軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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皇の鍵争奪戦(下)

放たれた魚雷が、空間を震わせながらカイトの喉元へと肉薄する。

その凄まじい水圧と衝撃波は、確実に、そして冷酷に目の前のナンバーズハンターの息の根を止めるはずだった。勝負あった――そう確信し、俺は無意識に握りしめていた拳に力を込める。

だが、爆煙の向こう側、カイトの瞳に宿ったのは絶望ではなかった。それは、自らの命を燃やしてでも運命を焼き切るような、凄絶なまでの鋭い光。

 

「罠カード発動、《ミラーシェード》!!」

 

カイトの絶叫が、屋上に吹き荒れる嵐を切り裂いた。直後、彼の足元から眩い光の壁が幾重にも重なり合い、天を突くほどの鏡の盾となって立ち昇る。深海からの牙がその鏡面に触れた瞬間、轟音と共に衝撃が四散した。

 

「ライフポイントを半分払うことで、このターン、オレが受ける戦闘ダメージを0にする!!」

 

カイトの胸元でライフカウンターが猛烈な勢いで減少し、非情な電子音を立てて死の淵一歩手前で止まった。

 

カイト LP 200 → 100

 

凄まじい爆音。エアロ・シャークの魚雷が光の盾に激突し、コンクリートを削り取るほどの余波が俺を襲う。俺は腕で顔を覆い、地面を噛んでその衝撃に耐えた。視界が白く染まり、熱波が頬を焼く。

 

(……耐えただと? あの状況から、まだ……!) 

 

煙が薄れ、再び視界が開けた時、そこにいたのはライフをわずか100残し、見るからに満身創痍ながらも依然として威勢を失わずに立ち尽くす死神の姿だった。

 

「……マジかよ。この期に及んで、まだ耐えやがるか……! ターン……エンドだ」

 

俺の咆哮も虚しく、必殺の魚雷は奴のライフを削りきるには至らなかった。

 

カイトは膝を突き、激しく肩で息をしている。その顔は蒼白で、フォトン・モードの残光が蛍の火のように弱々しく明滅しているが、獲物を狙う銀河の眼光だけは、依然として俺たちを射抜いたままだ。一方で、屋上の端には、吹っ飛ばされた衝撃でピクリとも動かなくなった赤司が転がっている。

 

あいつがナンバーズの呪いという毒を自ら飲み込み、命懸けで繋いでくれたこの一撃すら、カイトの執念が上回ったのか。デュエリストとしての格の差を見せつけられたような、到底信じがたい、そしておぞましいまでの勝利への渇望がそこにはあった。

 

「オレの……ターン……!」

 

カイトが震える指をデッキにかけ、渾身の力でカードをドローしようとしたその時、場違いな、耳障りな電子音が静寂を破った。空から高速で飛来したのは、機械仕掛けの奇妙なロボット――オービタル7だ。 

 

「カイト様! もう無理でアリマス! 撤退ノ時間デス! タイムアウトデス!」

 

「……黙れ、オービタル。オレは、まだ……」

 

カイトはドローしようとした手を止めず、強引に戦行を継続しようとする。だが、その指先はカードに触れることさえできず、空を掴むように震えていた。

 

「ダメデス! 九十九遊馬らがここに迫ってきてイマス! 今、奴らに捕まるわけにはいきまセン!」

 

「黙れと言っている……オービタル!」

 

「カイト様……ハルト様のためです。今のハルト様にはカイト様が必要デス!今は退却デス」

 

――ハルト。

 

その名を聞いた瞬間、カイトの鋭い眼光が、まるでガラスが割れるようにわずかに揺らいだ。戦鬼の顔から、一人の兄としての顔が覗く。彼は苦々しく口を歪め、今にも消えゆきそうな意識の糸を強引に繋ぎ止めるようにして、俺たちを、そして倒れた赤司を指差した。

 

「……今日は預けておいてやる。だが、貴様らのナンバーズ……必ずこのオレが、根こそぎ狩り尽くしてやる……!」

 

カイトの背中にオービタルが変形して張り付き、ジェットの炎が夜の空を焦がす。

 

奴は霧が晴れるようにその場から飛び去り、あとには硝煙の臭いと、重苦しくも静かな沈黙だけが残った。

 

 

 

####

 

 

 

