死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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20.終幕の花火 1

陽華祭三日目。

 

朝のホームルームで教室に入ると、黒板にはデカデカとこう書かれていた。

 

『陽華祭 最終日!燃え尽きろ!!!』

 

……うちの担任、日を追うごとに壊れていってないか?

 

教室の空気は、もはや授業前のそれじゃない。 机はすでに隅に寄せられ、テーブルクロスが掛けられた机が並び、飾りつけは昨日よりもさらに盛られていた。

 

「翔さーん!最終日の配置表できました!」

 

菜々が今日も元気よく駆け寄ってくる。 手にはぎっしり文字の詰まったタイムテーブル。

 

午前中〜昼までは昨日と同じく喫茶営業。 夕方からは片付けと後夜祭準備。 そして夜、グラウンドでの後夜祭と表彰式。

 

──陽華祭クライマックスだ。

 

「翔は午前はホール、昼から厨房補助、その後は着替えタイムって感じかな!」

 

夏樹が横から顔を出し、にやりと笑う。

 

「着替えタイムってまさか……」

 

「もちろんチャイナだよ。

 表彰式代表は “一年二組の顔” として翔と柊だからね〜」

 

「お前ら勝手に決めんなよ!?」

 

「多数決で決まったから諦めて?」

 

さらっと恐ろしいことを言われた。 教室の後ろを見ると、すでにクラスの数人が「チャイナ!チャイナ!」と謎のコールをしていた。

 

……逃げ道がねぇ。

 

 

最終日だけあって、朝一から学校全体のテンションが違う。

「今日で終わりだ」という寂しさと、「最後だからやり切るぞ」という気合いが混ざり合っている。

 

そんな雰囲気の中、一年二組《喫茶 朝日》はというと──

 

「本日も営業開始でーす!いらっしゃいませ!!」

 

「本日限定ケーキあります!数量限定でーす!」

 

入口で夏樹とクラスメイトが全力の呼び込み。 店内ではメイド服組が忙しなく動き、厨房からは甘い匂いがあふれ出る。

 

「翔、テーブル6・7案内お願い!」

 

「オッケー!」

 

今日は制服+エプロン。 チャイナじゃない分、昨日よりは視線も落ち着いている……と思いきや。

 

「あ、昨日のチャイナの人だ!」

「普通に制服でもかっこよくない?」

「写真一枚だけ──」

 

……いや、若干残像で燃料が残ってるらしい。表彰式で燃料投下して大丈夫か?

 

「今日は写真少なめで頼む。回らなくなるから」

 

そう言うと、「じゃあ明日の後夜祭まで我慢する!」と意味不明な返事が返ってきた。

明日じゃねぇよ今日だよ。ツッコミが追いつかない。

 

 

厨房では、結衣と菜々がいつも通り……いや、いつも以上のペースで動いていた。

 

「焼き上がり3枚!甘味2、ホットサンド1!」

 

「翔さーん!テーブル4、黒瀬パンケーキ指名入りました!」

 

「如月ホットサンドもね!」

 

「指名ってなんだ指名って!」

 

オーダー票にしっかり「黒瀬セット」「如月セット」って書かれてんのどういう状況だよ。 けど出された皿を見て納得する。

 

──見た目がまず強い。

 

菜々のパンケーキは、ベリーと粉糖がきれいに配置されていて、まるでカフェのメニュー写真みたいだ。

 

結衣のホットサンドは、チーズがとろりと溶けて、かじりかけでも絵になる。

 

「味も負けてないからな」

 

自信満々に言う結衣に、菜々も負けじと胸を張る。

 

「翔さんの“美味しい”のために、全力ですから!」

 

「プレッシャーがすごいんだけど」

 

それでも、自然に笑みがこぼれていた。

父親のことや、「問題児クラス」だなんて言われた事を一瞬忘れてしまうくらいには、この空間は明るくて、甘くて、忙しい。

 

(……こういうの、悪くない)

 

マジでそう思った。

 

 

昼過ぎ。

 

ラストオーダーの時間が近づき、店内も少し落ち着きを取り戻し始める。

 

「本日の営業、ラストオーダー入りましたー!」

 

響の声が教室中に響き渡り、店内からは自然と拍手が起きた。

 

