死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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35.夏樹との平和?なデート〜裏〜

夏樹が家を出た、その十分後。

 

同じ時間帯に、同じ住宅街の別の角で、四つの人影が不自然に固まっていた。

 

「……確認するけどさ」

 

結衣が低い声で言う。

 

「これ、ほんとに“見守り”だよな?」

 

「見守りです」

 

菜々が即答した。

一切の迷いもなく、はっきりと。

 

「尾行じゃないです。観察です」

 

「言い換えただけじゃねぇか」

 

響がぼそっと突っ込む。

その後ろで、柊は無言でスマホの地図アプリを操作していた。

 

「……とりあえず、翔の家から出てくるのを確認してから動く。距離は二十メートル以上。視界には入らない。建物を挟む」

 

「お前、慣れてない?」

 

手馴れた柊の動きに、響のツッコミが飛ぶ。

 

柊は顔を上げずに答えた。

 

「もう三回目だから、慣れもするだろーよ。お前らくれぐれも冷静にな」

 

その言葉に、全員が一瞬黙る。

 

一番冷静でいなきゃいけないのは、本当は誰なのか。 分かっているから、誰も突っ込まない。

 

 

少しして、翔の家の玄関が開いた。

 

私服。 いつもより少し整えているのが、遠目でも分かる。

 

その直後。

 

「……来た」

 

結衣が小さく呟く。

門の前に、夏樹が立っていた。

 

「うわ……」

 

響が思わず声を漏らす。

 

「今日の夏樹、気合入ってんな……」

 

「声」

 

柊が即座に制する。

 

夏樹の服装は、普段の学校の延長じゃない。 派手じゃないのに、明らかに“選んでる”。 隣に立つ翔との距離が、一気に縮まったのが分かった。

 

翔が何か言って、夏樹が笑う。

その笑顔が、やけに柔らかい。

 

「……あー、無理」

 

結衣が顔を背けた。

 

「何が?」

 

「心臓に悪い」

 

「まだ始まってもないぞ」

 

「始まってるんだよ!」

 

声を荒げそうになって、結衣は自分で口を塞ぐ。

 

菜々は、黙ってその光景を見ていた。

表情は、いつも通り。 背筋も伸びている。

でも、指先だけが、わずかに強く握られていた。

 

 

二人は並んで歩き出す。

距離は近すぎず、遠すぎず。 肩が触れそうで触れない、絶妙な間。

 

「……あの歩き方」

 

結衣がぼそっと言う。

 

「完全にデートのやつじゃん」

 

「デートだからね」

 

響が返す。

 

「点数で勝ったんだし」

 

「分かってる!」

 

分かっているから、腹が立つ。

 

柊が前を見たまま言った。

 

「右折するな。あの角、ガラス張りだ」

 

全員が一斉に止まる。

二人は気づかず、そのまま進む。

 

「……危な」

 

結衣が息を吐いた。

 

「見られたら終わりだった」

 

「見られたら、ですか?」

 

菜々が静かに言う。

 

「“誰に”です?」

 

結衣が一瞬言葉に詰まる。

 

「……翔に」

 

「それだけですか?」

 

菜々は、視線を前から外さない。

 

「夏樹さんに見られたら、どうなりますか?」

 

沈黙。

結衣は歯を噛みしめた。

 

「……それは」

 

分かっている。 一番気づいてほしくないのは、夏樹だ。

 

 

二人がカフェに入る。

外から見える位置ではない。 だが、窓の配置と反射で、中の様子は何となく分かる。

 

「……座ったな」

 

響が小声で言う。

 

「向かい合わせだ」

 

「最悪の配置」

 

結衣が即答する。

 

「逃げ場ゼロじゃん」

 

柊がスマホを操作しながら言った。

 

「店の外周、ぐるっと回れる。非常口側に窓がある」

 

「お前ほんとに高校生か?」

 

「今は“見守り隊”だから」

 

「その肩書きやめろ」

 

 

しばらく、沈黙。

カフェの中では、二人が話している。

 

何を話しているかは聞こえない。 でも、雰囲気だけは分かる。

夏樹が笑っている。 翔も、笑っている。

 

「……翔、あんな顔すんだ」

 

結衣が小さく呟く。

 

「私といる時、あんなに力抜けてたっけ」

 