「チッ。勝負無しか。……いや、これでいいんだ。最悪の事態は免れたな」

 

カイトという死神を退けた。遊馬の鍵も、俺たちの魂も守り抜いた。その事実だけで、俺の全身から力が抜け、デュエルディスクが重く感じられた。俺は重い装備を外し、すぐさま赤司の元へと駆け寄った。

 

「おい、赤司! しっかりしろ!」

 

仰向けに倒れた奴の肩を掴んで揺さぶり、それでも起きないので頬を軽く叩く。

 

ペシペシ

 

だがその肌は冷たく、ナンバーズの残り香のような禍々しいオーラがまだ微かに漂っている。もしあのアシッド・ゴーレムの呪いに魂を食い尽くされていたら……そんな最悪の想像が頭をよぎり、俺の奥歯が鳴った。

 

だが。

 

「……へへ、シャークさん。……。今日は特上の……特上の、勝利だぜ……」

 

漏れてきたのは、あまりに情けなく、そして呑気すぎる寝言だった。

瞼の裏でどんな夢を見ているのか、白目を剥きかけているくせに、口角だけは満足げに吊り上がっている。

 

「ハーッ……たく、無事なら無事と言え。お前って奴は。……死に損ないのくせに、とんでもねえ板前だぜ、本当」

 

俺はその寝言に毒気を抜かれ、思わず力なく笑った。

 

赤司の無事を確認して、ようやく空を仰ぐ。重い曇天の隙間から、ほんの少しだけ、現実の街の明かりが差し込み始めていた。

その時だ。赤司のデュエルディスクから、どす黒い霧を纏った一枚のカードがひとりでに浮き上がり、宙を彷徨い始めた。

 

《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》。

 

つい先刻まで、このお節介な板前の精神を執拗に蝕んでいたその巨像は、実体化の余韻を残して不気味に脈動している。新たな依代を求めて周囲を呪わしく睨みつけているかのようだった。

 

「……奴のナンバーズか。持ち主がいなくなって暴走し始めてやがるのか?」

 

俺が警戒して身構えたその瞬間、屋上の重い扉が、轟音を立てて内側から弾け飛んだ。

 

「シャーク!! 赤司!! 無事かよ!?」

 

飛び込んできたのは、肩で息をする遊馬だった。

だが、来たのは奴一人じゃない。背後からは小鳥、鉄男、等々力委員長とやら、そしてどこから現れたのか猫モドキまでもが、血相を変えてなだれ込んできた。

遊馬は周囲の惨状――焦げ付いた床や破壊された防護柵――に目を見開いたが、即座に宙で黒い光を放つカードに気づき、その顔を強張らせる。

 

「遊馬、それの回収を頼む。俺たちが触れるのは危険だ」

 

「それ?って……ナンバーズじゃねーか!? ってことは、お前……これ、シャークが奪ったのか!?」

 

「違う。……赤司が奪ったものだ。あいつが、命懸けでカイトから引き剥がしたんだよ」

 

「……!? 寿が……?」

 

「分かった。信じられねぇけど、シャークが嘘つくなんてないだろ! こいつは、俺たちが預かる!」

 

遊馬がカードに手をかざすと、アシッド・ゴーレムの放つどす黒い影が霧散し、カードは吸い込まれるように遊馬へ消えた。荒れ狂っていた獣が、本来あるべき檻に戻ったかのような一瞬の静寂。

その様子を後ろで見ていた小鳥たちは呆然としていたが、光の眩しさに目を細めるばかりで、カードが物理的にどこへ消えたのかまでは把握できていないようだった。

 

「遊馬! カードより赤司君だよ! 酷い怪我……!」

 

小鳥の悲鳴に近い声に、遊馬が我に返って赤司の元へ飛びつく。

 

「えっ、これ……何があったんだよ!? 寿! しっかりしろ、寿ッ!!」

 

ナンバーズを回収し終えた遊馬が、慌てて赤司の肩を掴んで、先程の俺以上に激しく揺さぶる。その必死な叫びと過剰な振動に、赤司の眉がようやく「うざったそうに」動いた。

 

「……う、ん……。……へい、お待ち。……いくら一貫……上がり……」

「……へ? イクラ?」

 

遊馬が呆気に取られたような声を出す。

彼が薄っすらと目を開けると、ぼやけた視界の中に遊馬の顔を捉えた。そして、力なく、だが不敵に口角を上げた。

 

