軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

1 / 38
オープニング
かっとビングでおもてなし!軍貫丸、出航!


 

「やべえやべえ、遅刻だあああ!かっとビングだ、俺ーーーっ!」

 

近未来都市、ハートランドシティ。 雲一つない抜けるような青空の下、九十九遊馬は焦りと共にパンパンに膨らんだカバンを抱え、全力で住宅街の角を曲がった。

 

「遊馬、焦りすぎだ。私の計算によれば、あと三秒は早く家を出るべきだったな。そうすれば今頃、君の心拍数は10は低かったはずだ」

「今さら言うなよアストラル!わわわっ、おっとっと!」

 

空中を並走するアストラルの冷静な指摘を、遊馬は必死の足取りで振り切る。だが、その運命の曲がり角の先には、予期せぬ衝突が待ち構えていた。 そこには、同じく急ぎ足で歩いてくる一人の少年。 白い調理白衣に、紺色の前掛け。手には不釣り合いなほど大きな、銀色の保冷ケースが握られている。

 

「あ、危ない!」 「どわあああああ!?」

 

ドシン!!という派手な衝突音が響き、二人の体は物理法則に従って宙を舞った。 遊馬は盛大に尻餅をつき、教科書が詰まったカバンを路上に散乱させる。だが、相手の少年は違った。彼は空中でしなやかに一回転すると、猫のような身のこなしで音もなく着地。さらに、右手に持った保冷ケースを指先一つで水平に保ち、中身への衝撃を完全に殺してみせたのだ。

 

「ふぅ……。危ねえ、あと一ミリ傾いてたらネタが落ちるところだったぜ」

 

少年は額にじんだ汗を手の甲で拭うと、すぐに遊馬の方を向き、気遣わしげに手を差し出した。

 

「悪いな、あんた。怪我はないかい?」 「あ、ああ……。俺の方こそ、悪かったよ。前をちゃんと見てなかったからさ」

 

遊馬がその手を取ると、少年の腕は細身ながらもしっかりと鍛えられた、職人のような固さがあった。 ふと遊馬の視線が、少年の胸元に留まる。そこには『軍艦処・赤司』と古風な書体で刻まれた名札があった。

 

「軍艦処・赤司……、寿司屋さんか?もしかして、軍艦巻きだけの寿司屋だったりするのか?」 「ああ。別に軍艦巻き以外もやってるけどな!だが、俺の魂は『軍貫』にあるのさ。……っと、話し込んでる場合じゃねえ。うちの仕入れが間に合わなそうで急いでたんだ。俺の名前は赤司 寿(あかし ことぶき)と言う。お詫びと言っちゃなんだが、夕方にでも店に寄ってくれよ」

 

寿はそう言いながら、前掛けのポケットから一枚の紙を取り出し、遊馬の手に押し付けた。

 

『軍艦処・赤司 全額20%OFFクーポン』

 

「えっ!?こんなのもらってもいいのか?」

 

「ああ、うちは最近ハートランドに来たばかりでな。実力には自信があるんだが、まだまだ客足が伸びなくて困ってるんだ。ぜひ来てくれよな!」

 

「そ……そういうことだったら、貰わないわけにはいかないなぁ?」

 

遊馬がクーポンを見つめている間に、寿は「待ってるぜ!」と短く言い残し、爽やかな笑顔を風に乗せて走り去っていった。

 

「……変わったやつだったな。なあ、アストラル」 「ああ。だが遊馬、君なら見て分かっただろう。あの少年の身のこなし、只者ではない。まるでデュエルの間合いを完璧に心得ているかのようだった」

 

アストラルの言葉を裏付けるように、寿が走り去った後の空気には、微かに酢飯の香りと闘志の余韻が残っていた。 もちろん、案の定学校に遅刻して、担任の右京先生にたっぷり絞られたのは言うまでもない。

 

 

 

####

 

 

 

放課後。遊馬は観月小鳥を引き連れ、そしていつの間にか横に浮いていたアストラルと共に、商店街の雑踏を歩いていた。

 

「遊馬、その朝に貰ったクーポンのお店、どこにあるの?」

「うーん、それがさ、場所を聞きそびれちゃったんだよなぁー……」

「えー、それじゃあどこにあるか分からないじゃない!しっかりしてよ遊馬!」

 

小鳥に呆れられ、「うう、面目ねえ」とつぶやきながら歩いていると、不意に、周囲のハイテクな店舗とは一線を画す、落ち着いた佇まいの店が目に飛び込んできた。 一軒だけ、江戸前の風情を漂わせる木造りの店舗。そこには『軍艦処・赤司』と書かれた暖簾が揺れている。