響が言葉を探して、やめる。

柊がぽつりと落とす。

 

「夏樹、すごいな」

 

「何が」

 

「追い詰めてない」

 

全員が、はっとする。

 

「距離近いのに、逃げ道残してる」

 

「……それ」

 

結衣が苦しそうに言う。

 

「一番ズルいやつ」

 

菜々は、何も言わなかった。

ただ、ガラス越しの二人を、じっと見つめている。

 

 

カフェを出る。

二人は並んで歩く。 さっきより、少しだけ距離が縮んだ気がした。

 

「本屋だ」

 

柊が言う。

 

「中、見えるぞ」

 

「うわ……」

 

響が息を呑む。

夏樹が、本を手に取って翔に差し出す。

翔が苦笑する。

 

「……あれ、絶対ラブコメ」

 

結衣が即座に判断する。

 

「刺してくるタイプのやつ」

 

「夏樹、分かってやってるだろ」

 

響が言う。

菜々が、初めて口を開いた。

 

「……あれは、偶然じゃないです」

 

全員が一瞬、菜々を見る。

 

「夏樹さんは、選んでます」

 

「何を」

 

「言葉も、場所も、距離も」

 

淡々とした声。

でも、どこか冷えている。

 

「“今日は逃げなくていい日”を、ちゃんと作ってます」

 

結衣は唇を噛む。

 

「……私、それできてたかな」

 

誰も答えない。

 

 

次に二人が向かったのは、雑貨屋だった。

小物。 キーホルダー。 ペア商品。

 

「……おい」

 

響が声を震わせる。

 

「まさか」

 

「まさか、だな」

 

柊も、視線を逸らさない。

 

夏樹が、二つ並んだキーホルダーを手に取る。 翔が迷う。 迷って、頷く。

 

「買った」

 

結衣が目を伏せた。

菜々は、その瞬間だけ、視線を落とした。

ほんの一瞬。 でも、確かに。

 

 

夕方。

 

二人は、少し落ち着いた店に入った。

照明が柔らかい。 外から中は見えない。

 

「ここからは……」

 

響が言葉を切る。

 

「想像したくないな」

 

「同意」

 

結衣も頷く。

 

「でも、ここで引くわけにはいかない」

 

「お前ら、なんでそんな使命感あるんだよ」

 

「だって」

 

結衣が言う。

 

「私たち、もう“当事者”だから」

 

誰も否定できない。

 

 

夜。

 

店を出た二人は、駅とは逆方向へ歩き出す。

 

「帰り道だ」

 

柊が言う。

 

「……来るぞ」

 

分かれ道。

街灯。

夕焼けと夜の境目。

 

「……」

 

全員が、息を潜める。

距離が、詰まる。

夏樹が、何かを言っている。 翔が、固まっている。

 

「……告白…した?」

 

結衣が、ほとんど音にならない声で言う。

 

夏樹が、一歩近づく。

翔は、動かない。

一瞬、抱き合うような影。

 

「……ハグだ」

 

響が言う。

 

「軽いやつ……でも」

 

「でも、決定打だな」

 

柊が続ける。

菜々は、その瞬間を、目を逸らさずに見ていた。

瞬きもせずに。

 

 

夏樹が、離れる。

何かを言って、背を向ける。

数歩進んで、止まる。

 

振り返らずに、口を開く。

 

「……やっぱり、皆居たんだね」

 

その言葉に。

見守り隊全員の心臓が、同時に跳ねた。

 

「……気づいてた」

 

結衣が息を吸う。

 

「いつから」

 

「最初からかもな」

 

響が言う。

柊が、静かに言った。

 

「……だから、あの距離だった」

 

誰にも踏み込ませない距離。 誰にも壊させない距離。

そして、誰にも誤魔化させない距離。

 

夏樹はそれ以上は何も言わず、歩いていった。

 

 

しばらく、誰も動けなかった。

 

「……帰るか」

 

最初に言ったのは、柊だった。

結衣は、黙って頷く。

響は、無理に笑おうとして、失敗した。

 

「なんかさ」

 

「ん?」

 

「平和なデートだったな」

 

誰も笑わない。

菜々が、最後に口を開いた。

 

「……はい」

 

声は、いつも通り。

 

「平和、でしたね」

 

でも、その目は。

もう、平和の中にいなかった

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