カイザーを知る者ならば誰もが知るエースの登場に、アモンの口からも感嘆が漏れる。

 それを前に、カイザーはサイバー・ドラゴンに向けて手をかざした。

 

「サイバー・ドラゴン! エア・サーキュレーターを攻撃! 《エヴォリューション・バースト》!」

 

 相手が何を考えているのか、今の状況では判断がつかない。ならば攻める。その真っ直ぐさこそがカイザーにとってのデュエルであり、勝利への方法論であった。

 サイバー・ドラゴンの口から放たれたレーザーのごときエネルギーがエア・サーキュレーターを一撃で消し飛ばす。その余波が衝撃となってアモンを襲うも、アモンは眉一つ動かすことはなかった。

 

「……破壊されたエア・サーキュレーターの効果発動。このカードが破壊された時、デッキからカードを1枚ドローする」

 

 淡々と効果処理を進めていくアモン。その姿にやはり何か違和感を覚えるも、カイザーはアモンの考えている手を読むことが出来ないでいた。

 わからないものは仕方ないが、しかし油断だけはすまい。そう気持ちを引き締め、カイザーは一つ息を吐いた。

 

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」

 

 そして、アモンは一枚のカードを発動させた。

 

「僕は魔法カード《成金ゴブリン》を発動。これは僕がデッキからカードを1枚ドローする代わりに、カイザー、あなたのライフポイントを1000回復するカードだ」

「……どういうつもりだ」

 

 成金ゴブリンはカードをドローさせるも、相手にライフを与えてしまう。強欲な壺が禁止カードとなった今、確かにドロー出来るこのカードは魅力的だろう。

 だが相手にライフを与えるデメリットから好んで使うプレイヤーは少ない。ゆえにカイザーは警戒して問いかけるが、それにアモンは答えなかった。

 ただ、うっすらと口の端に笑みを乗せた。

 

「更に僕は成金ゴブリンにチェーンして罠カード《強欲な瓶》を発動! 更にチェーンして《八咫烏の骸》を発動! そして更に罠カード、《積み上げる幸福》!」

「なに!?」

 

 怒涛のチェーン。それによって次々と明らかになっていくアモンの場に伏せられていたカードたちに、カイザーは驚愕を隠すことなく声を上げた。

 強欲な瓶、八咫烏の骸、積み上げる幸福。当然、カイザーはそのカードの効果を全て知っている。それぞれがそれなりに名の知られたカードだ。間違えるはずもない。

 しかし、だからこそ。

 

「逆順処理により、まずは積み上げる幸福の効果を処理する。これはチェーン4以降にのみ発動できる罠カード。僕はデッキからカードを2枚ドローする」

「………………」

 

 これら三枚には共通点がある。それは、全てがドローに関した効果を持つ手札増強カードであるということだ。

 

「次に八咫烏の骸だ。これには効果が二つあるが、一つはスピリットモンスターが存在する時に2枚ドローする効果。当然、僕の場にスピリットモンスターはいない。よって一つ目の効果、カードを1枚ドローする効果を使う」

「……まさか」

 

 相手にメリットを与えてでも手札の充実を重視する。無論手札の重視はどのデッキにあっても言えることであるが、こうまで極端に手札補充に傾くデッキ。

 

「そして強欲な瓶の効果。僕はデッキからカードを1枚ドロー。最後に成金ゴブリンの効果で1枚ドロー。カイザー、あなたのライフを1000ポイント回復する」

 

 

亮 LP:4000→5000

 

 

「アモン、お前の狙いは、まさか……!」

 

 手札をことさら重要視するドロー加速デッキ。カイザーの頭には、その中でも最も有名なコンボデッキが浮かんでいた。

 暗にそれを問うも、アモンはそれに答えることはなかった。

 

「カイザー、自分の手の内をバラすデュエリストがいるとでも?」

「……確かに、その通りだったな」

 

 アモンに言われ、我ながら無粋なことをしたと思いながらカイザーは呟く。

 相手の考え、狙い。そんなものはデュエルで聞けばいいことだった。

 

「更にもう一枚罠カードを発動。《強欲協定》。お互いにデッキからカードを1枚ドローする」

 

 更なる手札増強。それを終えた後で、アモンは手札の一枚に指をかけた。

 

「僕は《ディープ・ダイバー》を守備表示で召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 カードを引き、アモンを見据える。

 

「お前の狙いが何であろうと、俺は俺のデュエルを貫くのみ! 俺は《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚!」

 

 

《プロト・サイバー・ドラゴン》 ATK/1100 DEF/600

 

 

 サイバー・ドラゴンよりも小柄で、些か意匠が異なる機械の竜。銀というには若干黒ずんだ装甲を鈍く光らせながら、サイバー・ドラゴンの隣にプロト・サイバー・ドラゴンが並んだ。

 

「プロト・サイバー・ドラゴンはフィールド上に存在する限り、そのカード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う! そして!」

 

 カイザーは手札から一枚のカードを抜き出す。二体のモンスターが溶けあうように描かれた魔法カード。

 

「《融合》を発動! サイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴンとして扱うプロト・サイバー・ドラゴンを融合する!」

 

 渦に呑まれるように二体がその姿を一体としていく。そして直後に光が溢れ、次の瞬間、カイザーの場にはより大きく雄々しい姿となった二頭を持つ機械竜が鎮座していた。

 

「――《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」

 

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》 ATK/2800 DEF/2100

 

 

 カイザーの宣言に応えるように咆哮が上がる。圧倒的なまでの威圧感。カイザーにとっては頼もしいその姿を一度仰ぎ見て、アモンの場に向けてその指を向ける。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンは1度のバトルフェイズに2回攻撃が出来る! 行け、サイバー・ツイン・ドラゴン! 《エヴォリューション・ツイン・バースト》!」

 

 サイバー・ツインの両頭がそれぞれ口を開き、その口腔に光が集束していく。やがてそれは同時にそれぞれの口から発射され、空中で一つに纏まり一直線の光条となると、雷音を響かせてディープ・ダイバーへと直撃した。

 再び暴風が吹き荒れるアモンのフィールド。そんな中において、アモンは風の音に負けないほどに声を張り上げた。

 

「破壊されたディープ・ダイバーの効果発動! このモンスターがバトルで破壊された時、デッキからモンスターカードを1枚選んでデッキの一番上に置く!」

 

 デッキから抜き出した一枚のカード。それを指に挟むと、アモンはカイザーにも見えるように高くカードを掲げてみせた。

 

「僕が選ぶのは――《封印されしエクゾディア》!」

「やはり――!」

 

 カイザーの中に渦巻いていた予感が確信に変わる。

 【エクゾディア】は古くから存在しているデッキテーマの一つだ。手札に《封印されしエクゾディア》《封印されし者の右腕》《封印されし者の左腕》《封印されし者の右足》《封印されし者の左足》の五枚が揃った時、デュエルに勝利するという効果を持つ。

 リターンは破格と言えるだろう。なにせ問答無用でデュエルに勝つのだ。たとえどれほど強いモンスターがいても、エクゾディアには関係がない。その瞬間、デュエルは勝利という形で終了してしまうからだ。

 だが、使用者は少ない。何故ならエクゾディアパーツは数が少なく、またかなり尖った構築をしなければならないために使いこなせる者が現れないからだ。

 近年になって、ようやくキング・オブ・デュエリストと呼ばれる武藤遊戯がまともにエクゾディアを揃えたが、以降彼がエクゾディアを使ったという話は聞かない。その後、エクゾディア使いはなかなか現れず、カイザーもこうして相対するのは初めてのことだった。

 手札に揃えるという特性上、そのデッキはいかにドローを加速させるかにかかっている。そのためデッキにはドロー系のカードが多くなる傾向が強い。それゆえに、アモンのデッキがエクゾディアではないのかとカイザーは疑っていたのだった。

 そして今、それは確信に変わった。アモンのデッキはエクゾディア。なら、その狙いはエクゾディアを手札に揃えることに他ならない。

 そこまでわかれば、やるべきことは一つである。

 すなわち、揃える前に倒す。

 カイザーはサイバー・ツイン・ドラゴンを見上げて手をかざした。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンはもう一度攻撃をすることが出来る! 《エヴォリューション・ツイン・バースト》第二打ァ!」

 

 サイバー・ツインが放つ光の砲撃がアモンに向かう。しかし、それでもアモンの表情に揺らぎはなかった。

 

「その攻撃が通っても僕のライフを削るには至らない。次のターンで僕の勝利が確定する!」

 

 アモンの言葉からカイザーは即座に理解する。アモンの手札にはエクゾディアパーツが既に四枚揃っていることを。

 だが、そんなことは関係がなかった。

 