 

「へいらっしゃい!『軍艦処・赤司』へようこそ!」

 

暖簾をくぐった瞬間、威勢の良い声が飛んできた。 カウンターの中で、ハチマキをキリリと締め直した寿が、鋭い眼差しで包丁を握っている。

 

「よお、本当に来たな!約束通り、俺の自慢の味を叩き込んでやるぜ」

 

寿の動きは、もはや一つの演武だった。 冷蔵ケースから取り出したネタを流れるような手つきで切り分け、木桶から掬い取った米を掌で転がす。キュッ、という小気味よい音が響くたび、一つの「作品」が形作られていく。

 

「まずは、こいつを食ってみな。――『特選・いくらの軍貫』だ!」

 

差し出されたのは、宝石のように輝くいくらが、こぼれんばかりに乗せられた軍艦巻き。 遊馬はそれを豪快に箸で掴み、一口で頬張った。

 

「う、うめええええええ!!」 遊馬の叫びが、店内に反響する。

 

「なんだこれ!いくらが口の中で弾けて、濃厚な旨味が広がる……!それにこのシャリ、赤くてちょっと酸っぱいけど、噛めば噛むほど味がして……まさに『かっとビング』な味だぜ!」

「本当ね!この味……、中までしっかり味が染みわたっていて、本当に美味しいわ!」

 

「ホウ……。この赤みは、赤酢を使っているのか。米一粒一粒が独立していながら、ネタと合わさることで一つの宇宙を形成している。……実に興味深い」 アストラルがカウンター越しに、物理法則を無視した角度で寿司を凝視し、分析を開始する。

 

「分かってるじゃねえか、あんたたち!」 寿は満足げに腕を組んだ。

 

「寿司は『シャリ』が命だ。どんなに良いネタを使っても、土台であるシャリがダメなら台無しになる。デュエルも同じだろ?派手なエースモンスター(ネタ)を出すには、しっかりした下級モンスターやプレイング(シャリ)が必要なんだ」

 

「デュエル……?寿、お前もやっぱりデュエリストなのか!」

 

遊馬の瞳に、勝負師の火が灯る。

 

「ああ。俺はこの店を継ぐ修行中だが、デュエルも一流を目指してる。職人の魂は、デュエルディスクを握っても変わらねえ。俺のデッキ、あんたの『かっとビング』で試してみるかい?」

 

「望むところだ!俺のデュエルも、味にはうるさいぜ!」

 

 

 

####

 

 

 

商店街の特設広場。夕暮れ時のハートランドに、二人のDゲイザーが起動する。

 

「Dゲイザー、セット!」

 

「ARビジョン、スタンバイ!」 『デュエル!!』

 

遊馬 LP4000 / 寿 LP4000

 

寿は淀みのない所作で、デッキの最上段から五枚のカードを引き抜いた。

「俺の先攻!ドロー!」「俺は手札から通常モンスター《しゃりの軍貫》を召喚!」 フィールドに現れたのは、巨大な……眩いばかりに炊き上がった米の塊。ARの光を反射し、一粒一粒が真珠のように輝き、湯気が立ち昇る。

 

「笑うのはまだ早いぜ。フィールドに《しゃりの軍貫》が存在する場合、このカードは特殊召喚できる!来い、《いくらの軍貫》!」

 

寿の傍らに、弾力に満ちた巨大な「いくら」が並び立つ。

 

「俺はレベル4の《しゃりの軍貫》と《いくらの軍貫》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

寿の足元から噴き出した醤油の渦が、二体のモンスターを飲み込み、天高くへと巻き上げた。

 

「荒波を越え、食卓の海に今、赤き宝石が光り輝く!エクシーズ召喚!現れろ、《弩級軍貫-いくら型一番艦》!」

 

轟音と共に現れたのは、巨大な寿司型の戦艦。いくらの粒が砲台のように旋回し、真っ赤な砲口を遊馬に向ける。

 

「効果で俺はデッキからカードを1枚ドロー。さらに魔法カード《軍貫処『海せん』》を発動。俺はカードを一枚伏せて、ターン終了だ!」

 

「俺のターン、ドロー!」 遊馬は勢いよくカードを引き抜く。 「俺は手札から《ガガガマジシャン》を召喚!」 黒い魔術師が現れ、素早く遊馬は宣言する。

 

