死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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32.開幕 期末テスト!

やがて無情にもその日はやってきた。

皆の嫌われ役期末テストさんが来た。

 

……いや、正確には「来た」っていうより、

日常がそのまま無慈悲に押し寄せてきた。

 

朝の教室は、いつもより静かだった。

誰かがふざける余裕も、ツッコミを入れる気力もない。

 

机の上に並ぶ筆箱と、消しゴムと、シャーペンの芯。

それだけで、空気が重くなる。

俺は席に座って、深く息を吐いた。

 

(……やるしかねぇ)

 

横を見ると、菜々がもうノートを閉じていた。

「最後の確認」をするタイプじゃない。

やることはやった、って顔をしてる。

 

結衣は腕を組んで前を見て、目が鋭い。

夏樹は軽く笑ってるけど、目がギラついてる。

響は死んだ顔。

柊はもう既に死んでる。

 

「……お前ら、顔やばいな」

 

俺が小声で言うと、響が机に突っ伏したまま返した。

 

「俺、昨日から遺書書いてる。提出先、担任でいいかな?」

 

「やめろ」

 

柊がゆっくり顔を上げて言う。

 

「遺書書くなら、数学の範囲見てからにしろ。絶望の質が上がる」

 

「上げんな」

 

結衣がぼそっと言う。

 

「うるさい。集中切れる」

 

夏樹がすぐ乗る。

 

「はいはい、静粛に。みんな、今日だけは大人になろう」

 

「1番焦ってる奴がなんか言ってら〜」

 

笑いながら茶化す響。

 

こいつら、こういう時でも平和だ。

でも。

 

(……平和、か)

 

陽菜の告白から、何日経ったんだっけ。

数えてない。数えたくない。

数えたら、現実が近くなる気がする。

 

「はい、席つけー」

 

担任の声で教室が一斉に静まった。

 

「期末テスト一日目な。カンニングしたら人生終わるぞ。ちなみに俺が終わらせる」

 

脅し方が雑すぎる。それ故に強烈だ。

 

プリントが配られ、紙の擦れる音だけが教室を満たす。

 

「じゃあ、始め」

 

 

問題用紙をめくった瞬間。

 

(……あ)

 

目が勝手に必要な情報を拾った。

 

関係代名詞。

仮定法。

文法の穴埋め。

 

(これ……)

 

菜々の声が、頭の中で再生される。

 

『関係代名詞は出ます。例文で確認します』

『ここ、選択肢で迷うなら“主語”見てください』

『この問題は、罠が“語順”です』

 

(……うるせぇくらい聞こえる)

 

でも、不思議と嫌じゃなかった。

 

むしろ――

 

迷いが消える。

ペンがスラスラ走った。

 

「……」

 

自分で自分に驚く。

いつもなら一回止まって考えるところで、止まらない。

 

(俺、今……ちゃんと書けてる)

 

問題は難しい。

でも、怖くない。

 

「……」

 

ページを進める。

次の大問。

 

(……これも)

 

頭の中で、菜々のノートの途中式が浮かぶ。

自分が書いてないのに、書ける気がする。

 

(……すげぇな)

 

一度だけ、横を見そうになって、やめた。

見たら、菜々の顔を見たら、

「ありがとう」って言いたくなる。

 

(……けど今は)

 

カリカリとペンの音。

机のきしむ音。

誰かの小さなため息。

それだけの世界で、俺は必死に書き続けた。

 

 

二日目。

 

朝の教室は、さらに静かだった。

一日目を終えたことで、皆「戦場に慣れた顔」になっている。

慣れたというより、諦めた顔とも言う。

 

響が机に突っ伏したまま言う。

 

「昨日終わった瞬間、魂抜けた」

 

「抜けたまま戻ってきたの偉い」

 

柊が言うと、響が泣きそうな声で返す。

 

「もっと褒めてくれ……」

 

夏樹が伸びをして言った。

 

「みんな、今日終わったら半分だからね。頑張ろ」

 

結衣が淡々と返す。

 

「まだ半分あるってことか〜きっつい」

 

「現実の圧が強い」

 

菜々が小さく息を吐いた。

 

「……でも、やりましょう」

 

その声が、妙に背中を押した。

二日目も、ペンは止まらなかった。

 

完璧じゃない。

でも、迷わない。

 

(……これが、“勉強した”って感覚か)

 

三日目。

 

最後の教科を終えた瞬間、

教室の空気が一気に崩れた。

 

「終わったぁぁぁぁ!!」

 

響が叫び、先生に怒られた。

 

「うるせぇ!」

 

「すいません!でも終わったんすよ!!」

 

「だからうるせぇ!」

 

結衣が机に突っ伏して言う。

 

「……しんど」

 

夏樹が笑う。

 

「しんどいのに、なんか元気あるじゃん」

 

柊が遠い目をして呟いた。

 

「俺、今日から生まれ変わる」

 

「それ毎回言ってない?」

 

菜々がノートを閉じて、静かに言った。

 

「お疲れ様でした皆さん」

 

その一言だけで、胸の奥が少し温かくなる。

 

