軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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投稿頻度が落ちていますが、現状毎週更新以上を目標にしていますのでよろしくお願いします。







紅一刻の厄介狩人

夜の帳が落ちかけようとしているハートランドシティ。

その片隅に佇む、『軍艦処・赤司』の店内には、酢飯の柔らかな香りと、一人の少年の元気すぎる声が響いていた。

 

「にしてもよぉ、寿! カイトの奴、マジでひでぇこと言うよなー!?」

 

カウンター席で、茶をズズッと啜りながら、自分のことのように憤慨しているのは九十九遊馬だ。

彼の前には、つい先ほどまで鮮やかなネタが並んでいたであろう空の皿が数枚重なっている。ガリとコメだけではどうにも足りなかったようで、遊馬は少し寿司を食べている。遊馬は時折、誰もいないはずの隣の空間に向かって「だろ? アストラル! お前もそう思うよな!」などと激しく同意を求めているが、俺──赤司寿の目には、相変わらず彼はただ虚空に向かって独り言を呟き続ける、ちょっと心配な少年にしか見えない。

 

「ん? なにがだ? ……というか遊馬、さっきから誰と喋ってるんだ? 疲れすぎて幻覚でも見えてるのか?」

 

俺は板場に立ち、清潔な布巾で包丁を丁寧に拭きながら、努めて平静な声を返した。正直なところ、さっきまで店先で繰り広げられていたカイトとの緊迫したやり取りだけで、俺の精神的ライフポイントは残りわずかだ。彼の態度は事情が事情とはいえだが、正直キツイものがあるのも事実としてある。

 

「幻覚じゃねーよ! ここにアストラルが……って、そういや寿には見えねーんだっけか。まぁいいや、それよりカイトだよ!」

 

遊馬は身を乗り出し、カウンターを叩かんばかりの勢いで続けた。

 

「あいつ、俺のことはともかくとして、寿のことまで酷く言いやがったのが許せねーんだよ!」

「酷く……? どういうことだ? むしろあいつ、俺のことは『眼中にない』って感じで放置してくれただろ。俺的には最高の結果だったんだが」

 

俺は首を傾げる。だが遊馬の感じ方は違ったらしい。聞くと、カイトが去り際に放った「回収は不要だ、貴様が持っていれば悪用される心配はない」という言葉。それは一見、俺の理性を信頼しているようにも聞こえるが、その実、お前のようなモブに、わざわざ狩る価値などない、毒にも薬にもならない存在だという、強烈な見下しと侮辱を含んでいた──と、遊馬の隣にいるらしいアストラルが分析し、それを遊馬が受け売りしているようだった。

 

「アストラルが言うにはさ、『あれは最大限の蔑みだ』ってよ! 俺たちのデュエルを、あいつは鼻で笑いやがったんだ! 寿のあの美味そうな……じゃなかった、凄まじいデュエルスフィンクスをよ!」

「……まぁ、あいつからすれば俺なんて有象無象の一人だろうさ。あとスフィンクスじゃなくてタクティクスな?」

 

俺は苦笑しつつ、内心ではアストラルという見えない解説者の分析能力に舌を巻いていた。さすがと言ってはなんだが、俺の受け取り方は少し違う。例えば、「君の報告書はチェックするまでもない(=どうでもいい)」なんて言われたら、それは責任から解放される最高のご褒美だろう。自分勝手と言われるかもしれないが、少なくとも俺はそう受け取る。つまり、これは単なるマインドの違いだ。

 

「まぁまぁ遊馬。あいつはああいう性格なんだろ。気にすんなって。それより、そんなに怒ってるとせっかくの寿司が消化に悪いぞ」

「ムムム……。でもよ、寿はあいつのプレッシャーにだって耐えてたじゃねーか! 俺、あいつが寿をバカにするのが、どうしても納得いかねーんだ!」

 

遊馬は、うぬぬ、と唸りながら、空になった湯呑みを差し出してきた。隣の「無」に向かって「おいアストラル、お前ももっと怒れよ!」と促しているが、当然俺には何も聞こえない。遊馬の隣には、ただ寂しげな夜の空気が漂っているだけだ。

 

「……はぁ。ったく、お前は本当にいい奴だな」

 

俺は溜息をつき、冷蔵ネタケースから、一際見事な深紅の輝きを放つ本マグロの柵を取り出した。

 

「でも、そうやって俺のために怒ってくれたのは若干嬉しいからな。……その怒りに免じて、特別にマグロ、握ってやるよ。サービスだ」

「本当か!? さすがだぜ、寿! やっぱり持つべきものは寿司屋のダチだな!」

 

遊馬の目が、現金なほど瞬時に輝いた。現金な奴とはこのことか。

そう考えつつも俺は精神を集中させ、指先を湿らせる。酢飯を軽くまとめ、ワサビをほんの僅かに利かせて、一気に握る。指先の感覚でシャリの中に適度な空気を含ませ、ネタとシャリが一体となる絶妙な圧を加える。修行で培った繊細なタッチと、言葉にできない感覚的センスが融合した、俺の技術の結晶だ。

