死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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26.帰ってきた平和?な日常

地区大会が終わった、その翌日。

 

まだ身体の奥に、昨日の余熱が残っている朝だった。

目覚ましが鳴るよりも早く、

玄関のインターホンが、やけに元気よく鳴り響いた。

 

「翔ー!起きてるー!!」

 

喧しい声。

聞き覚えしかない。

反射的に布団を被る。

 

(……無視しよ)

 

そんな淡い希望は、秒で打ち砕かれた。

 

「無駄だぞー!もう優勝者の家ってバレてるからなー!」

 

追撃が早い。

しかも声がデカい。

 

「静かにしろ!近所迷惑だ!」

 

布団の中から叫ぶが、当然届かない。

ドアの向こうで、複数の笑い声が重なった。

 

完全に包囲されている。

観念して起き上がり、パーカーを羽織って玄関へ向かう。

 

ドアノブに手をかけた瞬間、嫌な予感しかしなかった。

 

意を決し扉を開ける。

 

「おはよー優勝者!!」

 

視界いっぱいに、結衣の笑顔。

両手を広げて、やたら距離が近い。

 

「朝からテンション高すぎだろ」

 

眠気混じりに言うと、即座に返ってくる。

 

「そりゃ高くなるでしょ。地区大会優勝だよ?」

 

その横で、響が腕を組んでうんうんと頷いていた。

 

「俺、昨日から三回その話してる」

 

「少なっ」

 

即ツッコミ。

 

柊は少し離れた位置でスマホを操作している。

 

「SNSも割と回ってるな。陸上部界隈で」

 

「まーたSNSだよ」

 

どこからどこまで情報が回ってるんだ。

そんなやり取りをしていると、背後から足音がした。

 

「おはようございます」

 

控えめな声。

振り向くと、菜々がそっと顔を出していた。

 

その瞬間、空気が一拍止まる。

 

「……」

 

全員の視線が集まる。

 

「菜々も優勝者の関係者だからな」

 

響が、何かを納得したように言う。

 

「関係者って何だ」

 

「同居人だろ?」

 

「言い方!!」

 

即座に結衣のツッコミが飛んだ。

 

そのやり取りを横目に、少し遅れて夏樹が現れる。

 

「はいはい、朝からうるさい。翔、遅刻するよ」

 

強引すぎる一言。

結局、流れに逆らえず、

翔・菜々・結衣・夏樹・響・柊の六人で登校することになった。

 

 

通学路は、朝から騒がしかった。

 

「なぁ翔」

 

響が肩を叩いてくる。

 

「決勝の時、最後叫んでたよな」

 

「あれは……思わず感情全部出た」

 

「いや、あれは叫ぶわ」

 

柊が思い出したように口を挟む。

 

「競技場全体が一瞬そっち見たぞ」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

結衣が横から言う。

 

「しかもタイム表示出る前に」

 

「感情先行型だな」

 

「うるさい」

 

軽口を叩き合いながら歩く。

少し後ろを、菜々が歩いていた。

 

皆の会話を聞きながら、柔らかく微笑んでいる。

けれど、その表情はどこか控えめだった。

完全に輪に入っているのに、半歩だけ距離がある。

それに気づいたのは、夏樹だった。

 

「菜々」

 

名前を呼ばれ、菜々が顔を上げる。

 

「ちゃんと寝れた?」

 

「はい。少し興奮してましたけど」

 

「でしょーね」

 

夏樹は軽く笑う。

 

「大会の翌日って、ちゃんと疲れ来るからね」

 

「……そうですね」

 

短い会話。

でも、夏樹は見逃さなかった。

菜々が、大会の話題になるたび、

ほんの少しだけ視線を逸らすことを。

 

 

教室に入った瞬間、空気が変わった。

 

「おー!来た!」

「優勝者だ!」

「写真見たぞ!」

 

あちこちから声が飛ぶ。

席に着く前に囲まれる。

 