三日間に渡った期末テストは、

気づいたら、終わっていた。

 

 

放課後。

 

俺たちは、気づけばファミレスにいた。

 

「うおおおおお!!!!生き返ったぁぁぁ!!」

 

響が椅子に倒れ込む。

 

「お前、うるさい」

 

結衣が即ツッコミを入れる。

 

「うるさいのはお前もだろ」

 

「私は正しい」

 

「その理屈やめろ」

 

夏樹がメニューを開いて言った。

 

「はいはい。まずドリンクバーね。糖分は正義」

 

柊が死んだ顔で頷く。

 

「俺、糖分取らないと目が開かない」

 

菜々が小さく笑った。

 

「柊さん、それ常にじゃないですか?」

 

「やめろ、刺さる」

 

俺は息を吐きながら、椅子にもたれる。

 

(……なんか、久しぶりだな)

 

この感じ。

わちゃわちゃして、くだらなくて、

ちゃんと「俺たちの日常」って感じがする。

 

店員が来て注文を取り始める。

 

「えっと、俺、ハンバーグで」

 

「私も」

 

結衣が即答。

 

「私はパフェも」

 

夏樹が追加。

 

「響は?」

 

俺が聞くと、響が即答した。

 

「唐揚げ定食!俺は今日だけで三年分のカロリーを補給する!」

 

柊がぼそっと言う。

 

「俺、胃が拒否してる。軽めでいい」

 

菜々がメニューを閉じて言う。

 

「じゃあ私は、翔さんと同じので」

 

結衣がすぐ反応する。

 

「出た。自然に寄せてくるやつ」

 

「別に、いいじゃないですか」

 

菜々は落ち着いてる。

逆にそれが強い。

夏樹が笑って言う。

 

「はいはい。テスト終わったんだし、今日は平和に行こ」

 

響が手を叩いた。

 

「そうだ!平和が一番!」

 

柊が遠い目で呟く。

 

「平和って、今日みたいなことを言うんだろうな……」

 

俺は笑いながら、ふと気づいた。

 

(……俺、ちゃんと笑ってる)

 

この数日、ずっと頭の中が落ち着かなかったのに。

今は、少しだけ、楽しい。

 

「なぁ翔」

 

響が身を乗り出して言う。

 

「テストどうだった?」

 

「……普通」

 

「普通って何点帯だよ」

 

「知らねぇ」

 

「逃げた!」

 

「逃げたんじゃない、尊厳を守ったんだ」

 

夏樹がニヤッとする。

 

「明日には結果が出ちゃうね」

 

結衣が腕を組む。

 

「どうせ菜々が一位だろ」

 

菜々がさらっと返す。

 

「それは、まだ分かりませんよ」

 

(いや、お前の顔はもう勝ってる)

 

柊がぼそっと言う。

 

「俺、勝負とかどうでもいい……赤点さえ回避出来れば…」

 

響が肩を叩く。

 

「柊!生きろ!俺らはチームだ!」

 

「チームって何……」

 

このくだらない会話が、妙に落ち着く。

 

――その時。

 

スマホが、震えた。

 

「……」

 

画面を見る。

表示された名前。

 

【副部長】

 

(……おい)

 

俺は一瞬だけ固まった。

メッセージは短い。

 

『今どこにいる?』

 

それだけ。

短いのに、心臓が跳ねた。

 

(なんでこのタイミング)

 

いや、陽菜はそういう人だ。

タイミングとか、空気とか、たぶん考えてない。

でも、だからこそ強い。

 

「……翔くん?」

 

夏樹が、俺の顔を覗き込む。

 

「誰から?」

 

結衣も、視線が鋭くなる。

菜々は、黙って俺の手元を見ていた。

俺は息を吸って、正直に言った。

 

「……副部長」

 

空気が一瞬止まる。

響が、状況を理解してないまま言う。

 

「え、副部長って陽菜先輩?なんで?」

 

「黙れ」

 

柊が即座に押さえる。

夏樹がゆっくり言った。

 

「……返すの?」

 

「返さないと終わらないだろ」

 

結衣が低い声で言う。

 

「……どこにいるって、答えるの?」

 

「……答える」

 

菜々が、小さく息を吸った。

 

「……」

 

俺はスマホを打つ。

 

『ファミレス。みんなといる』

 

送信。

 

既読がつくのが、妙に早かった。

そして、返信。

 

『わかった。行く』

 

(行くって何)

 

いや、行くって言ったな、今。

俺が固まってると、響が目を輝かせる。

 

「やば。イベント始まる?」

 

「始まんなくていい」

 

結衣が即答する。

夏樹が笑ってない笑顔で言った。

 

「……平和、どこ行った」

 

柊が遠い目で呟く。

 

「平和って、幻なんだな……」

 

 

数分後。

店の入り口のベルが鳴った。

 

「……」

 

俺は反射でそっちを見る。

結衣も。夏樹も。菜々も。

 

そして――入ってきた。

 

桜 陽菜。

制服のまま。

無駄のない歩き方。

表情はいつも通り淡々。

 

なのに――

 