「……なんだ、遊馬か。……騒がしい客だな。……最高のネタは……シャークさんが、仕留めたぜ……逃げられちまったらしいけどな……」

「何言ってんだよ、お前……! 何があったんだよ……? 身体、ボロボロじゃねーか!」

 

遊馬の声には安堵と、それ以上に仲間を傷つけられたことへの憤りが混じっていた。ふと見ると、遊馬は誰もいないはずのペンダントに向かい、「おい、アストラル! アストラル! こいつ大丈夫なんだよな!?」と焦ったように独り言を漏らしている。相変わらず、変な奴だ 

 

「……おい遊馬。誰に話しかけてんだ」

「え? あ、いや……なんでもねーよ! それより二人とも、とりあえず怪我を見せろって!」

 

小鳥たちが心配そうに駆け寄り、鉄男と等々力が赤司の身体を左右から支えようと手を貸す。

 

「しっかし、何があったんだ?」「赤司君の雰囲気からして、とどのつまり、事件ですか?」

「ああ、特大のな。」

 

俺は立ち上がり、彼らに応える。膝が笑い、全身が悲鳴を上げているが、こいつらの前で無様な姿は見せられない。

 

「そうだ、何があったんだ!? 赤司は何でこんなにボロボロなんだよ!?」

 

遊馬が食い下がる。俺は一つ溜息をつくと、短く答えた。

 

「説明するから、まずは落ち着け。……場所を変えるぞ」

 

 

 

####

 

 

 

保健室。赤司はそのベッドで疲れの反動からか、じっと眠っている。

 

「……そんなことが……!?」

 

俺の口から語られたカイトという男の存在、そしてデュエルの内容に、全員が言葉を失い絶句した。

 

「カイトがここに……!? じゃあ寿はシャークと一緒に戦ったのか! その怪我ももしや……」

「ああ、そうだ。その怪我か……。ナンバーズの呪いと、あの死神のプレッシャーを一人で受け止めてやがったからな」

 

「嘘だろ……? 皇の鍵を持ってもねぇのに、そんなことできるのかよ?」 

 

鉄男の疑問はもっともだ。ナンバーズは特殊なアイテムで制御できるものにしか扱えない。遊馬ならば皇の鍵、カイトは不明だがフォトンの力を応用したものだろう。

ともかく、普通ならばカードを手に取った瞬間に精神を支配されるか、あまりの不可解なプレッシャーに発狂していてもおかしくない。それを、この男はただの仕込みだと言い切って見事俺に勝利を繋げてくれた。

 

「俺も正直信じられなかったが、真実だ。それとも、俺がこんな状況で嘘をつく男だと思うか?」

 

俺の言葉に、鉄男がゴクリと喉を鳴らす。一同はベッドでぐったりとしている、普段は能天気なはずの板前を見つめた。等々力も「信じられない……」といった表情で、赤司のデュエルディスクを見つめている。

 

「おい遊馬。そのお節介な板前を担いでやれ。……最高の盤面を見せてもらったからな」

「シャーク……。おう、分かってるって! よっしゃ、赤司! 俺の肩に捕まれ! かっとビングだぜ、俺!!」

 

遊馬が赤司を背負い、よろけながらも力強く歩き出す。小鳥たちが寄り添うようにして歩き出し、他も静かに後に続く。

赤司は遊馬の背中の方から「……明日の仕入れ……誰か代わりに行ってくれよ……」とまだ寝ぼけたようなことを言っていたが、その寝顔は、嵐が過ぎ去った後の夜空のようにどこか晴れやかだった。

俺たちは、夕闇が完全に支配し始めた保健室を後にする。 俺は去り際に一度だけ屋上の方を窓から振り返る。

そこには、いつも通りのコンクリート張りの床しかなかったが、今の俺には少々違う特別な、そんな感じがして止まなかった。

 

 

 

####

 

 

 

フォトン・モードが解除された瞬間の感覚は、正直気持ちの良いものでは無い。全身の細胞に突き刺さっていた光の針が、一気に冷たい鉛へと変わる。視界の端が火花を散らし、肺が焼けるような酸素を求めて喘ぐ。

 

「カイト様……! 心拍数、血圧、共ニ危険水域デス! 今スグ休息ヲ……!」

 