「マジで速かったな!」

「100mであのタイムはえぐい」

「次、県大会狙えるだろ」

 

「いやいやいや」

 

両手を振って否定する。

結衣が横から口を出す。

 

「次はチャイナ服で走れば?」

 

「文化祭引きずるな!」

 

「スタート前に『謝謝』言え」

 

笑いが起きる。

 

――悪くない。

こういう日常の雑音が、妙に落ち着く。

やがて戸が開く音と共に先生が入ってきて、

ようやく教室は静けさを取り戻した。

 

朝のホームルーム。

 

担任が咳払いをする。

 

「えー、連絡事項の前に一つ」

 

教室がざわつく。

 

「先日の地区大会で、本校から優勝者が出ました」

 

拍手が起きる。

 

「木下」

 

名前を呼ばれ、立ち上がる。

 

「おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

座ると、後ろから小声が聞こえた。

 

「ヒーローじゃん」

 

「チャイナヒーローな」

 

……よし、誰かは知らんがあとでしばく。

 

 

昼。

 

いつもの六人で、空き教室に机をくっつけて昼食。

 

「で、次の休みどうする?」

 

響が唐突に切り出した。

 

「カラオケ行きたい」

 

結衣が即答。

 

「映画も捨てがたい」

 

柊がスマホを見せる。

 

「ゲーセンもいいよね」

 

夏樹が頷く。

 

「全部行けば?」

 

「時間足りねぇよ」

 

そんな中、菜々が少し控えめに言う。

 

「……みんなで行けるところがいいです」

 

その一言で、空気が柔らぐ。

 

「じゃあカラオケ、ゲーセン、ご飯で」

 

「フルコースだな」

 

自然に決まる、この感じ。

これが、俺たちの日常だ。

 

 

放課後。

翔、菜々、結衣、夏樹は部活へ。

 

大会の話をしながらアップをして、

いつもの練習メニューに戻る。

 

「でもさ」

 

結衣が走り終えた後に言う。

 

「翔、決勝のフォーム安定しすぎ」

 

「自分でも分からん」

 

「ズルい」

 

少し遅れて、菜々が給水に来た。

 

「お疲れ様です」

 

「菜々もな」

 

短い会話。

それだけ。

でも、どこか間が空いた。

 

大会の結果が、満足いかなかったのだろう。

菜々は完璧主義だ。

しばらくは、あの距離感が続きそうだった。

 

 

部活終わり。

グラウンドを出ると、

部活終わりの響と、暇潰し終わりの柊が合流した。

 

「今日の部活どうだった?」

 

「別に、いつも通りだったよ」

 

そんな会話をしていると。

 

「翔」

 

落ち着いた声がした。

振り向くと、そこにいたのは陽菜だった。

 

副部長。

いつも冷静で、距離感のある人。

 

「少し、時間ある?」

 

一瞬、全員が固まる。

 

「……え?」

 

結衣の声が裏返る。

 

「話、したい」

 

淡々とした口調。

 

「ファミレス行こ」

 

沈黙。

菜々、結衣、夏樹、響、柊。

全員、声が出ない。

 

「決まりね」

 

そう言いながら、

陽菜はすでに翔の腕を掴んでいた。

 

「行くよ。副部長様からの優勝祝い」

 

「ちょ、ちょっと待って!副部長!」

 

抵抗虚しく、引きずられる。

 

「……え?」

 

菜々はその場に固まる。

結衣が呆然と呟いた。

 

「今、何が起きた?」

 

夏樹が深呼吸する。

 

「……来たね」

 

響が目を輝かせる。

 

「これはアレだな」

 

柊が即答。

 

「翔のデート見守り隊、再結成」

 

菜々が小さく息を吸った。

 

「……私も、行きます」

 

全員が頷いた。

夕暮れの帰り道。

知らないところで、また一つ火種が落ちた。

 

日常は戻った。

でも、平穏とは限らない。

——また、あの作戦が始まる。

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