死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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15.厨房チーフの本気

朝。いつものようにインターホンが鳴り、玄関を開けると――

 

「おはようございます翔さん!」

 

「おっはー翔!」

 

「おはよ、翔くん!」

 

朝早くから皆と会議があるからと急いで家を出た菜々を含め、安定のヤンデレ3人セット+笑顔フルスロットルで登場である。

まだ眠気でボケてる頭に、テンションMAXの3人のキラキラと眩しい笑顔が突き刺さる。すんごい嬉しいけどちょっとキツイもんがあるな。

 

「お、おはよう。なんか今日テンション高くない?」

 

そう言うと、3人は顔を見合わせてからニヤッと笑った。

 

「そりゃもちろん、文化祭準備本格始動の日ですから!」

 

菜々が胸を張ってそう宣言する。

制服の袖からメモ帳がチラっと覗いてる。絶対今日の段取りとか書いてあるやつだ。

 

「今日はメニュー案決めと仕込みの役割分担だよ?厨房チーフとしては気合い入るでしょ?」

 

結衣は自分の胸をポンっと叩いてから、俺をじろっと見る。

「翔、ちゃんと働けよ?厨房に顔出したら追い返すからな。あそこは私の城だ」

 

「いや俺の担当接客だからな?元々入る予定ないし」

 

「じゃあ、味見役としてだけ許可する」

 

「結局入るんだな」

 

やれやれと肩をすくめていると、最後に夏樹がニヤっと俺の襟をつまむ。

 

「翔はチャイナドレス担当だからね。ちゃんと体絞っときなよ?」

 

「だからなんで俺だけチャイナなんだよ!」

 

朝からツッコミフル稼働のまま、俺達は学校へ向かって歩き出した。

 

 

ホームルームが終わると同時に、担任が黒板の前に立った。

 

「よーし、朝日ヶ丘高校一年二組、文化祭準備を開始する! 出し物はメイド喫茶。みんなもう覚悟はいいな?」

 

「「「おーーーー!」」」

 

クラスのテンションは高い。

黒板にはすでに「厨房」「接客」「装飾」「会計・仕入れ」「宣伝」の文字が並び、それぞれ名前が書き込まれていた。

 

「じゃあ、細かいとこは担当ごとに決めてけ。厨房は――黒瀬と如月が中心な」

 

「はい!」

 

立ち上がった菜々と結衣は、同じタイミングで返事をした。

すかさず、クラスの何人かから「うわぁ…」「ガチなやつだ…」と小声が漏れる。

うん、俺もそう思う。

 

「厨房班のメンバーは、黒瀬と如月のところ集まれ〜」

 

数人の女子と、数少ない料理好き男子が菜々たちの席周辺に集まる。

結衣はノートを開き、さらさらとペンを走らせながら段取りの確認を始めた。

 

「えっと、アレルギーとか材料のコストとかも考えないとだし……

 うちのクラス、甘いの苦手な人が何人かいるから軽食もほしいな」

 

「流石結衣さん、視野が広いです!」

 

菜々が素で感心してる。

普段はバチバチなのに、こういうとこはちゃんと認め合うのな、こいつら。

 

「じゃあさ、スイーツ組と軽食組で分けようよ。

 パンケーキとかクッキーとか甘いのは菜々が得意でしょ? 私、パスタとかキッシュ作れるし」

 

「いいですね! じゃあ甘い担当、私が責任持ってやります!」

 

あれ? なんかちゃんと会議してる…?

いつもみたいに「翔さんに食べてもらう前提」で言い合いしたりしないの…?

そんな事を思いつつ見守っていたら――

 

「……と、いうわけで。翔さんが最初に食べるのは私のパンケーキです」

 

「早かったな本音出るの」

 

「じゃあ私は“二回目と三回目”狙いでいい。最後に残る味が私のってことで」

 

いやどこで張り合ってんだよ。

その瞬間、厨房班の女子たちは「はぁ〜〜」とため息をついていた。

 

「はいはい、そういうのはあとでやれ〜」

 

向こうから柊が手をひらひらさせて俺の方へ来る。

 

「翔、お前さ。今日の放課後、買い出しメンバーだからな」

 

「買い出し?」

 

「厨房の材料の見積もり。スーパーでどれくらいかかるか、一回見に行くんだとよ。

 で、菜々は仕切りとリスト作り。結衣はレシピ調整。

 お前は……」

 

柊がニヤッと笑う。

 

「結衣と一緒にスーパー巡りな」

 