 

「はいよ、一丁。本マグロの赤身……いや、これはもう中トロに近いな」

「いっただっきまーす!」

 

遊馬が大きな口を開けて頬張る。

 

「……んんんーっ! うめええええ! 脂が乗ってて、口の中でとろけるぜ! 嫌なこと全部忘れちまうな、これ!」

「だろ? 怒りはエネルギーを使うからな。しっかり食って、寝て、明日にはまた『かっとビング』してろ」

 

俺は怒り心頭だった遊馬を宥め、その熱い友情に免じてサービスをしてやった。その後、遊馬は十分に寿司を味わい尽くし、何度も「美味かった!」と繰り返しながら、夜の街へと上機嫌で帰っていった。去り際、また誰もいない空間に向かって「アストラル、お前も今度は食えるといいな!」なんて言っていたが、俺はもう突っ込まないことに決めている。

 

 

 

####

 

 

 

遊馬が去り、店内に本来あるべき静寂が訪れる。

客が去り、熱気が引いた後の、いつもの寿司屋の夜。俺は溜息を一つつくと、出しっぱなしだった暖簾を片付けるために外へ出た。

 

夜の空気は冷たく、激闘と接客で火照った顔に心地よい。ハートランドの夜景が遠くで煌めいている。この平穏が、明日も、明後の朝も続けばいい。

そう願って、暖簾の紐を解こうとした、次の瞬間だった。

 

「──チェックメイトだ」

 

背筋に氷を押し当てられたような、凍りつくような錯覚。

心臓が跳ね、反射的に振り返った俺の視界を、銀色の閃光が切り裂いた。

 

「なっ……!?」

 

カイトだ。

帰ったふりをして、奴は路地裏の深い闇に潜んでいたのだ。

しかも、本来なら今頃カイトを乗せて夜空を駆けているはずのオービタル7が、無骨な機械音を立てて地上で駆動している。その多機能アームが、俺の身体を目がけて蛇のように伸びてきた。

 

「オービタル! 奴を即刻拘束しろ!」

「カシコマリ! 赤司寿! 貴様は大人しく捕まるでアリマスヨ!」

 

収納スペースの物理法則を無視したかのような、伸縮自在の機械の腕。

それが、容赦なく俺の胸ぐらを掴もうと突進してくる。デュエル中ではない。カードのルールに守られない、これは純粋な物理的暴力による急襲だった。

 

「おい、冗談だろ!? せめてデュエルで決めねぇのかよ!」

「本気だ。やはり貴様はイレギュラー……放ってはおけない存在だ! 大人しく確保させてもらおう!」

 

カイトの瞳には、一切の迷いがない。

 

「畜生、聞く耳も持ってくれないのか!」

 

俺は必死に身を翻し、オービタルの自在に動作する手を間一髪で回避する。

デッキケースの中に眠るナンバーズ、《刻不知のデュガレス》の力を借りることも頭をよぎったが、瞬時にその考えを棄てた。

 

(あいつ、今は食っちゃ寝してるはずだ……頼りにならねぇ!)

 

俺の直感が告げている。出会ったばかりだが、あいつを今呼び出しても「明日出直せ」とか言って、鼻提灯を膨らませて無視されるのがオチなのがなんとなくだが目に見える。

 

「……ほう。今の不意打ちに反応するか」

 

カイトの目が、冷酷な観察者のそれに変わる。ナンバーズハンターというのは、もっとスマートにカードを奪う職業だと思っていたが、目の前にいるのはただの誘拐実行犯だ。

 

「貴様のような者が、なぜこれほどまでの反射神経を? ……ただの男がオービタルに敵うはずがない。それとも……」

 

カイトがオービタルの不手際に視線の矛先を向けると、その冷徹な眼差しに気づいたオービタルは、ワタワタと弁解するような素振りを見せた。

 

「なるほど、もう老朽化したか。先日の件も考えると、納得できるな」

「ち、違うでアリマス! カイト様! 断じて……ワタクシは老朽化などして無いでアリマス!」

「では、なぜ奴を確保できない。計算速度が落ちている証拠だな」

「ウッ……そ、それは……この男の動きが、予測不能なのでアリマス!」

 

カイトはオービタルに当たっているが、俺の知ったことではない。シャークさんはおそらく持前のフィジカルだろうが、俺がこれほどの不意打ちを避けられたのは、才能でも何でもない。おそらくは前世と今世の労働環境で培った、突如として降りかかる理不尽なトラブルに対する危機管理能力、すなわち生存本能だ。

予定外の事態への対応力だけは、そこらのデュエリストには負けない自信がある。

 

「……悪いな。こちとら経験があるもんでね。急なトラブルには慣れてるんだよ!」

 

俺は冷や汗を拭いながら、主従が言い合っている隙に距離を取る。脱兎の如く逃げ出そうとした、その時。

 

「寿! カイト! お前、まだいたのか! 何してんだよ!」

 