「三日間、お疲れさまー!」

 

「最終日の売上、ヤバいぞこれ」

 

仕入れ担当の柊が手元の紙を見ながら目を丸くする。

 

「一年の中でダントツだってよ。

 先生がさっきこっそり教えてくれた」

 

「マジか」

 

「陽華祭の最優秀企画賞、候補に入ってるってさ」

 

ざわっ、とクラス中に小さなざわめきが走る。

 

「マジで!?」

「嘘でしょ!?」

「でもSNSのタグめっちゃ回ってたよな」

「“#翔チャイナ” のいいね数やばかったし……」

 

なぜ俺の名前のタグがバズっているのかはともかくとして。

 

「数字的にはほぼ確実って言われた。

 あとは先生の会議とか、大人の事情らしいけどな」

 

柊の言葉に、クラスメイトの目が一斉に輝き出す。

 

「つまり……ワンチャン、うちら優勝?」

 

「あり得る……!」

 

菜々が両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。 結衣は、ホッとしたように笑った。

 

「ここまでやったんだもん。 取れたら嬉しいけど、取れなくても自慢できるよな」

 

「そうだな」

 

心の底から、そう思えた。

 

「……にしても翔」

 

ふと柊が俺の方を見てくる。

 

「最優秀取ったら、表彰式ステージ上でチャイナ確定だからな」

 

「今の流れでそれ言うか!?」

 

「むしろご褒美でしょ」

 

どこがだよ。

 

でも、クラスのみんなが笑ってるのを見ていたら、

「チャイナでも何でもいいか」って気分になってくるから不思議だ。

 

 

片付けをして教室が落ち着きを取り戻すころには、外は夕焼け色に染まり始めていた。

 

机を戻し、飾りを半分ほど外し、あとは明日片付けるだけ。 その間にも、グラウンドではステージと花火の準備が着々と進んでいるらしい。

 

「よーし、お前ら」

 

担任がパンパンと手を叩いた。

 

「後夜祭と表彰式の集合時間はお前らプリント見とけ。

 ステージ代表は──」

 

視線がこっちを向いた。

 

「翔と柊な」

 

「ですよねー!」

 

「納得の人選!」

「チャイナ待ってます!」

 

クラス全員から拍手と歓声。 もう逃げようがない。

 

「衣装はさっき家庭科室に運んである。

 お前らはそこで着替えてから、グラウンド裏の集合場所に来い。

 ……派手にやってこいよ?」

 

雑だけど、不思議と嬉しい送り出しだった。

 

 

家庭科室の隅、簡易更衣スペース。

 

「……デジャヴだな」

 

赤のチャイナを手に取りながら呟くと、青のチャイナを持った柊が隣で肩をすくめた。

 

「嫌なら断っても良かったんだぞ?」

 

「誰が決めた人選だと思ってんだよ」

 

「俺」

 

「お前かよ!」

 

思わずツッコむと、柊はハハ、と笑う。

 

「でもまぁ、似合ってるからな。

 クラスの看板としてはちょうどいいだろ」

 

「本人の意思は?」

 

「関係ない」

 

清々しいほどの即答だった。

 

着替え終わってカーテンを開けると、

赤と青のチャイナ姿の男子二人が並ぶ光景ができあがる。

 

「……改めて見ると、やっぱりおかしいなこの絵面」

 

「今さら気づいたか?」

 

でも、鏡に映った自分の顔は。 恥ずかしさと同じくらいには、悪くないって顔をしていた。

 

(……まぁ、今日くらいは。

 こういうバカみたいなことも、全力でやってもいいか)

 

柊と目を合わせ、小さく拳を合わせる。

 

「行くか、俺らのクラス代表」

 

「おう」

 

 

グラウンドにはクラスごとに作られた屋台の名残や、ステージセット、色とりどりのライトが輝いていた。

 

吹奏楽部の演奏が終わり、ダンス部のステージが締めくくりを迎え──

 

いよいよ表彰式。

 

全校生徒と一般客が芝生に座り込む中、ステージ上にはスポットライト。 俺と柊は、その裏の待機列に並んでいた。

 

「緊張してる?」

 

隣から結衣の声。

 