「《ガガガマジシャン》のレベルを4から6に変更し、そうした時に魔法発動!」「《ガガガ×ガガガ》の効果で俺は《ガガガマジシャン》を二体に増やす!」

 

ガガガマジシャンが魔法の効果により二体に分身する。

 

「二体のレベル6モンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!現れろ、《ガントレット・シューター》!」

 

紅に塗られたロボットが降臨し、巨大な寿司戦艦と対峙する。

 

「バトルだ、《ガントレット・シューター》!《いくら型一番艦》に攻撃!」

 

《弩級軍貫-いくら型一番艦》ATK2200 vs 《ガントレット・シューター》ATK2400

 

ガントレット・シューターの持つ太い腕の猛烈なパンチが、巨大なシャリの船体へと突撃する。 「罠発動!《きまぐれ軍貫握り》!デッキから《うにの軍貫》三枚を提示する。さあ遊馬、好きなのを一枚選べ!」 寿の前に、三枚のホログラムカードが浮かび上がる。 「ん?どれも同じじゃないか。……よし、俺は真ん中の《うにの軍貫》を選ぶぜ!」

 

「当然だ、それが『特選』だからな。お前が選んだカードを俺は手札に加え、バトルを続行させる。ただし、客(おまえ)が『注文』したネタだ、代金(ライフ)はきっちり払ってもらうぜ!」

 

いきり立つ打撃の勢いが、船体を爆発させる。爆発と共に、いくらの粒が四散する。

 

寿 LP4000 → 3800

 

「くっ、一番艦がやられてしまったか……。だが、この瞬間《軍貫処『海せん』》の効果発動!軍貫モンスターが戦闘で墓地に送られたとき、そのモンスターの守備力分、相手にダメージを与える!一番艦の守備力、300ライフポイントを支払ってもらうぜ!」

 

「うわっ!」 激しい醤油の飛沫が遊馬を襲う。

 

遊馬 LP4000 → 3700

 

「これでメインディッシュの準備は整った。遊馬、あんたの『かっとビング』、美味しくいただかせてもらうぜ!」

「油断するな、遊馬。彼は今の手札補充で、完璧な布陣を整えた。次のターン、嵐が来るぞ」 「ああ、分かってるぜアストラル!俺はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

 

 

####

 

 

 

「俺のターン、ドロー!!」 寿が引き抜いたカードが、空気を震わせる。

 

「手札の《うにの軍貫》の効果発動!手札の《しゃりの軍貫》を相手に見せ、このカードを特殊召喚し、さらに手札から今見せた《しゃりの軍貫》を特殊召喚する!そして《うにの軍貫》の効果!二体のレベルを5に変更!」 フィールドに並んだ「うに」と「シャリ」が、禍々しいオーラを纏い巨大化していく。

 

「レベル5の二体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!今、究極の贅沢がその姿を現す!」

 

「エクシーズ召喚!《超弩級軍貫-うに型二番艦》!」

 

現れたのは、巨大な「うに」のトゲを砲塔に変えた、重厚な黒鉄の戦艦。 「《うに型二番艦》のエクシーズ召喚時の効果!俺はデッキからカードを1枚ドローする!」

 

「さらに《うに型二番艦》は、《うにの軍貫》をオーバーレイユニットとして持つ場合のみ、直接攻撃が可能だ!攻撃力2900の濃厚な一撃を味わいな!ウニ・バースト・ミサイル!!」

 

「させるか!罠カード発動!《ハーフ・アンブレイク》……」

 

寿の攻撃に反応し、即座に伏せていたカードを発動させようとするが...

 

「待て遊馬!」 アストラルの鋭い声が響く。 「なんだアストラル!?」 「これは直接攻撃だ!モンスターとの戦闘ではないから、そのカードは発動条件を満たさない!」 「あっ!?……あわわわ!」

 

判断が遅れた。降り注ぐトゲの雨が、守る者のいない遊馬に直撃する。 「うわああああああ!」 地面を転がる遊馬。ライフカウンターが急速に減少していく。

 

遊馬 LP3700 → 800

 

「まだライフポイントは残っている……。だが、盤面はお前の負けを示しているぜ。俺はカードを一枚伏せて、ターン終了だ」

「くぅ...ハァ...ハァ...」

 

遊馬の呼吸は荒いが、その瞳からは光が消えていない。泥に汚れた顔で、彼は不敵に笑った。

「……へへ、やっぱり寿司はこうでなくっちゃな。お腹いっぱいになって、諦めるわけにはいかねえ!」 やれやれ、とアストラルが頭に手を当てながら、遊馬に静かに語りかける。