「まだ来てもいない未来に酔うなど、ロマンを語るには早いぞアモン! リバースカードオープン! 速攻魔法《リミッター解除》!」

「なんだと!?」

 

 このデュエルが始まってから初めてアモンの表情が変わる。焦りを含ませたその顔を前に、サイバー・ツインが高く咆哮した。

 

「リミッター解除により俺の場の機械族モンスターの攻撃力は倍になる! よってサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は5600まで上昇!」

 

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》 ATK/2800→5600

 

 

「エクゾディアがいかに強力であろうと、五枚全てが揃わねばその真価は発揮できない。ならば、揃える前に倒すまでのことだ!」

 

 相手のライフよりも高い攻撃力で攻撃すれば勝てる。エクゾディアなど関係ない。それこそがカイザーが抱く勝利への方法論である。

 それに則って勝つ。それだけのことだった。

 

「ゆけ、サイバー・ツイン・ドラゴン! アモンにダイレクトアタック! 《エヴォリューション・ツイン・バースト》ォ!」

 

 サイバー・ツインの双口にこれまでとは比べ物にならない規模のエネルギーが集まっていく。攻撃力5600。その値を体現する巨大な光が空気を削り取りながらアモンへ向かって直進する。

 通れば一撃でライフが消し飛ぶ攻撃。デュエルの決着となるか否かの、その瞬間。アモンが動いた。

 

「カウンター罠《攻撃の無力化》を発動! その攻撃は僕に届かず、無効となる!」

 

 アモンの眼前に現れた時空の渦。サイバー・ツインの攻撃はアモンに命中する前に時空の彼方へと吸い込まれ、そのライフポイントを削るには至らなかった。

 轟音が消え去った静寂の中、カイザーは小さく詰めていた息を吐き出した。

 

「やはり、そう簡単にはいかないか……」

「いや、さすがカイザーと言わせてもらおう。既にリミッター解除をその手に握っていたとはな」

 

 アモンは思う。攻撃の無力化がなければ恐らく今の攻撃で負けていたと。そういう意味では紙一重であったのだ。

 だが。

 

「ここまでのようだな」

 

 次のターンのドロー。そこでエクゾディア最後のパーツが手札に加わり、自分の勝利は確定する。

 その確信を覗かせた言葉に、しかしカイザーは小さく否を唱えた。

 

「いや、まだだ」

「なに?」

「メインフェイズ2! リバースカードオープン、速攻魔法《手札断殺》! お互いのプレイヤーは手札2枚を選択して墓地へ送り、新たに2枚のカードをドローする!」

「な、に……!?」

「アモン、お前の手札は5枚。そして次のターンでエクゾディアが完成するならば、既に4枚がその手札に含まれているはずだ。つまり、お前は確実にエクゾディアのパーツを捨てなければならない」

 

 言葉を続けながら、カイザーは自らの手札を二枚選択して墓地へと送る。そして新たに二枚を引いた。

 そしてアモンへと目を向ける。アモンもまた手札二枚を墓地へと送っているところだった。そして新たに二枚を引く。しかしその表情はカイザーとは異なり、苦々しいものであった。

 ディープ・ダイバーの効果により、今アモンの手札には《封印されしエクゾディア》が加わったはずだった。元の手札のままであったなら、その時点で勝負は決まっていたことだろう。

 しかし、それはもう関係がないことだった。何故ならパーツが墓地へ送られた時点で、エクゾディアの完成は不可能になったからだ。

 もちろん次善の策はあるのだろうが、しかしカイザーにはそれを打ち破る自信があった。そしてその自信は今までカイザーを裏切ったことがない。

 油断はしない。だが、確実にアモンを追い詰めた。カイザーはそう考えた。

 

「カードを2枚伏せ、ターン終了。そしてリミッター解除の効果を処理する。オーバースペックを引き出す無理の反動を避ける術はない。サイバー・ツイン・ドラゴンは破壊される」

 

 自分フィールド上に存在する全ての機械族モンスターの攻撃力を二倍にする速攻魔法という強力無比なカードであるがゆえに、そのデメリットもまた大きい。その恩恵を受けたモンスターはエンドフェイズに自壊する運命が決定づけられているのだ。

 爆散するサイバー・ツイン。しかしその役目は果たしてくれたとカイザーは感謝の念を消えゆくサイバー・ツインへと向けて見送った。

 

「……僕の手を瞬時に見切り、そして即座に対応してくるその力。まさしくカイザーといったところか」

 

 アモンの言葉が聞こえ、カイザーは再びアモンへと視線を戻す。

 

「実力だ……と言いたいが、運もあった。手札断殺がなければ、次のドローでお前の勝利が確定していただろう」

「それを呼び寄せるのもデュエリストの力だ。まったく、だからこそ――」

 

 くつくつとくぐもった声が響く。それは間違いなく、アモンの口から漏れる――笑い声だった。

 

「倒しがいがある! ――僕のターン、ドロー!」

 

 カードを引くと同時に、アモンのデュエルディスクの墓地から光が溢れた。

 

「僕は墓地に存在する魔法カード《究極封印解放儀式術》の効果発動!」

「なに!? まさか手札断殺の時に……!?」

 

 これまで一度もデュエルに出てこなかったカード。であるならば、墓地へ送る機会は先程の一回を除いて他にない。

 アモンはその疑問を肯定するように、口の端を軽く持ち上げた。

 

「究極封印解放儀式術は手札および墓地に「封印されし」と名のついたカードが5枚ある時に発動できる! まずは墓地に存在する「封印されし」と名のつくカードをデッキに戻す!」

 

 アモンのデュエルディスクの墓地ゾーンから、一枚のカードがせり出してくる。手に取ってカイザーに見せたそれは《封印されし者の右腕》。これもまた、手札断殺の時に墓地へ送っていたカードであった。

 それをデッキに戻すと、シャッフルしたのち再びディスクにセットした。

 

「そして手札から「封印されし」と名のつくカードを2枚まで……僕は《封印されし右足》、《封印されし左足》を墓地へ送る! その後、デッキまたは手札から――《究極封印神エクゾディオス》を特殊召喚するッ!」

 

 アモンは手札の一枚を手に取ると、ディスクへと叩きつけるようにしてそのカードをフィールドへと現出させた。

 

「こ、これは……!?」

 

 その瞬間、アモンだけではなくカイザーの場まで巻き込んで激しい風が巻き起こる。目を開けていることすら難しい強風に、腕を眼前にかざしてカイザーは突如発生した現象に当惑した。

 風によって舞い上がる砂煙。同時に響く地鳴りのような音。その発生源であるアモンのフィールドを、カイザーは窮屈そうに目を細めながらどうにか確認を試みる。

 だが、濃い砂煙によって阻まれてその詳細までは見ることが出来ない。しかし、そのシルエットだけは確認することが出来た。

 この異常の正体。それは、地面から徐々にせり上がってくる巨体であった。シルエットであろうと明らかに屈強とわかる体躯。サイバー・ツイン、いやサイバー・エンドにも匹敵するほどの大きさである。人型であるそれは、まさに巨人という言葉が相応しかった。

 そのモンスターが発する威圧感、そして溢れ出る力がこの風を、地面の鳴動を引き起こしているのだとカイザーは悟る。

 カイザーの頬を冷や汗が流れ、風にさらわれていく。間違いなく脅威であろう存在が到来したことを確信したためであった。

 これほどの力を持つとは、一体どんなモンスターなのか。カイザーが胸中で抱いたその疑問、それに対する答えが今、弾けるように霧散した砂煙の向こうから姿を現した。

 

「――なに!?」

 

 カイザーは目の前に現れたモンスターの姿に目を見張った。

 エジプトにおける縞模様が特徴的な王冠ネメスをかぶり、闘気に満ちた精悍な顔がカイザーのフィールドを強く睨みつける。筋骨隆々と表現するに相応しい肉体は褐色で、胸から肩にかけて黒く大きな鎧がその体を覆っている。

 その姿はどう見ても。

 

「え、エクゾディアだと……!?」

 

 シルエット、出で立ち。どこを見てもカイザーが知るエクゾディアと瓜二つであった。

 しかしエクゾディアは通常フィールドに完全体として姿を現すことはない。それゆえにカイザーはその有り得ない事態が起こっていることに困惑を隠せなかった。

 が、しかし。アモンはそんなカイザーの驚きに対して静かに首を横に振り、それは違うと示した。

 

「このモンスターはエクゾディオス! 残念ながらエクゾディアではない。が、その持てる力はエクゾディアにも劣らない!」

 

 

