死んで若返ったら色んな人がヤンデレだった   作:かわうそ☆ゆう

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38.最高の夏休み 2

男チームは、ゲーセンの一角に固まっていた。

 

「よし、作戦確認な」

 

翔が腕を組んで言う。

 

「まず、柊が取る。以上」

 

「雑すぎだろ!」

 

響が即ツッコミを入れる。

 

「でも事実じゃね?」

 

翔が筐体の中を覗き込みながら言う。

 

「さっきから見てるけど、柊、成功率おかしい」

 

「……普通にやってるだけだぞ」

 

柊は淡々としているが、すでに手元には二つの景品がある。

キーホルダーと小さなフィギュア。どちらも一発取りだ。

 

「いや“普通”の基準が狂ってんだよ」

 

響が頭を掻く。

 

「俺なんか、五百円溶かしてアームに触れもしねぇぞ」

 

「それは狙いが悪い」

 

「どこがだよ!?」

 

柊は無言で一つの筐体を指差した。

 

中には、箱型の景品。

四角くて重そうで、明らかに“持ち上げる”タイプではない。

 

「これ、押し出し系だな」

 

翔が言う。

 

「角を落とす感じか?」

 

「そう。アームは弱いけど、位置はいい」

 

柊はコインを入れ、迷いなく操作を始める。

アームは景品の箱の角を、ほんのわずかに押す。

 

ゴトッ。

 

「……動いた」

 

「え、今の一回で?」

 

「もう一回でいける」

 

二回目。

箱が前にずれ、落下口の縁に引っかかる。

 

「来てる来てる!」

 

響が思わず声を張り上げる。

 

三回目。

 

アームが箱の角を押し、重心が崩れ――。

 

ガコン。

 

「はい」

 

柊が淡々と景品を取り出す。

 

「……マジで意味分かんねぇ」

 

「才能だろ、それ」

 

翔は苦笑しながら言った。

 

「才能じゃない。転載なんだよ」

 

「同じだよ!」

 

 

「よし、次行くぞ」

 

翔が周囲を見渡す。

 

「荷物増えてきたから、響は袋持ちな」

 

「なんでだよ!」

 

「一番体力あるから」

 

「理不尽!」

 

文句を言いながらも、響は袋を受け取る。

 

「で、次どれだ?」

 

翔が指差したのは、少し離れた場所にある大きめのぬいぐるみ筐体。

 

「これ、女チームが狙いそうなやつだろ」

 

「先に取っとく?」

 

「それありだな」

 

柊が頷く。

 

「ただし、これは持ち上げ狙いだ。アーム弱い」

 

「じゃあ無理じゃん」

 

「いや、揺らす」

 

柊は筐体を見つめ、数秒考えてからコインを入れる。

 

一回目。

アームでぬいぐるみの胴体を軽く掴み、すぐ離す。

 

「え、今の意味あった?」

 

「ある」

 

二回目、少しだけ位置をずらす。

 

三回目、ぬいぐるみが傾く。

 

「……来てね?」

 

「あと二回」

 

四回目、傾きが大きくなる。

 

「マジで計算してやってるのかよ……」

 

響が呆然と呟く。

 

五回目。

ぬいぐるみが、ゆっくりと前に倒れ、落下口へ。

 

「落ちろ……!」

 

ガコン。

 

「っしゃあ!」

 

翔が思わずガッツポーズをした。

 

「よし、これは戦果としてでかい!」

 

「女チームに見せびらかせるな」

 

「それはする」

 

「するな」

 

 

その後も、男チームは効率重視で筐体を回った。

柊が取り、翔が判断し、響が盛り上げて袋を抱える。

 

「なあ」

 

響がふと聞く。

 

「俺、役に立ってる?」

 

「盛り上げ役としてな」

 

「雑!」

 

でも、三人とも笑っていた。

袋の中身は、確実に増えていく。

 

「……これ、勝てるんじゃね?」

 

翔が言う。

 

「油断するな」

 

柊が即答する。

 

「女チーム、数で来る」

 

「うわ、嫌な予言すんな」

 

でも、その通りになることを、この時の男チームはまだ知らなかった。

 

 

女チームは、男チームとは少し離れたクレーンゲームエリアに陣取っていた。

 

「よーし!まずは作戦会議な!」

 

結衣が拳を握って言う。

 

「気合いと根性で取る!」

 

「それ作戦じゃないよね」

 