 

「遊馬。君のその無根拠な自信だけは、いつも計算外だ。次のドローに全てをかけろ」 「分かってるって!かっとビングだ、俺!ドロー!!」

 

遊馬が引き抜いたカードが、黄金の軌跡を描く。 「俺は装備魔法《ガガガリベンジ》を発動!墓地の《ガガガマジシャン》を、蘇生するぜ!」

「さらに伏せカード発動、《ガガガボルト》!フィールドに『ガガガ』が存在することで、その《うに型二番艦》を破壊だ!」

 

「何っ、店自慢のメインディッシュが!?」

 

爆炎と共に、巨大なうに戦艦が瓦解していく。 「だが!軍貫の『お代』は忘れてねえだろうな!《軍貫処『海せん』》のダメージ効果発動!守備力500のダメージだ!」 「うぐっ……!まだ、だ……!」

 

遊馬 LP800 → 300

 

「締めはこれだ!魔法カード《受け継がれる力》、効果発動!自分フィールドのモンスター一体を墓地へ送り、その攻撃力を別のモンスターに加える!俺は《ガントレット・シューター》を墓地へ送り、その攻撃力を《ガガガマジシャン》に上乗せする!」 「なにぃ!?エクシーズ・モンスターを隠し味にするというのか!?」

 

ガガガマジシャンが素早く取り廻す杖にガントレット・シューターの力が宿り、魔力が爆発的に膨れ上がる。

 

ガガガマジシャン ATK1500 → 3900

 

「決めろ、ガガガマジシャン!ガガガ・マジック!!」 「……完売、御礼だ!」

 

強烈な魔力の奔流が、守りの消えた寿のフィールドを突き抜けた。「ーッ!」

 

寿 LP3800 → 0

 

「……勝った、のか?」

 

ホログラムが消え、静寂が戻った広場。遊馬は自分の手を見つめ、それから寿に向かって最高の笑顔を見せた。

 

 

 

####

 

 

 

「ふぅ……。強かったぜ、寿!」

 

遊馬が手を差し出すと、寿は悔しそうに前髪を乱しながらも、その手をがっしりと握り返した。

 

「ああ、完敗だ。あんたの『かっとビング』……最高だったよ。俺の修行もまだまだ、シャリの炊き方からやり直しだな」

 

二人の間に、戦いを通じた奇妙な連帯感が生まれる。 小鳥も駆け寄り、二人の健闘を称えた。

 

「すごかったわよ、二人とも!なんだか私までお腹空いちゃった」 「はは、じゃあ店に戻って打ち上げといくか!俺の奢りだ!」

 

寿の言葉に歓声を上げる遊馬たち。しかし、店に戻った寿が厨房の時計を見た瞬間、その顔が青ざめた。

 

「……あッ!!」 「どうしたんだよ、寿?」 「し、しまった!デュエルに熱中しすぎて、明日の朝イチで届くはずの『極上白魚』の注文確認を忘れてた!……このままだと、明日の開店に間に合わねえ!」

 

寿は慌ててハチマキを締め直すと、遊馬の肩をがっしりと掴んだ。その瞳にはデュエル中以上の鬼気迫るものがある。

 

「遊馬、お前も手伝え!これから市場の卸元まで直接交渉に行くぞ!」 「ええっ!?俺、これから小鳥と宿題の続きを……わあああ!」 「いいから来い!これもおもてなしの修行だ、かっとビングだろ!」

 

「それを言うなら『合点だ!』だろー!?助けてくれーっ!」

 

夕闇が支配するハートランド。無理やり自転車の後ろに乗せられ、寿の背中を掴みながら夜の街へ消えていく遊馬の叫び声が、どこまでも響き渡った。

 

「……今日の観察結果。『寿司の道はデュエルよりも険しく、そして……勝っても負けても、腹が減る』」

 

アストラルは夜空に浮遊しながら、手元のメモにそっと書き加えた。 それは、ナンバーズの秘密でも異世界の脅威でもない、一人の少年の情熱が握った「軍貫」という名の、不思議な味の記憶だった。




赤司 寿(あかし ことぶき)
13歳。「軍艦処・赤司」見習い職人であり跡取り息子...という設定。 基本的に実直で真っすぐとした言動をするものの熱が入るとすぐ暴走する爽やか系を装うただの一般人。使用デッキはレベル4・5主軸のエクシーズテーマ「軍貫」。ネタの種類に応じて行うエクシーズ召喚で相手を翻弄するぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。