《究極封印神エクゾディオス》 ATK/? DEF/0

 

 

 喰いしばった歯の隙間から唸り声をこぼしながら、エクゾディオスは身じろぎひとつすることなく静止している。それはまるで、今にも爆発しそうな力を抑え込んでいるかのようであった。

 そしてアモンの手が、エクソディオスを指す。

 

「エクゾディオスは破壊されず、相手の魔法・罠・モンスターの効果を受けない! そしてエクゾディオスの攻撃力は墓地の「封印されし」と名のつくカードの枚数×1000ポイントとなる! 今、僕の墓地には2枚の「封印されし」と名のつくカードがある。よってエクゾディアオスの攻撃力は2000!」

 

 

《究極封印神エクゾディオス》 ATK/?→2000

 

 

 唸り声が徐々に大きくなっていく。おおぉ、と這うように響く声にカイザーの顔つきが厳しくなっていく。

 

「更に魔法カード《禁止薬物》を発動! 僕の場のモンスター1体は、1度のバトルフェイズに2回攻撃を行うことが出来る!」

 

 カードの使用により、エクゾディオスの盛り上がった筋肉に、太い血管が浮かび上がる。口から洩れる唸り声は、もはや叫び声に迫るほどの大きさとなっていた。

 

「バトルだ! エクゾディオスでダイレクトアタック! そしてこの時、エクゾディオスの効果発動! このカードが攻撃する時、手札かデッキから「封印されし」と名のつくカード1枚を墓地へ送ることが出来る!」

「な、なんだと!?」

「僕はデッキから《封印されし者の右腕》を墓地へ送る! これによって墓地にある「封印されし」カードが増加! エクゾディオスの攻撃力もプラスされる!」

 

 もはや雄叫び。いや、絶叫に近い裂帛の咆哮。空気を伝わってビリビリと肌を刺すエクゾディオスの圧力に、カイザーは思わず体を後ろにずらしてたたらを踏んだ。

 

 

《究極封印神エクゾディオス》 ATK/2000→3000

 

 

 地面を揺らし、エクゾディオスが咆哮と共にカイザーへと迫る。振り上げられた拳が強く握られる。その流れを見つめて、カイザーはぐっと口元を引き結んだ。

 

「ゆけ、エクゾディオス! 《天上の雷火 エクゾード・ブラスト》!」

 

 エクゾディオスの拳が振り下ろされる。その直前、カイザーのフィールドに伏せられていたカードが起き上がった。

 

「罠発動! 《リミット・リバース》! 墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を攻撃表示で蘇生する! 俺が選ぶのは、《カードガンナー》だ!」

 

 

《カードガンナー》 ATK/400 DEF/400

 

 

 十代、遠也、二人のデッキにも入っている下級の機械族モンスター。墓地肥やし、アタッカーなどとして非常に使い勝手がよく、また機械族であることからカイザーもデッキに投入したカードである。

 手札断殺の時に墓地へ送っていたそのカードがフィールドに移動し、オモチャのロボットそのままのモンスターが姿を現す。

 だが、その姿はエクゾディオスの前ではあまりに弱々しい。そしてその印象を外れることはなく、エクゾディオスの一撃によってカードガンナーは粉砕。その余波がカイザーへと襲い掛かった。

 

「ぐ、ぉぉおおおッ!」

 

 

亮 LP:5000→2400

 

 

 一気にカイザーのライフポイントが削られる。地面に拳が叩きつけられた衝撃で後方へと吹き飛ばされるも、なんとか態勢を整えて踏ん張り、カイザーは即座に口を開いた。

 

「この瞬間、罠発動! 《ダメージ・ゲート》! 俺が戦闘ダメージを受けた時、そのダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体を復活させる! 《プロト・サイバー・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚!」

 

 

《プロト・サイバー・ドラゴン》 ATK/1100 DEF/600

 

 

「更に破壊されたカードガンナーの効果発動! このカードが破壊され墓地へ送られた場合、デッキからカードを1枚ドローする!」

「さすがはカイザーと呼ばれる男! だが、エクゾディオスの攻撃はもう一度ある! そしてこの時、再び「封印されし」と名のつくカード《封印されし者の左腕》を墓地へ送り、攻撃力が更に上昇!」

 

 

《究極封印神エクゾディオス》 ATK/3000→4000

 

 

「その邪魔なモンスターを粉砕しろ! 《天上の雷火 エクゾード・ブラスト》!」

「ぐぅ……ッ!」

 

 プロト・サイバー・ドラゴンがエクゾディオスの攻撃を受けて爆散する。

 カイザーのライフはどうにか残ったが、しかしエクゾディオスの攻撃力は更に上昇。 状況は刻々とカイザーの敗北の未来に向けて進み始めていた。

 それをアモンも感じているのだろう。その表情には軽く笑みさえ浮かんでいた。

 

「やはり最強とまで呼ばれた男、伊達ではないな。ターンエンド」

 

 エクゾディオスがアモンのフィールドに戻る。静かにまるで壁のようにカイザーの前に聳え立つその姿を一瞥し、カイザーはアモンに向き直った。

 

「……さて、俺の身には余る評価だ。それに、さすが、とはこちらの台詞だアモン。エクゾディアが揃えられずとも、ここまで万全を期してあるとは……」

「……カイザー、あなたは一つ勘違いをしている」

「なに?」

 

 アモンのタクティクスを賞賛するカイザーに、アモンはそれだけでは足りないとばかりに首を振る。眼鏡を指で押し上げ、アモンは不敵に笑った。

 

「いつ、僕がエクゾディア完成を諦めたと言った? エクゾディオスの効果はもう一つある。墓地に「封印されしエクゾディア」のパーツが全て揃った時、僕はデュエルに勝利する!」

「墓地で成立する特殊勝利だと!?」

 

 カイザーは驚愕も露わに呟いた。そんな条件を持つ特殊勝利など聞いたことがなかったからだ。

 そして従来、エクゾディアといえば手札に揃えるものと決まっていた。まさか墓地でエクゾディアを揃えることで勝利するなど、想像すらしていなかったのだ。

 

「ふふ、しかもエクゾディオスは攻撃の度にエクゾディアのパーツを墓地へ送る。この意味がわかるか?」

 

 その言葉を聞き、はっとする。

 今、アモンの墓地に存在しているのは《封印されし者の右足》、《封印されし者の左足》、《封印されし者の右腕》《封印されし者の左腕》の四枚である。

 つまり。

 

「あと1ターンでエクゾディアが完成する……!?」

「そう、つまりはカイザー。あなたの命もまたわずか1ターンということだ! 次に僕のターンが訪れ、エクゾディオスが攻撃した時……あなたは――敗北する!」

「……ッ!」

 

 それが定められた未来であるとばかりに断言するアモンに、カイザーも思わず言葉を失った。確かにこのままではその未来は高確率で現実のものとなってしまうからだ。

 エクゾディア、そしてエクゾディオス。揃った時点で無条件の勝利をもたらすその効果は、やはり脅威であり強力の一言に尽きた。相対して初めて知ったその恐ろしさを、カイザーはいま身を以って実感していた。

 そんな中、カイザーはある一点が気になっていた。それはアモンがエクゾディア完成を狙っているのではないかと思った時から抱いていた疑問である。

 その疑問がふと口をつき、アモンへの問いかけとなってこぼれる。

 

「アモン、お前は一体そのカードをどこで手に入れた? エクゾディアはあの武藤遊戯さんも使用していた伝説のカード。現存する数は極端に少なく、その勝利条件故に専用デッキを構築すること自体が奇跡のような積み重ねの上にあったはずだ」

「………………」

 

 それだけではない。カイザーにとって最も不可解なのは、もう一つの疑問だった。

 

「それに、俺が噂で聞いたお前のデッキは《雲魔物(クラウディアン)》だったはず。だが、これはおかしい。これほどのデッキを持ち、使いこなすならば、お前の名はエクゾディア使いとして広まっていたはずだ」

 

 噂では雲魔物使いとして知られながらも、しかし現実にはアモンのデッキはエクゾディアである。雲魔物の要素はどこにもない。手を抜いていたという見方も出来るが、デュエルを通してカイザーにはわかった。この男はそんな姑息な真似をする男ではないと。だからこその疑問だった。

 

「………………」

 

 言外に何故と問われたそれに、アモンは答えず、ただ静かに目を伏せた。

 この時、アモンの脳裏にはある記憶がよぎっていた。それはエクゾディアを手に入れた時。この世界で己の最愛の人と再会した、その時のことである。

 

 

 

 

 

 