横で騒ぐオービタルの声を、オレは片手で制した。オレはハルトのため、倒れるわけには行かない。心臓を掴まれているような痛みを、無理やり意志の力で押し殺す。

 

「……ハルトの様子はどうだ」

 

「ハルト様ハ現在、鎮静状態ニアリマス。……ですが、先程のデュエル中、一時的二脳波に乱れが見られマシタ」

 

その言葉に、オレは奥歯を噛み締めた。オレが不甲斐ないばかりに、ハルトにまで余計な負荷をかけたのか。

 

無機質なモノレールがハートランドの最上層へと滑り込む。自動ドアが開いた先にあるのは、外界から遮断された冷たく、あまりに広すぎる箱庭だ。部屋の中央、ベッドの中に、その小さな背中があった。

無機質な青白い光に照らされたハルトは、外界の音すべてを拒絶するように、窓越しから虚空の一点を見つめている。

 

「……ハルト」

 

オレの声は、冷たい空気に吸い込まれて消えた。

ハルトは振り返らない。

 

かつて、オレの名を呼んで笑ってくれた弟の姿は、ここにはない。その瞳には、かつての純粋な輝きはなく、代わりに底の見えない銀河のような虚無が渦巻いている。

 

「……すまない、ハルト。今日は、持ってくることができなかった」

 

オレは弟の背中に向かって、自嘲気味に呟く。ハルトは何も答えない。ただ、その指先が、映し出された地獄の光景をなぞるように僅かに動くだけだ。

その沈黙が、今のオレには刃のように突き刺さる。脳裏に、あの屋上での光景がフラッシュバックした。

神代凌牙の執念も目を見張るものがあったが…、やはり……あの赤司寿という男。

 

(……あの男、ただの寿司屋と言っていたがとんだ嘘だったな。あのいとも容易く自己犠牲に走る姿勢、そして何よりもナンバーズを制御してみせた。一体何者だ……)

 

オレは自分の掌を見つめた。ナンバーズは、選ばれし者のみが扱える神の力。それを持たぬ者がナンバーズを手にすれば、一瞬で精神を焼き切られ、狂人と化すはずだ。

 

だが、あの男は違った。《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》という、ナンバーズの中でもとりわけ強い呪いをその身に引き受けながら、奴は正気を保っていた。いや、あろうことかその呪いさえも、自らのタクティクスの一部として飼い慣らしてみせた。

 

(フォトン・モードの加護もなしに、ナンバーズの精神汚染を……根性だけで抑え込んだというのか?)

 

それは理論上、あり得ないことだ。

 

デュエルにおいて、奴のカードパワーは決して高くはなかった。だが、あの盤面を支配していた異様なまでの、言うなれば精神の強靭さ。それは、死神として数多の魂を狩ってきたオレでさえ、一瞬、背筋に冷たいものが走るほどだった。

 

「…………」

 

ハルトが、ふとオレを見る。

オレは跪き、ハルトの細い肩に手を置こうとして――その手が小刻みに震えていることに気づき、止めた。

この震えは、疲労からくるものか。それとも、あの板前の、魂を削りながら笑うようなデュエルに当てられたせいか。

 

「……ハルト。すぐに、次のナンバーズを狩ってくる。お前を苦しめるのを、オレがすべて消し去ってやるからな」

 

誓いを立てても、返ってくるのは静寂だけだ。

 

ハルトはただ、虚空を見つめ、何もない空間を掴もうと小さな手を伸ばしている。その姿は、あまりにも脆く、今にも消えてしまいそうだった。

 

「……赤司寿。次に会う時が、貴様の最後だ。貴様のその歪な精神ごと、オレの光で焼き尽くしてやる……」 

 

弟の寝顔を確認することさえできぬまま、オレは再び闇へと視線を向けた。モニターには、オービタルが記録した赤司のデッキデータが表示されている。

 

《軍貫》。

 

ふざけた名前のカード群だ。だが、あの男が握れば、それが何よりも鋭い刃となって牙を剥く。

ナンバーズ・ハンターという立場上、今は手を出さない。だが、あのエネルギーに惹かれたナンバーズは奴に近づき、取り憑くだろう。そうなったら、オレは奴を魂ごと奪い尽くす。

 

たとえ次にあの男が用意する仕込みが、オレの魂を焼き尽くすものであったとしても、な。





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