空気が変わる。

陽菜は迷いなくこっちへ歩いてきて、

俺たちのテーブルの前で立ち止まった。

 

「こんばんは」

 

普通に言う。

 

「……こんばんは」

 

俺が返すと、陽菜は小さく頷いた。

 

「期末、お疲れさま」

 

その言い方が、あまりにも自然で、

逆に誰も否定できない。

 

結衣が口を開く。

 

「……お疲れっす」

 

夏樹も続ける。

 

「……お疲れ様です」

 

菜々は静かに頭を下げた。

 

「……こんばんは」

 

陽菜は全員を一度だけ見て、

それから、何事もないように言った。

 

「近くにいたから」

 

(近くにいたからで来るな)

 

って言いたかったけど、言えない。

陽菜は店員を呼んで、さらっと言う。

 

「ドリンクバー一つ」

 

「えっ」

 

響が小さく声を漏らす。

柊が呟く。

 

「馴染むのが速い……」

 

陽菜は席に座る。

位置は、俺の斜め前。

露骨に隣じゃない。

でも、距離は近い。

 

(計算してんのか、してないのか分からん)

 

陽菜は俺を見る。

 

「翔」

 

「……はい」

 

敬語が出る自分が腹立つ。

 

「テスト、ちゃんと寝た?」

 

「寝ました」

 

「ちゃんと食べた?」

 

「食べました」

 

「じゃあ良い」

 

それだけで、話が終わる。

なのに、妙に落ち着くのが怖い。

 

結衣が耐えきれずに言う。

 

「……先輩、なんで来たんですか」

 

陽菜は一拍置いて答えた。

 

「翔がどこにいるか聞いたら、ここだった」

 

「……それだけ?」

 

「それだけ」

 

(強い)

 

夏樹が笑ってない笑顔で言う。

 

「先輩、空気読まないの強すぎません?」

 

陽菜は首を傾げる。

 

「空気は読んでる」

 

「読んでてこれ?」

 

「読んでるから、これ」

 

(最悪の答えだ)

 

菜々が静かに言った。

 

「……陽菜先輩は、翔さんに用事が?」

 

陽菜は菜々を見る。

 

「用事というか、確認」

 

「確認……?」

 

「翔が元気かどうか」

 

淡々と言う。

なのに、その言葉が刺さる。

俺は、笑うしかなかった。

 

「……元気ですよ」

 

「なら良い」

 

陽菜が、それで満足したみたいにドリンクを一口飲む。

そして、何でもない風に続けた。

 

「夏休み、勝負あるんでしょ」

 

「……!」

 

三人の顔が同時に動いた。

結衣が声を荒げる。

 

「なんで知ってるんですか!」

 

陽菜は淡々と返す。

 

「聞こえた」

 

「どこで!」

 

「教室」

 

(聞こえてたのかよ)

 

夏樹が頭を抱える。

 

「ほんと、この人……」

 

菜々が静かに言う。

 

「……期末の合計点勝負です」

 

陽菜が頷く。

 

「うん。勝った人が翔とデート」

 

結衣が即座に言う。

 

「そう!だから先輩は関係ないです!」

 

陽菜は首を傾げる。

 

「関係あるよ」

 

「は?」

 

陽菜は俺を見る。

 

「翔、私も予定立てるって言った」

 

空気が凍る。

響が小声で言う。

 

「……え、今の、宣戦布告?」

 

柊がぼそっと言う。

 

「宣戦布告っていうか、核落とした」

 

夏樹がゆっくり息を吸って、吐いた。

 

「……ねえ翔くん」

 

「……はい」

 

「今日、平和って言ったの誰?」

 

「柊です」

 

「終く〜ん、歯を食いしばってください」

 

結衣が机を軽く叩く。

 

「なんでこの人、こんな堂々としてんだよ!!」

 

菜々は、何も言わない。

ただ、手元のストローを指で押して、戻して、押して。

 

俺は思った。

 

(……終わった)

 

いや、終わってない。

終わってないのに、また始まった。

 

期末テストは終わった。

なのに、俺の周りの空気は全然終わる気配がない。

テーブルの上には、パフェとハンバーグと、唐揚げと、

「いつもの平和」が並んでいるのに。

 

その平和の中心に、

新しい火種が、当たり前みたいに座っている。

 

(……どうなるんだ、これ)

 

答えは出ない。

出ないけど、一つだけ分かる。

ここから先は、

 

「何も起きない日常」には戻れない。

 

――そして、次に来るのは。

 

期末の結果発表。

勝負の決着。

夏休みの主導権。

 

俺の胃が、嫌な予感で締まった。

 

とりあえず今は――

 

「……飯、食いますか」

 

響が即答した。

 

「食う!!俺はもう戦った!!」

 

「戦ったのはテストだけだろ」

 

「いや人生だよ人生!」

 

柊が遠い目をする。

 

「人生は常にしんどい……」

 

結衣と夏樹と菜々の視線が、また同時に刺さった。

 

(……はい、地獄確定)

 

期末は終わった。

でも。

俺の周りの勝負は、今からだ。

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