 ――エコーとクロノスが異世界へとやって来たのは、偶然によるものであった。

 十代たちがおのおののエースカードの力を借りて異世界への扉を開いた日、クロノスは鶏の世話の為に外に出いていた。そしてエコーは自信が最も敬愛する男、アモンの消息を知るためにデュエルアカデミアを訪れていた。

 エコーは島に上陸。その時はちょうど次元が揺らいでいる時であり、エコーは異常が検知された森の中を目指していた。

 外で鶏の世話をしていたクロノスは見慣れぬ人間が島内にいるということで、エコーの後を追った。そうして二人ともが森の中に入った時、十代たちが開いた異世界への扉から溢れる光が彼らをも包み込んでしまったのだ。

 そして、二人は異世界へと来ることとなった。周囲に人間はおらず、頼れる者もいない。過酷な環境であると言えるが、唯一同じ境遇であるお互いがいるからこそ、何とかやってこれていた。

 少なくとも、クロノスにとってはそうだった。

 

「……はぁ。本当にここはどこなノーネ。あの時の異世界とは違う気がすルーシ。散々なノーネ」

「……悪かったわね」

「シニョーラ・エコー、あなたを責めているわけじゃないノーネ!」

 

 異世界の荒野を歩きながらクロノスがこぼした不満に、エコーが苦々しく謝罪を口にする。それをクロノスはそういう意図ではないと弁解するが、実質自分のせいでクロノスが巻き込まれたことをエコーは理解していた。

 エコーはガラム財閥の人間である。そして幼い頃よりアモンと共に過ごし、今はアモンの付き人として様々な面で彼をサポートしている。事務作業はもとより、生活全般、また武力行為に至るまでだ。

 今回、アモンが異世界で行方不明になったことを受けて、エコーはガラム財閥お抱えの私兵の指揮を任されていた。アモンをくれぐれも頼むと当主からも言われたほどである。

 そしてエコーは軍服を模したガラム財閥の衛兵服に身を包み、潜水艦でアカデミアまでやって来たのだ。

 そして手がかりを探すべく上陸。そこをクロノスに見つかり、制止の声を振り切って強引に島内へと押し入った結果が……今の状況である。

 つまり、自分がいなければクロノスはこんなことになっていなかった。そういう意味ではクロノスが怒るのは正当な権利であるとエコーは思っていた。

 だからそのことに対してならエコーは頭を下げる。しかし、その発端となる行動を起こしたことについては謝るつもりはなかった。

 何故ならアモンの消息を知ることはエコーにとって必要なことだったからだ。エコーが理想としていただくアモンの姿。その姿にアモンはなっているのか。それだけを願ってエコーは今ここにいるのだから。

 

「それにしテーモ、こうも何もないと気が滅入ってしまうノーネ。早くシニョール十代たちと合流しなイート」

「……そうね。きっとアモンとも、彼らといた方が……」

 

 アモンも見知った顔が多くいる方が恐らく接触してきやすいはず。それに探す手は多くあった方がいい。そう判断してクロノスの意見にエコーは同意する。

 そして二人が目的を再確認して歩き出そうとしたその時、ふと二人の耳に声が届く。

 

「いや、その必要はないよ。エコー」

「っ!」

 

 エコーは息を呑み、はっとして声が聞こえた方へと顔を向ける。

 自分たちが進もうとしていた方角から右に逸れた前方に立っている人影がある。まだ少し距離が遠いが、自分が彼を見間違えるわけがない。

 エコーは確信した。アモンだ、と。

 

「シニョールアモン!? 無事だったノーネ! 嬉しいノ――」

「アモンッ!」

 

 クロノスが両手を突き上げて喜びを露わにする横を、感極まった声を上げてエコーが走る。

 自分が求めていた人の姿がそこにある。その事実だけでエコーの胸は張り裂けそうなほどの感情に満ちていた。歓喜、安堵、期待。それらの感情が入り乱れ、ただアモンの名を呼びながらエコーは走った。

 それを柔らかな表情で立ち見つめているアモン。そして道中のエコーの様子から二人の関係を察していたクロノスが何も言わず優しく見守る。

 そしてついにエコーがアモンへと手を伸ばした、その時。ふとエコーの心に浮かんだ疑問が、駆け寄る足を止めさせた。

 

「……? シニョーラ・エコー?」

「………………」

 

 エコーは確かにアモンの姿を見た時、歓喜した。そして無事であったことに安堵した。それは間違いがない。

 そして同時にエコーは無事であったアモンの姿を見た時に、期待していた。そう、期待していたのだ。

 彼が自分の理想の姿でいることに。

 だが、今の彼はまだ自分が知るアモンのままだった。少なくとも、エコーの目にはそう映った。それが、エコーの足をその場に留めさせた。

 

「アモン……あなたは、叶えたの? この異世界で、私たちの理想を……」

 

 エコーは幼い頃からアモンを、アモンだけを見てきた。

 優しく、努力を惜しまず、類まれな頭脳を持ち、スポーツ万能、デュエルにも才能を見せた麒麟児。それがアモンだった。その才能を弟の幸せのために埋もれさせていった姿も、エコーはずっと見てきていた。

 エコーはずっと、心の中で思ってきた。アモンこそが至高の存在。世界の王になるべき男であると。

 彼が王となれば世界はきっとより良くなる。その確信があった。何故なら彼はアモン・ガラムだからだ。それだけでエコーはその未来の正しさを信じることが出来た。

 しかし、元の世界でアモンには既に数多くのしがらみがついて回っていた。だから、そう思いつつもその実現が不可能に近いこともエコーは理解していた。苦々しく思いながら。

 だが、ここは違う。そんなしがらみが一切ない異世界だ。だからこそ、エコーはアモンが異世界に残ったと聞いた時、密かに喜び期待したのだ。その世界でならば、きっとアモンは王となることが出来ると。

 その姿を確認することこそがエコーの最大の目的であった。そのために、彼女はアカデミアを訪れたのだ。

 しかし、こうして会ってみればどうだろう。アモンに別段変わったところは無い。見た目もエコーが知る彼のままだった。

 少なくとも、王という特別な空気を感じ取ることは出来なかった。あくまでも感覚的なものであるが、違う、そう思った。

 止まった足はその困惑ゆえだった。アモンならばきっと王になっていると信じていた。なのに何故。エコーの頭の中はその疑問で埋め尽くされていた。

 

「エコー」

 

 そして、そんなエコーの心情をアモンは誰よりも理解していた。エコーと同じように、アモンもまたエコーのことをよく見ていたからだ。

 それゆえ今のエコーが何を考えているのかを十分に理解したうえで、アモンは言葉を紡ぐ。

 

「安心してほしい。僕は王となる。間違いなくだ。……だが、まだそのためには力が足りない。そのために、君のことが必要なんだ」

「私、が……?」

 

 アモンがパチンと指を鳴らす。

 瞬間、ぐにゃりと言葉では形容しがたい奇妙な感覚を伴って彼らが立つ場所が変容していく。

 どこまでも続く荒れ果てた大地は消え失せ、薄暗くじめっとした閉鎖的な岩場に成り代わる。上下も岩壁で覆われているところから、ここが洞窟の中であることが窺えた。つまり、アモンは何らかの力を使ってエコーとクロノスを移動させたのだった。

 

「ど、どういうことなノーネ!? ここはどこなノーネ!?」

 

 クロノスは突然の超常現象に戸惑いを隠せない。それはエコーも同じで、突然切り替わった景色に視線を彷徨わせていた。

 

「エコー」

 

 呼びかけられ、はっとエコーはアモンに向き直る。

 アモンは何も言わずに自身の背後を示した。

 

「あれだよ、エコー」

「あれ……?」

 

 エコーはアモンが示す指の先を見た。

 アモンの後ろ。そこには池と呼ぶには浅く規模が小さな水たまりがあった。沼、とかろうじて呼べる程度のものだ。その先には地面に対して垂直にそびえる高い岩壁がある。そしてその岩壁には、洞窟の中に相応しくない、明らかに人工物と思われる巨大な扉があり――、

 突然、ドンッ、とその扉が大きく揺れ、扉にはめ込まれた格子の隙間から大木のような巨腕がぬっと飛び出してきた。

 だが、格子によって阻まれ、それ以上手を伸ばすことは出来ていない。それでも十分に近くで腕がゆらゆらと揺れて、再び扉の中へと戻っていく。それを一部始終見ていた。

 

「……こ、これは……!?」

 

 驚きと恐怖から声を詰まらせるエコーに、アモンは笑みすら浮かべて諭すように言葉をかける。

 

「力さ。僕が王となるために必要な、大いなる力だ」

「アモン……」

「けれど、僕がこれを手に入れるには、君が必要なんだ。だからエコー」

 