「は?」

 

「荷物持ち&味のイメージ確認だとよ。厨房チーフ直々の指名」

 

そう言って、柊は結衣の方を親指でさす。

視線を向けると、結衣はわざとらしく目をそらした。

 

「べ、別に翔じゃなくても良かったけど!? …最初から知ってる人の方が頼みやすいだけで! 変な意味はないから!」

 

「誰も何も言ってねぇよ」

 

顔真っ赤にするなよ…。逆に意識するだろ。

 

 

放課後。

 

黒板に書かれた「文化祭準備」の文字の下、各担当ごとに移動が始まる。文化祭期間は部活は自主練となる為、しばらく部活はお休みだ。

 

装飾組は教室の後ろで折り紙と画用紙を広げ、

宣伝組は廊下でポスターのラフを描いてる。

 

そんな中、俺と結衣はスーパー用のリストを受け取り、昇降口へ向かっていた。

 

「響は?」

 

「なんか先生に呼ばれてた。運動部代表で何か手伝い頼まれてるっぽい」

 

俺の説得により買い出しメンバーに半ば強引にぶち込まれた響は、体育教師に捕まり、運動部の雑用に駆り出されていった。

そんなわけで、今日の買い出しはまさかの二人きりである。

柊の野郎…絶対なんか仕組みやがったな…。

 

「……なんか、久々だな。翔と二人で帰り道行くの」

 

並んで歩く歩幅が、少しだけゆっくりになる。

 

「毎日誰かしらいるからな。だいたいヤンデレセットか、柊と響付き」

 

「ヤンデレセットて言うな。それ私も入ってるんだが?」

 

「自覚はあるんだな」

 

「もちろん」

 

胸を張るな。

そんな他愛ないやり取りをしていると、駅前のスーパーが見えてきた。

 

 

自動ドアが開くと、冷房の風と一緒に、どこか油と惣菜の香りが鼻をくすぐる。

 

「うわぁ……なんか一気に“主婦感”する場所来ちゃったな」

 

「こういうところでテンション上がるようになったら、もう戻れないって感じするな」

 

俺がそう言うと、結衣はクスッと笑った。

 

「じゃあ、私もう戻れないかも。

 この棚の配置とか、特売シールとか見るの普通に楽しいもん」

 

「お前……」

 

なんか、嫁力高くない?

カゴを二つ取り、一つを結衣に渡す。

 

「じゃあ行くか。とりあえず粉とバターと卵と牛乳と……」

 

「バターは有塩と無塩どっちにする?」

 

「無塩じゃね? 焼き菓子用って書いてあるし」

 

「正解」

 

ちょっと嬉しそうに言う結衣。

なんだこの小テストみたいなやり取り。

 

「砂糖はグラニュー糖と上白糖、どっちメインにする?」

 

「パンケーキなら上白糖メインかな。グラニュー糖だけだと甘さが軽すぎるっていうか、ふわっとしないっていうか」

 

「お、詳しいじゃん」

 

「……まぁな」

 

口元だけニッと上げて、ちょっとだけ得意そうな横顔。

こういうところ、前の人生の結衣には見せてもらえなかった気がする。

もしくは、俺が気づいてなかっただけか。

 

「ね、翔」

 

砂糖コーナーを離れようとしたとき、不意に結衣が立ち止まった。

 

「文化祭さ。絶対成功させような」

 

「当然だろ。ここまで準備して失敗したら泣くわ」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

結衣は少し俯き、カゴの取っ手をぎゅっと握りしめた。

 

「……普通じゃない私たちのクラスだけどさ。

 翔が、“楽しかった”って笑える文化祭にしたい」

 

いつもの勢いはない。

けど、言葉の中身はやたらと重い。

 

「なんだよそれ。俺、そんなに笑ってないように見えるか?」

 

「時々、ね」

 

そう言って結衣は前を向いた。

 

「だから、厨房チーフとして宣言しとく。

 私が作るの、全部――翔が笑って食べてくれるやつにするから」

 

その言葉に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

それと同時に始めてみる結衣の新たな一面に心臓の音が加速する。

 

「……じゃあ、こっちも宣言しとくわ」

 

買い物リストをひらひらと振ってみせる。

 

「当日、結衣が作ったやつ全部完売させる。

 看板係っていうか、接客係としてな」

 

「っ……!」

 

結衣の肩がビクッと震えた。

 

「な、何それ。そんなこと言われたらさ……

 ……頑張るしかないじゃんか」

 