夏樹が即座に突っ込む。

 

「まず、何が“取れやすいか”を見ないと」

 

「そんなのやってみなきゃ分かんなくない?」

 

「分かるよ」

 

夏樹は筐体を一つずつ見て回りながら言った。

 

「お菓子系。箱が軽くて、落とし口が広い。あと、アームが強め」

 

「……」

 

菜々は、黙って一つの筐体の前に立っていた。

中には、個包装のお菓子がぎっしり詰まっている。

 

「菜々?」

 

結衣が声をかける。

 

「ここ、いけます」

 

断言だった。

 

「アームの可動域が狭いですけど、逆に狙いが定まります」

 

「お、珍しく強気」

 

「勝負事ですからね、一応」

 

そう言って、菜々はコインを入れる。

 

一回目、慎重に位置を合わせる。 アームが下がり、お菓子の袋の端を掴む。

 

「落ちた!」

 

「……はい」

 

二回目も同じように。

 

「また取れた!」

 

「ちょ、菜々やばくない?」

 

「数を稼ぐなら、これが一番効率いいです」

 

夏樹が感心したように頷く。

 

「なるほど。数勝負なら最適解だね」

 

 

一方、結衣は別の筐体の前で腕を組んでいた。

 

「私はこれ!」

 

中には、少し大きめのキャラクターグッズ。

 

「結衣、それ難易度高くない?」

 

「だから燃えるんだろ!」

 

勢いよくコイン投入。

 

一回目、アームがスカる。

 

「は!?今の掴んだじゃん!」

 

二回目、ズレる。

 

「ちょっと待って、この機械性格悪すぎ!」

 

「落ち着いて」

 

夏樹が後ろから言う。

 

「それ、持ち上げるんじゃなくて、奥から手前にずらすタイプ」

 

「え、そうなの?」

 

「うん。ほら、影の位置見て」

 

「……マジだ」

 

三回目、言われた通りに操作。

景品が、ほんの少しだけ動く。

 

「お?」

 

四回目。

さらに前へ。

 

「来てる来てる!」

 

五回目。

 

ガコン。

 

「取れたーーー!!」

 

結衣が両手を上げる。

 

「見たか!私だってやれるんだよ!」

 

「はいはい、すごいすごい」

 

夏樹は笑いながら拍手する。

 

「ちゃんと分析聞いたからね」

 

「うっさい!結果が全てだろ!」

 

 

しばらくして、女チームの袋は、すでにかなり膨らんでいた。

お菓子、キーホルダー、小物類。

 

「……これ、数で勝てるね」

 

夏樹が言う。

 

「男チーム、たぶん大物狙ってる」

 

「バカだな〜」

 

結衣がニヤッと笑う。

 

「勝負は“個数”って言ったのに」

 

菜々は袋の中を見て、静かに言った。

 

「……翔さん、びっくりしますね」

 

「するする」

 

夏樹は一瞬だけ、遠くで筐体を囲む男チームの方を見る。

柊が真剣な顔で操作していて、響が騒いで、翔が苦笑している。

 

「……楽しそう」

 

ぽつりと、誰にも聞こえない声。

結衣は気づかず、声を張り上げた。

 

「よーし!最後にもう一個いくぞ!」

 

「もう十分じゃない?」

 

「ダメ!勝ちは確実にしないと!」

 

 

集合時間。

 

女チームは、袋を二つ抱えて戻ってきた。 一見すると男チームより少ない。

だが、中身はぎっしりだ。

 

「……勝ったな」

 

夏樹が静かに言う。

菜々は、袋の持ち手をぎゅっと握った。

 

「はい。数は、こっちです」

 

その言葉が、後の“結果発表”で炸裂することになる。

 

 

結果発表。

 

集合場所に戻ると、自然と全員の視線が集まった。

 

「……で?」

 

響が、両腕に抱えたパンパンの袋を揺らしながら言う。

 

「そろそろ結果発表といこうぜ」

 

男チームは三人。 響は両手いっぱい、柊も一袋、翔は小さめの袋を一つ。

 

対して女チーム。 袋は二つ。

見た目だけなら、明らかに男チームの圧勝だった。

 

「はいはい、解散解散」

 

響が笑う。

 

「見たか?量が違うだろ量が」

 

「ちょっと待て」

 

結衣が即座に噛みつく。

 

「勝負内容、覚えてるか?」

 

「覚えてるに決まってんだろ!」

 