 アモンは手を伸ばす。手のひらを上に向け、まるでダンスに誘うかのような気安さで。

 

「僕の為に、来てくれないか?」

 

 エコーは差しだされた手をじっと見つめる。よくよく見れば、その腕は人間のものではなかった。悪魔のような異形の腕。一体どうしてそうなってしまったのかはわからないが、少なくともエコーが知るアモンの腕ではなかった。

 後ろからクロノスの声が飛ぶ。

 

「よすノーネ、シニョーラ・エコー! アモンはなんだか様子がおかしいノーネ! ここは慎重になるべきでスーノ!」

「心外だな、クロノス教諭。あなたが生徒をそんな色眼鏡で見るとはね」

「私は教師でスーノ! 等身大の生徒を見つめることこそ私の使命なノーネ! 認めづらくとも、あなたの様子が変わってしまっているのは私にもわかるノーネ! それを生徒だからと認めない方が色眼鏡で見ていることになるノーネ!」

「お説ごもっとも。けれど、そのご高説が僕たちに関係があるかと言えば、それはまた別の話だ」

「なんでスート!?」

 

 アモンの言葉にクロノスはエコーを見る。そこには、アモンの手を掴もうと手を伸ばすエコーの姿があった。

 

「シニョーラ・エコー!?」

「クロノス教諭。あなたには理解できないかもしれないが……これが僕たちなんだ。エコーは僕の為ならたとえ全てを犠牲にするとしても厭わない。僕は心の底からそれを信じているんだ」

 

 アモンの確信を含んだ声。それを肯定するように、エコーはアモンの手を掴むとクロノスに振り返った。

 

「これが私の道。私の生はアモンの理想と共にある。そのためならば、私は――」

「シニョーラ!」

 

 それでも、クロノスは呼びかける。それはきっと何かが違う。そんな漠然とした違和感を抱いていたからだった。しかし自分でも説明できないそんな感覚を、彼らが理解できるはずなどない。クロノスの声を無視して、アモンがエコーの手を引いた。

 

「ありがとう、エコー。……さぁ、僕に力を! この世界を統べる、強大な力をッ!」

 

 そう叫んだ瞬間、扉の格子から再び腕が伸びてくる。それはアモンの隣にいたエコーを正確に目指し、その巨大な手がエコーの体を覆うように握りこんだ。

 

「エコー」

「アモン、私は……――」

 

 最後に互いの名前を呼びあい、しかしその後の言葉が続くことはなく、エコーは光の粒となって腕の主へと吸収されていく。

 それを表情を変えることなく見つめるアモンと、目を見開いて見届けたクロノス。クロノスはエコーの死を目の当たりにし、アモンに対して鋭い眼を向けた。

 

「アモン……あなたはなんてこトーヲ!」

「クロノス。理解してもらおうとは思っていない。それに、あなたにそんな余裕はない」

「なにを……!?」

 

 クロノスは気づいた。扉が何か物音と共に揺れていることを。

 それが中から扉を叩く音であると気付くのに時間はいらなかった。すなわち、あの中にいる者――あの巨腕の主が外に出ようとしている。クロノスの目の前で、扉に亀裂が走った。

 

「さぁ、今こそ我が力となって現れよ。封印されし、その最強の力を存分に振るえ! 《エクゾディア》!」

 

 その宣言を待っていたかのように、扉が轟音を響かせて崩れ落ちていく。

 そしてその向こうから現れたのは、巨人。十数メートルは超えようかという鍛え上げられた肉体に、恐ろしげに歪められた顔。ジャラリと両腕と両足についた鎖が音を立てれば、あわせて一歩を踏み出し地面が揺れる。

 その姿はクロノスが教科書を通して何度も見てきた姿だった。デュエルモンスターズを代表するカードの一つ。《封印されしエクゾディア》に間違いなかった。

 

「こ、これは一体……どういうことなノーネ……!?」

「クロノス」

 

 アモンは腕をさすりながらクロノスを見る。異形と化していた腕がぼろぼろと剥がれ落ちていき、その下からアモン本来の腕が現れる。それをにやりと笑って確認してから、アモンはクロノスに向き合った。

 

「僕はこれからこの力で、僕の最強を証明してみせる。あなたにも協力をしてもらおうか……」

「……ッ!?」

 

 アモンが腕をクロノスに向ける。その腕がぼうっと光った。

 それがクロノスの意識が最後に認識した光景であった。

 

 

 クロノスの姿が消え、エクゾディアとアモンだけとなった洞窟の中。アモンはふとエクゾディアを見上げた。

 その瞳には先程までの強さは微塵もなく、ただ労わるような光だけが宿っていた。

 

「エコー……僕は君の為にも必ず……」

 

 そんな呟きだけを残して、アモンは洞窟を去って行く。カードとなりデッキに収まったエクゾディアの頼もしさを確かに感じながら、ユベルのもとへとアモンは向かう。

 そしてアモンとユベルは約束を交わす。アモンは十代とユベルを会うわせることを。そうすれば戦いに応じると。ユベルはアモンが戦う邪魔をしないことを約束する。アモンがカイザーのような強者と戦うことへの邪魔はしない、もちろん後で十代と戦うことへも文句は言わない。

 ニヤニヤと笑いながらその約束をしたユベルを一瞥してから、アモンは十代たちの元へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

「――あなたには関係のないことだ」

 

 記憶の反芻から戻り、閉ざしていた瞼を開いたアモンは、カイザーの問いに対してただそう答えた。

 

「そうか」

 

 もともと応えてくれると期待した問いかけではなかったのだろう。カイザーはただそう言って引き下がった。

 しかし、そんなカイザーの予想とは裏腹に、アモンは言葉を続けた。

 

「だが、僕はこのカードを手に入れた時に誓った。このカードに込められた祈り、願い、想い。それに応えるためにも、僕は僕自身の願い――争うことも、貧富の差も、妬みや憎しみもない、理想国家を統べる王となると!」

「アモン……?」

 

 まるで自分の決意を再確認するかのように、アモンは叫ぶ。カイザーがそれを訝しげに見る中、アモンは自分の心に宿る思いを改めて見つめていた。

 そうだ、エコーのためにも。自分のためにも。自分は王とならなければならない。自分が理想だと思った世界の王に。それこそが自分の使命であるともう一度覚悟する。

 

「その願いのためにも、僕には君臨するための力が要る! だから、僕の糧になってもらおう! カイザー丸藤亮!」

 

 正直に言ってこの瞬間、カイザーはアモンのことを大した奴だと思った。

 アモンが語った願いは、きっと誰もが一度は思うもその困難さ、不可能さを知って挫折し、諦めていく願いだった。世界が平和であればいい。言葉にすればそれだけの、なんてことはない願い。

 それを馬鹿正直に信じ、理想とし、そのために研鑽を積んできたアモンの姿を、少なくともカイザーは一笑に付すことなど出来なかった。

 ただ、大した奴だとアモンのことを認めた。この男は自分たちとはまた違う強さを持っている男であると。

 ならば、カイザーに出来ることなど一つしかなかった。

 

「アモン……お前の崇高な気持ち、伝わってきたぞ」

 

 デッキの上に指をかける。

 男があれだけの決意を吐露したのだ。その覚悟に報いるには自身も全力を出して当たらねばならない。今までも手を抜いてはいなかった。しかし、改めてその思いを強くする。

 

「お前のように、俺は先を見ることが出来ない。遥か未来を見据えて戦うお前にとって、俺が戦う理由は恐らくちっぽけに聞こえるのだろうな」

 

 自嘲気味にカイザーは笑うも、その表情には確かな誇りが見て取れた。それは自分の選択が間違っていないという自信に満ちた、そんな表情である。

 

「……その理由とは?」

「――友の為」

 

 アモンの問いに、カイザーは即答する。

 

「今、俺の友がこの悲しみの連鎖を断ち切るべく立ち向かっている。ならば、その成就を支えてやるのが俺の役目! 先のことなど、俺にはわからん! ならば今、この時! 仲間の助けとなることこそが、この俺のすべきことだ!」

 

 カイザーは自分がデュエル馬鹿であることなどとうに承知している。難しい事を考えるのは出来ないわけではないが、やはり苦手である。

 ならば、自分が迷いなく信じることをやり通すだけだった。自分の心が「そうだ」と断言できる行動をするべきであった。

 それこそがカイザーにとってのデュエルであり、仲間という存在そのものであった。

 アモンはその答えを聞き、一つ息を吐き出す。呆れたというよりは、残念だ、というようなニュアンスを含んだものだった。

 

