死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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19.2日目の散歩道

文化祭一日目は嵐みたいな勢いで過ぎていった。

 

チャイナ姿で人に囲まれ、写真を撮られまくり、厨房は戦場で、最終的に売上は一年トップ。

あの日の騒ぎが夢みたいに思える──そんな翌朝だった。

 

二日目の教室前。

 

昨日と違うのは、一つだけ。

俺と柊も響も、今日は 制服姿。

 

「チャイナは三日目の後夜祭でサプライズ投入よ〜!」

 

夏樹の決定により、今日は落ち着いた接客スタイルらしい。

 

……まぁ昨日の惨状を見るに妥当だ。

 

「翔さん!今日の配置表です!」

 

菜々が走ってきて紙を差し出す。

 

クラス全体の当番交代表。厨房、ホール、会計と時間ごとにローテが組まれている。

 

1限〜2限:響ホール / 菜々厨房 / 柊会計 / 翔、結衣フリー

3限以降は交代しながら──

と書かれていたが、

 

「え、俺が一番最初“フリー”なの珍しくね?」

 

そう、俺は今日の開店直後、 自由枠だった。

 

「理由は単純、翔くんが動きすぎると昨日みたいにまたパニックになっちゃうでしょ?」

 

夏樹がカトラリーを並べながらそう言った。

 

……いやなんでそんな心配されてんだ俺。

 

「私もフリーだし回りたいとこ一緒に行こうぜ」

 

結衣が胸をポンと叩きそう言う。その言葉に一瞬夏樹と結衣からの殺意を感じるが、こればっかりは割り当てを決めたのは自分達だから仕方ない。

大丈夫な…はず?

 

「てか、二日目は来場者少し落ち着くはずだし、翔くんは外巡回しながら宣伝お願い」

 

夏樹が追加で言う。

 

「私が厨房回すので羽根伸ばしに気になる所行ってきてください!」

 

エプロンの紐を結びながら菜々がそう言った。その目はやる気に満ち溢れていた。

 

自由──その言葉に少し肩が軽くなる。

 

「翔!俺と柊は地獄の食券計算だ、頼む逃げるなよ!」

 

響は名札を逆につけたまま走っていく。

柊はレジ袋抱えて既に戦死の目をしてた。

 

「やべぇ、仕入れ表と注文表統合されてねぇ。なんだこの地獄」

 

「昨日の売上見ろよ、誇れ」

 

「嬉しいけど面倒は面倒だろ」

 

文句を言いつつも笑ってた。

 

──みんな、昨日より強く見える。

 

 

「翔」

 

ふと呼ばれて振り返ると、

白エプロン姿の結衣ではなく制服姿に身を包んだ結衣がすぐそばにいた。

 

「今日、回りたいクラスあるなら言って?午後の厨房は私一人で行けるし、夏樹と菜々も回らせてあげたいしな」

 

「一人で大丈夫か?」

 

「昨日の量と流れ、全部メモした。問題なし」

 

結衣は自信ありげに胸を張った。

 

「だから翔は私と一緒に午前は羽伸ばそ」

 

その言葉が少しだけ胸に刺さる。

昨日の賑やかさと笑顔、影で聞いた「問題児クラス」という声。

 

あれが喉に引っかかったままだった。

 

──それでも。

 

「じゃあ、屋台とか回ってもいいか?」

 

せっかくの青春イベント!楽しまなきゃ損ってやつだ!1度目の人生では楽しめなかったし今回こそ!

 

「…てか回るのほんとに私でいいの?」

 

先程は自信満々に一緒に回ろうと言ってきた結衣だったが、今は顔を赤らめ俯きながらそう言った。

 

「皆忙しいだろうし、そもそもさっき誘われた時点で俺は結衣と回る気満々だったぜ」

 

結衣の瞳がふっと揺れた。

 

「うん。行こ。絶対だからな」

 

小さな声なのに、すごく強く響いた。

 

 

開店一時間。

 

今日は昨日ほどの殺到ではなく、適度な賑わい。

それでも行列は細く途切れず、厨房は結衣が手際よく指示を飛ばしていた。

 

「ホットサンドできた!菜々テーブル5お願い!」

 

「了解です!柊さん、伝票そっちにも置いときますね!」

 

夏樹は装飾の微調整、

響と柊は数字と格闘しつつもレジを回す。

 

昨日より空気は軽い。

だからこそ、俺は一度教室を出た。

廊下には他クラスの呼び込みの声。

 

クレープ、占い、射的、お化け屋敷、演劇。

模擬店の看板がひしめいて、

俺の心は少しずつ浮き上がっていく感じがした。

 

(……普通の文化祭ってこんなだったな)

 

一日目はずっと店内にいた。

だから見れなかった景色が目の前にある。

 

 

厨房の扉をノックすると、他のクラスメイトに指示を飛ばしていた結衣が振り向いた。

 

「翔、いいタイミング!ちょうど色々教え終わったとこ!」

 

「厨房は大丈夫か?」

 

「大丈夫。菜々がいる。それに柊には“午後のピークまでに戻れたら戻る”って言っといた」

 

そう言い制服の袖を整える姿は、昨日の厨房チーフとしての必死さとは違って柔らかかった。

 

「じゃ、行こっか」

 

並んで廊下に出る。

 

ほんの数センチの距離なのに、

昨日より距離が近い気がした。

 

 

「翔、行こ」

 

そう言い向かう最初の目的地は──

 