路地の向こうから、聞き慣れた叫び声が響いた。

遊馬だ。忘れ物でもしたのか、それとも虫の知らせを聞きつけたのか、彼は血相を変えてこちらへ走り込んできた。

 

「遊馬!」

 

遊馬が来てくれたのを見て、カイトが忌々しそうにこちらを見る。まさか来てくれるとは思っていなかった。

それを不都合に思ったのか、カイトはオービタルに下がるよう命令を出して俺らにこう言い放つ。

 

「チッ。……九十九遊馬。そして、赤司寿」

 

「この機会だ、今一度聞く。そのナンバーズをこちらに渡せ」

「断る!」「やだねー! ベロベロパー!」

 

正直渡して不都合はないのだが、あまりにも態度が気に入らないので遊馬と同様にお断りのサインを出してやった。あと遊馬さんは煽るのを止めなさい。それ、完全に小学生の喧嘩のレベルだから。あなた中学生でしょう。

 

「フン。そうだろうな。しかし……」

「「しかし?」」

 

俺と遊馬の声が重なる。カイトはハンググライダー形態に変形し始めたオービタルに飛び乗ると、夜空を見上げて不敵に言い放った。

 

「貴様らがナンバーズを制御し続けられる保証はない。不安材料も残るが……それでこそ、やりがいがあるというものだ。赤司寿……貴様には以前言ったことがあるが、改めて言おう」

 

カイトの指先が、真っ直ぐに俺と遊馬を指した。

 

「決戦はWDC(ワールド・デュエル・カーニバル)だ。そこで貴様らの価値を証明してみせろ。もし紛い物なら、その時こそ根こそぎ奪い取ってやる」

「WDC……。ああ、望むところだ! 寿、俺たちであいつをギャフンと言わせてやろうぜ! アストラルの助けがなくたって……あ、いや、アストラルもそう思うだろ?」

「いや、俺は店が──」

 

と言いかける俺の返答など最初から期待していなかったのだろう。

カイトは蒼い光の尾を引きながら、今度こそ夜空の彼方へと消えていき、静寂が戻る。

残されたのは、やる気満々の遊馬と、全速力で逃げ出したくなった俺だけだった。

 

 

 

####

 

 

 

翌朝。昨晩の二度にわたるカイトとの騒動、そして深夜までの片付けで、俺の精神と体はボロボロだった。

泥のように眠り、少しでも疲れを取ろうとした俺を待っていたのは、階下の厨房で腕組みをして仁王立ちする、相変わらず堅苦しい雰囲気を醸し出す親父──赤司厳造の姿だった。

 

「……おはよう、親父。なんだよ、朝から。顔が般若みたいだぞ」

「寿。早速だがこれを見ろ」

 

親父がカウンターに叩きつけたのは、一枚の派手なパンフレットだった。そこには大きく『WDC』と、目立つフォントで印字されている。

中央にはMr.ハートランドが満面の笑みで映り、いかにも楽しいイベントのような雰囲気を演出している。

なるほど。ハートランドの広報力と親父のリサーチ力の高さには感服する。俺が苦手なキラキラした世界の象徴だ。

 

「この大会には、世界中から腹を空かせたデュエリストが集まるだろう」

「ええ、そうでしょうな。街中お祭り騒ぎでしょうよ」

 

俺は他人事のように相槌を打つ。

 

「そいつらにお前の実力を見せつけろ」

 

「当然……え、え?」

 

思わず、素っ頓狂な声が出た。

 

「もちろん、『軍艦処・赤司』の看板を背負ってだ。つまり、お前にはその板前の姿で参加してもらうことになる」

「へ?」

 

板前の姿? つまり、この白衣に前掛けをした状態で、デュエルディスクを展開しろと言うのか? 目立つのを何より嫌う俺に、街中の注目を浴びろと言っているのか。

 

「これこそ最高の宣伝だ。世界中から来る客に、寿のデュエルの真髄を叩き込んでやれ。デュエルに勝てば、そのまま店に客を誘導できるだろう」

「はぁ? いや、ちょ……待てよ親父! 俺には俺の生活があるは……「店は俺一人で十分だ。お前は戦場で、新しいネタを仕入れてこい」ええ?!」

 

厳造は包丁をまな板にトントンと叩き、鋭い眼光を俺に向けた。

 

「……いいか、これは命令だ。少なくとも、あの九十九の倅よりかは勝ってみせろ! 万が一それができなければ、二度とこの店の敷居は跨がせんぞ!」

「えぇぇっ!? 寿司屋なのに!? デュエルで勝たないと勘当!? どんな理不尽だよ!」

 

カイトという最強クラスの天敵に粘着され、再戦を誓わされ。さらには、実の父親から勘当を盾に出場を強制される。

かくして俺はWDCという名の巨大な、そして不条理な渦の中に否応なく飲み込まれていくことになるのであった。

 

俺は厨房の奥に置かれた自分のデッキに手を伸ばす。

漆黒の軍艦たちが、今正にと出陣の時を待っていた。







オービタルのリメイクが発表されましたね。
イラスト見てちょっと吹きました。あのドリルは一体どこに収納してるんです…?
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