「つまり、僕とあなたは相容れないというわけだ」

「ああ。そして、相容れぬならば戦うしかない。そして、勝つしかないのだ!」

「しかし、あなたはあと1ターンで敗北する。そのわずか1ターンでやられるつもりは毛頭ない」

 

 アモンの目に獰猛な光が宿っていく。デュエリストとしての矜持が見える光だった。

 

「相手はあなただカイザー。油断も慢心もするつもりはない。全力で勝つ。それだけだ」

「光栄だな、アモン・ガラム」

 

 ふっと一瞬相好を崩して笑う。

 しかし、すぐさまその表情は引き締められたものへと変わった。

 

「しかし――たとえどんな状況であろうと、決して可能性はゼロではない。それが、わずか1%の可能性であるとしても」

 

 1パーセントもあるのならば、信じるに足る。何故ならそれは、確実に可能性は存在しているということなのだ。

 このデッキの中に。0パーセントという不可能ではなく、1パーセントでも可能性があるのならば。

 

「必ず俺は引き寄せてみせる! 俺のターン――ドローッ!!」

 

 引いた一枚を確認する。そしてカイザーの中で瞬時に判断が下された。

 

「カードを2枚伏せる! ターンエンドだ!」

「伏せカードが2枚か。そのカードがあなたの勝利への希望ならば、僕がそれを打ち砕く! 僕のターン、ドロー!」

 

 アモンはデッキから引いたカードを手札には加えず、そのままデュエルディスクへと差し込んだ。

 

「僕は魔法カード《大嵐》を発動! 場の魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

 カイザーが伏せた二枚の伏せカード。それら全てを無に帰す効果を持つ魔法カードの発動により、いよいよアモンの勝利が近づいたと思ったその時。

 カイザーの場に伏せられていたカードが起き上がった。

 

「チェーンしてリバースカードオープン! 《威嚇する咆哮》! 《リビングデッドの呼び声》!」

「っ、そうくるか……!」

「リビングデッドの呼び声の効果により、俺は《カードガンナー》を蘇生する! そして威嚇する咆哮の効果により、お前はこのターン攻撃宣言できない!」

 

 次々と発動するカード効果。その中でカイザーの蘇生したカードガンナーは即座に破壊されて再び墓地へと戻っていった。

 

「大嵐によってリビングデッドの呼び声は破壊され、同時にカードガンナーも破壊される。そしてカードガンナーが破壊されたことで、俺はカードを1枚ドロー!」

 

 アモンは唸った。大嵐の発動の前に発動させておけば、確かにリビングデッドの呼び声の効果は使用できる。だがそのままでは結局蘇らせたモンスターも破壊されるだけだ。

 それを破壊時にドローする効果を持つカードガンナーを対象とすることでメリットに転換、そのうえ威嚇する咆哮とは。

 

「エクゾディオスは攻撃宣言しなければエクゾディアパーツを墓地へ送れない。考えたな」

 

 それがわかったから、アモンは今のカイザーの対応に唸るほかなかった。これでこのターン、エクゾディアを墓地へ送る手段はアモンにはない。

 しかし。

 

「これでこのターンは繋がった。だが……」

 

 カイザーの表情は晴れない。それも当然というもので、結局は状況の打破には一切繋がっていないのだ。

 ただの現状維持。これではまた次のターンで負けるだけだった。

 

「僕はカードを1枚伏せ、ターンを終了する。わかっているみたいだな、もうあなたに敗北を避ける術はない」

「――まだだッ! 俺のターン、ドローッ!」

 

 引いたカードを見る。そしてさっきのカードガンナーの効果でドローしたカード、手札にあったカード。

 それを見て、カイザーは確信する。まだ希望を捨てるには早いと。

 

「魔法カード《早すぎた埋葬》を発動する! ライフポイントを800支払い、墓地からモンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備する! 俺は《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 

亮 LP:2400→1600

 

 

《サイバー・ドラゴン》 ATK/2100 DEF/1600

 

 

 カイザーの代名詞。サイバー・ドラゴンの再びの登場。しかしアモンの表情に変化はない。今更サイバー・ドラゴン程度でどうにかなるような状況でもないと理解しているためだった。

 

「魔法カード《流転の宝札》を発動! デッキから2枚ドロー! ただしこのターンの終わりに、俺は手札1枚を捨てるかライフを3000ポイント支払わなければならない!」

 

 再び手札確認。そして、望んでいたカードが二枚の中に含まれていたことに力強く頷いた。

 

「《サイバー・ヴァリー》を召喚!」

 

 

《サイバー・ヴァリー》 ATK/0 DEF/0

 

 

 サイバー・ドラゴンを小型化したようなモンスター。ただその姿は開発途中であるかのようであり、目に当たる部分は空洞であり些か不気味な雰囲気を纏っている。

 しかしその攻守はゼロと戦闘では意味がないステータスを持っている。カイザーはそんなサイバー・ヴァリーに一枚のカードを向けた。

 

「更に魔法カード《機械複製術》を発動! 攻撃力500以下の俺のモンスターを選択し、その同名モンスターをデッキから特殊召喚する! 現れろ、《サイバー・ヴァリー》!」

 

 

《サイバー・ヴァリー》 ATK/0 DEF/0

《サイバー・ヴァリー》 ATK/0 DEF/0

 

 

 更に同じモンスターが二体。アモンはそれを訝しげに眺めた。

 

「攻撃力0のモンスターが3体……。なにか強力な効果を持っているということか」

「サイバー・ヴァリーの効果は強力だ。そしてその効果は三つある」

 

 カイザーは頷いてその効果を説明していく。

 一つ目、攻撃対象となった時、自身を除外して一枚ドローしバトルを終了させる効果。

 二つ目、自身と自分の場の表側表示モンスターを除外して二枚ドローする効果。

 三つ目、自分の墓地のカード一枚を、自身と手札のカード一枚を除外することでデッキトップに戻す効果。

 それら全てを聴いたアモンは、眉を寄せた。

 

「どういうことだ。この状況で一体その効果に何の意味がある」

「確かに、普通であればそうだろうな。だが……」

 

 カイザーはデッキに指を伸ばした。

 

「お前に勝つには、無茶をしなければならないと判断したまでだ! サイバー・ヴァリーの二つ目の効果を発動! 自身と場の表側表示モンスター1体を除外して、デッキからカードを2枚ドローする! 俺は2体のサイバー・ヴァリーを除外し、2枚ドロー!」

 

 手札はこれで三枚。その全てを確認し、カイザーはぐっと唇をかみしめた。

 勝つためにはまだ足りていない。だが、諦めるわけにはいかないと前を向く。

 

「いくぞアモン! 俺は《融合》を発動! フィールド上のサイバー・ドラゴン! サイバー・ヴァリーを融合する!」

 

 二体が溶けあうように中空に現れた渦に吸い込まれていく。やがてその体を一つとした時、フィールドには巨大なドラゴンの影が姿を現していた。

 

「現れろ、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》!」

 

 風が吹き荒れ、その中からその巨大な体躯を覗かせる銀色の機械竜。しかしその出で立ちはカイザーが従来使用してきたサイバーのドラゴンたちとは一線を画すものであった。

 円盤を縦にして繋げたような数珠状の胴体は巨体に似合わず華奢な印象を受け、またその顔つきもまた鋭いというよりは丸みを帯びていた。目の部分にはレーダーのごとき丸い球がはめ込まれており、サイバー・ドラゴンの系譜であるのは間違いないのだろうが、どこか異彩を放つ姿であった。

 

 

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 ATK/0 DEF/0

 

 

 見上げるほどの巨大なそのモンスターを背後に従え、カイザーはアモンのフィールドに向けて手をかざした。

 

「このカードが融合召喚された時、このカード以外の自分フィールド上の全てのカードを墓地へ送る。そしてこのカードは融合素材としたモンスターの数だけ攻撃が出来る。だが攻撃する時、ダメージ計算は行わない」

「なんだと? そんなことに何の意味が……」

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンが攻撃した時、相手に400ポイントのダメージを与える!」

「なにっ」

「そしてキメラテック・フォートレス・ドラゴンは融合素材としたモンスターの数だけ攻撃を行うことが出来る!」

 

 それでも今回の素材は二体であるため、総ダメージはわずか800ポイントに留まる。しかし、それでも良かった。これが今の全力ならばそれを続けるのみだ。

 小さいダメージだからといって、その手を選択しない手はいない。それに、これが後にチャンスに転ずることもあるかもしれないのだから。

 

「ゆけ! キメラテック・フォートレス・ドラゴン! 《エヴォリューション・リザルト・アーティレリー》!」

 