一年一組企画のお化け屋敷

通称、冥界通路

 

ビニールで区切られた薄暗い教室。入口で手続きを終わらせ入ろうとすると、中から低い呻き声とチェーンの音が響いてくる。

 

「……嫌な予感しかしない」

 

「大丈夫、翔が前歩け」

 

「お前は後ろで震える気満々だな」

 

案の定、入って三秒で結衣が俺の袖を掴んだ。即落ちとはまさにこの事である。

 

ガサッ

 

角の奥から白い手が伸びる。

 

「ひぃっ……!」

 

結衣が俺の背にしがみつく。

 

掌の温度が服越しに伝わり、

鼓動が一瞬跳ねた。

 

「怖いなら無理しなくていいぞ」

 

「無理。行く。……だって今日は二人で回るって決めたから」

 

その声には小さな震えと、同じくらいの決意があった。

 

出口付近──骸骨が飛び出し、

結衣はぎゅっと俺の腰に腕を回した。

 

距離が近い。息まで近い。

 

「だ、大丈夫…?」

 

「だ、大丈夫じゃない……っ」

 

でも離れない。

むしろ服を掴む手に少し力が入る。

外へ出た瞬間、結衣は息を吐いて、

 

「……守ってくれて、ありがと」

 

俯いたまま、袖を引いたまま。

俺はその手を優しく外しつつ、小さく笑った。

 

「任せろ、お化け屋敷得意なんだ」

 

耳まで赤くなった結衣はその言葉に軽く頷くと、俺の袖を引き次の目的地へと向かう。

 

 

次の目的地は屋台エリア。

 

グラウンドは美味しそうな屋台の匂いと湯気で満ちていた。

クレープ、焼きそば、たこ焼き、焼き鳥、様々な屋台が軒を連ねて居たが、その中でも一際焼きそばとクレープは大人気だった。

 

「結衣はクレープと焼きそばどっち食べたい?」

 

「…甘いの、食べたい」

 

列に並ぶと、前の女子たちがひそひそ声。

 

「え、あれ翔じゃない?チャイナの」

「隣の白エプロンの子、昨日厨房の……付き合ってる?」

「距離近くない…?」

 

結衣がモジモジ袖を摘む。

声に反応して少し肩を寄せると──

 

「ちょ、近い……」

 

「嫌か?」

 

「嫌じゃ、ないけど…」

 

声が消えていく。

並んでいるだけなのに心臓が妙に忙しい。

 

クレープを受け取る。

ダブルベリー、生クリーム多め。

結衣好みのやつ。

 

「はい」

 

「……なんで分かったの」

 

「昨日厨房でベリーばっか使ってただろ」

 

一瞬見上げる瞳が、

嬉しさでほんのり揺れた。

 

「食べる?」

 

そういい自身の食べていたクレープを俺の口元に突き出してくる。

 

「一口だけ」

 

そう言うと結衣は俺の口へとクレープを運んだ。

 

なんか…間接キスとかそういう意識は濃くしない。

でも確かに何かが胸の奥で鳴った。

 

「…美味しい」

 

「だな」

 

短い会話なのにまるでクレープのように甘かった。

 

 

「軽音部、もうすぐ始まるって!」

 

結衣が前のめりに走る。

中庭エリアでは軽音部のライブが始まっていた。

 

人だかりの中へ。

スピーカーの低音。

ギターのキラつくストローク。

 

その全てが俺の感覚を刺激した。

 

「陽華祭二日目っ!いくぞおお!!」

 

ボーカル担当のその声に歓声が跳ねる。

青春が形を持って響いていた。

 

結衣はリズムに合わせて体を揺らす。

髪が揺れて、横顔が光の中で綺麗に見えた。

 

俺が横目で見ると──

 

結衣の視線がちょうど俺と交わる。

 

「翔、こういうの好き?」

 

「嫌いじゃない。…いやむしろ楽しい」

 

「うん。翔が楽しんでる顔、ちゃんと見れると……私も楽しい」

 

音に消されるギリギリの声。

笑って、視線逸らして、また戻る。

一曲終わるたびに拍手。

観客と音が溶けていく。

 

結衣がポツリと言う。

 

「今日…二人で来れてよかった」

 

「そうだな」

 

それだけ。

それ以上言葉を重ねたら、

雰囲気が変わってしまいそうで。

 

けど確かに、距離は昨日より近い。

 

ステージ後、教室へ戻る廊下で

結衣が手を後ろに組みながら振り返る。

 

「楽しかったな!もっと屋台回りたかったけど」

 

「回らなくていいのか?」

 

「翔と居れただけで楽しかったからいいんだよ。……言わせんな」

 

横顔が早歩きで赤くなる。

俺の心臓も、わずかに忙しくなる。

 

 

教室に戻ると、即フル稼働。

 

「翔ー!給仕戻れ!」

「翔さん追加注文3!」

「厨房火力MAXいくよ!!」

「いつまでもイチャついてんじゃねぇぞ!」

 

俺は笑って走り出す。

 

──二人で回った時間が背中を押した。

 

ただそれだけで、足取りが昨日より軽い。

 

 

陽華祭二日目。

 

また完売。

また笑顔。

また少し近くなった距離。

 

夕暮れの教室、結衣が横に座る。

 

「明日の後夜祭…絶対勝とうな」

 

「おう。最高の思い出にして終わる」

 

視線が交差する。

それだけで十分だった。

 

俺たちの青春は陽華祭、最終日へ突入する。

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