耳まで真っ赤にしながら、けど口元は笑っている。

その笑顔を見て、俺も知らないうちに笑っていた。

 

 

買い物を終えて外に出ると、空は少しオレンジ色を帯び始めていた。

 

「このあと時間ある?」

 

袋を持ち替えながら結衣が聞いてくる。

 

「あるけど。なんか用事?」

 

「今日買った材料で、試作作りたい。

 厨房チーフとしては、ちゃんと一回練習しておきたいし」

 

「おー、いいじゃん。手伝おうか?」

 

「翔は……食べる係」

 

即答である。

 

「試食専門ってことね。悪くないな」

 

「でしょ? ……その、さ」

 

少し言いづらそうにしてから、結衣は続けた。

 

「ウチ、来る? 台所、少し使わせて欲しいってお母さんに言っとくから」

 

心臓の鼓動が一瞬だけ加速した。

結衣の家に行くのは、たぶんこれが人生二回目だ。

前の人生を含めても、ほぼ初めてのようなものだ。

 

「……邪魔じゃなきゃ、行く」

 

「邪魔なら誘ってないっつの」

 

少しだけ嬉しそうな、でも照れも混ざった笑い顔。

それだけで、さっきまでの疲れがどこかへ消えていく気がした。

 

 

如月家の玄関をくぐると、ふわっと甘い匂いと柔らかい空気が出迎えてくれた。

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔します、じゃないだろ〜?もっと自然にしていいのに」

 

「いや、友達の家だぞここ」

 

「幼馴染の家でしょ」

 

結衣のお母さんも顔を出し、「いらっしゃい翔くん」と笑って迎えてくれた。

俺のことは小さい頃から知っているからか、妙に安心する。

 

「台所使っていいですか?」

 

「いいわよ〜。二人とも火傷だけはしないでね」

 

「気を付けます」

 

台所に立つ結衣は、制服の上にエプロンをつけていた。

淡いクリーム色の、そのエプロン姿が妙に似合ってる。

 

「何ニヤニヤしてんの」

 

「いや、似合ってるなって」

 

「っ……///」

 

分かりやすく固まるな。

耳まで真っ赤になった結衣は、慌ててボウルとホイッパーを取り出した。

 

「ほら、さっさと生地混ぜるよ! ボーっとしてると叩くよ!」

 

「暴力で軌道修正すな」

 

レシピを横に置き、小麦粉と卵と牛乳、砂糖を順番にボウルに入れていく。

 

結衣の手付きは慣れたもので、卵を片手で割る動作もスムーズだった。

 

「おー、かっけーな」

 

「女の子ポイント稼いでる?」

 

「まぁ、プラス二十点ってとこだな」

 

「満点いくまでやってやろうか」

 

ニヤッと笑いながら、今度は俺にホイッパーを渡してきた。

 

「混ぜるのは翔の番」

 

「え、俺?」

 

「さっき“試食専門”って言ったけど撤回。

 手伝ってくれた方が嬉しいから」

 

その一言に、変なところをぐっと掴まれる感じがした。

なんだよその言い方。

 

「……了解っす」

 

ボウルを抑える結衣の手と、ホイッパーを握る俺の手が近づく。

ふと、指先が触れて、結衣の肩がビクっと跳ねた。

 

「ご、ごめん」

 

「い、いや……全然。……ちょっと冷たかったからビックリしただけ」

 

うそつけ。

お互い顔をそらしたまま、生地を混ぜる音だけがキッチンに響いた。

 

やがて、フライパンにバターの香りが広がり、丸い生地が焼けていく。

こんがりとしたきつね色、ふんわりとした膨らみ。

 

「うまそ……」

 

「まだ味見しちゃダメ。全部焼いてから」

 

何枚か重ねて、ベリーソースと粉糖をトッピングする。

皿の上には、さっきスーパーで買った苺とブルーベリーが綺麗に並べられていった。

 

「よし。試食タイム」

 

小さなフォークを二本用意して、一つを俺に渡す結衣。

 

「いただきます」

 

一口サイズに切って口に運ぶと、ふんわりした生地とベリーの酸味、そしてほんのり甘いクリームが混ざり合った。

 

「……うまっ」

 

思わず素の感想が口から漏れた。

 

「お、いい反応」

 

「普通に店で出せるレベルだろ、これ。

 ってか俺の人生で食ったパンケーキの中でもかなり上位だわ」

 

「……そっか」

 

結衣はほんの少しだけ目を細めて、息を吐くように笑った。

 