 数珠つなぎの円盤、その一つの中心を閉ざしていたシャッターが開き、中から小型の機械竜の首が姿を現す。その頭部が動きアモンの姿を見つけると、口を開いて光を集束させていく。

 そしてあと発射するだけとなったその時。アモンが声を上げた。

 

「罠発動! 《封印防御壁》! 究極封印神エクゾディオスがいる時、相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 エクゾディオスが両手を突き出し、それによってエネルギーの壁が出来上がる。それを前に口へと集まっていたエネルギーは霧散。竜の首は再びキメラテック・フォートレスの体の中へと格納されてしまう。

 

「……ッ、防がれたか……」

「カイザー。僕は既に王となることを心に決めた男だ。この道、この意志、たとえあなたの友を想う心がどれほど強くとも阻むことは出来ない!」

 

 自信と決意に満ちた宣言。堂々と言いきったアモンの姿に、カイザーも僅かに気圧される。しかし、カイザーとて譲れぬもののために戦っている。

 翔や吹雪、明日香……。多くの友のために今、十代たちは戦おうとしている。ならば自分がその助けとならなくてどうする。散っていった仲間たちの想い、そしてこの悲劇を終わらせるために、諦めるわけにはいかなかった。

 

「カードを1枚伏せる。エンドフェイズ、流転の宝札の効果により手札を1枚捨てる……ターンエンドだ!」

 

 今伏せたカード。これがカイザーに残された希望。この発動が通るか否か。そしてその結果次第で、全てが決まる。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 アモンのターンが始まる。アモンは当然のように、エクゾディオスへと手を向けた。

 

「これで終わりだ、カイザー! エクゾディオスでキメラテック・フォートレス・ドラゴンに攻撃! この時――」

 

 今だ。カイザーは即座にディスクのボタンを押す。

 

「その瞬間、速攻魔法発動! 《コマンドサイレンサー》! その攻撃宣言を無効にし、バトルフェイズを終了する! そして俺はカードを1枚ドロー!」

 

 ――きた。

 引いたカードを見たカイザーは逆転の一手となりうるカードが来たことに一瞬気を高ぶらせる。

 だが、まだ足りない。あと一枚。あと一枚が必要だった。

 ならばあとは自分のターンのドローに賭けるしかない。だがそのためには、アモンが何事もなくターンを終えなければならなかった。

 カイザーはアモンの次の手を注意深く見つめた。

 

「まだ粘るとは、その勝利への執念には敬意を表するよ。ターンエンド」

 

 ターンエンド。

 つまり次はカイザーのターンだった。

 カイザーにとっての希望は既に彼の中で形となっていた。その脳裏に浮かんでいるのは一枚のカード。それを引くことだけを考えてデッキに指を乗せた。

 

 ――来い!

 

「俺のターン――ドローッ!」

 

 勢いよく引き抜いたカードを、ゆっくりと表に向ける。そしてその表面に描かれたイラスト、名前を確認した時。

 カイザーの目に強い光が宿り、その口元が一瞬だけ弧を描いた。

 

「俺は速攻魔法《次元誘爆》を発動! 俺の場の融合モンスター1体をエクストラデッキに戻す! そしてお互いに除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

「僕には除外されているモンスターはいない……!」

「そうだ! よって特殊召喚するのは俺のみ!」

 

 カイザーの場にて威圧感を放っていたキメラテック・フォートレス・ドラゴンが光の粒子となって姿を消す。

 代わりに現れるのは、キメラテック・フォートレス・ドラゴンよりもずっと小型の二体のモンスターだった。

 

「出でよ、《サイバー・ヴァリー》よ!」

 

 

《サイバー・ヴァリー》 ATK/0 DEF/0

《サイバー・ヴァリー》 ATK/0 DEF/0

 

 

 これで準備は整った。

 このターンのドローで手札に来てくれたカード。それを手に持ち、カイザーは高らかにそのカード名を宣言した。

 

「魔法カード――《オーバーロード・フュージョン》を発動ッ! 俺のフィールド上、墓地から決められた融合素材モンスターを除外し、機械族・闇属性の融合モンスターを融合召喚する!」

「な、に……?」

 

 カイザーが融合しようとしているのは、カイザーのデッキの中でも屈指の火力を誇る存在だった。サイバー・ドラゴンと機械族という指定で融合召喚されるモンスター。このモンスターの驚異的な点は、融合素材の数に指定がないことだった。

 カイザーは手を空に掲げて声を上げる。

 

「墓地のサイバー・ドラゴンよ! フィールド上、そして倒れていった仲間たちの力を糧に、来いッ! ――《キメラテック・オーバー・ドラゴン》ッ!!」

 

 雷が落ちたかのような轟音が響き、カイザーの場を激しい風が流れていく。その風の中をものともせず徐々に姿を顕現させるメタリックグレーの巨大な竜。

 その首はまるでヒュドラのように複数あり、一つの胴体から四方八方へと伸びている。黒みがかった装甲に揺れる首の影が落ちて、不気味にその体躯を彩る。

 七つの首を持つそのドラゴンがカイザーの背後で一斉に雄叫びを上げれば、吹き荒れていた風は収まり、空気を震わせた衝撃がアモンの肌を突き刺した。

 

 

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK/? DEF/?

 

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンはサイバー・ドラゴンと機械族モンスターでのみ融合できる! そしてその攻撃力と守備力は融合素材としたモンスターの数×800となる! 融合素材となったモンスターの数は――!」

 

 サイバー・ドラゴン、プロト・サイバー・ドラゴン、サイバー・ツイン・ドラゴン、カードガンナー、サイバー・ヴァリー3体。

 それはすなわちキメラテック・オーバーが持つ首の数に他ならない。

 

「7体! よってその攻撃力は5600となる!」

 

 

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK/?→5600 DEF/?→5600

 

 

「エクゾディオスを上回っただと……!」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンが更に力強く咆哮する。だが、キメラテック・オーバー・ドラゴンの恐ろしさはここからだった。

 

「更に! キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材としたモンスターの数だけ相手モンスターに攻撃できる!」

「な、なんだと!? ……いや、待て……!」

 

 ふとアモンは気づく。もしあの時カイザーが800ダメージというあまり意味がない効果しかなかったはずのキメラテック・フォートレス・ドラゴンを融合召喚していなかったら。

 当然次元誘爆は使えなかっただろう。となれば、サイバー・ヴァリー二体はキメラテック・オーバー・ドラゴンの素材に含まれていなかったはずだ。

 その場合のキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は4000。エクゾディオスを超えるには至らない値だ。

 

「まさか、ここまで計算してのことか!?」

「いや、オーバーロード・フュージョンと次元誘爆を引けたのは偶然だ。さすがに未来がわかっていたわけではない」

 

 だが、とカイザーは続ける。

 

「デッキは俺の心に、想いに、応えてくれた! ただそれだけのことだ! そしてわかっているな、アモン! エクゾディオスの効果、その欠点を!」

 

 カイザーに言葉を投げかけられたアモンは、その表情を苦々しいものに変えて、絞り出すように答えた。

 

「ッ……エクゾディオスは、破壊されないモンスター……!」

「そうだ! それゆえエクゾディオスを倒すことは出来ない! だが――」

 

 それは破壊できないというだけだ。発生するダメージがゼロになるわけではない。

 つまり。

 

「戦闘ダメージは受けてもらう!」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンがその口腔に莫大なエネルギーを溜めこんでいく。一体だけでも驚異的なその攻撃が、七つも存在しているという事実に、アモンはただ厳しい顔でキメラテック・オーバー・ドラゴンを睨むことしか出来なかった。

 そしていよいよカイザーが手を上に向け、アモンのフィールドに立つエクゾディオス目がけて振り下ろすと指を突きつけた。

 

「ゆけ、キメラテック・オーバー・ドラゴン! 《エヴォリューション・レザルト・バースト》第一打!」

 

 直後発射された一筋の閃光がエクゾディオスへと直撃する。エクゾディオスは両腕を交差させて耐えるも、その衝撃は彼の背後にまで流れてアモンへと襲い掛かった。

 

「ぐ、ぅうッ!」

 

 

アモン LP:4000→2400

 

 

 閃光が過ぎ去った時。破壊耐性を持つエクゾディオスは無事だった。しかしアモンのライフはエクゾディオスの攻撃力を上回る攻撃を受けたことで大幅に減少。

 だが、攻撃はまだこれだけでは終わらない。

 

「続いて第二打! 《エヴォリューション・レザルト・バースト》ッ!」

 

 二つ目の首から放たれた一撃が再びエクゾディオスに襲い掛かる。同時にアモンにも余波が及び、そのライフを削り取っていく。

 