「じゃあ言ってみろ」

 

「……」

 

一拍。

 

「一時間でどれだけ“取れるか”だろ?」

 

「そう」

 

結衣はニヤッと笑った。

 

「“何袋分”じゃなくて、“何個”な?」

 

「……は?」

 

翔が嫌な予感に眉をひそめる。

 

「ちょ、待て待て待て」

 

響が袋を見下ろす。

 

「個数って……まさか」

 

「はい、数えまーす!」

 

結衣が勢いよく女チームの袋を開ける。

中から出てくるのは、小袋のお菓子、キーホルダー、細かい景品の山。

 

「一個、二個、三個……」

 

「ちょ、早い早い!」

 

「黙れ!」

 

結衣は止まらない。

 

「二十……三十……」

 

翔の目が見開かれる。

 

「そんな入ってたのかよ……」

 

「お菓子は正義です」

 

菜々が淡々と言う。

 

「個数を稼ぐなら、効率がいいので」

 

夏樹が頷く。

 

「最初からその前提で動いてたよ」

 

「……お前ら最初から騙す気だったろ」

 

響が呻く。

 

「“戦略”だよ」

 

結衣が即答する。

 

「頭使えって言っただろ?」

 

 

次は男チーム。

 

「よし、いくぞ!」

 

響が自信満々に袋を開ける。

クマのぬいぐるみ。 フィギュア。 そこそこ大きい景品が並ぶ。

 

「一個、二個……」

 

柊が数える。

 

「……八」

 

「は?」

 

「全部で八個」

 

「嘘だろ!?」

 

「大物ばっか狙ったからな」

 

柊は冷静だった。

 

「一個あたりの消費時間が長い」

 

「いやいやいや!」

 

響が叫ぶ。

 

「袋三つだぞ!?絶対もっとあるだろ!」

 

「袋の“体積”は関係ないです」

 

菜々が静かに刺す。

 

「勝負は、個数なので」

 

「くっ……!」

 

響が頭を抱える。

 

「不正だろこんなの!」

 

「どこが?」

 

結衣が肩をすくめる。

 

「ルール通り。むしろそっちが脳筋」

 

「誰が脳筋だ!」

 

「お前だよ!」

 

 

結果。

女チーム、三十七個。 男チーム、八個。

 

圧倒的。

 

「……完敗だな」

 

翔が苦笑する。

 

「翔まで裏切るのか!」

 

「いや、これは無理だろ……」

 

夏樹が小さく笑った。

 

「でも楽しかったでしょ?」

 

その一言に、響はぐっと詰まる。

 

「……まあな」

 

「じゃあ、それでいいじゃん」

 

結衣が満足そうに言う。

 

「勝ちも負けも、夏休みだし」

 

菜々は、袋を抱えながら、翔をちらっと見る。

 

「翔さん、どれ欲しいですか?」

 

「え?」

 

「好きなの、どうぞ」

 

その一言で、翔の胸が少しだけ温かくなった。

勝敗は決まった。 でも、誰も本気で悔しがっていない。

 

騒がしくて、くだらなくて、 それでも確かに――楽しい時間だった。

 

「よし!」

 

結衣が手を叩く。

 

「次!フードコート行くぞ!」

 

その声に、全員が一斉に動き出した。

夏休み最高の一日は、まだ始まったばかりだ。

 

 

フードコートに入った瞬間、空気が変わった。

昼時。 家族連れ、学生、カップル。 騒がしさと油の匂いが混ざった、いかにも“夏休みの昼”という空間。

 

「よし、手分けすっぞ!」

 

結衣が即座に仕切る。

 

「響、あんたはハンバーガー担当な」

 

「なんで俺が」

 

「並ぶの苦じゃなさそうだから」

 

「理由雑すぎだろ!」

 

そう言いながらも、響は素直に列に並ぶ。 結衣はその隣に立ち、メニューを見上げた。

 

「期間限定バーガーか……」

 

「あ、そういうのに弱い女ね」

 

「迷うだろ普通!」

 

列は長い。 でも、退屈はしない。

 

「てかさ」

 

響が前を見たまま言う。

 

「今日さ、楽しくね?」

 

「は?」

 

結衣が即座に睨む。

 

「今さら何言ってんの」

 

「いや、なんつーか」

 

響は頭をかく。

 

「翔も元気そうだしさ。クレーンゲームもバカみたいに盛り上がったし」

 