「じゃあ、当日もこれ出そうかな」

 

「出すべきだろ。菜々に負けないくらいの看板メニューになるんじゃね?」

 

「……菜々」

 

その名前を出した瞬間、結衣の表情がほんの僅かに揺れた。

 

「どうした?」

 

「いや……なんでも」

 

フォークをくるくると回しながら、結衣は少し黙り込む。

そして、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「翔」

 

「ん?」

 

「私さ。負けたくないんだよ」

 

「誰に?」

 

「誰にって……バカ。言わせんな」

 

きゅっと皿の端を掴んで、結衣は続けた。

 

「菜々にも。夏樹にも。

 あんたの周りの、全部の“特別”に」

 

言葉が、まっすぐ俺の胸に刺さった。

 

「翔にとって……私が、“幼馴染だから”って枠で終わるの、やだ」

 

そこまで言って、結衣は自分でハッとしたように口を押さえた。

 

「……あー! 今の無し! 忘れて! パンケーキうまいねって話!」

 

「いや無理だろそれは」

 

「忘れろって言ってんのに!」

 

フォークで俺の腕をつついてくる結衣。

だけど、その瞳はどこか不安そうだった。

 

「結衣」

 

俺は深く息を吸い、言葉を選ぶ。

 

「今すぐ答え出せるようなやつじゃないけどさ」

 

「……」

 

「少なくとも、“幼馴染だから”で雑に扱うつもりはない。

 だから、そんな顔すんな」

 

結衣の肩が、少しだけ震えた。

 

「……ずるいな。そういう言い方」

 

「そっちもだろ。急に爆弾投げてきて」

 

お互い変な顔になって、ふっと笑いが漏れる。

緊張が解けた空気の中で、皿の上のパンケーキはあっという間に消えていった。

 

 

帰り道。

空はすっかり暗くなり、街灯がぽつぽつと灯っていた。

 

「送ってくれてありがと」

 

家の角まで来たところで、結衣が立ち止まる。

 

「なんだよ急に他人行儀だな。いつもは勝手に入ってくるくせに」

 

「今日は……なんか、特別扱いされた気がするから」

 

「パンケーキ試食? あれ厨房チーフの仕事だろ」

 

「違うっての」

 

そう言って、結衣は前を向いたまま言う。

 

「ありがとね翔。

 今日のことがあるから、多分私、文化祭全力で頑張れる」

 

「おう。期待してる」

 

「当日、私の作ったやつ完売させてよ」

 

「任せとけ。看板チャイナとしてな」

 

「最後の一言いらない!」

 

笑いながら、結衣はひらひらと手を振って住宅街の街並みへと消えていった。

 

 

家に帰ると、リビングからいい匂いがした。

どうやら母さんと菜々が一緒に夕飯を作ってくれていたらしい。

 

「おかえり翔さん!」

 

「あら、遅かったじゃない」

 

二人に迎えられながら、俺は買い出しの袋をテーブルに置く。

 

「結衣ちゃんとこで試作してたんでしょ?」

 

母さんがニヤニヤしながら言う。

どこまで筒抜けなんだ情報網…。

 

「う、うん。パンケーキの試食してた」

 

「あらいいじゃない。文化祭楽しみね〜」

 

母さんはご機嫌で鼻歌交じりにキッチンへ戻っていった。

問題は――

 

「……どんなパンケーキだったんですか?」

 

菜々が笑顔で聞いてくることである。

笑顔なんだけど、目が全然笑ってない。

 

「ふ、ふわふわで、ベリーがのってて……」

 

「へぇ……それはそれは、美味しそうですねぇ……

 “翔さんが人生で食べたパンケーキの中でも上位”って感じでした?」

 

「聞いてたのかよ!」

 

どこまで情報漏れてんだよ結衣。

 

「ふふふ。厨房チーフも本気のようですね。

 なら、こちらも本気で行きますか……」

 

「な、菜々さん? なんか怖いんですけど?」

 

「いえいえ? ただ、翔さんの“笑顔の数”は、私も負けたくないなぁ〜って思っただけですよ?」

 

サラッと言うなそんなことを。

完全にさっきの結衣と同じこと言ってるぞこの子。

あー……

ほんと、俺の周りはどうしてこうも全力なんだろう。

 

「……ま、いっか」

 

文化祭まであと少し。

ドタバタと、甘くて、ちょっと怖くて。

それでも、今はこの賑やかな日常の中に浸かっていたかった。

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