「ぐ、ぁあ……ッ!」

 

 

アモン LP:2400→800

 

 

 一度の攻撃で減らされるライフの値は1600。そしてアモンの残りライフは800。キメラテック・オーバー・ドラゴンに残された攻撃回数はあと、五回。

 アモンは衝撃によってふらつく体に力を入れて立ち、カイザーの場にて次の一撃の充填を始めたキメラテック・オーバー・ドラゴンを見据えた。

 

「……馬鹿な……王となる、この、僕が……ッ」

 

 エコー……。アモンの脳裏によぎる最愛の人。その犠牲の上に手に入れた力が今、敗れようとしていた。

 アモンは、ただ呆然と立っていた。

 

「最後だアモン! 《エヴォリューション・レザルト・バースト》最終打ァッ!!」

 

 カイザーの最後の攻撃が迫る。キメラテック・オーバー・ドラゴンの三つ目の首から放たれる光がエクゾディオスを包み、そしてアモンをもその光の中へと誘った。

 体に走る衝撃。同時に頭の中に流れていく記憶。理想を抱き、彼女と過ごした日々が蘇る。自分の願いは彼女の願いだった。だからこそアモンは自分の願いを叶えたいと願った。それが彼女の喜びであると知っていたからだ。

 だがそれも今、終わりを告げる。デュエルに後悔はない。しかし、理想を叶えられない事だけが心残りだった。

 

 ――エコー、君を犠牲にしたというのに、僕は……。

 

 その心残りが最後の瞬間、アモンの口をついた。

 

「く、エコー……! すまない……エコーッ……! う、ぉおおぉおッ……!」

 

 最後の一撃によって大きく体勢を崩し、アモンの体は激しく吹き飛ばされる。地面を転がり、土埃を上げながら、アモンはうつ伏せになり、ついにそのライフを散らせたのだった。

 

 

アモン LP:800→0

 

 

 そして、アモンの体が光となって消えていく。デュエルで敗れた者の末路は決まっている。消えていくデュエルの残滓の向こうからアモンが消えゆく姿を見ていたカイザーは、見届けると踵を返した。

 その結末をカイザーは忘れていたわけではない。だがデュエリストとして、そして男として、決意を持って臨んだアモンに全力で応えないという選択をカイザーは持っていなかった。

 その結果がこれだというのなら、自分はアモンの命を背負って生きていく。それがカイザーの覚悟だった。

 

 カイザーはクロノスや影と戦っていたはずのエドと三沢の元へ向かった。すると、やはり二人がかりであったことも助かってか、二人は既にデュエルを終えていた。

 寝かせられたクロノスをジムとオブライエンが介抱し、エドと三沢はその横に立っている。そんな四人にカイザーは近づいていく。

 

「クロノス教諭は無事だったか?」

「カイザーか。影も消えたところを見ると、勝ったんだな」

「ああ」

 

 エドとカイザーの言葉は少ない。決着がついたことでアモンがどうなったのか、追求しないでいてくれるのがカイザーには有り難かった。

 続いて三沢が口を開く。

 

「カイザー、クロノス先生は大丈夫だ。デュエルによって消滅したのはクロノス先生を操っていた意識のみ。先生には異常は見当たらない」

「そうか、よかった」

 

 本心から安堵し、カイザーはようやく肩の荷が下りたとばかりに息を吐いた。

 そして十代たちが消えていった扉を見つめる。エドと三沢、ジムとオブライエンもまたカイザーに続くようにして扉を見つめた。

 

「――勝ってこい。頼んだぞ、十代、遠也……」

 

 それは願いであり、心配であり、激励であった。彼らの行く手に立ち塞がるのは全ての元凶、ユベル。その強大さは想像を絶するはずだった。

 だが、十代なら。遠也なら。そう思わせてくれる何かがあの二人にはあった。なら、あとは彼らという心強い仲間のことを信じて待つだけだ。

 そう結論づけると、疲れた体を揺らして、カイザーたちは地面に倒れるようにして座り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 カイザーたちと別れて扉の中へと突撃してから数分。パラドックスのD・ホイールは霧に包まれた内部を順調に直進し続け、俺たちはユベルが待っているだろう奥へと進んでいた。

 その間、やはり相手がユベルということで思うところがあるのか十代は口を開かなかった。合わせて俺やマナも何も話すことはなかった。やはりユベルという存在の厄介な点、そして強さを俺たちは知っているからだ。

 一筋縄ではいかない相手だ。十代が負けるとは思わないが、それでも油断していい相手ではない。パラドックスもレインもそんな俺たちの緊張を感じ取ったのか、それとも話す必要性を感じなかったのか、口を閉ざしたままだった。

 ただモーメントの回転音だけが響く道なき道。ただひたすらに進み続けた先で、何か変化を見つけたのかマナが叫んだ。

 

『あれ見て!』

 

 前方を指さすマナにつられて俺も目を凝らして前を見る。すると、立ち込めた霧の向こうにうっすらとそびえる何かが見えた。

 パラドックスがアクセルを開ける。それによって徐々に近づいてくるその何かの全貌が明らかになった。

 塔だ。白銀の鉄板をつぎはぎに付け合せて作り上げたような、円柱状の大きな塔。それが何かの正体だった。

 

「あそこに、ユベルが……」

 

 背後から十代の声が聞こえる。いよいよ最後の決戦だ。その緊張、闘志が声からにじみ出ているような、そんな力のこもった声だった。

 

「あんまり気負うなよ、十代。お前はお前のデュエルをすればいいんだからな」

「ああ。元々考えるのは得意じゃないんだ。なら、俺の出来ることをするだけだぜ」

 

 そう言い切る十代に、俺は頼もしさを感じつつそうだなと頷いた。

 十代に対して俺は何も心配することはなかった。もう長い付き合いだ。無条件にコイツのことを信じられる、そんな言葉にはしない確信が互いにあると感じ取っていた。

 今の言葉を聞いて、気負いがあるわけでもないと知れた。なら、もう本当に俺が言えることは何もない。あとはただその時を待つだけだ。

 そう思って近づく塔に視線を戻した。

 

 

 

 

『――ようやく、見つけましたよ』

 

 

 

 

 声が響いた。

 同時に、D・ホイールの前方に現れる真っ白な穴。

 パラドックスがハンドルを切る。

 回避は間に合わない。

 咄嗟にそう判断した結果、俺は反射的に背後の十代を地面に向かって振り落としていた。

 

「遠也――!?」

 

 十代が落ちれば、その後ろに座っていたレインも落ちる。

 マナだけは飛んでいるので影響はなかった。

 地面に転がる十代とレイン。とりあえず大きな怪我はなさそうだとそれだけを確認してほっとした瞬間、俺はパラドックスとマナと共に白い穴の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

 D・ホイールが辿り着いた先は、真っ白な空間だった。パラドックスの駆るD・ホイールが急ブレーキをかけて停止する。その衝撃で転がるようにホイールから降りた俺は、すぐに顔を上げて後ろを振り返った。

 俺たちが通ってきた穴は既にない。戻ることはできなさそうだった。隣にはマナがいて、視線をかわして互いが無事であることを悟るとひとまず胸を撫で下ろす。

 じゃあパラドックスは、と運転をしていたパラドックスの姿を見ると、パラドックスはどこか恐れを含んだような驚愕の目で遥か前方を見つめていた。

 俺はこれまで見たことがないパラドックスの表情に驚き、そしてその視線の先を追ってパラドックスが見ている者を確認しようとして――。

 

 同じく、絶句した。

 

 

『異なる次元に行っていたとは、いささか驚きましたよ。パラドックス』

 

 

 そいつは浮かんでいた。機械づくりの卵のような不思議な形状をした揺り籠のような何か。その中で仮面をかぶった何者かが逆さまになって俺たちを見ていた。

 

『それもレイン恵を直し、皆本遠也と行動を共にしている』

 

 マナはそいつを怪訝な顔で見ている。きっと、俺とパラドックスがこんなにも驚いている理由を、マナは理解できないだろう。

 だが、それも仕方がない。何故なら目の前の存在は今はまだ生まれてもいない男だからだ。

 未来における最重要人物。レインの上司にしてパラドックスの同志。そして破滅の未来を救済するべく過去改変を目指した5D’sにおけるラストボス。

 

『さて』

 

 遠い距離をゆっくりと詰めつつ、そいつは俺に目を向けた。

 

『はじめましてですね、皆本遠也。あなたに会いたいと思っていました』

 

 Z-ONE(最後の一人)。ゾーンがそこにいた。

 

 

 

 

 

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