結衣は一瞬だけ、視線を逸らした。

 

「……当たり前でしょ」

 

「ふーん?」

 

「なに」

 

「いや、結衣が普通に笑ってるの珍しいなって」

 

「……うっさい」

 

メニューが決まる。

 

「私はチーズ増し」

 

「俺は一番デカいやつ」

 

「絶対溢すなよ」

 

「誰に言ってんだ!」

 

注文を終えて、トレーを受け取る。

ポテトの匂い。 炭酸の冷たさ。

 

「こういうの、久々だな」

 

響が言う。

 

「勉強とか仕事ばっかだったし」

 

「私は部活も好きだけど」

 

結衣はトレーを持ちながら言った。

 

「こういう“何も考えない時間”も、悪くない」

 

その言葉は、少しだけ本音だった。

 

 

一方その頃。

デザートコーナーの前で、夏樹と菜々は並んでいた。

 

「種類、多いですね」

 

菜々がショーケースを覗き込む。

 

「ね。全部甘そう」

 

夏樹は楽しそうに言った。

 

「翔くん、甘いの好きだっけ?」

 

「普通、だと思います」

 

「じゃあ、飲み物は甘さ控えめにしよ」

 

何気ない会話。 でも、二人とも自然に“翔基準”で選んでいることに気づいている。

それを口には出さない。

 

「私はタピオカでいいかな」

 

「私も、それにします」

 

注文を待つ間、少し沈黙。

人の流れを眺めながら、夏樹が言う。

 

「ねえ、菜々ちゃん」

 

「はい」

 

「今日さ……」

 

一拍。

 

「楽しい?」

 

菜々は迷わなかった。

 

「はい」

 

即答。

 

「とても」

 

夏樹は少しだけ驚いて、それから笑った。

 

「そっか」

 

「はい」

 

菜々は、指先をカップに添えながら続ける。

 

「私は……こういう時間を、大事にしたいです」

 

「うん」

 

「奪い合うんじゃなくて、一緒に過ごす時間を」

 

夏樹は、菜々の横顔を見る。

 

(この子、強いな)

 

そう思った。

静かで、控えめで。 でも、折れない。

 

「……負けないね」

 

夏樹が小さく言う。

 

「はい」

 

菜々も、同じ声量で返した。

二人は、同じ方向を見ている。 けれど、立っている場所は違う。

 

それでも、今はそれでいい。

カップを受け取り、トレーに並べる。

 

「行こっか」

 

「はい」

 

二人は、並んで歩き出した。

 

 

ラーメン屋の列は、意外と落ち着いていた。

 

「やっぱ昼はラーメンだよな」

 

翔が言う。

 

「重くね?」

 

柊が即座に返す。

 

「フードコートでラーメンは賭けだぞ、響達どーせハンバーガーとか買ってくるぞ」

 

「でもうまそうじゃん」

 

「まあ……否定はしない」

 

メニューを見ながら、柊が言う。

 

「翔」

 

「ん?」

 

「今日、楽しそうだな」

 

唐突だった。

 

「……そうか?」

 

「自覚ないタイプか」

 

柊は鼻で笑う。

 

「前まで、もう少し硬かった」

 

「……」

 

翔は返さない。

柊はそれ以上踏み込まない。

 

「別に理由は聞かねぇけど」

 

「助かる」

 

「ただな」

 

柊は前を見たまま言う。

 

「こういう日…ずっとは続かねぇぞ」

 

「……分かってる」

 

でも、今は。

 

「今は、楽しんどけ」

 

「……ありがとな」

 

注文を終え、ラーメンを受け取る。

湯気が立ち上る。

 

「うわ、熱っ」

 

「当たり前だろ」

 

二人は並んで席に向かった。

 

 

フードコート中央。

全員が集まる。

 

トレーが並び、テーブルが一気に賑やかになる。

 

「おっ、バーガーでか!」

 

「そっちはラーメンかよ!」

 

「デザートもありますよ」

 

「最高か」

 

笑い声。 箸とフォークの音。

誰も急がない。 誰も置いていかない。

 

食べ終わった頃、結衣が言った。

 

「次どうする?」

 

響が即答。

 

「映画だろ!」

 

「賛成」

 

夏樹が頷く。

 

「じゃ、映画館行こ」

 

翔は、みんなの顔を見渡して思った。

 

(……最高の夏休みだな)

 

そして一行は、次の場所へ向かう。

 

――物語は、まだ続く。

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