振り返ると、クラスメイトたちがぎゅっとまとまっていた。 菜々、結衣、夏樹、響。それに他のみんな。 全員、期待と不安が入り混じった顔でステージを見上げている。

 

「緊張、っていうか……なんか、不思議な感じだな」

 

「一回全部終わっちゃうって思うと、ちょっと寂しいよな」

 

響が頭をかきながら言う。

 

「まだ終わってないだろ。

 最後に花火もあるし、表彰式もある」

 

柊がさらっと返す。

 

「うちが呼ばれなかったとしても、だ」

 

その言葉に、少しだけクラスの表情が柔らかくなった。

 

(……そうだな)

 

結果なんて、もうオマケみたいなものだ。 三日間、全力で走ったって事実は変わらない。

 

でも──

 

(せっかくなら、取れたら嬉しいな)

 

そう思ってしまうくらいには、俺はこのクラスが好きになっていた。

 

 

司会がマイクを握り、賞の発表が始まる。

優秀展示賞、ステージ部門賞、屋台部門賞──

名前が呼ばれるたびに歓声が上がる。

 

そして、いよいよ。

 

「続きまして──

 今年度、陽華祭の最優秀企画賞の発表です」

 

グラウンドの空気が変わった。

 

「今年の最優秀企画賞は……

 一年二組『喫茶 朝日』!!」

 

一瞬の静寂。

そして、破裂するような歓声。

 

「「「やったあああああ!!!」」」

 

クラス全員が立ち上がり、跳び、叫ぶ。 肩を組み合い、ハイタッチが飛び交う。

 

「マジかよ!」

「本当に取った!」

「ヤバいって!!」

 

菜々はぽろっと涙をこぼし、

結衣は口元を押さえながらも、目をぎゅっと瞑って笑った。

夏樹に関して崩れ落ちて泣いていた。

 

「……すげぇな、お前ら」

 

思わず呟いた俺の背中を、柊がドンと叩く。

 

「行くぞ、代表。全力で、もらってこい」

 

「おう!」

 

俺たちはスポットライトの方へ走った。

 

 

ステージに上がると、眩しい光と視線が一気に押し寄せてくる。

 

「一年二組の代表、木下 翔くん、暁 柊くん」

 

名前を呼ばれ、マイクの前に立つ。 会場から「チャイナだ!」「本当に着てる!」というざわめきが聞こえた。

 

「えー……代表二人、衣装が大変華やかですね」

 

司会の先生が苦笑混じりに言うと、会場から笑いが起きた。

 

「まさに “陽華祭” にふさわしい、

 華やかな喫茶企画でした。

 味、雰囲気、話題性、すべてにおいて高評価でした」

 

トロフィーと表彰状が手渡される。 重みが、じわりと掌に染み込む。

 

(──本当に、取ったんだ)

 

胸の奥が熱くなった。

 

「なにか一言、代表してどうぞ」

 

マイクを向けられ、俺は一瞬だけ息を飲む。

視線の先には、クラスメイト。 笑って、泣いて、叫んでいる。

 

「……えっと」

 

言葉を探しながら、自然と口が動いていた。

 

「一年二組、朝日翔です。

 えっと……三日間、バカみたいに全力で喫茶やって、バカみたいに疲れて、でも……すごく楽しかったです」

 

会場からクスリと笑い声。

 

「たぶん俺たちのクラスは、

 周りから見たらうるさいし、問題児とか言われてると思うんですけど……」

 

あの日、廊下で聞いた言葉が頭をよぎる。

 

「俺にとっては、自慢のクラスです。

 一緒に笑ってくれて、バカやってくれて、

 ──こんな風に、三日間をくれたみんなに感謝してます」

 

クラスの方から、誰かの「お前〜!」という叫び声と、笑い声と、拍手。

 

「ありがとうございました!」

 

最後に頭を下げると、会場全体から大きな拍手が降ってきた。

 

隣で柊が小さく笑う。

 

「……らしくて、よかったんじゃね?」

 

「お前が喋れよ、半分くらい」

 

「俺、マイク嫌いなんだよ」

 

んな理由かよ。

けど、悪くない。 このステージの高さも、この光も。 全部、みんなで取ったものだ。

 

こうしていよいよ最後の花火を残し陽華祭はクライマックスを迎えた。

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